真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆様こんばんにちわ。相変わらずドン亀更新の作者です。

今回の話を書くにあたり、できれば皆さまに準備していただきたいものがあります。

YouTubeでもニコニコでもお持ちのサントラでも良いのでエミヤ♯2を準備していただけるとより楽しめるかなぁ~と思います。

走りますよ~猟犬が。

では!


西楚の覇王/赤原を行く猟犬

――――interlude――――

 

川神学園教師陣の間である話題が話し合われていた。

 

「最近摸擬戦の復活を求める声が強まっていまス」

 

そう告げるのは川神院師範代であり、最近すっかり二年生の体育をレオニダスに乗っ取られてしまった(一応現場にはいる)ルーだ。

 

「摸擬戦?WHAT?それはどういったものですか?」

 

聞くのは大きな体躯にスーツを着たカラカル兄弟の兄、ゲイルだ。彼は元々、弟のゲイツと共に百代への挑戦を目当てに来日したのだがあっさり瞬殺され、それ以降英語担当教師として日本に在日している。

 

「摸擬戦は中規模な集団戦ですね。150ぐらいずつ東西に分かれて、集団による一斉戦闘を行います。軍を壊滅させるか、大将を倒した方の勝ち」

 

説明をしてくれたのは小島梅子だ。この説明にルーが続ける。

 

「個人の能力と同じくらい大将の指揮能力と作戦能力が問われるネ」

 

「これが大規模な集団戦になると『川神大戦』と呼ばれるものに変化します」

 

「まぁ川神大戦は予算もかかるんで滅多には出来んわい」

 

「しかし、中規模な摸擬戦なら学園内でも出来るのでは?義経達が来たことで復活の声に勢いがありますヨ」

 

「義経達と一緒に戦いたい・・・または戦ってみたいという武士の血が騒ぐのでしょう」

 

と梅子は言うが、これを聞いた士郎はどう思うだろうか。

 

隔絶的な力を持つ彼は戦闘自体を好いてはいない。だが摸擬戦、あるいは川神大戦が行われれば否応なしに巻き込まれることになるだろう。

 

その時彼はどうするのだろうか。

 

「いいですねー。面白そうではないですか」

 

「集団戦でこそ輝く人材というのもありますしネ」

 

「・・・色々と面倒ごとも増えるけどな。ここは慎重にやった方がいいと思いますけどね」

 

と消極的なのは宇佐美巨人だ。

 

摸擬戦はれっきとした戦闘になるのでルールの設定、怪我人への対処、在学生、特に摸擬戦へ参加する生徒の親御さんに対する文書や対応、集団リンチなどによる警戒など本当に様々な対処を求められる。

 

「うむ。いつもなら例年通り摸擬戦復活は却下じゃが今回は検討してみてもいいかもしれんな」

 

やはり何より義経達の影響が大きいのだろう。鉄心も無下に却下とはしなかった。

 

 

 

――――後に、これが大規模戦闘になるとはこの時誰も思っていなかった。

 

 

 

――――interlude out――――

 

「――――」

 

狙いを定める。多摩大橋(変態の橋)に出現する変態を士郎は学園の屋上、さらにその上の給水塔の上から射る。

 

狙いは違わず。目標の急所に的中し、気絶させた。

 

気絶させた変態を九鬼の従者達が運び出していく。見えないだろうにこちらに向かって手を振っているあたり、自分には見えていることが知れているのだろう。

 

なぜ彼がこんなことをしているのかというと、最近義経達が現れたことで変質者が登下校を狙ってくることが多くなったのだ。

 

なにかと朝早く登校する彼は、依頼や頼まれごとを放課後に回して朝はこうして変態を撃滅している。

 

「すごいな士郎は。一体何処まで見えているんだ?」

 

屋上の入り口に見張りの様に立った林冲が言う。

 

「さて、ここから橋のタイルの数くらいは見て取れるが」

 

何でもないように言って彼は投影しておいた大量の矢を射っていく。

 

元は投影品ではない矢を使っていたのだが、回収してくれる九鬼の従者さんに申し訳なくて事前に学園で使う矢のレプリカを大量に投影してストックしているのだ。

 

投影品ならば回収の必要はない。中った後は消せばいいのだから。

 

「橋のタイルって・・・ここから一キロ以上あるのにそんなに鮮明に!?」

 

それを聞いた林冲は度肝を抜かれた。

 

多摩大橋に使われているタイルはとても細かく、到底この距離から見えるものではない。

 

(そもそもここからさっきの標的まで1キロ半はあった。士郎は一体何処まで見えているんだ!?)

 

彼にとって学園の周囲4キロは射程範囲に過ぎない。見るだけならもっと行くし、宝具を使う場合はさらにその限りではないことを彼は言わない。

 

総理官邸防衛の時には見せてしまったが、本来軽々と見せるものではないのだ。

 

「えっとここかな・・・」

 

「!」

 

スッと林冲が槍を構える。士郎は自分の手札を晒したがらない。だから彼女は見張りとしてここにいた。のだが、

 

「構わん林冲、通してほしい」

 

未だその鷹の目は橋を見据えている。だが最近身に付けた気を感じ取る能力で誰が来たのかすぐに分かるようになった士郎は誰であるのかすぐに分かった。

 

「えっと・・・おはよう」

 

「おはようございます。葉桜先輩」

 

挨拶をしてすぐに扉を閉める林冲。

 

「えっと、衛宮君はなにをしているの?」

 

「すまない。今橋に出てくる馬鹿どもを狙撃するのに忙しくてね。葉桜先輩の正体についてだと思うが、間違いないだろうか?」

 

「え、狙撃!?ここから?どうやって?」

 

「この通りだが」

 

パシュン!とまた矢が放たれる。矢じりの部分が超弾性のゴムでできた矢は恐ろしいスピードで橋でナンパをかけている不審者の頭に命中する。

 

「中ったの?」

 

「ええ。九鬼の従者さんが回収してくれています」

 

何でもないように言って彼は黒い洋弓を下した。

 

「そろそろ登校も終わりだろう。後は九鬼に任せるとして・・・先輩の正体に関しては放課後ここでしましょう。今言ってもいいんですが、予想が正しければ多分――――」

 

「多分?」

 

「――――」

 

それ以上、士郎は何も言わなかった。ただ、何処か納得のいかない顔でなんでもないですよ、と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、今日はここ最近できた衛宮定食定休日。

 

なんでも、やはり働きすぎということで数週間に一回衛宮定食を休む。その代り、学園側で少し高い、食券2枚で食べられるスペシャルメニューを準備している。

 

のだが。

 

「なんだか体育館裏が似合いそうな方々に囲まれたな」

 

なんとなく弁当を食べるのに日当たりが良い場所はないかと歩いていたら忍足あずみに捕まった。

 

「ああん?なんか文句あるのかコラ」

 

とメンチを切ってくるあずみだが、

 

「君はそのすぐキレる癖を直した方がいいと思うぞ。・・・それで、そちらさんの紹介はしてくれないのかね?」

 

士郎はそう言って近くのベンチに座った。

 

「ほんとにあずみの威嚇もなんのそのなんだなー。私はステイシーだ。ステイシー・コナー。序列15位だ」

 

「自分は武田 小十郎です。主に揚羽様の執事を務めています。序列は・・・その」

 

「お前の序列なんてあって無いようなもんだろうがタコス!それより、本題に入らせてもらうぜ」

 

小さく怒声(超難しい)を上げてあずみは士郎に問いかけた。

 

「お前、葉桜清楚の正体嗅ぎまわってるだろ」

 

と言ってきた。

 

「何を言うかと思えばそんなことか。嗅ぎまわるも何も私は既に答えを得ている。彼女に頼まれていたから今日の放課後教える約束をしているが?」

 

そう言い返して何でもないように弁当箱を開けて食事を始める士郎。

 

「テメェ・・・人が親切心で「グゥ~」・・・」

 

士郎の言い方にまたキレそうになったあずみが止まった。

 

「白状しろ。今なら軽くで済ませてやる。どっちだ?」

 

ビキリと額に青筋を浮かべて後ろにいる二人に問う。

 

「・・・。(右に指さし)」

 

「・・・。(お腹を押さえて赤面)」

 

「このダヴォがああ!!」

 

「ぐはっ!すみませんあずみさんッ!!!」

 

ドーン!と小十郎が吹っ飛んだ。

 

「何をしているんだ君たちは・・・仲間はぶっ飛ばすよりも支えてやるものだろうに・・・」

 

そう言って食べていた弁当をベンチにおいて吹っ飛んだ小十郎に手を差し伸べる士郎。

 

「大丈夫か?」

 

「え、ええ。ありがとうございます・・・」

 

その手を取って小十郎が立ち上がる。

 

「・・・。」

 

「どうかしましたか?」

 

握られた手を見て士郎は考えていた。

 

「武田小十郎・・・さんだったかな、失礼だが、貴方は序列がとても低いのでは?」

 

「!なぜそのことを・・・」

 

士郎は気を感じる訓練と共に百代の魔眼とまでは行かないが、相手の気の構造も解析する癖を付けたのだ。

 

「はっきり言えば、貴方はとても不器用だろう?貴方の気の流れは恐ろしく滅茶苦茶だ」

 

気は生命エネルギー。全身を隈なく回っているが、流れ方にはやはり個性があることを士郎は解析をするにあたって知ったのだ。

 

腕力に自信がある者は両腕の方に。脚力に自信のある者は脚に。

 

もちろんそこに気の最大量や偏り方、回るスピードなど実に様々なのだが、この青年、何から何まで滅茶苦茶なのだ。

 

全身に隈なく行き渡っているわけでもなければ何処かに集約しているわけでもない。

 

もしこれが魔術回路だったなら間違いなく起動した瞬間死に至るほどに。

 

「ちょっと失礼。・・・よしこれならなんとかなるな。そこのベンチにうつ伏せで寝てもらえるかな?」

 

「あ、え?私の事は――――」

 

言われるままにベンチにうつ伏せになった小十郎に、

 

「はッ!」

 

グキ!

 

「ぐっは!?」

 

背中のある部分に刺突を入れる。

 

「な、なにを!」

 

「黙っていたまえ!舌を噛むぞ!後5か所ほどだ!」

 

グキ!ベキ!ゴキュ!ゴリ!グキリ!

 

「うああああああ!!!」

 

悲鳴を上げて小十郎はそのまま気絶した。

 

「ふう・・・これでいくらかマシになるだろう」

 

いい仕事をしたと額の汗を拭う。

 

「なにしたんだ?すっげーあぶねー音してたけど」

 

「少し気脈を整えただけだ。彼は妙に気の流れがおかしいというか・・・右足を前に出そうとするとなぜか気は左足に行くような・・・なんとも言えん状態だった」

 

「おお?つーことは少しはまともになんのか?」

 

「それは本人の努力次第・・・なのだが。忍足あずみ、なぜ私の弁当を食べているのかね?」

 

「あん?あたいの事を無視してそこの雑魚にかかり切りになってたからな。噂の衛宮さんちの今日のご飯はどうなのかと思ってよ」

 

ニヤニヤとそういうあずみの隣にはステイシーなる金髪の女性がおり、米粒を頬に付けている。

 

「・・・はぁ、美味しく食べられたのなら本望だ。で、本題は?」

 

ガクリと空になった弁当箱を回収して士郎は水筒のお茶を出す。

 

「お前が葉桜清楚の正体を嗅ぎまわってるって情報が入ったんだよ。・・・つーか、お前も普通に話してただろ。それを聞いて忠告に来てやったんだ」

 

そう言ってあずみは、ん、と手を出した。・・・どうやら茶もよこせということらしい。

 

「忠告ね。英雄の・・・いや、人のクローン技術はとても繊細だと認識してはいるがね。だがそれは九鬼が選び、九鬼が責任を負うべきものだろう?」

 

「そいつはそうだけどよー、うちにも面倒な奴・・・桐山鯉みたいのがいるんだよ」

 

「桐山鯉?・・・ああ、あの薄い青髪の青年か。一癖も二癖もありそうな感じはしたな」

 

そう言って返されたコップでお茶を飲む士郎。

 

「お?これはあずみにも春が「だまれ」はい、すみません」

 

きっと間接キスがどうのとからかおうとしたのだろうが如何せんこの二人、実は同い年である。

 

そんな子供のようなことでキャッキャするわけがない。

 

「とにかく、慎重にやらねぇとめんどくせーのが出てくるから気を付けろってありがたい忠告をしに来てやったわけよ」

 

「・・・。」

 

あずみの言葉にふむと考える士郎。おそらく、葉桜清楚の正体を明かすのはその忠告を全力で叩き割ることになるわけだが――――

 

「忠告はありがたいが、私の予想が正しければ君達にも出動要請がかかるだろうと思うのだが」

 

「はぁ!?テメェ一体何する気だ!」

 

「何を、と言われても正体を明かすだけだが」

 

食ってかかってくるあずみをよそに士郎はお茶を飲む。

 

「予定変更だ。洗いざらい吐きやがれ。ぜってぇろくでもねーことになる」

 

チャキ、短刀を二本構えるあずみに士郎は逆に言う。

 

「ろくでもない結果になるのは君たち九鬼のせいだ。そんなに言うなら何故彼女だけ元の人物を隠した。その反動が解き放たれるのではと私は危惧しているに過ぎない」

 

「反動?あたいらにも葉桜清楚の正体は知らされてねぇ。一体なんの問題があるんだよ」

 

士郎の言葉に心底分からんという表情をするあずみ。

 

「単純な話だ。君達九鬼はある人物からクローンを作ったが・・・手に負えるような人物ではなかったために本性を無理やり押し込めて隠したのだろう?出なければわざわざ彼女だけ隠す理由も、葉桜清楚自身が知りたいということにも答えない理由にもならない」

 

「・・・。」

 

あずみはしばし考えた。主である英雄様にも、揚羽様にも、紋様にも伝えられていない元となった人物。

 

少なくとも、彼の言葉からわかることは一つ。あの序列2位の武士道プランの提唱者は、やばいものに手を付けてしまって、それを都合よくひた隠しにしているということだ。

 

「なら、あたいらにもお前の答えを教えな」

 

「断る。個人のプライベートをそう易々と話すわけにはいかない」

 

もう一度短刀を構え、実際に首に突き付ける。だが、

 

「無駄なことはしない方が良いぞ忍足あずみ。君に私が制圧できるとでも?」

 

喉元に短刀を突き付けられ、ほぼゼロ距離でにらみ合う二人だが、士郎は涼しい顔をしているのに対し、あずみは額に汗が流れた。

 

命の権利を握っているのはあずみのはずなのに、有利なのは明らかに士郎だった。

 

「チッ・・・確かにあたいじゃ抑えらんねぇ。拷問した所でお前は情報を吐く前に死ぬだろうしな」

 

「拷問とは物騒な話だ。こんな学徒を拷問して何が楽しいのかね?」

 

「残念だがあたいはドSなんだ。どっかの猟犬みたいにマゾじゃねぇんだよ」

 

と悔し気にあずみは言う。

 

「なら逆にしてやる。面倒ごとになるなら手ぇ貸してやるからあたいらにも教えろ」

 

「貸してやるもなにも、君達九鬼の責任だと言っているのだが。・・・まぁいい。丁度私も一応人手を借りている所だ。それに君達が加わってくれるのならヒントをくれてやってもいいぞ?」

 

「・・・ッ!」

 

メキリと短刀に力が入る。だが彼女は短刀を収めた。これだけお前たちのせいだと言われれば恐らく本当にそうなのだろうとあずみは考えた。

 

(うっへー。あのあずみに舌戦で勝ちやがんの。しかもさっきあずみが短刀突き付けた時薄ら寒いもん感じたぜ・・・)

 

黙って話の道行を見守っていた(巻き込まれたくなかった)ステイシーは背筋に冷たいものを感じた。

 

「わかった。必ず手を貸してやる。その代り教えろ。葉桜清楚の正体を」

 

ふむ、と士郎はポケットからメモ帳を出し、何事かを書き、あずみに渡した。

 

それを見たあずみはそのメモを受け取った。そして、

 

「お前・・・これ本気か?」

 

あずみは夏だというのに急激に気温が下がるのを感じた。

 

「本気も何もそこまでヒントがあって気づかないわけがないだろう。だから何度も言っている。何故この人物(・・・・・・)の事を隠した?今の葉桜清楚を見ろ。如何に歪んでしまったか想像がつくだろう?」

 

それが解き放たれる。彼女のルーツを喋るとはそういうことだ。

 

「これが事実だとして、お前はあたいらに何をしてほしいんだ」

 

「何をしてほしい(・・・・・)ではない。何をしなければならない(・・・・・・・・・)かだ。いい加減にしろ。これは自分たちに都合のいい育て方をした君達九鬼の責任だ。御せぬものに手を出し、あまつさえその責任を取らず彼女をいらぬ不安と恐怖に晒しているのは貴様らだ」

 

ゴクリとあずみは唾液を飲み込んでメモ用紙に火をつけた。

 

「話すのは今日の放課後だったな」

 

「ああ。放課後屋上で話す。・・・恐らく、一番被害が無いだろうからな」

 

「わかった。あたいらも動いておく。おい!そこの馬鹿を起こせ!」

 

「なんか分からねーけど了解。オラ!起きろ!」

 

「痛い!?」

 

いつの間にか脱力していい感じに眠っていた小十郎に蹴りをぶち込んで強制的に起こし、あずみ達は足早に去って行った。

 

「これで戦力は申し分ないが・・・彼女の正体を考えると――――」

 

切り札を一枚切らねばならないかもな、と士郎は思った。

 

――――ちなみにあずみが燃やしてしまったメモ紙にはこう書かれていた

 

清楚→西楚

葉桜→覇王

ヒナゲシの髪留め→虞美人草

スイスイ号→騅 

=西楚の覇王 項羽

 

 

――――interlude――――

 

風間ファミリーは士郎の相談を受けて放課後校舎の入り口付近で待機していた。

 

「士郎はなんでここで待っててほしいって言ったのかしらね?」

 

「理由もよくわかんなかったですね。葉桜先輩の正体を教えるからって言ってましたし・・・」

 

「でも武装して待てとはよくわからないぞ。まさか戦闘になるのか?」

 

「じゃないか?士郎が武装しろなんてことまず言わないだろう」

 

「戦闘とか、俺様達のイメージを崩さないでほしいなぁ」

 

「そうだね・・・紫式部とか清少納言だと思うんだけど」

 

「なんにせよ戦闘の予感が士郎にはあるんだろ。気を引き締めていくぞ」

 

「モモ先輩が張り切ってる・・・」

 

「俺もあんまいい予感してねぇんだよな・・・面白そうな空気は感じてるんだけどよ!」

 

と口々に士郎は一体どうしたんだろう?と話す風間ファミリーと、

 

「ええい、衛宮の奴此方まで遣い走りにするとはどういうことじゃ」

 

「まぁまぁ。マスターは貴女を信頼してこの場を任せたのです。ですからここは遣い走りではなく、重要戦力として呼ばれたのだと考え方を変えてはいかがでしょう?」

 

意外なことに不死川心が士郎の頼みを聞いてこの場に待機していた。・・・まだまだ世間に馴染めていないのでレオニダスのお守り付きだが。

 

「こちらあずみ。そっちはどうなってる」

 

「待機中の李です。今のところ変化なしですね」

 

さらに忍足あずみが地上で待機し、彼女の部下である李静初(リー・ジンチュー)とステイシーはヘリで空中待機である。

 

(衛宮の予想が正しければ間違いなくとんでもねぇやんちゃをする。全くあのババアにも困ったもんだぜ)

 

唯一士郎の答えを受け取ったあずみはこれ以上ない程警戒態勢を敷いていた。

 

あの後色々確認に走ったが、何分英雄や揚羽も知らないとなると従者の自分には知りえる情報などほぼ無い。

 

だが、最近、桐山鯉が拘束具のようなものを発注していることが分かった。

 

表向きはウェイトトレーニング用と書かれていたが十中八九、正体を知りつつある葉桜清楚の抑止力としてだろう。

 

そうまでして抑止したいということは士郎の回答が当たりである可能性が非常に高い。

 

(頼むからあんま暴れてくれんなよ・・・)

 

あずみの願いは残念ながら叶えられなかった。なぜならそう思った矢先に屋上から莫大な気が立ち上がったからだ。

 

――――interlude out――――

 

放課後。屋上で葉桜清楚の事を待っていた士郎は付いてきた林冲と話していた。

 

「それは本当なのか?士郎」

 

彼女の思わぬ正体に思わず疑ってしまう林冲。

 

「ああ。間違いない。ここまで出揃うとな・・・逆に他の候補が浮かばない」

 

士郎は腕を組んで考える。

 

「士郎は何を心配してるんだ?」

 

「当然彼女が自分を自覚した時のことだよ。多分、暗示みたいなもので元の人格を強制的に封印してるんだと思う。被害は正直どうでもいいけど、彼女の精神がどうなってしまうか心配なんだ」

 

責任は何を言おうが九鬼に取らせる。だが、強固な暗示で本来武闘派の人間を文学少女にしてしまったとなると、最悪多重人格のようになってしまうかもしれない。

 

「多重人格・・・そんなにまずいのか?」

 

「やばいなんてものじゃない。例えばAという人格とBという人格が形成されてしまった場合、まず両人格の記憶が互いに補完されない」

 

どういうことかというと、AがやったことをBは知らないということが起きるのだ。

 

肉体は一つなので他人はまずその違いが分からないし、Aが起こしたことについて何か問題が起きても、B人格の時はどうしようもないのだ。

 

「精神障害っていうのは本当に怖いものなんだ。出来るはずの事が出来なくなる。原因はどんなに追及しても出てこない。林冲なら少しわかるんじゃないか?」

 

「う・・・そうだな」

 

林冲は過去のトラウマに酷く苛まれていた。今では大分マシにはなったがトラウマがなくなったわけではない。

 

苦しい、辛いから直そうとしても、目に見えないもの、手に触れられないものは直しようがない。

 

それを林冲は知っている。それが彼女にも起こるのではないかと考えると寒気がした。

 

「それでも士郎は伝えるのか?」

 

林冲は一瞬、言わない方が幸せなのではないかと考えた。

 

「いいや。どうやら25歳になったら九鬼が教えるらしい。25歳といえばもう学生ではない。何かを起こしても誰も助けてはくれない」

 

「それは・・・無責任が過ぎないか?」

 

「だろう?しかも今の彼女は文学少女と言われるほど大人しい。本物の人物が本来どんな人物だったのかは判断できないが、間違いなく武闘派だろう。もう既に真逆とも取れる性格になってしまっているんだ」

 

もちろん誰が元であってもここにいる本人は別人だと士郎は考えている。

 

だがDNAを使っている限り、性格が元の人物に全く引きずられないということはないのだ。

 

そういう意味で義経達は良い育て方をされたと言える。源義経公のコピーではなく、同姓同名の別人としてきちんと今の人格が形成されている。

 

しかし彼女の場合はどうだ?本来の性格に封印をかけて本来必要な刺激を与えず、強制的に別な人格の様に形成してしまったのだから。

 

「多重人格になるか、片方の人格が消えてしまうのか・・・それとも一つの体に同居か融合という奇跡のようなことが起きるのか・・・どうなるかはわからない」

 

だが、と士郎は続けた。

 

「恐らく暗示が解けた時、彼女は大なり小なり暴れる。いや、言い方が悪いな、溜まりに溜まったうっぷんを晴らすだろう。19年分のな」

 

「・・・。」

 

なんて酷い仕打ちだろうと林冲は思った。自分たちの都合で生み出しておきながら、都合が悪いからと暗示まで使って封印された人格はどんな想いで外に出てくるのだろうか。

 

「その為の、戦力を下に集めたんだな」

 

「そういうことだ。何も起きなければそれでよし。何か起きても下には仲間達が待ち構えてくれている。ここには林冲もいてくれるしな」

 

そう言って士郎は林冲の頭を優しくなぜた。

 

「うん・・・どんなことが起きても私は士郎を守る」

 

「自分をないがしろにするのは無しだからな?それは・・・壊れたガラクタがやることだ」

 

そう士郎は寂しそうに言った。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、葉桜清楚が屋上に姿を現した。

 

「衛宮君いる?」

 

「いますよ。色々お待たせしました」

 

「ううんいいの。頼んだのは私だし・・・えっと林冲さん、だったかな?彼女も同席するの?」

 

「いや、私は離れています。私は士郎が守れればそれでいい」

 

「・・・。」

 

林冲の言葉に少しむっとした清楚だが、今はとにかく自分のルーツを知りたかった。

 

「すみません。彼女は・・・その、ちょっと過保護で。気に障ったのなら自分が謝ります」

 

「だ、大丈夫!その、林冲さんとは恋人なの?」

 

小声で士郎に問うが当の本人はというと、

 

「こ、恋人!?いやいや、彼女とはある事件の折に互いを守るという約束をしただけで・・・恋人じゃないですよ」

 

と、慌てて否定したのだが、

 

「ふーん・・・(それってもう告白じゃないのかなぁ)」

 

唇を尖らせてジロジロと士郎をみる清楚。

 

「そ、それより今日は約束の日ですから。俺の回答をお伝えします」

 

「そうだね。それじゃあ教えてもらおうかな?紫式部かな?清少納言かな?本好きな英雄さんって誰がいたかなぁ・・・」

 

「・・・。」

 

清楚の言葉に士郎は胸を強く握り締められる思いだった。

 

彼女の想像は完全に本が好き(・・・・)ということしか考慮されていない。

 

「葉桜先輩のルーツ。それは――――」

 

だが伝えねばならない。一部の人間が捻じ曲げてしまった彼女の歪みはここで正しておかなければならない。

 

でないと将来彼女は酷く苦労をし、いらぬ苦痛を感じるだろうから。

 

「中国最強の武将。西楚の覇王、項羽(・・)です」

 

「・・・え?」

 

士郎の言葉に彼女は固まった。

 

「き、聞き間違いかな?今項羽って・・・」

 

「事実です。説明しますね」

 

そう言って士郎は忍足あずみに渡したのと同じ物を書いて渡した。

 

「・・・そっか。そうなんだね。ここまで回答が出てるんだね・・・」

 

それを、何処か悲しそうに清楚は見て言った。

 

「何度も言いますが、だからと言って葉桜先輩が別の誰かになる訳じゃありません。項羽は立派な戦術家。つまり知識をよく頭に入れていたということですから、葉桜先輩が本好きなのも不思議ではないです」

 

「義経ちゃんとトレーニングしてたから最近まで気づかなかったんだけど、すごい腕力とかはここから来てるんだろうね」

 

そう言って清楚は自分の手を見下ろした。

 

「予想外、だなぁ・・・自分が項羽のクローンなんて信じられない・・・けど、なんでかな。納得できちゃう」

 

予想外なのだが、言われてストンと心に落ちたのだ。違和感などまったくない。驚くほどに葉桜清楚は項羽のクローンということを認めてしまった。

 

「なんでマープル・・・私達の生みの親なんだけど、その人は私にこれを言わなかったんだろう?」

 

「・・・その理由は俺にもわかりません。ただ一つ言えるのは以前にも言った通り、葉桜清楚は葉桜清楚。過去の英雄はこの世には存在しないんです」

 

そう言って士郎は俯いた。

 

「すみません。辛いですか?」

 

「あ、ううん。違うの。びっくりしてるだけだから・・・ただ、ちょっと・・・裏切られたなぁって思う・・・んだ」

 

それはそうだろう。武士道プランの他の三人には正体を教え、自分だけ教えない。

 

それは間違いなく九鬼にとって都合が悪いからだ。項羽がどういう人物かは分からないが、葉桜清楚ではなく項羽だと不都合が生じるから黙っていたのだ。

 

「ごめんね。私が頼んだのにちょっと怖くなっちゃって・・・」

 

「いえ、当然だと思います。俺は逆にそのマープルなる人物に殺意すら覚えますから。自分の勝手で生み出しておきながら御せないからと蓋をした。25歳になったら教えるとのことですが、25年の月日になんの意味があるんです?25歳になったら項羽になれと?そんなものはマープルという人物に都合のいいだけの話だ」

 

「うん・・・そうだよね」

 

「25歳となればもう学生じゃない。失敗してもいい時代を飛び超えてしまう。そんな所にいきなり先輩を放り出すのが俺には理解できません」

 

だから、と士郎は続けた。

 

「葉桜先輩は意地でも葉桜先輩で居続けてください。有象無象が何といおうとも、貴女は貴女だ」

 

「ありがとう・・・もう、なんでかな、君の前だとすごく涙もろくなっちゃうよ」

 

そう言って清楚は士郎の胸にこつんと頭を当てて服を握り締めた。

 

「馬鹿・・・!マープルの馬鹿!信じられない!!!」

 

ドン、ドン、と士郎の胸が叩かれる。すごい衝撃だが、士郎は微動だにしなかった。

 

「辛かったですよね。不安でしたよね。もう大丈夫ですよ・・・答えは貴女の中にある」

 

「うん・・・!ありがとう・・・!」

 

ポタポタと雫が流れる。それを見て、確かいつかの夜も同じことがあったなと空を見上げた。

 

 

 

 

「もういいのか?」

 

「う、うん!ごめんなさい、衛宮君ずっと借りちゃって・・・」

 

「・・・士郎は私の物じゃないから、その言い方は正しくない。でも貴女の心が安らいだのならよかった」

 

「士郎・・・衛宮君の名前、だよね?」

 

唐突な言葉に士郎は戸惑った。

 

「え?ええ。俺の名前は確かに衛宮士郎ですが・・・」

 

なにか変な所が?と首を傾げている士郎だが、そんな当人は放っておいて、

 

「じゃあこれからもよろしくね!士郎(・・)君!」

 

「はい・・・?」

 

士郎は自分の名前を呼ばれてなんでだろうと首を傾げる。

 

「・・・。」

 

しかし林冲はその意味を正しく理解していた。彼女はライバル(恋敵)に名乗りを上げたのだ。

 

(どうして士郎はこう女を誑かすんだ)

 

ムスっとした顔の林冲である。

 

「・・・間違っても虞美人にならないようにな」

 

「・・・?虞美人は女の人だろう?」

 

なんの関係が?と士郎はさらに首を傾げる。

 

「ふふっ!モモちゃんが必死なのもわかる気がする。・・・負けないからね?」

 

「!当然です。正直こう、士郎の背中に槍を刺したいですけど」

 

「なんでさ!?」

 

思わず口癖が出る士郎。今の林冲は割と真剣だった。

 

「でも項羽に虞美人かー・・・有名なのはあれだよね、虞よ――――」

 

その言葉を耳にした時、二人はなにかよくないものを感じた。

 

(なんだ、これ!?)

 

(まずい!まさか暗示のキーワードは・・・!)

 

「力は山を抜き・・・気は世を覆う―――」

 

呆然と彼女は垓下の歌を歌う。

 

「虞や虞や若を・・・奈何せん・・・奈何せん・・・」

 

その言葉を機に葉桜清楚から爆発的な気が膨れ上がった。

 

「ぐっ・・・!」

 

「士郎!」

 

一番近くにいた士郎がフェンスに叩きつけられた。

 

「大丈夫だ!それより葉桜先輩は――――」

 

未だ膨大な気を放出している彼女をなんとか視界に捉えようとする。

 

「んは!やっとだ、やっと外に出られたぞ!!感謝するぞ士郎!お前のおかげでようやく俺は外に出られた!」

 

獰猛な喋り方とこの覇気。間違いない。先ほどの『垓下の歌』が彼女の中の項羽を開放するキーワードだったのだ。

 

(これはいささかまずいな。こうまで口調や性格が変わるとなると多重人格になった可能性もある・・・!)

 

「ああ・・・外の空気はいいな。こうでなくてはな!体が軽いぞ!」

 

「葉桜先輩?」

 

「俺の事は覇王と呼べ。この覇王がなんでも答えてやるぞ。お前は俺を解き放ってくれた存在だからな!」

 

と豪語不遜に言うその姿はまるで英雄王を思い起こさせる。

 

「いえ、どういう状況なのかと気になりまして。いきなり気を爆発させるので何事かと」

 

槍を構えようとする林冲を左手で制し、状況確認をする。

 

「ずっと奥でつまらん勉強やら読書をさせられていたのでな!これは外に出れたいわば喜びの象徴よ!許せ!」

 

なんとか話はできるようだが、これは士郎の悪い予感が当たりそうだ。

 

(やはり無理やり押し込めて学習させていたのか・・・さっきまでの記憶があるということは多重人格ではないようだが――――)

 

「お?下に闘気が集まっているな。俺への挑戦者か?」

 

そう言ってドン!と地を蹴り、葉桜清楚は直接地上に降りてしまった。

 

「チッ・・・!林冲、こっちに来い!」

 

「え?わ、きゃ!?」

 

士郎は林冲を抱えてフェンスを飛び降りる。

 

「ちょ、士郎!」

 

「黙ってろ!舌を噛むぞ!」

 

――――同調、開始(トレース・オン)

 

強化を施して着地の衝撃に備える。

 

「みんな!」

 

降り立って見れば既に一子と由紀江、クリスと京は地に伏し、

 

「はぁッ!!」

 

「んはッ!!」

 

ドン、ガンと百代が張り合っている。

 

「レオニダス!!」

 

「問題ありません!皆軽傷です!ですがどうも彼女は暴走状態にあるようですね・・・!」

 

レオニダスが槍と盾を召喚する。

 

「強いな・・・!清楚ちゃん!!」

 

「チッ、折角気持ちよく解放されたというのに・・・だが面白い!何処まで耐えられるのか俺に見せてみろ!」

 

そう言って尚も百代と拳を打ち合う清楚。だが、どうやら覇王の方が一手上回ったらしく、

 

ドガン!

 

「ぐはっ!?」

 

カウンターを受けて百代が遥か彼方に飛ばされた。

 

(百代を彼方に吹き飛ばすか・・・これはいよいよただ事ではなくなったぞ)

 

無手のまま士郎は清楚・・・覇王の前に立った。

 

「なんだ士郎。お前も俺に盾突くか?」

 

「・・・それは場合によるだろうな。まずは君に聞きたいことが――――」

 

「俺はお前に覇王と呼べと言ったぞ?」

 

豪!と鋭いパンチが士郎に見舞われる。

 

「チッ・・・」

 

舌打ちして投影した黒剣、干将で受け流す。

 

「お前今どこから――――」

 

(手加減ありきだったのだろうがこの威力か――――シャレにならんな)

 

すでに士郎は戦闘態勢だった。間違いなくこれは彼が想定していた最悪の事態だ。

 

「清楚としての人格は残っているのかね?」

 

「は?何を言うか。清楚は俺、項羽は清楚。長いこと心の片隅に封じられてきたが、ようやく混じり合った!」

 

さらに鋭い一撃が迫る。それを再度干将で迎え撃つが――――

 

バキン!

 

「!」

 

「干将を砕いた!?士郎!!」

 

「いけません、林冲殿!」

 

槍を持って突撃する林冲だが、覇王となった清楚にあっさりと技をいなされ、

 

「貴様も飛んでいけッ!!」

 

と一瞬で懐に入って彼女に殴りかかる。

 

「くっ!」

 

林冲は咄嗟の判断で後ろに跳んだ。

 

「俺の一撃を躱すとはやるじゃないか!だが―――!」

 

ズン!ともう一度彼女の体が沈み込む。

 

「俺の前には「君の相手は私のはずだが?」!?」

 

飛び込んでくる黒剣に覇王はそれを弾くことで前進をキャンセルした。

 

「士郎・・・貴様、やはり俺に盾突くか」

 

「だから場合によると言っているだろう。君の目的はなんだ?なにかやりたいことがあるのだろう?」

 

とにかく彼女の目的を知らなければどうにもならない。九鬼への復讐だの誰かを手にかけるだのとなると士郎も退くことはできない。

 

「簡単なことよ!天下を取るのだ!」

 

「・・・は?」

 

覇王の言葉に士郎は思わず干将を取り落としそうになった。

 

「ま、まて、天下を取るとは?世界征服でもしたいのかね?」

 

頭が痛そうに言う士郎に覇王は高笑いを上げて言った。

 

「んは!その通りよ!まずは日本の各機関に全面降伏を迫り、後にホワイトハウスか?」

 

「・・・。」

 

どうやら本気で言っているらしい。正直頭の具合を疑いたくなるのだが・・・

 

「世界征服!?それは不死川がやることぞ!そんなことは此方が許さんのじゃ!」

 

その理由もどうなのかと思った矢先に心は素早く覇王の懐に入り、

 

「!?投げられない・・・!?」

 

背負い投げのフォームに入っていたがピクリとも覇王は動かなかった。

 

「なんだまだ虫がいたか。ふッ!!!」

 

「にょ、にょわあああ!?」

 

無理やり心を片腕で持ち上げ投げ飛ばした。

 

「前に出るなと言われなかったか!」

 

それを士郎が空中に飛び上がって受け止めた。だが、勢いを殺しきれずベキベキと木々をへし折って突っ込む。

 

「た、助かったのじゃ・・・」

 

そう言う彼女だが、ベチャリとしたものに気づく。

 

「え?赤い・・・血!?」

 

それはどす黒い血だ。独特の粘着性のあるそれに心の頭は真っ白になった。

 

「あの馬鹿力め・・・よくもまあこれほどの力を秘めていたものだ」

 

そう言って立ち上がろうとする士郎の右足に折れた枝が突き刺さっていた。

 

「え、衛宮!血・・・血が!!」

 

「問題ない・・・と言いたいところだが足をやられるのは少々困るな」

 

折れた枝を投影した干将で短くカットし、赤い聖骸布を投影してきつく縛り上げる。

 

血はその程度では止まらないが、今ここで引き抜くよりはマシだ。今ここで枝を抜けば途端に大量出血してしまう。

 

「すまないな。綺麗な着物を汚してしまった」

 

「そんなことはどうでもいいのじゃ!!早く病院に――――」

 

心が慌てて言うが士郎は今すぐこの場を退くつもりはない。

 

『聞こえるか清楚・・・いや、項羽』

 

と、しわがれた老婆の声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「その声はマープルか!貴様、よくもこの俺を封印してくれたなッ!!」

 

さらに覇王の覇気が膨れ上がる。

 

「スピーカーから知らない人の声?」

 

「九鬼の関係者のようだな」

 

どうやら九鬼の関係者、それもこの声の主が先ほど言っていたマープルらしい。

 

『目覚めちまったようだね、一度帰っておいで』

 

「帰る?ふざけるな!もはや貴様らの所になぞ帰るか!見ていろ、今日中に日本を落とす!」

 

『馬鹿なこと言ってんじゃないよ。いいから帰ってきな!』

 

「俺を馬鹿と言ったか?貴様本当に許さんぞ。帰ってこいと言ったな?いいだろう。帰ってやる。ただし貴様の首を千切り取ってやるがなッ!!!」

 

それまでどこか愉快気に言っていた覇王の声が冷たくなった。

 

(まずいぞ、これは本当にやりかねん・・・!)

 

子供の駄々も、力ある者がやれば大惨事だ。このままでは間違いなく彼女はマープルなる人物の首を取りに行くだろう。

 

『こりゃ話が通じそうにないね・・・鼻っ柱を折る必要もありそうだ』

 

それは貴様もだ、と士郎は言いたかったが相手はスピーカーから喋っているので届きはしまい。

 

『川神学園の皆、聞きな!3年S組の葉桜清楚が暴走した!彼女を取り押さえた者にはあたしの私財から褒美は思いのままだ!あたしゃ九鬼の序列部隊2位マープルさね!』

 

(この後に及んで学生をけしかけるか!いい加減私の堪忍袋も緒が切れる・・・!)

 

相手は百代と打ち合い、尚且つ隙をついたカウンターで吹き飛ばす存在だ。

 

その彼女を他の学生が取り押さえられるわけがない。物理的に全学生が覆いかぶさっても尚吹き飛ばされるだろう。

 

「すまないが、肩を貸してもらえるかな?」

 

「え?ええ!?そんな怪我で行く気なのか!?」

 

「ああ。こうなればもはや手段は選んでられん」

 

ゆっくりと歩き始める士郎を心が支える。その足からはポタポタと血が流れる。

 

「チッ、マープルめ。この覇王に賞金をかけるなど・・・まぁいい。肩慣らしに丁度いいわ」

 

ゴキゴキと指を鳴らし、

 

「戦士達よ、俺に挑め。武にて語ろうぞ!」

 

「いいや。誰も挑まんよ。これから行うのはちょっとしたゲームだ」

 

片足を引きずって現れた士郎に覇王が一瞬硬直した。

 

「・・・ッ!ほう、ゲームか。どのようなゲームだ?お前が言うなら乗ってやってもいいぞ?」

 

「簡単なゲームだよ。君が逃げる。私が君を捕らえる。それだけだ」

 

それまで心の肩を借りていた士郎は両足で一人で立った。

 

「し、士郎!」

 

脚に巻かれた赤い布とそこから流れる少なくない血に林冲は顔を青くする。

 

「だめだ士郎!そのまま動いたら――――」

 

止める林冲だが、彼は聞く耳を持たない。

 

「なるほど鬼ごっこか。いいだろう、遊びに興じてやる。だが俺は速いぞ?スイ!」

 

ドン!という音を立てて巨大な何かが降ってくる。

 

「巨大なバイク・・・?」

 

「・・・なるほど。現代の馬というわけか。構わん存分に駆けるがいい。ただし私も一切の容赦はしない」

 

「し、士郎・・・」

 

「あの傷でどうやって追いかけるというんだ!?」

 

「士郎先輩!無理しないでください!」

 

「士郎やめとけ!」

 

「それ以上はダメだよ!」

 

仲間達は心配してくれる。だが彼にも退けぬ理由がある。

 

「では私は鬼なので、そうだな。あそこからスタートするとしようか」

 

そう言って指さしたのはこの辺で一番高いビルの上だった。

 

「お前、馬鹿にしているのか?この俺をあそこから追跡できると?」

 

「なにも馬鹿になどしていないさ。私は一足先に行かせてもらうよ・・・不死川、助かった」

 

そう言って士郎はヒュッと消えた。

 

「き、消えたのじゃ!?」

 

「高速移動しただけだよ。しっかし、また大怪我して・・・」

 

「まったくです。どうにも彼は運が悪い」

 

現れたのは飛ばされた百代と放送を聞いたマルギッテだ。

 

「なぜ彼はあんな怪我を?」

 

「・・・。」

 

自分を庇ってとは言えない雰囲気を出すマルギッテに心は思わず口を閉じてしまった。

 

「マルギッテさんそれじゃ言いたくても言えないだろう?それに士郎の事だ、いつも通り誰かを庇ったんだろ?」

 

と百代は着物に血が付いた不死川心を見る。

 

「此方のせいじゃ・・・前に出るなと言われたのに技をかけに行って投げ飛ばされたのじゃ・・・」

 

今度こそ彼女は素直に白状した。そして着物に付いた血の跡をぎゅっと握る。

 

「あれは間違いなく重傷じゃ!武神!早く衛宮を病院に!」

 

「そうしたいのは山々なんだけどな――――」

 

そう言って百代は士郎の指さした方を見る。

 

「やばいぞ。士郎の奴本気だ」

 

百代に冷たい汗が流れる。

 

「ええ。この気配は以前にも感じたことがあります・・・!」

 

マルギッテもよく似た、しかし違う気配を感じて額に汗を浮かべる。

 

「士郎は!?士郎は何処に行ったんだ!?」

 

林冲が慌てて駆け寄ってくる。

 

「じゃあみんなで行こうか。まゆまゆも行くんだろ?」

 

「はい!士郎先輩を放っておけませんから!!」

 

ということで百代はマルギッテと林冲と由紀江を含んで最近多用するワープを発動する。

 

――――interlude――――

 

(葉桜は出て行ったか・・・)

 

あずみは英雄のそばで護衛しながら状況を見ていた。

 

それというのも、従者部隊を動かそうとした所でマープルから学園の外に出るまで動くなと言われたからだ。

 

「一緒に英雄様を護衛してくれて助かりました」

 

一緒に警戒に当たっていた義経、弁慶、与一に言うあずみ。

 

「むしろ戦いに参加したかったろう。すまんな」

 

英雄の言葉に弁慶は複雑な表情をした。

 

「・・・うーん相手が相手だから複雑」

 

「項羽とか言ってたな葉桜先輩」

 

与一の言葉に弁慶は、

 

「一人だけ源氏とかけ離れてる正体だったね・・・」

 

「いきなり覚醒してしまって、この先、先輩は大丈夫なんだろうか」

 

義経は不安そうに言う。そんな時だった。

 

「お前たちまだこんな所にいたのか。急いで衛宮士郎の下に向かえ」

 

「ヒューム!?なぜここに、紋は?」

 

「九鬼のシェルターにお連れしました。お前たち急げ。この世では見れぬ奇跡を見逃すこととなるぞ」

 

「この世で見れない・・・?」

 

「奇跡?」

 

義経と弁慶は顔を見合わせる。

 

「もう学園の外に出ている。あずみ、ヘリを待機させていただろう。それに乗せていけ」

 

「しかし「構わぬあずみ」英雄様?」

 

英雄は愉快そうな顔をして言った。

 

「むしろ我も行こう!衛宮の本気はもう一度目にしてみたかったのだ!」

 

「では皆様こちらへどうぞ」

 

九鬼のヘリが学園のグラウンドに降りる。目指すは逃走する覇王ではなく衛宮士郎の元だ。

 

 

――――interlude out――――

 

「この速度!気分爽快だ!!」

 

「清楚とこうして駆ける・・・気分が高揚しますね」

 

巨大な爆速マシンとなったスイスイ号も気分が良いようだった

 

「うむ!・・・しかし、士郎の奴追ってこんな」

 

もう大分離れてしまった。しかもこの速度で走る自分達を追いかけることなど不可能だろう。

 

(士郎め、何を考えている・・・?)

 

どうやってあの場所から狙うというのか。確かに見晴らしは一番いいだろうがあそこからでは到底――――

 

そう思っていた矢先だった。清楚――――覇王に恐怖が降りかかったのは。

 

 

 

 

 

 

百代達が士郎の場所に転移してきた時、一瞬にしてその異常事態に気付いた。

 

ガギリリ――――

 

その眼は鋭い鷹の如く。手に握られるのは黒い洋弓。番えられるは禍々しい形をした黒い鉄の矢。

 

赤雷をまき散らしながら今か今かと牙を剥く瞬間を待っている。

 

以前、総理官邸前の防衛線でも感じた本能が全力で警鐘を鳴らす感覚。後ずさりするどころか絶対的な死を前に硬直してしまう。

 

「し、士郎先輩・・・それは、なんですか・・・?」

 

ゴクリと唾を嚥下したのは誰だったか。由紀江だけか、この場にいる全員か。いや、この光景を見ている全員(・・)か。

 

「随分と観客が多いな。私のこれは見世物ではないのだがね」

 

番えてから約30秒。士郎は背後に跳んできた百代達とヘリでこちらに近づこうとする義経達を見た。

 

「貴方の番えるその鉄の矢が『宝具』なのはいいとして、ここから見えるのですか?」

 

ゾワリゾワリと悪寒が止まらないそれを前にしてマルギッテは聞いた。

 

「十分だ。ここからなら彼女の顔すら見える。――――ああ、一つ謝っておこう。マルギッテ。この宝具の名前は君に少々縁のある名前だが許してほしい」

 

「この距離で顔まで・・・!?」

 

「私に縁がある・・・?」

 

この場所から葉桜清楚を百代達は見ることが叶わない。それもそのはず。彼女は猛スピードで爆走し、実に4キロは先にいるのだから。

 

――――装填から40秒。魔力は十分に満ちた。

 

「――――赤原を行け緋の猟犬」

 

これ以上ない程引き絞られた弓から遂に指が離れる。

 

「――――赤原猟犬(フルンディング)ッ!!!」

 

ズドン!!!と一瞬にして音の壁を引き裂いて赤き猟犬が放たれる。

 

「「「うわああ!?」」」

 

赤い流星となって飛んでいく。音の壁を易々と食いちぎったそれは一直線に、彼女の元へと向かう。

 

 

それに一番に気付いたのはやはり覇王だった。

 

「清楚。後方から正体不明の飛来物があります」

 

「迎撃だ!」

 

了解、とスイスイ号が言った途端、迎撃ミサイルが発射される。

 

だが、

 

「!?」

 

ドンドンドン!!と盛大な爆発が起きるが、爆炎を突き抜けてやはり黒い何かがこちらに向かってくる。

 

「あれは矢か!?小賢しい!スイ!呂布の武器を出せ!」

 

「はい、清楚」

 

出された方天画戟を手にし、さらに片手でハンドルを切る。ドリフト気味に自分と飛来するモノへ体を合わせ、

 

「はぁあ!!!」

 

渾身の一撃で音速で追いかけてくるそれをガキン!と弾く――――!

 

しかし、恐怖はそこからだった。

 

「な――――」

 

覇王は自分の目がおかしくなったのかと錯覚した。なぜなら――――

 

「や、矢が――――!」

 

「弾かれたのに・・・!」

 

「もう一度標的を狙ってる・・・!?」

 

ヘリで上空から見ていた義経達も己の目を疑った。ここまで音が聞こえるほどの轟音を立てて矢は確かに弾かれたのだ。

 

しかしその矢がすぐに標的――――葉桜清楚に向かって飛来しているのだ。

 

「ぬあああぁぁ!!!」

 

ガイン!!ともう一度彼女は矢を弾き、来た道を逆走する。

 

それでも――――

 

「まだ追ってくるというのか!?」

 

一度放たれたこの猟犬は射手が狙い続ける限り標的を狙い続ける魔弾。

 

それも魔力をギッチリと込められたその猟犬は音など軽々と置き去りにした速度で標的を追いかける。

 

いくらスイスイ号が爆速で走ろうと音速は超えない。スポーツカー、レーシングカーであっても最大記録は447.4km/h。

 

仮にスイスイ号が全開で500km/h出たとしてもこの猟犬から逃げおおせることはできない。

 

「このッ!!!」

 

もう一度覇王は矢を弾く。だがそれも結局無意味。この猟犬に狙われたが最後、標的に食らいつくまで終わらない。

 

なにせこの猟犬の速度は4キロの距離を2秒弱で0にする。速度にして約マッハ6。

 

イギリスと著名国が共同開発した『コンコルド』という超音速旅客機があるがそれでも2,179km/h。

 

偵察機SR-71、通称ブラックバードでも3,951km/h。マッハ3が精一杯なのだ。

 

その倍のスピードという、もはや次元の違うスピードで、さらに何度弾かれようとも射手が健在である限り狙われ続けるなど悪夢でしかない。

 

(士郎め!初めからこれが狙いだったのか!!!)

 

今になってようやく覇王は衛宮士郎の狙いを看破する。

 

これは鬼ごっこにして鬼ごっこにあらず。逃走者が自ら鬼を退治しに行かなければならない鬼退治(・・・)だ。

 

「おのれぇッ!!!」

 

もう何度目になるか分からない矢を弾く。

 

しかし、バギリと方天画戟が砕け散った。

 

「スイ!追加だ!」

 

「はい清楚。ですがもう燃料がありません。タイヤの損耗率70%を突破しました」

 

「は――――」

 

その言葉に愕然とする覇王。

 

それも当然である。常にフルスロットル。それでも尚一瞬で追いつかれるのだ。

 

おまけに激しいドリフトもタイヤに負荷をかけすぎている。レーシングカー並に表面はドロドロだろう。

 

勝負の行方は近い。猟犬は未だ衰えず、覇王はもう息が続かない。

 

「くっ・・・!!!スイ!学園に戻るぞ!!!」

 

「それがベストかと思います」

 

もう一度矢を弾く。だが一向に矢は彼女を狙い続けている。

 

お手上げだ。この勝負は衛宮士郎の勝ち。これ以上どうあがいても彼女はあの矢からは逃げられない。

 

燃料もない。タイヤも限界。武器も限界。清楚自身もいつまで経っても追ってくる矢に恐怖を感じていた。

 

おまけにあの矢は覇王の全力で弾かなければならない。渾身の一撃を何度も繰り返せば如何に覇王とて消耗する。

 

「葉桜先輩!?」

 

「葉桜くん!」

 

キキキ!!!とスイスイ号が学園に戻ってくる。矢は依然自分を追ってきている。もはや最後になるだろう渾身の一撃で弾こうとして、

 

 

――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「な――――」

 

燃料切れで動かなくなってしまったスイスイ号に突き刺さった瞬間、とんでもない爆発を起こした。

 

「ぐあああああ!!?」

 

「にょ、にょわあああ!?」

 

「うわああ!?」

 

「くっ・・・!」

 

その威力は凄まじく、グラウンドがクレーター状に抉れ、校舎のガラスがいくつか割れる。

 

辛うじて建物の陰に下がっていた大和達は無事だが、爆発をもろに受けた覇王はともすれば体をバラバラにされそうな衝撃に気を失ってクレーターに倒れた。

 

――――結局彼女の覚醒と暴走は。放たれた恐ろしい猟犬によって追い立てられることで終局を迎えた。

 




葉桜先輩覚醒と赤原猟犬の回でした。カッコよく書けたかな・・・サウンドノベルと違って文字だけで疾走感とか恐怖感出すの難しいですね。

コンコルドとブラックバードは調べたら簡単に出てきました。ホロウでエミヤが放った時4kmを2秒で0にしたっていうのは覚えてて、頭の悪い私はそれが実際どのくらいなのかと調べたらなんと約マッハ6。6,000km/hってことでいいのかな?如何にやべぇものなのかわかります…しかもです。

あれ爆発するんですよ。今回士郎はガチでスイスイ号を狙ったのですがあの後ろにでっけぇブースターが3つ付いたバイクでもどう頑張ってもマッハ1も出んだろうということで葉桜先輩は必死に弾きまくってたわけですね。

学園ちょっとぶっ壊したのはマープルへの嫌がらせです(笑)責任は全部九鬼に取らせるもんね!本編だと都合のいいデモンストレーションにしようとしていたのも実は私すごい頭に来ていたので(笑)

長くなりましたが楽しんでもらえたら幸いです。次回もよろしくお願いします
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