今回は梁山泊で振り回される士郎を描きたいと思います。
116話はイチャコラシーン多めだったので、笑いあり、青春ありの一話にしたいと思います。
それでは!
体は自然体に。両腕はだらりと下げて。いつもの様に戦闘態勢を取る士郎。
今よりここは敵地。一瞬の油断も許されないと心に刻む。
「やっ!」
いつでも稼働可能な状態の戦闘論理が回転を始める。敵は上段回し蹴りで側頭部を狙ってくる――――!
「――――」
下手をすれば大怪我間違いなしの攻撃を士郎は冷静に軌道を読み回避する。
「待ってました!」
回避した先にまた敵。今度は下段蹴り。
「――――ふっ」
軽い息と共に地面を殴り、衝撃波を発生させ押し返す。
「ごめんなさい!」
「だいじょうーぶー」
巻き上げられた砂塵の中から顔の青い女性、青面獣が二刀を持ち飛び出してくる――――!
――――
迅速かつスムーズに干将・莫耶が手に握られる。
ギャリン!と二刀の一撃が受け流され、
「はっ!」
青面獣をすれ違った勢いで当身をして吹き飛ばし、最初の二人にそれぞれ干将と莫耶を突き付けた。
「「参りました・・・」」
「悪くない動きだったぞ。だがもう少し――――」
士郎は梁山泊の修練生と摸擬戦をしていた。というのも、
『曹一族に連絡して、お互い摸擬戦をしてもらうことにしたぜ!』
『したぜ!じゃないわ!たわけ!』
ガツン!
『いってー!!!』
問答無用で史進に拳骨を落とす士郎。
そう、史進の勝手な心配りにより、梁山泊は元より、いずれ曹一族にも武術指南をしなければならなくなったのだ。
しかも、
『林冲のパンツ林冲のパンツ・・・』
この厄介な変態まで武術指南にかこつけて挑んでくるようになった。
『私が勝ったら林冲のパンツは私のものー!』
ということで負けられない戦いとなっている。
「元より拳で衝撃波を出せる奴などいないが、何事にも例外はある。一手早く干将を出すことも出来たわけだし、油断しないように」
「「はーい!」」
「では、楊志を頼むよ」
「そう言えば師の攻撃ですっ飛んでったね・・・」
「楊志様の変態も落ち着かないねー」
「・・・。」
修練生の言葉になんとも言えない顔をする士郎。
「まぁ、なんだ、私が行ってもあれだし、よろしく頼む」
「「はーい!」」
元気に返事をして去って行く修練生。
「士郎!」
「林冲」
林冲が水とタオルをもってやって来た。
「大丈夫か?怪我してないか?」
「大丈夫さ。気に目覚めたおかげで、一見無茶な行為も有効打になる。早々遅れは取らない」
タオルを受け取って笑う士郎。気の覚醒以来、士郎は本当に強くなった。気と魔術で体を強化し宝具を武器に戦う。戦う相手を選ばないオールラウンダーとして完成を見た。
その強さは英霊とだって戦えるほどだ。今生の人間がどの程度相手になるかは疑問が残る所だ。
「しかし摸擬戦ばかりで困る。俺は林冲の里をもっと見て回りたいのだが」
「史進にも言っておくよ。何はともあれお疲れ様」
ぎゅっと士郎を抱きしめて林冲は士郎の無事を確かめた。
「りーんちゅうー・・・」
「せ、青面獣!?」
「!」
さっと林冲の前に出る士郎。
「要件は何だ。例の事ならお前は敗北した。よって好きにはさせない」
「わかってるー。ただ今回の事で林冲に言いたいことがある」
青い顔でフラフラしながら怪しい瞳で彼女は言った。
「林冲・・・貴女も私と同じ性癖を持ったね」
「同じ性癖・・・?お前のようなはた迷惑な分類と一緒にするな!」
士郎の喝も何のその。うねうねと軟体生物が如き形相でやって来た青面獣は決定的な言葉を発した。
「好きなんでしょう?衛宮士郎の
「!!?」
「・・・は?」
士郎は、この軟体生物が何を言っているのか分からなかった。
しかし、林冲にはてきめんだったらしく。
「私が士郎の・・・!?いや違う、私は士郎を愛して・・・」
「衛宮士郎特別製の『匂いフェチ』になっているってことさ・・・この私の女の子のパンツの匂いフェチと同じね!」
「!!!」
ピシャアン!と林冲に雷の幻影が落ちる。
一方で士郎は、
「貴様・・・何を言っている?」
本気で意味が分からぬと、逆に警戒心を煽られる。
「林冲、この変態の戯言を聞く必要はない。すぐに縛り上げ・・・」
相手をしていられんと林冲を見る士郎。しかし当の林冲は、
「確かに士郎の匂いは安心できる・・・けど、それが青面獣と同じものだとしたら・・・」
顔を真っ赤にしてブツブツと話す林冲に、何かまずい気配を悟った士郎は、
「フンッ!」
ビシ!と楊志の延髄にチョップを入れて気絶させ、すぐさま林冲に向き直った。
「林冲、林冲!?」
「うぁ・・・」
心ここにあらずという風の林冲に、士郎は驚きを隠せない。だが、
「林冲!君は決して匂いフェチなどではない!戻ってこい!林冲!」
「・・・ッハ!?」
士郎の呼びかけにようやく目を覚ました林冲に士郎は深く安堵した。
「林冲・・・」
「士郎・・・私・・・」
また顔を真っ赤にして、
「ちょ!ちょっと滝行にでも行ってくる!」
着替えを纏めてバタバタと飛び出して行ってしまった。
士郎の手は虚しく伸ばされたままになってしまった。
「・・・。」
「・・・。」
残されたのは士郎と気を失った揚士のみ。
とりあえず士郎は、自力では決して解けぬ様に縛り上げ、遠くの彼女の小屋にシュート(超手加減)した。
――――interlude――――
林冲は、楊志に言われたことを消し去ろうと滝行に来ていた。
「・・・。」
じっと滝に打たれ精神を統一する林冲。
『好きなんでしょう?衛宮士郎の
「くっ!」
思い出すだけで頬が熱くなる。
自分は一体どうしてしまったのか。
(私は士郎を愛している。その感情に偽りはない)
楊志の言葉が次々と去来するが林冲は一心に否定し続ける。
『衛宮士郎特別製の『匂いフェチ』になっているってことさ・・・この私の女の子のパンツの匂いフェチと同じね』
(違う!私の持つ感情は決して青面獣と同じではない!)
しかし、と林冲の心が囁く。
――――士郎の腕の中に何も感じなかったのか?
(違う)
――――士郎に抱きしめられた時幸福を感じなかったのか?
(違う!)
――――それは、士郎の匂いに充足感を得ていたのではないか?
(ちが・・・)
最後の問いに答えられぬまま林冲は思考を闇に溶かす。
(私は――――)
林冲は答えられない。この問答は長くなりそうだった。
――――interlude out――――
「林冲・・・」
士郎は滝行から帰ってこない林冲を心配していた。
「しかし楊志め・・・勝手なことを・・・」
士郎は、お互い愛し合っている。それだけで十分だったし、その中に匂い・・・一種のフェロモンも感じていたのではないかと思う。
そればかりは嘘偽りなく肯定しなければならないかもしれないが、それだってお互いを愛し合っているからこそだと思っている。
従って、揚士の言ったことは荒唐無稽の穿った見方となるのだが、生真面目な彼女だ。自分も楊志と同じ性癖に目覚めたのではと真剣に考えているのだろう。
「何か言ってあげられれば良かったんだが・・・」
しかし、士郎もどちらかと言えば己を責める質なのである。士郎も林冲のように何かできないかと悩んでいた。
そんな折、
コンコンと戸が叩かれた。
「はい――――」
と、扉を開けた瞬間、拳打が飛んできた――――!
「はっ!」
士郎は素早く拳を見切り、床に叩きつけ、カポエラ張りに蹴りを見舞うが・・・途中で止めた。
「・・・何をしてるんですか?林冲の師匠」
そう。拳を向けてきたのは林冲の師匠だった。
「なんだい。流石武神、とでも言っておこうか」
「随分な挨拶ですね」
「それはこっちのセリフさ。まさかカポエラなんてマイナーな技まで身に付けているとはね。踏み台にされた腕が痛むよ」
「こっちは普通に観光に来てるんです。急な手合わせは勘弁してもらいたい」
「はいはい。これからはしないと約束するよ。それより、林冲は居るかい?」
「林冲は滝行に行っています」
「林冲が滝行?ふーん・・・」
林冲の師匠は腕を組み、
「何かあったね?良ければ話を聞くよ」
「え?」
士郎は不思議そうに首を傾げた。
「なんだいなんだい。まだまだでしゃばるつもりだって言ったろう?ほら、きりきり吐きな」
「・・・。」
士郎は考えた。こんなにセンシティブな話を、師匠とはいえしていいのか。
だが、士郎はこうも考えた同じ女性の彼女なら活路を開けるのではないかと。
こうしていても埒が明かない。結局、士郎は相談することにした。
「かー!青面獣の言葉を真に受けるなんて未熟だねぇ・・・」
「林冲は生真面目な女性です。それ故に・・・」
「好いた男の匂いが好きなんて当たり前の事じゃないか」
「・・・。」
いきなり真実を語るあたり士郎はため息を吐きたくなった。
「あの様子。心から幸せそうな様子を見るに、林冲はあんたの一部を好きになったわけじゃない。全部丸めて一つの存在として好きになったんだ。まさしくぞっこん、だね」
「・・・。」
「それが、誰彼構わず女の下着を漁るのと一緒にしないでほしいよ。これは、青面獣にもお仕置きが必要かな」
「是非お願いします」
「あーでも、期待はしないどくれ。あれは真正の変態さね。アタシらがどうこうできるとも思えない」
「ええ・・・」
そこは何とかしてくれよと思う士郎。
「だが・・・林冲の事は任せておきな。珍しく滝行なんて、なにかあるって言ってるようなもんだからね。そっちは期待してくれていいよ」
「・・・よろしくお願いします」
ここは頼む他なかろうと士郎は深く頭を下げた。
「じゃあアタシは林冲の所に行こうかな。あんたはどうする?」
「俺は・・・行っても困惑するだろうと思うので鍛錬でもして待ちますよ」
「いいだろう。任せておきな。それじゃあね」
「はい。よろしくお願いします」
そうして林冲の師匠に託し士郎はタオルと麦茶をやかんで用意して剣舞を始める。
(俺がいたら林冲はさらに混乱する。ひとまずはこれでいい)
そんなことを覚えながら士郎はギアを上げて行ったのだった。
――――interlude――――
「うぬぬ・・・」
もう何度目になるかという悩みを抱えて滝行を続ける林冲。そんな林冲に、
「ファン!出といで!」
「・・・。」
師匠の声が聞こえた。呼ばれてトボトボと滝から出てくる林冲。
「おやまぁ・・・旦那さんの言った通りだこと」
出てきた林冲は酷い面構えをしていたのであった。
「師匠、私は・・・」
「今はまず着替えなさい。滝行は心を鍛えるのには向いているけど、体に負担がかかると教えたろう?まずは温まりな」
ノロノロと体をふき、着替える林冲。その姿を見て、
「何と情けない・・・敵の戯言を聞いてそこまでなよなよするとは・・・豹子頭の林冲が聞いて呆れる」
「うう・・・」
辛い師の言葉に泣きそうになる林冲。しかし、
「まぁいいけどさ。あんたはあんたなりに悩んでこうしているんだろうし。話を聞いてやるからまずはシャキッとしな」
「うう・・・はい」
そうして時間をかけながらも林冲の口から出たのはやはり、楊志の言った言葉だった。
「私も、そんな感情を士郎に抱いていたら嫌だなって・・・」
「まったくもう・・・旦那さんの言う通りじゃないか。何やってんだい」
「士郎の・・・?」
ノロノロと顔を上げる林冲。
「林冲。あんたいい匂いがするから衛宮の旦那を好きになったのかい?」
「それは違う!士郎は・・・私の心の隙間を埋めてくれて・・・」
突けば出てくる出てくる士郎への想い。師匠は一体何を聞かされているんだと呆れたが、キッチリと最後まで聞いた。
その上で、
「落ち着いて聞くんだよファン?そんだけ想いが溢れているなら、匂いが好きなくらいなんだって言うんだい?」
「え?」
林冲はポカンとした。
「お前さんは衛宮士郎という存在をマルっとまとめて全部好きになったんだろう?そこに匂いが好きってことも含まれるんじゃないのかい?」
「それは・・・」
「それにね。前提として違う。青面獣のは女なら誰でもいいっていうのと林冲、あんたは旦那しか受け付けないって言う所さ」
「しかし師よ。私は・・・」
「めんどくさい奴だね!好いた男の匂いが好きなんて誰もが思う事だよ!」
「・・・。」
ドーン!と言い渡された真実に林冲は指をツンツンとつつき合わせ、
「そういうもの・・・でしょうか?」
「そういうものだよ。何も不思議なことじゃないから安心しな。それよりも青面獣のが異常だって気付きな。あんたのは好意からくるそれで、あの馬鹿は性癖からくるそれだよ!青面獣が男だったらと考えてみな」
「・・・気色悪いです・・・」
律儀に想像したのだろう青い顔で否定した。
「わかったね?それじゃあ帰るよ。旦那を心配させるんじゃないよ」
「師匠・・・ありがとうございます」
「借り一つだ。あんたもいい大人なんだからそう思いな」
「はい。師匠にいい人が出来た時には・・・」
「やかましいわ!」
ゴツン!と拳骨を落とされた林冲だが、表情は晴れ晴れと笑っていた。
――――interlude out――――
「はっ!」
一突きでこちらの命を刈り取る刺突を夫婦剣を持って弾く。逸らす。
(ついて行ける・・・!)
それまではあえて隙を晒すことで、そこに攻撃を誘導するという方法でしか迎撃に行けなかった士郎の剣が、呪いの朱槍を確実に捕らえていた。
「ふっ!はっ!」
弾く弾く!それまで一度として相手の陣地に踏み込めなかったそれを打倒する。
『――――
「!」
あれが来る。呪いの朱槍たらしめる因果逆転の鋭き一刺しが。
(間に合うか!?)
あの宝具は必ず心臓を捉えるという特性を持つが、槍であるという武器の関係上射程外に居れば成立しない。
引くか。そのまま行くか。
今の自分ならば心臓を一突きされても死なな――――
「士郎!!」
「!!!」
その声が聞こえた時、士郎は迷わず全力のバックステップを選んだ。
『
結果、気のブーストもありギリギリ射程外へと飛び出すことが出来た。
(・・・いや。慢心だな。あの男なら確実に届かせる)
今回も黒星か、と息を吐いて、
「林冲!」
「士郎!」
観客が居たのだがそれも気にせず彼女は士郎の腕の中に飛び込んだ。
「林冲・・・もう大丈夫か?」
「うん・・・師匠に激を貰ったよ。もう大丈夫」
そうか。と士郎は頷き林冲を降ろす。
「ひゅーひゅー!」
「もっとイチャイチャしててもいいんですよ!師・衛宮!」
「・・・なかなかにおませさんな子がいるようだな。いいだろう今の戦いに実物として立ってもらっても――――」
ひゃー!とワタワタ逃げていく修練生。そのくらい緊張感の凄いシャドウだったのだ。
観客たる彼女達にもはっきり見えていた。相手は槍使い。そしてあの衛宮士郎が、全力で相手をしなければいけないほどの腕前の持ち主。
自分程度が間に居たら一瞬で細切れにされること間違いなしの戦いだった。
「士郎はまたクー・フーリンと戦っていたのか?」
「わかってしまうか・・・何度も見せたからな」
ばつが悪そうに士郎は言った。
「・・・最後の局面、相手は宝具を使ってきたんだろう?」
「ああ・・・奴に追いつけた気がしたんだがな・・・」
士郎は何処か遠い目をした。
「林冲の声が無ければ玉砕覚悟の踏み込みをするところだった。ありがとう」
そういう士郎に林冲は士郎をぎゅっと抱きしめて、
「私も予感していた・・・士郎は無謀な一歩を踏み出そうとするのが・・・」
「林冲・・・」
「ダメだからな・・・私を、私達を置いて死ぬのは許さないからな・・・!」
「ああ。分かってるよ。林冲」
士郎も林冲を抱きしめて、己の行いを恥じた。
(無茶が利くようになったらすぐこれだ。俺自身、あの頃と変わっていないな)
これから、ゆっくりとでも変えていかなければならない。士郎の心にはまだまだ、課題が残されているのだった。
「林冲、悩みは晴れたか?」
「うっ・・・」
ギクリとする林冲に士郎はまた心配な顔をして、
「まだ・・・気になるのか?」
「ううん・・・師匠に諭してもらったから大丈夫。ただ・・・」
林冲はこつんと士郎の胸に頭をくっつけて、
「私なんかがそんな気持ちになっていいのかと・・・きゃっ!?」
最後まで言わせず士郎はお姫様抱っこで抱き上げた。
「そんなこと俺はいつも思ってるよ。こんな俺に、林冲みたいな素敵な女性が釣り合うのかってさ」
「素敵だなんて・・・そんな・・・」
ボン!と顔を真っ赤にして俯く。
「さ、時間も時間だし夕飯の準備をしよう。今日はジビエ肉の残りがあるからな、悪くなる前に食べよう」
「うん・・・でも、もう少しだけこうしてたい・・・」
「わかった。でもあと少しだぞ」
よくよく見れば士郎の耳も赤くなっていた。
――――interlude――――
日も暮れあたりが暗くなったころ。青面獣こと楊志と入雲龍こと公孫勝が怪しげな会話をしていた。
「手はずは?」
「バッチリ仕掛けておいたよ。でも・・・本当に何とか出来るのかねぇ」
「私は天才、公孫勝様だぞ!あんな男の一人や二人どうってことない!」
「でもあの人、努力で才能を越えてくる化け物だと思うけどなぁ・・・」
楊志は負け続けながらも、衛宮士郎という男を分析していた。
その結果、なんだか酷い目に遭う気がする青面獣。
「あいつは笑ったんだ。天才のこの私を!憑依すれば青面獣も林冲のパンツかげるっしょ?」
「まぁね。それもあって協力したんだし。でもなんだか嫌な予感がする」
この背筋を凍らせる予感は何だ?それが何かわからないまま青面獣は計画・・・衛宮士郎乗っ取ろう計画に手を貸してしまった。
「なに。私が失敗するとでも?」
「うーん・・・」
入雲龍は本物の天才だ。掛け値なしの超一流。そんな彼女が失敗するとは思えない
「丁度頃合いだろう・・・始めるぞ」
ヒッヒッヒ、とまるで黒魔法使いの女のような笑い声をあげて術の起動に入る入雲龍。
「やっぱりやめ――――」
ようと言おうとした瞬間だった。
「ぎゃああああ!!!」
大きな悲鳴が上がったのは。
――――interlude out――――
時間は少し巻き戻る。
ある仕掛けが施されていると知らぬまま林冲と士郎は寝床で眠りにつこうとしていたところだった。
「明日には帰らないとな」
「うん。なんだか色々なことがあったように思う・・・」
林冲は顔を赤くして枕を抱きしめた。
「あはは・・・主に林冲が大変だったなぁ」
「し、士郎!」
ポカポカと叩いてくる林冲に士郎は笑って、
「さ、今日はもう寝よう。明日も最後まで色々あるんだろうから」
「うんじゃあ・・・」
ゴソゴソと布団に入り二人は眠りに入った。
その時だった。
――――チリッ
「誰だ」
士郎は静かに目を覚ました。
「うん・・・士郎・・・?」
油断なく闇を見据える士郎に、林冲も何事かと目を覚ました。
その瞬間、
『ぎゃああああ!!!』
里中に悲鳴が響いた。
「なんだ!?」
「・・・。」
士郎は外出する際、身に付けるようにしているアミュレットの一つが起動していることに気付く。
「林冲。梁山泊に呪術師のような存在はいるか?」
「呪術師・・・いや。だが・・・あ!」
林冲は思い当たる節があるのか声を上げた。
「心当たりがあるんだな」
「う、うん。宴の時の入雲龍・・・公孫勝が『憑依』の使い手で・・・まさか」
「ああ。俺にしかけようとしたんだろう」
嘆息を漏らす士郎と呆然とする林冲の元に、
『林冲!衛宮!』
ドンドン、と戸を叩く音が聞こえた。
「武松だ!」
『頼む!開けてくれ!』
林冲が戸を開けると武松が飛び込んできた。
その慌てように林冲が驚く。
「ぶ、武松!?」
「話は青面獣から聞き出した!衛宮、術を止めてくれ!」
「・・・馬鹿者が」
状況を把握した士郎が舌打ちする。
「いくぞ、林冲。武松、案内してくれ。この騒動のたわけ者の所にな」
「「わかった!」」
という事で、林冲の家を飛び出し、もう一件のある家に足を運んだ。
『ううううう!!!あああああ!!!』
「ここだ!入雲龍!」
武松の叫びも中の公孫勝の悲鳴にかき消される。
「これは!?士郎!?」
――――
士郎の手にとても刃物とは使えないような、ギザギザの刀身の短剣が現れる。
「なにをする気だ!?」
「しっかり抑えておけ。刃物だが、当てるだけで効果を発揮する」
士郎は淡々と告げた。
「わ、わかった!武松!青面獣!」
「分かった!」
「了解」
短剣で怪我をしてしまわないように、小さな体を三人で抑えつける。
「うああああああ!!!」
「頼む!士郎!」
――――
キン!
「う・・・あ・・・」
短剣がそっと当てられた瞬間、万力の如く暴れていた公孫勝はクタリと力を失った。
「入雲龍!!」
「士郎、すまない・・・」
「ごめんなさい・・・」
事態がようやく読めた林冲と青面獣が謝る。武松は公孫勝の方を向いているが・・・
「で、何があった?」
長老らしき人物が問いただすと士郎が不機嫌そうに言った。
「どこかのたわけが私に術をかけようとした。確か、憑依だったな?それに私のアミュレットが反応し、呪い返しをしたのだ」
「なぜ、公孫勝は衛宮殿に術を?」
フルフルと長老の肩が震え、鬼のような形相が首をもたげる。
「本人は仕返しと・・・」
事態の究明に動いた里の者が返すと、ダン!!!と机が叩かれた。
「子供の癇癪ごときで術をかけようとし、あまつさえ自分が呪に苦しもうとは!!恥を知れ!!」
「・・・。」
長老の怒声に涙を浮かべて黙る公孫勝。
「よりにもよって客人たる衛宮殿に術をかけようとは何たることか!」
「公孫勝には罰が必要であろうな・・・」
口々に批難する声が続く。
「長老。子供のしたことですから・・・」
と、武松が言うが、
「黙れ!衛宮殿が呪を解いてくださらなければ、今頃命は無かったであろう!」
「・・・。」
「それも己に慢心し傲岸不遜な言動から来たものなれば・・・我々の監督不届き故、やはり罰は必要」
「うむ。公孫勝にはしばらく謹慎を定めるものとする」
あちゃーと史進が頭を抱えた。
「それと青面獣。この一件、お主も一枚噛んでおるな?」
「面目次第も・・・」
「この・・・!!!」
ピシャアン!と青面獣にも長老の雷が落とされる。青面獣にも罰が言い渡され、長老は士郎に向かって頭を下げた。
「此度の件、誠に申し訳なかった。各々に罰を課した故これにて手打ちとさせていただきたい」
「・・・構わないが、よく言い聞かせておいてもらいたい。天才などと持ち上げるからこうなるのだ」
「面目ない・・・」
長老たちは終始士郎に謝り、この件は二人への罰という事で片が付いた。
「すまなかったね。でもこれで入雲龍と青面獣も大人しくしているだろうさ」
「まったくですよ。俺に呪を放つなんて・・・」
今回のは魔術の領域だ。普段から礼装やアミュレットで身を固めている士郎に死角はない。
「それにしても驚いた。まさか入雲龍が士郎に憑依しようとしていたなんて・・・」
「癇癪を起したんだろう?入雲龍はガキだからねぇ・・・」
「師匠、二人は・・・」
「あれでも星を頂いてるからねぇ・・・いつもよりきつーい罰になるんじゃないかな」
「謹慎と言っていましたが・・・」
士郎は不安げに言った。
「気持ちは分かるけど、
「謹慎は重罪と思っていい。生活が脅かされるからな」
「なるほど・・・まぁ、本人達が多少なりとも反省できたのならいいですけど」
「今後に期待だね。それじゃ私も帰るよ。床の隠し陣、消しておくんだよ」
「はい。ありがとうございました」
林冲と士郎も、頭を下げて林冲の家へと戻って行った。
――――翌日
「じゃあなリン。また来てくれよ」
「ああ。故郷には変わりないからな」
空港で別れを惜しんでいた。
「武松も元気でな」
「うん・・・衛宮、改めて入雲龍のこと、すまなかった」
武松は一層引きこもってしまった公孫勝を心配して元気が無い。
しかし、士郎としてはえらい目に遭いかけたので追求はしなかった。
「済んだことだし罰も下された。武松が気にすることは無いと思う。こちらに来ることがあれば寄ってくれ。武松と史進なら歓迎するぞ」
言外に青面獣は許さないという士郎。
それに苦笑をこぼす史進。だが、最後は笑顔で送り出してくれた。
「元気でなー!」
「ああ!・・・行こう、士郎」
「そうだな」
――――そうして短い林冲の帰省は終わった。まだまだ彼女達との縁は紡がれるがそれはまた別の話・・・
はい。いかがだったでしょうか。武闘シーンもそこそこに、青面獣の匂いフェチが飛び火する回でした。
作者的にも困ってます。青面獣の性癖(笑)だって士郎の家、嫁で一杯ですもの。青面獣が来日したりしたら大変なことになります。入雲龍もねー…強化されてないんで恐れることも無し、かな。まだまだ今後に期待という事で。
毎度遅くなりすみません。不定期更新となっていますが、精一杯書いてます。まだまだうちの士郎の物語は続くのでよろしくお願いします!