真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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新年あけましておめでとうございます!活動報告でも色々書きましたが今年はもっと小説を書いていけたらな、と思っています。

先駆けましては高級旅館から帰ってきて数日の所から話が始まります。

では!


真夏に吹き荒ぶ風

「すうぅ・・・」

 

深く。深く息を吸う。

 

己の内に猛る力を目一杯感じるために。

 

「はあぁぁ・・・」

 

この身に宿ったのは星をも抱く莫大な闘気。

 

魔力と魔術だけで戦っていた時とは違う。圧倒的な、何者も寄せ付けない絶対的な力。

 

「うん。いい感じね。私も気ってやつのことわかってきた気がする」

 

「姉さん、五大元素使い(アベレージ・ワン)なのにまだ強くなるんですか?」

 

「元々八極を学んでたし、気に関しては知識として知ってたからね。・・・それでも、あんな馬鹿気たものとは比べ物にならないけど」

 

朝の鍛錬中、もはや別人ともとれる力を身につけた士郎をみる。

 

「・・・。」

 

士郎はここ最近ずっとセイバーと稽古をしている。以前ならば、一蹴されそれでも尚立ち向かっていく姿が見られたが、

 

「フッ!!!」

 

「!!!」

 

ガン!と士郎の握った竹刀が中ほどで止められる。そこからは、

 

「はあああ!!!」

 

「おおおお!!!」

 

目にも映らぬ高速戦闘だ。

 

気で身体強化できるようになった士郎はもはや、全力状態のセイバーにすら匹敵する力を身につけていた。

 

セイバーも受肉したのもあり、互いの本来の得物では死闘になると判断されたため二人が戦う場合には、竹刀を使うことになっていた。

 

「もう完全に英霊ね。いえ、気っていう要素を追加された分、英霊としての格も上がってるかも。世界と契約したわけでもないし」

 

「先輩、強くなりました。元から鍛錬を怠らなかったから強くはありましたけど・・・」

 

「あの状態の士郎についていけるのは武神かセイバー、奥義を発動したマルギッテくらいかもしれない」

 

「百代殿は確かに強いですが・・・まだまだ力の扱いが未熟。故に、私かセイバー殿くらいでしょうな」

 

レオニダスも顎に指をあてて、うんうんと頷いている。

 

「レオニダス。何故、軽鎧に兜とパンツ一丁なのだ」

 

「おお、これは史文恭殿。私もマスターの勇猛ぶりに触発されてしまいましてな」

 

「・・・レオニダスの時代はちゃんとした鎧とか無かったのか・・・?」

 

林冲も、?を頭に浮かべてほとんどむき出しの鍛え上げられた肉体を見る。

 

「折角全盛期まで戻ったのに士郎には敵わないな・・・」

 

「天衣、本当に速いわよね」

 

「ランサー、朱槍のランサーと比べてどう?」

 

縁側に座っていた小柄な姿に問うと、

 

「天衣は私が戦った時と同じくらいでしょうか。ただ、何かブレーキのようなものをかけていたように思えるので、今の士郎やセイバーくらいがあの槍兵の本来のスピードではないでしょうか?」

 

ぶらぶらと足を揺らして戦闘を見守るランサーはそう答えた。

 

「・・・ランサー、なんか気分よさげね」

 

「な、なんのことでしょう」

 

「ランサーってばライダーの時と違ってなんだか楽しそう」

 

「・・・。」

 

ランサーは言えなかった。高い身長を気にしていた自分が、無縁だと思っていた『可愛い』姿に非常に満足していることを。

 

「書斎がありますからね」

 

「「絶対違うと思う」」

 

見事にハモる姉妹に慌てるランサーに、ライダーの時の姿を知らない一同は、?と首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 

「シロウ。おかわりをお願いします」

 

「はいよ」

 

差し出されたお椀に大盛で盛り付ける士郎。

 

「ご馳走様でした。では、私は任務に出向きますので留守の間お嬢様を頼みます」

 

「任された。と言っても大和がいるからそんなに心配しなくてもいいんじゃないか?」

 

相変わらずの過保護さに士郎も溜息を吐く。

 

「それとこれとは別です。直江大和は中々の戦術家ですが、後手に回りやすい。それではお嬢様をお守りできるとは言い切れません」

 

「日本人なんだから後手に回りやすいのは特有のことだと思うんだけどな・・・まぁわかった。マルの心配がないように俺も努力するよ」

 

「助かります」

 

「リザさんや他のみんなにもよろしく伝えてくれ」

 

「わかりました。それでは」

 

そう言って彼女はあらかじめ準備していたのであろうキャリーケース一つを持って衛宮邸を後にした。

 

「マルギッテさん、忙しそうですね」

 

「ドイツ軍も任務に発破がかかってるそうだからな。何事もなきゃいいんだが・・・」

 

セイバーのごはんを盛りつけながら士郎も悩んでいるようだ。

 

「そういえば、猟犬部隊のペンダントは完成したのか?」

 

パクパクと食べていた史文恭が言う。

 

「ああ。マルにみんなの分預けてる。あとは・・・」

 

「当然、部隊長だけじゃないんでしょ?」

 

凛が溜息を吐いて言った。

 

「一般兵からエリート兵まで、今回のをテストケースに作成する予定だ」

 

「士郎・・・流石に仕事を抱え込みすぎじゃないのか?」

 

梁山泊、曹一族、九鬼に卸している士郎としてはもう、目一杯だろう。

 

だが、

 

「大丈夫。そっちの作成には凛にも手伝ってもらうから」

 

「凛ちゃんが?」

 

「姉さんはこれでも先輩の師匠なんです。上手くできますよ」

 

「これでもってなによ。これでもって。魔術礼装にもならないアミュレットで一財産稼げるならやらせてもらいますとも」

 

「という名の、凜の小遣い稼ぎなわけだ」

 

種明かしとばかりに士郎は言うのだった。

 

「確か凛は宝石が必需品かつ消耗品だったな。オニュクス王国が流してくれているとは言え、自分でも備えないとな」

 

「・・・そうだけど。なんか据わりが悪いわね」

 

宝石魔術を使うことがばれているからだろう。苦虫を嚙み潰したような顔をする凛だった。

 

 

 

 

 

カン!カン!

 

今日は日曜日。学園が休みなのもあって、士郎は依頼の品々を手掛けていた。

 

「ねぇ士郎」

 

「なんだ?」

 

カン!と槌を振るいながら返事をする。

 

「猟犬部隊に回すアミュレットの型なんだけど・・・攻撃型で合ってたわよね?」

 

「ああ・・・やっぱり凛にはバレちまうか」

 

凜が言っているのは、一部無断で改造していたことだろう。

 

「あのねぇ、こんな手の込んだ術式組んだら元取れないでしょうが」

 

「・・・俺はもう家族の味方だって決めたから。もし危機に陥っても助けられないかもしれない。そのためだよ」

 

「もう、だからって何でもかんでもこんな苦労を背負ってたらいつかパンクするわよ。そういう気持ちがあるなら、等価交換くらいちゃんとしなさい」

 

腕を組んで怒る凛に士郎は苦笑して、

 

「今回のは頼むよ」

 

「・・・今回だけよ」

 

ふん!とそっぽを向いて型の調整に入る凛。

 

彼女が調整しているのは、今回猟犬部隊に配る予定のアミュレットだ。厳しい選抜を潜り抜けたエリート部隊とはいえ、大量生産しなければいけないのは確実なので、事前に型を作りその型から作り出す方式にしていた。

 

型には小さな宝石を埋め込むことになっており一般のアミュレットとしては比較的高額の部類になるが、それでも兵士の生存性が上がるならとフランク・フリードリヒは決断したのだ。

 

「まぁこの仕事が軌道に乗れば私も助かるし。多少は手伝ってやるか」

 

というのは凜の零した一言だ。

 

とはいえ、凜も安くはないものを消耗するので結果的に渡りに船だったのだが。

 

型を取った後、一人一人隊員の名前を記して専用礼装化するのが凛の仕事だ。

 

完全受注生産なので、時々繁忙期が来る仕事となりそうだ。

 

「士郎」

 

「ん? クッキー?」

 

クッキー4となった彼女(?)は天衣と連携して史文恭の様子を見ながら衛宮邸の掃除や洗濯をしてくれている。

 

「あずみが来ました。例の件について調べが付いたそうです」

 

「もう突き止めてきたのか・・・わかった。汗を流して行くからお茶でも出して待ってもらってくれ」

 

「了解」

 

士郎はそう言って炉の火を落とした。

 

その姿を見てまたクッキーは首を傾げ、

 

「どうしたの?」

 

「凛」

 

クッキーは前々から気になっていたことを凜に話した。

 

「お待たせ」

 

「おう。お疲れさん」

 

ずず・・・とお茶を啜ってあずみは返事をした。

 

「出所、わかったんだって?」

 

「ああ。お前が危惧した通り、バラまいてる容疑があるやつがいた」

 

「容疑?・・・ああ、オカルトの話だからな。直接罪には問えないか」

 

協会と時計塔が無いせいか、やはり野放しになっているようだ。

 

「『南雲ヒルコ』。一部では卑弥呼の子孫だなんて言われてるやつだ」

 

「卑弥呼の子孫?これまたキナ臭い人物が持ち上がってきたな」

 

かつて、日本という名が無かった時代。この大陸が『倭国』と呼ばれていた時代。強力な巫女としての力を持っていたとされるが、真相は未だに分からず終いの謎の多い人物だ。

 

「それでそのヒルコ、という人物がなんで出てきたんだ?」

 

「それがな? コイツもうっさんくせえ女でよ。最初は手作りの缶バッヂに祈りを込めて渡したらそいつの運気が上がったとか言ってやがんだよ。しかも実例付でだ」

 

なんでも缶バッヂを受け取った子供がいる所には、急に実入りがよくなったとか、宝くじが当選したとか、重い病だった両親が突然快癒したとか、なんとも眉唾な話が持ち上がっているのだった。

 

「ヒルコは自分に祈りの力があると信じてるらしい。ま、実例があるからなんとも言えないがな」

 

「その人物が今も缶バッヂを?」

 

「ああ。高値で裏取引されてるって話だ。ただまぁ、高値で裏取引されてるとはいえ、たかが缶バッヂ。買う奴は藁にもすがる気持ちで買うようなやつばっかだ」

 

「裏取引されてるのか・・・そうなると、その南雲って人を止めないとどうにもならないな・・・いや、まて」

 

違和感。何故か今の話には違和感があった。

 

「・・・そうだ。そもそも、その南雲って人は、相手が不幸になるような(・・・・・・・・)祈りをささげてたのか?」

 

「そいつぁ・・・」

 

あずみも黙ってしまった。

 

だが実際問題で回っているのは付けた人物を不定の狂気や、異常な執着を誘発するものばかり。

 

あまりに度が過ぎているため、今回あずみ達九鬼の調べですぐに判明したのだが・・・

 

そこに至って二人は、一つの懸念を思いつくことになった。

 

「まさか・・・」

 

「南雲の祈りを悪用してる奴がいる・・・?」

 

謎の黒幕の存在だ。

 

「調べた限り南雲は至って善良な市民だ。となりゃ、強請(ゆすり)か脅迫か・・・なんにしても、いい方向には考えられねぇな」

 

「被害が拡大する可能性もあるな」

 

事態の深刻さ加減に二人とも思考の海に埋没した。

 

そんな折、

 

「士郎!」

 

「ん? 凛?」

 

慌てた様子で凜とクッキーがやってきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「この子が・・・」

 

そう言って彼女が視線を飛ばしたのは、クッキーだった。

 

「クッキー、どうかしたのか?」

 

「はい。実は――――」

 

よくよく聞くと、彼女は恐るべき真実を明らかにした。

 

 

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

 

「今週中に後100個だ。今度は間に合わせろよ」

 

「・・・。」

 

ガラの悪い黒服の男はそう言って出て行った。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「大丈夫よ・・・」

 

本当はこんなことしたくない。こんなことに神様から頂いた大切なものを使いたくない。

 

でも――――

 

「大丈夫・・・」

 

嗚呼、神様。私に力を分け与えてくれた尊き方。今日もわが身の卑しさに力を悪用することをお許し下さい。

 

「――――」

 

そして願わくばこの身に鉄槌を―――――

 

 

――――interlude out――――

 

 

「カカカ・・・これで大金を・・・」

 

醜い笑いを上げるチンピラ。彼らがやるのは『祈り』の力とかいう眉唾物の商品の取引だ。

 

ボスがその商品にどうやって行きついたのかは知らないが、効果は抜群。裏市場を使って高額で売買される奇跡。

 

当然、組織にうま味が来るように調整された商品は今日も、藁にもすがる奴らに伝播していく。

 

「このままいけば俺らは――――」

 

もっと美味いものにありつける。いずれは裏世界のトップにだって――――

 

「貴方方の下種な考えが通るほど、世の中甘くありませんよ?」

 

「カ――――!?」

 

パシャ!と暗がりに鋭い光が差し込む。

 

「メイド?」

 

「おいおいオネーちゃんこんなところに・・・」

 

ザク!

 

「ザク?」

 

いやらしい顔をしたチンピラの目がきょとんと不思議な音がした自分の腕を見る。

 

「お、おい!腕が!」

 

「う、うわあああああ!!?」

 

右腕にはクナイが突き刺さっていた。男は無様にゴロゴロと転がる。

 

「敵襲! 敵襲だ!」

 

「一体どこのシマのもんだ!ここは――――」

 

ザシュ!と音がしてまた悲鳴が満ちる。

 

「知っていますよ。ここがどんな場所か。苦しい程に。故に――――」

 

バキ!ゴキリ!

 

「力がすべてなのも承知の上です」

 

「覚悟しな! ドブネズミども!! 綺麗に隅々まで掃除してやるぜ!」

 

映えるのは金髪と黒髪。片方は暗器を片方は両手に銃(ゴム弾)を手に暗い掃きだめに突撃する。

 

「またメイド!?」

 

「敵だ! 野郎ども、あつま」

 

――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

ドン!と屋敷の一部が突如爆発する。

 

「しまった! 奴らの狙いは『商品』だ!」

 

敵はようやっと彼女らの狙いに気づく。だが遅い。すでに侵入まで許したので首が物理的に飛ぶのも時間の問題だ。

 

「ええい! やれ! ここまでされてタダで返すな!」

 

うおおおお!!!と屋敷から後ろ暗い者たちが一斉に武器を手に出てくる。

 

「ステイシー。弾詰まりはしていませんね?」

 

「はっ! 李こそ! 得物を忘れてきてねぇだろうな!?」

 

ダダダダダダダ!!!

 

銃が乱射されその合間を縫うように李が突撃する。

 

「こんな雑魚、得物などなくても」

 

グキリ!

 

「この通り」

 

泡を吹いて倒れる敵に、はぁ、とため息を吐いて。

 

「お姫様・・・っつー割には歳食ってるけど。あっちは?」

 

「問題が起きるわけがないでしょう。一騎当千の旦那様がいるのですよ? すぐに・・・」

 

グワー!と屋敷の壁をぶち抜いて複数人が吹き飛ばされて来る。

 

「へん。あっちは箒か。こりゃ溜まってそうだな」

 

「ええ。一人も逃がしませんよ?」

 

「ったりめぇよ! オラァ! いくぜ!」

 

表ではそんな会話がされている。

 

「忍足流、剣舞五連!」

 

素早い剣筋が五人を昏倒させる。

 

「――――投影、開始(トレース・オン)

 

幻が二振りの刃となり敵を襲う。

 

今回の襲撃は、南雲ヒルコを悪用する者たちの粛清に、士郎と九鬼が動いたのだった。

 

「雑魚ばっかだな。そろそろ幹部クラスが来てもおかしくねぇはずだが・・・」

 

「そちらは先に無効化しておいた。すべて男だったのでな。楽な仕事だった」

 

「・・・。」

 

ドン!ドガン!とまるでカンフー映画のように敵を夫婦剣で撃退し、鋭い蹴りで吹き飛ばす。

 

あずみも存分に剣を振るっているが・・・

 

「夫婦喧嘩はしたくねぇなぁ・・・」

 

「なにか言ったかね?」

 

「何も! それよりブツは確実に吹き飛ばしただろうな!」

 

「問題ない。こいつらを捕まえるための証拠だけは残してある」

 

こいつらの『商品』は南雲の缶バッヂだけではない。悪党は悪党らしく、世に出せない商品も扱っていた。

 

「警察が大喜びするだろうぜ。長年追ってきたシンジケートを潰せるってなぁ」

 

「・・・。」

 

ニヤリとするあずみだが、士郎は無言で黙ってしまった。

 

「おい。また下らねぇこと考えてんじゃねぇだろうな」

 

「下らない・・・か。確かに下らないことだな。過ぎ去った妄念を捨てきれずにいる。・・・なに仕事はする。多少は見逃して――――」

 

「ん・・・」

 

「・・・あずみ」

 

戦闘のさなか重ねられた唇に士郎は目を丸くした。

 

「お前はもうあたいのもんだ。お前の苦しみも、憧れたものも、全部ひっくるめてだ。お前は正しいよ。あたいなんかちっぽけに思えちまうほどにな」

 

ガン!とまた一人蹴り飛ばし楽し気に彼女は笑う。

 

「揚羽様との正妻闘争。あたいも参加しようかな」

 

「は?」

 

士郎はぽかんと口を開けて固まった。

 

「あたいほど適任者もいないと思うぜぇ? 他の嫁たちの管理もできるし、」

 

「やったわね! ・・・ギャー!」

 

「この通り女にも容赦しねぇしー」

 

ドカン!バコン!と持ち前の身体能力で戦場を圧倒するあずみ。

 

「こうして旦那のケアもできる。こんなにできた女はいねぇ」

 

クックック、と笑うあずみに士郎もクッと笑い、

 

「大した自信だな」

 

「そりゃお前、愛する旦那の前だ! 見栄張らねぇと!」

 

多重分身してゴロツキ達を蹴散らす。

 

あずみの目は語っていた。昔の自分も、今の自分も受け入れると。そこに沸く感情を否定しないと。その上で彼女の瞳は言うのだ。自分を選んだ以上もうあきらめろ、と。

 

「・・・そうだな。そうだった」

 

四方から向かってくる敵を一撃のもとに下す。

 

「ありがとう。あずみ」

 

「へん! これからいくらでも言ってやらぁ」

 

その後、潜入した二人に追いついたステイシーと李も相まって、あっけなく中華最大のシンジケートの一つが陥落した。

 

 

 

 

 

 

「・・・。」

 

今日も今日とて望まぬ願いを込める南雲ヒルコ。そんな彼女の元に、

 

「南雲、ヒルコさんかな?」

 

「・・・はい」

 

ついに裁きの時が、同時に救いの時が訪れたと、穏やかに返事をするヒルコ。

 

「君の商品は跡形もなく消し炭にさせてもらった。今後、君を悪用する者は現れない」

 

「・・・ッ私はどうなっても構いません。ですが弟達だけは――――」

 

そう懇願するヒルコに士郎は困ったように、

 

「参ったな。これじゃ悪役みたいだ」

 

「ははは! 正義の味方が悪役たぁ笑いぐせだ!」

 

ゲラゲラと笑うあずみになんとも言えない念を送って。

 

「あの――――」

 

「大丈夫。君の声は霊脈を伝って聞こえていたよ」

 

「え?」

 

意味の分からない単語にぽかんとするヒルコそしてツーっと涙を流して、

 

「貴方は神の使い・・・なのですか?」

 

「ぷは! こんな自分勝手な神様がいてたまるかってんだ!」

 

未だ尚ゲラゲラと笑うあずみに苦笑して、なんと声を掛けたらいいかと困っていると、

 

「レッドのお兄ちゃん・・・?」

 

「え?」

 

「レッドのお兄ちゃんだ!」

 

「お姉ちゃんを助けに来てくれたんだ!」

 

わらわらと部屋の奥から子供たちが集まってくる。

 

「こ、こんなに子供がいたのか!」

 

「はは! 見せ場だぜ? 正義の味方」

 

わたわたとする士郎にニヤニヤとしたあずみ。

 

「こ、こら、あなた達! 御使い様に何てことを・・・!」

 

「ま、待ってくれ。俺は御使いでも神の使いでもない。俺はただの――――」

 

「正義の味方、だろ?」

 

そうあずみが愉快気に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。南雲ヒルコとその兄妹達は九鬼に引き取られ、その庇護下でこれからを過ごしていくことになった。

 

ヒルコは今度こそ、奇跡を呼ぶ巫女として今、凛の下で修業中である。

 

「しっかしクッキーが霊脈から声を拾うとはなー」

 

「俺も驚いてるよ。星の声なんてものが実在してなおかつ聞くことができるなんて」

 

そう。今回迅速に動けたのは、クッキーが原因だった。

 

あの日、クッキーは霊脈と繋がっている炉から助けを呼ぶ声が聞こえると、凛に話した。

 

彼女は窮地を救った士郎を神の御使いと勘違いしたが、南雲ヒルコこそ、この地球に選ばれた御使いであったのだ。

 

ガイアの力の一部ともとれる力の行使ができる代わりに、この地球は決して彼女のことを見捨てなかった。

 

彼女の嘆きを、慟哭をしっかりと受け取って発信していたのだった。

 

「ヒルコみたいな奴はたくさんいるもんなのか?」

 

「わからない。でも神話なんかにも出てくるだろ?神の意志を受けた人物が出てくることが」

 

イエスキリストなんかが代表例だろう。こちらは少し違うが、万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチもそうとることができるかもしれない。

 

ともかく、神秘の薄いこの世界にも、星の意思があることが判明した。

 

「これからも注意深くするべきだろうな」

 

「ああ。南雲みたいな現地神は必ずいるだろうしな・・・欲を言いやあ、そういった人間を仲間に引き入れられればさらに飛躍できるかもしれねぇ」

 

「おいおい・・・」

 

身もふたもないことを言うあずみに士郎は頭を抱える。

 

「悪用するなよ?」

 

「あたりめぇだろ。ほんのすこーし、ご利益にあやかろうってだけだ」

 

「・・・。」

 

本当に少しなんだろうな、と半目になる士郎。しかし、こうして特殊能力を身に着けた人間は大なり小なり人付き合いを考えなければならないだろう。

 

士郎自身がそうであるように。

 

「九鬼の技術に御使い様がいりゃあ、いつ産んでも大丈夫だな」

 

「あ、あずみ・・・」

 

「揚羽様と史文恭も順調なんだろ?なら次はあたいだ」

 

なんとも子作り意欲の高いあずみ。なぜなのか聞いてみると、

 

「あん? そりゃあお前気になるじゃねぇか。あたいとどうしようもない正義バカの子がどんな子か」

 

それに、とあずみはつづけた。

 

「愛情の証はいくらあってもいいだろ?」

 

顔を赤らめてそんな風に言うのだった。




はい。今回はここまでです。もうちょっと濃厚なバトル書きたいなぁなんて思うんですが。士郎が強くなりすぎてなかなか難しくなってしまいました。

珍しく次回予告。今度はあの人が士郎を頼ります。それがなぜなのかは…次回明かされるでしょう。では!
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