真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さまこんばんわ。作者です。いつもこのような駄文を読んでいただきありがとうございます。

感想読みました。予想していたとはいえ厳しいお声が多かったですね。そこで幾つか言い訳と言いますか・・・補足をさせていただきたいと思います。

・槍ニキの話は長物を扱っているから出したのではありません。彼の精神性、そして勇猛さが、一子のテーマである勇:何事にも恐れず挑んでいく:(公式サイト様より)に合っていると考えたからです。他の偉人を知る方、特にカルデアのマスター様達はそれならもっと似合ってる相手が居たんじゃないか、と思われる方もいるかも知れませんが、そこはやはり、英霊ではない衛宮士郎が実際に出会った相手という理由も選んだ理由の一つです。

・士郎はルー師範代と一子の鍛錬を削って提案をしたに過ぎません。一子の自主練はともかく、ルー師範代の教えは川神院のものです。そこにある意味ケチをつけたわけですからあくまで自分ならこうしますという代替案を書き記した感じです。会議などで否定をするときは同時に違う案を出さなければいけない。ただ嫌だから、ただ気に食わないから。なんて通用しませんよね。特に学生時代、委員長や社会で活躍する方々は何かを遂行、または決断をしなければいけないので理解してもらいやすいかなぁと思います。ちなみに作者は演奏する曲を決めなければならない時があり、これをやろうと言ったらヤダと言われ、では君は何の曲がやりたい?って聞いたら何でもいい、と言われ途方にくれたのが今ではいい思い出です。

・士郎、またはエミヤの話は私の考えるストーリー上まだ絶対に出してはいけないのです。ネタバレになってしまうのでここではそれしか言えません。

長くなりましたが次回の続きです。よろしくお願いします。


夢/理想に向かって

「よーしワン子。その調子その調子」

 

「よっ・・・ほっ・・・」

 

一子の決意と覚悟そして潜在能力の限界突破。新たな鍛錬法と新・川神流の話の後。ようやく動けるようになった一子は百代と一緒に歩行練習からしていた。

 

「うん。うん!分かってきたかも!」

 

「・・・こらこら。あんまり調子に乗るな。そんなことすれば―――」

 

ドシュン!

 

「うひぁあーーーー・・・・」

 

凄い音を立てて空中へと打ちあがった。赤い髪がなびいてまるで花火か何かのように見える。命名、ワン子花火。

 

「ぁぁぁああああ!」

 

「よっと!」

 

ぎゅむ!っと落ちてきた一子を百代が抱きしめる。

 

「大体10歩に一回・・・打ちあがるな。まだまだ先は長そうだ・・・」

 

ふうむ。と腕を組み考える士郎。

 

なぜ彼がこの場にいるのかと言えば、彼が提案した鍛錬を原案として新しい訓練メニューを鉄心と師範代達が話し合うので自分はお役御免になったからだ。

 

本当は自分にも色々話を聞きたいと言われたが、

 

『・・・いや、これ以上俺が口を出すのは良くないと思います。そもそも俺の剣は我流で流派も何もあったもんじゃないので』

 

『でもお主、川神流の技つかっとったじゃろう』

 

『あれは所詮猿真似ですよ。初めて使いましたし』

 

『・・・そうじゃったのう。お主最近川神に来たんじゃっけ。・・・?じゃあお主どこで川神流を―――』

 

『おおっと。一子が心配だ!百代はちゃんとしてるかなー!!』

 

『あっ!コラ待たんか!』

 

『待てと言われて待つ奴がどこにいますかね!』

 

と、ぶっちゃけ色々とボロが出そうになったので逃げて来たのだが。三十六計逃げるに如かず、である。

 

 

 

 

「やっぱり重りとかつけるか?」

 

と考えた士郎だが、

 

「いや。重りなんか付けたら外した時にまたすっ飛ぶだろ。こうやって体に少しずつ覚えさせていくのが一番なんだよ」

 

「・・・そういうものか」

 

気に関しては全くと言っていいほど知識が無いので、士郎は本当に見守ることしかできない。一応調べはしたのだが・・・

 

(・・・なんでもアリすぎだろ。万能スーパーパワーか?)

 

と、調べれば調べた分だけなんかよくわからんけど、なんにでも使える超スゴイ力ということしか彼には分らなかった。

 

ドヒュン!

 

「ひゃあああああ!」

 

今度は弾丸のように踏み出した先に真っすぐにすっ飛んでいく。

 

「おっとと・・・そら、頑張れ一子」

 

「・・・えへへ。ありがとーー!」

 

受け止めた士郎にニッパリと微笑んでまた歩き始める。

 

彼女がこうして初日の、それも覚醒して僅かな時間ですぐに鍛錬を始めたのには理由がある。それは今週の金曜集会のため。

 

最初は、士郎か百代が連れて行くと言ったのだが、

 

『ダメ!自分の足で行く!』

 

と一子が断固拒否したのだ。百代は今回だけでも・・・と言ったが、やだ!とやっぱり拒否。結果、大人しく見守ろうということになった。

 

「しかし、なんだな。まるで歩き始めた子供でも相手にしているみたいだ」

 

苦笑を浮かべてヨタヨタと歩く一子を見る士郎。

 

「はは!そうだな。いつか私にも―――」

 

そこまで言ってボン!っと百代の顔が真っ赤になった。

 

「ん?今なんて言ったんだ?」

 

「な、なにも言ってない!何も言ってないぞ!」

 

とブンブンと頭を振る百代。お相手は誰を想像したのかはさて置き、慎重に一子の様子を見る。

 

「なんか耳赤いぞ」

 

「やかましい!」

 

クワッ!っと威嚇する百代。人が折角気を静めようとしているのに、この男はすぐ絶妙なタイミングでボケるのだ。

 

「?なんで怒ってるんだ?」

 

「いいからワン子に集中してろ!」

 

もうこの病気とも言える特徴的難聴は死んでも治らないだろうなと百代は思う。

 

「ところで、妹の心配をするのもわかるが、百代は鍛錬しないのか?」

 

「一応きちんとやってる。現在進行形で」

 

と言うので本当かどうか確かめるため、

 

「―――同調、開始(トレース・オン)

 

と魔力を走らせる。見えたのはうねうねと体表面の魔力が安定しない一子とその一子の体を気ごとさらに大きく覆う百代。一子の気は急に引っ込んだり、噴出したり、あるいは体のどこかに突然移動したかと思えば一点で膨らんだり。暴れ馬という言葉では表現しきれないような状態だ。それを百代の気が、引っ込みすぎたら手を引くように導き、噴出したらそれを大気に逃がさないように上手く循環させ、体のどこかに移動し膨らんだら破裂しないように少し抑え込む。

 

一子の不安定さを支えるように気を微細に変化させ対応している。幸か不幸か、一子の不安定さが百代の集中力と気のコントロールを鍛えているような状況だ。

 

(いい姉妹だな。互いが互いの為に必死で努力してる)

 

その様子を見てどこか安心を覚えた士郎はそれまで身構えていたのをやめ体を動かして準備運動を始める。

 

「ん?おい、士郎なにするんだ?」

 

突然、準備運動など始めた士郎を見て不思議に思った百代。

 

「当然鍛錬だ。今の所、一子は百代に任せた方がよさそうだし、俺は訓練生の皆さんに混ぜてもらって鍛えてくるよ」

 

「そうか。そういうことならジジイや他の師範代にも伝えておく」

 

「頼んだ。一子、頑張れよ」

 

「うん!士郎も頑張って!」

 

「おう」

 

そう言って士郎は訓練生たちの元へと向かう。

 

 

 

そうして時は過ぎる。一子と百代は互いに鍛錬を続け、衛宮士郎はこの世界の武術家達と腕を競い、新たな刺激を受ける。

 

「今日はありがとうのう、士郎君」

 

「こちらこそ。いい経験をさせてもらいました」

 

辺りは既に暗くなり、行きかう人は少なく帰路へと向かっている。

 

「なに、この程度のこと。君がもたらしてくれたものに釣り合わんかもしれんが、君の糧となってくれたのならわしも嬉しい。またいつでも来なさい」

 

「ジジイ何言ってるんだ。コイツはもうワン子の師匠みたいなもんだぞ。もっとたくさん来てもらわなきゃ困る」

 

そう言って百代も笑みを浮かべて、また来いよ、と拳を突き出す。

 

「・・・おう。一子も。あんまり無茶せず、しっかり休んで強くなれ」

 

「あったり前よ!一歩一歩確実に!勇往邁進!」

 

コツン、と三人の拳がぶつかり合う。

 

「それじゃあこれで。明日も来るから。じゃな」

 

そう言って士郎は川神院を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

去り行くその背中をいつまでも見続けていた百代がふっと鉄心の方を見る。

 

「ジジイ。好きな人、できた」

 

言葉少なく彼女は自分を可愛がり続ける鉄心に言う。

 

「そうかそうか。―――じゃが、アレは一筋縄ではいかぬ相手じゃぞ?」

 

それを聞いて嬉しそうに、寂しそうに鉄心は言う。

 

「わかってる。あいつはどうしようもない鈍感野郎だけど、それだけじゃない」

 

あいつはまだ隠してる。何か大きな、途方もないことを。それでも彼女は諦めない。この胸を満たす衝動に正直に。己の心に嘘をつかず。

 

「お姉さま。アタシも応援してるから!」

 

散々気を放出し、それでも僅かとは言え鍛錬をした一子は、本当はもう立ってるのも辛いはずなのに。そんなこと一つも顔に出すことなく活力に満ちた笑顔を見せる。

 

「ありがとう。ワン子。さ、戻ろう。今日はゆっくり休んで、また明日だ!」

 

「おおーー!!!」

 

そう言って百代と一子は二人三脚のように肩を寄せ合って中に戻っていく。

 

「彼には感謝してもしきれんなぁ・・・」

 

そんな可愛い孫娘たちの勇ましい姿を鉄心はどこか切なげに見送る。

 

「わしももっと鍛えちゃおうかの」

 

なんだか追い越されるどころか置いてきぼりにされそうに思った鉄心はそう呟くのであった。

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

 

 

暗い夜道を道を間違うことなく歩く。徐々に道行く人数が減り、そうしてついにいなくなる。人の全くいない暗い夜道は静けさと相まって若干不気味な雰囲気を醸し出す。

 

そんな中を士郎は歩く。ここは屈強な川神の人間をして近づかぬ道であり、自らがそういう風にした(・・・・・)道であるのだから彼に恐れなどない。だが―――

 

「・・・。」

 

ピタリと彼が足を止める。その眼は鋭く、暗闇だというのにしっかりと周囲を映し出す。

 

気配を感じる。こちらを見つめる視線が三つ。そして、

 

(結界が破られているな)

 

彼が仕掛けた人払いの結界。その起点となるものが無い。

 

この世界に魔術は今の所確認されていない。故に自分程度の魔術でもかなりの効果を発揮していた。しかしそれが破られている。

 

「・・・。」

 

ヒイィン。

 

魔力を流す。体内に眠る27の魔術回路に魔力が走る。

 

そして、こちらを見る視線の内、一つと目を合わせる。

 

「・・・ッ」

 

意図は正しく伝わったらしい。

 

ガサガサと雑木林を抜けて視線の主が現れる。

 

「こんな夜更けに何用かな、お嬢さん」

 

現れたのは黒い中華風の服を纏った黒髪の美女。

 

「流石だな。武神を破ったという噂は本当らしい―――手合わせ願う」

 

チキ、とその手に握る槍を構える。しかし士郎はバスケットを手に持ったままその女性を見る。

 

「おやおや、随分と喧嘩っ早いことだ。私のような一般人にそのように殺気をぶつけられては身がすくんでしまうよ」

 

と肩を竦める士郎。その様子は非常に無防備に見える。だが女性は槍を構えはしたものの一向に彼へと襲い掛かる様子がない。それはそうだ。なぜなら―――

 

(飄々としているし武器も持っていない。けど、隙がない・・・!)

 

張りつめる空気の中、ジリ、と彼女の足が地を擦る。その様子を見て彼は尚おかしそうに言った。

 

「目的はなんだ。と、聞いても答える様子ではなさそうだ。ならば来るがいいさ。そこの二人(・・・・・)も含めて相手をしてやる」

 

「!!!」

 

瞬間、槍が走る。鋭い刺突を紙一重で躱し、お返しとばかりに、手に持っていたバスケットが投げつけられた。

 

ザン!

 

しかし所詮はただのバスケット。槍の一振りで両断される。しかし女性は驚くことになる。手に何も持っていなかったはずの男の手に黒い中華風の短剣が握られ、一瞬で懐に入られたからだ。

 

ガン!

 

俊足で詰められ、振るわれた一撃を槍で防ぐ。だが―――

 

(くっ・・・!重い!!!)

 

受けきれず後ろへと弾き飛ばされる。

 

「史進!!」

 

「あいよー!」

 

後ろに弾き飛ばされた彼女と入れ替わるように、別な背の低い少女が獣のように突撃してくる。

 

「わっちの棒は天下無双だぜ?」

 

鋭い刺突の連打が彼を襲う。

 

「・・・。」

 

しかしそれは彼に届かない。黒い短剣一本で繰り出される刺突を防ぎ、逸らす。

 

キン!ガン!ガイン!

 

鋭く重い一撃を反らし、ある時はあえて短剣を叩きつけることで弾き返し、反撃とばかりに斬撃を放つ―――!

 

「ひゅう!わっちの棒にそんな短剣一本でついてくるたぁやる、ね!!」

 

突きだけでなく棒を横薙ぎに振るい、さらに遠心力を利用して大上段から叩きつける。

 

ガン!

 

だがそれを事も無げに片腕で弾き返す。しかし、彼女の一撃は相当に重かったのか、彼の態勢が崩れた。

 

「リン!」

 

「わかってる!」

 

隙あり。とばかりに最初の黒髪の女性が、態勢が崩れ、がら空きとなった左側面から槍を振り下ろす。

 

それでも彼は防ぐだろうが所詮生身の腕。彼は右手にしか武器を持っていない。このまま左腕で彼女の槍を受ければ確実に腕を粉砕する。だが―――

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

腕を砕くはずの一撃を、突如左手に現れた白い中華刀が彼女の槍を弾き、叩きつけた反動で中に浮いていた少女の握る棒を彼女ごと蹴り飛ばした。

 

「二刀使い・・・!!」

 

「へへん!面白くなってきた!」

 

黒髪の女性の槍と少女の棒が同時に彼を打ち据えようと迫る。

 

キン!ガン!ギン!ギィン!

 

それを彼は白と黒の中華刀を手に、弾き、防ぎ、逸らす。だが流石に辛いのか二人を弾き飛ばし後ろへ後退しながら両手に持つ短剣をそれぞれに投げつけてくる。

 

キン!ガン!

 

それを棒と槍が弾き返し再度二人が突撃する。

 

「武器を捨てるとはまだまだ甘いね!」

 

「史進油断するな!」

 

無手となった彼に史進と呼ばれた少女の棒が迫る。しかしそれを、いつの間にか右手に握られた黒い短剣が迎え撃ち、逆側面から迫る槍を白い短剣が切り払う。

 

キン!ギシィ!

 

「また白い短剣が・・・!やはりお前、異能者だな!」

 

「さて、どうかな」

 

リンと呼ばれた女性の問いに答えず、ひたすらに彼は二人の攻撃を捌き続ける。

 

キキン!ガィン!ドゴン!

 

その光景はどんな冗談か。女性と少女の槍と棒は川神にいる武人の中でもダントツであろう。それをたった一人で、たった二本の短剣と体術で相手するこの男は一体何者なのかと女性は思う。

 

(だけどそれもそろそろ・・・)

 

確かに彼は凄まじい。自分と史進を同時に相手をする人間など彼女は見たことがない。だが彼は一人。いかにその腕が人知を超えたものであろうと手数には限界がある。

 

ギシィ!

 

示し合わせたように女性と少女が同時に攻撃する。それを彼は防ぐが二人は攻撃することよりも彼の足を止め、両手を使わせることに注視していた。

 

「青面獣!!!」

 

「これで詰みーー!」

 

青髪の少女が待っていたと言わんばかりに二刀を以て彼のがら空きになった背中に上空から切りかかる。

 

これで詰み。いかにどこからともなく剣を取りだそうとも、いかに二人の相手が出来ようとも、彼は人間であり一人。確実に隙は生まれる。ましてや自分と史進の腕ならば――――

 

「!!?ダメだ!」

 

それが何かは分からなかった。ただ己の直感が最大限に警鐘を鳴らし、迷わず己の眼力(・・・)を使い見えた光景に、折角足を止めさせたにもかかわらず彼女は彼を振り払って背中から切りかかろうとしていた青髪の少女に向かう。

 

――――直後。

 

ダンダンダンダン!!!

 

一体何の冗談か。上空から数多の剣が降り注いだ。

 

「ぐあっ!!」

 

「うっ・・・!」

 

攻撃モーションに入っていた青髪の少女に防ぐすべはない。故にギリギリ飛び込んだ女性が降り注ぐ剣を弾くが、如何せん数が多い。降り注ぐ剣を捌き切れず、剣が腕を穿ち、体を切り裂く。

 

「リン!!青面獣!!!」

 

まさかの事態に棒の少女が彼を押しのけようと苛烈な攻撃を開始する。だが―――

 

「一つ忠告してやろう。―――背後には注意することだ」

 

背中を狙った嫌がらせか。偉そうに上から目線で言われた言葉に少女は怒りを覚え、

 

「その手には「ダメだ史進避けろ!!!」!?」

 

黒髪の女性が傷を負いながらもあらん限りの声で叫ぶ。その声に嫌なものを感じた史進は言葉に従い背後を棒で払う。

 

ガカン!

 

それは白と黒の短剣だった。男の手にあったはずの双剣が彼女の背中を両断せんと回転しながら迫ってきていたのだ。

 

「そら、隙だらけだ」

 

背後を払うため背中を向けた少女の横腹に鋭い回し蹴りがめり込む。

 

「がっは!!」

 

ボギ!っと鈍い音を立てて横にすっ飛び脇にあった空き家へと突っ込む。

 

ドゴン!!

 

土煙と空き家の残骸が舞う。

 

「チェックメイト。と言った所か。まだやるかね?」

 

背後で致命傷を辛うじて免れた二人に問う。その手にはまた双剣が握られている。

 

「・・・私達の負けだ」

 

槍を捨て、両手を上げる。惨敗だった。片腕を貫かれ、体はズタボロ。唯一彼女が守った青髪の少女は掠り傷程度だが、この男と一対一で戦うのは自殺行為。蹴り飛ばされた史進は恐らく重症だ。

 

「・・・ふむ」

 

すぅっと彼の手から双剣がまるで風景に溶けるように失われた。これ以上の追撃はしない。ということだろう。

 

そして彼は何事もなかったかのように彼女たちの脇を通り過ぎる。

 

「ま、まて!話が・・・」

 

「今宵はここまでだ。早く治療せねば命が危ぶまれるぞ。話なら後日またこの場に来い。ただし次に戦いを望むその時は―――」

 

ギシリと空気がなるような殺気が叩きつけられる。この程度では済まさない。そう物語っていた。

 

「・・・ッわかった。傷の治療をしたらまたここに来る」

 

「そうか」

 

それだけ言って彼は立ち去った。

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

男が立ち去った後。リンと呼ばれた女性、林冲はようやく息を吐く。

 

「おい、青面獣、動けるか?」

 

「大丈夫ーー。むしろアタシより林冲の方が重症でしょ」

 

そう言ってむくりと起き上がる。まるでそれをわかっていたかのように、周囲に突き立っていた無数の剣も林冲の腕を貫いていた剣も風景に溶けた。

 

「史進は?」

 

「大丈夫・・・ではないよね。もろに横から受けてたし。骨何本かいっちゃってると思う」

 

そう言って史進が突っ込んだ空き家に目を向ける。こうして起き上がってこないのだからよほどの威力で蹴り飛ばされたのだろう。

 

「恐ろしい相手だった・・・」

 

「ほんとにねー。林冲が来なかったらアタシ、ズタズタの標本にされてたよー」

 

悍ましい言い方に思わず林冲は涙を浮かべて、

 

「その言い方はやめろ!本当に・・・視た(・・・)んだから・・・」

 

そう言って俯く彼女はガタガタと震えていた。

 

彼女の眼には特殊な能力がある。喪ってしまった親友から託されたそれは数秒先の未来を見ることが出来る。その眼にありありと映ってしまったのだ。

 

―――中空から降り注ぐ剣に貫かれ縫い留められる彼女の姿が。

 

―――史進が背後から迫る双剣に胴を断たれる姿が。

 

「う、ううううーーーー・・・!!」

 

「あーもう泣かない泣かない。林冲のおかげでこうして生きてるんだから。大丈夫ー」

 

泣き出す彼女の頭をよしよしと撫でる。彼女は強いし自分たちのまとめ役だが、過去のトラウマから喪うことをとても恐れる。実際はとても繊細な女性なのだ。

 

「あたた・・・リーン、青面獣、大丈夫かー」

 

傷を負った脇腹を抑えて史進がゆっくりと歩いてくる。

 

「史進!大丈夫なのか!?」

 

「わっちはそんな簡単に死なない・・・ってー言いたいけど、リンの声が無かったら確実に死んでたなー・・・あいたた・・・」

 

未だ手に残る、あの回転して飛んできた双剣の感触を思い出して身震いする史進。

 

「よかった・・・私はまた失う所だった・・・!」

 

そう言ってまた泣き出す林冲をあやす青面獣こと楊志。

 

「しっかし、次々と剣を取りだしやがって・・・わっちの棒相手に短剣一本で渡り合うわ、林冲が隙をついたと思ったらもう片方の手に白い短剣でてくるわ・・・挙句の果てに剣の雨降らせてくるわ・・・なんなんあのバケモン」

 

うえーっと顔を顰める史進。実際本当に化け物じみた奴だったのだから仕方ない。そもそも林冲と史進を同時に相手をして、一切引かないあの男は何なのか。

 

「ぐすっ・・・でも、収穫はあった」

 

まだ泣きべそをかいているが林冲が言った。

 

「あれは間違いなく予言された金銭豹子になりうる男だ」

 

「えー?確かにたくさん剣使ってたけどそんな大層なモンには見えなかったけどなー」

 

と史進が今一度先の戦いを思い出す。白と黒の短剣。降り注いだ直剣。どれも大した資質を感じなかった。

 

「・・・いや。確かに私達に降り注いだ剣は普通の剣だけど、あの白と黒の短剣は違う」

 

あれからは非常に強力な何かを林冲は感じ取っていた。もし彼女の予想が正しければあれは・・・

 

「アタシ達の国の剣。夫婦剣、干将・莫耶。鍛冶師の干将が呉王の命令で妻を犠牲にして作った宝剣」

 

意外と物知りの楊志が補足する。

 

「えー!あれって失われたんじゃなかったっけ?」

 

「・・・なぜあの男が持っているのかは分からない。ただあの男の異能はどこからか剣を取り寄せてるんだと思う」

 

「あーそれならわっちの異能も使えなかったのも納得だわ」

 

「少なくとも干将・莫耶を複数持ってる時点で地孤星としての素質はあると思う・・・・ゴソゴソ」

 

「そいやあいつ最初に投げたやつと同じの持ってたな」

 

「そういうことだ。だからあいつにはひああああん!!」

 

と真面目な話をしていた彼女らだったが突然林冲が悲鳴をあげた。

 

「ちょ、青面獣!?何して・・・」

 

「スーハースーハー・・・やっぱり林冲のパンツサイコー・・・」

 

「ちょ!こんな所でやめ・・・」

 

「あーでたよ変態。コイツもそれなりに怪我負ってりゃ大人しくしてたんだろうが・・・」

 

「大丈夫ーあの男が仕掛けてた結界また張っておいたからースーハースーハー」

 

「やめ、痛っううう~~~~」

 

傷が痛み楊志を引きはがせない林冲。

 

――――楊志が青面獣と言われる由来。それは・・・女性のパンツの匂いを嗅がないと気分が悪くなり顔が青くなるからである。

 

「あーあーわっちは巻き込まれたくないからいくぜー」

 

「ちょ!史進!まっひゃあああ!」

 

「うーんパンツサイコー・・・」

 

真正の変態に絡まれる林冲。先ほどのピリリとした空気はどこへやら。割と重症なのにそんなことしてるあたり、意外と余裕があるのかも知れなかった。

 

――――interlude out――――

 

 

突然の戦闘を終えた士郎は今後の事について考える。

 

(やつらの目的は後々知るとして・・・林冲に史進とは・・・キナ臭くなってきたな)

 

記憶が正しければ、水滸伝に登場する梁山泊と呼ばれる場所に身を隠したと言われる腕利きの者たちのことだ。

 

(彼女達の武器は刃引きなどされていなかったし何よりあの雰囲気。間違いなく実戦経験持ちだ)

 

いよいよ裏の人間が自分を嗅ぎつけたことになる。これまで日を浴びて多少緩み始めていた気持ちを引き締める。

 

(・・・いい加減この場所を隠し通すのも難しいか)

 

それは表と裏二重の意味でだ。表としては誤魔化し続けるのもいいが、いい加減嘘も苦しくなってきたし、何より九鬼の人間が自分を嗅ぎまわっている。挙句、裏としては人払いの結界に気づく怪しげな人間達にまで追われる身となってしまった。

 

(この生活も・・・気に入っていたんだがな・・・)

 

ふっとこの世界でできた仲間達との生活に思いを馳せる。楽しい親友達との日々。それは得難く尊いもの。一度裏の道に走った自分には眩しすぎるものだ。だというのに、自分はその仲間達に入れてもらい、あまつさえその幸せを与えてもらっている。なのに自分は彼らに嘘や隠し事をしている。それがなんとも歯がゆかった。

 

(問題は山積みだが・・・なに。彼らくらいは守ってみせよう)

 

それはエミヤシロウ(正義の味方)ではなく、彼らの友、衛宮士郎(自分自身)の想いとして。星々がキラキラと光る夜空を見上げて想うのだった。

 




だいぶ積め積めになってきて以前より書くことが多くなり、投稿が遅くなってしまってすみません。一子強化計画は本格的に始動し、士郎は表と裏に板挟みになり揺れています。

それと梁山泊の登場です。彼女らを書くにあたり水滸伝を色々と見たんですが・・・やばいです。学のない作者はもうすでに頭パンクしそうです(土下座)

今回士郎はやーっと投影を使いました。おまけにマジで殺す態勢でです。fate寄りじゃねぇか!とか、いや強すぎ。士郎じゃありえんだろ。とか様々な意見あると思いますが、主人公、大和じゃないので・・・英霊一歩手前(というか片足突っ込んでる)士郎なので・・・優しい目で見てもらえると助かります。

次回ついに我らがキャップが大冒険から帰ってきます。彼は一体なにを拾ってくるのか・・・私の予想ではふざけんじゃねぇ!とかこの小説も終わりだなとか言われそうでガチで怖いです。でも前々から決めていてこうして書いている今も変える気は起きないのでこのままいきます。次回もよろしくお願いします。
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