真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。計算してみた所、一日役7000字程度しかけない鈍足作者でございます。

今回は前回の続きです。紋ちゃん出て…歓迎会まで行ける…といいなぁ。とにかく頑張ってみます。


夢からの目覚め

――――interlude――――

 

そこは死の充満した地獄だった。大火災でも起きたのだろうか。

 

全ての家屋が焼け落ち、大地さえも真っ黒に染まる中、一人の少年がフラフラと歩いている。

 

「――――あ」

 

その後ろ姿に声をかけようとしたが言葉は声として出なかった。

 

フラフラと歩く少年もこの災害に巻き込まれた一人なのかあちこちに重傷を負っている。

 

ああして立って歩いていることが不思議だった。だというのに、

 

――――助けて

 

瓦礫に埋もれた黒いナニカが少年に助けを求める。

 

 

「――――ふ」

 

ふざけるな。と彼女は、彼女達は言いたかった。

 

確かに唯一動いているのは少年だけ。救助出来るとしたら彼しかいないが、あんな年端も行かぬ子供、それも彼とて瀕死だというのに助けられるはずがない。

 

なのに、

 

――――助けてくれ

 

別の黒いナニカが少年に助けを請い、伸ばした先から崩れ落ちる手を伸ばす。

 

それを少年は見て、しかしその黒いナニカかから逃れるようにフラフラと歩いた。

 

――――この子だけでも

 

そう言ってまた別な黒いナニカが黒い塊を必死に掲げている。

 

無理だ。彼とて死に体。動いてはいる。歩いてはいるが彼にはもう何も残されていない。

 

「――――」

 

なんという地獄。死に体の彼が一歩進むごとに四方から助けを呼ぶ声がする。

 

しかし、彼にはそれに応える力などない。むしろなぜ彼は歩けているのか不思議なくらいだ。

 

これだけ広範囲に及ぶ災害で彼だけが辛うじて命を繋いでいたが、それは命の最後の灯が見せる最後の輝きに過ぎない。

 

「うう・・・」

 

助けを呼ぶ声に耐え切れず少年は耳を辛うじて繋がっている両手で塞ぐ。

 

無理もない。この助けを呼ぶ声は彼にとって怨嗟の声でしかない。

 

救う力を持たず。己の命すらとうに消えかけているというのに他人に気をかける余裕などないのだから。

 

「――――」

 

助けを呼ぶ声を振り切って。彼は歩く。この先に助けが居るからなのか。いや違う。彼の目にはなにも映されてなどいない。

 

どうか、この子に助けを。そう彼女達は叫びたかった。黒いナニカには申し訳ないが、貴方方はもう助からない。唯一助かるとしたらこの少年しかいない。

 

ガリガリと。残っているだろう心さえも助けを拒むごとに少年から喪われていく。酷い、本当に酷い地獄。

 

「――――」

 

ドシャリと。遂に少年に残された力も尽きた。崩れ落ちた少年を確認したように空から雫が落ちてくる。

 

黒い太陽がゆっくりと消えていく。しかし少年にはもうなにも残っていない。立ち上がる力も、助けを呼ぶ声も出すことはできない。

 

「ああ――――」

 

彼女達は必死にもがいた。あの少年の元へ。もう終えようとしている命だがそれが燃え尽きる前に少年の元へ行きたかった。

 

でも体はピクリとも動かない。声すら出せない。自分たちは傍観者。この記憶を覗き見ているに過ぎないのだから。

 

少年がゆっくりと片腕を上げる。何かを掴もうとする手は助けを求めるように彷徨い、

 

「あ――――」

 

ゆっくりと力が抜けるように手が落ちる。それを

 

「――――!」

 

崩れ落ちる手を、男がしっかりと掴んだ。もう死に体の少年を男はつかみ取った。

 

 

「――――」

 

男は涙を流し、何かを言っている。だが、彼女達はその顔に怒りを覚えた。

 

あれは違う。少年を救えることに涙し、歓喜しているのではない。

 

己の罪がほんの少しでも許されたという男自身の安堵の顔だ。

 

なんという身勝手。恐らくこの災害の原因だろう男は、いるはずのない生存者を見つけたことで自分の罪が軽くなったと喜んでいるのだ。

 

そして少年は既に手遅れである。確かに男が彼を見つけたがもう彼に生きる力は残されていない。

 

それを――――

 

眩い光が景色を染め上げた。それが何なのかは理解できなかった。だが、この光によってあの少年は助かったのだろう。

 

しかし仮に彼が生きながらえたとして彼に何が残っているというのか。大切な人も、健全であっただろう心も削り落とされた少年に一体なにが残るというのか。

 

光が収まった後。少年の体は無傷のように癒されていた。しかし傍目に見てもわかる。あれでは体が治っただけ。人間として必要な何かが少年からこぼれ落ちてしまった。

 

そんな、悪夢を彼女達は見た。それがなんの意味を持つのかはわからないがきっと、あれが衛宮士郎なのだと。彼女達は直感した。

 

――――interlude out――――

 

「う・・・」

 

体が酷く重い。どうにも何かがのしかかっているような・・・

 

「ここは・・・百代?」

 

ベッドに横になる自分に覆いかぶさるように眠る彼女がいた。いや、彼女だけではない

 

「由紀江・・・マルギッテ、揚羽さん?それと・・・」

 

見慣れぬ少女が自分の横で眠っていた。

 

「おお!マスター!お目覚めになりましたか!」

 

遠くにいたレオニダスがのしのしとやってくる。

 

「レオニダス。すまない迷惑をかけた。彼女達は・・・?」

 

「それが、ややこしいことになりまして・・・」

 

彼女達がここにいる経緯と義経が倒れ込んだ時に何かに導かれたのを彼は伝えた。

 

「導かれた・・・?まずいな」

 

そう言って士郎は上着を脱いだ。心臓の位置にある令呪。そこに意識を集中する。

 

「――――同調、開始(トレース・オン)

 

己の体に解析をかける。そして驚くべきことが判明した。

 

「!百代達と俺の間にパスが通ってる・・・!?」

 

彼女達に魔術回路は存在しない。なのでパスというより精神の契約、だろうか?とにかく、何かの拍子に彼女達は自分の意識の中に紛れ込んでしまったようだ。

 

「衛宮、くん?さん?どっちでもいいか。起きてすぐ申し訳ないけど主をなんとかできるかい?」

 

そう問うてくるのは見覚えのない女性だ。左手にひょうたんをぶら下げ、右手に錫杖を持つ彼女は――――

 

「彼女は新入生の武蔵坊弁慶嬢です。同じく新入生の源義経嬢がマスターの隣で眠っている少女」

 

そう言われて隣に眠る少女を見る。後ろで黒髪を結んだ少女――――

 

ザリザリザリ――――

 

「うっ・・・」

 

「マスター!」

 

「大丈夫だ・・・残滓みたいなものだろう。もう反応はしない。それより彼女達を呼び戻さないと」

 

そう言って目を閉じ、繋がった5つのパスを辿る。

 

(厄介だな。かなり混濁している。これは余計な場所まで飛ばされたな)

 

自分と繋がってはいるが、彼女らは自分を経由してここではない所に意識を引っ張られている。

 

(だがどうにかなりそうだ。要は俺の投影と同じ。俺を経由しているのだから必ずこちらに引きずり出せるはずだ)

 

幸いなのは魂ではなくあくまで意識だけが飛ばされているということ。

 

もし魂まで引きずられていたら第三魔法の領分になるところだった。

 

「――――投影、開始(トレース・オン)

 

落ち着いて、投影を行うように八節に分けて混濁してしまった彼女達の意識を再構築する。

 

百代、由紀江、マルギッテ、揚羽、義経。それぞれの意識を己の深層から引きずり出し、パスを通して各々の体に投射する。

 

「――――全工程、完了(トレース・オフ)

 

なんとかこっちに引きずり出せた。だが、一つ問題が出来てしまった。

 

「五人とも一体何処まで潜ったんだ・・・」

 

「まずい状態なのかい?」

 

弁慶の問いに士郎は首を振った。

 

「いや、なんとかなった。けど、どうにも彼女達は俺を通して余計な所で余計なことをしでかしたみたいだ」

 

「どういうこと?」

 

主の危機を悟って弁慶が口数少なく問うてくる。

 

「多分あいつの所に行ったんだ。そこで記憶(記録)を読み取ろうとした」

 

「あいつ?」

 

「マスター。もしやそれは・・・」

 

レオニダスの戸惑う声に頷く。

 

「幸い、ギリギリの所で引き戻せた。でも、何かしらの後遺症が残るかもしれない」

 

「義経・・・!」

 

がばっと眠る彼女に迫る弁慶。そして眠る彼女をゆさぶり起こそうとする。

 

「まてまて、もう意識は戻ってる。変に起こすと余計に酷いことになりかねない。っと、だから自然と目が覚めるまで待ってやってくれ」

 

そう言って士郎はシャツを着直して百代達が頭を打ち付けないようにベッドから出る。

 

「レオニダス。俺はどのくらい意識を失ってた?」

 

「約6時間ほどでしょうか。もうそろそろ学業も終わりでしょう。しかし、まさかマスターが・・・」

 

「それ以上は禁句だぞ。とは言っても、彼女達は分かってしまったかもしれないが」

 

自分を通して英霊の座に意識を引っ張られたのなら間違いなくあいつ(アーチャー)のところだろう。

 

そこで愚かにも英霊の記録を読み取ろうとした代償は大きい。恐らく彼女達は相当な苦痛を身に受けたはずだ。

 

「あとは彼女達を信じるしかない。俺には魔術の才能はないからな・・・これが精一杯だ」

 

「義経・・・」

 

弁慶は眠る義経の手を握った。これでは木乃伊取りが木乃伊になるという状態だ。

 

(なぜ奴の記録なぞに手を出した・・・!それは人の身に余る行為だと告げなかったのか?)

 

恐らく犯人であろう赤い背中に殺意が湧く。だが、奴がなんの意味もなくそんなことをするだろうか?

 

(もし俺なら・・・間違いなく警告している。それでもやったのなら彼女達の意思か・・・はたまた奴の気まぐれか?どちらにせよ、厄介なことをしてくれた)

 

五体満足とは考えにくい。いや、体は無事かも知れないが何かしらの精神障害をきたした可能性はある。

 

「――――」

 

さらりと、百代の黒髪をなぜる。体温が随分と高い気がするが、大丈夫だろうか。

 

程なくして、

 

「う・・・」

 

「ううん・・・」

 

「・・・はっ!」

 

「ぬ・・・」

 

「ふあぁ・・・」

 

五人が目を覚ました。

 

「義経!」

 

「べん、けい?」

 

「義経!大丈夫?私がわかる?」

 

「うん・・・でも、あいたた・・・」

 

何かを言いかけた義経だったが頭を抱えた。

 

「頭痛がするの?」

 

「うん、ちょっと無茶した」

 

その様子を静かに見守っていた士郎が謝る。

 

「源義経さんだな。東西戦の時に顔は見合わせたと思うけど、俺が衛宮士郎だ。今回はすまない。危ない目に遭わせてしまった」

 

「ううん。義経達が望んでやったことだから。衛宮さんは悪くない」

 

それを聞いて士郎は少し安堵した。よかった。無事戻ってこれたようだ。

 

「それで、どんな無茶をやらかしたんだ百代。恐らく、君が一番無茶をしたんだと思うんだが」

 

「うう・・・声を荒げないでくれ・・・頭に響く・・・」

 

「我も同感、だな。良くは覚えていないが、百代が一番の爆薬を爆発させたような気がしている」

 

「モモ先輩容赦なく機雷を爆発させましたね・・・」

 

「そうですね・・・危うく、祖国の英霊の元に行くところでした」

 

口々にそういう彼女達。かなりダメージを追っているが、問題なさげ・・・

 

「む?百代、ちょっとこっちを向け」

 

「なんだよー・・・まだ頭が・・・」

 

「いいからこっちを向け」

 

そう言って士郎は強引に百代をこちらに向けた。

 

「――――」

 

「なんだよ、私の顔になにかついてるのか?」

 

「も、モモ先輩、片目が・・・」

 

「え?」

 

じっと士郎は百代の目、正確には左目を注視していた。

 

「百代。これは何本に見える?」

 

指を二本立てて目の前に出す。

 

「二本だろ?ちゃんと見えて――――」

 

そこで彼女は違和感に気づいた。

 

「士郎、お前指にタトゥーなんか入れてたか?」

 

「――――!」

 

士郎の指にタトゥーなど入っていない。彼女の目に映っているのは恐らく自分の魔術回路だ。

 

「由紀江は・・・大丈夫そうだな。揚羽さんも問題なさそうだが・・・マルギッテはどうだ、違和感があるか?」

 

「・・・。」

 

問題なさげに見えるマルギッテは何故か顔を赤くした。

 

「?どうしたんだ?」

 

「少し、確認したいことが出来ました。すぐに戻るので待っていなさい」

 

そう言って彼女はほぼ駆け足で保健室を出て行った。

 

「おい、それより士郎お前なんで全身にタトゥーなんか入れてるんだよ。気持ち悪いぞ」

 

「・・・由紀江にも俺にタトゥーが入っているように見えるか?」

 

「いえ、ただなんと言いますか・・・士郎先輩との繋がりを感じます」

 

「我もだ。なんだか妙な感覚よ。まるで意識を引っ張り合っているような・・・引きずられはしないが、お前の存在を強く感じる」

 

「参ったな。義経はどうだ?」

 

「義経も衛宮さんのことが強く感じられます。多分、離れてても大体の場所がわかる・・・と思う」

 

それを聞いた士郎はしばし考えた。

 

「・・・すまないが、確認してもらいたいことがある。体のどこかに文様が出てないか確認してくれ。場所は恐らくランダムなので私とレオニダスは席を外そう。百代もこっちに来てくれ」

 

そう言って百代だけを引っ張り出してベッドのカーテンを閉めた。

 

「なんだよー一体私になにが起きてるんだよー」

 

「落ち着いてまずそこの鏡をみろ」

 

「鏡?・・・あ!!!」

 

百代の赤い瞳が、正確には左の瞳に剣のような文様が浮き上がっている。

 

「マスター。これは・・・」

 

「低位の魔眼と言ったところだろう。恐らく私の・・・解析の力が宿ったのではないかと思う」

 

魔眼。それは種類も効果も様々だが、有名なのはメドゥーサの宿したと言われる石化の魔眼。後は相手の死、概念的に脆い部分が見えるという直死の魔眼。見たものを歪曲させる歪曲の魔眼。

 

今回彼女は士郎の魔術の一部を何らかの理由で目に宿したのだ。

 

「うわなんだこれ!かっこいいじゃん!」

 

「たわけ!それがなんの代償も無しに使えるはずなかろう!目に意識を集中して何を支払っているのかきちんと把握しろ!」

 

士郎の言葉に唇を尖らせながら百代は目を閉じて目に意識を集中する。

 

「んー?目を閉じても青い人型が見えるぞ?士郎か?それと隣にいるレオさんと・・・カーテンの向こうのまゆまゆと義経に揚羽さんも見える!3サイズまでバッチリだ!!!」

 

ドゴス!!

 

「痛い!」

 

「下らんことに使うな!全く・・・低位だからいいものを、これが直死等だったら脳が破裂しているかグシャグシャの光景で正気を失うかしているところだぞ」

 

いわゆる天然のスカ〇ターとでもいう所か。戦闘力を数値化するのではなく、意識した対象の情報を読み取る力と言ったとこだろう。

 

「そこのベッドの構成材質はどうだ?」

 

「うーん・・・綿?あと色々あるけどわかんない」

 

「・・・。」

 

どうにもそもそものスペック(頭脳)が足りてないようだ。

 

「そういえば百代はFクラスだったな・・・」

 

「あー、なんだよその言い方ー馬鹿にしただろー」

 

ぎゅむりと士郎に抱き着く百代。

 

「ふむふむ・・・士郎の下は・・・」

 

ドゴス!!!

 

「痛い!!」

 

「だから下らんことに使うなと言っただろうが!個人情報をほいほい読み取るな!」

 

「ちぇー・・・でもいいなこれ。色々わかって楽しいぞ!」

 

「その分脳に負荷がかかるはずだ。決して魔術的なものや複雑なものを読み取ろうとするなよ。まぁ、そうそう魔術品などには出会わないだろうが」

 

ちなみに彼女は気づいていないが、彼女達ファミリー全員が身に付けているペンダントは簡易的な魔術礼装だ。見ようと思えばその構造などを解析できるかもしれない。

 

とはいえ、そもそもの頭脳がポンコツなので見えても理解不能だろうが。

 

「終わったぞ。お前の言う通り、私達の体に剣のような文様が刻まれている。それと、」

 

ドゴス!!!

 

「痛い!!?」

 

「人の3サイズなど図るなこの変態が!!」

 

「なんだよー揚羽さんも私も女じゃないですかー」

 

「それでもプライベートというものが存在するわ!見られても恥ずかしくない体を自負しているが「揚羽さん、一応男二人いるんで・・・」そうよな!」

 

士郎が口を挟み、揚羽は少々顔を赤くして追及をやめた。

 

「あわわ・・・まるでタトゥーを入れたみたいです・・・」

 

「これはもうシロ坊にもらってもらうしかねーんじゃね?」

 

「そういうことをいうのはこの口かまゆまゆー!!」

 

「いひゃい!いひゃいです!」

 

「そっかー主は憧れの英雄に傷物にされちゃったのかー」

 

「べ、弁慶!そういう言い方しないでくれ!」

 

「あー・・・一応謝る。すまない」

 

「いえいえ!私達にも責任がありますから・・・」

 

「でも正直モモ先輩と同じの欲しかったよねー」

 

「ふふん!私は最強だからな!・・・あ、でもなんか疲れてきた。というか頭痛い」

 

「当たり前だ。普通の人よりも何倍もの情報を脳が取得しているんだ。負荷がかかって当然だろう。ちょっとまて――――」

 

――――同調、開始(トレース・オン)

 

元が同じなら自分にもコントロールができるはずだ。そう考えて士郎は百代の頭に手を乗せ、魔眼を封じてやる。

 

「どうだ?」

 

「ああッ!?見えなくなった!」

 

「悲しそうに言うな馬鹿者!しかし、便利な能力よな。それがあれば鉱山の鉱物の含有量などもわかるのではないか?」

 

揚羽の言葉を聞いた途端、士郎は青い顔をして後ずさりした。

 

「なんだ。問題でもあるのか?」

 

「・・・揚羽さん。想像してみてください。脳内に様々な方程式やら数値がやたらめったらに叩き込まれるんですよ」

 

「・・・。」

 

揚羽は脳をかき回されるあの痛みを思い出した。

 

「我が悪かった。鉱山などという広範囲の情報を脳に直接叩き込まれたら脳が破裂する」

 

「わかってもらえて嬉しいです。ちなみに、頼まれてもやりませんからね」

 

事前に士郎は断った。

 

実は士郎。まったく同じことを遠坂とルヴィアが宝石の含有量で言い出し、嫌がる自分を無理やり鉱山に放り込まれてやらされたことがある。

 

当然、やった直後に卒倒したが。

 

「士郎もできるのか?」

 

「できるというか備わっているというか・・・剣を見た時に骨子や構造を無意識に読み取るんだよ。だから百代も多分、剣なら負担が少なくてすむと思うぞ」

 

なにせ衛宮士郎の魔術は基本的に一つだけなのだ。他は全てそこからこぼれ落ちたものに過ぎない。

 

そこから抽出されたものなら通常の解析ではないだろう。剣に特化した解析能力のはずだ。

 

「ふーん。つまり士郎も3サイ『やるかたわけ!!!』痛い!!」

 

3サイズを引っ張る百代に再度チョップを落として士郎は不機嫌そうに腕を組んだ。

 

「俺には魔眼のような力はない。意識して魔術を発動させなければ剣以外は見えない。そもそも魔術にはスイッチみたいなものがある。それを切り替えられないと将来頭痛で悶絶死するぞ」

 

これは遠坂に起動スイッチを強制的にONにされた時の経験談だ。あの時はまさか死にかけるとは思ってもいなかったのだが。

 

「それで、私達のこの文様は何なのでしょう・・・?」

 

「義経も、気になる」

 

二人の言葉に士郎は、

 

「特になにか不自由が起きるわけではない。それは俺と君たちが魔術的な繋がりを持っている証のようなものだ。それこそ、由紀江が言ったみたいに相互の位置を把握できる程度のものだろうさ。あって困るなら解除することも可能だ。解除するかね?というかしたほうがいいと思うのだが・・・」

 

「い、いえ!是非ともこのままで!!!」

 

「よ、義経も!!!」

 

「おー攻めるね主ー」

 

「わ、やめて弁慶ー!くすぐったい!くすぐったいから!」

 

「我もこのままでよい。なにかと便利そうだしな」

 

とそこでガラリと保健室のドアが開き、顔を真っ赤にしたマルギッテが戻ってきた。

 

「マルギッテ。君にも紋「確認してきました問題ありません」そ、そうか」

 

有無を言わさぬ物言いに士郎はたじろいだ。

 

「うーん?」

 

パキィン!

 

「あ!こら封印を力技で解くな!」

 

見れば折角封印した百代の左目にまた文様が浮かんでいる。

 

「あ!マルギッテさんそんな「やめなさい!!!」あぶぶ・・・」

 

慌てて口を塞ぐマルギッテ。どうやら恥ずかしい場所に刻まれてしまったらしい。

 

「あー・・・なんだ。俺の令呪みたいに刻印は意図しない場所にできることがある。基本的には腕などにするのだが魔術刻印の刻み方を私は知らないし、あくまでパスが繋がっている証というだけなのであまり気にしないでほしい」

 

「パス、ということはなにかを相互にやり取りができるのではないか?」

 

揚羽の言葉に士郎は首を振った。

 

「できなくはないが、魔力に限った話しだ。魔術は魔術回路が無ければ発動できない。私が魔力を送ったら魔術回路を持たない君達にはなんの利益もないどころか不利益しか起きないぞ。あいや、念話くらいはいけるか・・・?」

 

そう思って士郎は念話を試してみる。

 

「うん・・・?」

 

「なにかは聞こえますけど・・・」

 

「よく聞こえないですね」

 

「・・・。」

 

一人だけモジモジとしている以外は効果なしのようであった。

 

「マルギッテ、大丈夫か?さっき皆には言ったんだが契約破棄は可能だぞ。嫌なら「このままで結構」そうか・・・」

 

またも迫力のある顔で威圧されたのでここまでとする。

 

「とりあえず百代はその魔眼のコントロールを会得することだな。でないと多分眠れないぞ」

 

「ええ!?なんで!?」

 

士郎の言葉にまたぎゅむりと抱き着く百代。

 

「だって目を閉じても見えるんだろう?そんな状態で寝れるのか?」

 

「・・・無理かも」

 

しょぼんと肩を落とす百代。

 

「幸い俺が静めることができるからコントロール出来るようになるまで封印を勝手に解くなよ。でないと本当に頭痛で死ぬぞ」

 

冗談でもなく本当である。うっかり超複雑なものを解析したら脳がバーストしてしまう。意外と、レオニダスの時計とか秘密基地にいるクッキーとかヤバイかもしれない。

 

「何はともあれこうして皆無事に戻ってこれたということだ。まずはそれを喜ぶとしよう!」

 

と、いい感じに纏めた揚羽だが、

 

「いや、そもそも君達が向こうで・・・いや、もういい・・・」

 

原因は士郎にあると言えなくはないが、向こうで余計なことさえしなければこうも大事にならなかったのは、既に忘却の彼方だった。

 

 

 

保健室を出て廊下を歩いていると、

 

「あ!士郎だ!」

 

一子がいち早く彼の姿を発見した。跳んで(文字通り)くる彼女をキャッチする。

 

「おう。心配をかけて悪い。もう大丈夫だ」

 

「まったく、本当に心配したんだぜ?」

 

「レオニダスさんが大丈夫って言ってたけど本当に無事でよかったよ」

 

「俺様もだ。先生がついてりゃあ大丈夫とは思ったけどよ」

 

「また秘密が増えたな士郎」

 

「・・・でも今回のは聞かない方がいいっぽい、かな?」

 

「かもな。秘密っつーより、士郎も予想外だったんだろ?」

 

みんなの言葉に安堵しながら、

 

「ああ。完全に予想外だ。それに答えろって言われてもほとんど記憶にないんだ。とにかく頭痛でぶっ倒れたことしかわからない」

 

事実彼はあの時何を見たのかほとんど覚えていないし、微かに残る光景もなんの、どこのものだったのかさえわからない。聞かれても答えようがなかった。

 

「みんな迎えに来てくれたのか?」

 

「ああ、それもあるんだけど・・・」

 

と、鋭い殺気を一瞬士郎は感じた。

 

(これはいつぞやのものと同じだな)

 

まだ九鬼と繋がりが無かった頃。遠方からこちらを探る視線と時折挑発の様に送られるそれと同じだ。

 

「ふっふっふはっはっはっは!我、顕現である!」

 

と、銀髪の額にバツ印の傷がついた少女が現れた。それと――――

 

「初めまして。1-S組に編入になりました。ヒューム・ヘルシングです。よろしくお願いします。衛宮士郎先輩?」

 

妙に威圧してくる金髪の執事服を着た老人だった。

 

「――――」

 

一瞬ヒュームと士郎の間で視線が弾けた。しかしそんなことに気づかぬとばかりに、

 

「おお!紋!立派な挨拶であったぞ!」

 

予想通り九鬼の、それも揚羽と英雄の妹であろう少女を揚羽が抱きしめる。

 

「士郎の所にも行くところだったんだけど、紋白ちゃんが大和に人の斡旋を頼んでて、みんなで色々歩いてたんだよ」

 

「うむ!我は九鬼紋白!1-S組に入学した、兄上と姉上の妹である!」

 

と、小さい体をいっぱい使って豪胆な雰囲気を出す紋白。流石、彼女達の家系の人間。実に似たり寄ったりである。

 

「俺は衛宮士郎。2-F組だ。すまないな、折角の編入時にいきなり騒がせちまって」

 

「良い!衛宮には姉上が付いておったので心配していなかった。とはいえ、体はもう大丈夫であるか?」

 

「ああ。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だ」

 

「そうか。では遠慮なく頼もうぞ!ヒューム!」

 

はい。と老執事は前に出た。

 

「――――」

 

「士郎?」

 

「士郎先輩?」

 

空気が変わったのを百代と由紀江が一番に感じ取った。

 

「五体無事ということなので、一手ご教授願えませんかな」

 

そう言って彼は学園のエンブレムを優雅に差し出した。

 

 

 

ざわざわと、学園のグラウンドに生徒達が集まっている。曰く、

 

――――九鬼の零番、最強の執事が赤き英雄、衛宮士郎に決闘を申し込んだ。

 

しかしてその噂は真実であった。学生達の中心には巨大な空白の円が出来ており、そこに立つのは金髪の執事と学生服の衛宮士郎。

 

 

相反する二人が対峙していた。

 

「おい、あの執事九鬼家の最強執事らしいぞ」

 

「百代様の背後を簡単にとってた不良執事ね!」

 

「九鬼最強と現代の英雄・・・どっちが強いんだ?」

 

口々に今にも始まる決闘を見守る。

 

「私は蹴り主体だ。貴様は魔術とやらを使うんだろう?いくらでも使うがいい赤子よ」

 

「これはご丁寧に。しかし人に対する礼儀がなってないな。九鬼ともあろうものが礼節すら欠くとはとんだ笑い話だ」

 

互いに挑発し合う。士郎の言葉に殺気を露わにするヒューム。しかし士郎はどこ吹く風と皮肉気に笑っている。

 

(おいおいマジかあいつ。ヒューム相手に挑発するとか死にてぇのか!?)

 

英雄の傍で様子を見ているあずみは思わず背筋が凍る。

 

――――九鬼家従者部隊 序列零番、ヒューム・ヘルシング。年老いてはいるがそれを感じさせない程の威圧感と闘気。そして九鬼家最強の存在である。

 

揚羽を弟子として育て上げ、今でも最強の地位を維持し続ける正真正銘怪物。彼は百代相手であろうとも決して負けない。

 

その男が、ああも殺気を露わにして青年を睨みつけている。たった一言で彼はヒュームの逆鱗を撫でるどころかその鱗を引き剥がした。

 

「審判はわしがする。言うておくが、やりすぎと見たら止めるからのう」

 

「心配するな。少しばかり赤子と戯れるだけよ」

 

「そうだな。礼のなっていない下級生に少々苦言を呈するにすぎん。私はそれほど暇ではないのでね」

 

「貴様――――!!!」

 

売り言葉に買い言葉。あずみ達のような手練れでさえあの殺気には耐えられない。

 

もし割って入ろうものなら一瞬で細切れにされる。そう本能が叫んでいる。

 

「まだ開始の合図はしておらんというのに・・・では、」

 

それまで騒めいていた生徒が静かになる。

 

張りつめる緊張感が尋常ではない。心臓が握りつぶされそうだ。

 

耳が痛くなるほどの静けさの中、

 

「始めッ!!!」

 

「――――!!!」

 

金髪の執事が開始の合図とともに一瞬で消える。

 

だが、対する衛宮士郎は自然体で腕はだらりと下げられたまま。手にはなにも握られていない。

 

瞬間、

 

「ジェノサイド――――!!!」

 

いつの間にか懐に入っていたヒュームが鋭いカッターのような蹴りを放つ。だが、

 

「――――」

 

衛宮士郎は至って自然に。食らえば確実に意識を刈り取られるその一撃に、草花を扱うようにそっと手を添えて、

 

「チェーン・・・!?」

 

意識を刈り取るはずの蹴りが空を裂き、ヒュームがその場で回転する。

 

(嘘だろ・・・あのヒュームの蹴りを)

 

(((片手でいなした!!?)))

 

「どうした。それで終わりかね?まだ始まって一合目だが」

 

空を裂き、隙を見せたヒュームに衛宮士郎は追撃しない。ただ自然に立っていた。

 

「赤子が!調子に乗るなよッ!!!」

 

激しい蹴りの連打。それをいなし、弾き、防ぐ。

 

衛宮士郎は未だに無手のまま。彼の戦闘スタイルは双剣による近接戦闘ということはここにいる全ての者が知っている。

 

だというのに彼は一切武器を握らない。その体術、技術でもって最強の執事へと立ち向かう。

 

「貴様!赤子の分際で俺相手に手を抜くか!!!」

 

「手を抜く?何を勘違いしているのか知らないが、私に剣を握らせたいのなら決死の覚悟で挑んで来い。私の剣はそんなに安くはない」

 

ガツン!ととても肉体がぶつかり合ったとは思えぬ音が鳴り響く。

 

「ヒュームさんの蹴りを」

 

「蹴りで迎え撃った!?」

 

ヒュームの回し蹴りを全く同じ逆回転の回し蹴りが迎え撃つ。蹴りの連打を同じく蹴りの連打で迎え撃つ。

 

その光景にもはやあずみを筆頭に九鬼関係者は顔を青くする。

 

あれは挑発だ。お前の技など自分にも真似できる程度のものでしかないという極上の挑発。

 

両の手が空いているというのにあえて蹴りに縛って衛宮士郎はヒュームと対峙する。

 

「この俺を・・・!!!コケにするか!!!」

 

一際鋭い蹴りが衛宮士郎の喉笛を切り裂かんと迫る。もはや手加減などと生易しいものではない。このまま食らえば間違いなく首が飛ぶだろう。

 

しかし彼の鷹の目はその軌道を正確に捉えていた。

 

「やれやれ、随分と御歳を召したのではないかね?この程度の事で冷静さを失うとは。最強の名が泣こう」

 

そんな軽口と共にまたもヒューム渾身の蹴りは片手を添えるだけで空を切り、

 

「はぁッ!!!」

 

裂帛の声と共に衛宮士郎の蹴りがヒュームの鳩尾にクリーンヒットした。

 

「ごふっ!?」

 

予想外の一撃にヒュームが吹っ飛ぶ。よく見れば両手でガードしたようだが、勢いを殺しきれず囲んでいた生徒を巻き込んで吹っ飛んでいった。

 

「おや?すまない。少々強く蹴りすぎたようだ。巻き添えになってしまった者にはあとで謝罪しよう」

 

そう言って彼は態勢を戻し、腕を組んで見下すように言った。

 

「どうした?まさかこれで終わりではあるまい。あれ程気勢を上げて挑んできたのだ。たかだか学生の蹴り一つでギブアップ、ではなかろうな?」

 

(なんなんだ!あいつ一体何者なんだよ!!!ヒュームだぞ!?あのヒューム・ヘルシングが逆に赤子扱いじゃねーか!!!)

 

(弟子である我でも信じられぬわ・・・覚醒した百代ならまだしも剣すら握らぬ衛宮士郎がこれほどに圧倒的とは!!)

 

(士郎は本気を出してない。なのにあのヒュームさんを一蹴か。本当に楽しませてくれるな!士郎!!)

 

倒れたヒュームが起き上がる。

 

「――――赤子と侮ったことを詫びよう。貴様の名は?」

 

「衛宮士郎だ。いい加減人の名前を覚える努力をすることだな。誰も彼も赤子と驕るから無様を晒すのだ」

 

くだらんとばかりに士郎が片目を閉じる。

 

彼の言葉に何を思ったのか。ただ一つ言えることは彼が本気になったということ。

 

金髪をざわざわと騒めかせ、手足に雷撃が走る。ヒューム・ヘルシングの本気。

 

彼らヘルシング家はバンパイアを討伐したという噂があるが、実態は百代が使う瞬間回復を使う武道家を倒したことによるものだ。

 

瞬間回復は気によって細胞を活性化させ傷を癒すものだと士郎は既に見抜いている。これまで百代が彼の前でどれだけ使ってきたか。

 

解析する機会はいくらでもあった。そして彼本来の力からしてその回復はなんの役にも立たない。

 

ただ不死殺しの武器を使えば事足りるのだから。神秘は力技で越えられるほど甘くはない。そうでなくとも有限の力である限り不死と思われがちだが所詮死ににくいというだけ。

 

過去に戦ったバーサーカーの十二の試練(ゴッドハンド)に比べればなんのことはない。

 

(しかし雷撃か。素手では手に余るか?)

 

依然姿勢も表情も変えないが士郎は思案していた。このまま相手をするのもいいが、それでは間違いなく手に余る。

 

理屈は不明だが雷撃を纏った攻撃を素手で捌けば当然感電するだろう。恐らくそこまで強力なものではなかろうが、受け続ければ痺れて動けなくなるのは道理。

 

かといって干将・莫耶でも感電は防げない。使うならば雷を断ち切る武器。しかし、それでは宝具としてのクラスが上がりすぎて一手で相手に致命傷を負わせることとなろう。

 

(厄介だな。手加減は難しい。と言って精度を落とした投影ではたちまち蹴り砕かれよう。刃を潰したところで間違いなく斬撃が通る。で、あるならば――――)

 

「!」

 

「衛宮が動いた!」

 

左腕を何かを握るように掲げる。

 

「生憎そろそろお暇したいのでね。次の一撃で終いとする。死んでも恨んでくれるなよ」

 

投影するはかの大英雄の斧剣。ただし刃の部分はすべて削り落とす。見た目は取っ手のついた巨大な石の塊だ。

 

「で、でけえ!」

 

「あんなもん片手で振れるかよ・・・!!?」

 

「衛宮士郎か。その名、覚えたぞ・・・貴様こそ死んでも後悔するなよ・・・!!!」

 

互いの距離は三メートルほど。恐らくヒュームはこの距離でも一瞬で零にしてくる。

 

故に決着は一瞬。この一撃で決まる。一撃では意識を奪うまで足りぬだろう。相手はまがりなりにも最強を自負する男。

 

如何に巨重の石柱と言えど多少の一撃ではあの男は振り切ってくる。その確信がある。

 

反撃は許さない。一歩たりとも懐には入らせない。

 

「そこの生徒諸君。道を開けてくれ。死んでも知らないぞ」

 

巨大な斧剣を手に奴を凝視する。呼吸を止め、体内に眠る魔術回路27本全てに魔力を叩きこむ。

 

「いくぞ・・・!!!」

 

「――――」

 

ヒュームの声に返答はない。だがその眼はいつでも来いと語っていた。

 

(衛宮の奴あんなもん持ち出して一体何を!?)

 

彼の手は傍から見れば愚策だ。この距離を一瞬で踏みつぶすヒューム相手にあんな巨大な、一振りできるのかさえ怪しい鈍器を持ち出すなど自殺行為。

 

だが彼らは知らない。形こそ変えられているがあれは大英雄の振るった剣。大英雄の怪力に耐え、不死の怪物ヒュドラを殺した神秘の宿る武器。

 

――――投影、装填(トリガー・オフ)

 

カチリ、と脳内に一本ずつ。八か所の急所に狙いを定める。

 

「ジェノサイドッ!!!」

 

相手が迫る。愚直にも彼は最初と同じ蹴り技で来る。だがその威力は桁違いだ。一撃を許せば間違いなく首が飛ぶ。

 

「イカン!この戦い――――」

 

遅い。止めるには遅すぎた。このタイミングでは間違いなく止まれない。既に相手は攻撃モーション。こちらも迎撃と共にその四肢を――――

 

「ダメじゃッ!!!ヒューム!!!」

 

「!」

 

銀髪の、小柄な少女が間合いに飛び込んできた。

 

「「「「紋(様)!!!」」」」

 

まずい。このままでは彼女ごと打ってしまう。それはダメだ。あの執事ならば瀕死で済む可能性があるが、彼女では掠りでもしたらバラバラに吹き飛ぶ。

 

どうする。既に脳裏に軌道は装填されてしまった。

 

「ぐがッ!!!」

 

そんなことはどうでもいい。目の前の小さな命を救えずして何が正義の味方か。装填されていた軌道を魔術回路をバーストさせることで強制的に無散させる。

 

幸い必要なのは一歩のみ。ならば、バーストした魔力をそのまま足へと叩き込む!

 

「――――ッ!!!」

 

声は出ない。そんな余裕はない。やることは単純明快。目の前の少女の前に立ちふさがることのみ!

 

ズドン!と物騒な音を立てて担い手を失った斧剣がその場に落ちる。

 

そして、

 

――――interlude――――

 

最初はヒュームの滅多に見せない希望を叶えようと思っただけだった。

 

それが、こんなにも激しい命の取り合いになるなんて思いもしなかった。

 

激しい舌戦に我自身、九鬼を侮辱された様で悔しかった。

 

だからヒュームなら、それを覆していつものように傲岸不遜に所詮赤子よと言ってくれると思った。

 

けれどそれは叶わなかった。衛宮士郎は得意という魔術を使わずにヒュームとやり合った。

 

まるで夢でも見ているようだった。ヒュームに体術で、それも同じ蹴り技で一撃入れるなんて思いもしなかった。

 

ハラハラと見ていた我に嫌な幻が見えた。絶対ヒュームが勝つはずなのに。絶対ヒュームの方が強いはずなのに。

 

いつも孫のように見守ってくれる姿が、力なく倒れ伏す姿が目に浮かんでしまった。

 

「ダメじゃッ!!!ヒューム!!!」

 

だから思わず体が動いてしまった。そんな幻を打ち消したくて、自分を目にすればヒューム爺は止まってくれると思って。

 

でもヒュームの顔を見て怖気が走った。見たことのない、鬼のような顔をしたヒュームは止まらずに間に入った我へと跳んでくる。

 

きっと、あれがヒューム爺の本当の姿なのだ。好敵手と全力で戦う時の本気の姿。その姿は怖かったけれど別にだからと言って嫌いになったりしない。

 

だってヒューム爺はヒューム爺だから。でも、この後来るだろう激痛にギュッと目を閉じた。

 

ゴヒュッ!と嫌な音がした。でも、痛みは来なかった。

 

「ダメだろう。いきなり飛び出しては。近頃の武道家は突然止まれないんだ」

 

そう言って我を優しく抱きしめ頭を撫でてくれるのは、

 

「えみ・・・や?」

 

まるでヒューム爺から我を守るように衛宮士郎が居たからだった。

 

「ごめんな。少しやりすぎた。大人げなかったな」

 

そう言って頭を撫でてくれる手は暖かかった。けれど・・・

 

「血・・・!それに腕が!!!」

 

目から血の涙が零れる。そして力なく垂れ下がった彼の左腕から、無数の銀色の鋭い刃が覗いていた。

 

あれは何だ。まるで内側から剣に貫かれたようだった。

 

「これか。まぁ、秘密だ。ちょっと無理をした代償だよ。問題ない。紋白こそ、怪我はないかな?」

 

何でもないように言うが彼は多分重症だった。目から血が出るなんてそう無い。それに左腕は内側から串刺し状態。しかも――――

 

「せ、背中!!!」

 

自分を庇った大きな背中が斜めにバッサリと切られていた。酷い裂傷だ。恐らくはヒューム爺の――――

 

「大丈夫だ。それより爺さんを嫌いにならないでやってくれ。爺さんも俺も、少し遊び過ぎただけだから」

 

そう言って唯一無事な右手で頭を撫でてくれる。暖かな手。

 

「うん・・・!うん!だから早く!!」

 

頭が真っ白だった。とにかく何とかしないと目の前の青年は死んでしまう。そう思った。

 

――――interlude out――――

 

「つっ・・・」

 

泣きじゃくる紋白をあやしながら背後の金髪執事に声をかける。

 

「見事な忠義心だ。まさか、己の脚をへし折ってまで止めるとはな」

 

彼の首が飛ばなかったのは偶然ではない。止められない攻撃をなんとか止めようとヒュームが自分の手で蹴り上げる足をへし折ったからだ。

 

故に十分な力が入らず、さらに軌道も変わった。だから背中を切り裂かれる程度で済んだ。

 

「貴様ほどではない。その血の涙と左腕。魔術とやらを強引に止めた代償だろう。しかも背中はバッサリだ。たかが足一本折ったくらいでは九鬼にも貴様にも顔向けできん」

 

「そう言うな。確かにお互い負傷はしたが、こうして大事なものを守れた。それだけで十分だ」

 

「感謝する。衛宮士郎。俺は貴様に救われた。俺は永劫この恩を忘れん」

 

そう言って執事は片足が折れているというのに足を引きずって紋白の前にでた。そして、

 

ドサッ!と倒れるように土下座した。

 

「主への不忠!!!この命、いかようにも!!!」

 

そう言って金髪執事は頭を地面にこすり付けた。

 

「・・・てい!」

 

ポカっとその頭を紋白が殴った。

 

「これで終いじゃ」

 

「・・・しかし」

 

「いかようにも、と言ったな?ならば一層彼女達、九鬼を守れ。死ぬことで償えるものなどなにもない。それよりも彼女を抱いてやれ。爺さんの役目だろう?」

 

そう言って士郎は場所を譲った。

 

「うむ・・・ぬあ!!」

 

片足でしっかりと紋白を抱えて立ち上がる。

 

「ご教授ありがとうございました。衛宮士郎先輩」

 

「こういうのはこれ切りにしてくれ。どいつもこいつも本気を出せと言ってくるので対処に困る」

 

そう言って彼は肩を竦めた。遠くから救急車の音と人垣をかき分けてくる仲間達を見て、また怒られるな、と彼は思った。




百代が中二病化(上手く活用できるとは言ってない)時間が前後しますが、前回百代が致命的なことをやって本当にダメになる前に呼び戻せた、というイメージです。そしてごめん。歓迎会まで行けなかった…そして何事もなかったのにまた重症の士郎。

ヒュームよりも士郎が圧倒的に強いわけではありません。互いに様子見程度から始まり、挑発よりも、あ、こいつ好敵手だわとヒューム爺暴走の巻き。

毎回手を抜いているように見える士郎ですが別にそうではなく、投影が破壊力ありすぎるので使えないだけです。今回はヒュームをいなしたのは太極拳をイメージしてました。もちろん二流なのでガチでジェノサイドカタされたらきちんと投影使わないと10割持ってかれます。

刃潰せばええやんと思われると思いますが、実際、刃のない模造刀でも普通にもの切れるらしいです。それが宝具なんかでやったら…雷使ってるからって雷切使ったらヒューム爺の足がポーンとなりそうなのでやめました。まぁ最後のも当たってたら普通に死ねそうですが。

というわけで次回歓迎会!!!決定!では
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