百代との激突を終えて、士郎と百代が室内にもどり、キャップのビックニュースが明かされます。
百代との大喧嘩の後、士郎と百代が皆のいる場所に戻ってくる。
「お、戻ってきたな!」
「おかえりーって、士郎!その腕どうしたの!?」
笑顔で迎えるキャップと一子・・・だが、一子が士郎の肩口まで引き裂かれた制服と、その破った部分で右腕に巻かれた傷を見て真っ青になる。
「あーこれか。なに、大したことない。ちょっと瓦礫に引っ掛けちまってさ」
「あわわわわ!で、でもかなり出血していますよ!」
「早く止血しないと!」
千切られた制服できつく巻かれているようだがその布は既に真っ赤に染まっている。慌てて救急セットを探す由紀江となまじこういう状況になれていないクリスがあたふたとする。
「大丈夫だよ。もう血は止まってる。でもまぁ見た目悪いよな。心配かけてすまん」
なにせ右腕が肩から完全に露出し、その手首から少し上にかけては真っ赤に染まっているのだ。彼は瓦礫に引っ掛けたと言うが、
(・・・絶対モモ先輩だよね)
(ああ。途中からすごい音してたからな)
京と大和がこっそりと耳打ちする。それは二人だけでなくここにいる全員が分かっていることだった。なにせ百代は本気の本気で踏み込んだり、殴りかかったりしていたのだから。それを手入れされているとはいえ廃ビルの屋上でやったらもはや常に地震が起きてるようなものだった。
「これまたすげぇ勲章作ってきたもんだなぁ」
「うう・・・僕こういうの苦手・・・でも、本当に大丈夫?」
ガクトは男の勲章とばかりに笑い。モロはグロイのは苦手なのでちょっと顔色を悪くしているが士郎のことを本当に心配していた。
「ガクトの言う通り。こんなもんは勲章だよ。本当に大丈夫だから心配しないでくれ」
そう言って笑う士郎。
「そんなことよりキャップ。まだ話があるんだろ?由紀江が作ってくれたっていう弁当も食べてないし・・・折角なら頂きながら聞きたいんだが」
「おう!俺の方は準備万端だぜ!」
「わわわ私のはこれです~!!!」
「いけー!まゆっちー!」
「おおお!流石まゆっち!綺麗な彩の巻き寿司だな!」
と盛り上がる一同だが、
「あれ?モモ先輩は?」
一緒にいるはずの百代がいないことにモロが気づきキョロキョロとする。
「ん?百代ならここにいるぞ。・・・いつまで隠れてるんだよ。みんな心配してるだろ?」
そう言って士郎がぐいっと左腕を引っ張ると、ものすごく気まずそうな、しかし嬉しそうな、複雑そうな、とにかくいつもの様子とは相当に違う百代が士郎の左袖をちょこんとつまんで背中に隠れていた。
「お、お姉さま?」
「お、おお~妹~ただいま~」
皆の前にさらされた百代はやっぱりいつもと違う様子で一子に抱き着く。
「お、お姉さまちょ、ちょっと苦しい・・・」
「そ、そうかぁ!すまんすまん!」
撫でくり撫でくりとしていた一子をぱっと放し、声をひっくり返してあたふたあたふたとしたのち、
ボスン!
といつもの定位置に着地した。
それを見た一同は、あまりにあからさまな様子に
「「「モモ先輩がデレた!!?」」」
と声をそろえて言う。
「で、デレてない!大体、誰にデレるんだ!この私をで、デレさせる男がこの世にいるわけないだろう!?」
普段なら。そう、普段ならなんかいいことあったのかなーくらいなのだが。最強の武神・川神百代の前に無理っすと男は皆退散していくのだが。
(夜)
(屋上)
(二人きり)
(え、ええと・・・良い景色!)
(そこはロマンチックって言おうな~まゆっち~)
((?))
伝言ゲームのように意思疎通をこなすファミリー。一部のお子様はわかっていないが。
「なんだよみんなして黙りこくって。俺と百代は少し話をしただけだぞ?」
と何でもないように言う士郎だが当然今の、いやもっと前からだが、特級の爆弾がここを押せ!と言わんばかりに含まれているわけで。
「士郎今モモ先輩のこと・・・」
「?百代が?」
(((も・も・よ!!?)))
今更ではあるが一子はお姉さま。大和は姉さん。その他はモモ先輩。つまりファミリーの中で彼女を名前呼びするものはこれまで一人としていない。
「士郎、士郎」
ガクトがちょいちょいと手招きする。
「ん?なん「死・ね・!」どわっ!」
ゴヒュンとラリアットが士郎の頭を掠めて行く。
「なにすんだ!」
「やかましい!」
どうやら本気で怒っているらしいガクトにクエスチョンマークを浮かべながらもとりあえず席に着く。
「・・・士郎」
「・・・なんだ京」
今度はなんだと若干距離を取って返事をする。
「おめでとう?」
「なにが?」
京の言葉に首を傾げる士郎。どうやら本気でわかっていないらしくん?ん?っとキョロキョロしている。
(・・・ねぇ大和。これって)
(・・・ああ。そういうことだ)
そして再び一同が思ったことは
(((コイツ気づいてねぇ!!!)))
である。
「とーモモ先輩の様子がなんかおかしいけどよーもう遅いから話すすめるぜー」
「賛成」
「俺様も賛成。そして士郎死ね!」
「僕も賛成~」
「わ、わわ私も・・・あう・・・」
ぎゅっと胸が苦しそうに抑えるまゆっち。
「自分も賛成だ。そろそろ眠くなってきたしなぁ」
ふぁああ・・・と欠伸をするクリス。
「私もさんせー」(イケるとは思ってたケド・・・まさかこんなに早くモモ先輩落とすなんて士郎、恐ろしい子ッ!でもグッショブ!)
ということで、普段よりだいぶ遅くなったが最後の話を進めることになった。
「つーわけでこれだぁああ!!」
ドン!と置かれたのは何かのチケット。
「ええっとなになに・・・箱根温泉団体様招待券?」
「ごっふぉ!」
やたらと聞き覚えのある名称に思わずお茶を吹き出す士郎。
「うお!?きたねぇ!」
「す、すまん・・・クッキー、なにか拭くものくれ・・・」
げほげーっほと咳き込む士郎。
「もう、しょうがないなーはいどうぞ」
渡された布巾で噴出したお茶をふき取る士郎。
「なんだ?士郎ここ知ってんのか?」
「ま、まさか。俺はここにきてまだ二カ月しか経ってないんだぞ?そんな旅行する暇なんてないぞ」
鋭い所を突いてくるキャップに苦し紛れに誤魔化す。まさかクリスの父親の話をするわけにもいかないのでどうしようもない。
「で、こんなものどうしたんだよ。これ確か商店街の福引で出てたやつだよな?」
と、最近商店街の方へと足を延ばし始めた士郎が言う。
「どうせキャップが引き当てたんだろ?」
「その通ーり!!!ちなみに今回は一発で当てたぜ!」
「一発でって・・・そんなことあり得るのか?」
「それがあるのがキャップなんだよね・・・」
疑う士郎に苦笑を浮かべながら言うモロ。キャップの剛運は本当にどうなっているんだと疑いたくなってくる。
「・・・ここ、前にも行ったことあるね」
「そうだな。前に行ったとき九鬼のマークがあったから消費者還元ってことで定期的にやってるのかもしれないな」
京がチケットを手に取り場所を見るとどうやら彼らは一度行ったことがあるらしい。大和が言うには九鬼の経営する旅館のようだが・・・
(クリスの父親に招待された旅館には九鬼のマークはなかった。となると箱根は箱根でも別な旅館か)
士郎は全く同じ場所でないことにほっと息をつく。なにせ自分が隠してても、女将さんに『また来た』などと言われたら隠し通すことは困難である。
「キャップの運の良さには毎回得させてもらってるなぁ俺様達」
「そうだねぇ・・・クリスとまゆっちが来た時にも確かキャップが福引で当てて行ったもんね」
「ふふーん!俺をほめろよー・・・っと今日はこの辺にしとこうぜ。俺も眠くなってきたわ・・・」
「そうだな。妹もクリスももう夢の中だ」
「「Zzz・・・」」
百代は優しい表情で眠る妹を撫でている。クリスも隣の由紀江に寄りかかってすっかり眠ってしまっていた。
「さ、帰ろうぜ」
「ああ」
「おう」
「了解」
キャップの号令の下、士郎の初めての金曜集会は幕を下ろすのだった。
帰り道
「いつもこの時間まで金曜・・・集会だったよな。やってるのか?」
「いや、いつもはもっと早く切り上げてるよ」
「流石にこんな遅くまでやってたらな。今日はジジイに怒られるな・・・」
と、スヤスヤと眠る一子を背に百代が肩を竦める。
「俺様も母ちゃんにどやされるわ。それもこれも士郎、テメェのせいだかんな!」
「わかってるわかってる。今度みんなに何かお詫びをするよ。来週も集まるんだろう?」
ガクトに突かれて士郎は困ったように次の機会を聞く。
「ああ!金曜だけは必ず集まる。それが俺たちの約束だからな」
「それなら、今度は俺が料理をご馳走するよ。今日は由紀江の心づくしを頂いたからな」
そう言って由紀江の方を向き、
「遅くなっちまったけど、ありがとうな由紀江。とてもおいしかった」
「い、いえ!わわわ私の料理なんて士郎先輩の足元にも!!」
礼を言われたまゆっちはびっくりしたように大きな声を立ててしまう。
「シー。まゆっち、二人とも寝てるから・・・」
「はわう!?すすみません・・・」
大和に注意されてしょんぼりするまゆっち。しかし、ちらちらと士郎のことを後ろを歩きながらチラ見する。
当の本人はクリスを背負っている(百代がいじけたが、まさかガクトには任せられなかった)ので気づいていないが、もう暗いというのに本を片手に京は鋭く見ていた。
(モモ先輩だけじゃなくてまゆっちもすでに落としてるとか・・・士郎は罪作り・・・いや女たらしかな)
「ううぅん・・・マルさぁん・・・」
「っとと・・・人の背中で寝返り打とうとするなよな・・・まったく・・・」
もぞもぞと眠りながらちょうどいい所を見つけようと動くクリスに思わず苦笑を浮かべる士郎。
「・・・。」
「姉さん、ステイ、ステイ・・・」
「くっそ!士郎やっぱりお前死なす・・・!」
「ガクトは欲望が駄々洩れだからな・・・」
「だから士郎に頼むことになったんでしょ・・・」
ジト―っと見つめる百代に嫉妬を露わにするガクト。そしてそれにツッコミを入れるモロ。
(やっぱいいな。こういうの)
何だかんだ言って皆声を小さくして眠る二人を気にかけている。元の世界では経験したことのない体験だ。僅か二カ月で色々あったし、これからも色々あるんだろうが―――
「・・・みんな、ありがとう」
小さく士郎はお礼を言った。
「ん?士郎なにか言った?」
「いや、なんでもないぞ」
意外な所で鋭いモロに聞かれたのかモロが士郎に問いかける。
「・・・ところで士郎、本当に大丈夫?そんな怪我でクリスを背負って歩くなんて」
「大丈夫だって言ったろ?モロは心配性だな・・・それにほら、迎えが来た」
士郎がそう言って前を見る。しかし・・・
「・・・なんも見えねぇぞ」
「俺様もだ。大和は?」
「俺も見えないな・・・この辺は比較的明るいし、見間違いじゃないのか?」
「京は見える?」
「・・・ううん。見えない」
誰一人として士郎の言う
「もしかして・・・アレか?」
「ああ。モモ先輩の苦手なやつ」
「やめろー!乙女の秘密をばらすんじゃないー!」
小声で喚く百代に士郎は首を傾げる。
「なんだ?百代にも苦手なものがあるのか?」
と聞く士郎。
「あれだよあれ」
「そうそう。夏の風物詩」
ケラケラと笑うガクトが百代にゲシゲシと蹴られている。
「夏の風物詩・・・ああ。幽霊か?」
肝試しが思い浮かんだ士郎はずばり言い当てた。
「当たり」
大和が正解をくれた。
「あっはっは。百代も可愛い所があるじゃないか」
「可愛い所があるんじゃなくて可愛いんだッ!」
「あいたッ」
ゲシリと今度は士郎が蹴られる。
「つつ・・・なんだよ・・・幽霊くらい。最強の武神がなんで幽霊なんか怖がるんだよ」
「最強でも物理がきかないのはノー!!」
「・・・つまり、物理的に攻撃できないからってわけね・・・」
それを聞いて士郎は、百代がサーヴァントを目の前にしたらどんな反応をするのか―――思わずクスリと笑ってしまった。
「なに笑ってるんだッ」
「あいたッ!だから蹴るなって。・・・それはそうと、ほら、いい加減見えるだろう?百代はこの距離でわからないなら鍛錬が足りてないぞ」
そう言われてもう一度正面に広がる暗闇を見る。
「・・・やっぱ見えねぇぞ」
「京はどうだ?」
ガクトはやはり見えないらしい。そこで士郎は京に振った。
「・・・・あ」
「なにか見えたのか?」
大和が京に問いかける。
「うん・・・・微かにだけど赤髪が見える」
「百代はわかったろう?」
「あ、ああ。気が感じ取れた」
百代は驚いたように士郎を見る。
「もう、勿体つけないで教えてよ!」
やっぱりわからないモロは段々と怖くなってきて士郎に問いかける。
「ヒント:クリス・仲がいい・赤髪」
「ああーわかった!」
「僕も!なんだよ早く言ってくれればいいじゃないかー」
ほっと息をつくモロ。
「皆の反応が面白くてな、つい」
そう笑う士郎。だが、百代と京は戦慄していた。
「・・・おい京。どこから見えた?」
「ついさっきだよ・・・さっきも言ったけど微かに赤髪が見えただけ。モモ先輩は?」
「うーん正直そこまで気配探知してなかったからな・・・」
二人の会話を聞いた大和はこれはただ事じゃないと士郎に聞くことにした。
「なぁ士郎。お前一体どういう視力してるんだ?」
大和にそう問われた士郎はふむ。と一つ考え、
「まだ、秘密だ」
そう答えた。
そうしてしばらく歩くとガクトやモロにも赤髪の正体・・・マルギッテの姿が目に映った。
「出迎えすまないな。マルギッテ」
と士郎が言う。
「そうですね。今日はいささか遊びすぎです。いくら何でも遅すぎます」
と厳しく言う。マルギッテ。だが士郎は、
「わかってる。悪い。だけどみんなを責めないでやってくれ。俺の歓迎会をしてくれたんだよ」
「・・・・歓迎、ですか。・・・まぁいいでしょう。今日の所は不問にします」
「ありがとう。マルギッテ」
「・・・ッ」
お礼と笑顔を浮かべる士郎にマルギッテは慌てて顔を反らした。
「と、とにかく!お嬢様は私が運びます。私にわた――――」
きっと、渡しなさい。そういうつもりだったのだろう言葉がピタリと止められた。
視線は士郎の右手。そこから一滴、ぽたりと血が垂れた。
「―――衛宮士郎。その右手はどうしたのですか?」
ギロリとマルギッテの目が士郎と・・・百代に突き刺さる。
「あー・・・ちょっと擦り傷をだな・・・」
「嘘を言うならもっとマシな嘘を言いなさい。―――川神百代。貴女ですね」
「・・・だったらどうしたっていうんだ?」
ギシリと空気が凍る。ビリビリと闘気が膨れ上がり―――
「二人ともその辺にしたまえ」
当の士郎が声を上げた。
「これは私の不手際が原因だ。なに大した負傷ではない。行動に支障はないのだから争うのはやめろ。・・・声もそうだが、そうして闘気をぶつけ合っては二人の眠りを妨げる」
そう言って士郎は百代とマルギッテをまっすぐに見た。
「・・・。」
百代はどこか不服そうに押し黙った。
「・・・。わかりました。島津岳人」
「は、はい!」
雰囲気に完全に飲まれていたガクトは思わず飛び上がるように返事をした。
「声は抑えなさい。・・・お嬢様を少し預けます。衛宮士郎はこちらへ来なさい」
ついっと士郎とガクトは目を合わせる。ガクトは緊張したように直立不動。それを不憫に思った士郎は仕方なしとガクトにクリスを預ける。
「すまないなガクト」
「あ、ああ・・・気にすんな(怖えー・・・)」
「衛宮士郎!早く来なさい!」
「聞こえている。そう声を荒げるな」
そう言って士郎はマルギッテの方へ歩いて行った
「そう怒るなよマルギッテ。こんなの大したこと―――」
「だまりなさい」
まるで初めて会った時のようにマルギッテは鋭い眼をしていた。
はらりと血濡れの巻かれた布が外される。
「・・・ッ!!やはり・・・!!」
マルギッテの懸念は的中していた。取り外された布は、もはや布として機能しておらず。衛宮士郎の右腕は、まるで何かに削り取られたかのように皮膚がベロリと剝がれていた。
ビチャリ、と、どす黒く赤い、布だったものが地に落ちる。
その音を聞いて士郎はやれやれと首を振った。
「君は本当に優秀だな・・・まさか、あの状態で傷の具合まで推察するとは」
そして彼女は軍服のポケットから針と糸、小型の入れ物に入った消毒用のエタノール。そしてガーゼを取り出す。
士郎の言葉に返答せず、淡々とマルギッテは治療の準備を進める。
「痛みます。何か噛みますか」
「このままで構わない。その代り早くしてくれると助かる。あまり時間をかけると彼らが訝しむ」
そう言って士郎はマルギッテに手を委ねた。
「わかりました。では―――」
プシュっと針と剥がれた傷口に吹きかけられる。大の大人であろうとも、麻酔なしでは痛みでのたうち回るであろう。だが士郎は一切表情に出さず、一ミリたりとも動かなかった。
チクリ、チクリと正確に、素早く、彼女はベロリと剥がれ、ぶら下がった皮膚を縫い合わせていく。
「・・・流石本場軍人だな。とても正確で素早い」
激痛が走っているだろうに軽口を叩く士郎にもう一度マルギッテは、だまりなさい。と言って治療を進める。額に汗を浮かばせながら彼女は必死に治療を行う。
(なんという鋼の精神・・・このような
マルギッテは軍人であるが軍医ではない。軍人として多少の知識と、戦場ならば必要だと考える彼女の生真面目さから最低限の応急処置を行うことができるようになっているのだ。
なので決して雑なわけではない。だが本当の治療で言えば手抜きもいい所である。本来ならば血管を繋ぎ、失った部分を移植し、縫合して絶対安静である。
それを、傷口を万力の如く押しつぶして強制的に止血し、垂れ下がった皮膚を糸で縫い合わせただけ。あとは菌が入らないようガーゼと包帯で巻く。応急処置は本当に最低限なのだと彼女は身に染みて理解している。
プツン、と糸を噛み切り、ガーゼを当て、包帯を巻いた。今はこれが精一杯。後日きちんと治療する必要がある。
―――だというのに
「ふむ。何度も言うが、流石だな。おかげでだいぶ楽になった」
そう言って手を握ったり開いたりする士郎に、ついにマルギッテは己の中の何かが切れる音を耳にした。
「ふざけるな!これほどの重傷を負っておきながらいけしゃあしゃあと!これは治療とも呼べない応急手当です!それを何ですか!ろくに治療もせずその手に人一人抱えて動き回るなど!」
あまりの剣幕に流石の士郎もたじろいだ。
「ま、マルギッテ?何をそんなに怒っているんだ?俺は君に感謝しているんだが・・・」
「うるさい!いいですか、慈善事業は大いに結構ですが限度というものがあります!これほどの怪我を負って貴方は何をしたいのですか!」
「あー・・・その・・・なんだ。ごめんなさい」
これはもう手が付けられないと悟った士郎はもう平謝りするしかなかった。
「ごめんで済むのなら軍人も医師も要りません!だいたい貴方は―――」
「ま、まてマルギッテ。頼むから落ち着いてくれ。今日はもう遅い。このままでは仲間たちが・・・」
「仲間!?このような重傷を負わせる仲間がどこにいますか!」
「はい。ごめんなさい・・・」
ぴしゃりと切って捨てられた士郎はもうとにかく謝るしかなかった。
「大体ですね、貴方が私と一緒に―――ッ」
ピタリと。彼女のお叱りが止まった。
「ま、マルギッテ?」
許してもらえたのか?とちらりとマルギッテをみると、彼女は何事かをごもごもと喋り、
「今日はこの辺で許してあげます。完治するまで絶対無理をしないように」
そう言い捨てて皆が待つ方へ歩いていくマルギッテ。
「あー・・・」
なんだか、踏んだり蹴ったりだなと一人ごちる士郎。
「とりあえず・・・帰るか」
彼女がどうしてあんなに必死になり、怒り出したのか気づかないまま、彼は彼女に言われた通り極力右腕を動かさぬようにマルギッテの後を追った。
――――interlude――――
あらん限りの感情をぶつけて多少冷静になったマルギッテは呆然と立ち尽くす風間ファミリーに近寄り、
「島津岳人。感謝します。さ、お嬢様を私に」
「はい!何もしておりません!」
ビシッと背筋を伸ばしてクリスを渡すガクト。マルギッテの様子を見て心配になったモロは、
「あの、士郎は・・・大丈夫・・・ですか?」
と恐る恐る聞いた。
「・・・・。」
マルギッテは一瞬考える。
(どうせ彼の事です。包帯を巻きなおしただけとでも言うでしょう)
だがそれはダメだ。あんな簡単に自分をないがしろにする人物は早死にする。そして、彼女は
「・・・応急処置はしました。ただし、あくまで最低限の処置です。後日しっかりとした治療が必要でしょう」
だから。はっきりと伝える。彼がここにきて一切誤魔化せないように。
「しっかりとした治療?士郎はそんな大怪我なんですか?」
直江大和がそう聞いてくるのでこれ幸いに言ってやる。
「はい。衛宮士郎の腕は皮膚が剥がれかけていました。もしあのままでいたのなら、最悪、腕の切断もあり得たでしょう」
嘘ではない。傷口全体が化膿したりしなければ縫合手術だけで済むかもしれない。でもあえて言わない。言ってやらない。一切彼が平気な顔をするのを許してやらない。
「切断・・・う、俺様、勲章とか言っちゃった・・・」
「やっぱり無理してたんだね・・・」
「士郎先輩・・・。」
「・・・そんな怪我であんなに平気な顔してたのか」
「・・・嘘は言ってない。確かに血は止まってた。でも動けば開くし重傷。つまり本当のことも言ってない。それが士郎の話術」
椎名京がいい所に気が付いた。
「嘘をつくよりも、本当の話に情報の欠落をさせた方がはるかに効率的です。衛宮士郎はそれをわきまえている。注意しなさい。彼は自分の事ならば容易く切り捨てる」
風間ファミリーにとっては耳に痛い話だった。誰もがうつむき葛藤している。
(これで少しはマシになるでしょう・・・後は彼らを信じるしかない)
幸い、彼らはF組にいるのが不思議なくらい聡明で仲間想いだ。これだけ忠告してやれば常日頃から目を光らせてくれるはず。
だがもし――――
だめだったのならその時は。ドイツに引きずってでも連れて行って私が管理する。そう決意を固めてマルギッテは最後の一句を放った。
「―――武神。貴女とはいずれ決着をつけます」
「・・・望むところだ」
言いたいことは言った。もうすぐ衛宮士郎がこの場に来ることでしょう。
――――interlude out――――
「おーい!」
と仲間の所へ戻る。だが――――
「「「・・・。」」」
「うっ・・・な、なんだよ・・・」
あんなに明るかったのに今はねめつけるようにこちらをみている。どうしたものかと視線を巡らすと、マルギッテと目が合った。
「・・・。」
だがそれもつかの間。すぐにそっぽ向かれてしまった。
(あー・・・こりゃあれだな・・・四面楚歌)
一切の退路なし。こうなってはもはや手に負えない。
「あー・・・悪い。俺が悪かった。もう、こういうのは無し、今後一切しません」
シュタッと垂直に頭を下げる。できるのは謝罪の意を示すことと金輪際やらないと誓うしかない。
「はぁ・・・やっぱ初日は荒れるなぁ」
「そうだねぇ・・・」
「ガクトに同意だ」
「・・・私も。次は無い。いい?」
「はい・・・」
京の言葉におとなしく従う。
(なんでさ・・・)
もうどうにでもなれと半ばやけくそ気味に反省する士郎だった。
「さ、帰ろう」
みんなで、応と返事をしてようやく帰路につく。
寮組とすぐ近くのガクトと別れ、百代と一子の川神院を目指す。
テクテクと歩く。
その間百代はずっと無言だった。
(まぁ無理もないかな・・・)
アレは必要だった。彼女にとって孤独はそれだけ重くのしかかり、歪みは酷かったのだ。
でもきっと彼女は立ち上がれる。変われる。そう信じて―――
川神院に到着した。すると門前に学園長がいた。
「すみません。遅くなりました」
「まったくじゃ。心配かけおって」
そう言いながらも鉄心は柔和に笑っていた。
「・・・。」
ついても何もしゃべらない百代。その百代に声を掛けてやる。
「百代。ついたぞ。・・・明日も早いんだろ?今日はもう寝よう」
なるべく気を負わせないようにいう。それでも百代はしばらくの間動かなかったが、
「・・・ジジイ」
「わかっておる。ほら、行きなさい」
眠る一子を鉄心が優しく受け取り、
「士郎」
「なんだ?」
返答はない。つかつかと歩いてきて
こつん、と胸に頭が付いた。
「ごめん・・・!」
服をぎゅっと掴まれる。ポタリ、ポタリ、と雫が落ちる。
「ごめん・・・!!」
一滴、一滴だったのがパタパタと雫が落ちる。
「ごめん・・・!!!」
嗚咽を漏らして。涙を流して。彼女は泣いていた。
「・・・お相子、だろう?百代はもう大丈夫。俺ももうやらない。だから―――」
そこから先の言葉は出なかった。うまい言葉がみあたらなかった。
ただ―――
「うん・・・!もう・・・間違えないから・・・!!」
むせび泣く彼女の頭をそっと撫でた。
みなさんこんばんわ。毎晩遅くに投稿しているダメ作者です(土下座)
今回は色々とまとめれたかなぁと思います。でもやっぱり同時キャラ数が増えると、てんてこ舞いになってしまいます。
後半部分、話数の中でかなりグロに迫っている描写がありました。苦手な方ごめんなさい。ただ、あの場面はマジ恋ではなくfateのギルガメッシュにぶった切られたり、エミヤにズタズタにされたり、剣が体から生えたり・・・最前線でボロボロになる士郎を描きたかったんです。酷い話ではありますが、ボロボロのヒーローってかっこいいんですよね・・・
そしてマルさんはついにプッツンしました(笑)描写は少ないですが、士郎が身を鰹節の如く削りまくってるのが川神学園には広がっています。ただでさえ気になってる人がそんな蛮行をしてたらこう思うかなぁと思った次第です。
モモ先輩はね・・・うんちょっとやりすぎたかなぁと思わなくもないのですが、地上最強。対等な者がいない。その逆をやろう!と思ったらこうなりました。イメージ壊れたらすみません。でも後悔はありません(キリッ)私の作品はこれで行きます!
たくさんの感想ありがとうございます。暖かいコメントばかりで、怖がっていたのが感想ボタン押すの楽しみになってしまいました。至らないところがたくさんあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!