真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

117 / 127
皆さんおはこんばんにちわ。今日も今日とて綴っている作者です。

今回は林冲の帰省という事で書いていきたいと思います。

次期豹子頭も決めなければなりませんからね。

では!


林冲の帰省

ポーンとアナウンスが鳴る。間もなく目的地に着くようだ。

 

「んー・・・おはよう、林冲。・・・林冲?」

 

久しぶりに梁山泊へと帰省するという林冲に付いてきた士郎。

 

師や長に紹介したいと言われ、連休を利用してやって来たのだが、

 

「林冲、林冲。着いたぞ」

 

「うーん・・・し、ろう・・・?」

 

「そうだよ。もう起きないとな?」

 

「・・・っは!?」

 

(今更警戒しても遅いと思うんだが)

 

なんとも子猫のようだと思いながら頭を撫でる。

 

「脅威は無いよ。それより、迎えが来るんだろう?」

 

「あ、ああ・・・史進か武松が来るはずだ」

 

一際慌てた後無事飛行機を降りる二人。

 

この後は、梁山泊の人間が迎えに来てくれることになっている。

 

「うーん。それらしい人は・・・あ、いた」

 

「リーン!」

 

「史進!元気だったか?」

 

小柄な女性、史進が待っていた。

 

「おう!わっちはそう後れを取らないぜ?」

 

そう言って士郎を見上げる。

 

「久しぶりだな!またでっかくなったか?」

 

「相変わらずみたいだな。変わらず、だ」

 

こつんと拳を合わせて互いに笑う。

 

「史進一人か?」

 

「いんや。武松も来てるぜー。武松も楽しみにしてたからな」

 

「武松が?それは嬉しいな」

 

「で、衛宮の旦那。うちのリンをいい子いい子してくれてるかい?」

 

「もちろんだ」

 

「し、士郎!」

 

顔を赤くしてポカポカ士郎を叩く林冲。

 

「んにゃー藪蛇だったか・・・リンが可愛いぜ・・・」

 

あちゃーと顔を片手で覆う史進。

 

「所で、ここからは君達が送ってくれるという話だったが・・・」

 

「おう。ここから車で二時間ってとこだ。下で待機してるから行こうぜ」

 

という事で史進に案内されて駐車場に着く。

 

「武松!久しぶり」

 

「おかえり、林冲。林冲の旦那さんも元気?」

 

「ああ。お互い息災で何よりだ。今日はよろしく頼む」

 

「任された」

 

「運転は武松に任せるぜー。今回わっちは勝ち組だかんな」

 

「勝ち組じゃない。戦術的詐欺を繰り返した」

 

「そうなのか?」

 

林冲がコテンと首を傾げると。

 

「あった。史進は林冲が居なくなってからやり放題」

 

「そ、そんなこと無いだろー?わっちにも立場ってもんが・・・」

 

「それは昔から言われていただろう。梁山泊を率いる者になるんだから」

 

「そうなのか?」

 

士郎はそこまでの人物だとは思いもしなかった。

 

「今はまだ下積みだけどなー。それより旦那、お願いがあるんだけどいいかい?」

 

「なんだ?」

 

「うちの技術顧問に・・「断る」・・・ちぇ」

 

「それに約定で決まっているはずだ。俺は武器の提供以外双方に与しないと」

 

そう、以前士郎が梁山泊と曹一族の騒動に巻き込まれた後、そんな形になった、と林冲に聞かされたのだ。

 

「私からもお願いがある」

 

「お、武松からか。珍しいぞ」

 

「おいおい。散々荒れに荒れた取り決めなんだろう?」

 

しかし武松のお願いは可愛いものだった。

 

「貴方にまた料理を作ってほしい」

 

「ん?それくらいならお安い御用だぞ」

 

不思議そうに士郎は言った。

 

「ああー。武松はあの時の味が忘れられないって言ってたかんな―」

 

あの時とは最上幽斎を襲撃しに来たときだろう。

 

「今回は食材調達も気合入れた」

 

「だなー。武松自ら山菜取りに行くなんてほとんどないのに」

 

「能力的に普通の狩りの方が得意そうではあるな」

 

「獣の狩りは苦手。・・・苦しめてしまうから」

 

「武松は優しいんだ、士郎」

 

そうなのか、と士郎は頷いて。

 

「なら、俺が数頭狩ってくるのもいいかもな」

 

「!!!(コクコク)」

 

素早く言葉なく頷く武松。よほど士郎のご飯がお気に召したらしい。

 

「はは!武松もノリノリじゃん。わっちとの腕比べも忘れてくれんなよー」

 

「・・・そちらは忘れたいのだが」

 

「なんだとう!?わっちにあんなこと(横腹にキック)しておきながら逃げるってぇのか!?」

 

「史進あまり適切じゃない言葉が使われているぞ」

 

ひゅうっと林冲から冷たい風が流れた。

 

「な、なんだよう・・・リンだってあの時はボコボコだったじゃないかー」

 

「今の私は士郎を守るためにいる。昔がどうこうは気にしない」

 

「うげー。こっちも藪蛇かー。一々ラブラブするなよなぁ」

 

「ぞっこん、だな」

 

「ラブラブなんて・・・その」

 

一応自覚はあるのか顔を赤くしてモジモジとする林冲。

 

「くぁーもう!誰だ!うちのリンをこんなに可愛くしたのは!」

 

士郎の袖をキュッと掴んで林冲は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

それから色々、積もる話をすれば二時間などあっという間で。

 

士郎達は梁山泊の里を訪れた。

 

「着いたー!」

 

「ここが梁山泊・・・」

 

「ああ。ようこそ士郎、私達の故郷へ」

 

「ようこそ、衛宮」

 

林冲達の歓迎を受けて士郎は改めて辺りを見渡す。

 

(沼沢という事は知っていたが、ここまで立派なものとはな)

 

独特の大地にささやかな家がぽつぽつと立っている。

 

「あー!林冲だー!」

 

子供が林冲を見つけトテトテとやって来た。

 

「ただいま。師にファンが来ましたと伝えてくれないか?」

 

「ファン?林冲でしょー?」

 

「うん。師に言えばわかるから」

 

そう伝えて林冲はその子を送り出した。

 

「ファン、とは林冲の事か?」

 

士郎が問う。その言葉に林冲は頷き、

 

「私が林冲である前の名だ。『豹子頭の林冲』を拝命するまではそう呼ばれていた」

 

懐かしそうに言う林冲に、何か寂しげなものを感じた士郎は彼女の手を握った。

 

「大丈夫だ。俺にとって林冲は君一人だ」

 

「・・・うん」

 

ぎゅっと士郎を抱きしめて林冲は安心した顔を見せた。

 

しばらく見学をしていると、

 

「来たようだね。林冲」

 

「師匠!」

 

隙の無い様子で40代くらいの女性が現れた。

 

「そちらは林冲を娶った衛宮さん・・・だったかな。初めまして。貴方の武勇は、ここ梁山泊にも響いていますよ」

 

「私などまだまだ・・・そちらこそ腕に衰えはないのでは?」

 

「これでも先代『林冲』だからね。油断や隙は捨てて当然」

 

「・・・。」

 

林冲は飛行機の中で士郎に起こされたのが恥ずかしくなった。

 

「まぁ私にもあんたみたいな旦那が出来れば、多少気は緩むかもしれないけどね」

 

「う、うう・・・」

 

まるで見透かされているかのような師匠の言葉に小さくなってしまう林冲。

 

「ファンは大分変ったね。槍術、棒術においては、梁山泊最強まで上り詰めた娘がまぁ・・・乙女しちゃって。でもあんたはそれでよかったのかもねぇ・・・」

 

「守りたいものが、できました」

 

林冲は顔が赤くなるのも気にせず、堂々と言った。

 

「そうかいそうかい。こんな何もない所だけどゆっくりして行っておくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「とりあえず私の家に行こうか」

 

「ああ。一度落ち着きたいしな」

 

そう言ってまずは林冲の家にお邪魔した。

 

「久しぶりだな。家は師が管理してくれていたから綺麗だけど・・・」

 

「ここが林冲の家か・・・」

 

素朴な必要最低限のものしかない清貧な部屋だった。

 

「待っていてくれ。今お茶を入れるから・・・」

 

林冲がお茶を入れてくれようとした時だった。

 

「!?」

 

士郎が思わず戦闘態勢で林冲の前に立った。

 

それと同時に、

 

「お、おい!やめとけって!」

 

「りーんちゅうー!!!」

 

何やら止める声となんだかこう、SAN値が低下したような声が聞こえた。

 

「せ、青面獣・・・!」

 

「パンツパンツパンツー!!!」

 

「ひゃあ!?」

 

「・・・ていっ」

 

あまりの出来事に士郎は無表情で、トスンっと手刀を落とし、奇怪な足取りで突撃してくる変態を成敗した。

 

「んー!んー!」

 

縛られて猿轡を嚙まされて尚元気にどったんばったんと跳ねる顔の青い・・・人。正確には女性。

 

「なんなんだこの人は」

 

「青面獣・・・名を楊志。梁山泊の一員・・・なんだが・・・」

 

「・・・。」

 

士郎が試しに猿轡を外すと、

 

「林冲のパンツ!林冲のパンツ!林冲のパンツー!!!」

 

・・・そっと猿轡を戻した。

 

「そ、その・・・顔色が随分悪いな。何か病でもわずらっているのかな?」

 

苦し紛れに聞かなかったことにして聞く士郎。だが、現実は無慈悲だった。

 

「青面獣は・・・女性のパンツの匂いを嗅がないと顔が青くなるんだ・・・」

 

「・・・。」

 

何という性癖か。ここにも変態が、いた。

 

「おおーいたいた。衛宮の旦那ナイス!」

 

史進が慌ててやって来た。

 

「ふいー!青面獣のやつ、林冲が帰ってきたって聞いて突撃しちゃってさぁ」

 

「見境なしか」

 

「本人曰く、中でも林冲のは特別なんだってさ」

 

「・・・。」

 

しばらく、というか滞在中は常に縛っておこうかなと考える士郎だった。

 

「それで?なんでこんなにも早く林冲が帰省すると知ったんだ?一応配慮はしてくれたんだろう?」

 

士郎が問うとばつが悪そうに史進が、

 

「あー、ほら。旦那と林冲が結婚して林冲が帰ってこなくなったろ?それから顔青いままで・・・。それでもコイツ、平常時は頭の回る奴でよー。勝手に林冲の情報を得る情報網を作ってたわけだ。そんで林冲が帰ってくると聞いて理性が吹き飛んじまってなー」

 

「そこまでするか・・・」

 

頭が痛いと頭を抱える士郎。

 

変態の橋もそうだが変態というのはどうしてこうも行動力に溢れているのか。

 

「それで、どうするのかね?」

 

「縛り上げて家にでも放り込んでおくさ。まさか、旦那のお前が林冲のパンツをコイツに嗅がせるのを許可するわけないだろう?」

 

「妻の事だ。当たり前だろう」

 

「士郎・・・!」

 

キラキラした目でうっとりとする林冲。それに呆れたように史進は

 

「だから一々ラブするなってぇの。変態は預かるぜー」

 

「んー!!!」

 

問答無用で楊志を連れて行った。

 

「仲間にもセクハラされてたんだな。・・・気づかなくてごめん」

 

「い、いいんだ。青面獣は昔からだし、今は士郎が守ってくれるから・・・」

 

「ああ。絶対に林冲を守るぞ」

 

「うん・・・」

 

そっと口づけを交わして二人はまず、腰を落ち着けた。

 

 

 

 

 

『やっ!やっ!やっ!』

 

しばらくして、傭兵となるべく、日々修練している所に士郎と林冲は顔を出した。

 

「やっているな」

 

「これは・・・大きな修練場だな」

 

比較的高い台地に、石で床を固められた修練場は壮観ですらあった。

 

「よく来たな!ここからはわっちが揉んでやるぜー」

 

闘志を燃やした史進が棒を片手に言う。

 

「・・・もう少し落ち着いて見学したいのだが」

 

はぁ、とため息を吐いて士郎は呟いた。

 

「士郎・・・」

 

「わかってる。・・・今回だけだぞ!」

 

「よっしゃー!汚名返上するぜ!!」

 

ワクワクとした様子で闘技場だろう、区切られた場所に行く史進。

 

「なんだい。指南してくれるのかい?」

 

「まさか。喧嘩を売られたので適当にあしらおうかと」

 

浮かれ切っている史進に武術指南の女性も理解したのか、ああ・・・と頷いて。

 

「相手は史進かい。丁度いい修練生を見学させても?」

 

「・・・どうぞ、お好きに」

 

はぁ、とまたため息を一つ。買いたくも無い喧嘩とあらば士郎のため息は増えるばかりだ。

 

それからワラワラと観客が集まり野次馬の壁が出来る。

 

「これより!九紋龍・史進と武神・衛宮士郎の闘技を行う。両者!前へ!」

 

わー!と盛り上がるが士郎は武神呼ばわりされて、さらに憂鬱な顔になってしまった。

 

「いっくぞー!」

 

「・・・。」

 

しかし戦いは戦いだ。強さこそが至高とも取れるだろう梁山泊で、それを示さない訳にはいかんだろうということで、士郎はいつもの様に構えた。

 

「・・・お前、干将と莫耶は?」

 

「さて、必要なら準備するが」

 

「「・・・。」」

 

一瞬の静寂。そして動き出したのは史進だった。

 

「怪我したくなきゃ大人しく本気を・・・」

 

獰猛な顔をした史進の前に拳が迫る。

 

「なっ・・・」

 

紙一重で避けた史進だが体勢を戻そうとして引っかかりを覚える。

 

「掴ん・・・で・・・!!?」

 

そう。史進が避けたのは()ではない。純粋に手が間合いの外から伸びてきたのだ。

 

「はっ!」

 

「うわ!うわああああ!?」

 

その後は歯車が嚙み合うかの如く。史進は宙へと投げ出され、そのまま地面に叩きつけられた。

 

「一本!衛宮士郎!」

 

大きな声が響く。誰もが理解できない中、ジャッジを頼んだ武術指南の女性だけが、額に冷や汗を流して宣言した。

 

「史進様が・・・」

 

「うそ、一瞬で・・・?」

 

「今の見えた?」

 

「全然・・・」

 

等など。感想は困惑に包まれていた。

 

「恐れ入ったよ。流石は川神百代を越えし武神。あの体勢から縮地(・・)とはね」

 

「ててて・・・どういうことだよ!?」

 

「おや、史進ともあろう者が今の分からなかったのかい?」

 

「高速で間合いを詰められて一本背負いされたのは分かった!でもどうしてだよ!なんで素手なんだよ!」

 

捲し立てる史進にクッと笑って、

 

「もちろん、双方の怪我を考慮してだが?」

 

「ムッキー!!!」

 

ダンダンと地面を地団太する史進。

 

「もう一回!」

 

「今回だけだと言ったはずだが・・・まぁ、修練生も居ることだし一手二手は相手をしよう。それ以上はせん。いいな?」

 

「上等ォ!ほえ面書かせてやんよ!!」

 

と逆上も力に変えて挑む史進。だが、結果がどうなったのかは・・・

 

「ひー、ひー・・・体痛てぇ・・・」

 

今の士郎を考えると分かりやすいのかも知れなかった。

 

 

 

そんな一仕事を終え、やって来たのは林冲の師匠の家だ。

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

「どうしたんだい?二人そろってまぁ」

 

コロコロと分かっているだろうに師匠は笑った。

 

「遅ればせながら、林冲が婚姻したことを伝えたくて来ました」

 

士郎は深く頭をたれながら誠心誠意伝えた。

 

「どんな男とくっついたのかと思っていたけど、いい男見つけたね林冲」

 

「はい。士郎は心の支えになってくれて・・・」

 

気恥ずかしい報告となってしまったが、とても良い時間を過ごさせてもらった。

 

結婚の報告が出来た後、林冲はあることを師に伝えた。

 

「師匠、天雄星の事ですが・・・」

 

「自覚はあったようだね。でもそうだねぇ・・・」

 

林冲の師匠は少し考えて、

 

「外に行こうか」

 

そう提案した。

 

「槍を構えな。ファン」

 

「はい。」

 

ヒョンと槍を回して構える林冲。その姿は士郎のように武骨ではなく優美に満ちていた。

 

「・・・うん。あんたは豹子頭の林冲だ。それに変わりはないよ。今更名を捨てることは出来ないね」

 

「・・・しかし」

 

林冲は何か言いたげに呟いた。

 

林冲が言おうとした想いをくみ取ったのか士郎は、

 

「林冲は林冲だ。これから先俺と共に歩んでくれるのは君だけ。そうだろう?」

 

「それは・・・そうだけど・・・」

 

「跡継ぎの事で心配してるなら当分先だよ。あんたは梁山泊最強の一角、『豹子頭の林冲』さ。今お前さんを越えられる人材は思いつかないね」

 

「むむ・・・」

 

納得がいかなそうな顔をする林冲だが、師は厳しく言った。

 

「お前は一度梁山泊で大成した身だ。その評価は死ぬまで付きまとう。甘ったれたことを言ってないで天雄星としての生を全うしなさい」

 

「はい・・・」

 

しょぼんとする林冲。

 

林冲は常日頃から思っていたのだ。傭兵である自分が居ることによって、家族に迷惑が掛からないかという事を。

 

組織によっては賞金首にでもなっているだろう自分が良くないことに巻き込みやしないかと。

 

林冲はずっと考えていた。

 

「林冲。君のせいで誰かが良くない目にあう事は無い。それを守るのが俺の仕事だ」

 

士郎は真っすぐに告げた。

 

彼女に守ってほしいと伝えた青年は、もう遠い所を見る目をしていない。しっかりと、今を見据えていた。

 

「うん・・・」

 

キュッと士郎を抱きしめてこぼれそうになる涙を拭う。

 

林冲は、これからも林冲としていることに決まった。

 

余談だが・・・

 

「お前さん、子を作る気は無いのかい?武神と子を作りゃあ自然と跡継ぎも心配なさそうだけどね」

 

「私は自分の子に傭兵の道を進めたくない・・・ここでの幸せもあるけれど、それでも・・・」

 

「・・・そうか。何にせよ、抱かせておくれよ?まだまだでしゃばるつもりだからね」

 

「はい。それはもう是非・・・」

 

テレテレと照れ笑いながら林冲は答えるのだった。

 

師匠の家を離れると、武松が待っていた。

 

「林冲、終わった?」

 

「ああ。狩りの為に士郎が必要なんだろう?」

 

「ん・・・借りて大丈夫?」

 

「うん。もう大丈夫だ。士郎、行ってあげて欲しい」

 

「分かった。もしもの時はすぐに連絡をしてくれよ?」

 

「うん。分かった」

 

林冲はしっかりと頷いて士郎と武松を見送った。

 

 

 

 

「すまない。折角林冲と一緒だったのに」

 

「構わないさ。正直な所を言えば林冲も、もてなしてやりたかった。何か思い詰めた所があったからな」

 

「きっと豹子頭の引継ぎ・・・だろうか?それ以外で、今の林冲が貴方に心情を隠すとは思えない」

 

「その通りみたいだな・・・私が思っている以上に思い詰めていたようだ」

 

士郎は僅かに顔を伏せた。

 

「だが、ここで私が折れるわけにはいかない。林冲に仲間達と、美味しいご飯を食べてもらって気分を変えてもらおうと思う」

 

「良いことだと思う。それと、仲間達(・・・)って言ってくれてありがとう」

 

あまり表情を動かさない武松がほのかに笑った。

 

 

 

――――interlude――――

 

士郎が武松と狩りに行っている間、林冲は武芸を教えてほしいという子達を相手にしていた。

 

「やぁ!」

 

「腕が下がっているぞ。疲れていても相手は手を緩めてはくれない」

 

「はぁ!」

 

「踏み込みが甘い。中途半端な踏み込みは逆に身を危うくするぞ」

 

等など天雄星として恥ずかしくない指導をしている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「疲れてからが本番だと思った方が良い。相手が多数だったりするとそれで終わりだからな」

 

「「「はい!!」」」

 

元気よく返事をしてくれる、次代の傭兵たちに笑いかけて、林冲はふと、狩りに出ている士郎を想った。

 

(士郎は怪我していないだろうか・・・)

 

彼に限ってあり得ないだろうが安否を気にしてしまう。

 

(大丈夫だ。士郎なら虎が出て来ても問題ない)

 

いつかの悲劇をふっと思い出してブンブンと頭を振った。

 

「林冲ー、旦那様の心配ー?」

 

「え?ああ・・・その」

 

ポッと頬を赤くして林冲は俯いた。

 

「あはは!恥ずかしがってる!」

 

「大丈夫だよ!とっても強かったもん!」

 

ワイワイと話す子らに、ますます恥ずかしくなって小さくなってしまう林冲。

 

「林冲と旦那さんってどっちが強いのー?」

 

「え?」

 

突然の問いに林冲が固まるが、傭兵の卵と言っても年頃の娘達。

 

「きっと林冲よりもさらに強いんだよ!」

 

「戦って負かされて恋に落ちたんでしょ?」

 

「お、お前達!」

 

好き勝手言う子らにぴしゃりと言うと、キャー!と離れていく。

 

「もう・・・これも士郎のせいだ」

 

こちらに来てから大人びいた口調のせいで初めて会った頃を思い出す。

 

(あの時は三人がかりでも倒せなかったな・・・今の私でもすんなり倒されてしまうだろう・・・)

 

今の士郎は、戦闘面では本当に武神と言われてもおかしくないのだ。

 

川神院、九鬼での修練で、ただでさえ下地が出来ていた所に潜在能力の覚醒で、あったであろう欠点が無くなった。

 

しかも当の本人は、0からのし上がった剛の者なので油断も無い。

 

そんな彼が唯一何らかの負傷をするのは――――

 

「決まっている。いつだって弱い者の為だ」

 

自分は弱い者の方に行きたくない。いつだって彼の背中を守れるようにありたい。

 

「・・・。」

 

久しぶりの故郷はそんな想いを強くしてくれたのだった。

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

「よし。こんなものだろう」

 

最後の野鹿を処理して、士郎は満足そうに頷いた。

 

「まさか弓の腕までいいとは思わなかった」

 

普段から変態の橋を狙撃している彼には、狩りでも隙は無かった。

 

「本当に梁山泊に来る気は無いのか?」

 

驚いた様子で武松が問うが、

 

「私は今の生活に満足している。それに、肩書など必要ない」

 

「・・・。」

 

「さ、処理が終わったら戻るとしよう。下処理はこれだけではないからな」

 

そう言う士郎に武松が語りかけた。

 

「貴方の目指しているのは何処?」

 

「目指す場所・・・か」

 

士郎は目を閉じ、空を仰いで考えた。

 

「正義の味方になる事・・・なんだが・・・最近、正義の味方の概念が変わりつつある」

 

「正義の・・・味方?」

 

それが何なのか武松は分からなかった。

 

「正義の味方は・・・見方(・・)で大きく変わる」

 

武松の言葉に深く、士郎は頷いた。

 

「そうだ。正義とは秩序を表すもの。個人の救いと全体の救いは両立しない。・・・私の言う正義の味方とは荒唐無稽なものだ。だが・・・」

 

士郎は真っすぐに武松を見た。

 

「一度、その夢に向かってがむしゃらに走った。そこで無様に溺死するはずだった俺に・・・いつの間にか身近な守りたいものができた」

 

最初は桜や凛の事だったのかもしれないそれは、風間ファミリーに出会い、自分を想ってくれる人々と出会い、強烈な刺激を受けて変化を起こしつつある。

 

「俺の目指す場所はここだ。全てを救う正義の味方じゃない。大事な誰かを必ず守る正義の味方だ」

 

「そうか・・・だから貴方は強い。貴方の異常な強さの意味が分かった気がする」

 

武松は、最初こそ不安げな顔だったが結論を聞いて安心したのか微笑みを浮かべていた。

 

「そういう君は何処を目指しているんだ?やはり、梁山泊最強の地位か?」

 

士郎の言葉に武松は驚いたように返答に困り、

 

「・・・私も大事な人達を守るための力が欲しい。私達は傭兵だから、尚更・・・」

 

「・・・そうか」

 

傭兵ではない生き方もできる、とは士郎も言えなかった。それこそ彼女達の誇りであろうし、だからこそ、林冲も自分の頂いた星について悩んでいたのだろうから。

 

「同じ目標なんだな」

 

「うん。そうみたい」

 

互いにクスクスと笑い合った。

 

「武松せんせーい」

 

「狩りの獲物を引き取りにきましたー」

 

修練生であろう子らが血抜きを済ませていた野鹿を運ぶべく、落ちないよう溝の付いた板を複数持ってきた。

 

「どれから運べばいい?」

 

「最初の方に狩ったのはもういいだろう。手前の2匹だけ残して後は下処理の続きだな」

 

士郎の言葉にコクリと頷き、

 

「聞いたな?こちらの二頭は私達で持ち帰る。先にそちらの二頭を持ち帰ってほしい」

 

「わかりましたー」

 

「んしょ。わぁ、毛皮も綺麗。これなら無駄なく扱えそうです!」

 

獲物の綺麗さに驚きながら、板を一枚おいてもう一つの板に二頭乗せ、二人がかりで運ぶ。

 

「先生、先に失礼します」

 

「失礼します」

 

「ああ。頼んだよ」

 

にこやかに微笑んで受け取りに来た二人を見送る武松。

 

「ありがとう。貴方のおかげで今日も皆、暖かい食事にありつける」

 

「難しいことはしていない。気にしないでくれ」

 

武松の言葉に軽く首を振って士郎は高い空を見上げた。

 

 

 

 

 

それからしばらくして士郎と武松が二頭の野鹿を運んでくると、歓声が上がった。

 

「やったー!今日は宴だー!」

 

「山菜もたっぷりです!」

 

「みんなに連絡だー!」

 

キツイ修練の後だというのに、その姦しさに衰えが無い所を見て苦笑をこぼす士郎だが心配げに待っている林冲を見てすぐにかまど小屋に運んだ。

 

「ただいま、林冲」

 

「おかえり、士郎!」

 

「おけーり。今日は大量だなぁ」

 

「今日はバーベキューにするつもりだ。私は食材の処理をするので焼き台なんかは任せる」

 

「オーケーオーケー。今日は宴だぁ!おい!焼き台の準備するぞ!」

 

はーい!と食事当番の子らが史進に続いて駆けて行く。

 

「士郎。怪我してないか?大丈夫か?」

 

「ああ。大丈夫だよ林冲。猛獣も出なかったし、一撃で仕留めたからな」

 

「本当に一撃で仕留めていたよ。林冲の旦那さんは色々と凄すぎる」

 

「武松!士郎は凄いんだ。私の時もな・・・」

 

昔懐かしい話を始めた彼女を武松に任せ、士郎は都合四頭の野鹿の処理を進めた。

 

下処理は時間のかかるものが多く、時間はあっという間に過ぎ、晩餐の時間となった。

 

「つけダレは持ったな!酒は行きわたってるか!?今日は宴だぁ!!」

 

史進の音頭に沢山の人が歓声を返し、今か今かと焼き台を見ている。

 

「順番にもってけー!ちびっこ共もよく食うんだぞー!」

 

わーい!!!と小さな子らから焼き台に手を伸ばす。

 

みんなが笑顔で、士郎としても嬉しい限りだった。

 

「ありがとう、士郎。私の知る限り、こんなに華やいだのは経験したことが無い」

 

「そうなら嬉しいな。大事な命を貰うのだし、喜んでもらえて俺も嬉しい」

 

お互いに暖かい笑顔で話す。いつもと違う場所なので士郎は今だに気を張っているが、無理はしていないよ、という所作だった。

 

「こっちが恥ずかしくなる笑顔でまぁ・・・いちゃつきやがって」

 

「史進もそういう相手を見つけたらいい」

 

林冲の鋭い切り返しに、史進は口をへの字にして、

 

「そんな相手ポンポン湧くかよ。リンみたいに上手くはいかねぇよー」

 

「パッド入れてる時点で人選ぶよね」

 

「まさるー!パッドなんて知らねぇぞ」

 

と、なんだか幼く特徴的な物言いをする声がした。

 

「入雲龍。相変わらずみたいだな」

 

「林冲、この子供も修練生の一人か?」

 

士郎の言葉にピキッと青筋を浮かべ、

 

「その辺のモブと一緒にすんな!私は公孫勝!天才の天間星とは私の事だ!」

 

「天才・・・ねぇ・・・」

 

「あ!お前疑ったな!?」

 

天才と自分で言うあたり、この子は自分の才に胡坐をかいているタイプの子だろう。

 

本物の天才(凛や百代)を目にしているので大して驚きはない。

 

「どこにでも自称天才はいるものだな」

 

「コイツ・・・私が本気になれば・・・」

 

「常に本気ではない天才などおそるるに足りんな」

 

「なんだコイツ・・・もういいや。武松ー」

 

不機嫌なまま公孫勝は焼き台に陣取っている武松の元へと行った。

 

「士郎、ありがとう。入雲龍を咎められる人材はほとんどいなくて・・・」

 

「大方、結果は出しているからと甘やかされているのだろう?随分ともったいないことだ」

 

淡々と言って士郎は川神水の入った紙コップを傾けた。

 

「そんなことより、林冲。迷いは晴れたか?」

 

士郎の問いに林冲は少し考えて、

 

「・・・うん。私は林冲。他の誰でもない、豹子頭の林冲だ」

 

決意の籠った瞳で林冲は言った。

 

「・・・そうか。君の悩みが晴れたことを心から喜ぼう」

 

「普段の士郎に・・・言われたいな・・・」

 

もじもじとして言う林冲に、士郎は咳払いをして。

 

「・・・林冲の迷いが晴れてよかった。これからもよろしく」

 

「・・・うん」

 

二人は寄り添い合って愉快な宴を眺めるのだった。




遅くなりました。林冲は傭兵の名なのでこのままでいいか悩み、士郎は武松に問われて気持ちがはっきりした感じです。

もうちょっと梁山泊編続きます。変態も何とかしないとね(笑)

予想より文字数が多くなり投稿が遅れて申し訳ありません。体調は可もなく不可もなく小康状態です。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。