真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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みなさんこんばんにちわ。以前にも書きましたが毎晩の悪夢で寝不足の作者です。決してこの小説を書き始めたからではないんですが…むしろ皆さんの暖かいコメントや誤字報告などに助けられているほどです。悪魔でもついてるんかな…

それはそれとして、今回は説明、相談会になります。彼を追っていた4人(ポンコツ武神含む)に彼がなぜこの地に現れたのか?魔術とは、魔法とはなんなのか?川神を侵略している敵勢力に対しどうするのか?書いていきたいと思います。


魔術師

「“熾天覆う(ロー・)・――――」

 

 

 

「星殺しーーーッ!!!」

 

 

 

七つの円環(アイアス)”――――!」

 

 

謎の声によって百代の暴挙を阻むように大輪の花が咲いた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

突然咲いた七枚の花弁を持った大輪の花に三人は目を奪われる。美しい赤い花弁は何もない中空にただ咲いただけでなく、百代の星殺しを受け止めていたからだ。

 

「くっ!私の星殺しを受け止めるなんてどんな硬さだッ!」

 

自慢の技を受け止められた百代は、花の盾を突破しようとさらに気を込める。だが、

 

「やめなさい川神百代!!!これ以上相手に敵意を向けるなッ!!!」

 

「!?」

 

マルギッテの怒声に百代は気を段々と静めていく。それに伴い、放射されていた極太のレーザーも段々と細くなり、ついには消えた。そしてそれを見届けたように大輪の花も、蕾に戻るように閉じていき、消える。

 

「・・・。」

 

そして彼女らに近寄ってくる影が一つ。

 

「まったく・・・人様の敷地で何をしているのかね」

 

そう言って現れたのは衛宮士郎だった。余程急いで来たのか少しばかり息があがっている。

 

「それは・・・」

 

存分に気を放出したことで冷静さを取り戻したのか、百代は自分のやってしまったことと、目の前にいる士郎が若干怒っているのを感じ取ってたじろいだ。

 

「なに、いつまでも雲隠れをする貴様に良い話を持ってきたのだ。―――所が、百代がお前の隣人に攻撃してしまってな。やむなく戦闘になってしまったのだ」

 

「急に訪れて攻撃をしたことは謝罪します。とにかく私達の話を聞いてください」

 

じっとこちらを見つめる鋭い眼差しに臆することなく告げる揚羽とマルギッテ。百代は今回の発端なので一際鋭く睨みつけられてしょぼんとしている。

 

「はぁ・・・いずれこの時がくるのは分かっていたが、なにもこのタイミングでなくともよかっただろうに・・・」

 

と心底困ったと表情と声色に出す士郎。だが、こうして姿を見せてしまった以上言い逃れは出来ない。偶然(超強引)にも揚羽の計画は成功したとも言える。

 

「それはお前自身にも責任があるな。こうして我らをいつまでも欺き続けたのもあるし、我らにも都合がある。―――それで、お前は我らと話をする気があるのか?」

 

「・・・。」

 

すぐに答えは出せない。だがもう退路がないのは明白なので返す言葉は自然と決まっていた。

 

「わかった。話を聞こう。林冲!君も矛を収めろ。あれほど戦闘行為をするなと私は言ったはずだ」

 

恐らく霧に紛れて攻撃していた人物に彼は声をかける。士郎の言葉に渋々ながら承諾したのか、話の最中も向けられていた敵意が消えた。

 

「ついてきたまえ。家に案内しよう。くれぐれも逸れないようにな。最近不審な輩がいるせいで人払いの結界を張っているのだ。はぐれたらまたここに戻ってくることになるぞ」

 

と、本当は最初から張っていたのを最近張ったとでっちあげる。それは別に隠したかったわけではなく、こうして荒らされたことへの意趣返しだった。

 

「し、士郎~!」

 

「ああっ!待ちなさい川神百代!」

 

早速抱き着こうと士郎に駆け寄ろうとする百代だが、

 

ドゴス!!

 

「痛い!」

 

「当たり前だ!あのままあんな馬鹿気たレーザーを撃たれていたら、私は野宿する羽目になっていた所だ!少しは考えろ!」

 

「はい・・・。」

 

恐怖に駆られていたとはいえ、しなくても良かったはずの戦闘を起こし、あまつさえ自宅を吹っ飛ばされそうになった士郎に、百代は何も言えないのであった。

 

「はっはっは!武神も形無しよな」

 

ただ一人、揚羽だけが愉快そうに笑い声を上げていたが・・・

 

「・・・。」

 

もう一人は百代の積極的なアプローチに危機感を覚えながらも、自分はあのようにできない、でもしたいと悶々としているのだった。

 

 

 

そうして彼についていくこと数分。広い敷地に立派な日本家屋が見えてきた。

 

「ここが私の家だ」

 

そう言って彼はガラリと玄関を開ける。

 

「うう・・・本当に何もいないんだろうな・・・?」

 

川神でも有名な幽霊屋敷に百代はやっぱり生まれたての小鹿のようにプルプルとしていた。

 

「安心しろ。確かにこの地は怨霊で溢れていたが・・・私が全て駆逐した。今ではそこいらのパワースポットにも負けない聖域だぞ」

 

その言葉に百代は目を白黒させる。

 

「お、お前!幽霊倒せるのか!?」

 

「まだ企業秘密だ。もっとも、もう駆逐したと言ってしまったので意味はないがね」

 

そう言ってまたもはぁ、とため息を吐く士郎。

 

「それはいいことを聞いた。これでもう、言霊でこの地を清めることをせずともよいというわけか」

 

「言霊・・・?それは・・・いや、もういい。とにかく入りたまえ」

 

「そんじゃ、おっ邪魔しまーす!」

 

「失礼する」

 

「失礼します」

 

幽霊はもういないと聞いて急に元気を取り戻した百代は初めての恋人(予定)の家にワクワクしながら入り、ほかの二人はしっかりと礼節を守って入る。

 

「林冲。君もいつまでそんなところに立っている。早く入りたまえ」

 

「え?でも・・・」

 

ためらう彼女に士郎は、

 

「何を遠慮している。躾を破って外に出されたわけでもないのだから早く入りなさい」

 

気持ち優し目にそう言う士郎に、観念したのか彼女も家の中に入る。

 

そうして案内された部屋に四人の女性が座り、彼はまた人数分の飲み物を準備する。

 

「紅茶で構わないかね?それとも緑茶を希望するならそうするが」

 

「はいはい!ピーチジュース!」

 

「そんなもの常備してるわけないだろうが!」

 

ボケなのか本気なのか分からない彼女の言葉に頭痛を感じながら彼は人数分の紅茶を入れる。

 

「どうぞ」

 

「「「いただきます」」」

 

「ちぇー・・・」

 

出された紅茶を一口飲み、揚羽とマルギッテは目を見開く。

 

「これは・・・一体どこの茶葉だ?」

 

「よい香りです・・・相当高価なものとお見受けします」

 

口から鼻を抜ける香りがとても心地よい。渋さは全くなく、まるで高級店で出されたもののように感じた。のだが、

 

「普通に市販されている茶葉だが?入れ方をきちんとすればこれくらいは出来る。大体、学生が高級茶葉など購入できるわけないだろう」

 

「市販!?これほど香り豊かなものがか!?」

 

「本当だとすればとんでもない技量です。どこでこれほどの修練を?」

 

士郎の言葉に何度も手にもった紅茶と彼を二人の目が行き来する。

 

「それもまだ企業秘密でね。さて、一心地つけただろう。改めて、話しを聞かせて頂きたいのですが?九鬼揚羽さん」

 

「士郎!お前揚羽さんのこと知っていたのか?」

 

百代の問いに士郎は首を振る。

 

「いや。知ったのはつい先ほどだ。帰り道、三十人余りの無法者に襲撃されてね。そこで九鬼の従者に助けられ、貴女が私の家に向かっていると聞いた」

 

その言葉に同席した林冲がピクリと反応する。

 

「なるほど・・・。それで貴方はあれほど急いていたわけですか」

 

「なにせ戦闘をこなした上にここまでの距離を全力疾走。おまけに辿り着いてみれば無駄な(・・・)戦闘が起きていたものでね。いくら私とて人間だ。焦りもする。それも、知り合いが争っている可能性を知ればなおさらな」

 

そう言いながらも彼は特に焦った様子はみせない。まさに鋼の精神力だ。

 

「それで、いい加減話を進めてもらいたいのだが、貴女達はなぜ私の家に?」

 

と士郎は先を促した。

 

「なぜもなにもあるまい。お前が経歴一切不明という怪しい人物だからだ」

 

「戸籍等はしっかりと記載されているはずだが?」

 

「確かにな。だがお前は今までの学歴どころか幼少期の情報すらすくない。両親を亡くし、衛宮切嗣なる人物に引き取られた、たったこれだけだ。いくら何でも不自然がすぎる。それは、ここにいるマルギッテも同じよな?」

 

「はい。貴方は非常に優秀で信頼に値すると私個人は思います。ですが、貴方はあまりに不自然な点が多い。日本政府は騙せても、我々ドイツを騙せるとは思わないことだ」

 

ギロリと二人に睨みつけられる士郎。だが彼は決して動揺を表には出さない。

 

「それで?私に隠していることを詳らかにせよ、と?そう言われても真実は貴女が言った通りの事しかない。ないものは話すことができない。証明せよと言われても証明する術がない。それではどうにもならないと思うが」

 

そう言ってお茶を静かに飲む士郎。彼の言ったことは事実だ。経歴を話せと言われても話せることは無い。証明しろと言われてもそもそも証明するものすら存在しない。彼に言えることは一つとしてない。

 

「じゃああの花はなんだよ」

 

百代が一人拗ねたように言う。

 

「私の数少ない手品だが?とっておきなので話せと言われても拒否させていただくが」

 

「ぶー・・・」

 

士郎の言葉に今度こそ口に出して拗ねる百代。

 

「話は以上かね?それならばここまでとしていただきたいが。何せ見知らぬものに勝手に見出されて勝手に連れ出されようとしている身でね。割と余裕はないのだよ」

 

そう言って士郎は立ち上がる。だが、

 

「そう焦るな。まだ話は終わっていない。とはいえ、お前はちょっとやそっとでは己の事を話すまい。―――なので、こういうものを用意した」

 

そう言って揚羽は一枚の用紙を取り出した。

 

「・・・。」

 

妙に自信あり気な揚羽に、士郎はもう一度座り、差し出された用紙を見る。

 

「・・・!?これは、本気か?」

 

目を通した内容に思わず目を見開く士郎。

 

「ああそうだとも。だからこうして書面にした。何なら写しも準備してある。どうだ?話す気になったか?」

 

用紙に書かれた内容は至って単純だった。それは―――衛宮士郎の存在を九鬼が全面的に保証するという内容だ。

 

「・・・。」

 

士郎は考える。この条件を呑めば、少なくとも表から追及されることは無くなる。頭を悩ませていた一つの事柄がすっぱり解消されるのだ。

 

(これはまたとない機会だ。まだ詰める必要はあるが、この条件を呑まない理由はない。だが・・・)

 

絶好の機会。だがこれを呑むにはまだピースが足りない。この世界に魔術師がいるかどうか(・・・・・・・・・・)の確認が必要だ。

 

それは同時に、自分が魔術使いであることを明かさねばならない。そうなれば連鎖的にこの世界に来たことや、魔術とは何か、魔法とは何かまで説明せねばなくなる。

 

ハイリスク・ハイリターン。いや、むしろ賭けに近い。そもそも馬鹿正直に、『異世界から来ました』などと言って信じてもらえるとは思えない。

 

(どうするか・・・)

 

士郎は完全に長考に入った。現在、未来を賭けた大博打だ。必死で思考する。必要なものはなんだ?切り捨てるべきはなんだ?契約書を前に士郎は固まってしまった。

 

カチカチと時計が時を刻む音が静かな居間に響く。最初に沈黙を破ったのは揚羽だった。

 

「それでもまだ足りぬか?ならばお前の提示する条件を出せ。これほどまでに厳重に隠し通すのだから並大抵のことではあるまい?その内容で足らぬと断られた時の為に九鬼の代表である我が赴いたのだ。さぁ!申してみよ!」

 

腕を組み堂々と背筋を伸ばす揚羽はまるでどんな条件でも吞んでやると言いたげだ。その姿を見て士郎は一つ確認をした。

 

「・・・まず確認したい。この内容はドイツ軍も承知しているのだな?」

 

士郎の問いにマルギッテが答える。

 

「無論です。九鬼が貴方の存在を保証するならば私達もこれ以上追及することはありません」

 

「ではそれ以外の関連諸国や企業、政府はどうだ?九鬼財閥は巨大だが、そこまでカバーできるのかね?」

 

「それも問題ない。全国、全企業、全政府に対し、我らはお前が疑われた場合その存在を示そう。もっとも、お前を嗅ぎまわっているのは我ら九鬼とドイツだけだがな」

 

その言葉に士郎は鋭く切り返す。

 

「それは違うな九鬼揚羽。確かに貴女方が動けば表は解決するだろう。だが裏はどうだ?すでにある勢力二つが私を血眼になって探している」

 

「ならば付け足そう。我らはお前の身の安全も保証しよう。お前が狙われたのならばそれは我ら九鬼の敵だ。・・・これでよいな?他にはあるか?」

 

士郎の目の前で書類に追加事項を記入する揚羽。いよいよ詰将棋の様相を呈してきた。

 

(まるで禅問答だな。・・・いいだろう。賭けに乗ってやる・・・!)

 

士郎は決断した。もう隠し立てはやめだ。こうなれば限界まで駆け抜けるのみ。

 

「ではいくつか条件を出そう。―――契約書類の用意は十分かね?」

 

「望むところよ!」

 

そこからはとにかく士郎は己の安全や自由、不可侵など実に多岐に渡り条件を出した。対する揚羽は全部受け入れとまでは行かないが、妥協案を出し、迎え撃つ。

 

その姿を残りの三人はじっと緊張の眼差しで見つめる。約一名、頭の回っていないのがいるが、マルギッテと林冲は衛宮士郎の話術と思考力。それに対抗する揚羽に内心舌を巻いた。

 

「これで・・・どうだ!これ以上ない程お前の要望を聞いてやったぞ!」

 

「・・・。」

 

自慢げにもう何枚になるか分からない書類の束を出す揚羽。それを目で追う士郎。そして、ふぅ、と一息ついて顔を上げる。最初に入れた茶は既に冷めきっていた。

 

「茶がすっかり冷めてしまったな。入れ直すので続きは少し待ってくれ」

 

そう言ってカップを回収してすぐ傍にある台所に引っ込む士郎。

 

「ま、まだ条件あるのか!?いくらなんでも業突張りだぞ士郎!」

 

「私も、ここまで徹底した交渉は初めてです。これ以上は貴方の情報にそれだけの価値があるとは思えない」

 

方や武術以外は頭に入らないポンコツ武神。もう一人は現役の軍人。二人の良心と彼の情報に対する価値観は既に限界であった。

 

「何を言う。仕掛けてきたのはそちらだ。こうなったら地獄の底まで付き合ってもらう」

 

「いいだろう。九鬼の器をなめるでないわ!」

 

まるで背後に竜と虎が対峙している幻想が見える二人。唯一、裏に通じている林冲は、士郎の行う交渉が如何に大事か骨身にしみているので動揺はしない。

 

そして再度配られた紅茶(百代が飽きて拗ねてるのであまりものの桃のコンポート)を出して一息つく。

 

「ではここからが本番だ。初めに言っておくが私は至極真っ当で頭が狂っているわけではない。それを念頭に置いて聞いてほしい。私はある情報がほしい」

 

「いいだろう。して、お前が知りたい情報とは?」

 

紅茶を口に運ぶ揚羽とマルギッテ。百代はもう飽きてデザートに夢中。

 

「まず表の代表として九鬼揚羽、貴女に聞こう。魔術(・・・)もしくは魔術師(・・・)。この言葉に心当たりはあるか?」

 

「・・・は?」

 

ここまで一切余裕を崩さなかった揚羽が気のない声を上げた。

 

「ま、まて、それはどういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味だ。もう一度言う。魔術(・・・)もしくは魔術師(・・・)、この言葉に心当たりはあるか?」

 

「・・・意味が分からぬ。魔術とはあれか?オカルトの宗教か?」

 

「ふむ・・・貴女はそれしか情報を持っていないのだな?」

 

理解不能の問いに初めて揚羽が狼狽えた。

 

「まてまて!・・・我が知っているのは、居もしない怪しげな神に祈りを捧げるオカルト集団のことしか知らぬ。確かに一種の宗教故、暴徒が出ることはあるが、本当に魔術だの魔法だの使っているものは今まで発見したことがない」

 

その回答に士郎は一つ頷き、

 

「では林冲。裏に通ずる君に問う。魔術(・・・)もしくは魔術師(・・・)、この言葉に心当たりはあるか?」

 

もう一度同じ問いを、今度は林冲に問う。

 

「・・・私も長いこと裏の世界にいるが、異能以外で、本当に魔術や魔法と言ったオカルトな力を持つ存在、集団を見たことはない」

 

林冲は嘘偽りなく答えた。

 

「・・・衛宮士郎、貴方は一体何を知りたいのですか?」

 

彼の知りたい情報の真意が分からないマルギッテは混乱しながら彼に問う。

 

「私が知りたいのは魔術と魔術師がこの世界に存在するか否かだ」

 

「「「「・・・。」」」」

 

彼の言葉に空気が凍る。そして、

 

「あっはっはっはっは!」

 

「・・・。」

 

大口を開けて揚羽が笑う。

 

「まて、まってくれ・・・ははっ・・・お前が知りたいのはそんなことなのか?」

 

笑いながら問う揚羽。だが士郎は、

 

「そうだ。それこそが私にとって一番重要なのだよ、九鬼揚羽」

 

真っすぐと。一切笑みを浮かべず、能面のように表情が欠落したような顔で言う士郎。

 

「わかった!いいだろう!この世に魔術だの、それを扱う魔術師などいないとこの九鬼揚羽の名に誓おうではないか!」

 

それでも笑いながら彼女は断言した。

 

「林冲も同意見で間違いないな?」

 

笑われても士郎は動じず、隣の林冲を見た。

 

「そうだ。この世に異能は存在するが、魔術やそれを行う魔術師は存在しない」

 

林冲も揚羽の言葉に同意した。

 

「わかった。では見せよう、私の秘密(・・・)をな」

 

そう言って彼はテーブルの上に手をかざした。

 

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

短い呪文。その言葉をキーに、

 

 

キン!

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

白い短剣が、テーブルに突き立った。

 

 

 

「士郎・・・お前、今なにしたんだ・・・?」

 

ポロリとスプーンを落とし、呆然とそれまでデザートを口にしていた百代が言う。

 

「見えなかったのかね?」

 

士郎は淡々と聞いた。

 

「・・・衛宮。今のはなんだ」

 

それまで笑っていた揚羽が厳しい目をして問う。

 

「御覧の通りだが」

 

やはり士郎は淡々と答える。

 

「馬鹿な・・・何もない中空から剣が・・・!」

 

マルギッテは今見た光景が信じられないと、恐る恐る短剣に触る。

 

「・・・本物です」

 

「・・・。」

 

林冲は何も答えない。

 

「はっはは!衛宮、こんな手品で我・・・を・・・」

 

笑わせるな。と言おうとした揚羽の前で。今度は短剣が風景に溶けるように消えた。

 

 

「「「「・・・。」」」」

 

 

テーブルには先ほど短剣が貫いた後だけが残っている。

 

「先ほど、魔術も、それを使う魔術師もいないと言ったな。九鬼揚羽」

 

「そんな・・・まさか・・・」

 

人は理解不能の光景を目にするとまず否定すると言う。彼女も、彼女達もその例に洩れなかった。だが、つきつけられたのは現実だった。

 

「私の秘密はな。私は気を使う武道家でもなく。異能と呼ばれる固有能力を扱う者でもない。魔力を使って魔術を扱う魔術使いだ」

 

淡々と士郎はそう告げた。

 

 

 

 

先ほどの光景が未だ信じられない彼女たちはただじっと。テーブルに開いた短剣の跡をみつめていた。

 

「私はある魔術・・・いや、魔法か。それによってこことは違う世界からやってきた異世界人(・・・・)だ」

 

それに構わず士郎はあくまで淡々と告げる。

 

「それ故に私に経歴なぞ存在しない。そもそも私はこの世界に存在してはならない存在ということだ」

 

「待ってください!魔術?魔法?異世界?そんな眉唾なものが存在するというのですか!?」

 

マルギッテの叫びに士郎は紅茶を口に運び、

 

「そうだ。認めたくないのはわかるが、今見たものは全て現実だ」

 

そう言って今度は袖を撒くり、腕を差し出す。

 

「―――同調、開始(トレース・オン)

 

ヒイィン・・・と静かな音を立てて腕に青いラインが走る。

 

「これは魔術回路という。神経に平行して存在する魔力の通り道。これに魔力を通すことにより―――」

 

―――投影、開始(トレース・オン)

 

キン!とまた同じ場所に同じ白い短剣が突き立った。

 

「こうしてありえない奇跡を起こすことが出来る」

 

「・・・。」

 

今度は揚羽が短剣を引き抜き、実際にその手に持つ。どっしりとした重量感。弾けば鳴る金属音。そして、実際に切れる刃。

 

どれもこれもがここに存在していることを示している。なのに―――

 

「!?」

 

フゥっと揚羽の手にあった剣が消えた。まるで初めから存在していなかったように。

 

「一つずつ説明しよう。私が貴女に呑ませた条件。あれらは全て、本来ならば存在しない私を証明するために確約させたものだ。最初に言った通り、私はそもそもこの世界に存在しない。だからなんの経歴もなく、証明もできないのだよ」

 

そう言って士郎は腕を組む。

 

「魔術について、魔法について、なぜここに私がいるのか。まず魔術。これは魔力を燃料として人工的に起こす奇跡のことを指す」

 

「つまり今の剣も、先ほどの剣も、貴方がその魔力と呼ばれるもので作り出したと?」

 

マルギッテの問いに士郎は頷いて肯定する。

 

「そういうことだ。私は魔術師の中でも少々特殊でね。それが武器であるならば、一目見ただけで複製することが出来る。こと武器を複製することにおいて私を超える者は存在しない」

 

そうしてもう一度、

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

と呪文を唱える。すると今度は、

 

キキン!

 

同じ白い短剣がテーブルに突き立った。今度の彼は手をかざすことすらしていない。腕は組まれたままだ。

 

「じゃあお前は魔法使いみたいに火とか出せるのか?」

 

百代の純粋な問いに士郎は首を振った。

 

「魔術師には得意とする属性が存在する。基本的には君たちが想像する火・地・水・風・空の五つだ。これは科学などでも五大元素として出てくるだろう?例えば、火の属性を宿している者は百代が言った通り、火を起こしたり火の球を作り出したり、まぁ、おとぎ話に出てくる大体のことは出来るだろう」

 

だが、と彼は一度話しを切った

 

「先ほども言った通り私は特殊なのだ。私の属性は『剣』。故に剣に関することは大抵可能だが、逆に他の属性のものをほとんど扱うことが出来ない。本当は火を起こしたり空を飛んだりした方が信じやすいだろうが、生憎、私にはこれしかできん」

 

と彼は肩を竦めた。

 

「では魔法とはなんだ?お前の話しを聞いていると、使い分けているようだが」

 

今度は揚羽が問う。

 

「いい所に目をつけたな。その通り。私達魔術師の間では、魔術(・・・)魔法(・・・)は全くの別物だ。魔術とは、資金、時間をかければ叶う奇跡のことを言う。先ほどの百代の話しを例にするならば、魔術で火を起こしたとする。だがこれは、そこらに売っている100円のライターでも可能だろう?」

 

「まぁそうだな・・・」

 

なんとも夢のないと百代は口を尖らせる。

 

「では魔法は?」

 

今度はマルギッテが問う。

 

「魔法は魔術と違い、その時代の文明の力では、いかに資金や時間を注ぎ込もうとも絶対に実現不可能なものだ。その中で、何らかの方法で実現してしまったもの(・・・・・・・・・・・・・・)を指す。故に確認されている魔法は第一から第五の計五つしか確認されていない」

 

「五つ!?それだけ!?」

 

思いのほか少ないことに百代が驚く。

 

「だから言っただろう。基本的にその時代の文明の力では絶対に実現不可能(・・・・・・・・)なのだよ。逆に、行き過ぎた科学は魔法と変わらないなどと言われる。船でしか大陸間を移動できなかった時代からしたら、空を飛ぶ旅客機は魔法みたいなものだろう?」

 

「確かに・・・空を飛ぶことは、昔の技術では不可能だったので魔法であったが、今では資金や時間を注ぎ込めば可能だから魔術に変わるわけか」

 

「そういうことだ。それで私がこの世界に来た経緯だが・・・私の師に当たる人物が、この魔法の中の第二魔法、『時間旅行と並行世界の運営』を研究している者でね。その実験に付き合わされたのだが・・・」

 

そう言って士郎は苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 

「その顔を見るに、失敗したのだな」

 

揚羽の言葉に嘆息する士郎。

 

「待ってください。その並行世界の運営とやらはどんな魔法なのですか?」

 

マルギッテは不思議そうに首を傾げた。

 

「第二魔法、『並行世界の運営』はいわゆるパラレルワールドを行き来するというものだ。簡単な例で言えば、今ここにいる人間の服装が違う世界とか、ここに来たのが九鬼揚羽、貴女だけだった世界、などのIFの世界を行き来することだ。時間旅行はそのままの意味だな。不可能だろう?」

 

「確かに・・・パラレルワールドの話はマイナーな研究者が提唱しているが、行き来するどころか発見することすらできん。」

 

「ゲームやアニメの世界だなぁ」

 

と一人だけ平和そうに思いを馳せる。

 

「?一ついいだろうか」

 

それまで黙って聞いていた林冲が手を上げた。

 

「どうしましたか?」

 

「今の話で行くと、士郎は魔術のある世界の少し違った世界に漂流していたはずだ。私たちの世界に魔術や魔法は存在しない。全然別の世界になってしまう」

 

そう。今の説明ならばそれこそ士郎は彼の世界のちょっと違う世界に移動するはずだ。そう、だったのだ。

 

「・・・詳しいことは省略するが、仮にだ。Aという世界からBという世界に行くためには本来交わらない互いの壁に、通り道の穴を開けるわけだ。ここまでは想像できるかね?」

 

うんうんと皆が頷く。

 

「では、Aの世界とは違う世界に行きたいが、行先を決めないまま(・・・・・・・・・)穴を開けたらどうなると思う?」

 

 

「「「「・・・。」」」」

 

 

それを聞いて一同は俯いた。容易に予想が出来てしまったのだ。

 

「ええい哀れみの目を向けるな!その通り、私の師は穴を開けることに気を取られて、行先を設定せずに適当に穴を開けてしまったのだよ!それに巻き込まれて気づいたら川神学園の屋上に突き落とされたのだ!」

 

やけっぱち気味に吠える士郎に、百代が、あ!と声を上げた。

 

「そういえば前に、夜中に変な気配がして学校に行ったぞ私!」

 

「そうだったな!心底あれは驚いたぞ!ただでさえ訳の分からん場所に叩き落されたというのに、黒髪の女性が空を飛んで追いかけてきたのだからな!」

 

「なんだお前だったのか~なんで逃げたんだ?」

 

「見知らぬ土地で超高速で飛来する未確認生物に追いかけられてみろ!相当な恐怖だぞ!」

 

「美少女になんてこと言うんだ!」

 

「やかましい!美少女は空を飛んできたりしない!」

 

シリアスだった空気がぶち壊され、ギャーギャー言い合う二人に他の三人はガクリと肩を落とした。

 

「あー百代。その辺にせよ。話が進まぬ」

 

「そうですね。まだ聞かねばならないことがあります」

 

そうして言い合う二人を仲裁する揚羽。

 

「とにかく衛宮の事情は把握した。だがそもそもなぜお前は隠れようとしたのだ?」

 

「そうですね。戸籍などはなんとかしなければいけなかったでしょうが、隠れる必要はなかったはずです」

 

二人の言葉にコホン!と咳払いをし、

 

「それについては魔術師について話さねばなるまい」

 

士郎はそう言った。

 

「そういえば、魔術だけでなく魔術師の存在を気にしていましたね」

 

「締結した内容にもお前の力、および魔術師としての顔を秘匿するというのがあったな。なぜそこまで他の魔術師を警戒する?」

 

同類だろう?と言わんばかりの顔に士郎は顔を顰めた。

 

「一応先に言っておくが、私は魔術使い(・・・・)であって魔術師(・・・)ではないのだよ」

 

「また似たような言い回しするなぁ」

 

百代が呆れたように言う。だが、内容はそんな生易しいものではなかった。

 

「魔術師とはそもそもが研究者なのだよ。『根源の渦』と呼ばれる場所に到達することが彼らの目的だ」

 

「根源の渦?」

 

「また新しい単語が出て来たな・・・」

 

いい加減オカルト話にも疲れてきた揚羽とマルギッテ。

 

「まぁまて、これも重要なのだ。根源の渦については省略する。問題はそこではなく魔術師の性質にある」

 

「性質?」

 

「そうだ。魔術師はな。基本人でなしなのだよ。根源の渦に到達するためならばどんな犠牲も厭わない。それこそ町一つ実験の為に皆殺しにするなどザラだ」

 

「なんだと!?」

 

余りの事実に揚羽がガタリと立ち上がる。

 

「それが本当ならば捨ておけませんね・・・!」

 

彼の言葉にただのオカルト集団ではないことを悟る。

 

「そして魔術師は基本己を隠し、己の研究を秘匿する。だから何度も確認したのだ。この世界に魔術師は本当にいないのか、とな。結果、誰かさんは笑い転げていたわけだが」

 

「ぐぬ・・・」

 

「魔術師はまず己を殺すことから始める。そして死ぬまで自分以外を体のいい研究モルモットとして扱い、死の間際に己の子に魔術刻印というそれまでの研究の内容を植え付け、また研究を続行させる。それを何代も何代も重ね根源の渦を目指すのだ」

 

「まさに狂気の沙汰だな」

 

揚羽の言葉に頷く士郎。

 

「そしてもう一つ。これは私や特定の、所謂、特殊な特化型の魔術師、魔術使いに付けられる封印指定(・・・・)というのが存在する。内容は・・・聞くか?」

 

一応委ねる士郎。

 

「いや、よい。報告書で上げてくれ・・・どうせろくでもない代物であろう?」

 

「その通りだ。少なくとも真っ当な生活が出来なくなるとだけ言っておこう」

 

そう言って士郎は最後のお茶を飲みきった。

 

「私が語れるのはこのくらいだな。後は暗躍している連中をどうにかせねばなるまい」

 

士郎はそう言って眼を光らせる。これで表の問題はほぼすべて解決した。残るは今後の対応だ。現在川神に浸透してきている闇。それをなんとかしなければならない。

 

「さて私のことはこれで解決として・・・現状把握をしたい。林冲、構わないか?」

 

「話すだけなら」

 

士郎の言葉に言葉少なくそれだけ答える林冲。

 

「衛宮はここに来る時襲われたと言っていたな?」

 

揚羽の言葉に士郎は頷く。

 

「ええ。林冲の所属する梁山泊の敵対組織、曹一族。貴女の所の従者のおかげで撃退したが・・・全ての者が毒物で自害した」

 

「それは情報を吐かせられなかった、ということだな?」

 

揚羽の問いに士郎は頷く。

 

「士郎にはもう話したが・・・曹一族は基本狙ったものだけを狙うが、邪魔をされればそのもの達の周りに復讐する」

 

「なるほど・・・九鬼はもう手を出してしまったのでな。我らはいいとしてドイツ軍はどうする?」

 

揚羽の問いにマルギッテはすまなそうに、

 

「申し訳ないが迎撃に専念する。クリスお嬢様の警護を厚くしたい」

 

「よい。例の件もあるしな」

 

「例の件・・・?」

 

「近頃、武器密輸が相次いでいる。逐一潰しているが跡を絶たん。おまけに裏町のならず者達がМという人物に先導され活発化しているのだ」

 

「関係性が無いとは思えんな・・・」

 

「我も同意見よ。そこで林冲とやら。お主に聞きたい。武器密輸に中国の傭兵が関与しているようだがお前たちか?」

 

「・・・。」

 

林冲は答えない。情報の流出は傭兵にとって死に近い。

 

「答えぬか。ならば聞き方を変えよう。衛宮士郎の情報を流したのはМか?」

 

「いや。私達は予言でここに来た」

 

それには林冲が答えた。

 

「私の見解だが、梁山泊は武器密輸に関与していない。しているとすれば曹一族か―――」

 

「別の中国の傭兵ですね。ならば狙いは衛宮士郎ではなく」

 

「「梁山泊と曹一族の共倒れ」」

 

マルギッテと士郎の意見が一致した。

 

「仮にそうだとしても曹一族は引かないと思う」

 

「いや、引かせる方法はある。要は曹一族はМなる人物に踊らされたと教えればいい」

 

士郎は一つ妙案を出した。それを揚羽とマルギッテ、百代に伝える。所が・・・

 

「お、お前!それってそこの林冲ちゃんと・・・!」

 

「我慢なさい!川神百代!私も我慢するのですから・・・!」

 

ギヌロ!と百代とマルギッテが士郎を睨みつける。

 

「な、なぜ私が睨まれるのかね!?他に案があるのか?」

 

士郎は二人の視線に思わずたじろぎ、

 

「・・・。」

 

林冲は少し顔を赤くしていた。

 

「はっはっはっは!衛宮、お前は本当に面白い奴よなぁ」

 

揚羽は一人だけニヤニヤと笑っている。

 

「何もおかしなことはしないぞ!?林冲!なぜ顔を赤くする!?」

 

「だって士郎が・・・」

 

「「・・・。」」

 

「そこで切るのはやめたまえ!」

 

口調は外行きのままだがすっかり士郎は蛇に睨まれるカエルとなっていた。

 

「マルギッテさん作戦決行前に一回締めません?」

 

「いい案ですね。少々この朴念仁にも灸をすえたい所でした・・・!」

 

「ま、まて!なぜ私を追ってくる・・・!ぬおッ!?」

 

ドゴン!

 

庭に逃げた士郎に気弾が飛んでくる。

 

 

「い、今本気で当てに来ていただろう!?」

 

「当たり前だッ!」

 

「逃げられるとは思わないことですッ!」

 

百代とマルギッテが士郎を追いかけまわす。

 

「やめろ!庭が、ぬああああ!!!」

 

庭を荒らされるのを嫌った士郎は、思わず土蔵に逃げ込んだ。いや、逃げ込んでしまった(・・・・)

 

 

 

瞬間、

 

 

 

「なに!?」

 

赤い光が溢れる。そして、

 

「「士郎!?」」

 

 

彼の姿が、逃げ込んだはずの土蔵から消えてしまった。

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

 

赤い光に呑まれた士郎は目を覚ますと、巨大な歯車の回る剣の丘にいた。

 

「ここは―――」

 

ここは、あの忌々しい赤い男の―――

 

 

『こんな所に来客とはな』

 

 

厭味ったらしい声に丘の上を見上げる。

 

そこに立っている赤い背中を目にして士郎は何処か寂しい気持ちになった。

 

「ここに来たってことは・・・俺は―――」

 

死んだのか。そう口にしようとしたが、

 

『何をしている。ここは貴様の来る場所ではない』

 

そう言って彼は手近にあった剣を引き抜き、

 

『とっとと帰れ。それは餞別だ。くれてやる』

 

こちらに向かって投擲してきた。それを同じ剣で切り払う。

 

瞬間、

 

ザリザリザリ―――

 

「がっ・・・・!」

 

脳を直接搔きむしられているような激痛が走る。知らない記録が無理やり刻まれる。

 

『チッ・・・一本では足りぬか・・・』

 

そいつはそう言ってもう一本剣を抜き―――

 

『さらばだ。精々無様に足掻け』

 

こちらに向かって投げつけた―――!

 

「―――あ」

 

弾かないと。そう思うのに思考は真っ白に染まって―――

 

ザクリと、無感動に、心臓へと剣が突き立った。

 

――――interlude out――――




はい。すみません今回正直あんま面白くないかも・・・だって!説明しかできないんだもん!(土下座)

想像以上でした。これでもだいぶ端折ったんですがとんでもない字数に・・・!ウィキやらサイトやらと睨めっこしながら必死に書きましたんで許してくださいお願いします(石投げないで!)

次回は林冲ちゃんとキャッキャウフフのほのぼの(戦闘)になると思います。

それでは次回よろしくお願いします。
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