今回の話は時間がだいぶ飛びます。ちょっと歪になるかも知れませんがそうしないともう間に合わないので。色々悩みましたがこれで行きます。
衛宮士郎が彼の所属する風間ファミリーのリーダーキャップから劣化した杯、聖杯をもらい受けてから数日の朝。
「それでは、留守を頼むよ」
そう言って彼は鞄を片手に玄関までついてきた女性に声をかける。
「あの・・・やっぱり私も一緒に・・・」
そう言って彼の後に続こうとする女性、林冲を押しとどめる。
「昨日も言っただろう。君に戦闘はまだ無理だ。いや、できるかもしれないが・・・」
彼女は梁山泊から派遣されてきた林冲という傭兵だ。数秒先を見る異能を持ち、預言に従って士郎を梁山泊に迎え入れようと現れたのだが・・・
「傷はもう塞がっている。・・・貴方のくれた特別な薬のおかげだ」
最初に出会った時、彼女と他二人、対して士郎一人という熾烈な戦闘が行われた。その際に彼女は体に無数の切り傷と片腕を剣で貫かれている。
到底数日で治る傷ではないのだが、彼の処方した薬(ある宝具の柄にある万能薬)を使用したためこの数日でほぼ完治している。とはいえ彼の投影では剣の部分はまだしも、柄にあるモノはそこまで再現できないので本来の効力は発揮されず、未だ腕の傷はくっついただけであり、下手に動けばまた開いてしまう。
「それでもだ。あと数日もすれば治るのだから下手に傷を開いてまた数日戦闘不能では困る。それに、ここには大事なものがあるのでな。君に守ってもらわねば私は動くことすらままならん」
これもまた事実だった。もう表の世界に出ている彼は
「・・・わかった。貴方の留守を守ろう。絶対に一人にはならないでくれ」
彼女を迎えたあの夜から、林冲は段々と心を開くようになった。それを利用しているようで内心非常に心苦しいのだが、彼にはもう余裕が残されていない。表からも裏からも付け狙われ、挙句守らねばならないものまで増え、増援を呼ぶことも出来ない。
彼女の存在が無ければすでに瓦解していなければおかしいくらいだ。それを現状唯一託せるのが林冲だった。
「・・・すまない。遅くならないようにするのでよろしく頼む」
そう言って彼は学園へと登校する。四方に警戒を続けながらの生活は元の世界での活動を思い起こさせるものだった――――
所変わり川神学園。午前の授業を終え、食堂という戦場で己の手腕を発揮していた。
「あがったぞー!次はー!?」
今日も今日とて食堂は大忙し。一時期彼が一週間の謹慎(休暇)している間、相当な反響があったらしい。彼の作る衛宮定食が一週間丸々手に入らなくなったことで阿鼻叫喚の様相を呈したらしい。
「つ・ぎ・は!俺様だ!」
「おお?ガクト、よくこれたな」
彼はいつも出遅れて(足自慢が早すぎる)いるので滅多に衛宮定食にありつけないのだ。
「相変わらず忙しくしてんなー。ほい、衛宮定食!大盛で頼むぜ!」
「大盛なんてやってないんだが・・・」
そう言って士郎は困った顔をするが、気持ちご飯を多めに盛ってやる。
「はいよ。・・・秘密だからな?」
「わかってるわかってる!そいじゃ、頑張れよー!」
久しぶりの衛宮定食にウキウキとしながらガクトはテーブルへと向かっていった。
「次ー・・・って大和か。みんな今日は早いな?」
「さっきの時間体育だったろう?だから足自慢の奴らがスタミナ切れ起こしてるんだよ」
大和の言葉になるほど、と納得する。彼らの体育は川神院の師範代、ルーが務めている。武術の師範代だけあり、彼はかなりギリギリを責めてくるので、走り込みなんかの場合、それなりに鍛えていないものは地獄を見ることになる。
逆に、個人個人の限界をしっかりルーは見極めているので大和のように上手くペース配分すると若干余裕が出来たりする。
「そいや、一子来てないけど・・・どうしたんだ?」
いつもトップギアでやってくる彼女の様子がないことに士郎は疑問に思っていた。
「ああ、ワン子は自前の弁当食べてすぐ決闘に行ったよ。ほら、気が増えて戦えなくなっただろう?それを気にして最近は色んな相手と戦ってるんだよ」
一子の覚醒から約一週間ほどだろうか?最初は歩くのすらままならなかった一子は、驚くべきスピードで気の扱いをものにしているのだ。
「無理してないよな?」
ただ一つ、彼女はオーバーワークしていたことがあるので少し心配になる士郎。
「大丈夫だと思う。常に姉さんかルー先生が付いてるから。まぁ、まだたまに打ちあがるけど」
「あー・・・さっきの体育でも打ちあがってたよな」
一子が気のコントロールを失敗して空に打ちあがるのはもはや恒例行事と化していた。もとは士郎がからかい半分でワン子花火と言っていたのがすっかり定着してしまったのだ。
「でもま、打ちあがっても一人で着地できるようになったからな。大きな進歩だよ」
「・・・すまないな。金曜集会の時から全然手伝わなくて・・・」
そう言って士郎は大和に謝る。
「家の事情があるんだろ?仕方ないさ。それに金曜集会での出来事はもうチャラ。そうだろ?」
そう言って士郎にちらりと首にかけられたチェーンを見せる。
「そうだったな。ありがとう。頼りにしてるぞ、軍師」
そう言って衛宮定食を渡す。
「それじゃ頑張れよー!」
「おう!次どうぞー!」
と声をかけると現れたのはマルギッテだった。
「衛宮定食。生卵付きです」
「了解。最近クリスとはどうだ?」
彼女もすっかり常連なので迷わず素早く取り掛かる。
「クリスお嬢様は川神一子に触発されて一層鍛錬に取り組んでいます。ただ、直江大和と親密になりすぎている兆候があります」
むっとした表情で言うマルギッテ。
「あ、あはは・・・まぁほら、ファミリーだから・・・」
言えない。まさか水面下で京とクリスが大和を取り合ってるなんて言えない・・・!
「そ、それと・・・その・・・」
先ほどとは打って変わってマルギッテがチラチラと士郎の首元を見る。
「ああ、これか?先週の金曜にみんなに迷惑かけちまってな。そのお詫びでお揃いのを作ったんだ」
困ったように返す士郎に、
「そ、それは聞いています!ですから・・・ですね・・・」
「?なんだ?」
彼女らしくないなんともはっきりしない物言いに士郎は首を傾げる。
しかしその姿が癇に障ったのか、
「・・・ッいいから早く定食を寄越しなさい!」
「!?わかったわかった・・・ほい生卵付きな」
そう言って渡すと彼女はスタスタと立ち去ってしまった。
(マルギッテはたまに変に口ごもるよなー)
と、相変わらずの固有スキルを発動する士郎である。
「次ー!」
「・・・衛宮定食だ」
そう言って半食券を出すのは源忠勝。
「源!よく来てくれたな!」
編入以来、最も仲良くしてくれてると言っても過言ではない彼に嬉しそうにする士郎。
「勘違いすんな!お前のメシが安上がりで美味いからきてやっただけだ」
「美味いって言ってくれるんだから嬉しいよ。・・・なにかトッピングつけるか?」
「そんじゃ、マルギッテの奴と同じで生卵をつけろ」
おう!と返事をして準備する。
「はいよ!味わってくれ!」
「・・・ああ。テメェも、あんま無理すんじゃねぇぞ」
そう言ってトレーを持って立ち去る。
「ふー・・・」
なんだかんだ言って少なくない奴らが自分のことを心配してくれている。それが何より嬉しいし、何より・・・
(こうして動いている方が、余計なこと考えなくていい)
気持ちが落ちたらまず体を動かせとはよく言ったものだ。
「さぁ!どんどんいくぞー!」
そうして彼は一時悩みを忘れて仕事に没頭する。ささやかではあるが、彼の気持ちを癒すこの時間は貴重なものだったのだ。
――――interlude――――
イライラとしながら席に着くマルギッテ。
(まったく!あの男ときたら・・・)
少し前には重傷を(恐らくわざと)負い、動くなと言っているのに早々と川神院に通い詰め、こうして復帰すればまた誰かのためにと身を粉にする。
実に優秀なので文句のつけようもないのだが、彼の身を案じる側からすれば堪ったものではない。
(それに・・・)
彼らが先週の金曜から付けている小さなペンダント。吹かれる風をモチーフにされた見事な出来のそれをお嬢様は大変喜んでいて、ものすごく自分に語りかけてくるのだ。
(お揃い・・・)
お嬢様の嬉しそうな顔を見るのは嬉しい。だが、自分だって彼を想う気持ちは深く、そしてはち切れんばかりに溢れている。
(私も・・・ほしい)
いつまで経っても必死のアプローチ(水面下)に気づかないことにも、その一言が堂々と言えない自分にも腹が立つ。
(・・・ッ!いけませんいけません!戦場にこの感情は命取りです。気を引き締めねば)
そうしてブンブンと頭を振り目の前の極上の食事に手を付ける。
と、
「おい、猟犬」
カチャリ、と対面に食器を下ろして座る知り合いが来た。
「なんですか、女王蜂」
玉子を割ろうと手に取りながら返事をする。
「ハハッ!感情が隠しきれてねぇぞ。好いた男のメシは美味いってか?」
「・・・ッ!」
グシャッ
思わず割るのに失敗して殻が器に少し入ってしまった。
「おいおいぞっこんかよ。頼むから戦場にその感情持ち込んで不覚を取ってくれるなよ」
「わかっています!そんなことを言うために来たのですか?」
ちょいちょいと箸を使って殻を取り除くマルギッテ。
「あんな得体の知れねぇ男のどこがいいんだか。・・・ま、好みは人それぞれだからな」
ニヤニヤとからかうあずみ。戦友のこれまで見たことのない姿に心底可笑しいと笑う。
「うるさい!要件はそれだけですか!」
ガプリと生卵を飲み込み、食器を片付けようと立つマルギッテに待ったをかける。
「あーあー悪かった。それより耳寄りな情報があるんだが、聞くか?」
「・・・。」
ガタ。
情報と聞いて座り直すマルギッテ。それも聞くかどうか委ねるあたり、衛宮士郎のことなのだと彼女は予想する。
「聞くってことでいいんだな。・・・ほれ」
さらさらと小さな紙に何事かが書かれ、それを読む。
「・・・!これは本当ですか?」
「ああ。確かな情報だ。それみてどうするかはお前次第。もし参加するならその時間と場所に集合だ」
「・・・。」
読んでいた紙に追加で何か書き込み、紙をあずみに返す。
「・・・了解。それと、近頃怪しい連中が闊歩してやがる。油断すんなよ」
そう言って紙に火をつけて焼いてしまうあずみ。
「承知しています。私達も正体不明の一団とすでに何度か交戦しています。他の件にしても九鬼からの要請通り動いています」
そう言ってしっかりと紙が燃え尽きたのを確認し、マルギッテは席を立った。
「情報、感謝します。それでは」
そう言ってマルギッテは食堂から立ち去って行った。
「・・・はぁ。どいつもこいつも衛宮衛宮と、あんな男のどこがいいのかねぇ・・・」
と、立ち去り際に見た猟犬の顔を思い出して独り言ちるあずみ。
――――遠い未来ではあるが。自分がまさかその一員になるとはつゆとも思っていないあずみであった。
――――interlude out――――
放課後。ファミリー一同は多馬大橋の下にある広場に集まり、
「ターッチ!」
「ぬお!」
「早えなワン子!」
「んじゃいくぞー!いーち、にー・・・・」
鬼ごっこをしていた。
「どうだモロ」
士郎が離れた場所でデータを取っているモロのノートパソコンをのぞき込む。
「うん。どんどん早くなってるよ。ミスの回数も減ってきてる」
ただ遊んでいるように見えるが、実はこれも立派な鍛錬だったりする。一子の気のコントロールと、他のみなの俊敏性や回避能力を鍛える特殊な鬼ごっこだ。
まず最初の鬼は一子。それ以外のメンツが逃げる。一子にタッチされたらその人が鬼になり他の人を追いかける。そこまでは通常通りの鬼ごっこだが、
「はい!30秒たったよ!」
「ぜー!はー!やっぱ捕まんねぇ!」
「いくわよー!いーち、にー・・・」
鬼が他の誰かを捕まえることが出来たらその人に鬼が回るが、三十秒誰も捕まえられなかったら一子が鬼になる。そうしないと主にキャップと士郎を除いた男性陣、主に大和とガクトが鬼のままになり続けてしまうので追加されたルールだ。
「じゅー!そらそらいくわよー!」
数え終えた一子が進撃を開始する。
「隙ありー!」
「うわあ!?早いぞ犬!」
「犬じゃないわ!猛犬よー!ガルルル!!」
俊足でクリスをあっという間に捉える一子。
「ぬぬぬー!それじゃいくぞー!いーち、にー・・・」
捕まえられたクリスが数を数え始める。それをみてまた一目散に逃げる。
「そこだー!」
「当たりません!」
ヒュッ
由紀江をとらえようと伸ばしたクリスの手が空を切る。
「おいらとまゆっちを捕まえようなんて百年はえーぜ!」
「こら松風!真剣勝負ですよ!」
「ぐぬ、やっぱりまゆっちは早いな。でも・・・!」
ギュン!っと加速したクリスが避けた由紀江の後ろにいた大和をロックオンしていた。
「それ!」
ヒュッ!
当たるかと思われたその手はまたも空を切った。
「!?」
「はっはっは!そう来ると思ってたぜ!」
流石、回避には自信のある大和。鬼になる回数こそ多いが、戦力差を考えるとなかなか良い動きをしている。
「お、お前!地面掘り上げて足止めしたな!?」
「引っかかる方が悪い!」
と、大和は地形も利用して上手いこと逃げ回っている。
「ぬぬー!!!このこのこの!」
バッ!ヒュ!バッ!
遠くへ逃げてしまった大和から比較的近い位置にいた京へと手を伸ばす。だが当然頭に血が上った状態で彼女を捕まえられるはずもなく。
「クック・・・私は捕まらない。私を捕まえていいのは大和だけ」
「30秒経過ー!」
とモロの声が響く。
「うあーんもう!悔しい!」
ジタバタと地団太ふむクリス。そしてルール通りまた一子が鬼になる。小休止を挟みながら、こうして遊び兼、鍛錬を行うこと数時間。辺りは茜色に染まり始めていた。
(・・・頃合いか)
景色を見てこれ以上はよくないと見た士郎は皆に声をかける。
「おーい!そろそろ日も落ちてきたし、ここまでにしよう!」
本当はこの時間をもっと続けたい。しかし、最近学園でも不審者が増えているのであまり遅くまで外出しないよう呼びかけが出されていた。
(万が一にでも彼らを巻き込むわけにはいかない)
その思いが強い士郎は早めに切り上げる。
帰り道。今日は百代が不在なので士郎が護衛として皆を送っていく。
「いやー走った走った!鬼ごっこなんて久しぶりにやったぜ!」
「でも意外と楽しかったな!」
「うん。スコアを出してたからボウリングみたいだったね」
と鬼になることが多く、捕まえた回数こそ少ないものの、実に楽しく遊べたらしく男性陣にも好評だ。
「自分はもっと鍛錬が必要だな。犬に随分と捕まえられてしまった」
「クリスはもう少し冷静になることが必要」
「そうだなぁ・・・挑発に弱い所は直した方がいいかもな」
「ぬぬ・・・」
京と士郎の指摘に何も言えないクリス。
「それじゃあ俺はこのままガクトとモロと一子送るから。また明日な」
「おう!」
「また明日~」
そう言って手を振り合い、島津寮を離れる。比較的近いガクトとモロを送り、最後に一子を川神院に届ける。
「ほほ。すまんの士郎君。こうして一子を送ってもらって」
元気いっぱい走り回ったせいか、一子はすっかり眠ってしまっていた。
「いえいえ。自分も楽しく遊ばせてもらいましたから。それじゃあこれで」
「ああ。また明日も学校で待っとるよ。ではの」
そう挨拶をして士郎も帰路に着く。
(今の所は被害なし。なんとかやっていけてるな)
だが、実際は問題の先送りにしかなっていない。早々に今の状況を打破しないとまずいことになる。
としばらく歩いた所で、
(・・・お出ましか)
気づけば人影が全くない。そしてこちらの様子を窺う多数の視線。
(林冲には悪いが少々帰りが遅くなりそうだ)
そう思いながら魔力を走らせる。夕暮れ時の不自然に人気がない所で静かに激しい戦闘が始まろうとしていた。
――――interlude――――
士郎やキャップ達風間ファミリーが遊んでいる頃。川神幽霊屋敷に続く道を行く三人の姿があった。
「ううう・・・本当にこの先に行くんですか?揚羽さん・・・」
「何をなよなよしているか!誘いに乗ったのはお前だろうが」
「そうです。なんですかその姿は。武神とは思えませんね、川神百代」
九鬼揚羽、川神百代、そしてマルギッテである。彼女らは衛宮士郎の居住地がこの先にあると言う九鬼の情報に従い、揚羽を筆頭に集まり、川神幽霊屋敷を目指していたのだが・・・
「・・・また同じ場所です」
マルギッテが近くにあった木材に付いた傷をみてそう答える。これは、いわくつきであるこの場所で迷わぬようにと道中マルギッテがつけた目印だった。
「通算三度目か。なかなかどうして、やってくれるな。衛宮士郎め」
忌々し気に前を見据える揚羽。対して百代はいつもの豪胆さはなりを潜め、揚羽の腕に縋り付き、ガタガタプルプルとまるで生まれたての小鹿のようだ。
「ほ、ほら!やっぱり何かいるんですよここは!帰りましょうよ・・・」
「軟弱者め!何をこの程度でビクついておるか!たかだか幽霊の一匹や二匹、気合で追い払わんか!貴様川神院のものであろうが!」
「そ、そんなこと言ったって!殴れない相手にどうしろって言うんですか!」
「やれやれ・・・武神の弱点が魑魅魍魎の類とは・・・しかも物理で殴れないから、などという理由で・・・そんなに怖いなら来た道を戻り帰りなさい!」
「ここまで来てひ、一人で帰れないですよぅ・・・ほ、ほら!今ヒュウって!さ、寒気が!」
そう言ってヒィイ!と悲鳴を上げて揚羽にくっつく百代である。普段の彼女を知るファン達がこの姿を見たらどう思うことか。
「しかし参りましたね。来た道を戻れば帰れるのに進めば何度も同じ場所に戻ってきてしまう。堂々巡りとはこのことですね」
そう。もうだいぶ歩いているにも関わらず、何度も何度も同じ場所に辿り着くのだ。そのくせ、来た道を戻ると何事もなく帰ることが出来る。なんともいやらしい作りになっていた。
「ふむ・・・地図を見る限りそこまで長い道のりではない。仕方あるまい。馬鹿正直に道に沿って同じことを繰り返すのも時間の無駄だ。迂回して目指すことにする」
「その意見に賛成です。何も道はここだけではない」
「迂回って・・・その雑木林のこと言ってます?ひ、ひぃい・・・・」
ただでさえ不気味なのに、うっそうと草木の茂る中を突っ切ろうなど百代は考えたくもない。
「ええい鬱陶しい!くっつくな!我とてこうも惑わされると怒りが溜まる!!」
「同感です。・・・ですからこちらに来ないように。川神百代」
そう言ってライバル(恋敵)の無様な姿にため息をついて歩き始める。そうして若干舗装された道を外れ、雑木林から幽霊屋敷を目指す三人だが・・・
~~~三時間後~~~
「・・・同じ場所です」
「ぬああああ!!!」
「やっぱりいます!いますって!」
雑木林を抜けた先に見えたのはやはりマルギッテがつけた目印の場所。それも、もう何度目か。何度も切り付けられた木材はズタボロになり、マルギッテが所有していた塗料を塗りたくる羽目になっている。
ため息を吐いてもう何度目かわからぬ目印を塗るマルギッテ。揚羽はイライラが頂点に達し頭を掻きむしる。百代はこの異常事態に魑魅魍魎の類がいることを信じてしまい震えあがる。川神でもトップを争う女傑をして、実に悲惨な光景である。
「どうしますか。今回は諦めますか?」
マルギッテの提案に怒りをどうにか発散しようとしていた揚羽は首を振る。
「ここまで手のひらの上で踊らされて黙って帰れるものかッ!百代!貴様もいつまでも怯えていないでなにか手を考えろッ!」
「そ、そんなこと言ったってぇ・・・ほ、ほら!今日ワン子達と遊びに行ってるから、戻って帰ってくるのを待つとか・・・」
「それでは時間がかかりすぎるであろうが!第一、それではこの我が!まるで衛宮士郎に散々おちょくられて逃げ帰ったようではないかッ!!」
「この際、負けは仕方ないにしても、それでは衛宮士郎に逃げられる可能性がありますね。却下です」
もう負けず嫌いで退路なしと決めつける揚羽である。そして百代はさっぱり役に立たない。その光景にもう一度はぁ、とため息を吐くマルギッテ。一体どうこの状況を打破したものかと、唯一冷静なマルギッテは考える。
(追っても獲物に追いつくことは出来ない。包囲しようにも煙に巻かれてしまう・・・ならば・・・)
そこで軍人としての経験からマルギッテは一つよさげな案を思いついた。
「この際です。追っても追いつけないのならば誘い出してみるのはどうですか?」
その言葉にそれまでイライラとしていた揚羽が反応する。
「名案だな!追っても追いつけぬ、囲もうとしても囲めぬ。ならばおびき出すまで!!!」
その案に光明をみた揚羽は、ここまでの怒りも込めて特大の殺気を屋敷のあるほうに向かって放った。
と、
ガランガランガラン!!!
まるで神社にある古ぼけた鐘を鳴らしたような音が鳴り響く。
「ひ、ひぃいい!!!」
「どうやら正解のようだ」
「ですね」
鐘など何処にもないのに鳴り響いた音に百代はすくみ上り、揚羽とマルギッテは挑発が成功したことを悟る。
しばらくして、ゆっくりと黒い人影が姿を現した。
「来たな。お前―――」
「うわあああーーー!く-るーなーッ!!!」
揚羽が話しかけようとした瞬間、恐怖が限界を超えた百代が特大の気を人影に向かって放った!
「な、ば、馬鹿ですか貴女は!折角誘い出したとというのに!!!」
結果、人影はふっと一度消え、
「―――そこか!」
ガン!
気を放った大馬鹿者を腕に引っ付けたまま、揚羽が迫り来た一撃を素手で弾く。しかし人影はまたも霧に紛れるように姿を消し、
「くっ!」
ガン!ギン!キン!
姿の見えぬ敵からからの連撃をマルギッテがトンファーで防ぐ。
「これは・・・」
「まずいことになったな」
役立たずをひっさげたまま揚羽とマルギッテが背中を合わせる。姿は見えないが相手が刃引きのされていない武器で襲ってきていることに思わず舌打ちをしたくなる二人。
「どうしますか?」
「地の利は向こうにある。ただでさえ気配が読めんというのに―――」
ヒュッ!ガン!
敵は徹底的に一撃離脱を繰り返してくる。決して姿をさらさず、この視界の悪さと気配を感じることのできない場所を利用して、
シャシャシャ!!!
「くう!!」
キンカンギィン!
恐らく槍である、それだけは確認できたが、当然このまま防ぐのに失敗したら串刺しである。
「衛宮士郎め!ただではおかぬぞ!」
「敵襲です川神百代!いつまでも怯えていないで貴女も構えなさいッ!!!」
この襲撃の犯人であろう衛宮士郎に怒りをぶつけ、マルギッテは百代を何とか戦線復帰させようと怒声を上げる。
――――かくして、ただ訪問するだけのはずの予定は狂い、正体不明の敵との命の削り合いとなってしまうのだった。
――――interlude out――――
日が沈み辺りは暗闇に覆われている。その中、
ギィン!ガッ!
ドサリと倒れた最後の覆面の何者かの頭を掴み上げる。
「・・・。」
だが士郎は諦めたようにその手を離した。首を打ち気絶させたはずの襲撃者は血を吐いて死んでいた。
約三十名に及ぶ襲撃者をある協力者と全て峰打ちで気絶させたのだが、全ての者が気絶間際に、歯にでも仕込んでいた毒によって死亡していた。
(これだけの人数を送ってくるとは・・・)
流石に驚きを隠せない。たかだか学生一人を確保するのに決死隊をこれだけの数送り込んでこようとは。
「正直助かったよ。君が来なければ随分と時間を取られていた」
そう、背後の人物に声をかける。
「けっ。あたいは任務を遂行しただけだ。こいつらはあたいらが追ってる獲物だ」
そう言って姿を現したのは忍足あずみだった。戦闘が始まってすぐ、彼女が乱入してくれたおかげでそれほど苦労せず打ち倒すことができた。
「しっかし、どいつもこいつも自ら命を絶ちやがって。これじゃあ情報を聞き出せやしねぇ」
そう言って彼女も倒した一人の頭を持ち上げるがやはり血を吐いて死んでいた。
「獲物?この者らのことを知っているのか?」
「・・・。」
士郎の問いに彼女は答えない。だが何かしらの事情は知っているのだろう。
「私の知りえた情報だと、この者らは横やりを入れた者たちの周りを皆殺しにするらしいぞ」
もう巻き込んでしまったので遅いのだが、一応警告の意味を込めて言う。
「チッ。面倒な連中だ。どっちにしろこっちは徹底抗戦なんだよ。お前が気にすることじゃねぇ。それよりテメェはさっさと帰りな。うちの揚羽様がテメェの家に向かってる」
「何?」
彼女の言葉に危機を感じる士郎。まずい。家には林冲がいる。もし戦闘にでもなったら・・・・
「君の言う通り帰らせてもらう。すまないが後始末を頼むぞ」
そう言って彼はその場から消える。それを見たあずみは、
(ふざけんな。なんだよあの化け物。あたいが一瞬で見失うなんていつ以来だ?)
得体が知れない上に実力まで底知れない。従者達に死体の撤去作業を命じながら己の主の心配をするあずみだった
――――interlude――――
「はぁっ!!」
「せいっ!!」
「でやぁ!!」
三人の激しい声と共に拳とトンファー、そして敵の槍が衝突する。
カンキンギンキンギィン!!!
もはや敵はゆっくりとは一撃を打ってこない。それは百代がようやく戦線復帰したのでこちらの手数が多くなったからだ。だが・・・
「チッ!これでは埒が明かぬ!」
揚羽の言う通りだった。相手は戦い方が巧い。ひたすらに姿を隠し、必殺の一撃、もしくは連撃を繰り出し続けている。
「気配が全く読めないのが辛いです、ねッ!」
ガン!
マルギッテがトンファーで槍を弾く。一体どれだけの間そうしていたか。襲撃者は本来戦闘をするつもりではなかっただろうに、百代が先制攻撃をしてしまったが故にこうして泥沼と化している。
「ええい鬱陶しい!川神流・・・!」
気が彼女の内にため込まれる。
「よせ!それではこの先にある屋敷まで―――」
吹き飛ばしてしまう。と揚羽が言おうとした時だった。
――――
よく聞き取れない言葉と共に、
「“
「星殺しーーーッ!!!」
「
大輪の花が咲いた。
――――interlude out――――
つめ・・・切れなかった・・・!すいません決してどこぞのアニメのように、そこで次回かよ!を狙ったわけじゃないんです!
日常が・・・足りなくなっていた日常成分を補給したくて!あとしばらく出てなかったマルさんと源さん書きたくて!ついでにあずみさんにもフラグ立てて、九鬼巻き込んで、どこでも見ない三人組と、ポンコツ武神書きたくて!やっぱ一気に詰めようとするの無理ですすみません(土下座)
ちなみに薬の件ですが、士郎超がんばって投影しました。なんの宝具かは予想してみてください。どっちかというとfateシリーズ設定じゃなくて伝承?史実?よりのものです。
そしてラストに士郎の象徴的な詠唱登場!書き方めっちゃむずかったです・・・主にルビ関係。そしてお家を守るために展開されるアイアス。ごめんねちゃんとした場面書くからね・・・ということで次回は説明、相談会になると思います。
よろしくお願いします。