真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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見てくださっている皆さん本当にありがとうございます!お気に入り数や、しおり、評価などなど・・・怖くて見れなかったのですが拝見した所、飛び上がりました(ガチ)こんなにたくさんの方に見ていただけて本当に感謝感激です。

今回は百代のお話です。初戦を経て彼女が何を思ったのか。そして士郎はどう答えるのか、見届けていただけたら嬉しいです。


幕間:川神百代

ガンガンガン!本来、彼女であればもっと軽やかに、それこそ跳躍一つで最上階に上がれるはずなのに彼女・・・川神百代は柄にもなく階段を踏み鳴らし、駆けあがっていた。

 

(なんなんだよ・・・!なんなんだよ!!!)

 

彼女自身でもわからない感情に苛立ちが積もっていく。よく考えてみればそう・・・初めて衛宮士郎と対面した時からだった。この妙な感情がこみ上げるようになったのは。

 

 

――――最初は、こいつも大したことない奴だな、そう思っていた。

 

感じる気の量はほんの僅かで、見た目以上に随分鍛え上げられている体。そして何よりあの目。鋭い鷹のような、はるか遠くを見通しているかのような眼。

 

実にアンバランス。確かに鍛え上げられているが、私に挑んでくる武道家も彼よりも何倍も筋肉を隆起させる武芸者も数多く見てきた。だがあの眼だけは―――ここではないどこか遠くを見据えるあの眼がなんだか悲しい眼をする奴だなと思ったのだ。

 

(まぁでも、またかな)

 

また同じ。男で私を超えるものなどいない。そう諦めも混じった気持ちで妹の新同級生を迎えた。

 

『おいジジイ、衛宮と組手させろ』

 

ただ、一際私の感情を揺さぶった眼を持つ奴だ。それなりに楽しめるかなと早々に相対することにした。

 

――――私は、飢えている。

 

自分でも自覚しているし他人もそう思っているだろう(身をもって)。私は強い。この地球上のどんなものよりも。それ故に、私は孤独(一人)だった。もちろん仲間と遊ぶのは楽しいし、弟や可愛い子を侍らし、遊ぶのも楽しい。

 

でも――――

 

やっぱり私は戦うことが好きで。根っからの武人なのだ。いくら他で補っても、誤魔化しても、やっぱり満たされない。

 

『始めッ!』

 

一撃で終わらすのは惜しい。コイツくらいなら数合は持つかな?と当りをつけて撃った一撃は。あっけなく受け止められた。

 

ほう。と。一秒に満たない間私は感動する。いくら手を抜いたとはいえ並の武人なら一撃で場外へと飛んでいくであろうそれをコイツは受け止めたのだ。

 

『・・・。』

 

そして間髪入れず打ち出した振り向きざまの裏拳。これもまたあっさり防がれた。まだやるか!と改めて自分に歓喜が溢れる。しかし次の瞬間合ったその眼は――――

 

やっぱりどこか遠くを見ていて。あろうことか、この私を前にしてよそを見るようなことをする奴は初めてだった。

 

『っは!お前本当に面白いな!』

 

言葉とは裏腹に、その一向にこちらを見ようとしない眼に怒りを覚えた。

 

そこからのことは実はあんまり覚えていない。何度拳を撃ったとか、それをどれだけ防がれたとか、そんなものはこの戦いへの歓喜と、いつまで経ってもこちらを見ようとしない眼に怒りに塗りつぶされていて。

 

だが一つだけ分かったことがあった。何度か打ち合っている間にいつの間にか衛宮士郎は舞台端に立っていたのだ。

 

(・・・なんだ。これで終わりか)

 

また同じ。コイツは吹き飛ばされてまたジジイ辺りに説教食らって終わりだろう。それはまたつまらない毎日に戻ることを意味していた。

 

『ああ。楽しかった。私と打ち合えたのは揚羽さんを除けばお前が初めてだ。もっと続けたい。けど・・・お前、もう限界だろう?』

 

既に衛宮士郎に退路はない。どんなにうまく次の一撃を防いでもコースアウト。それに徐々にだが、私の一撃を防ぐその手から緩やかに力が失われていくのが感じられたのだ。

 

『本当に楽しかった。またやろうな―――!』

 

いつまでもこちらを見ない眼に怒りはあったがこの戦いに感謝を。短くとも私に一番楽しい一時を与えてくれたことに礼を尽くして。

 

――――川神流・無双正拳突き。

 

私の得意技。それは真っ当な正拳突きだが、川神院で奥義として記録されるそれだ。

 

『いかん!モモ―――!』

 

刹那、ジジイの声が聞こえてはっとした。何も奥義なんか出さずとも通常の一撃で事はついたはず。それに、何時しか、力加減を間違えていたそれは衛宮士郎のもつ妹の薙刀を粉砕してその腹に風穴を開ける。

 

(まずッ・・・・!)

 

気づくのは早かった。流石ジジイ。よく私のことを見ている。だがもう遅い。拳が届く至近距離で、いかに先代・武神のジジイとはいえ間に合わない。

 

そして私がどうこうするのももはや無理。足は地を踏み鳴らし、そこから受け取った力と気が融合し、拳は既に放たれた。

 

ここで私は武道家としての禁を初めて破るのか、と無感動に思った。一秒後の死。相手の命を奪い、この手が血に濡れる姿を幻視して

 

 

 

――――初めて。衛宮士郎と目が合った。

 

 

初めて合った眼はもはや鷹のそれ。死が目前に迫っているというのにそこに恐れはなく、恐怖はなく、それどころか未だ敗北を認めていない。

 

その眼にゾクリとしたものを見た。あり得ない幻想を見た。この間合いで、力が一番伝わる絶好のタイミングで。私は、衛宮士郎に己のそっ首を落とされる姿をみた。

 

『―――川神流』

 

そうして予想は的中する。あの動き。あの体捌き。あれは妹の得意とする川神流・大車輪。

 

私が手を抜くのと同じように。コイツも己の力をセーブしていたのか。緩んでいた手に力が込められる。ギチリと音がしそうなほど握りしめられた薙刀は次の瞬間、

 

『大車輪―――』

 

私の拳が、人一人を確実に死に追いやるはずの一撃が、からめとられ巻き上げられる。本来ならばそれだけでも大したものだ。自分の知る歴代、現代の技の使い手でも私の放った一撃を、一番力の伝わる絶好のタイミングを絡めとり、巻き上げる人物などいない。

 

そして二秒前に見た幻想が現実に侵食してくるのを感じた。

 

――――この手を早く引き戻さねば。一秒でも、コンマ一秒でも早くこの巻き上げられた手を引き戻して全力で(・・・)防御しなければこの首が落とされる――――!!!

 

もはや余裕などどこにもなかった。狩るはずだった私は、いつの間にか狩られる側(・・・・)となっていた。

 

 

バカンッ!!!

 

 

『ぐあ!』

 

吹き飛ばされる。未だかつてない力で私を打ち据えたそれは舞台端にいた私を軽々と吹き飛ばす。何度も地を蹴り、衝撃を全身で逃がし、着地する。しかして全力で行った防御は。侵食しようとしていた幻想を、幻のままに押しとどめた。

 

(くそ・・・!なんな―――)

 

そしてもう一度彼を見る。しかし、彼はもはや自分を見ることはなく、

 

――――懐かしそうに、寂しそうに、そして何か大きなものを見据えるようにしていた。

 

『ぐっ・・・川神流!瞬間回復!』

 

構えを解いた衛宮士郎にもはや闘争の気配はない。でもなんだか、その遠い眼が気に入らなくて今一度奥義を発動する。

 

クロスした両腕のうち、前面で受けた右腕は砕かれていた。――――ゾッとする。防御しなければ自分は。腕ではなく首がこうなっていたかもしれない。

 

一瞬置いて折れた腕が復元される。準備は整った。私は今度こそ奴を――――

 

『やめいッ!ここまでじゃ!』

 

『なんでだよ!』

 

『モモッ!お主のやりすぎじゃ!あくまでこれは組手じゃぞ!』

 

―――そう。組手。鍛錬。これから私がやろうとしていることは本気の殺し合いだ。

 

そんなのだめだ。と理性が囁く。当然だ。私は人殺しなんかしたくない

 

――――けれど。

 

『けど!あいつは!私に―――』

 

何か大きなものを与えてくれる――――そう、直感が言っていた。

 

止めるジジイを押しのけようと必死にもがく。あと少し。あと少しで自分はこのつまらない毎日から抜け出せる。私を満たす何かが得られる。

 

だがそうこうしているうちに衛宮士郎は借りていた薙刀を妹に返却し、その場を立ち去ろうとする。

 

『すまんの今日の所は―――』

 

『ええ。その様子じゃ俺がいると爆発しそうですから』

 

ジジイはもう全力で私を抑えにかかってる。いくら私でも本気のジジイを倒して衛宮士郎の所まで行くのには力が足りない。

 

ジジイの提言に素直に応じて衛宮士郎は去っていく。その背中をみて私は、

 

『まて!衛宮!次は!次はいつやるんだ!』

 

次を、今度こそこの得体の知れない何かをモノにするべく大声で叫ぶ。

 

だが彼は、

 

『そんなに興奮しなくても機会はいつでもあるでしょう。それに、あまり頻繁に来られてもこっちの身が持ちませんよ。後日話し合うということで』

 

まるで聞かん坊の相手にするように言って立ち去ってしまった。

 

 

 

『あー・・・』

 

 

あの一日から、私はずっと無気力状態で過ごしていた。

 

何をしてもつまらない。数多の挑戦者を殲滅しても、いつものように仲間達と過ごしても、可愛い女の子を相手にしても。・・・あの弟に絡んでも。

 

もちろん表面上は楽しくするし、全然つまらないわけじゃないけどやっぱり満たされない。

 

―――あの眼が、頭を離れない。

 

『百代、どうしたで候?』

 

『あー・・・ユーミン・・・?』

 

ぼーっとしたまま自分を心配する友達に返事をする。

 

『いつもの様子ではない様で候。』

 

『まーなー・・・』

 

どうにもやりきれない思いでいっぱいだ。それもこれも全てはあいつ、衛宮士郎のせいだ。一晩立って・・・といっても眠れなかったけど。落ち着いてきた私はある考えがグルグルと回っていた。

 

あの得体の知れない、何かを得られそうと思ったのはなぜなのか。戦闘は楽しかった。最後の一撃にも驚かされたし何より初めて他人の――――それも武士娘でもなんでもないただの男に膝をつかされた。ましてや自分が殺される幻など・・・。

 

『んあーーー・・・・』

 

そしてあの眼。遠い何かを見る眼は何を見ていたのだろう?それだけじゃない。極限の戦闘状態で敵である私を見ないで一体何を視ていたんだろう?

 

考えれば考えるほどわからないことだらけで頭が働かない。

 

『んー・・・あ、』

 

グルグルと回り続ける思考だがピンと一つ閃きが走った。

 

『ユーミン、弓道部に新入生って入ってきてない?』

 

と尋ねる。そうだ。新入生・・・衛宮士郎が確か、弓で京に余裕で勝利したという話を一戦交えたあの日の前に聞いた。

 

弓で京に勝つ。それは並大抵のことではない。京は天下五弓に数えられる射手であり、それは四天王の座と同じく弓において全国を通してトップでなければならないのだ。当然競争率は激しい。毎日、四天王であり、武神である自分に勝って名を上げようとする武道家がいるが、それと同じく一度でも敗北すればその座を降りなくてはならない。それほど厳しい世界であり、称号だ。

 

最近では揚羽さんが引退し、橘さんが何者かに敗れたと聞いている。

 

となれば、京は天下五弓から脱落、あるいは五弓の中の誰かが脱落し、新たに衛宮士郎が名乗りを上げるはず。そうなれば当然、鍛錬にはもってこいの弓道部に――――

 

『入ってきてはいるで候。でも、百代の言う新入生とは誰のことで候?』

 

『それは―――』

 

『衛宮士郎君。だろう?』

 

と、そこで割り込んでくる男がいた。

 

『げぇ!京極!』

 

苦手とする男の登場に思わず嫌悪の声を上げる百代。

 

彼は京極 彦一。言霊という言葉に宿る力を使いこなす彼女の苦手とする男。何が苦手かというと、言霊という物理ではどうにもならないモノを操る気色悪さと、彼の趣味である人間観察(・・・・)にある。

 

人間観察とはいうが、実際は興味を抱いた人間にしか興味を示さず、興味を持てばその謎の眼力で根掘り葉掘り相手の事柄を情報として得るのだ。

 

故に百代はこの男を苦手としている。だが、度々3-Fに現れては私やユーミンと話しをするいわば因縁の相手である。

 

『何しにきたんだよぅ・・・』

 

『なにか面白い気配を感じてね。勘を頼りに来てみれば武神、随分と心ここにあらずじゃないか』

 

『うるさいなーどうでもいいだろうー』

 

人をおちょくるのは好きだがおちょくられるのは好きじゃない―――

 

そう思って唇を尖らせて窓の外を見る。

 

『衛宮士郎・・・ああ、椎名京を破った新入生で候?』

 

『いかにも。彼は弓道部に入部したのかね?』

 

京極が今一度ユーミンと呼ばれた同級生、矢場弓子に問う。

 

『・・・いや、入っていないで候。正確には断られたで候』

 

ふっと彼女は至極残念そうに言った。

 

『何・・・?あいつ、京よりも上なのに弓道部に入ってないのか!?』

 

てっきり入部して京と競い合っているのかと思っていたがそうではないらしい。

 

『事実で候。私もその話を聞いて是非にと誘ったが依頼が忙しくて時間が取れないと断られたで候』

 

『依頼・・・?』

 

『なんだ知らないのか武神。衛宮士郎君は学園の様々な人間から頼まれごとを受けて解決に東奔西走している。今では学園が彼に依頼を出すこともあるそうだ』

 

と、持ち前の人間観察で知りえた情報を言う京極。

 

『頼まれごとって・・・例えば?』

 

『ふむ・・・では』

 

百代が問うと京極は次々と例を挙げる。

 

機械や備品の修繕。食堂の手伝い。アンティークな時計の調整、誰もしたがらない清掃などなど・・・

 

出て来る出てくる一体どれほど出てくるんだと途中からもういい!と京極を止める百代。

 

『・・・それだけやっていれば部活などやる暇もないで候』

 

『っていうかやりすぎだろ・・・一体どれだけ報酬もらってんだ?』

 

ここ川神学園では食券をオークションのようにかけて、様々な依頼を解決してもらうというシステムがある。実際、たまにキャップが依頼を受けてきて仲間達で解決して報酬を分けることもやったことがある。

 

『それが、一切報酬は受け取っていないそうだ』

 

だが、京極から出た言葉はとんでもないものだった。

 

『はぁ!?一切って一切れももらってないって言うのか!?』

 

信じられん!と百代は仰天する。

 

――――万年金欠の彼女にとって食券は非常に、ひっっじょーーーに重要なモノである。

 

一応いつも可愛い女の子達からの献上品(という名の実際は百代のたかり)で腹を満たしている彼女だがいくらヒエラルキートップの武神と言えど良心はある。毎回毎回たかるのもいけないと、ちびちびと使って生活しているわけだが。

 

『・・・いや、いくら何でもおかしいだろ。個人の依頼ならともかく学園の依頼も受けてるんだろう?ジジイがそれで渡さないはずがない』

 

百代の意見はもっともである。学園はきちんと個人を評価する。それが勉学であれ、武術であれ、例えそれが取るに足らない、本人だけに重要なことであっても。それが川神鉄心のやり方だ。

 

『ついにボケたかあのクソジジイ』

 

と思わずつぶやく百代。瞬間、

 

『コラ!モモ!誰がボケてなどおるかッ!』

 

と件の川神鉄心がいきなり現れる。

 

『これは学園長』

 

『今日もご壮健でなによりです』

 

ぺこっと頭を下げる矢場と京極。だが百代は依然唇を尖らせて窓の外を見ている。

 

『ああ、よいよい。わしはそこの口の悪い孫を叱りに来ただけじゃからの』

 

『叱りにって、私なにもしてないもん』

 

ツンっとそっぽ向く百代。その姿に思わずため息をつく鉄心。

 

『衛宮士郎君の爪の垢でも飲ませてやりたいわい・・・だいたいモモ。お主鍛錬も手を抜いておるじゃろう』

 

『衛宮は関係ないだろうー!だいたい、学園の依頼に報いてないのはジジイの問題だろう?』

 

鍛錬のことは置いといて先ほどの話を出す百代。それに対し鉄心は、

 

『はぁ・・・それはわしも悩んでおる所じゃわい。個人のやり取りは自由じゃが学園の依頼となればそれなりに報酬を渡さねばならん。じゃが――――』

 

鉄心は一呼吸置き、

 

『彼は受け取ることを拒むのじゃ・・・ちょっと手伝っただけ、大したことはしていないと言い張ってのう・・・』

 

『まじかよ・・・』

 

思わず呆然とする百代。

 

『しかし、彼の仕事は日に日に大きなものとなっています。このままではまずいのでは?』

 

と京極は鉄心に進言する。

 

『そうじゃのう・・・努力には報酬が伴わねばならん。じゃが、仮に衛宮士郎君が心がわりして受け取ると言うても、もはや手に負えんほどになっておる』

 

心底困ったというように髭を撫でつける鉄心。

 

『・・・仮に、いつもの依頼みたいに食券で換算したらどのくらいなんだ?』

 

興味本位で問う百代。だがそれは特大級の爆弾だった。

 

『食券ではもう換算できんわい。どうしてもというなら、もう二年半分くらいかのう・・・』

 

『二年半分!!?』

 

もはや聞いたことのないのない単位である。

 

『それは・・・学園の予算としてまずいのでは?』

 

『当然じゃ。二年半と言うたが実際はそれ以上じゃよ。わしが言うたのは経費をほぼ度外視してじゃ。実際の成果で言えばもっと行く。だから言うたじゃろう。もはや食券程度では測れんと』

 

ふぅ・・・と首を振る鉄心。

 

『学園としても報酬を受け取ってもらいたい。じゃが、彼は断固として受け取らん。そして日に日に仕事は大きなものとなり、それに伴うはずの報酬も積み重なっていく。そして大きくなりすぎた報酬はもはや学園では充当できん』

 

『悪循環で候・・・』

 

『確かに・・・これはゆゆしき事態ですね。・・・私たちが安寧と暮らしていく度、彼に対する負債は山となっていく。―――いっそ、彼への依頼を禁止にしては?』

 

もはや手に負えない状況であるがそれしか手はない。これ以上彼を押しつぶさないためにも、それに対する者が彼への無償の感謝に押しつぶされないためにも。

 

今すぐにでも決断する他ない。京極はそう思った。

 

だが・・・

 

『わしも、教師陣もそう結論を出したんじゃが・・・それでは彼の信念の妨げとなる』

 

『信念・・・?』

 

ふと出てきた不可思議な言葉に疑問を抱く百代。

 

『おいジジイ衛宮の信念って・・・』

 

『それは本人の口から語られねばならん。わしがここで言うわけにはいかん』

 

ばっさりと鉄心は百代の言葉を切った。これ以上はもう答えない。そう顔が物語っていた。

 

『むー・・・結局なにもわからず仕舞いじゃないか』

 

結局聞きたいことが聞けなかった百代はまたいじける。

 

と、

 

『そういえば学園長。衛宮士郎君の天下五弓入りはどうなったんで候?』

 

『あー!そうだよ。それがあったじゃないか。流石ユーミン!』

 

興味津々といじけていた百代が乗り出す。

 

『ああ、それな・・・断られた』

 

『は?』

 

『やっぱり・・・』

 

『やはりそうですか』

 

ポカンとする百代と、想像がついていた二人は視線を落とす。

 

『断った?なんで?』

 

惚けたまま鉄心に問う百代だが、答えたのは矢場弓子。

 

『彼曰く・・・俺の弓は弓道ではないから、と言っていたで候』

 

『弓道じゃない・・・?それならなんだって言うんだ!?』

 

意味が分からないと吠える百代。それに対し京極は己の推測を口にした。

 

『・・・考えられるのは二つ。一つは弓道ではなく弓術(・・・)だという主張』

 

武を知る人間ならば知る弓道と弓術の違い。それは弓を通して精神を鍛えるものであることを弓の道と書いて弓道。そして弓術は、相手を倒す、または殺傷することを目的としたものであるということだ。

 

『だけど京だって椎名流弓術の使い手じゃないか』

 

百代の言葉に京極も頷く。

 

『武神の言う通りだ。違いはあれどそれでは彼の言い分に適さない。となれば考えられるのは一つ』

 

『・・・彼は自分の弓を、別なナニカ(・・・)として捉えておるということじゃな』

 

『別な・・・ナニカ・・・?』

 

チリッと百代の脳裏に何かが走る。理由はわからない。何故かもわからない。だが、一瞬、あの鷹の眼が脳裏を過った。

 

『わしも見ておったがの。あれは異常じゃ。常人の域を遥かに超えとる』

 

先代・武神として鉄心は言った。

 

『わしも長いこと生きとるがの。あれほどの射手にはであったことがない。まさに神域。人では到底、到達できないモノじゃ。わかるか?このわしをして、彼が弓を引いた瞬間、美しいと感じたと同時に怖気が走ったわ』

 

『なんだよ・・・それ』

 

鉄心の真剣な顔をみてただ事ではないことを百代も悟る。

 

『それが真実であれば。彼はこの先弓を引かないでしょうね』

 

『そうじゃのう。あの歳で一体なにをやったらあんな射手になるのか・・・好奇心で彼をつつく輩が出てくるじゃろう。じゃがそれは無駄なこと。アレはそういうものじゃ。そう、理解するしかない』

 

鉄心は最後にそう締めくくった。

 

 

 

 

 

 

ガンガンガン!バタン!

 

荒々しく扉を開ける。かくして、目的の人物、衛宮士郎は夜風に吹かれて町の方を見ていた。

 

「おい、士郎」

 

その、よく見れば随分と大きな背中にやはり荒々しく声を掛ける。

 

「百代先輩?」

 

自分を呼ぶその声にまた怒りがわく。

 

「だからモモ先輩でいいって言ってるだろ!」

 

ガン!と床を踏み鳴らす。思いのほか力が入っていたのかパラパラと欠片が舞った。

 

「なんでお前私だけ言う通りに呼ばないんだ!」

 

ずんずんと進んで目の前に立つ。

 

彼は自分より大きい。ガクト並に大きい彼は自然と自分を見下ろす形になる。

 

「なんで・・・ね。実に個人的な話だよ」

 

そう、彼は言った。

 

「なんだよ。言ってみろ」

 

特大の怒りをぶつけてやる。常人なら失禁しているだろうそれを受けても彼は飄々としている。

 

「簡単な話さ。―――貴様が気に入らないからだよ。川神百代」

 

「!!!!」

 

ズパアアン!

 

本気の、全力の一撃を顔面目掛けて放つ。

 

しかし、

 

「そら、そういう所だ。何でもかんでも力に頼り、気に入らなければ武力で圧する。そういう所が気に入らない」

 

本来ならば、頭蓋を砕き脳髄をまき散らす一撃をこの男は首を僅かに傾けることで避けた。

 

「お前・・・!!!」

 

イライラする。この私を前にして飄々と、薄ら笑いすら浮かべてそこに立っている。

 

ッパアァン!

 

ッピシュン!

 

殴る。蹴る。

 

拳は音の壁を突き破り、蹴りは空気を裂く。

 

一撃一撃が必殺。だがこの男はそれを軽々と躱し、地を蹴って空中で体を捻り、距離を取る。

 

「ふむ。なかなかやるな。とはいえ、大した一撃じゃない。必殺の一撃も、これこの通り、当たらなければどうということはない」

 

まるで軽業師のようにひょいひょいと避ける士郎。

 

「こんの・・・・!!!」

 

もはや地面を蹴り砕き一瞬にして間合いを詰める。―――今度こそ。今度こそそのイラつく顔を――――

 

 

 

「それにな・・・そんな何も宿らぬ拳(・・・・・)に当たってやるほど、私は暇ではない」

 

 

―――ピタリと。顔の前で拳が止まる。

 

 

「なに・・・を・・・」

 

進めない。あと少し、一cmでも前に出ればこのイラつく顔を潰せるのに。どんなに力を込めても。どんなに歯を食いしばっても。体はピクリとも動かなかった。

 

「なんだ気づいていないのか?では己に聞いてみるがいい。その()は何のためにあるのだ?」

 

「なんの・・・ため?」

 

やめろ。聞くな。言わせるな。気づかせるな。

 

心が警報を鳴らす。気づいてはならないと。見てはならないと。

 

「その様子では薄々わかっていたようだな。貴様は戦っているのではない。己以下の者をいたぶって愉悦に浸っているだけだ」

 

「違う!!!」

 

大声で否定する。しかし体はピクリとも動かず。心はめちゃくちゃにかき回される。

 

「ではどう違うのかね?本来であればどんな相手も一撃で仕留めることができるというのに。―――毎度ダラダラと。まるで自分をどこまで楽しませてくれるのか推し量りながらノロノロと振りかざすその拳に意味はあるのか?」

 

「それは・・・」

 

彼女の悪癖。わざとスロースタートし、ゆっくりと、相手の技を、相手の力をこの身で味わってみたいという、対等な者のいない孤独故の歪み。だがそれは―――己の相手に対する侮辱に他ならないのではないか?

 

「君は嘘が嫌いだと言ったな。それはとても素晴らしいことだ。君自身正直者なのも知っている。だがそれ故に―――」

 

パアァン!

 

「うっぐ・・・!?」

 

ピクリとも動かない体をまるでピンポン玉のように蹴り上げられた。

 

ドヒュッ!

 

「がッ!」

 

無防備に浮き上がった体を回し蹴りされてくの字になり蹴り飛ばされる。

 

ガシャアン!

 

「私は気に入らない。戦いたいから戦う?たわけめ。戦いには理由がいるのだよ。守るべきもののためなのか、降りかかる火の粉を振り払うためなのか。それすら込められていない拳になんの意味がある。貴様はな、手段と目的をはき違えている」

 

自分は武道家だ。戦うことが、戦いこそが自分の――――

 

「川神流・・・瞬間――――」

 

回復、という言葉は続かなかった。フェンスに叩きつけられた体は動かず。手も足もだらりと投げ出されたまま。膨大な気は行き場を失い、大気へと解ける。

 

 

「意味もなく。目指すものもなく。信念すらない。そのような力をなんと言うか知っているか?それはな―――ただの暴力というんだよ」

 

 

暴力、と百代はそのままつぶやく。古い記憶が蘇る。気に入らなければなんでも叩き潰していたあの頃。よくジジイやルーが言っていたことを思い出す。

 

『こりゃ!モモ!また暴力なぞ振るいよって!』

 

『暴力はダメ!・・・うーん釈迦堂に似てきたナァ・・・』

 

暴力。暴れた力。

 

己に誓ったのは誠。誠実であること。嘘をつかないこと。

 

では自分はその通りに力を振るっていたか?

 

「あ――――」

 

そうだ。私は戦いが好きだ。でもそれは強者とのしのぎを削り、誰よりも強くなりたい。そう思ったから。

 

そうして頂点に辿り着いた。気づけば周りには誰もいなかった。誰よりも強くなりたかった自分は。誰よりも強くなった後(・・・・・・)どうするのか考えていなかった。

 

「確かに君は強い。だが強いだけではただの暴力だ。そこに心が伴わねば、己の願い(・・・)が込められねば。こうして簡単に崩れる。高々世の人より強くなったくらいで何も目指さなくなった力など、何の意味もなさない」

 

それが彼の答えだった。誰よりも誠実であろうとした自分が。いつの間にか武神という椅子に胡坐をかいて自分以外を見下していた。

 

(そっか。こいつ―――)

 

彼もまた彼女の在り方を歯がゆく思っていたのだ。もう一度彼をよく見る。極限まで鍛え上げられた体。限界まで練り上げられた技術。そして己にとって最高の効率。そこまでしても届かない何かがある。それをあの眼(・・・)は視ていたのだ。

 

だからこの男は私を認めないのだとわかった。本当は己よりも強いくせに。誰よりも強くなるという願いを放り投げていた自分を。

 

「ぐっ・・・」

 

体を起こす。もう一度前へ。あの誇り高い男の前へ。

 

ヘロヘロと覚束ない足で歩く。なんて無様。でもいい。そんなことはどうでもいい。

 

「スゥ・・・―――ッふ!!!」

 

呼吸を整え、脚に力を籠め、腕を振りぬく。

 

凡庸な、凡骨の一撃。しかしそれは彼女の人生でもっとも速く、重く、鋭かった。

 

 

顔面を狙ったそれは、やはり顔を軽く傾けられ避けられた。でも――――

 

バリィイ!

 

「―――やればできるじゃないか。モモ先輩」

 

一撃を逸らすために使った彼の腕の皮を引き裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎」

 

「なんです?モモ先輩」

 

口調はもう元に戻っていた。彼は制服の袖を破り傷を縛っている。

 

「・・・お前。あんだけ口悪かったのにいまさら敬語なんか使って・・・普通に話せよ。それと百代でいい」

 

「じゃあ百代。―――ああ、君にぴったりの響きだな」

 

「・・・ッ」

 

かあっと顔に熱が上がるのが分かる。それを見られたくなくてそっぽむく。

 

「なんだよ・・・ッしと」

 

キュッと傷を縛り終えた士郎は百代を見る。

 

「なんでお前戦い嫌いなのにそんなに強いんだ?」

 

ずっと気になってたことを聞く。

 

「・・・守りたいものがあったから。救いたいものがあったから。その為に力が必要だった」

 

懐かしそうに彼は空を見上げる。

 

「アルトリアって女の人なんだってな」

 

「!」

 

ピクリと反応する士郎。答えはない。

 

「その人守りたかったのか?」

 

胸が締め付けられるような感覚を覚えながら百代は問う。

 

「・・・どっちかっていうと守られてばっかだったな」

 

苦笑を浮かべながら言う。

 

「じゃあ・・・救いたいものってなんだ?」

 

「・・・。」

 

彼は一つ考えて、

 

「・・・さぁな」

 

とはぐらかした。

 

「なんだよ。教えろよ」

 

むっとしてもう一度問う。

 

「視野がさ、広がるんだよ。――――1人の次は10人。10人の次は100人。100人の次は・・・一体どのくらいだったかな」

 

そう言って彼は右手の甲を摩る。

 

「なんだよ、それ。きりないじゃないか」

 

「ああ。でもいいんだ。全部は救えないけど―――救えたものがあったから」

 

そういう彼は誇らしげで。

 

「・・・まるで正義の味方だな」

 

百代はキャップの見ていた特撮ヒーローを思い出した。

 

「それが夢だからな」

 

士郎は胸を張って言う。

 

「・・・そんなのなれっこない」

 

むすっとして言い返す

 

「そうかもな。でも、綺麗な願いだろ?」

 

否定はない。でも彼は宝箱の宝石をみせるように言った。

 

「―――まだ目指すのか?」

 

返ってくる答えなどわかりきってる。けれど百代は言う。

 

「―――そりゃそれが俺だから。無くしたくない憧れだから」

 

士郎が立ち上がる。

 

「でも、ちょっと優先したいものができちまった」

 

「優先したいもの?」

 

「―――ああ。百代とみんなをさ」

 

そう言って彼は笑顔を浮かべた。綺麗な、透き通った笑顔だった。

 

「―――。」

 

それをみて、百代の頭は真っ白になった。

 

胸が苦しい。今にも心臓が飛び出そうだ。

 

(これやばいなー・・・)

 

と思いながら思わずにやけそうになる顔を必死にもみほぐす。

 

「さ、戻ろう」

 

そう言って差し出された手を取り百代も立ち上がる。が、

 

「どぅわ!?」

 

ヘロヘロになっていた足腰は彼女の足をすくった。

 

それを、

 

「よっと・・・大丈夫か?」

 

抱きかかえるように受け止めた士郎。

 

「・・・ッ!!!」

 

ボン!と百代が真っ赤になる。抱きかかえたことは多数あれど。男に抱きかかえられたことはない。

 

(やっべー・・・これやっべー・・・)

 

もう何が何だか分からなくなってる百代。

 

「なにしてるんだよ・・・回復できるんだろ?」

 

そういう士郎に彼女はむすっとして、

 

「・・・空気読めよ・・・馬鹿・・・」

 

と言った。

 




はい。武神入ります。今回は賛否別れると思いますが・・・。それと前回に引き続きすいません・・・反動が・・・!モモ先輩描写を全然していなかった反動でめちゃくちゃ色々な場面を書くハメに・・・またまた理解不能だったらすみません・・・・

百代と士郎の喧嘩(士郎の蹂躙)は、やはり、想いと願いを胸に高みへ上ったこと、そしてセイバーを初めとした英霊を知り、様々な剣の記録から、強さとは何なのかを知っているからです。私個人の意見としては、百代と士郎って相性最悪なんですよね。まぁ、魔王なんて比喩されたりする百代ですから正義の味方の士郎からすれば、やれるくせにやらない。階段上ったんではい終わり―の言ってしまえば、てめぇもっと熱くなれよぉ!って感じかなぁと。あとバトルジャンキーの修正ですね。戦いたいから戦うんじゃ本末転倒。

その後の部分はなんかこう・・・幼馴染が二人だけで秘密話してるイメージで書きました。なのであえて言葉少なくしてます。fateの「消えない想い」なんか流して見ていただけたらニヤニヤできるかなぁと・・・

たくさんの感想本当にありがとうございます!まだまだ頑張りますのでよろしくお願いします。
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