前回色々とフラグを立てまくりましたが一つ一つ回収していきます。
ちなみになんですが、調べていてわかった驚きの一つをご紹介。
川神のモデルになった神奈川県川崎市から、キャップが行った名古屋までなんですが・・・車で、しかも有料道路を使って役4時間半、その他の道路で最大6時間の距離です。距離数にして約343~453km。大まかな調べだし、アニメでキャップは自転車がパンクして足止めを食らったとモロにメールした描写しかないので、はっきりとは言えませんが、目的地が名古屋ではないのは確かなのでもっと走ってることになります。
作中でもとことんイケイケのキャップですが彼もまたスーパー川神人のようです(白目)
とぼとぼと全く人気のない道を歩くのは二カ月ほど前、この世界にやってきた衛宮士郎。この地にきて色々と未体験の経験をしている彼であるが、今最大の難問に直面していた。
「何かやる奴だとは思っていたけどなんでよりにもよってコレなんだよ・・・」
手に持ったバスケットに入っているソレを見て酷い頭痛に襲われる士郎。
バスケットに入っているのは見つけた本人から半ば奪うようにもらい受けたボロボロの杯。劣化が酷く、土や泥にまみれ、所々穴の開いたそれは到底お宝とは言えない外見をしており、辛うじて崩れず形が残っているようなものだった。
普通の人間が見れば何の価値もなさそうに見えるが、恐らくこの世界唯一の魔術使い、衛宮士郎から見ればそれはとんでもない代物である。崩れかけた杯。その正体は・・・・
―――聖杯
神の子イエスが最後の晩餐に使った、イエスが処刑された時その血を受けた、など様々な諸説が存在する聖遺物のことである。伝承や真偽はともかくとして、彼の所属する魔術の世界では大きく意味が異なる。それは、
―――あらゆる願いを叶える万能の願望機
大型の儀式、魔術礼装などを用いることにより、蓄積された膨大な魔力を使用して大抵の、それも魔術の世界で唯一無二の奇跡、『魔法』へと至ることすら可能な馬鹿げた代物である。彼が元の世界で実際に経験した聖杯の儀式、聖杯を手に入れる為の戦い。第五次聖杯戦争。聖杯に選ばれた七人のマスターと七騎の使い魔(サーヴァント)がたった一つのそれを巡り合って殺し合いを繰り広げるものだった。
この聖杯戦争では七騎の使い魔とそれぞれのマスターが契約するわけだが、この使い魔というのがまたとんでもない代物で、過去の偉人や伝説に出てくる人物を七つのクラスに当てはめることで英霊の座から現実世界へと呼び出し、マスターは令呪というサーヴァントに対する三つの絶対の命令権を以て闘争に参加するのである。
しかし、彼の参加した冬木の聖杯は過去のイレギュラーにより、願いを呪い殺すことでしか叶えられない最悪の欠陥品として存在していた。それを第五次聖杯戦争を生き抜いた衛宮士郎と遠坂凛が聖杯戦争終結後に気づき、時計塔のある人物と協力して解体することで事なきを得たが、もしこの最悪の聖杯が顕現していたならば、全人類を対象に呪いが具現化していたかもしれない。
とここまで色々語ったが。とにかくこの万能の願望機を彼の仲間のキャップがどこからか見つけ出してしまい、こうして彼の手の中に収められることとなった。
(今の所あの聖杯のような反応はないが・・・ダメだ。俺では詳細にコイツの状態を知ることが出来ない・・・)
思わずギリィ、と奥歯を食い縛る士郎。仮に百歩・・・いや実際一歩たりとも譲れないのだが、譲ったとして、本来の性能である、『膨大な魔力によって使用者の願いを正しく叶えるもの』ならばいい。それこそ他人に被害が及ぶような願いを叶えなければいいのだから。もちろん、そんな都合のいいものなど存在しないが。
だがもし、冬木のような歪んだ願望機ならば一体どんな被害をもたらすか分かったものではない。
衛宮士郎はかつて冬木の聖杯の解体に立ち会っているが、状況がその時とは全く異なる上、正規の魔術師でもなければ、高位の術者でもない士郎には、この聖杯がいかなるもので、現在いかなる状態にあるのか判別できない。
(ただでさえ問題が山積みだっていうのにこれじゃいくら足掻いても解決に至れない・・・)
元の世界、時間軸への帰還、この世界で化かし合いをしながらの生活。新たにできた守りたい人々。そして裏の人間の接触。そこにこの状態が確認できない願望機だ。いくらなんでも限界がある。一見、一つ一つ解決していけばいいように見えるかも知れないが、実際は四方をいつ爆発してもおかしくない特大級の爆弾に囲まれ、蜘蛛の糸ほどの道を綱渡りしているような状態である。
(ああッ!ちくしょうッ!どうすればいい!一体どうすればいいんだ!?)
限界まで思考を回すが一つとして解決策が見当たらない。もし一つでも爆弾が爆発すれば連鎖反応を起こして大変なことになるだろう。もし足を滑らせ奈落へと落ちれば、自分の守りたい人たちまで奈落へ道連れだ。
どんなに考えても答えはでない。解決策が見つからない。思考は空回りを始め、もはや酷い眩暈までしてきた。
と、現状に苦しみ悶える士郎だが、気配を一つ感じ取った。
「・・・。」
思考を切り替える。問題は山積み。解決策も見当たらないし優先順位もつけられない。だが一つわかっていることは、
(コレの存在を、コレの意味を、これ以上知られるわけにも誰に渡すわけにもいかない)
それだけは間違いなく言えることだった
人の通らぬ道にて見覚えのある気配を感じそちらを見る士郎。
(冷静になれ。思考を切り替えろ。状況は待っちゃくれない)
そう己に言い聞かせ近寄ってきた気配に声をかける。
「いつぞやのお嬢さんかな?話をしにきたのか、それともまた戦闘がお望みかね?」
冷静にと言い聞かせているが、苛立った声を上げてしまったことに内心舌打ちする。
しかし口から出た言葉はもう戻せない。彼の声に反応して茂みから黒髪の女性、確か林冲と呼ばれていた女性が姿を現す。
「そんなに剣呑な声を上げないでくれ・・・約束通り話にきただけだ・・・」
そう言って持っていた槍を脇に放り投げて両手を上げる林冲。その腕には包帯が巻かれており、体の色々な場所にもまだ治療痕が残っている。
「いきなり切りかかられた身としては油断ができないものでね」
「ううっ・・・その件に関しては謝罪する。本当にすまなかった・・・・」
涙目になりながら頭を下げる林冲。
(・・・あー畜生。甘いな、俺)
どうにも女性の涙には弱いことを自覚する士郎。思わず警戒が緩くなりかける。それを引き締め、
「それで話とは?できるだけ早くしてもらいたいのだが」
もう本人としてはこの爆弾を出来る限り遠ざけて布団を被って全てを忘れてしまいたい気分なのだ。
「た、頼むから落ち着いてくれ!私に戦う意思はない!他の二人も母国に帰らせた。武器もこうして手に持っていない・・・だから・・・」
怯えるように震える彼女を見て士郎は嘆息する。
(何やってんだ俺は・・・こんな女の子に八つ当たりなんかして・・・)
思わずガシガシと頭を掻く士郎。実に無様。みっともない。正義の味方が聞いて呆れると、少し冷静になれた。
「それで、話とは?」
もう一度、今度はきちんとポーカーフェイスを被って聞く。・・・今更遅いかもしれないが。
「その・・・込み入った話なのでどこか落ち着ける場所を・・・」
「なるほど。ではついてきたまえ。くれぐれも後ろから刺してくれるなよ」
「わ、わかってる!その・・・感謝する」
そう言って彼女は放り投げた槍を回収して、慌てて後をついてくる女性を待ちながら、
(そういえば、家に誰かを招くのは初めてだな・・・)
と、どうでもいいことを考えた。所詮、現実逃避である。
――――interlude――――
士郎のいなくなった秘密基地。士郎は半ば強奪に近い形でキャップの戦利品を手に用事が出来たと逃げるように帰ってしまった。
「しっかし士郎の奴、一体どうしちまったんかね?」
先ほどのやり取りを思い出してガクトが言う。
「あんな士郎、見たことないわー・・・」
「そうですね・・・いつも冷静で優しい方ですから・・・」
あまりの豹変具合に、一子も由紀江も俯く。
「・・・推測だが、いくつかわかることがある」
と大和が声を上げた。
「あいつは他人思いだ。多くの人助けをしてることからもそれはわかる。だから多分、キャップの持って帰ってきた杯が危険なモノだと知って無理やり持って行ったんだろう」
「だけど弟。アレからはなにも感じなかったぞ?」
と百代はあのボロボロの杯を思い出して言う。
「モモ先輩の探知に引っかからないならやっぱただの杯か?」
と強奪されたキャップ(後日お返しをすると言われた)が言う。
「そこだ。アレは傍から見ればどう見たってなんの価値もないガラクタだ。でも、士郎は秘密が多い。そしてその秘密は危険だとも推測できた。おそらく、士郎だけがあれが危険物だと理解できるんだ」
「うん。僕も大和に同意かな。僕には士郎が、必死に僕らから杯を遠ざけようとしてるように思えた」
二つ目の推測にモロが賛成する。
「そしてもう一つ。士郎が叫んだ
三つ目の懸念点を大和があげる。
「聖杯か・・・」
「ねぇねぇ、せいはいって何?」
悩むクリスに一子が説明を求める。
「・・・聖杯はキリスト教で神の子と呼ばれたイエスが、処刑される前の最後の晩餐で使ったとか、処刑されたイエスの血を受け止めたとも言われてる」
「うへぇ・・・つまりあれか?神様の血をぶっかけられたから聖なる杯ってか?」
「なんかそう聞くと逆に呪われそうだね・・・」
京の説明にげぇっと顔を顰めるガクトとモロ。
「仮にあれがその聖杯だったとして、なぜこんなとこにあるんだ?そういうのって基本、教会とかに祭られてるんじゃないのか?」
「かもな。だから、なんでこんなとこにあるのかと言ったのかもしれない。でも、ちょっと気になることがあるんだ」
そうして大和がカバンから何かを取り出した。
「これは・・・アーサー王伝説の本ですね!」
「ああ。以前士郎が騎士王について色々喋るものだから気になって図書室で借りて来たんだ。その中に・・・」
パラパラと分厚い本がめくられる。
「あった。ここだ」
大和が指さした所には『聖杯探求』の文字が。
「ええ?聖杯ってアーサー王の話にも出てくるのか?」
「そうなんだ。正確には円卓の騎士について書かれている所なんだが・・・」
またペラペラと本がめくられる。
「ここだ」
また大和が一定の所を指さす。そこには12人の円卓の騎士が聖杯を探しに出る、そしてそのうちの一人ガラハット卿だけが聖杯を見つけることができ、天に召されたと書かれている。
「って、見つけたはいいけど死んでんじゃねぇか!」
「しかも、道中で多くの騎士が亡くなってしまったとも書いてあるぞ!」
それをきっかけに輝かしいアーサー王の伝説は破滅へと向かうと書いてある。
「キャップ・・・天に召されなくてよかったね・・・」
「なんか俺、寒気してきた・・・」
ぶるりと身を震わせるキャップ。
「まぁ所詮創作の話だ。実際アーサー王の伝説は調べると滅茶苦茶な点が多い。でも、士郎は前、あたかもアーサー王を
そう言って大和はパタン、と本を閉じた。
「なんか士郎が来てから偉人の話とか伝説とかによく出会うようになったな」
「あいつ、みょーにそういう例出してくるからな」
「すごい博識だよね・・・」
「うん・・・でも士郎のはちょっと異常」
普段から読書を嗜む京をしてそういうのだった。・・・読んでいるのがどんな本なのかは知らないが。
「まぁでもいんじゃね?こういう推理とかすんのも楽しいしよ。何より士郎は俺たちのためを思ってアレを持って行った!それは俺の勘が正しいと言っている!」
ビシっと指さして言うキャップにまたガクリと肩を落とす一同。
「また勘かよ・・・」
「でもその勘がやたらと当たるのがキャップ」
「むしろ外れたことないわよね・・・」
「キャップだからなぁ・・・」
と一同彼の剛運具合にため息をつく。本当にこの男。運と行動力だけは凄まじいのである。ちなみに、寮の彼が寝泊まりする一室は、超強力なパワースポット化しているのは、彼らの中で周知の事実だったりする。
「それに!あいつは必ず秘密を明かすと約束した!だから大丈夫!」
「・・・そうだね。ちゃんと約束してくれたもんね」
「あいつは、まだ、って言ってた。それに危険を匂わせることも確認できたし、大方、俺たちを巻き込みたくないとかその辺だろう」
「士郎先輩は優しいですから・・・」
「シロ坊の美徳だけどみずくせーよな」
「士郎はいつもそうだ・・・困ったものだな」
なんだかんだ言って士郎はいつも誰かを気に掛けるのを彼らはいい加減学んだ。だから彼を信じようと思えた。
と、
ブルブル・・・
「ん?こんな時間に誰だ?」
百代の携帯が鳴った。
「・・・・。」
電話ではなくメールだったらしいそれをじっと百代はみつめ、ニィイッと邪悪な笑顔を浮かべた。
「なんかモモ先輩がやばい笑み浮かべてんぞ・・・」
「どうしたんでしょう・・・」
百代があんな笑みを浮かべるときは大抵大災害が起きることを皆は知っている。
「・・・姉さん、誰から?」
あえて内容は聞かずに誰からなのかだけ聞く大和。
「揚羽さんからだ。・・・・喜べお前たち!士郎の秘密、近いうちにこの私が暴いてやるぞ!」
凶悪な笑みを浮かべる百代に一同はひとしずの不安を抱えるが、これも士郎の自業自得だと見なかったことにするのであった。
――――interlude out――――
「さてここだ」
そう言って士郎は自宅として使っている屋敷へと林冲を招きいれる。
「こんなところに立派な屋敷が・・・」
道中からしてそうだが、こんな全く人気のいない場所に、広い敷地と立派な日本家屋があることに驚く林冲。
「少しそこで待っていてくれ。荷物を片付けねばならないのでね」
そう言って先に家の中へと入っていく士郎。しかし、それほど待たずして彼はすぐに出てきた。
「さ、入りたまえ。何もない所だが、腰を落ち着けることはできよう」
そう言って彼女を家の中へと迎え入れる。
「お、お邪魔します・・・」
控え目に断って彼女は履物を脱ぎ、中へと足を踏み入れる。
(なんだろう・・・人気がなくて不気味なのにすごく澄んでいるような・・・)
不思議な感覚に林冲はキョロキョロと見回しながら彼の後をついていく。
「さ、入りたまえ」
そう言って屋敷の一室に入る林冲。
(あ・・・あったかい)
それまで真っ暗だったのがふわっと明るくなり、室内を照らし出す。
穏やかな色をした木目調を基本とした家具にキレイな畳。彼の言う通り、置かれているものはテーブルに茶器、タンスなどの最低限のものしかない。
だが、隅々まで手入れの行き届いたその部屋は、心を安心させるような暖かな雰囲気だった。
「今お茶を入れる。好きな所に座って待ってもらえるかな?」
「ええっとその・・・お構いなく・・・」
思わず故郷の自宅のような安心感に先ほどまであった緊張がほぐされ、警戒心まで削がれてしまう林冲は戦闘時と同じ口調の彼の声にびくつきながらも台所に一番近い場所に正座した。
コポコポという音が静かな部屋に響く。そして彼が運んできたのは高級そうな緑茶だった。
「君はアジア出身のようなのでね。紅茶ではなく緑茶にしたが、よかったかな?」
「は、はい・・・ありがとう・・・ございます」
本来、敵地で食べ物飲み物を口にするのは得策ではない。自白剤や毒など仕込まれていたら命に係わるからだ。
だがこの心を温めてくれる空気は林冲の警戒心を急激に無くしている。
「・・・。」
どうしたものかとお茶を見つめる林冲。それをみた士郎はクスリと笑い、
「心配しなくてもただのお茶だ。私は食物に毒を盛るような無粋な真似はしない。それとも毒見が必要かな?」
片目で悪戯っぽく笑う彼に林冲は、
「ど、毒見!?い、いえ!いただきます!」
そう言って恐る恐る湯呑を口に運ぶ。
(あ、美味しい・・・)
故郷でも、訪れた戦地でも口にしたことのないような風味が口に広がる。お茶の葉だけでなく、入れ方も丁寧なのだろう。高級なだけではこうはいかないと林冲は思った。
喉を通るその暖かさにほっと息を吐く林冲。
「・・・どうやら緊張はほぐれたようだな。それでは、話を聞かせてもらおうか」
「・・・わかった。まずは自己紹介を。私は林冲。梁山泊百八星の一人。天雄星・豹子頭の林冲だ」
「これはご丁寧に。私は衛宮士郎。こうして人気のない所に住んでいるただの学生だよ」
そう言って自分のお茶を口にする士郎。
「それで?強者揃いの傭兵集団と名高い梁山泊が私になんのようかね?」
と士郎は本題に入ろうとした。
「・・・はっ!・・・!」
だが彼女ははっとして辺りを見渡す。大丈夫、気配はないと、緩み始めていた緊張を取り戻す。その様子がまるで眠りから覚めた猫か何かに見えた士郎はクッと笑い、
「安心したまえ。この屋敷には道中にあったのとは比べ物にならない人払いの結界が張ってある。さらに言えば、敵意あるものが近づけば知らせるものもな。そのように気を張らずとも、君が槍を手に暴れださねば何も起こらんよ」
そう言ってまた彼はお茶で喉を潤す。
「そういうわけで、本題に入ってもらってよろしいかな?梁山泊がなぜ学生の私など追ってきたのかね?」
そう言って彼は真っすぐに林冲を見た。
(のまれそうな眼だ・・・)
自分を見る眼は戦闘時ほど鋭くはないが、真偽を容易く見破るだろう。ゴクリと唾を飲み込み、ここに来た理由を話す。
「予言があった。地孤星・金銭豹子となりうる男がこの日本に現れると」
「地孤星・・・確か梁山泊で鍛治を担当する者・・・だったかな?」
襲撃後、水滸伝と梁山泊について調べていた士郎がそう答える。
「そう。それを確かめるために私達はここを訪れた。川神院や色々な所を回っているうちに・・・ここに辿り着いた」
林冲は姿勢を正し、嘘偽りなく答える。
「辿り着いた・・・ね。先ほども言ったが道中には人払いの結界があったはずだ。まずどうやってそれに気づいた?」
嘘は許さぬと鋭い目が林冲を貫く。その眼にドキリとしながらも、
「・・・梁山泊には気とは違う不思議な力、『異能』を持っているものが集まっている。その中の一人が異能を打ち消す力を持っているから気づけた」
「異能を打ち消す力とは。随分と限定的な能力だな。・・・まぁ、今回はそれに私の結界が破られてしまったのだから侮れんな」
っと、肩を竦め目を閉じる士郎。
(異能か・・・気とも違う魔術とも違う。完全に第三の力となるな)
そう考えて続きを促す。
「それで。なぜ私をその地孤星とやらだと思うのかね?確かに人払いの結界は張っているが、それは妙に付け回されているからであって君達から隠れ遂せる為ではない」
「私達も日本に来て色々調べた。貴方をドイツ軍と九鬼財閥が追っているのは承知している。別にそれについて言及するつもりはない。私達だって隠れて暮らす者だから。それとは別に、この前の戦闘で貴方が剣を扱う異能をもつことが重要だった」
その言葉に思わず舌打ちしたくなる士郎。
(手加減できなかったとはいえ、もう少し誤魔化すべきだったか・・・いや、過ぎたことを考えてもしかたあるまい)
「大した観察力だが、私はそれほどたいした力を持っているわけではない。残念だが、君たちの希望に添えるとは思えんな」
そう言って誤魔化す士郎。だがそれも苦しい嘘なのは承知の上だった。
「・・・この屋敷に入る時、鍛造所が見えた。貴方は武器を鍛えるんだろう?」
「確かに私は少々特殊な趣味を持っているが・・・所詮、趣味だ。程度など知れたものだろう」
「嘘だ!それならあの白と黒の短剣、干将と莫耶の説明がつかない!」
そう言って立ち上がる彼女を片目で見る士郎は少々驚いていた。
「ほう。なぜあれが干将・莫耶だとわかった?」
「勘だ。根拠はない。でもあの存在感は決して偽物ではない。これでも梁山泊の一員として様々な武器と槍を交えてきたが、あそこまで見事な作りと存在感を私は感じたことがない」
彼女の言葉にまたかと思わず思う士郎。
(なんなんだこの世界の住人は・・・)
ともすれば、英霊の持つスキルを個人個人が持っているのではないかと疑いたくなる。そうでもなければ聖杯の現物を自らの身体能力と運だけで見つけ出してくるキャップや、存在感を感じ取るだの、百代みたいな最強生物の説明が付かない。
(しかしこれはいよいよ困ったぞ・・・)
干将・莫耶は魔術・投影を使って生み出したものであって現物を自分で鍛えたわけではない。確かにあれには魔術的細工がしてあるが一から作ったわけではないのだ。これ以上突っ込まれれば魔術の存在をばらさなければいけなくなる。
(いくら何でも信用できん。彼女は傭兵だ。己の力と情報こそが売りだろう。そんな人間にまだいるかもわからない魔術師の存在を明かすわけにも・・・)
はてどうしたものかと考える士郎。確かに自分は剣を鍛える。だがそれも魔術ありき。異能だと言い張る手もあるが、じゃあなんでいきなり剣が何もない所から出てくるんだと言われれば詰みである。ましてやこの先、『宝具』を使わないことは、この世界の住人のレベルからして考えにくい。
(む・・・万事休すか・・・いや、まて逆に考えるならば・・・)
彼女達の本懐は自分の能力を明らかにすることではない。そう考えて一手打つ。
「・・・わかった。私に異能があることは認めよう。確かに剣を鍛えもする。だが君はそれを知って、そもそもどうしたいのかね?」
そうだ。彼女の目的がはっきりしていない。そちらに話を持っていくことで、話を自分の力から彼女の目的に変える。
「それは・・・できるなら私達と一緒に梁山泊に・・・」
言いずらそうに彼女は口ごもる。
「それは出来んな。仮に私の力が地孤星とかいうものに相応しいとしても、私は梁山泊に属するつもりはない。それとも、私に拒否権はないのかね?」
「・・・いや、強制はしない。でも、貴方を取られるわけにはいかない」
と、林冲は気になる単語を口にした。
「取られる?つまり私をつけ狙う集団が他にも存在すると?」
その言葉に林冲は頷く。
「梁山泊と長年争っている『曹一族』も、貴方の情報を得て探している」
「・・・チッ」
今度こそ舌打ちがでた。ただでさえ敵が多いというのにまた新しい勢力が出てきた。それもまた裏の人間のプロ。相手にするにはいささか無茶がある。
(いるか分からぬ魔術師、ドイツ軍、九鬼、梁山泊、曹一族とやら・・・一体いくつ相手にすればいいんだ・・・)
いい加減手詰まりだ。一人では対処しきれない。
「・・・仮に、私が何処かに救援を依頼した場合は?」
「それはやめた方がいい。なにもなければ曹一族は貴方だけを狙ってくるが、横やりを入れられたらその人物の回り一族郎党全てに復讐する」
「つまり巻き込めば皆殺しというわけか・・・」
なんだその物騒な集団は。強制はしない梁山泊の方がまだ可愛いぞ!
「・・・。」
いい加減頭痛も限界だし、胃も痛いし、眩暈もする。いっそのことトンズラしてゲリラ戦法で逆に根絶やしにしてくれようか・・・
と、だいぶ危険な方向に思考が向きつつある士郎。もはや自爆覚悟で全力の
「とにかく私は梁山泊には属さん。対応はまた後日考える」
もうやれることは問題の先送りだけだ。今すぐ何かしらの決断をすることは出来ない。抱えているものが多すぎる。
そう言って今日はもうお開きだと立ち上がる士郎。
「ま、待ってくれ!後日にするなら貴方の護衛をさせてほしい!とにかく私達としては貴方を奴らに取られなければいいから!」
と何処かすがるような、まるでなにか強迫観念に突き動かされているかのように彼女は言う。
「取るとか取られないとか人を物扱いするのはやめてほしいのだが・・・第一、君はその状態で戦えるのかね?」
「そ、それは・・・」
護衛を名乗り出た彼女であるが彼女はかなりの手傷を負っている。このまま戦いに出れば間違いなく彼女は命を落とすだろう。
「とにかく今日はここまでだ。今日は私も疲れていてね。これ以上は頭が回らん。送っていくから今日はここまでにしてくれ」
そう言って立ち上がる士郎。所が、
「えっと・・・送られてもどうしようもないというか・・・」
「・・・おい、まさか」
思わず最悪の事態を想像する。
「絶対逃げられないと思ったから・・・宿・・・引き払って・・・」
と涙目になる女性に思わず士郎は手を額にあてて天を仰いだ。
(
夜空にキレイな顔でハッハッハと笑う切嗣が見えた士郎であった。
――――interlude――――
その日の夜。苛立たし気に泊っていけという衛宮士郎に甘え、風呂に入り、晩御飯もご馳走になり(すごく美味しかった)今は着替えて、貸してくれた一室で布団に入る。
「本当に気配がない・・・」
彼が言っていた人払いの結界は相当なものなのだろう。こんなに視線や気配を感じないのは初めてだ。
「衛宮士郎・・・」
最初は怖い人だと思った。あの眼で見られるといつ叩き切られるかと心配になったほどだ。だが―――
宿が無いと言えばこうして寝る所を提供してくれて、お風呂やご飯も準備してくれて。最後には傷の手当もしてくれて。本当の彼は優しいんだと思った。
「貴方は絶対私が守る」
彼を取り巻く環境は最悪と言っていい。そこから守ってあげたいと彼女は思った。
「絶対・・・私が・・・」
スゥッと瞼が落ちる。まるでゆりかごに揺られるようにゆらゆらと意識が遠退いていき、彼女は普段ならば絶対しない完全な熟睡へと落ちて行った。
――――interlude out――――
屋根に上り、遠い町の景色を士郎は見つめる。その眼には町を徘徊する怪しげな輩が映っていた。
「・・・。」
だが彼はあえて何もしないまま腕を組み、その様子を見つめていた。
(狙撃することは出来る。だが、わざわざこちらの場所を教えてやるわけにはいかない)
ここには負傷した女性がいるのだ。雪崩れ込まれたら彼女を守りきる自信は無い。確かに人払いの結界は張っている。それも屋敷のは宝具級のものなので、早々見つかることは無い。だが、異能と川神の住人のスキル(もうそう思うことにした)なら遅かれ早かれここもばれるだろう。
(やれやれ・・・どうしたものか)
今日は本当に疲れている。もう一ミリも頭は回転してくれない。こうしているのはただ無心になりたくて、でも自分を追うものの姿を一応この目で捉えておきたくてこうしているだけだ。
と
「・・・オ」
「?」
下から何か聞こえる。
「ルオ・・・ルオ・・・」
どうやら泊めた女性の寝言らしい。だがすすり泣く声音からしていい夢ではなさそうだ。
「・・・。」
屋根から飛び降りて彼女の眠る部屋にそっと入る。
「ルオ・・・行かないで・・・ルオ・・・」
すすり泣き、何にかに必死に手を伸ばしている。
「やれやれ・・・」
現れた時といい、こうして眠っている時といい、随分と涙もろい女性だ。
傍に座り、彷徨う手を優しく握ってやる。そうすると彼女は安心したように微笑んで安らかな寝息をあげた。
事態は最悪。状況も手詰まり。打てる手はほんの僅か。さてどうしたものかと彼は回らない頭でぼーっと考える。
―――だが、この時間こそが。希望であり、逆転の一手であることを彼はまだ知らない。
いかがだったでしょうか。士郎はさらにとんでもねー組織に狙われております。とりあえず梁山泊の誘いは蹴りましたが実際考えたら梁山泊の中に入ればマルっと解決でしょうけどもそんなことしません。
オリジナルの場所である川神幽霊屋敷ですが、設定上はガチでいました。大量のGが。
それを士郎お得意の宝具ぶっぱで除去、逆に聖域みたいになってます(決してエエエェェェイイイメェェンッ!!!と渋い声で叫ばないようにご注意ください)
次回は少しほんわかする・・・かも?ちょい悩んでます。だって二カ月半くらいしかたってないからね・・・詰め込みすぎよね・・・
ということで次回もよろしくお願いします。