真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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みなさまこんばんにちわ。やっぱり毎晩悪夢に侵されてる作者でございます。護符準備したほうがいいかな…

今回は水上体育祭ということで色々やりたいと思います。楽しんでもらえたらなと思います。

どうしても士郎視点で共通ルートだと他学年である葉桜先輩や松永先輩が出しにくいんですが頑張ります


水上体育祭

昼間の暑さが少し落ち着いた夜。今日は金曜日ということで士郎を含めた風間ファミリーは秘密基地に集まっていた。

 

「秘密基地はひんやりしていいなぁ・・・」

 

「昼は大分暑いもんね。今日は体育辛かったよ」

 

「本当にな。ただでさえレオニダスさんのはキツイから暑さも相まってかなりキツイ」

 

「あたしも何度も無理するな―!って怒られちゃったわ」

 

「ワン子は気のコントロールが出来るようになってきたからってすぐ調子に乗るから」

 

「ペース配分が如何に大切か学ばされるな。レオニダスさんの忠告守らないと本当に忠告通りに動けなくなってしまう」

 

「私達はレオニダスさんの担当じゃないからな・・・でも毎回見学者の数すごいぞ」

 

「私も出来る限り見学させてもらってます!」

 

「できれば参加してみたいよねー」

 

「由紀江はすごいな。普通ならやりたがらないぞ?」

 

と、各々一日や学園生活を振り返って口にする。

 

やっと士郎もこのメンバーに慣れたのか今日はとても穏やかだ。

 

「まぐまぐ・・・チキン美味しいわ」

 

「ワン子ウーロン茶飲む?」

 

「うん!ありがとう京ー」

 

「それよかよう、今年の夏は何になると思う?」

 

「夏?なにかイベントがあるのか?」

 

クッキーの作ってくれたポップコーンを口に運びながら聞く士郎。

 

「あれ?士郎も投票したよな?」

 

「ほら、HRで・・・」

 

ふむ。と考える士郎。そういえば梅子が『わかりきっているが一応な』と言っていたのを思い出す。

 

「ああ、体育祭のことか」

 

ポンと手を打って思い出した士郎。

 

そういえば間もなく体育祭。内容は体育祭・水上体育祭・球技大会から投票で選ばれると聞いた気がする。

 

「士郎先輩は何に投票したんですか?」

 

「水上体育祭ならまゆっちのこと見放題だぜ?」

 

「松か「だ・か・ら!抜け駆け禁止!」うひゃあああ!!」

 

とさらりとアピールする由紀江をもみくちゃにする百代。

 

「そんで?士郎はどれに投票したんだ?」

 

ガクトの問いに特に気にした様子もなく、

 

「水上体育祭にしたぞ?」

 

その言葉に男共がパン!とハイタッチした。

 

「なんだよ士郎、わかってるじゃねぇか!」

 

「なんだかんだ言って士郎も男だね!」

 

とモロとガクトが言ってくるが、

 

「?俺は普段と違うことをしたいと思っただけだぞ?それに男も女もないだろう?」

 

心底不思議だという顔で首を傾げる士郎。

 

「わかってるわかってる!海だもんな!」

 

と、なにか全然違うような気がする士郎。

 

「士郎にそういうのは効き目ないだろうな」

 

「男は狼・・・大和は「お友達で」まだ何も言ってない・・・」

 

「どうゆうことだよ・・・あ、クッキー、チェック」

 

「何!?この私が・・・チェック・・・メイトだと!?」

 

しれっと無敗を誇るクッキー2にチェスで勝つ士郎。

 

なぜ戦闘形態のクッキー2が強いのかは・・・戦闘は頭脳込みなのだろうか?

 

「こうなれば、頭脳形態のクッキー3に・・・!」

 

「いやあるんじゃないか。頭脳形態」

 

そっちでやれよ!と思わずツッコミたくなる。

 

「そういえばモモ先輩は義経と戦ったのか?」

 

と、お茶を飲んでいたクリスが言う。

 

「いや?まだ順番回ってこない」

 

当人は特に気にした様子もなく言った。

 

本当は義経達が入学した後、一子やクリス、そして百代まで2-Sに突撃し、決闘を望んだのだが、決闘志願者が多いため順番待ちになっていた。

 

「モモ先輩が大人しく待ってるなんて珍しいな」

 

キャップの言い方は大分問題発言だろうが、元は戦う相手に飢えてなにかと理由を付けては戦いをしていた過去があるので何も言えないだろう。

 

「私も黙って待ってるわけじゃないぞ?一応仕事して待ってるんだ」

 

百代の仕事とはつまるところ学園外の義経への挑戦者の相手である。

 

「でも意外だったわ。お姉さま最初断るんだもん」

 

「そうだな。モモ先輩なら確実に受けると思っていたんだが・・・」

 

なんでも、外部の挑戦者はまず百代と戦い、認められたなら義経への挑戦権が得られるというシステムを九鬼のクラウディオが提案したらしい。

 

だが、

 

『断る』

 

『・・・では今すぐにでも義経様と戦う、と?』

 

『お姉さま!?』

 

『そうじゃない。卒業までに戦わせてくれればそれでいい。私の事が眼中にない(・・・・・・・・・)相手と戦ってられるか』

 

『『『・・・。』』』

 

『私と戦ってほしい奴ならまだしも、義経ちゃんと戦いたいがために私を利用するのはいただけないな。私は暇じゃないんだ。まだ道半ばなんでな』

 

と、そんなやり取りがあったそうだ。

 

(百代はしっかりと戦う相手と己の拳に乗せる想いが固まったようだな。これは手強そうだ)

 

出会った当時の百代なら戦う相手に困らなくて済みそうだとか言いそうだが、今の百代はそうではない。

 

仮に百代と戦うならもう宝具を解禁せねばならないだろう。

 

もう昔のような油断も隙も無い。やるならば本気でやるしかない。

 

「でも結局受けてるんだろ?」

 

キャップの問いに百代は、

 

「一応、な。あくまで私と(・・)戦いたい奴の中で義経ちゃんとも戦いたいって奴は紹介って形でな。まぁ私に負けた奴は大体義経ちゃんと戦いたいって言うけど。話にならない奴は間引いてるよ」

 

「なるほど。そんなことがあったのか」

 

放課後、長蛇の列と決闘をする義経の姿を士郎も見ていた。

 

英雄と切磋琢磨というがあれでは義経自身の成長にはたして繋がるのかとても疑問なのだが。

 

(経験という意味ではいいんだろうが・・・彼女にも自由な時間があればいいのだが)

 

人生はなにも戦闘だけではない。アルバイトで社会経験をするのもいいし、その稼いだお金をどう使って行くのか、なども重要だ。

 

川神学園ではそういう面もあり、掲示板にアルバイトの募集から、学園からの依頼というものも存在している。

 

(まぁその辺は九鬼がなんとかするだろう)

 

信用随一の巨大企業なのだが何処か抜けているというか、大きくなれば一枚岩ではいられないというか、ちょっと心配である。

 

「ああああの!士郎先輩はどんな水着がお好きなんでしょうか!?」

 

「え?」

 

ぼんやりそんなことを考えていた士郎は唐突な後輩のアタック(玉砕)に思考が追いつかなかった。

 

「まゆまゆ~抜け駆け禁止だって言ってるだろ~!?」

 

「うわあああ!でもでも!モモ先輩もものすごく攻めてるじゃないですかぁ!!!」

 

「お、おい、おちつ・・・ぬわああ!?」

 

士郎を挟んで掴み、払いを繰り返していた由紀江と百代はさらに士郎を巻き込んでヒートアップする。

 

「私のは・・・その・・・イジってるだけだ!」

 

「じゃあモモ先輩は士郎先輩の事を特に何も思ってないということですね!?」

 

「語るに落ちたな・・・モモ先輩」

 

「うるさい!この馬のストラップ如きが!」

 

「あああ松風ーー!!!」

 

ブンブンと取り上げられた松風が振り回される。

 

「はいはいそこまで!壊れるだろ」

 

そう言って士郎は松風を百代から取り戻した。

 

「ほら。危うく尻尾がもげるところだったぞ」

 

「ああありがとうございます!それでその・・・」

 

由紀江がモジモジとしている。

 

「月並みだけど、水着はその人にあってる物がいいんじゃないか?由紀江なら髪の毛が淡い緑だからそれに合わせ、ぐえ!?」

 

るといい、と言いたかった士郎だが首を絞められた。

 

「じゃあ私ならどういうのがいいんだよー」

 

「ギブ、ギブギブ!百代はほら・・・あー・・・」

 

同じように髪色を言おうとしたが、彼女は黒髪だった。

 

「黒って言わないよな?」

 

「・・・。」

 

参った。黒には赤が映えるが・・・

 

(赤はなー・・・)

 

赤原礼装と被る。別に気にしないと言えばそうなのだが、個人的に何かと赤と銀は縁があるのであまりオススメできない。

 

「おいー」

 

「いだだ!白・・・はダメだ。絶望的にうぎゃああ!!!」

 

「士郎せんぱーい!!!」

 

「またシロ坊の首がー!」

 

ヴェキ!と首をへし曲げられた士郎は、

 

(なんでさ・・・)

 

とお空の彼方でグッジョブと親指を立てる切嗣(じいさん)にツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで体育祭である。投票により決められたのは水上体育祭。

 

半ば予想通りではあるが、やはりいつものスパルタ式トレーニングと比べ、プールではなく海であることがとても開放的である。

 

「水上体育祭ですか!現代の者達は面白いことを考えつきますなぁ」

 

「プールはあるんだけどな。そういえばレオニダス、お前泳げるのか?」

 

士郎の素朴な質問に心底心外だと言わんばかりに、

 

「何を!何をおっしゃいますマスター!!我らギリシャの民、それもスパルタが泳ぐことが出来ないなどありえませんッ!!!」

 

とはっきりと言い張るレオニダス。

 

しかし彼の肉体からはとてもそうは思えない。以前にも言ったが筋肉は重いのだ。

 

そして脂肪との違いは浮くか浮かないかということもある。

 

体脂肪率一桁台っぽい彼は本当に海水に浮けるのだろうか・・・?

 

「そんなことより行こうぜ。レオ・・・ニダスさんが泳げるかどうかは後々わかるだろ」

 

「ああ、忠勝。それもそうだな。確か遠泳があるんだよな」

 

もし仮に泳げなくても霊体化すればいいだけなので問題あるまい。

 

「マスターは私が泳げると信じていない様子!!これは!我が筋肉をふるわねばなりませんなッ!!!」

 

(筋肉をふるうって何語・・・?)

 

いよいよもって日本語かどうか怪しい単語を発するスパルタ人。

 

彼はよく否定するが、彼もまたしっかり脳筋なのでなんとも言えない士郎である。

 

「で、ガクトとヨンパチがゲッソリしてるのは?」

 

「女子更衣室に隠れてたらしいんだけど学長が更衣室の札を入れ替えたんだって」

 

と大和が教えてくれた。

 

「あいつらは馬鹿か・・・仮に成功してもさらし首だろうに」

 

「馬鹿だからやったんだろ。学長や教員がチェックしないわけないんだからな」

 

と忠勝は冷たく言い捨てた。こればかりはガクトとヨンパチが悪いので庇護のしようがない。

 

「それにしても士郎・・・体すげー鍛えてるのな」

 

「まぁ必要だからな。大和と忠勝も太ってるわけじゃないし健康的なんじゃないか?」

 

大和が言うように、士郎の体はぎっしりと鍛え上げられている。

 

レオニダスの様に滅茶苦茶に隆起するほどではないが、しっかりと鍛え上げられた肉体は如何なる事態にも最高のパフォーマンスを発揮するように士郎は仕上げている。

 

「おーい士郎~!」

 

と満面の笑みで接近してくる百代。

 

「・・・ッ!!!」

 

即座に戦略的撤退を慣行する士郎だが、

 

「モモワープ!」

 

ブオン!とそれなりに離れた所にいたはずの一子とクリス、京を置き去りにして回り込んできた。

 

「何がモモワープだ!物理法則無視すんな!」

 

「折角水着姿を披露してやろうと思ったのに逃げるとは何事だ!」

 

と言ってやっぱり引っ付かれる士郎。

 

「あのな百代。俺にも恥じらいってもんがあるんだ。水着で人に張り付くな!」

 

強化の魔術まで使って必死に逃げようとする士郎。

 

しかし百代もここが正念場と一向に離れない。

 

「相変わらずモモ先輩は何でもありだな」

 

「今までそこに居たのにもう士郎にくっついてる。あ、大和「お友達で」早すぎるのもどうかと思うんだ・・・」

 

相変わらずの京の猛烈アタックはうまい具合に躱されるのだった。

 

(この!この!なんでこれだけして気づかないんだよう!この鈍感め!)

 

(モモ先輩とまゆっち、マルギッテといつの間にか仲良くなった不死川心・・・あと義経もかな?あ、林冲さんもいた・・・しょーもない・・・)

 

とにかくフラグを立てては取らずに放置するこの朴念仁は救いようがないと京はため息を付く。

 

「しかし、学園公認とは言え凄い見学者だな」

 

もう剥がすのを諦めた士郎がそのまま一定の区域から外でこちらを眺める集団を見る。

 

「私達の水着姿を拝める唯一のチャンスだからな。それに「企業のお偉いさんとかすごい家柄の人とかもいるよん」燕!」

 

突然現れた松永燕にも手を伸ばす百代だが、彼女は微妙に届かない位置をキープしていた。

 

「その手には捕まらないよ?」

 

「残念です・・・折角この非実在性軟体生物が剥がせると思ったのに・・・」

 

「美少女にそういうこという奴はこうだ!!!」

 

ギュリリ!と全身で締め上げる百代。

 

「あだだだ!!痛い!キマってはないけど痛い!」

 

まるで大きな口で噛まれるように締め付けられる士郎。

 

(うえー・・・モモちゃんのそれ生身で耐えるの?それ結構マジで掛けてるよね?)

 

本当なら文字通り強制圧縮されてスプラッタなオブジェ待ったなしの状況に内心ドン引きする燕。

 

と、そんなことをしていると3-S組の京極彦一がいつもの羽織袴姿で現れた。

 

「あれは?」

 

「言霊だよ。京極先輩は言霊っていう不思議な力を使えるんだ。それで厄や災難が起きないように海を静めてるんだとか」

 

「ふっふっふ!!士郎は物理的に怨霊を倒せるからな!京極なんぞ恐るるに足りん!」

 

と何故か自慢げに言う百代に、

 

「いや、俺にも手に負えないのあるからな?海の災厄なんか一人でどうこうできないだろ」

 

と、わざと普通の魑魅魍魎は別に問題ないのに手に負えないのもいることにしておく。でないと百代が調子に乗るだろうから。

 

「そ、それはこう!海を切れ!」

 

「馬鹿か!・・・馬鹿か・・・」

 

と額に手を当てブンブンと頭を振る。この女性にかかれば海を割るくらいどうってことないのだろうから。

 

「それはそれとして、松永先輩の言う通り企業もいるんだな」

 

見渡せば恐らく企業がいるようだ。

 

「こうして私達を観戦できる代わりになんか色々出資してもらってるんだと」

 

「なるほど・・・いわゆるスポンサーなわけか」

 

「景品もすっごい豪華だよ?有名スポーツ用品店の商品とか、食べ物系も有名な作り手さん、メーカーとか」

 

「へぇ・・・詳しいですね松永先輩」

 

「これでも色々調べて川神に来たからねん。それと・・・」

 

そう言って彼女は反対側を見る。

 

「九鬼?不死川・・・ほかの奴らも・・・なんだかS組のメンバーが完全にくつろぎモードだな」

 

「S組には富裕層が多いからな。学園主催の大会の景品で奴らが必死になるもんはねぇだろ」

 

「なるほど・・・それで休暇の様になってるわけか。でもなぁ―――」

 

一応体育祭なのでレオニダスが黙っているとは思えない。

 

のだが・・・

 

「おい、なんか様子がおかしくないか?」

 

「京極先輩が2-Sに・・・」

 

何を思ったのか、京極彦一が2-Sに何事かを促している。

 

そして、

 

「・・・異様な盛り上がり方してるぞ」

 

「バカンス気分が強制的に吹き飛んだな」

 

どうやら言霊を生徒に使ったらしい。

 

休暇の様子だったのが恐ろしいほどやる気に満ちている。

 

(あれ大丈夫か?要は暗示や催眠みたいなものだろ・・・?)

 

オーバークロック、もしくは脳内リミッターを解除しているようなものだ。

 

後から反動があるに違いない。

 

「あ、あの!士郎君!」

 

「おう、義経と弁慶!お前たちは平気みたいだな」

 

「うん!京極先輩が耳を塞げって言ってくれたから」

 

「あれは怖いね。聞こえる範囲なら強制的に発動だもの」

 

と義経と弁慶は言う。

 

「あれ?与一は?まさかサボったわけじゃないんだろ?」

 

なんだかんだ言って彼もまた成績は良く、二人と積極的に一緒にはならないがサボりはしないようなのだが。

 

「あーアイツは京極先輩の忠告を無視してね」

 

と弁慶がS組のいるエリアに目を向ける。

 

当然、よくわからないテンションになっているS組のメンバーがいるわけだが、

 

「約束の時は来た。俺の魂は今、皆と共鳴している!」

 

「・・・。」

 

どうやら与一は熱血化の犠牲となったようだ。

 

「まぁ折角の体育祭なんだからそれなりに頑張らないとな」

 

と士郎は体を解す。

 

何事も準備運動は大事だ。

 

特に水泳関係は激痛で済めばいいが、泳いでる最中に足をつったりしたら溺れるのが確定してしまう。

 

もちろんプールでも同じことが言えるが、プールにはない波が尚のこと危険性を上げる。

 

「ふむふむ・・・」

 

「・・・ん?」

 

義経が士郎を真似するように体を動かしている。

 

(別に特別なことをやってるわけじゃないんだが)

 

それでも義経は嬉しそうに、楽しそうに準備体操をする。

 

「弁慶はやらなくて大丈夫か?あの様子だと多分戦いに駆り出されるぞ」

 

「うーん・・・めんどくさい・・・でも後で痛い思いするのもなぁ」

 

と彼女は言った。言って(・・・)しまった。

 

「なんと!準備体操を怠るなど何という慢心ッ!!貴女はこちらで女生徒に混ざって特別準備体操ですッ!!!」

 

「え?あーれええぇーー・・・」

 

と自ら志願したであろう女生徒の一団の方に攫われる弁慶。

 

「ああ!?弁慶!レオニダスさん!し、士郎君!また!」

 

そう言って義経も連れ去られる弁慶の後を追って行った。

 

「ああ・・・またスパルタ兵が増産される・・・」

 

本当にもう手が付けられんと士郎は天を仰ぐ。

 

怒涛の勢いで槍と盾を持って高速で泳いでくるスパルタ兵とか想像したくない。

 

陸戦はもちろんのことだが、スパルタは海戦もこなしたという。

 

当たり前のことだが、別大陸や、大陸の反対側から攻撃したければ当然船で海に出なければならない。

 

なので海上戦という意味なら納得がいくが、スパルタ式の水泳戦法とか存在した日にはまた川神の生徒が現代式スパルタ兵になってしまう。

 

「し、士郎先輩!!」

 

「士郎」

 

巻き込まれたくない忠勝と百代はしれっと同じ動きをしてレオニダスの目を逃れたらしい。

 

ちなみにレオニダスの感知能力(筋肉)を甘く見ていた燕も一緒に連れていかれた。

 

(セリフ無し!?扱い酷くない!?)

 

・・・連れていかれた。

 

そして現れたのは由紀江と紋白である。

 

「由紀江と紋白はいつ仲良くなったんだ?」

 

あまり見ない組み合わせに士郎は目をぱちくりとする。

 

「紋白さんには以前スカウトを受けまして・・・」

 

「ふっはは!我の特技は人材のスカウトだからな!」

 

「なるほど。それでつながりが出来たわけか」

 

流石九鬼と言わざるを得ない。

 

由紀江は剣術家としての腕はダントツであろうし、彼女の成績、学力面などからしてもとても優秀だ。

 

彼女に声が行くのも無理はない。

 

「・・・で、まさかそこの爺さんまで泳ぐとか言わないよな?」

 

と士郎は背後に控えるヒュームを見る。

 

「俺は1-S組所属だからな。当然泳ぐに決まっているだろう。ただし、競技や種目への参加はしないがな」

 

泳ぐのかよ。とツッコミを入れたいが本気っぽいのでやめておく。

 

「まぁいい。お互い気をつけてさえいれば問題ないだろう。必要ないだろうけど一応俺も警戒はしておくさ」

 

「お前の方が川神鉄心より頼りになる」

 

「それはどうも。でも本人たちには言うなよ?」

 

と、ありがたく評価を受け取っておきながら忠告するが・・・

 

「もう既にしてきた」

 

「遅かったか・・・」

 

別にそれで目の敵にされるわけではないが、教師陣としては色々と問題ではなかろうか。

 

「それでその!士郎先輩・・・その・・・」

 

「ん?」

 

由紀江がモジモジとして言葉を待っている。

 

「・・・。」

 

百代が指をゴキゴキ鳴らして言葉を待っている。

 

(え?何このまたバッドエンド逝きみたいな状況!?)

 

例1:由紀江を褒める。

 

『ベキゴキ・・・』

 

(・・・。)

 

例2:百代を褒める。

 

『あの・・・そう、ですよね・・・』

 

(由紀江が悲しむな・・・)

 

特例3:紋白を褒める。

 

『ジェノサイカッタ!』

 

(うーん危ない人になるな。それと10割もっていかれる)

 

さてどうしたものかと悩んでいると、

 

「紋!ここにいたか!!」

 

「兄上!」

 

ふんどし姿(それが彼の戦闘服らしい)の兄に抱き着く紋白。

 

「うむ!紋は今日も可憐であるなぁ・・・すまぬな紋。いつもなら金平糖を持っているのだが」

 

「そんな無理をされずとも大丈夫です!我は兄上に会えてとても嬉しいです!」

 

と仲睦まじいやり取りをする兄妹である。

 

(兄妹の仲がいいのは良いことだな)

 

よく、巨大な企業や家柄などは親だというのに子を、親戚だというのに幼子をドロドロとした身内争いに巻き込むことが多いのだが。

 

その辺九鬼は実によくやっているなと思う。

 

軍事を統括する九鬼揚羽。

 

経済を統括する九鬼英雄。

 

そして人材、人事を担当する九鬼紋白。

 

上手く担当を分け、兄妹内で上下が無いようにしている。

 

「紋白も競技に参加するのか?」

 

「うむ!一年生はメドレーなのでな!我も選抜に入っているぞ!」

 

「私とは別チームですけどね・・・」

 

「それはそれでいいじゃないか。お互いに精いっぱいやり合うのも、勝負の醍醐味だろう?」

 

そう言って由紀江の頭を撫でる。

 

それだけで由紀江は幸せそうに微笑んだ。

 

「むー・・・」

 

(しまった!つい妹のように・・・!)

 

このままではまずい。例1の末路を辿る!

 

(ほ、他に手は・・・お?)

 

ふっと目に映ったのは英雄の後ろに控える忍足あずみ。

 

(スクール・・・水着・・・?)

 

と謎の光景に士郎は混乱した。

 

(スクール水着・・・男はどうせ海パンみたいなもんだからどうでもいいが・・・)

 

男性は学校指定のトランクスタイプの水着、ないしはフィットタイプの水着だろう。

 

違うとすればレオニダスのようなブーメランタイプか膝上または下までの長いタイプかだ。

 

しかし女子生徒はみな一律スクール水着である。約一名を除いて(マルギッテ)

 

『おいヒューム爺さん。あれは大丈夫なのか?』

 

『気にせんでもメイド服と変わらんだろう』

 

『いやそうじゃなくて、年齢的に――――』

 

とコソコソとヒュームと語らっていた士郎だが、メラメラと焼き焦がすような殺気に言葉を飲んだ。

 

(そうかこっちも危ないのかー)

 

どうやってヒュームとの会話を察したのかは知らないが、紋白よりもさらに危険度の高い存在がいるとは思わなかった。

 

「む?おお衛宮もあずみの美しさに目を奪われていたのだな?」

 

「え?いやそうじゃない・・・んだけど」

 

「・・・。(ニッコリ)」

 

薄ら寒い笑顔が余計な事言うんじゃねぇと語っていた。

 

本来、笑顔とは攻撃的なものなのだ。

 

相手を刺激せずにこっちにくんじゃねぇということである。

 

(とは言ったもののどう凌ぐか)

 

褒めても危険。けなしても危険、放置すれば英雄が機嫌を損ねるのでやっぱり危険。

 

(退路ないじゃないか・・・)

 

どうやらうやむやにして時間が解決してくれると思っていたのが最終的にバッドエンド一択しかなくなったようである。

 

(褒める・・・しかないか?でもなぁ妙齢の女性にスク水似合ってますね!ってかなり危険なワードだよな・・・)

 

返答に悩む士郎であるが、あずみはというと。

 

(なんでこっち見んだよ!あたいは英雄様一筋だっつーの!お前のハーレムに入る気はねーんだよ!)

 

とあずみは思っている。

 

あずみは英雄が好きで、英雄は一子が好きという中々に可哀想と言うかハードルが高いというかそんな状態なのである。

 

(仕方あるまい・・・)

 

これはもう自分の保身より相手の感情を発散させた方がよかろう。

 

ということで、

 

「あ、英雄、紋白ちゃん。あそこに揚羽さんいるぞ」

 

「なに!?我の目では気付かなかった!感謝する!」

 

「姉上ーー!!」

 

と二人の視線を九鬼の重役として出席したのであろう揚羽に向かせ、

 

「その、なんだ。とても素敵だと思うぞ?」

 

「・・・ッ。逝っとけ」

 

ガスッ!と足を思いっきり踏み抜かれた。

 

「つー・・・」

 

「お前は馬鹿だな。だが良い馬鹿だ」

 

「戦闘狂のヒューム爺さんには言われたくない・・・」

 

ヒュームがいたからこの程度で済んだのだろう。

 

選択肢としては悪くなかった・・・はずだ。

 

「ちぇー・・・士郎の奴また女口説いてんの」

 

「士郎先輩これ以上ライバルは・・・」

 

「・・・。」

 

よかった、はずだ。

 

 

 

 

 

さて水上体育祭開幕となったが、まずは一年生による4チームのメドレーリレーだ。

 

水泳のメドレーと言えば、第1泳者背泳ぎ、第2泳者平泳ぎ、第3泳者バタフライ、第4泳者自由形の順に行われるが最後の自由形は、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ以外で泳がなければいけないため、最後は加速しやすいクロールになることが多い。

 

とはいえ、海での背泳ぎスタートはまず無理なので背泳ぎをクロールに変更し、最後も事実上クロールもしくはバタフライで終わる特殊ルールとなっている。

 

『九鬼家従者部隊序列42番桐山鯉が実況を担当します』

 

『同じく解説の序列4位クラウディオ・ネエロです』

 

どうやら実況解説してくれるらしい。

 

「○○番付かな?」

 

「おいやめろ」

 

非常に危ない単語が出かけたがとりあえずスタート。

 

『スタート地点は砂浜に書かれたライン。そこから50メートル先に各選手の船と分かるように旗がありますのでそこまでクロールで始まり、平泳ぎ、バタフライ、自由形で戻ってきて所定位置へ帰還でゴールとします』

 

『最後の自由形はクロール、バタフライも可となっています。背泳ぎでの帰還は難しく、平泳ぎではスピードが出しづらい。となると自然とクロールかバタフライでの帰還となりそうですな』

 

ワァアアア!と一斉に駆け出し、応援が始まる。

 

最初は恐ろしい接戦。クロールはまだしも平泳ぎとバタフライでの抜きつ抜かれつが激しい。

 

平泳ぎはもっとも持久力があり、スタミナを消費しにくい。

 

一方バタフライは消耗が激しく、50メートルは中々に辛いためペースダウンするか一気に駆け抜けるかになる。

 

『クロール、平泳ぎ、バタフライと来て最後の自由形です!』

 

『今回は4チームともクロールを選んだようです。定石通りですな』

 

「由紀江ー!頑張れーー!!」

 

と士郎は仲間である由紀江に声援を送る。

 

(!負けられません!!!)

 

ギュン!と由紀江が加速する。

 

だがその由紀江に追いすがる姿がある。

 

誰であろう九鬼紋白だ。

 

「我は!負けぬぞーー!!!」

 

『紋様が怒涛の追い上げです!』

 

『クロールは紋様の得意とする泳ぎ。これは逆転もあり得ますね』

 

ヒートアップするレース。

 

互いにクロールで浜辺すれすれまで行き、ゴールラインを越えたのは――――

 

『黛由紀江選手です!』

 

『ううむ・・・これはなんとも・・・』

 

クラウディオがコメントに困る。

 

それもそのはず、由紀江が勝ったのはその立派な胸部装甲で勝ったのだから。

 

「うぬー・・・負けた・・・」

 

「一位です!やりましたよ士郎せんぱーい!!!」

 

「まゆっちの雄姿を見たかーー!!!」

 

とピョンピョン跳ねて満面の笑みで士郎の元に走る由紀江。

 

「お、おおう・・・落ち着け、由紀江!見てたから!見てたから落ち着け!」

 

「へ?」

 

何やら必死にどうどうと手を出す士郎。

 

なぜ彼が必死に自分を拒んでいるのか、一瞬悲しい想像をしたが、

 

「「「・・・。」」」

 

士郎の近くにいた男共がみな顔を赤くして前かがみになっている。

 

「ぶっふぉ・・・」

 

キレイな笑顔で鼻血を吹き出して飛んでいく奴もいるが。

 

「ひゃっ!?」

 

その様子を見て由紀江は飛び跳ねることで思春期の少年たちを悩殺していたことに気づいた。

 

「撤退!撤退ですーー!!」

 

「この体は一人だけのものなんだぜ?男子諸君」

 

「松風!!」

 

一人芝居をしながら彼女は行く場所を変更して自分の控えポジションに逃げるように去って行った。

 

「まったく・・・これだから男共は」

 

「でも衛宮クン流石だし。紳士系男子?」

 

「そりゃそうよ。て言うか羽黒は今日欠席なの?」

 

いつもの学生服で見学している彼女に小笠原千花が聞く。

 

「流石のアタイも女の子の日には勝てない系・・・」

 

どうやら貴重な戦力である彼女は今日は参戦出来ないようだ。

 

『さあやってまいりました二年生の部です!』

 

『競技は自由形50メートル、ビーチフラッグ、ビーチバレーです』

 

「さあ俺様達の出番だぜ!」

 

「おうよ!スピードなら負けねぇ!」

 

勇んで出陣していくガクトとキャップ。

 

「相手は・・・井上か」

 

「勝つのは俺だ!制御不能!熱い炎が宿っているからな!!」

 

やはり何処か様子がおかしい。

 

「ガクト!力のセーブは考えるな!奴ら脳内リミッター外れてるぞ!」

 

「任せとけって!」

 

『それではレースを開始します』

 

パン!とスタートの合図が上がる。

 

「うおおおおおお!!!」

 

「絶ッッッッッッッッ対負けんのだぁーーッ!!」

 

流石ガクト、レオニダスの訓練を受けているだけあり強靭な肉体としなやかな動きで前半から飛ばしていく。

 

だが・・・

 

「チィ!悪い!!」

 

士郎の言う通り全開でスタートを切ったガクトだが、井上準と同着に終わった。

 

『それではカメラ判定ならぬ川神判定を行います』

 

「カワカミハンテイ?」

 

聞き慣れぬ言葉にクリスが首を傾げる。

 

「武の達人が、その眼力の誇りにかけて微妙な勝負の判定をするシステムだ」

 

(それってつまるところすごい人達による眼力の普通の判定だろ・・・)

 

士郎の思う通りなのだが、この水上体育祭はカメラでの撮影や映像化及び保存を禁止されているのでこれ以外にシビアな判定は出来なかったりする。

 

『判定結果が出ました!同着です!』

 

「やっぱり勝ち星じゃなかったか」

 

「ガクトわかってたのか?」

 

意外そうに大和が聞く。

 

「いや、そうじゃねぇかって思っただけだ。少なくとも勝ちはねぇと思ったのよ」

 

しょんぼりと肩を落とすガクトだが、やはり彼は恐ろしい成長を遂げているのだろう。

 

(あの状況で自分と相手を俯瞰して見れてるのか。やっぱりレオニダスの訓練は効果を発揮しているな)

 

勝ち負けも大事だが、そういう能力を身に付けると付けないとでは今後大きく違ってくる。

 

これが出来ればガクトは大和程ではないにしろ経験値さえ積めば頭脳派の仕事や役目もこなすことが出来るだろう。

 

「任せろ!俺が仇を討ちつつ勝ち星稼いでくるぜ!」

 

「キャップの相手は九鬼英雄だよ!」

 

レース開始。

 

「へっ俺は風!速さには自信があるんだよ!」

 

「だからどうした!速さで言えば今の我とてぇ・・・」

 

ギュン!と九鬼英雄が予想外の加速をした。

 

「なんだコイツ!?こんなに早かったかぁ!?」

 

これまたデッドヒート、余裕を持っていたはずのキャップが猛烈な勢いで差を縮められていく。

 

「韋駄天の上をいく存在だぁ!!!」

 

「上等だ!スピードで負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

さらにキャップが加速する。

 

最終的にタッチの差でキャップに軍配が上がった。

 

「お、風間君なんとか勝ったよ」

 

「いやぁ相手気合入ってたね・・・ヒヤヒヤしたよ」

 

「つか、なんであんなにヤル気出してんだSの奴等?」

 

ヨンパチの言う通り、明らかにS組の様子がおかしい。

 

「ほんとほんと。話が違うじゃない」

 

「慢心してくれないと、つけ込む隙が無いな」

 

スグルや千花の言う通り、このままでは大差をつけられかねない。

 

「いや、このままでいいんじゃないか?」

 

それまで戦力温存ということで見ていた士郎が言った。

 

「士郎の言う通りだ。このままトップに躍り出たら周囲から攻撃される」

 

「つまり俺たちは二位の頭をうろうろしていて最後にひょっこり追い抜くと?」

 

「そうでもしないと優勝は厳しい」

 

と大和は言った。

 

(元から負けず嫌いの彼らに負ける気なんてさらさらないだろうけど)

 

と士郎は苦笑を浮かべた。

 

「じゃあ競技に参加する選手とか少しいじろうぜ」

 

「誰かが指示を出さないとまとまらないのでは?」

 

「ヨンパチとクリスの意見に賛成だ。この場合適任なのは――――」

 

皆の目が大和に集まった。

 

「こういう力押しだけではない、ある意味姑息な戦いが要求される場合は・・・」

 

「え?俺?」

 

「ずるっこく頼むぜ、得意だろ、直江君ちの大和君」

 

「てめぇ・・・コキ使ってやるからな」

 

「軍師だし頑張って。僕で良ければサポートするよ」

 

「ついでに俺も忘れないでくれよ?さっきから見てるだけでつまらないんだ」

 

戦力として期待されるのは嬉しいがこのまま参加競技無しでは悲しい。

 

「衛宮君は・・・ねぇ」

 

「俺たちの最終兵器だからなぁ」

 

「うーん・・・出し所が難しいよね」

 

武士娘とあたるなら選びやすいのだが競技は男女分かれているので彼は男子の部に出すことになるのだが。

 

「なんだよ・・・結局出番無しか?」

 

はっきり言って強すぎるのである。

 

百代とガチれる男なんて存在しないわけで、必然的に彼を切るということはその競技はもらったも同然なのだ。

 

うーん・・・と悩む大和。

 

そんな時だった。

 

『えー大会委員から情報です。2-F組、衛宮士郎君こちらに来てください』

 

「ん?」

 

唐突に呼び出しを食らった。

 

「お前何かしたんかー?」

 

「いや、なんもしてないぞ。ずっと忠勝と見てたし。な?」

 

「ああ。衛宮はずっと一緒だった」

 

なんでだー?と首を傾げながら教師陣のいるところに行く士郎。

 

そして何事かを話した後すぐに戻ってきた。

 

「なんだったんだ?」

 

「早く帰ってきたってことは怒られたわけじゃなさそうだな」

 

「あんたじゃないんだから当然でしょ」

 

と賑やかに迎えられる士郎。

 

「あーなんかな?男子とだと戦力差がありすぎるから女子の部に混ざることになった」

 

「「「はあぁ!!?」」」

 

士郎の言葉に一斉に驚く一同。

 

「それはあれか?お前だけ女子と一緒にキャッキャウフフするってことか!?」

 

「そしてどさくさ紛れに・・・ウッ!」

 

男共のメラリとした嫉妬に士郎は困ったように、

 

「そこまで阿保なことにはならん!・・・要は、女子との接触や戦闘にはかかわらない競技だそうだ」

 

「それって・・・」

 

「ビーチバレーしかないな」

 

ビーチフラッグは旗を取り合う以上もみくちゃになるだろう。

 

そうすると残るはビーチバレーしかない。

 

「ただし、同じ競技の女子の部に出たら男子の部には出られないとさ」

 

「実質、ビーチバレーの男子をいじらないといけないわけか」

 

「ある意味好都合だな。幸いビーチバレーは最後の種目だから最後に抜くという目的にも合う」

 

「だな。それじゃあ皆、軍師からのありがたい指示だ!」

 

「わう!」

 

皆一斉に大和に期待の目を向ける。

 

「とりあえず現状維持で」

 

「ズコー・・・」

 

「おいおーい、そんなんでいいのかー?」

 

「まぁ今から戦略練り直すんだから分からんでもない」

 

「士郎の言う通り。今から色々手を打つからそれまで頑張ってくれ」

 

そう言って大和は携帯を出してすぐにポチポチし始めた。

 

きっとあらゆる人脈を使って有利な情報を得たりダミー情報を流したりするのだろう。

 

「なるほどね。それじゃ、それまで頑張るとしますかね!皆の衆!」

 

応!と皆で応答して競技に望む。

 

必要なのは時間と二位の頭をキープすることだ。

 

大和の指示が無かろうともなんとかなるだろう。

 

(しかし、俺の学生時代ってこんなに賑やかだっただろうか?)

 

士郎は以前の穂群原学園でのことを思い返す。

 

あの時は聖杯戦争のことが一際鮮明に記憶に残っているが、それ以外でこんなにも賑やかに、活気に満ちた生活を送っていただろうか?

 

(校風の違いか、もしくは俺の生活が変わったからか・・・なんにせよ、感謝だな)

 

今まで感じたことのないものをこの世界に来てから強く感じるのだ。

 

そしてそれが衛宮士郎にとって欠けてしまったものを補う何かなのだと士郎は思う。

 

(ホームシックかな。最近妙に前の世界のことを思い出す)

 

前の世界とは違いがありすぎるからなのか、それともこちらでの生活が充実しすぎているからなのか。

 

よく前の世界と比べてしまうのだ。

 

(今考えるべきことじゃないか。いつか帰れればそれでよし。まぁ無理だろうからこの先の事考えないとな)

 

見れば男子ビーチフラッグが終わり、女子ビーチフラッグが始まっている。

 

もうすぐ自分の出番だ。

 

 

 

『やってまいりました二年生最後の競技!川神ビーチバレーです!』

 

『今回は男子の中で飛びぬけた実力を持つ彼が出てくることでしょう。波乱となりそうですね』

 

二人の実況解説のあと、パンパカパーン!というなんとも気の抜けるサウンドが流れた。

 

「なんだぁ?」

 

「えー今回は特別企画となるぞい。この試合に勝ったチームには川神水大吟醸1ダースがその場で与えられる。力を振り絞るのじゃぞ」

 

と鉄心のアナウンスが入る。

 

「川神水大吟醸って・・・もう酒だろそれ」

 

川神水はノンアルコールの水なのだが、なぜか場酔いができるという摩訶不思議なさ・・・水である。

 

士郎は最近になって(弁慶をみて)その存在を知ったのだが、何をどう言おうとも酔えるなら酒だろうと言いたいところである。

 

「しかし川神水か。これは弁慶が張り切るんじゃないか?」

 

「だろうね・・・いつもひょうたんに入れて持ち歩いてるくらいだし・・・」

 

「大体、大吟醸ってもしかして吟醸とかもあるのか?」

 

士郎の問いに食に詳しいクマちゃんが答えてくれた。

 

「もちろんだよ。今回のは川神水製造名人の高橋祥雲さんが自ら指揮をとって作ったものだね」

 

「ん?高橋祥雲さんってテレビで見たことあるな。確かお金では動かない頑固肌って特集やってなかったっけ」

 

どうやらすごい名人らしい。

 

「でも、水、なんだろ?」

 

「水だね」

 

「水よ」

 

「水」

 

「・・・。」

 

本当に水なんだろうか?そもそも川神水製造って言っている時点で手が加えられていると思うのだが。

 

「ま、まぁ景品は置いとくとして俺は出るぞ。いい加減体動かしたいしな」

 

「じゃあパートナーを選ばないとな」

 

考えられるのは一子、クリス、京だが、

 

(京は大和と一緒じゃないと出ないだろうなー)

 

ということで選ばれるのはクリスか一子だろう。

 

「んー・・・ワン子、行けるか?」

 

「うん!アタシも景品は別にいいけどやるからにはかーつ!!」

 

相棒は一子に決まった。

 

鍛錬で良く会う彼女なら士郎としてもやり易い。

 

クリスが駄目というわけではないが、彼女は少々意固地な部分があるので万一の連携が怪しい。

 

『それではトーナメント表を発表します』

 

桐山鯉の言葉に合わせてトーナメント表が張られたボードを持ってくる九鬼の従者達。

 

(どうでもいいが暑くないのか・・・?)

 

女性のメイド服もそうだが、男性はみな執事服なのである。この炎天下の中長袖にスラックスでは相当に暑そうだ。

 

「まずは・・・C組とか」

 

「力自慢が多いのよー、気を付けていきましょうね」

 

と一子は元気に言った。

 

しかし一子はこの後、信じがたいものを見ることになるのである。

 

ピー!

 

『それでは試合開始です!』

 

『サーブはコイントスで決定しました。今回はC組のようですな』

 

「来るわよー士郎!」

 

「ああ」

 

言葉少なく返す士郎に一子は一瞬違和感を覚えた。

 

(あれ?これもしかして士郎本気なんじゃ――――)

 

彼は戦闘時や舌戦が必要な時は独特の喋り方に変わる。

 

彼曰く、その方が彼にとって都合がいいからということらしいが――――

 

「くらいなさい!例え衛宮君でも容赦はしないわ!」

 

スパン!という音と共に鋭いサーブが飛んでくる。

 

「上げたぞ!」

 

その言葉に現実に戻された一子は慌ててスパイクを打つ態勢に入る。

 

「そい!!」

 

パアン!と一子の打ったスパイクが相手コートに炸裂した。

 

「やるじゃないか一子」

 

「う、ううん!士郎の上げた位置がとっても良かったから!」

 

堅実にサポートをこなす人が居るとこうも巧く行くんだなぁと一子は思った。

 

その後も士郎と一子は手堅く攻めることで点を獲得し、勝利数を重ねていく。

 

「すっげーな士郎。あの鋭いサーブ普通に受け止めんのな」

 

「それに上げる位置が巧みだ。ワン子のいるポジションと敵の位置を正確に判断してる」

 

見学するメンツも士郎の堅実なプレイに舌を巻く。

 

あまりにも安定しすぎてもう勝ちを確信してしまう。

 

「でも学長達の判断は間違いなかったな」

 

「だな。ありゃ居たらバランスブレイカーだ」

 

武士娘の一撃さえも軽くいなす士郎は間違いなくバランスブレイカーだ。

 

もちろん男子にもエースたる存在はいるが、それでも士郎は頭一つ以上頭抜けているのだ。

 

これが最初の競技のようなリレーなら問題ないが、そうではない競技となるとやはり士郎は男子の部では強すぎる。

 

結局、決勝戦S組とぶつかるのだった。

 

「今回は勝たせてもらうよ!ね、義経!」

 

「うん!行こう弁慶!」

 

「相手は義経と弁慶ね・・・気を引き締めて行かないと!」

 

「ああ。・・・加減はもう必要ないな」

 

「え?」

 

ボソリとつぶやかれた一言に一子は嫌な予感がした。

 

『サーブはF組からです』

 

「では、私から行くとしよう」

 

そう言って士郎はボールを持ってコート外へと行く。

 

そして、

 

「はッ!」

 

高く放り投げられたボールにジャンプアタックする士郎。

 

その一撃は強力無比。

 

それまで絶対にやらなかった、絶大な攻撃力である。

 

「は、はやっ!?」

 

士郎がサーブということで受けに徹していた義経と弁慶だが、あまりの速さに反応出来ず二人は着弾後に手を出すことしか出来なかった。

 

「おや。もう点が入ってしまうのか。加減した方がいいかな?お嬢さん方」

 

と士郎はいつもの皮肉気な笑みを浮かべて言った。

 

「・・・今の見えたか?」

 

「全然。キャップは?」

 

「無理。京とクリスは?」

 

「自分も見えなかった」

 

「一応見えたけど・・・見えただけ。あれどうにかしろって言われても無理」

 

「京でもそうなんだね・・・僕は士郎がサーブした後、義経達のコートに着弾したのしか分からないよ・・・」

 

うんうんとモロに同意する他の皆。

 

「なんの・・・!」

 

「まだ最初の一球です!」

 

ともう一度受けの構えを取る義経達。

 

「いい気骨だな。だが、そも相手はきちんと選ぶべきだ」

 

ドッパン!とまたも彼のサーブは砂を少し巻き上げて着弾する。

 

『これは、実に大人げないといいますか・・・』

 

『義経様達は基本受けに回る方々ですが今回は挑むほう(・・・・)のようですね』

 

「義経!見えた!?」

 

「大丈夫!次は受けられる!」

 

と士郎の問答無用の攻撃に本気モードになる義経達。

 

「一子」

 

「ひゃい!」

 

こうなると士郎はとても怖いのを身をもって知っている一子はビクーン!と飛び上がって返事をする。

 

「次は手を変える。恐らく攻撃が来るからきちんと構えておきたまえ」

 

「お、押忍!」

 

そう言って彼はまた高くボールを放り投げ、

 

「ふッ!!!」

 

またも強烈なサーブを繰り出す。

 

「馬鹿正直・・・!?」

 

今度こそ迎え撃つと意気込んでいた弁慶は義経が動いていないことに気づく。

 

「しまった!太陽か!」

 

ビーチバレーは2対2、4対4で行われるスポーツだが、特徴的なものの中に風や太陽を利用した攻撃が存在する。

 

砂浜という屋内よりも脚力を問われる場所で不規則な落下や太陽による不可視などの戦法を上手く利用することがこのスポーツの醍醐味でもある。

 

「ぬああああ!」

 

バン!!という音を立てて弁慶が全力でレシーブする。

 

だが、受けきれずその一手で士郎のコートにボールが返ってしまう。

 

「一子!」

 

「はい!」

 

トン、と一子が上げたボールに向かって一瞬でポジショニングする士郎。

 

そして、

 

「はぁッ!!!」

 

ドパアン!と強烈なスパイクが入る。

 

「ああ!」

 

「こんの・・・!」

 

あまりに一方的な攻撃に二人の顔が厳しくなる。

 

「どうしたのかね?必要なら君達にサーブ権を譲渡してもいいが?」

 

「はいそうですか、なんて言えるか!」

 

「し、士郎君口調が・・・」

 

と、初めて彼の戦闘態勢を見る義経は困惑気味だ。

 

「そんなことはどうでもいい!義経今度こそいくよ!!」

 

「う、うん!」

 

しかし弁慶は川神水がかかっていることもあって気炎を上げている。

 

「ふっ・・・随分と負けず嫌いだな。一子わかっているな?」

 

「は、はい!(一個でも落としたら怒られる!!!)」

 

目指すは勝利ではなく完封。

 

やると決めたら一切容赦なくなるのがこの男である。

 

「衛宮君、大人げないなー・・・」

 

ドッカンドッカンと砂浜を穿つ光景をみて燕は思わずつぶやく。

 

「ははっ!やっぱり士郎はいいなぁ・・・あの容赦のなさ。それに動きに全く隙が無い」

 

一方百代は一体何度目か分からない惚れ直したと頷いている。

 

「百代には見えているで候?」

 

「一応な。でも反応出来るか分からない。表情はもちろん、行動から予測もかなり厳しいと思う」

 

士郎はなにも超強力なサーブやスパイクだけを行っているのではない。

 

ビーチバレーにおける様々なフェイントやアタックを行っているのだ。

 

ただしそのどれもが強力すぎてまるでボールを拾えないのが現状なのだが。

 

ズパン!!とボールがまた着弾する。

 

「ぬあ!」

 

「うあ!」

 

互いに跳んだが巧妙に、精密に義経と弁慶の腕をすり抜けて地面に着弾する。

 

「白旗かね?もう後がないぞ」

 

マッチポイント、あと一点取られれば負け。

 

しかしこの主従は諦めなかった。

 

「いくよ、義経!」

 

「もちろんだ、弁慶!」

 

砂にまみれても彼女達は諦めなかった。

 

「それでは一子、君がサーブを打つと良い」

 

「え?士郎の方がいいんじゃ・・・」

 

一子の声に士郎は首を振った。

 

「なに、一方的なリードはしらけるだろう?」

 

ひょいと士郎は一子にボールを渡す。

 

「う、うん・・・」

 

一方的にコールド勝ちでは決勝もなにもないだろうと士郎はサーブをやめた。

 

とはいえマッチポイントなのでしらけるもなにもないのだが。

 

パン!と士郎のそれとは比べ物にならない軽い音と共にボールが飛ぶ。

 

「義経!」

 

「いくぞ!」

 

トン、と義経が上げる。

 

本来立てるべき主の方が弁慶の為にサポートに徹していた。

 

「そおれ!!!」

 

ドン!という鈍い音を立ててボールが打ち出される。

 

「!」

 

それを一子よりも早く士郎が気づいた。瞬く間に落下地点に跳び、ボールを上げる。

 

「一子!」

 

「いくわよー!」

 

良いポジションに上げたボールを一子が鋭いスパイクで放つ。

 

それを弁慶が拾った。

 

「義経!」

 

「うん!」

 

義経もまた強烈なスパイクを放つが、またも士郎がそれを拾う。

 

ビーチバレーはブロック+2タッチしかできないので士郎が拾うと、トスが一子、アタックは士郎になる。

 

しかし士郎はまたも一子のアタックポジションへ打ち上げる。

 

「行け!」

 

「てりゃああ!!」

 

ズパン!と一子渾身の一撃がボールを猛スピードで砂浜目掛け飛んでいく。

 

「おおお!」

 

「このぉ!!」

 

それを弁慶が拾う。

 

(((多分これが最後のチャンスだ!!!)))

 

見守る全ての人が思った。これはもう士郎の手のひらの上で踊らされているにすぎない。

 

だがそれでも彼女達は精一杯あがく。その姿がとても輝かしかった。

 

「これでぇ!!!」

 

弁慶も今回一番の渾身の一打。

 

それを、

 

「流石弁慶。だが―――」

 

また士郎が拾う。しかし今回は様子が異なった。

 

「一子!」

 

「今が攻め時ね!」

 

トン、と一子がトスを上げた。

 

「!?」

 

「しまった!」

 

ようやくできたラリーでつい意識を外してしまった。

 

彼らはそもそも一手余らせて(・・・・・・)ラリーをしていたのだ。

 

「終いだ!」

 

ズドン!と士郎のスパイクが突き刺さる。

 

「「うああああ!!!」」

 

二人が全力で飛ぶが、

 

フワッと一瞬風でボールが巻きあがった。

 

「「!?」」

 

そのせいでボールは彼女達の手をすり抜け、

 

ドサ!と砂浜に着地した。

 

『決着です!勝者2-F組、衛宮士郎・川神一子ペア!』

 

『敗北してしまった義経様達にも拍手を!』

 

ワアアアアア!!!と盛大な拍手が響く。

 

その声はほとんどが諦めずに立ち向かった義経と弁慶に向けられたものだった。

 

「義経ちゃん可愛かったぞー!」

 

「ナイスファイトー!」

 

「弁慶愛してるー!」

 

と大分危ないのもいるがとにかく大喝采だった。

 

「なんか勝ったのに負けた気分ねー」

 

「まぁ想定内さ。付き合わせて悪かったな一子」

 

そう言って一子の頭を撫でる。

 

「ううん!すごく勉強になったわ!足場が柔らかい時の走り方とかスパイクの打ち方とか・・・ほとんど士郎がバックアップしてくれたからだけど」

 

と一子は言うが、彼女だって大したものだ。ほんの少し前は歩くことすらままならなかったのに、もう走って跳んでをこなしているのだから。

 

「そうか――――では凱旋と行こう」

 

拍手喝采は義経達の方が多いが、勝者は自分達なのだ。

 

胸を張って皆の元へと凱旋しよう。

 

 

 

そんなこんなで件の川神水大吟醸なるものを受け取り(一子は要らないと辞退)三年生の競技を終えて、最後の遠泳だ。

 

「あの岩を回って戻ってくるのじゃ。皆無理をせんように。行けるとこまで頑張ったら浮き輪を投げるでの」

 

「ただし、甘えで途中放棄した者には罰則があるのでしっかり泳ぐように」

 

と、鉄心と梅子の説明と忠告を受けていざ遠泳である。

 

(流石遠泳だけあるな。結構遠い)

 

ちゃぷんちゃぷんとゆっくりと泳いで行く。

 

速く終わらせることは出来るが別にそれが目的ではないし、折角の海を堪能しようとのんびりと泳いでいた。

 

(脱落者そんなにいないな。これもやっぱりレオニダスのおかげか?)

 

あの泳げるのか疑問の男の訓練はやはり生徒たちの力を飛躍的に向上させているようだ。

 

「衛宮君」

 

と声をかけられた。

 

「葉桜先輩?どうしたんです?」

 

本来女子と男子は別コースなのだが、いつの間にかやってきたようだ。

 

「ここなら誰も聞いてないかなって思って。泳ぎながらで大丈夫?」

 

「ええ。問題ないですよ」

 

「ありがとう。まずは優勝おめでとう!私びっくりしちゃった。ビーチバレーであんなすごい動きするんだもん」

 

「あー・・・あれはちょっと反省してます」

 

景品を貰う時に言われたが、もう少し加減してほしいと言われた。

 

しかし、士郎はやりすぎたとは思っているが間違ったやり方をしたとは思っていない。

 

実を言うと、女子の部に混ざる話が来た時、あることも一緒に言われていたのだ。

 

『できれば義経様達を盛り上げてほしいのです』

 

『盛り上げる?つまり接待バレーで相手に勝たせろと?』

 

その言い方に剣吞な空気を出す士郎の問いにはクラウディオが答えた。

 

『いえいえ、そうではありません。勝負ですから義経様達が勝っても負けても構いません。ただ、一層盛り上がるようにしてほしいのです』

 

『意図が読めませんね。つまりどうしてほしいのですか?』

 

『義経様達は常に皆の模範であるようにと動いてくださっています。ただ・・・』

 

『今のままですと義経様達は挑まれる(・・・・)だけなのです。そこで衛宮様には義経様達が挑む方(・・・)になって頂きたいのです』

 

なるほど、と士郎は頷いた。

 

全戦全勝では、だって偉人のクローンだからとか、元から優れているからとか良くない考え方が生まれてくる。

 

そうならないように義経達が必死に抗う、全力で挑みかかる状況を作ってほしいというわけかと士郎は考えた。

 

『いいでしょう。ですが、随分と俺をかってくれますね?』

 

『貴方はヒューム卿と対等に戦う方です。その貴方が義経様達より弱いとは考えにくい』

 

『ヒューム・ヘルシングは九鬼の最強の切り札であり、揚羽様の師でもあります。武神と事を構えられ、ヒュームさえも認める貴方が易々と負けるはずがないでしょう?』

 

二人は言った。

 

(どうにも厄介な受け取られ方をしている気がしてならないが、まぁいいだろう)

 

とにかく強さで物事が判断されやすいこの世界では武力がいかなる競技にも反映されがちだ。

 

もちろん戦う力があるということはそれだけ能力が高いことを示すが、何でもかんでも強いわけではない。

 

『どちらにせよやれるだけのことはしますよ。俺たちも負けたくないので』

 

というやり取りがあったのだ。

 

そこまで狙ったわけではないが、結果的に義経弁慶ペアが大盛り上がりしたのでいいだろう。

 

「それでどうしたんです?誰にも聞かれたくないことなんでしょう?」

 

三年生のしかも女性が自分の方に来るには中々に警備を掻い潜らないといけないだろう。

 

男子がやったら即処罰である。

 

「うん・・・前の、歓迎会での話、覚えてるかな」

 

そう清楚が言った時点で士郎は大体予想がついた。

 

「覚えてますよ。葉桜先輩の元となったクローンの話ですね?」

 

士郎の答えにコクリと頷いた。

 

「それについてはちょっと待ってください。ああ、一年も二年もという意味ではなくて、この体育祭が終わったら期末考査でしょう?多分それを終えてからの方がいいと思いますよ」

 

その答えに清楚は若干顔を青くした。

 

「えっとそれって・・・私自暴自棄になっちゃうとか・・・?」

 

「いえ、そういうわけではないんですが・・・自暴自棄というより抑圧されたものの爆発、でしょうね。もちろんその責任は葉桜先輩ではなく、最初からその人物のクローンということを踏まえて先輩を育ててこなかった九鬼含め親の方に責任があるのだと思います」

 

と士郎ははっきり言った。二重人格というものがあるが、ある条件下で無意識的にもう一つの人格を作ってしまう障害がある。

 

彼女がそうであるという可能性は五分と言ったところだが、間違いなく今の状態の彼女には知られたくないから隠しているのだ。

 

ということは正反対の性格、もしくは感情を持った人物のクローンであることは間違いない。

 

(まぁ、本物の人物が本来は先輩のような人物であった、ということなら俺の心配のし過ぎで終わるのだが)

 

だがその可能性は低いだろう。間違いなく彼女は武闘派(・・・)なのだから。

 

「抑圧されたものの爆発?私、そんなに我慢とか不満持ってないけれど・・・」

 

「可能性の話ですよ。とにかく期末考査を終えて成績が出たら・・・その次の日辺りにでもしましょう。多分、時期的にはそこが丁度いいと思います」

 

「・・・わかったよ。衛宮君がそこまで言うならもう答えは出てるんだね?」

 

「ええ。もう確信も得ました。きちんと伝えられますよ」

 

その答えに満足したのか、彼女は泳ぐのをやめて士郎の手を握った。

 

「ありがとう・・・ずっと心細かったの。自分が誰で何者なのか分からなくて・・・たまに本当の自分て何だろうって思ったりしたの」

 

「何度も言いますが先輩に責任は一切ないですよ。あるのは自分達の都合で生み出しておいて都合のいいように隠して育てた九鬼ですから。そのせいで先輩はいらない恐怖と不安を抱えることになった。先輩の性格からして他人を責めることは出来ないと思いますが――――」

 

士郎はそこで一度言葉を切り、握られた手を握り返した。

 

「誰が元であろうと葉桜清楚は葉桜清楚。何が起こってもそれだけは変わりません。もしやんちゃしても俺が止めに行きますから。安心してください」

 

とおどけて士郎は言った。

 

「もう・・・ッ!」

 

手を握っていた清楚が突然士郎に抱き着いた。

 

「せ、先輩?」

 

「今の、殺し文句だからね?誰にでも言っちゃだめだよ?」

 

と清楚は嬉しそうに言った。

 

「おいこらー!!!なに清楚ちゃんとイチャついてるんだお前ーー!!!」

 

「衛宮士郎!!さっさと上がってきなさい!」

 

百代とマルギッテに発見されてしまった。

 

「やべっ・・・先輩、そろそろ・・・」

 

「あ、うん・・・」

 

少し残念そうに彼女は離れ、

 

「じゃ、じゃあ先に行くね!」

 

と彼女は先に泳いで行った。

 

「――――」

 

そんな彼女を目で追って士郎は考える。

 

(間違いなく爆弾だな。成績発表の次の日とは言ったが、さて)

 

約束は守る。が、その日はとても強烈な一日となりそうだと士郎は思う。

 

「お・ま・え・!早く上がって来いよ!!」

 

「うお!?百代はもうとっくに戻っただろう!?」

 

「うるさい!また女の子誑かして・・・一体何人にフラグ立てる気、だッ!!」

 

ギリギリと百代が抱き着いて、いや、締め上げてくる。

 

「い、いた、痛い!!というか泳ぎづらい!!」

 

「衛宮士郎早くなさい!!!」

 

「なんでマルギッテはトンファーを持ってるんだよ!?」

 

「士郎先輩はいつもこうです・・・」

 

「天然のジゴロだから手に負えないよねー」

 

と由紀江まで帰りを待っている。これは早く行かねば色々まずい気がする。

 

「ったく!溺れるなよ!」

 

「おお、いいぞ楽々だ」

 

泳ぐ士郎の首に手をまわしてちゃぷちゃぷと一緒に浜辺へ戻る士郎と百代。

 

「あああ!!モモ先輩!!」

 

「川神百代!!何そ知らぬふりして抜け駆けしているのですか!!」

 

「別に何もしてないもーん。そんなに言うならマルギッテさんも来たらいいじゃないですか?」

 

「う・・・そ、それは・・・」

 

マルギッテらしくなくモジモジとして彼女は口ごもった。

 

「そういえばマルは休みだったな。何か事情があるのか?」

 

と聞く士郎だが、

 

「それは自分で聞いてみなー!」

 

「おい松風いないだろう!なんで由紀江まで来るんだ!!」

 

「松風は脱衣所からテレパシーを飛ばしているんです!!」

 

「そういう問題か!?ま、まて!流石に二人は―――」

 

「なにをやっている衛宮!真面目にやらんか!」

 

バッチンと珍しく水着姿の梅子の鞭が飛んでくる。

 

「あいた!?先生俺悪くないです!むしろ助けて!」

 

「お前のようなふ、不潔な生徒はそのまま最後まで泳ぎ切れ!」

 

「俺をヨンパチの様に言うのは止めてもらえます!?」

 

彼と一緒にされるなど屈辱の極みである。・・・本人には非常に悪いが。

 

バッチンバッチンと叩かれながら人二人くっつけて必死に泳ぐ士郎。

 

(なんだっけ・・・ええと、海〇?)

 

某特殊救助隊の映画のようだとくだらないことを考えながら必死に泳ぐのだった。

 




やっとこさ上げられました!待っていただいた皆様お待たせしました。

原作よりかなり削ってオリジナルにしているのですがそれでも2万字を越えました…やっぱり本物の小説家、ノベル作家の方は凄いですね。今回最高文字数更新です。

士郎のビーチバレーは衛宮さんちの今日のご飯のビーチバレーをご参考ください。義経と弁慶が如何に無茶苦茶な相手と戦っていたかわかると思います。

次回は期末考査ですかね。落ちてきますよー(ヒュホホホ)(笑)

ではまた次回お会いしましょう
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