真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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みなさんこんばんにちわ。最近目が痛い作者でございます。

今回は歓迎会です!士郎の重傷?七日くらいアヴァロンしときゃ大丈夫だ!(なげやり)

それと開幕早々フラグ一本折ります。


歓迎会

――――interlude――――

 

九鬼の一室にて。九鬼の中でも最古参であり、序列零番のヒュームと序列二位、星の図書館ことマープル。そして三位クラウディオが極秘に集まっていた。

 

「まさか。あんたが負けるなんてねぇ・・・あたしゃ今でも信じられないよ」

 

片足は今もまだくっついていないはずなのに松葉杖も使わず両の脚でしっかりと立つヒュームにマープルが言った。

 

「事実は事実だ。俺はあの時本当に衛宮士郎の首を飛ばすつもりで技を仕掛けた。だが奴は、恐らく俺を容易に屠るだけの準備をあの時していた」

 

「それはつまり、貴方ともあろうものが負けを覚悟で最後の一撃を挑んだと?」

 

「・・・認めたくはないがな。もし紋様が間に入らなければ俺は恐らく、死にはしないまでも人生としては終わっていただろう」

 

不機嫌そうにヒュームは目を閉じた。

 

今でもはっきりと思い出せるあの戦い。衛宮士郎は巧みにこちらを挑発していたが、それほど余裕があったようには見えなかった。

 

もちろん自分の十八番を手加減していたとはいえ片手でいなし、尚且つ自慢の魔術すら使わずに同等のやり合いをした。

 

最後に手に持った石柱は恐らく柱などではなく、意図的に刃の部分を削ったなにか(・・・)だったのだ。

 

「こうして映像を見ても信じられないねぇ・・・小僧があんな巨大な石柱を片手で構えるなんざ、なにかの冗談にしか思えないよ」

 

そう言って彼女は何度も衛宮士郎の手に突然現れた石柱が握られるシーンを繰り返し見ている。

 

「ですがこうして手に持っている。それは事実として、貴方はなにに脅威を覚えたのです?私にはあんな巨大なものを貴方よりも早く振るえるとは思えないのですが」

 

万能執事、ミスター・パーフェクトと呼ばれる彼ですら、どうにも脅威には見えなかった。

 

「なにか細工がなされている様子はない。どこからどう見たってただの石の塊だよありゃ。そんなもんに後れを取るあんたじゃないだろう?」

 

「・・・。」

 

ヒュームは思い出す。衛宮士郎があの石柱を構えた時のことを。

 

人生の中で少なくない戦いを経験したヒュームの本能が頭どころか全身に響き渡るように警鐘と悪寒を感じたのだ。

 

「俺の感じた悪寒と全ての経験からして、恐らく衛宮士郎は俺が飛び込んだ瞬間、あの石柱で急所を複数個所ほぼ同時に打ち据える気だったんだろうと思う」

 

「あれを・・・高速で?それもほぼ同時になんて出来るはずもないじゃないか」

 

「ですが彼には魔術という我々の知らない神秘、奇跡を有している。ヒュームがそう感じたのなら、そうなのでしょうな」

 

「うむ・・・あれほどの脅威を感じたのは人生で初めてかもしれん。もしあれが――――刃のついた巨石の剣だったならば・・・想像もしたくないな」

 

間違いなくあの石柱は無理やり手を加えたのだ。死合いをよしとしないあの青年は何とかして致命的な部分を削ったのだ。

 

とはいえ、刃がなくなったからと言って彼の言う通りあの巨大な石柱で急所を高速で打ち付けるなどヒュームであっても無事ではすまない。

 

気は強力な力のブーストと耐久力を術者に与えるが無敵になれるわけではない。

 

不死殺したるヒューム・ヘルシングこそ、それをよくわきまえている。

 

「巨大な斧剣による超高速の連続斬撃。もし貴方があれを見抜いていたとして防げましたか?」

 

それはある意味重要な問いだった。彼は文字通り最強の執事。彼が無理だと判じたなら九鬼にはあれを防ぐ手立てはないということ。にもかかわらず、

 

「無理だ。間違いなく細切れになる。お前の糸など蜘蛛の糸のようにあるかなしかの抵抗しかできんだろう。仮に俺の一撃が先に入ったとしても俺の足が吹き飛んでいた」

 

不可能と彼は断じた。あれはいかなる技を持ってしても突破できない。やるならばそもそもあれを出させないこと。

 

それ以外に方法はない。と彼は今でも感じている。

 

「それに・・・そんなことは重要じゃねぇと思った」

 

フッとヒュームは笑った。それまでの執事としての礼儀を捨て去って。彼の本来の口調らしきもので。

 

「あの時俺は止められなかった。あの男が前に出なきゃ。絶対に紋様を害してた」

 

「それは――――」

 

仕方ない、とは続かなかった。

 

「あの男はよ。紋様が飛び込んできたその瞬間。俺から完全に意識を外しやがった」

 

心底愉快だとヒュームは笑った。

 

「いいか。俺がマジになって、ぶっ殺す気で目の前にいんのによ。あの野郎、何より先に紋様のことだけ見てやがった」

 

今でも覚えている。彼女が小さな体で勇敢に間に入った瞬間を。

 

あの時、いや、紋白が一歩領域に入った瞬間、衛宮士郎の視界にヒューム・ヘルシングという死は存在しなかったのだと。

 

「俺は止められなかった。攻撃モーションに入ってた?そんなもん奴だって一緒だった。なにせ一瞬で俺をぶち殺すその瞬間だ。俺は自分の足をへし折るくらいしかできなかった。なのによ。あいつは何をしたと思う?」

 

ビデオのテープをヒュームが進めた。そこに映し出されたのは――――

 

「なんと――――」

 

まるで脳に向かって毒でも回るように左腕から頭に向かって真っ赤なラインが走り、次の瞬間、彼の左腕から無数の刃が生えた。

 

「あれは間違いなく死ぬ気だった。魔術がどんなものかは所詮データでしか知らねぇ。だが奴はあの時。紋様を切るくれぇなら死んだ方がマシだとあの時本気でやりやがった」

 

そしてスロー再生でも映らぬ速度で彼は当然のようにヒュームの前に自らを晒した。

 

その体を、ヒュームの折れた足が切り裂く。

 

「俺の一撃も十分死ぬ可能性があった。だが、それよりも奴が起こした魔術の強制停止。あれは恐らく、俺の一撃なんか遥かに及ばねぇ自殺行為だ。あの強制停止で即死する可能性があったに違いねぇ。にも関わらず一切の躊躇なしにやった」

 

そしてそのまま愉快そうに折れた足を叩く。

 

「あれに比べりゃ足の一本へし折ったのが何だってんだ。おまけにあいつが意地でも死ななかったのは生きる為じゃなく紋様の盾になるためだ。俺が攻撃を止められると見ていたなら間違いなく自害してただろうよ」

 

壮絶。そうとしか言いようのない語り草だった。

 

「いるんだねぇ・・・このご時世にあんな馬鹿が」

 

マープルも実に愉快そうに最後の映像を見ていた。

 

血涙を流し、左腕を内側から串刺しにされ、背中を深く切り裂かれた。それでもこの光景を、映像を見たものは全てが思うだろう。

 

本当の勝者は誰なのかを。

 

「で、その報告だけ、ってわけじゃないんだろう?」

 

ピ、とテレビの電源を落としてマープルは言う。

 

「ああ。俺は計画から降りる。死んで詫びれるものなんかなにもない。って言われちまったからな。借りがあるから敵にはならねぇが、もう手伝いはしない」

 

そう言ってヒュームは満足そうに腕を組んでふんぞり返った。

 

それを見てマープルは嘆息する。

 

「まさかあんたが先に降りるなんてね。まぁ、どちらにせよアレ(・・)は無しさ。揚羽様と忍足あずみが上手いこと潰しちまったよ」

 

「そうですな。まだまだ若い者達も捨てたものではありません。・・・今思うと、懐かしく思います。私達が若い頃も上の者達から同じことを言われていたように思います」

 

それは、こんな若い世代に任せていいのか、ということだ。

 

「あたしゃまだそう思ってるけどね。でもこの衛宮ボーイには恐れ入ったよ。戦闘力じゃない。強固な、鋼の意志って奴にね」

 

「私達が今こうしているのは未熟な時があったからこそ。ならば見限るのではなく見守るのが私達の務めでしょう」

 

「そういうことだ。あの武神もいつの間にか大人しくなって飛躍を見せているからな。俺もうかうかしていられん」

 

「老けた爺がなにを張り合ってるんだい。・・・って、あたしゃも同じか」

 

はっはっは!と愉快に三人は笑った。

 

「ではそろそろお開きとしますか」

 

「うむ。紋様達と訓練があるからな」

 

「お前さん足折れてるんじゃないのかい?」

 

勇み足で行こうとする金髪執事に呆れたように言うマープル。

 

「衛宮士郎相手ならまだしも。赤子共を相手にするなど足一本なくても問題ない」

 

そう言って今度こそ部屋を出ていくヒューム。

 

「男って奴は馬鹿ばっかりかい」

 

呆れたようにいうマープル。

 

「男とはかっこつけたがるものですよマープル」

 

それを優しい微笑みで返すクラウディオ。

 

「知ってる。一体何人あんな馬鹿を見てきたと思うんだい」

 

くだらないくだらないと彼女も部屋を後にした。

 

「衛宮士郎殿、ですか。私もいつか話してみたいものですな」

 

そう言って最後の彼が部屋をでる。

 

――――老人達がなにを企んでいたのかは分からずとも。彼らには見えていなかった若々しい芽が見えたのであった。

 

 

――――interlude out――――

 

「――――」

 

現在士郎は大量の食材を前に何事かを考えていた。

 

「よし!」

 

献立は決まった。後は食材を――――

 

「何がよし!ですか!!」

 

「マルギッテ!?」

 

いきなり現れたマルギッテにビクリと肩を跳ねさせる士郎。

 

「また貴方は!!まだ傷を負って一週間しか経っていないではないですか!今すぐ上を脱ぎなさい!検査します!!」

 

「ま、まてまて!!ちゃんと入院した!手術も受けた!そんで退院許可も下りたって!!」

 

「そんなことは知っています!同時に医者が信じ難いと言っていたこともです!魔術で回復したのでしょうが、武神の瞬間回復ほどではないでしょう!!」

 

そう。あの戦いの後、士郎はきっちり九鬼の病院に入院した。医者の判断では全治6カ月、絶対安静。にもかかわらず彼は七日であっさり出てきた。

 

当然、ベッドの上でさっぱり動けないので昼も夜もずっとアヴァロンし続けたのが真相なのだが。

 

当初九鬼の病院ではスーパー細胞でもあるんじゃないかと必要以上の検査をされそうになったが、されたところでそんなものは無く。

 

七日目には普通に歩き回る士郎に仰天した看護師が報告し、揚羽随伴の元精密検査を行い、既にほぼ完治という馬鹿げた診察結果により退院となった。

 

「・・・。」

 

「ほ、ほら!左腕もこの通りだ!な?こんな所で服は脱げないぞ!」

 

それでも納得いかぬと体のあちこちをペタペタと触診するマルギッテ。

 

非常にこそばゆいのだが、こうなった彼女は止まらないことを知ったので好きにさせる。

 

「・・・確かに傷は塞がっていますが、こんな短期間でどうすれば治るというのですか」

 

「おいおいそれはどう考えても企業秘密だろ・・・まぁ、加護があるとしか言えない。これだって黙っておきたい俺の秘密兵器なんだぞ?」

 

そう言って嘆息して食材の処理に掛かる。今日は義経達の歓迎会。見舞いに来てくれたファミリーから聞いているし、何よりお詫びの気持ちもあった。

 

「それにしても失った体力はすぐには戻らないはずです。なぜこうも貴方は無理をするのですか?」

 

一通り触診を終えたマルギッテが納得いかないという表情で言う。

 

「俺だって進んで無理してるわけじゃない。あの時だって紋白ちゃんが飛び込んでこなければヒューム・ヘルシングを完膚なきまでに張っ倒すつもりだった」

 

あの時戦いの天秤が傾いていたのは間違いなく自分だ。相手も殺す気でかかってきていたし、自分もほぼ殺す気で技を出そうとしていた。

 

それが九鬼紋白の乱入という想定外で狂ったに過ぎない。

 

「それにしてもです。貴方に人離れした治癒能力があるのは納得しましょう。しかし決闘の最中に乱入したのは九鬼紋白の責任です。もう少し自分に対してやりようはなかったのですか」

 

マルギッテは本気で自分の心配をしてくれている。入院中だって実は彼女、毎日お見舞いに来てくれたくらいだ。

 

それはとても嬉しいのだが、まさか自分の体に聖剣の鞘が埋め込まれているなど言えるはずもないし、彼女の言う通り体力までは戻っていない。

 

今決闘を申し込まれても確実に辞退するつもりだ。けれど、こうまで心配してくれる相手に何も話しませんというのは良心が痛む。

 

「それも企業秘密なんだが・・・あー・・・なんて説明すればいいか。レオニダスが宝具を使ったのは覚えてるだろう?」

 

「テルモピュライの戦いの伝説の再現ですね。今でもはっきりと覚えています」

 

あの光景は誰もが脳裏に焼き付いていることだろう。伝説の300人による難攻不落の防御。そして繰り出された苛烈な反撃。

 

今ではあの光景を忘れることが出来ず、進んでファランクス(密集隊形)の訓練をする者達がいるくらいだ。

 

「俺はあれと似たことをしようとした。でも事前に準備して一瞬で爆発させる系だったから止めるにはあれしか方法が無かったんだよ」

 

これ以上は言いようが無かった。まさか馬鹿正直に、怪物ヒュドラを殺した伝説の再現をしようとしたなんて言えるはずもないし、言われたところで理解できないだろう。

 

もしかすれば、あの時百代が魔眼を開放していたなら読み取れただろうが、彼女に神秘の知識なぞないし、ましてやそれが実現可能ということまでは思い至らないだろう。

 

「つまり貴方はあの『宝具』なるもの、もしくはその伝説の再現が可能ということですね」

 

しかし、彼女は疑いもなくそう言った。

 

「頼むから秘密にしてくれよ。レオニダスの宝具だって奇跡の御業だ。宝具なんていう神秘の最たるものが存在する、扱えるなんて知れた日には俺はあちこちから追われる身になる」

 

この世界には気という一般人には十分に神秘なものがあるので詳細を語らなければそう易々とばれることはない・・・と思いたい。

 

「ではあの歪な石の塊も何らかの宝具ということですか?」

 

「いや、あれは本当にただの石の塊だぞ。正確には斧剣だが」

 

マルギッテの推測を真っ向から否定した。だからこそあれを武器として選んだとも言えるのだ。

 

あれ自体はバーサーカーを召喚するためにアインツベルンが準備したという大英雄ヘラクレスを祭る神殿の柱を加工したただの石の塊にすぎない。

 

バーサーカーであるヘラクレスの逸話をあの石斧から読み取り、その伝説を再現する言わば形を持たない宝具。

 

ヘラクレスの絶技を模倣(トレース)するのが実態だ。

 

あれならば仮にあの斧剣を調べさせろと言われてもなんの問題もないし、あれからヘラクレスを連想することもあり得ないだろう。

 

つまりマルギッテの予想は当たらずとも遠からず。いい具合の、想定内の反応だ。

 

「石の剣を原点とする伝説・・・身に覚えがありませんね」

 

そう言ってマルギッテは思考の海に潜ってしまった。

 

「考えるのはいいけど、俺も見ての通り忙しいんだ。そこで考えるより、できるなら手伝ってもらえないか?」

 

そう言いながらも彼は驚くスピードで食材を調理している。時には目を離しながら別な物を作っているくらいだ。

 

「・・・いいでしょう。野菜の皮むきや刻むことくらいは出来ます」

 

そう言って彼女はそのまま調理に加わろうとするが、

 

「まった。そのまま調理する気か?いくら軍服とはいえ汚れないに越したことはないだろう」

 

そう言って彼はエプロンを投影する。

 

「貴方はこんなものまで作れるのですか!?」

 

いつか見た剣を作った時と同じように手元に現れたエプロンを手にして珍しそうに引っ張ったりするマルギッテ。

 

「一応な。あくまで応用の範囲ならだ。複雑なものは出来ないぞ。それに、それはそこにあって無い架空のもの。破れたりしたら存在を保てずに消える」

 

なので士郎は服の投影は余程切羽詰まらない限りやらない。うっかり破れて消えてしまったら突然素っ裸だ。

 

投影があくまで一時の代用品を作る魔術であるということには変わりがない。

 

もちろん衛宮士郎の投影は特殊で、壊れたり破損してもある程度は持ち直せるが、それが剣や武器ではなく服などと言ったものはその限りではない。

 

故に服などを投影するときはきちんと強化も施すのが重要だったりする。

 

でないと、維持に魔力は使わないが、破損した場合は現実に留める為にイメージと緊急修復が必要になる。

 

「ほら。マルにはもう珍しくもないだろう?だから早く手伝ってくれ。何せ作るものが多い。川神学園の生徒の腹を満たすにはまだまだ作らないといけないんだから」

 

そう言って彼は下処理した具材を手早くフライパンで火にかける。蓋をして弱火に。

 

複数の調理をする際は時間のかかるものは弱火でじっくり火にかけ、素早くできるものから順に片付けていくのが重要である。

 

よく火から目を離すな、と注意されるが、プロや注文を一手に受ける料理長などはそうはいかないのだ。

 

きちんとその場その場で出来上がるスピードと順番のイメージを作り、あれを作っている間にそれ。

 

それを作っている間に次の具材を整えておくなどテクニックが必要不可欠なのだ。

 

「貴方は料理店での経験でも・・・ああ、そもそも学食を担っているのでした」

 

「そういうこと。とはいってもマルみたいに下準備をしてくれる存在はありがたいんだぞ。プロのなかにはそういう所をないがしろにするド三流が混ざってることがあるけどな」

 

何事も無駄な人などそうそういないのだ。下準備をする人間がいるだけでも、その先の工程をやる人間からしてみればその下準備が無ければ自分の仕事は成立しないのだから。

 

「それは私達軍人にも言えますね。地道な努力を積み重ねた人間ほど地力が高いものです。才能があるからと胡坐をかいてはいずれ役立たずになる」

 

彼女は才能がありながら努力する人間なのでとても優秀なのだが。どこぞの武神ももっと早くに気づけていたならあんな悪癖が付かずに済んだだろうに。

 

もちろん、彼女の努力を否定するわけではないが。それでも惜しい時間を失ったことだろう。

 

今では立ち直ったが、その分彼女は追いつかれる可能性というものを他人に与えてしまったとも言える。

 

「野菜の皮むきは大体終わりました。次に出来ることは?・・・ああ、そのようにやればいいのですね」

 

あえて具材を半分ほどで切るのをやめ、置いてある物をみてマルギッテはすぐにそれを真似して同じように処理する。

 

「助かる。後はそれとこれを鍋に入れてくれ。水の量は浸るくらい・・・いや、俺が入れよう。その間に――――」

 

そうして士郎は膨大な量の料理を仕上げていく。とても七日間大怪我を負って動けなかった人間とは思えない動きだ。

 

「――――」

 

額に汗かきながら作る彼はどこか嬉しそうだ。きっと、食べてくれる人がどんな顔をしてくれるか楽しみなんだろう。

 

その姿にマルギッテはまた胸が高鳴る。戦闘時や鍛錬時の鋭く、凛とした佇まいもいいが、こう何かに没頭する彼もまた――――

 

(いけません!また胸が・・・まったく、この朴念仁はどうしてこう――――)

 

そもそも自分がなぜ必死に動き回っているのかいい加減理解してほしいところだ。

 

しかしこの時間は彼女にとって特別な時間だった。

 

 

 

 

遂に歓迎会当日。学園の広いスペースいっぱいに並べられた豪華絢爛な装飾と、今にも飛びつきたくなるような料理の数々。

 

そこに迎えられた義経達は口々に感謝をした。

 

「ほら主、あっちに行こうよ」

 

「うん!・・・あれ?与一は?」

 

「一人でぶつぶつ言いながら食べてるよ。まったく・・・いい加減卒業してほしいんだけど・・・」

 

武士道プラン最後の一人、那須与一は少々特殊な性格――――病気を患っている。男の子なら少なくない者が経験するであろうアレである。

 

「うめぇ!」

 

「こっちのも美味しいわ!」

 

「ワインが欲しくなりますね・・・ダメですか・・・」

 

とはいえ歓迎会自体は大成功の模様だ。装飾もだが、とにかく食事のグレードが高く、量も多いので皆満足気である。

 

「あの!衛宮さんは居ないんですか?」

 

ちょうど葉桜清楚と話をしていた京極に義経が問いかける。

 

「彼は今回裏方だよ。この料理も彼が準備したそうだ」

 

「この量を一人で!?」

 

思わず見渡すが、とにかく部屋に収まりきらない程の料理。なんと九鬼の従者たちが給仕し始めているくらいだ。

 

「初めから立食パーティー式で準備してたんじゃないのか」

 

弁慶もつまみになりそうなものを食べながら川神水を飲む。

 

と、

 

「はいはい。空いた皿はどけてくれー。・・・お?義経と弁慶か」

 

両手両腕に料理を持った士郎が現れた。

 

「あ!衛宮さん!!!」

 

ダダダ!と義経が士郎に駆け寄る。

 

「あ、あの!歓迎会、ありがとうございます!!こんな豪華な食事作ってもらって・・・義経は感謝感激です!!」

 

義経は食い気味に士郎に感謝をのべ、バッと頭を下げた。

 

「何も気にしなくていい。今日の主賓は義経達なんだからな。初日にいきなりバタつかせた礼でもある。存分に食べて楽しんでくれ」

 

そう言って九鬼のメイドが下げたスペースに持った料理を素早く腕を引き抜くことで汁を一滴も零さず配膳する士郎。

 

「流石英雄。料理並べるのも絵になる」

 

「それやめてくれ・・・俺はただそうしたかったからやっただけなんだ。英雄なんて持ち上げられても、ケーキくらいしかでないぞ?」

 

と悪戯を思い出したように言う士郎。

 

「ケーキ?ケーキなんて何処にも――――」

 

様々な料理はあるがケーキは見当たらない。もちろんデザートはあるのだがそちらのブースにはまだ行っていないのだ。

 

「それではこれから余興を始めたいと思います。義経様、どうぞこちらに」

 

それまで紋白の傍に居たクラウディオがマイクを手に義経を呼んでいた。

 

「義経、呼ばれてるよ?」

 

「う、うん。衛宮さん!また!」

 

そう言って彼女は呼ばれた方へ行く。

 

「衛宮・・・くん?何をしたの?」

 

「士郎でも衛宮でも構わないぞ。同級生なんだ。仲良くして行こう。・・・少しばかり、張り切ったんだ」

 

そう言って彼は視線を簡易舞台の方に目を向けた。

 

「?」

 

弁慶も習ってそちらの方をみると――――

 

「なにあれ!?」

 

普段ぼんやりしている弁慶が目をパチリと見開いた。ソレをみた周りの生徒もなんだあれはとざわめいている。

 

「源氏と言えば弁慶とのやり取りも有名だが、アレも有名だろ?」

 

出てきたのはなんとコミカルな顔をした赤鬼であった。それもどうやらあれ自体がケーキであるらしく、甘い匂いが漂っている。

 

「お、鬼だ!」

 

「鬼のケーキ!?」

 

「どうやって作ったんだよあれ!?」

 

高さは丁度2メートル程だろうか。あちこちの装飾も、立て掛けられた棍棒さえもチョコレートかなにかでできているのか、全て食べられるようだった。

 

「それでは衛宮様の創作料理、鬼のケーキを・・・義経様に退治してもらいましょう」

 

クラウディオも楽しそうに義経に壇上に上がるように促す。

 

「え!え!?これ切っちゃうんですか!?も、もったいない・・・」

 

戸惑う義経に紋白とヒュームが近づく。

 

「ふっはっは!義経、この様子はしっかり映像として残すから気にせずともよいぞ!」

 

「切る部分は分かっているだろうな?鬼ならば、あそこだぞ」

 

ヒュームは大きな皿を持って待機している。恐らく切った部分を受け止めるための皿だ。

 

「源義経の鬼退治か!衛宮もよく考えたものよ!」

 

「ヒュホホ。これは中々憎い演出よ」

 

「義経ちゃんいけー!」

 

義経コールにあたふたとする義経。

 

こちらを、とあらかじめ用意されていた調理用刀(衛宮謹製)を渡されてオロオロとする義経。

 

「義経ー!ほら一気に!」

 

「べ、弁慶!・・・ええい、それ!」

 

ズバッと鬼の丸っこい首を一閃する義経。見事な太刀筋で切られた鬼の首はコロリと・・・落ちない。

 

「ここは一つ私も・・・せいっ!」

 

いつの間にか義経の傍に居た弁慶が錫杖で台をドン!と鳴らす。すると切られたのをやっと理解したようにコロリと鬼の首が落ち、ヒュームが音もなくキャッチした。

 

オオオオオ!!と歓声と拍手が上がり、一斉に義経の方に殺到するが、

 

「セイレエェェツ!!!」

 

これまたいつの間にかいたレオニダスの一声でビシッ!と整列する。

 

「ありがとうございます。レオニダス様」

 

「なんのなんの。私の訓練を受けたもの達ですからこの程度はなんのこともございません。さあッ!この退治された鬼を皆で食しましょう!大丈夫です!マスターにより低カロリーで作られております故!必要ならば脂肪を燃やすトレーニングもしましょうぞッ!」

 

「最後のは余計だぞレオニダス・・・」

 

思わず苦笑を浮かべる士郎。だが催しそのものは大うけしたようで、義経と弁慶は切り倒した鬼ケーキと記念写真を取っている。

 

「衛宮様。ありがとうございます。回復されて間もないというのに酷使させてしまい申し訳ありません」

 

舞台を降りたクラウディオがそう言って士郎に近づいてきた。

 

「いえ。これも俺のやりたいことですから。あんなに喜んでもらえて本望ですよ」

 

ケーキが崩れる前にとひたすらシャッターがチカチカする中、義経と弁慶、そして周りの生徒達は実に幸せそうだ。

 

「衛宮様は本当にお優しい方だ。我々が失礼をしたというのにこんなにも盛大な幸せを届けていただき感謝しております」

 

「それは言いっこなしですよ。それを言うのなら本当の功労者は紋白ちゃんでしょう。あの時彼女が飛び込まなかったら、俺は悲劇を一つ作っていましたから」

 

そう言って眩しそうに幸せいっぱいの空間を眺める。そして、

 

「これはクラウディオさん、執事やメイドの皆さんに。ブランデーの入ったチョコレートです。冷蔵庫に準備してあるので持って行ってください。ビターなものと甘いもの、二種類準備してあります」

 

「これはこれは・・・まさか私共にまで・・・重ね重ねありがとうございます」

 

そう言って失礼、とクラウディオは一つ口にした。

 

「・・・深い香りと奥行きのある味・・・そしてチョコレートの甘さと苦さが絶妙ですな。感服いたしました」

 

「お世辞でも嬉しいです。さて、自分はケーキの切り分けに行きますので」

 

そう言って残りの料理も素早くならべ、彼は義経達の元へ行く。

 

いい加減切り分けないとケーキが崩れ始めてしまう。

 

「写真撮影は終わりだ!食べる奴は皿持って並べ!当然何処を食べるかは早い者勝ちだぞ?」

 

それを聞いてウオオオ!!と準備された皿を持って綺麗に一列に並ぶ。この統率の取れた動きはレオニダスの訓練の賜物だろう。

 

本来なら大混乱だ。

 

「さあ義経、弁慶。まずは君達から好きな場所を選んでいいぞ。甘い所を取るもよし、ビターな所を取るもよし。果物が多い所もあるぞ?」

 

「衛宮士郎。紋様が鬼の顔の部分をご所望だ」

 

早速ヒュームが紋白の希望を伝える。

 

「了解・・・それ」

 

先ほど使った調理用刀で音もなく切り分ける。中は何層かに分かれており、紋白の選んだ場所はクッキーやお菓子が埋め込まれているようだった。

 

「これは!!赤いのはイチゴのジャム・・・ケーキはイチゴの入ったふわふわの生地だ!角はスコーンだな!実に美味だ!!」

 

美味しそうに食べる紋白に義経と弁慶も目星をつけて切り分けてもらう。

 

「す、すごいぞ弁慶!ここ、ガトーショコラだ!」

 

「私のはフルーツ多めかな?」

 

まさか中身までしっかり詰まっているとは思っていなかったのか切り分ける度に歓声が上がる。

 

「士郎は本当に料理上手だな!パティシエの経験もあるのか?」

 

目をキラキラさせて食べる紋白に切り分けながら士郎は答える。

 

「ま、ちょっと知り合いにパティシエが何人かいただけだよ。ウェディングケーキに比べればどうってことない」

 

「ウェディングケーキって・・・あれでしょ?新郎新婦で包丁入れるやつ」

 

「そうそう。あれは中々バランスが難しくてな。上手く調整しないと包丁入れた途端崩れるんだ。それに比べてこれはどっしり土台があるからな」

 

そう言って遂に足元まで来る。

 

「しっろうー!桃が欲しいにゃっ」

 

虎視眈々と狙っていたのだろう。百代が片目に剣の模様を浮かべて待機していた。

 

「お前また勝手に解析したんだろ。また封じなきゃいけないじゃないか」

 

「いいだろうーこうしないと目当ての部分が食べられないんだからーそれに、この目にも大分慣れてきたからそこまで複雑じゃなきゃ大丈夫だ!」

 

士郎が入院している際、百代も当然のように毎日見舞いに来ては勝手に封印を解いて士郎を解析していた。

 

もちろん士郎の傷の具合が心配だったからだが、どうやらそれが彼女にとって視たいものと視たくないものを無意識に切り替える訓練になったらしい。

 

「まぁ、入院先で飛び上がった時は笑ったけどな?」

 

「その話はNO~!!!美少女に見たくないものは見せないようにするのだ!!!」

 

「魔眼の持ち主は百代なんだから百代がなんとかしないとどうにもならないよ」

 

実は百代。病院という悲劇が起きやすい場所で最初に魔眼を開放した際、大量のGが見えて卒倒してしまったのだ。

 

どうやらそれがトラウマとなったのか、いち早く、見たいもの以外は映さないという能力が備わったらしく、いい感じにコントロールできるようになっていた。

 

今は瞼を閉じれば普通に何も見えないらしい。それでも魔眼のオンオフはまだ出来ないようなので開放する度士郎が封じているのだが。

 

「衛宮君、今いいかな?」

 

「大丈夫ですよ葉桜先輩」

 

彼女もお皿を持って現れたので希望通りの場所を切り分けて渡す。

 

「歓迎会、私からもありがとうって言いたくて。義経ちゃん達もすごく喜んでるし私もとっても嬉しいの」

 

「俺一人で実現したわけではないんですが・・・ありがたく受け取っておきます」

 

実際大きく動いていたのは大和と紋白だと聞いた。大和が様々な人脈を使って材料の用意から場所の確保、装飾の人員配置などを行ったという。

 

かく言う士郎も大和が歓迎会を予定してて、士郎も来られればいいんだけど、と言っていたのでこれは寝ていられんと奮起したわけである。

 

「あのね、衛宮君って逸話とか伝説にすごく詳しいって聞いたの。もしよければ、私が誰のクローンか予想してくれないかな」

 

その問いに近くにいたヒュームがこちらを見た。殺気は飛ばしてこないので自由にしろ、ということだろう。

 

「うーん。正直に言えば予想はついてますけど・・・今言うべきではないんでしょう。25歳くらいになったら教えてもらえるんですよね?」

 

「そうなんだけど・・・やっぱり気になっちゃって」

 

そういう清楚は何処か悲し気だ。

 

(多分、自分だけ唯一教えられていないから仲間外れ感がある・・・ってところか)

 

そう大体のあたりを付けた士郎はこう答えた。

 

「葉桜清楚って名前は自分でイメージされたんでしょう?」

 

「う、うん」

 

「なら誰が元でも葉桜清楚は葉桜清楚なんじゃないですか?」

 

「え?」

 

ポカンと清楚は口を開けて固まった。

 

「ど、どういうこと?」

 

「例えばですけど、義経は源義経のクローンですがこの際はっきりいいますけど義経は源義経という人物の同姓同名の別人ということですよ」

 

「!!」

 

「衛宮!それは・・・」

 

「義経が英雄たらんとしているのはわかるけど、多分、源義経公はそんなことは望んでいないと思う。源義経公は自分が思うように行動した結果英雄になった。それだけなんですよ」

 

「自分の・・・思うように・・・」

 

「だから義経も。源義経が元だからそれを追いかけるんじゃなく、自分の思うように動くべきだ。君は別人なんだから君が考え、君の起こす行動こそが新しい源義経の伝説になるんじゃないかな?」

 

「・・・。」

 

「葉桜先輩もですよ。仮に今教えて、それが予想通りでも、そうでなくても葉桜清楚は葉桜清楚。過去の偉人はこの世にはいないんです。・・・約一名、奇跡が重なっていますけどね」

 

そう言って笑いながら肉料理とミルクを豪快に飲む男をみる。

 

「なので俺に言えるのはそれくらいですね。それでも知りたいというならまた今度来てください。俺の予想を教えますよ。ただ、多分葉桜先輩は驚くと思いますけどね」

 

彼女が付けている花のブローチと葉桜清楚という名前から士郎はほぼ当たりを見抜いていた。だが、それを今ここで言うことはしない。

 

彼の予想通りならまず暴走するだろう。それはそうだ。本来の自分を抑圧して好きではない(・・・・・・)ことを優先しているのだから。

 

その為に25歳という開放ラインを設けたのだと彼は睨んでいる。

 

「うん・・・ありがとう。なんだか心が軽くなった気がする」

 

「義経も。なんだか視界が開けた気がする。同姓同名の別人。言われてみればその通りだ。なんで思い至らなかったんだろう」

 

「お礼を言われるほどの事じゃない。むしろずけずけと言って悪かった。でも俺はそう思うよ」

 

そう言って彼は最後のケーキを切り分けた。

 

「さてケーキも・・・あ。棍棒が残ってた。これどうするかな・・・」

 

困った困ったと彼は他に皿を持つ人物がいないか探す。しょうがないから下げるか・・・と思った矢先、それならばと歩いて(超早歩き)きた生徒に苦笑しながら配る。

 

その後ろ姿をみて義経は思った。

 

(多分、衛宮さんって色んな所で英雄って呼ばれてるんだろうな)

 

今はもう記憶にない、出会ったような気がする誰かが脳裏を過った。

 

清楚もなんとなく、元となった誰かではなく、自分として歩めばいいのだと言われた様で今までの重みがふっと軽くなった気がした。

 

(そうだよね。元が誰でも私は私。本が好きだからって紫式部でも清少納言でもない、葉桜清楚なんだ)

 

そう思って彼女は納得し、一つ決心をした。

 

(今度聞いてみよう。元が誰なのか)

 

今まではのらりくらりと誤魔化されてきたが、今度は違う。葉桜清楚として自分のルーツを知りたいのだと。心の整理が付いたら伝えようと。

 

「おいしろ~桃ジュースと桃デザートないのかー」

 

「うわ!急に抱き着くな!ていうかなんで酔ってるんだよ!」

 

「士郎。川神水っていうのがあってな・・・」

 

「べんけーちゃんに分けて貰ったんだ~早く桃のでざーとー」

 

「なんだその摩訶不思議な水は!?というか弁慶!そんなもの学園で飲むな!!」

 

「私は酔ってないと体が震えるのです。だから許して~あとちくわない?」

 

「なんで学校で酔っ払いの相手しなきゃならないんだ!うが!?引っ付くな百代!」

 

ガバシッ!とがっちりホールドした百代を引っ付けたまま士郎は台車を下げる。

 

 

 

―――――後に、彼の予想した通り大騒動となるのだが、一貫して彼は態度を変えなかったことは、今からでも予想がつくことだった。




あるぇ?おかしい。確かに歓迎会を書くつもりだったけど話し前に進んでないじゃないか…

前半ヒュームの口調をわざと崩しました。あの三人だけの会話なら執事になる前の素のヒュームがイメージとして出てきたので…イメージ崩壊した方申し訳ない。

源氏の鬼退治は義経公の話ではありません。カルデアのマスターは知ってるかな。

遂になんだかんだ30話超えたんですね…なんか夢中になって書いてるので今一実感が…その代り体調という壁にぶち当たって二日に一話、三日に一話くらいになってますが…次は…どうしようかなぁ…これからしっちゃかめっちゃかのオリ主ルートになっていきますので慎重に行きたいと思います。では
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