真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。最近体調が良くなってきた作者です。

今回も御前試合になりますが力を入れていきたいのは対ヒューム戦です。
総当たり戦の方はあっさり味で行こうかなと思いますのでよろしくお願いします。

では!


御前試合 (後編)

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

こんなに苦しい戦いはいつぶりだろうと、懐かしさを感じた。

 

隣にいるクリスもレイピアを地に突き立て、荒い息を吐いている。

 

こうなることは、あらかじめわかっていたことだった。

 

「どうした赤子よ。その程度か?」

 

豪語不遜にヒュームさんは言った。その言葉に今すぐ噛みつきたい衝動に駆られるが、今までの全ての経験が、まてと己を押しとどめた。

 

無策であの人を相手取るのは下策も下策。この挑戦はすぐに終りを告げることになるだろう。

 

 

 

ではどうする?

 

 

 

真正面から行くか。奇襲を狙うか。もしくは漁夫の利を取るか。

 

もう一度目の前の執事を見る。その姿に重なって見えるのはお姉さまと士郎。壁を突破して何処にあるかもわからない頂きを目指す人たち。

 

行きたい。アタシもその領域に手を伸ばしたい。そう思うからこそこの戦いに志願した。

 

ガン!と薙刀の石突で地を鳴らす。そうだ。なにをぐずぐずしているのか。今すぐにでも相手を打倒しないと。こんな所でダラダラなんかしていられない。

 

ガン!!ともう一度地面を鳴らす。そうだ手に力は籠っている。足を踏み鳴らせ。丹田から気を回せ。倒れそうな体を立ち直らせろ。まだだ。まだ負けちゃいない・・・!

 

「ほう・・・大した気概よ。そんな状態でまだ闘志を滾らせるか」

 

ガンッ!!!と地を鳴らす。三度鳴らせばアタシはもう薙刀を構えていた。

 

「い、犬・・・」

 

「――――行きます」

 

「こい。小さき光よ」

 

その後、何があったのか不鮮明だったけど。これだけは覚えてる。あるはずもない自分を阻もうとする暴風の中、赤い背中が――――

 

 

――――ついてこれるか

 

 

ガチン!と顎に力が入った。足がこれまでにない力で地を蹴った。

 

アタシは後ろになんかいない。貴方達の隣にアタシは――――

 

 

――――interlude――――

 

 

自分はどうしてこんな所にいるんだろう?

 

私こと、クリスティアーネ・フリードリヒは疑問に思っていた。

 

最初は・・・そう、何か目的があったはずだ。確か犬が・・・一子が難関に挑戦するなら自分も、だったか・・・。

 

今ではその判断に後悔が混じってる。だってこんなに辛い。相手はあのヒューム・ヘルシング。彼が言い放った言葉は単純明快だった。

 

――――俺をここから一歩でも動かしてみろ。

 

たったそれだけ。実に簡単な、単純な課題。

 

自分は意気込んでいった。最近意地になって追いつこうとしている友達より早くこの戦いに勝利するんだと。

 

そんな甘い気持ちが何処かにあったのが酷く自分を(さいな)んでいた。

 

「どうした赤子よ。その程度か?」

 

ギチリと自然と歯を食いしばった。

 

 

――――悔しい。

 

 

たった一歩。一歩でも動かせればそれで勝ちなのに・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

自分はいつからこんなにも弱くなってしまったのかと、慟哭したかった。

 

確か・・・最初の頃・・・日本に来て幾ばくかの期間は良く一子と手合わせをしてその度に彼女に膝をつかせた。

 

それが・・・

 

ガン!と音が鳴り響く。

 

自分のレイピアじゃあんな音は出ない。一子だ。

 

ガン!!ともう一度鳴り響く。そして改めて目にした。そして目を疑った。あれほど満身創痍だった一子の両手両足に力が込められている。今まさに疾駆せんと体が咆哮を上げている・・・!

 

ガンッ!!!と三度目の地鳴りが響く。その頃にはもう一子は戦闘態勢を取っていて――――

 

「い、犬・・・」

 

絞り出せたのはその一声だけだった。

 

「――――行きます」

 

「こい。小さき光よ」

 

 

――――小さき光

 

 

ああ。確かにそうかもしれない。まるで極彩色を彩るように気が爆発し、周囲にその余波を色としてまき散らしている。

 

自分にできたのはそう、一子の途方もない気を色として認識し、それが如何に強大かを判別するだけだった。

 

その後の事はあんまり覚えていない。迎え撃つヒュームさんの気と一子の極彩色の気が激しくぶつかって見えなかった。

 

でも最後に見えたのは・・・

 

「見事だ。川神一子」

 

ヒュームさんが崩れ落ち一子が――――

 

静かに前へと歩んでいく後ろ姿だった。

 

 

――――interlude out――――

 

「越えたな」

 

「何が?」

 

「限界を越えやがった」

 

「俺様にもわかるぜ。肌がビリビリしやがる」

 

クリスを応援していた大和が分からないと聞く。

 

「川神一子は強さの壁を越えた、という事です」

 

「なんだって・・・!?」

 

確かにヒュームは倒れ、一子は静かに佇んでいるが――――

 

「課題の達成と共に強さの壁を越えて・・・士郎達がいる場所まで来たのよ」

 

「ワン子・・・」

 

天真爛漫に傍で笑っていた彼女が、何処か遠くに感じる。

 

「大和」

 

「なんだ、士郎」

 

「これ、使え」

 

それは士郎が熱気に備えて持ってきたフェイスタオルだった。

 

「え?」

 

疑問の声を上げた時、ポロリと雫がこぼれた。

 

「え?俺、なんで泣いて・・・」

 

「クリスお嬢様が負けました」

 

「マルギッテさん・・・」

 

「そして川神一子は貴方方の手を越えて――――」

 

一人前になったのです――――。

 

その言葉をきっかけに大和は堰を切ったように涙を流した。

 

クリスが負けた悔しさと、一子が自分たちの手を離れて飛び立った悲しみと嬉しさに。

 

 

「椎名さん大丈夫?」

 

「・・・うん」

 

「とてもじゃないが、そうは見えないねぇ」

 

「・・・うん」

 

「タオル」

 

「・・・。」

 

「使って」

 

「・・・うん」

 

パタパタと。京も涙を流していた。

 

『えーっと・・・ヒュームさーん。勝敗は・・・』

 

『川神一子選手です』

 

クラウディオが代弁した。

 

『我々はもっとも稀有な事例に面したと言えるでしょう』

 

『・・・というと?』

 

『川神一子選手の壁越えの瞬間を目の当たりにしたということです』

 

『なるほど・・・・これまでの総決算があの戦いで花開いたと。そういう事ですね?』

 

『はい。・・・文句なしの決勝戦進出でしょう』

 

オオオオオオーー!!!

 

ドンドンドンと太鼓が鳴らされ一部の観客が感涙にむせぶ。

 

「あの一子ちゃんがねぇ・・・」

 

「いっつも姉ちゃんと比べられてたのによう・・・」

 

「体壊しそうな鍛錬してたもんなぁ・・・」

 

など、様々だ。だが、誰もが彼女の飛躍を喜んでいた。

 

一方でクリスは、

 

「・・・。」

 

自分の手を見ていた。

 

「い、犬に負けた・・・」

 

これまでも小競り合いをして負けていたが、今回は完全に白黒ついてしまった。

 

「クリス選手・・・控室に・・・」

 

「・・・ッ!」

 

いたたまれない雰囲気を出す大会運営委員の言葉にクリスはレイピアを拾って控室に駆け込んだ。

 

「大和。行ってやれ」

 

「ああ・・・!」

 

大和は立ち上がり、これを持っていけと士郎に渡されたフェイスタオルを持って駆けて行った。

 

「クリス、大丈夫かな・・・」

 

モロが心配そうに言う。

 

「大丈夫だろ。大和が居る。戻ってきたら暖かく出迎えてやろう」

 

「そうだね」

 

「クリスも良く戦ったと思うぜ。なんせ、相手はヒュームさんだからな」

 

「だなぁ・・・あの爺さんホントつえーわ」

 

「ヒュームさん大丈夫ですかね・・・」

 

由紀江が心配そうに言うと、

 

「まゆっち、ワン子が何したのか見えてたの?」

 

「えっと・・・はい。一子さんは最後に薙刀による突進をしかけたんです」

 

「突進?まるで見えなかったよ・・・」

 

「薙刀を前にして自分の体ごとヒューム爺さんに突撃したんだ。薙刀は紙一重で躱したようだけど・・・」

 

「そのままの勢いで体当たり・・・厳密には膝蹴りですね。それでヒュームさんを倒したんです」

 

「うへぇ・・・薙刀と膝蹴りの二段構えかよ」

 

「しかもあの爺さんが一時気を失うほどか・・・もう『ワン子』なんて呼べねぇな」

 

「確かにね。これからは名前で呼んであげよう?」

 

「だな。もう犬じゃねぇ。立派な猛犬だぜ!」

 

そんな会話に士郎は笑みを浮かべた。

 

(この変化は一子が壁越えをしただけじゃなく、みんなの意識を変えるものだったみたいだな)

 

それは喜ばしい限りだった。

 

(後はクリスか・・・)

 

敗北した・・・いや、置いていかれた彼女がどうなるかが心配だ。

 

「クリスって子の心配?」

 

「ああ。一子に負けず劣らずの負けず嫌いだからな」

 

凛の問いに士郎は頷く。

 

「まぁ大丈夫でしょう。直江君が行ったんでしょう?」

 

「そうなんだが・・・中々にショックだったろうからな」

 

士郎が来るまでは一子と決闘しては勝利をもぎ取っていたらしい。

 

それが遂に壁一枚隔てられたのだ。悔しさを覚えても仕方ない。

 

「まぁね。でもそれを乗り越えてのものでしょう?士郎がそうだったように」

 

「・・・。」

 

士郎は何も言わず空を見上げた。

 

 

 

総当たり戦ももう僅かとなり最後は弁慶VS田中だ。しかし、

 

「相性悪すぎ・・・」

 

あっけなく田中はギブアップした。

 

「そりゃあ主が苦汁をなめさせられてますから」

 

弁慶は京戦も強烈なバイタリティをもって下していたのでこれで決勝戦進出だ。

 

「総当たり戦の方は弁慶か。ワン・・・一子とどっちが強いかな」

 

「順当に行けば一子だろうが・・・」

 

士郎は何か含むような言い方をした。

 

「だろうが?」

 

「なにかあるかもしれないな」

 

義経の遮那王逆鱗のような技があるのかもしれない。源氏のパーティはそれぞれ伝承技なるものを身に付けているという。

 

『決勝戦の二名が決まりました』

 

『お互い消耗が激しいから決勝戦は夜の部になる。開戦は19時とするからそれまでは食って飲んでくれ。ていうかおじさんも休憩したい』

 

最後の言葉に士郎はカクリと首を傾げ、他の観客は大爆笑だった。

 

「どうしようか。みんなで食べ歩く?」

 

「俺は一子の所に行ってくるよ」

 

「あ、それいいなぁ。よっしゃ、俺達も・・・あいててて!」

 

「はいはーい旦那と奥さんの邪魔しないようにねー!」

 

「そうだった・・・名前が一緒だからついつい忘れちゃうね」

 

「ナイスだガクト。レオニダス、みんなを任せていいか?」

 

「お任せを。さぁ皆さん!食べ歩きますぞ!」

 

そう言って一同は腰を上げて思うさまこのお祭り騒ぎを堪能するのだった。

 

 

 

 

「一子、いるか?」

 

「士郎!? う、うん! どうぞ、入って!」

 

何やらどもった一子の声にどうかしたのかと入ってみると、

 

「一子・・・」

 

「えへへ・・・」

 

彼女は泣きはらした顔をしていた。

 

「どうしたんだ?」

 

士郎は一子の隣に腰かけて問うた。

 

「うん・・・なんかね、クリと離ればなれになっちゃったなって・・・」

 

「そうか・・・それで?」

 

士郎はまず彼女の話を聞こうと先を促した。

 

「嬉しさの方が強いの。でも今まで一緒だったみんなと離れちゃったような気がして・・・」

 

壁を越えたのが彼女にとって壁を作ってしまったように感じるのだろう。

 

「バカだなぁ・・・」

 

「バカって、わふ!」

 

コテンと士郎のひざ元に倒れる一子。

 

「みんな一緒さ。確かに一子は強さの壁を越えたけれど、それでみんなが居なくなるはずない。だろ?」

 

「うん・・・」

 

サラサラと一子の頭を撫でてやる士郎。

 

「それにみんな言ってたぞ。もうワン子なんて呼べないなって。名前で呼んであげようって」

 

「ホント!?」

 

「ああ。何だかんだ、気に入らなかったんだろ?」

 

「えへへ・・・ちょっとね。もうアタシも大人なんだぞーって思ってた」

 

くすくすと笑って彼女は言った。

 

「あー・・・やっとたどり着いたわー・・・壁を越えるってこんな気分なのね」

 

「これからは一層心が大事になるぞ」

 

「うん。きっとこれで満足しちゃったら昔のお姉さまみたいになっちゃうのね」

 

コクリと士郎は頷いた。

 

「それで、甘えん坊の奥さんは何がご所望かな?」

 

「あは! バレてた?」

 

「そりゃなそんなもの欲しそうな顔してればな。なにしてほしい?」

 

「んー・・・チューと、きゃっ!」

 

士郎は一子を抱き上げて口づけを交わした。

 

「ほら、してやったぞ?」

 

「もう! 旦那様ったら・・・」

 

そのままぎゅっと一子は士郎を抱きしめた。

 

「あー・・・士郎が補給されるわー・・・」

 

「俺を補給ってなんだよ」

 

士郎もクック、と笑って甘えん坊をあやすように背中を撫でた。

 

「ここまでよく頑張ったな。一子」

 

「うにゅ・・・サイコーのご褒美ね!」

 

そうしてしばらくして、一子はその小さな体を長椅子に横たえて士郎の膝枕で眠ってしまった。

 

「さぞかし消耗しただろうな・・・」

 

スゥ、スゥと寝息を立てる一子に士郎は優しく微笑んでいた。

 

 

そんな所に、

 

「もういーかーい・・・?」

 

「静かにな」

 

ぞろぞろとみんながやって来た。

 

「良かった。大丈夫そうだね」

 

「こうして寝てるとこを見るとワン子なんだけどなぁ・・・」

 

「可愛い寝顔ですね」

 

「まゆっちの旦那の膝かしてるんだから当然だろー」

 

「松風!?」

 

「まゆっちが嫉妬してる」

 

「これは・・・ええはい私もそのようにしてもらいたいです・・・」

 

「めっちゃ早口」

 

あはは、と静かに笑って、

 

「これ屋台の品です」

 

「多分行く暇無いだろうなと思って持ってきたよ」

 

「ああ。ありがとう。一子も試合開始前には起きるだろうからその時食べるよ」

 

士郎は礼を言ってもう一人の気がかりな友の事を聞いた。

 

「そういえばクリスはどうだ?」

 

「もう復帰して大和を連れ回してるよ」

 

「嫉妬が芽生えるのです・・・メラリ」

 

「あはは・・・今日は勘弁してやってくれ京」

 

「私達も戦ったんだけどなぁ」

 

「晴、焔・・・」

 

「こうはいっているが晴は清々しいギブアップだったな!」

 

「ほむの大自爆も人のこと言えないじゃないか」

 

ムスっとしたように言う晴とかっかっか!と笑う焔。

 

「それよりこれ、私達からも」

 

「士郎も何も食べてはいまい? 祭りは楽しまねばな!」

 

彼女達からも屋台の商品を貰った。

 

「ありがとう。二人とも」

 

「うむ! ・・・ここだけの話、本当は十勇士全員で来ようとしたのだが大友達が代表してきたぞ」

 

「そうか。ぜひみんなにも感謝していると伝えてくれ」

 

「わかったよ。さ、私達は退散退散」

 

「だな。一子の事頼むぜ士郎」

 

「ああ。そっちは十二分に楽しんでくれ」

 

じゃなーと退出する一同。

 

「良かったな。一子」

 

どんな夢を見ているのか。にへっと可愛い笑顔を浮かべてそのまま眠り続ける一子だった。

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

試合開始一時間前、一子は目を覚ました。

 

「アタシ・・・」

 

あのまま疲れて寝ちゃったんだ。と思い当って目をくしくしと擦ると、

 

「あ・・・」

 

珍しい士郎の寝顔が見れた。彼は腕を組み静かに眠っている。

 

「ん・・・んー!」

 

必死に腹筋を使うが残念なことに座高自体が足りてないので愛する旦那様の唇には届かない。

 

それどころか、

 

「・・・む。起きたか一子」

 

「だはぁー」

 

士郎を起こしてしまう始末。

 

「どうかしたのか?」

 

「なんでもない! それよりいい匂いが・・・」

 

そうして目に入ったのは対面に置かれた長椅子に並べられたご馳走の数々。

 

「ご馳走!」

 

「みんなが用意して行ってくれたんだよ。冷めちゃったのもあるけどたべる・・・」

 

ぐぅー

 

「・・・。(赤面)」

 

「あっはっは。じゃあ食べようか。試合に備えてちゃんと食べておかないとな」

 

「まぐまぐがつがつ!」

 

「おいおい急いで食べるな。まだ試合までには1時間あるんだぞ」

 

「すっごくお腹空いてたんだもの! 選手になるとダメねー。全然食べに行く暇が無いんですもの」

 

「食べ過ぎて試合でお腹が重いなんてのはやめてくれよ」

 

「大丈夫よーでも流石に全部は食べないわ。ほどほどにね!」

 

全部平らげる気なのかと思いきや、ちゃんとその辺も考えているらしい。

 

・・・それでも随分な量を食べているが。

 

「相手は弁慶だぞ。何か策はあるのか?」

 

「うーん。武器はお互い長物だからいいとして・・・弁慶って防御力がありそうよね・・・」

 

「意外と素早いのもあるぞ。普段通りののんびりした動きを想定してると痛い目みるかもな」

 

「そうね! ・・・あ。アタシってば助言もらっていいのかしら」

 

「問題ないだろ。向こうには大和が居るだろうしな」

 

士郎もちょっと早めの晩御飯を食べながら言った。

 

「そっか。弁慶だもんね」

 

 

~~~~対する控室~~~~

 

「「ぶぇっくしょん!!」」

 

「大丈夫か? 弁慶、直江君」

 

「大丈夫・・・」

 

「誰かに噂されたかな・・・」

 

「そんなことより作戦だ! 弁慶、何か策はあるのか?」

 

「んー・・・ま、どうにかなるでしょ」

 

「無策かよ・・・」

 

「そうでもないけどね。まぁ見ててよ。しっかり勝ってくるから」

 

「・・・いくら弁慶でも今の一子の相手は辛いと思うんだが・・・」

 

「クリスさんは間近で一子さんの覚醒を見たんだ。弁慶、油断は禁物だぞ」

 

「わかってるわかってる。今は未来の旦那様分を補充・・・」

 

「ああっ! 弁慶!」

 

すぐさま甘える弁慶とクリス。

 

「・・・本当に大丈夫だろうか」

 

一人心配を募らせる義経だった。

 

~~~~対する控室 終~~~~

 

 

一子が目覚めて一時間。遂に戦いの時が来た。

 

「それじゃ行ってくるわ」

 

「ああ。最後の勝利、もぎ取ってこい!」

 

「うん!」

 

軽やかな足取りで舞台へと向かう一子。

 

『長きに渡る御前試合もこれが最後となります』

 

『本当にヒヤヒヤもんだったけどね。事故が起きなくておじさん、安心してるよ・・・』

 

『宇佐美巨人様はこう仰られていますが、最後もまた激しい激突が予想されます。観客席の方は、絶対に川神院修行僧達による結界の中に入らないようお願いいたします』

 

『それじゃあ選手入場! 東! 壁越えの覚醒は本物か!? 川神一子選手!』

 

堂々とリングへと上がる一子。その威容は小柄とは到底思えないものだった。

 

『西! 川神水が無いと生きてはいけない!? 今回ものらりくらりと勝利をもぎ取るのか! 武蔵坊弁慶選手!』

 

声援にヒラヒラと手を振って入場する弁慶。

 

相反する入場の二人。クラウディオが言うように長かったこの戦いもこれが最後だ。

 

『両者構え!』

 

「!」

 

「・・・。」

 

弁慶は俊敏に、一子はゆっくりと構える。

 

『見合って・・・試合、開始ですッ!』

 

GOッ!!!とパネルが一色に染まる。その瞬間。

 

 

「さぁどいてもらうよ!」

 

どちらも同時に地を蹴った。ほぼ同時に得物を振り切る。が、

 

「!?」

 

「新・川神流奥義、空蝉」

 

「なん・・・」

 

パアァン!と弁慶が足を払われて地面に尻もちを付く。

 

(まずっ・・・!)

 

「新・川神流奥義、雷鳴の太刀」

 

尻もちを付いた弁慶に容赦なく一子の薙刀が振り下ろされる。弁慶は服が汚れるのも構わず、無理に立たずに横に転がって間を開けた。

 

「フー、フー。やるじゃないか。やっぱり壁越えしただけあるね」

 

「弁慶こそ。無理やり立ち上がろうとしたら決まってたのに」

 

熱い戦いに観客は大熱狂だ。

 

「最初、弁慶は一子と打ち合ったよな?」

 

「それは一瞬だけで、気で残像を作って弁慶の横に動いたんだ」

 

「それにあの技! 雷鳴の太刀っつったか? 当たってたら弁慶ちゃんの頭飛んでたんじゃ・・・」

 

「一応加減はされてる。だけど、当たれば確実に意識を刈り取るだろうな」

 

じっとりと手に汗握る戦い。飄々とした態度をとっているが、弁慶の不利は覆そうにもない。

 

「さっきは肩透かしを食らったからね・・・一撃で仕留めるッ!!!」

 

ズン、と腰を落とした鋭い突き。弁慶の剛腕もあって一撃で場外へと吹き飛びそうなそれを、

 

「川神流、大車輪!」

 

昔の一子の技とは違う。相手の技を絡めとりその力を返す技。

 

「青龍落とし!!!」

 

「ぐう!?」

 

弁慶は咄嗟に布の巻かれた棒を手放し、薙刀の一撃を蹴って距離を空ける神業を披露した。

 

「一子の一撃を蹴り上げやがった・・・!?」

 

「棒を手放したおかげで気の充填とタイミングが間に合ったんだろう。けれど得物を失ったな」

 

「フー!フー!こんなに追い詰められるのはヒューム爺くらいだよ!」

 

「そう言ってもらえて嬉しいわ。私の目指す所でもあるもの」

 

弁慶は息荒く捲し立てるが一子は静かなままだった。

 

コロンコロンと一子によって弁慶に棒が転がされる。

 

「・・・何のつもりだい?」

 

「まだ始まったばかりよ。それで勝負が決したら折角のお客さんも冷めちゃうわ」

 

「・・・慢心だね」

 

「ううんううん。お客さんの為。私達はいい試合をしないといけない。見どころを無くしたらただの決闘だもの」

 

「やっぱり慢心じゃないか」

 

「あれ? 気づいてないの?」

 

明らかに油断しているようにしか見えない一子に噛みつく弁慶だが、一子は静かにコテン、と首を傾げた

 

「気付いてない・・・? なんだか知らないけど、行かせてもらうよ!!」

 

その後も激しい打ち合いが続いた。しかし、どの展開でも剛力を誇るはずの弁慶の技は意味を成さず、一子による蹂躙が続いた。

 

「フー!フー! 恐れ入ったよ! まるで歯が立ちゃあしない!」

 

「降参?」

 

「まだまだ! 最後のあがきをさせてもらうよ!!」

 

そう言って意識を集中した弁慶は、

 

「金剛転身」

 

と奥義を発動した。

 

「はぁ!」

 

「!」

 

また一段と鋭い突き。それを先ほどのようにいなそうとして通常ならざる手応えに一子は驚きの表情を見せた。

 

それを狙ったのか互いの得物が回転し宙へと放り投げられる。

 

「そぉい!!」

 

「川神流・玄武甲凱」

 

そのまま突進してくる弁慶に一子は迷わず防御の姿勢を取った。

 

ガイン!ととても肉体がぶつかったとは思えない音を響かせて一子が後方に吹き飛ばされる。

 

(いける!)

 

弁慶は確信する。

 

金剛転身。相手の強さに応じて己を短時間強化し戦闘を行う弁慶の奥義。強化はそれまでのダメージから算出されるが、強い強化になればなるほど強化時間が短くなるという短所も持っている。

 

弁慶は、はなから馬鹿正直に戦っても勝てないと結論付けていた。

 

それも仕方あるまい。弁慶はまだ壁越えした強さを手に入れてはいない。壁越えとは、それだけの戦力差を生むのだ。

 

そこで着目したのがこの金剛転身。これならばいかに壁越えの猛者と言えど同じステップに一時的にのし上がることが出来る。

 

弁慶の感覚からして残り10秒。ごくわずかな時間だが、今の状態なら少なくともイーブンだ。

 

・・・そう思っていた。

 

「いく「川神流・大蠍打ち」!?」

 

ズパァンとキツイ一撃が弁慶に炸裂する。

 

(ちっ!麻痺効果か・・・!)

 

一子の大蠍打ちは、もともと『蠍打ち』から鍛錬を経て変わったものである。厳しい鍛錬の末に『大蠍打ち』となったこの攻撃は強力な打撃だけでなく強力な身体麻痺効果も会得していた。

 

「それでおわり?」

 

「・・・。」

 

「じゃあ終わりにしましょう。お客さんも楽しめたはず。行くわよ・・・!!!」

 

「!?」

 

一子がそう言った瞬間弁慶もクリスと同じ現象を目にした。

 

極彩色の強大で強力な気が、爆発せんと巻き上がっている。

 

(そうか・・・私はこれに気付いてなかったのか・・・)

 

強くて自分を圧倒する力。それが発揮されていると思ったからこそ金剛転身を使った。だが、それは誤りだったのだ。

 

一子は全然本気を見せていなかった。お客がいるからと。折角来てくれた人たちを楽しませたいと。それまで道化を演じていたのだ。

 

「こりゃあ・・・リターンマッチだね」

 

そうして弁慶は迸る奔流に呑まれ意識が薄れて行った。

 

『ぬおっ眩しい・・・と思ったら、弁慶が倒れてる・・・』

 

『ヒューム卿を倒したのと同じ技でしょうこの勝負』

 

「勝者! 川神一子ッ!!!」

 

オオオオオ!!!

 

と声援が上がる審判を務めたのは百代であったが、彼女も目に涙を浮かばせていた。

 

「ワン子・・・ついに来たんだな」

 

「うん。アタシ、やっとここまで来たよ」

 

熱い声援の中、撫でくり回し最後にパン!と背中を叩いて百代は言った。

 

「さ、弁慶ちゃんが起きたら表彰式だ。それまでカッコよくな!」

 

「うん! お姉さまも待っててね! すぐ追いつくから!」

 

「はっは! 私を相手にしようとは、まだまだ入口だぞ! ひよっこめ!」

 

頭を優しく撫でて百代は言った。

 

「さ、私達は表彰式の準備があるからな。先に控室に戻っててくれ。呼ばれたらすぐ来るんだぞ?」

 

「わかった!」

 

そうして一子は客席に向けて大きく息を吸って、

 

「ありがとー!!!」

 

と叫んだ。

 

 

『それでは第一回川神市、御前試合の表彰を始めるぞ』

 

『三位の田中選手、二位の弁慶選手、そして栄えある一位、川神一子選手。ご入場ください』

 

パチパチパチと拍手で迎えられる一子達。

 

そして表彰台に順番に上がる。

 

『では、まず三位の田中選手には川神銅メダルと景品が授与されます』

 

田中の首に銅メダルがかけられ、商品の川神キノコなどの特産品が書かれた大きなプラバンが渡される。

 

『次に弁慶選手に銀メダルと・・・あれ、これ大丈夫?』

 

巨人の言葉に?を浮かべながら銀メダルと景品を受け取る弁慶。大きなプラバンをみると・・・

 

『川神水大吟醸、吟醸、特別本醸造飲み比べセット一ダース』の文字が。

 

「キタ――(゚∀゚)――!!」

 

ブンブン、ブンブンとプラバンを振り回す弁慶。

 

「ちょ、危ない」

 

「あはは! 本当に川神水好きなのねぇ」

 

『ああ、やっぱりこうなった。弁慶選手不思議な踊りはやめてくださいねー』

 

『ええ、ゴホン。では一位、川神一子選手にも金メダルと景品の授与です』

 

そうして一子に金にきらめくメダルと、家族で行く! 高級旅館券の字が書かれたプラバンが渡された。

 

『一位の川神一子選手の景品は一年間有効なので慌てず、忘れずにご利用ください』

 

『そんじゃ、順にインタビューと行くかね。納豆小町さんよろしく』

 

という事で現場の燕にパスが回された。

 

『はーい! ネバっと参上納豆小町でーす。三位の田中ちゃん。試合通してどうでしたか?』

 

燕の問いに田中は小さな声でボショボショと語る。

 

『んん?聞き取れないなぁ・・・ええっと?』

 

首を傾げ耳を近づける燕に聞こえたのは、何を言ったらいいか分からないと顔を赤くして言う田中だった。

 

『あっはは! 田中ちゃんは人見知りのようでーす! じゃあこれだけ! 楽しかったですか?』

 

燕の問いに真っ赤な顔でコクコクと頷く田中だった。

 

『はい! ありがとうございましたー! 二位の弁慶ちゃん・・・は不思議な踊りの真っ最中なので飛ばしますねー。それじゃあ一位! 川神一子選手! 一位になった感想は?』

 

マイクを向けられた一子は、

 

『これまで苦しくて辛いこともあったけど、この場に立って少し報われたなぁって思います』

 

けれど、と一子は言った。

 

『まだまだ先を見据えて勇往邁進しようと思いますっ!』

 

その輝かしい笑顔とは裏腹に涙を流す一団が。

 

川神院の修行僧達である。

 

「一子ちゃ~ん・・・」

 

「良かった・・・本当に良かった・・・」

 

「涙が・・・涙が止まらぬ・・・」

 

おーいおいおいと泣く修行僧にびくっとする観客だが、川神院の修行僧だと知って慰めている人が多い。

 

『それでは、解説実況の宇佐美さんとクラウディオさんに投げまーす。そーれ!』

 

実際にマイクを投げたわけではないが、投げるフリに合わせて花火が打ち上がる。

 

『ありがとうございました。どの選手も死力を尽くした戦いでしたね』

 

『はい。川神も安泰ですな』

 

『それでは川神御前試合、終了の運びとさせていただくぜ。帰る時、怪我の無いように』

 

『解説実況の宇佐美巨人様とクラウディオ・ネエロがお送りいたしました。皆さま帰り道お気をつけてお帰りください』

 

ドン!パラパラとなる花火をバックに御前試合は幕を閉じるのだった。

 

 

――――interlude――――

 

 

カツカツカツと靴を鳴らしながら急ぎ足で帰るオニュクス王国国王とイムベル将軍。

 

「・・・イムベルよお前はどう思う」

 

「戦力に関してでございますか?」

 

「うむ。我は今の戦力では足りぬと見るが・・・」

 

「はい。少なくとも2倍、3倍は必要でしょう」

 

「であろうな。直ちに製作に取り掛かれ」

 

「はっ」

 

恭しく礼をするイムベルを見てニヤリと笑うオニュクス王国国王。

 

「クック・・・待っているがよいぞ」

 

裏では何か陰謀が見え隠れしているがまだその時ではない。

 

いつしかこの暗い影が牙を剥くとき彼ら彼女らは無事なのだろうか?

 

それはまだ誰もわからない。

 

――――interlude out――――




はい。やっと後編仕上がりました。もうね色々考えて、お風呂でヴァ―とゾンビのような声を上げながら必死に書きました。

今回でバトル成分は供給過多なので日常編やイチャイチャ編が続くと思います。

遅くなり申し訳ありません。ですが、これが作者のベストでした。これからもよろしくお願いします!
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