真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。調べものをして意外な事実に驚く毎日の作者でございます。

前回は覇王様覚醒とやんちゃの懲らしめ回ということで鬼(赤原猟犬)ごっこをしましたが意外と皆さん赤原猟犬の速度に驚いていらっしゃるようですが、実は私もです。

調べた時マッハ6という単語が出てきてはぁ!?となりました。コンコルドくらいかな…とか思って調べてみたらコンコルドなんか目じゃねぇ速度だったわけでして…宝具って怖いね。

今回は多分意外な日常…になるかな?では。


清楚と覇王

――――interlude――――

 

葉桜清楚の覚醒と、衛宮士郎による恐怖の鬼ごっこにより、あっさりと物事が収まったわけだが、九鬼では異常事態が起きていた。

 

「いや、参ったねぇ。衛宮ボーイの宝具?で灸を据えられたと思ったらまさか家出とは・・・」

 

そう言うのは九鬼家従者部隊序列2位マープル。彼女が武士道プランを提唱しプロジェクトを進めていたわけだが。

 

葉桜清楚は本来25歳までに知識をインプットさせ、それが終わった時点で項羽を解放という目論見は、綺麗に叩き折られてしまった。

 

しかも、

 

『手に負えぬからと人格に封印?ふざけたことを抜かすなッ!人はそれまでの人生の中で様々な刺激を受けて人格を形成するのだ。それを無理やり押し込めて知識をインプットさせる?道徳的にやっていいことではないわッ!!!』

 

と九鬼揚羽が一喝。九鬼英雄も、九鬼紋白も同意見ということで、マープルは今回の件で常に監視が付くことになり、武士道プランから降ろされた。序列も現在検討中である。

 

さらに、今回の被害の補償は全て彼女の私財から支払うこととなった。密かに拘束具を発注したり、学園生をけし掛けてデモンストレーションにしようとしたことなども問題視され、彼女は当分の間、武士道プラン以外の計画やプロジェクトの提唱、参加も禁止となった。

 

事実上犯罪者扱いだが、それでも一応は意見を聞いてはもらえるので色々考えているわけだ。

 

「家出、と申しますかホームステイですね。彼の家を頼ったようです」

 

桐山鯉も周りの目を欺いて、マープルと組んで計画を手伝っていたこともあり、彼も監視対象、序列降格処分を受けている。

 

そんな彼だが一応優秀ではあるので事務処理に回され、外には出してもらえないし(住まいはそもそも九鬼ビル)外への何かしらの干渉も彼は禁じられた。

 

「まさかあんなことになるなんて思いもしなかったよ。ヒュームが認めていただけあるね」

 

そう言って彼女はまたモニターを付け、何度も衛宮士郎が矢を放つ瞬間と覇王が弾いた途端に矛先をすぐに彼女へ(正確にはスイスイ号が狙いだと後から分かった)反転する矢を見る。

 

赤雷をまき散らしながら音速で――――それも人類の最高速度を易々と食いちぎる速度で飛来する黒い鉄の矢にマープルは寒気を覚えた。

 

「この宝具って奴も大概だけど、衛宮ボーイも恐ろしい奴さね。肉眼で約4キロ先の詳細が見えるなんてどこの神様だい」

 

神の中には『千里眼』というものを持つ存在がいたとされるが、彼のそれはまさにそれに近い。

 

あくまで4キロ先の詳細が(・・・)見えるだけで、単純に人影や、そこに誰がいる、などの普通の人間が遠目に見ることまで見える基準を下げた場合、彼は4キロ以上先が見えることになる。

 

さらに。今回のあの射撃についてヒュームに迎撃は可能かと問うた所、即座に答えはNOと帰ってきた。

 

『あれは恐らく射手である衛宮士郎が狙い続ける限り止まらん。今回はバイクの方に突き立ったからよかったが、もしあれが人に狙いを定められていたら死は免れんだろう』

 

そうヒュームは言った。当時の映像を測定して、物理演算をして出た回答は速度にしてマッハ6。人類未踏の領域であり、しかもあれが巨大な爆発まで起こすとなれば、もはや矢ではなくホーミングミサイルである。

 

「それだけではありません。まさかあの項羽が怯えて自分から引っ込んでしまうとは」

 

「そうなんだよねぇ・・・とはいえ、あんなもんに追い立てられちゃ恐怖は相当なもんだろうけど」

 

豪語不遜に日本を落とすだの世界征服だの言っていた覇王の人格は、気絶から回復した時にはすっかりいつもの葉桜清楚に戻ってしまっていた。

 

彼女曰く、別にバラバラの人格になったわけではないそうだが、項羽としての部分があの出来事に強い恐怖――――トラウマを持ってしまって出てこなくなってしまったらしい。

 

「鼻っ柱を折る必要があるとは言ったがまさか粉々にしちまうとは・・・本当に油断ならない青年だよ」

 

一連の行動を起こした時、彼は右足に折れた木の枝が突き刺さるという重傷を負いながらやってのけたのだ。

 

学園に戻ってきて倒れた葉桜清楚を確保したと宣言し、今回の被害とこれから彼女が歩む道のりのバックアップをやれと命令されたマープルは渋々従うことにし、その後すぐに九鬼の病院に搬送された。

 

「前回の事があるのですぐに復帰するとは思いますが」

 

「だろうけどね。こっちにも意地ってもんがある。絶対安静だからギプスでガチガチに固めたそうだよ」

 

人間の足というのは筋肉はもちろん、重要な太い血管が複数通っているのである。場所によっては第二の心臓と言われる場所もあるくらいだ。

 

そんな所に小さくない枝がぶっ刺さるというのは命の危険がある。医療の知識なくその場で抜いたりしたら一気に出血してあっさり失血死だ。

 

だが彼はその場で最適な応急処置を行って戦闘を続行したわけだ。もちろん病院に着くころには血を失いすぎて真っ青だったらしいが。

 

しかも今回彼が運ばれた病院は以前ヒュームの時に治療を受けたのと同じ病院で担当医も同じ人物である。

 

彼は以前の衛宮士郎の回復力を知っているので今度こそ絶対に無理をさせないと気炎を燃やして治療に当たったらしい。

 

「だっていうのに次の日にはあっさり退院しちまって、担当医は自分の役目が分からなくなりそうだと言っていたようだよ」

 

もう治ったから外してくれと早々に告げた士郎に、まさかと医者は思ったが、以前と同じようにすっかり元通りと検査結果は出た。

 

が。

 

今回ばかりは例え見た目が戻っても最低でも一週間は固定すると断言されて衛宮士郎は困惑してしまったそうな。

 

「それに葉桜清楚はもう二度と九鬼には戻らないと出て行ってしまったからねぇ・・・」

 

士郎と同じ病院に搬送された葉桜清楚は目を覚ますなり九鬼の関係者にそう啖呵を切り、意識が戻れば問題なしとされていたため、最低限の荷物を纏めて早々に九鬼ビルから出て行ってしまった。

 

当然、ヒュームとクラウディオが止めに行ったが、どこを当てにしているのかと問うと、衛宮士郎の所と答えたため、見知らぬ所に行方をくらますよりよっぽど健全だろうと家出を許可してしまった。

 

「一応、九鬼の人間が定期的に彼の家を訪れて彼女を見張るようにしたそうですが、いい顔はされないでしょうね」

 

「まぁ衛宮ボーイの所ならあたしも別に良いと思うけどね。何かあっても御せるだろうし・・・なにより清楚が惚れた男だからねぇ・・・」

 

いっそ二人がくっついて二人の遺伝子を受け継いだ子供がどんな子になるのか楽しみに思ってしまうマープルだった。

 

 

――――interlude out――――

 

「林冲、葉桜・・・じゃなかった、清楚先輩、すみません」

 

葉桜清楚が大きな荷物を持って現れた時は何事かと思った士郎だが、それが家出だとわかり、返答に悩んだのがつい二日前。

 

九鬼に恩はあっても圧倒的に憎しみの方が強いだろうことが理解できてしまったので士郎はすぐに断れなかった。

 

その後、ヒューム爺さんが現れ、お前の所で面倒を見てほしいと言われ、結局それを受け入れた形だ。

 

「大丈夫だ。・・・怪我をしている時くらい頼ってほしい」

 

「そうだよ。私が原因でもあるし、鞄を持つくらい平気だよ」

 

今士郎は負傷した右脚をギプスでガチガチに固められているので松葉杖を突いて歩いている。

 

「もう治ってるんだけどなぁ・・・」

 

病院に行ったときは貧血になってしまっていたものの、怪我自体は既に回復(また毎日アヴァロン)したので外してほしかったのだが一週間は絶対に外さないと医者がブチギレた(なんでさ)ので外してもらえなかった。

 

「士郎の回復が宝具によるものなのは分かっているけど・・・私達からしたら心臓がもたない」

 

「そうだよ。その宝・・・具?っていうのもよくわからないけど私に向けて射った矢の回復系ってことでしょ?それでも私達には信じられないんだからお医者さんの言う通り大人しくしてね?」

 

本当なら入院な所を退院させてくれたことを喜ぶしかないらしい。

 

「まぁあと四日だからいいか・・・これじゃあ大したことできないな・・・」

 

とか言いながら普通に料理したり掃除したり(〇イックル〇イパー的な奴)しているのだが。

 

当然林冲や清楚に発見されると強制的に寝かされてしまうのである。

 

衛宮士郎がまた負傷ということで衛宮定食が停止して阿鼻叫喚になったそうだが。

 

「治ってるならなおさらいいと思うんだ。士郎君、働きすぎだよ」

 

「清楚の言う通りだ。士郎は目を離すとすぐに無茶をする」

 

そう言う二人に流石の士郎も、

 

「いや、今回のは運が悪かっただけだって・・・木々に突っ込んで大怪我とかほとんどあり得ない確率だろう・・・」

 

と言い返す。だが、良い子の皆は間違っても下に木があってクッションになってくれるから高い所から飛び降りても大丈夫とか考えないようにしよう。木は意外と刺さりやすく負傷しやすいのだ。

 

「おーい!」

 

と、ツクテンツクテンと松葉杖を使って歩いていると一子の声が聞こえた。

 

「一子?・・・なんで川から出てくるんだ?」

 

水着を着た一子がバシャりと川から上がってきた。

 

「もちろん鍛錬よー。それと外来種の確認のアルバイト!一石二鳥って奴ね!もう学校に行くの?」

 

「ああ。怪我したとはいっても日課は体に染みついているからな。一子もあんまり無理するなよ」

 

士郎はそう言ってラップで包んだ三つばかりの唐揚げを渡した。

 

「いいの!?」

 

「もちろんだ。試作なんだけど上手く出来てると思うぞ」

 

一子はその場で食べ始めた。

 

「ぐまぐま!ぐまぐま!あ、カレー味ね!しかも野菜が入ってるわ!」

 

モモ肉を一纏めにして揚げることで間に少量の野菜を組み込むことに成功した創作料理だ。

 

「結構いけるだろ?唐揚げっていうよりかき揚げみたいなもんだけど」

 

「士郎君また私達に黙ってそんなことを・・・」

 

「士郎に自重するという言葉はないのか?」

 

批判する二人。それに慌てて、

 

「ち、違うぞ!これは弁当のおかずだ!林冲の持ってる保冷バックに二人のも入ってるぞ!」

 

と、言い訳をするがそれは逆効果だ。

 

「そうじゃなくて・・・って私達のも!?」

 

「士郎、頼むから大人しくしてくれ・・・」

 

二人の分も準備したからとかいう問題ではなく、大人しくしてろということなのだが、この男さっぱり頭に入らないらしい。

 

「相変わらずねー。でも士郎の事だからもう治ってはいるんでしょ?」

 

「ああ。ちゃんと治療も受けたし、俺には秘密兵器があるからな。とっくに完治してるんだけど」

 

コンコンとガチガチに固められたギプスを叩いた。

 

「病院の先生が、こんな短期間で治るわけないだろう!しかし検査結果では治っているから退院はさせてやる!って怒られてさ。結局ギプスは外してもらえなかった」

 

「そりゃそうよー。士郎の秘密兵器がすごいのは分かるけど、それを言うのは出来ないんでしょ?いい機会だから士郎は少し休むべきよ」

 

一子にしては痛いところを突いてくるなと士郎は思って頭を抱えた。

 

そんな時に、

 

「上空から美少女登場!」

 

ビュン!と百代がいきなり跳んできた。

 

「士郎と林冲ちゃんが見えたんでな、大ジャンプして来てやったぞ!」

 

「・・・俺の秘密兵器より百代の方が大概非常識だと思うんだけど」

 

「なんてこと言うんだ!そういうこという奴には、っとと」

 

また引っ付き虫になろうとしたのだろうが松葉杖と白いギプスを見て百代はやめた。ワンテンポ遅れて林冲が士郎の前に立つ。

 

「武神。今は・・・」

 

「わかってるわかってる。怪我・・・じゃなかった、ギプスが取れるまで抱き着くのはやめる」

 

「そういう問題じゃない・・・百代、魔眼で傷の状態解析できるだろう?」

 

「ん-」

 

フオン、と百代の左目に剣の模様が現れる。

 

「うん。完全に完治してるな。やっぱこれ便利だなー。でもあの矢はダメだ。超怖い。どういうものかわかるから尚更怖い」

 

あの時百代は本能的にあの矢の詳細を知らないとまずいと思ったらしく、封印を解いて解析したらしい。

 

情報をすんなり得られたものの、衛宮士郎をルーツとするあの解析の魔眼は、当然彼の無意識化で行う解析と同じように構成材質や創り手の感情どころか担い手の経験やそれによって行われた技や技術まで見えてしまう。

 

それは伝説を覗き見るのに等しい。あの場であの矢を見て一番恐怖したのは実際に襲われた葉桜清楚だが、二番目に恐れを抱いたのは百代だろう。

 

あれは防げない。何度となく襲い来るあれを弾きながら射手である衛宮士郎を打ち倒さねばあの強襲は止まらない。

 

仮に彼に辿り着けるとしても、弾こうとしたその瞬間に爆発させられたら消し炭にされる。

 

それがありありと分かってしまった百代は心臓が握りつぶされるほどの緊張に襲われたのだった。

 

「よくできました。でも秘密は守ってくれよ?あれも俺の重要な切り札なんだから」

 

「わかってるさ。士郎がなんで本気で戦わないのか分かった気がする。士郎は火力の調整があまり効かない」

 

それが衛宮士郎のある意味での限界なのだ。ある程度の強さなら手加減出来るのだが、ヒューム爺さんや百代、清楚レベルになると全開で宝具を使わないと勝つことが出来ない。

 

宝具を使うということは伝説の脅威を個人に向けることに他ならない。Cランクの干将・莫耶程度ならまだ普通の武装として使えるだろうが、モノによってはどう足掻いたって個人に向けるには火力が高すぎるモノが山ほどある。

 

必要以上の――――いや、必要であってもなるべく殺生をしたくない士郎からすれば実に戦いづらいのだ。

 

とはいえ、

 

(あまりに調子に乗った連中を見ると殺意が湧くのは事実なんだが)

 

それは士郎が正義の味方としてそれはおかしい、それをするならば敵だと判断した時だ。

 

今回の九鬼――――マープルなる人物は清楚を我が物顔で操り、挙句の果てに学園生を危険に晒して覇王の名を上げさせようというデモンストレーションまで計画していたため士郎は強い嫌悪感と殺意を持ったのだった。

 

「んーやっぱり自分じゃ抑えられないな・・・士郎ー」

 

「はいはい」

 

甘えるように頭を差し出す百代に士郎は苦笑を浮かべて綺麗な黒髪に手を添える。

 

――――同調、開始(トレース・オン)

 

開放した魔眼を封じてやる。わざわざ爆弾的な物を解析する必要はないが、こうして小さなことから解放して封印を繰り返せば自然と制御を覚えるだろう。

 

「あの、士郎君はモモちゃんに何をしてるの?」

 

どこか拗ねた様子で清楚が言う。

 

「ああ、傍目には分からないよな・・・百代に宿ってしまった魔眼を封じてるんだ」

 

「ま、魔眼?」

 

なんとも物騒な単語が出てきて清楚は一瞬固まる。あの一連の事件から士郎の持つ特殊能力は恐怖の対象となってしまっている清楚である。

 

「魔眼と言っても物騒なものじゃないですよ。見た物を解析できる力を持った片目です。脅威は――――」

 

ない。と言いかけた士郎だが、

 

「うーん、清楚ちゃんのスリーサイズは82――――」

 

「ひゃあ!?」

 

ドゴス!

 

「痛い!?」

 

「だから魔眼をセクハラに使うな!封じてやらないぞ!!」

 

「ほ、本当に分かるんだ・・・でもやめてねモモちゃん・・・」

 

顔を赤くして清楚は無駄と分かっていながら胸元を両腕で隠した。

 

「いてー。いいじゃないかこれくらいー」

 

「プライベートを軽々しく侵害するな!」

 

ちぇーと唇を尖らせる百代。士郎の事が好きになってから女の子に執着しなくなったのはいいのだが、時たまこうしてセクハラをするのでなんとも油断できない。

 

「えっと、今の私の――――というか項羽としての事もわかるの?」

 

控え気味に清楚は言った。

 

「大丈夫ですよ。構造や概念は見ることが出来ますが精神までは見えません」

 

「武器なら担い手の気持ちとか見えるけどなー。清楚ちゃんが気にする精神的なものはその人物を見ても視えないよ」

 

という百代に安心したのか、

 

「はっは!ならば恐れるに足りずだな!あの時はあっさり終わってしまってつまらなかったのだ!今度は――――」

 

なんと鼻っ柱を折られたどころか粉々にされた覇王が出てきた。しかし。

 

「・・・やめたまえ。本気でやる気なら私も本気で(・・・・・)対応させてもらうことになるが」

 

ピキリと戦闘状態に切り替える士郎に、

 

「うわああ!?急になんだ!や、やめろー!」

 

ピュー!と覇王状態の清楚は一目散に学園に行ってしまった。

 

「流石士郎だな。覇王がああも簡単に逃げてしまうなんて」

 

「清楚ちゃん大丈夫か・・・?お前の事トラウマになってない?」

 

「それ私も気になってたのよぅ・・・えっと今の葉桜先輩って項羽?なの?それとも葉桜先輩のままなの?」

 

唐揚げを食べていた一子が気になっていたことを聞く。

 

「ん?清楚先輩は清楚先輩だぞ?なんていうか――――人格の変化が著しいが、戦闘時に私が口調を変えるのと同じようなものだよ」

 

と、わざと士郎は口調と雰囲気を切り替えた。

 

「ああ、それわかりやすい。つまり武闘派な状況の時は覇王になって」

 

「そうじゃないときは文学少女の状態なのね」

 

「そういうこと。別人格になったりしてるわけじゃない。その内きちんと整理されて違和感なく混ざるだろうさ。ただ・・・ちょっと躾が強力過ぎたみたいであんまり出てこないというかなんと言うか・・・」

 

文学少女状態の時は何故か自分に対してイケイケ状態なのだが、覇王状態の時は一目散に逃げてドアやふすまの隙間からコッソリ見てくるのだ。

 

「それは士郎が悪い」

 

「士郎が悪いと思う」

 

「士郎が悪いと思うわー・・・」

 

三人に否定されて士郎は思わずたじろいだ。

 

「しょ、しょうがないだろう?あれがベストだったんだから」

 

という言い訳も虚しくじっとりとした目で見られる士郎。

 

(林冲ちゃん、もしかしてまた敵増えた?)

 

(そういうことだ。本当に士郎は何がしたいんだか・・・)

 

はぁ、とため息を付く百代と林冲。そろそろこの男、どうにかしないとヤバイかもしれないと思う二人であった。

 

 

 

 

 

色々あったがとにかく学園に登校した二人。(百代と一子は朝の鍛錬&バイトの為一度帰った)

 

「それじゃあ荷物はここに置くから。それと・・・清楚先輩が持って行ってしまった昼食はどうしようか」

 

「どうせ一緒に取るからそのままでいいよ。暑いから保冷バッグの方が痛まないだろうし」

 

そう言って士郎は松葉杖を立て掛けてグイっと体を伸ばした。

 

「くぅう・・・松葉杖で歩くと猫背になりそうだ・・・」

 

松葉杖はどうしても突く先を見ないといけないので猫背っぽい態勢になりやすい。士郎としてはさっさと外してほしいところである。

 

(どうしようかな・・・自前で投影して切ってしまうか?)

 

ギプスを切る道具はギプスと足の間に挟んだ布を切ることが出来ないという特殊な道具だ。投影出来ないことはないがなんだか足を切りそうである。

 

「魔術で作って切ってしまうのはダメだぞ」

 

「なんでさ・・・」

 

先読みされてしまった士郎は思わず口癖を出してしまった。

 

そこに、

 

「衛宮!」

 

不死川心がやってきた。怪我を負った日から、彼女はとにかく懸命に自分の所に来る。

 

「おはよう、不死川。今日も早いな?」

 

「朝の勉強をしていたのじゃ。け、決してお前を待っていたんじゃないからな!!」

 

なんて言う心だが、トラブル防止の為に付いていたレオニダスが今はいないので彼女自身の気持ちでこの場に来てくれているのだ。

 

「わかってるよ。大丈夫だから安心してくれ」

 

「ふ、ふん!そんなことは登校してきた日に分かっているのじゃ!・・・でも、よかった・・・」

 

小さな声で安堵する彼女がなんだかいじらしくて、お団子ヘアーを崩さないように頭を撫でた。

 

「心配してくれてありがとうな。勉強はどうだ?S組に戻れそうか?」

 

「当然じゃ!次のテストでこんな所とはおさらば、じゃ・・・」

 

最後はなんだか名残惜しそうに言う彼女だった。

 

(何だかんだ言って彼女もいい体験ができたんだろうな)

 

文句を言いながらも彼女はF組に来たことを有意義な時間に出来ていた。

 

もちろん、レオニダスや士郎が世話を焼いたのもあるが、彼女自身が変わろうとしなければこうはいかなかっただろう。

 

実はF組の女子の中で友達が出来たらしく、とても驚かされたのは記憶に新しい。

 

「無理はしないようにな。不死川は優秀なんだから油断さえしなければすぐにS組に戻れる」

 

「・・・お前にだけは言われたくないのじゃ」

 

そう言って頭を撫でる手を大事そうに両手で包んだ。

 

「と、特別じゃ!え、衛宮には此方を心と呼ばせてやっても、いいのじゃ・・・」

 

何故か顔を赤くして言う彼女に首を傾げながら、

 

「そうか?じゃあ俺も士郎で構わない。俺苗字で呼ばれるのあんまり得意じゃないんだ」

 

衛宮、と呼ばれるとなんだか赤い背中を思い浮かべてしまって落ち着かないのだ。それと、遠坂が極上の笑みを浮かべるときとか。

 

切嗣(じいさん)には申し訳ないが、割と苗字呼びされる時は酷い目に遭うのである。

 

「い、いいじゃろう!し、士郎には此方と仲良くする権利をやるのじゃ」

 

そっぽ向いて彼女なりに必死に友達になってアピールをする心に士郎はつい笑みをこぼして、

 

「ああ、ありがとう」

 

と感謝の言葉を届けた。

 

ちなみにその光景を見届けていた林冲はというと。

 

(士郎・・・貴方は魅力的すぎる・・・)

 

またもやライバルが増えたことによる頭痛と、これこそが彼の魅力なのだろうと納得してしまう林冲であった。

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

士郎が心と心温まる会話をしている時、先に学校に到着した葉桜清楚はというと、

 

「・・・はっは」

 

脚を組んで実にだらしのない恰好で漫画を読んでいた。

 

(文学少女があんな格好で・・・)

 

(今日は外れかぁ・・・)

 

(次の当たりはいつだろう・・・)

 

とても本人には聞かせられないことをコソコソと言う3年S組の生徒。

 

つい三日ほど前の覇王覚醒と強制制圧から葉桜清楚は文学少女の状態で登校したり、覇王状態で登校したりと、なんともまちまちな状態であった。

 

本人としては好きな時に好きな状態でいるだけなのだが、周りは二重人格の様に捉えており、文学少女の状態の時を当たり、覇王状態の時を外れと非常に失礼な認識をしていた。

 

「・・・。」

 

しかし彼女にかかればそのような小声を聞き取ることは容易である。故に彼女は深く悩んでしまった。

 

(この姿も私なのにな・・・)

 

「葉桜君、今日の気分はどうかね?」

 

「京極!実にいいぞ?こうして好きな本も読めるし――――」

 

彼女を衛宮士郎と同じように彼女は彼女であると言う数少ない人物がこの京極彦一だ。

 

(表面上はとても良いように感じるが・・・これは大分参っているな)

 

人間観察を得意とする彼には今の彼女がとても無理をしていることが見て取れた。

 

「それは良かった。だが無理はしないでほしい。悩みがあれば聞くし助けが必要ならそうしよう」

 

「んっは!この覇王に助けなど――――」

 

いらぬ、とは続かなかった。

 

「京極。お前もやはり俺より葉桜清楚の方がいいか・・・?」

 

彼女は直球で聞いた。聞かれた彼は特に慌てた様子もなく、

 

「そのことなら今の君に特に思う所は無いように思う。君は葉桜清楚だろう?言わんとしていることは分かるが、君は君だ。今はただ覇王としての部分が強い。それだけだろう?」

 

葉桜清楚は葉桜清楚である。それが彼の答えだった。

 

「そうか。・・・んー、ちょっと体を動かしてくるとしよう!」

 

「朝のHRには遅れないようにな。何かと損をしてしまうぞ」

 

「わかっている!じゃあな!」

 

そう言って彼女は勢いよく外に出て行ってしまった。

 

「・・・さて、過干渉かもしれないが、勘違い(・・・)をしている輩には少しばかり考えを改めてもらうとするかな」

 

彼は珍しく剣呑な雰囲気を出してコソコソ話していた生徒の元へと向かう。

 

3年S組の生徒は2年生のような荒々しさはないのですぐに収まることだろう。今回は勘違いしている生徒がいたが、ほとんどの生徒は今の彼女を受け入れつつある。

 

そこに少しばかりの助勢があってもいいだろうと京極は思うのだった。

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

 

何だかんだと時間は過ぎ、お昼時。士郎は林冲と清楚の三人で――――

 

「し~ろう~ご飯欲しいにゃ?」

 

・・・乱入した百代(金欠)によって四人で食べることになった。

 

「いい加減そう来るのは分かってた。百代用に弁当は四人分――――」

 

「ん?一人分多いのは俺の為ではなかったのか?もう食べてしまったぞ」

 

「・・・。」

 

ガーン!と効果音が鳴りそうな感じで百代が士郎にしな垂れかかった。

 

「食べたって・・・私の分、食べちゃったって・・・清楚ちゃんマジ容赦ない・・・」

 

「ああ分かった!俺の分も分けてやるからとりあえずこれで好きな物頼んでこい!」

 

そう言って士郎は有り余る食券の一枚を渡した。

 

「ひゃっほう!席取っておけよー!」

 

シュン!と居なくなる百代に士郎は頭を抱えた。

 

「まったく・・・なんで百代は毎回金欠なんだ・・・一応ちゃんと返してはいるけども」

 

百代はよく金欠になり、仲間達にお金を借りては期日に間に合うように力仕事系で荒稼ぎして返し、返した分で稼いだ分がほとんど無くなり、また金欠になって借りるというおバカな循環になっていた。

 

「普段からアルバイトすればいいのに」

 

常日頃から傭兵として働いていた彼女からすればなんとも不思議に思えてならない。

 

「あれでも川神院の跡取り娘だからな・・・その辺もう少し学長も厳しくしてほしい所だな」

 

とはいうものの、あの翁は孫娘が可愛くて仕方がないのでそんなに厳しいことは余程のことが無い限り出来ないだろう。

 

「それにしても清楚先輩。駄目じゃないですか勝手に用意した弁当を食べるなんて」

 

「それはお前が悪いぞ士郎。こんなに美味しい弁当が余分にあったら食べてしまうだろう」

 

「いや、そもそも早弁するなってことなんですけど・・・」

 

どうにもこの覇王モードの時は聞き分けが悪いというかなんと言うか。

 

「今度はきちんと名前書いておくか・・・」

 

なんで百代の弁当箱まで持参するのか甚だ疑問ではあるがこうでもしないと彼女はすぐファンの女の子達や大和達にたかるので仕方がない。

 

(幸い、ちゃんと借りたものは返すっていうのは出来てるんだけどなー継続しないんだよなー)

 

ちなみに士郎であるが、彼は作った武器を売ることで既に随分な資産が出来上がってたりする。

 

来た当初は当然その辺誤魔化して自給自足したり魔術での欺き含め色々やっていたのだが、正式な取引相手として九鬼、梁山泊、曹一族が出来上がったので相当に稼いでいる。

 

一部の剣豪や剣術家にもその価値を認めてもらい、オークションなどに出展されると一振り数百万から数千万の値が付いたりしている。

 

正体不明の創り手、無限(ムゲン)として現在彼は学業の傍らしっかりと稼いでいるのだ。

 

彼の鍛造はチートそのものなので彼を越える創り手は今のところ存在しない。

 

ただし、彼の創る武器にはある魔術刻印が刻まれており、対応した魔術書にどの武器が誰の持ち物かわかる仕組みになっており、非行に走った者、悪用した者はこれを処罰し、武器も破壊するという特殊契約を結んでいる。

 

魔術刻印自体は基礎中の基礎である、二つの物を刻印で結びつける程度のものであり、犯人を直接追尾したりすることは出来ない。

 

あくまで悪用されたらしき武器を特定できるだけのシステムで、魔術書を渡すと同時に悪用された場合は、その組織が責任をもって対処するという強制(ギアス)がかけられている。

 

自分で全て管理するのはかなり大変なので一応作って売った武器全てが記されている魔術書(正確には魔術のかかった一覧表)を持ってはいるが、大体は組織に対処を丸投げである。

 

「私もなにかアルバイトをしようかな・・・」

 

「林冲はまだ日本に来たばかりだろう?そんなに急がなくてもいいさ。今はまだ賄えるからな」

 

将来はまだどうか分からないし、何より手に職を付けるのは生きていく上でかなりプラスになる。

 

(今の俺ならセイバーに美味しいもんうんと食わせてやれたんだけどな・・・)

 

そればかりはいかんともし難かった。あの頃は本当に魔術の基礎(それも間違ったもの)しか分かっておらず、鍛造の技術も持っていなかった。

 

魔術礼装を作れるようになってからは割と安定していたのだがそれに目を付けた遠坂に師匠権限で上納させられてしまったが。

 

何かと非常にお金のかかる宝石魔術を扱う遠坂はとにかくあの手この手で資金を集めていたように思う。

 

そんなもう懐かしいことを思っていると、

 

「士郎。俺も働いた方がいいか?」

 

「え?」

 

意外な申し出だった。

 

「俺は天下を取る気でいた。だから生活資金のことなど考えていなかった。武で制圧すればいいと思っていたから。だが――――」

 

スゥっと赤目から黒い瞳に変わる。

 

「今は九鬼から飛び出したわけだし、ずっと士郎君のお世話になり続けるのもどうかと思うの。でもなにからしたらいいか分からなくて・・・」

 

「なるほど・・・」

 

これもある意味九鬼のせいと言えなくもないだろう。レールに乗せて走らせていたためにそこから外れた時どうすればいいのか分からない。

 

普通、貴族階級や大手企業の御曹司でもない限り、皆一寸先は闇の状態で進んでいくのだ。何が答えか、何が正しいのか分からず、足元を小さな小さな豆電球で必死に照らして歩く。

 

もちろんそんなことをせずに大胆に闇の中を進む者もいるがそれには相当な勇気がいる。

 

今の彼女はまだ整理が出来ていない不安定な状態だ。落ち着いている文学少女的な場合なら臨機応変に出来るだろうが、覇王状態になるとそうはいかなくなる。

 

いずれはつり合いが取れるようになるだろうがそんな状態の今の彼女に何かの仕事をさせるのは難しいだろう。

 

(とはいえ、整理がつくまで待て、じゃ、あのマープルとかいう婆さんと一緒だよな・・・なら)

 

そこで士郎は一つ妙案を思いついた。

 

「今の状態で仕事をするのは無理がある。かといって、何もしないのも納得がいかないでしょう?」

 

「うん・・・」

 

士郎の言葉に頷いて俯く彼女。自分の状態は彼女が一番よくわかっているのだ。

 

「そんな悲しい顔しないでください。要は、将来仕事に出来るかもしれないことをすればいいんです。確か清楚先輩は本を読むのが好きでしたよね?」

 

「う、うん」

 

「なら、小説家や文学界の勉強をしてご自分で本を書いてみたらどうですか?」

 

「ふえ?」

 

ポカンと清楚は固まった。

 

「今すぐは無理でも時間をかければ売れるかも知れないでしょう?和歌集を作ってみたりするのもいいかもしれないですね」

 

「それは名案だ!項羽は垓下の歌を始めとして歌を作ることも長けていたはずだ。清楚にも合致しやすいのでは?」

 

「で、でも、覇王の気持ちが強い時は・・・」

 

「その時は鍛錬していると思えばいいんじゃないですか?自分で言うのも何ですが、働かずに衣食住が充実している今って好きなことやり放題、失敗もし放題。チャレンジし放題ですよ」

 

いつか心にも言ったが時間は何にも代えがたいのだ。このまま知識だけを都合のいい時に詰め込んでもそれを活かす先がなければ意味がないだろう。

 

「そ、それで、いいのか・・・な?」

 

どうやら彼女も今の案に好感を持てたようだ。

 

「いいもなにも清楚先輩が頑張らないとどうにもなりませんよ。学園卒業後は大学に行くとしても、世の中に出るまであと3年と少ししかないんです。なりふり構わず利用できるものは利用したほうがいいと思いますよ」

 

このまま自分の所で養うことは出来るがそれは彼女の為にならないだろう。ヒューム爺さんにも面倒を見てくれ(・・・・・・・)と頼まれたわけだし。

 

「でもそれじゃあ士郎君に迷惑が・・・」

 

「迷惑だなんて思ってませんよ。誰しも一人前になるには何らかの形で支えてもらいながら行くんですから。それでも気になるというなら――――」

 

そう言って士郎は紙コップに入った水筒のお茶をごくりと飲んで、

 

「一人前になったら恩を返すつもりでやればいいんですよ。別に俺はそんなこと望んではいませんけどね。その方が清楚先輩の気持ちが落ち着くならそう思っていた方がいいでしょう?」

 

「・・・。」

 

士郎の言葉に清楚は少し考えて、

 

「正直俺は、俺を打ち倒した士郎以外の言うことを聞くつもりはない。だが、」

 

また瞳の色が変わった。

 

「士郎君がそう言うならやってみようと思う。どうなるかは分からないけど折角の機会だもんね?」

 

「そういうことですよ。先のことなんて「し~ろう~また清楚ちゃん口説いてるのかぁ!?」うごっふ!?」

 

突然首を絞められてお茶を吹き出しそうになった。

 

「なにするんだよ!お茶を吹きそうになったじゃないか!!」

 

「だってまた女口説いてるんだもん。それに聞き捨てならないことも聞いたぞ。まさか清楚ちゃんがお前の家に――――」

 

「も、モモちゃん!それは秘密!秘密だから!ね?」

 

一応九鬼の管理下に居なければならない彼女であるので家出が広まるとややこしいことになる。

 

「ちぇー。林冲ちゃんも士郎の家にホームステイしてるし・・・私も行こうかな」

 

「百代には川神院という重要な家があるだろうが・・・」

 

なんだか昔の衛宮邸と同じようになってきたことを感じる士郎であった。

 

 

 

――――彼女の感情の爆発はこうしてあっけなく収まりを見せた。これから様々なことが起きても彼女は葉桜清楚としてやっていけるだろう。彼女には強い味方がいるのだから。

 




日常編ですね。いかがだったでしょうか。風間ファミリーがあまり出せないことにちょっと悩んでいるのですがどうしてもこう、マジ恋、特にAのお相手の話になるとクローズアップされて主人公と数キャラ、っていうのが私の限界のようです・・・情けない。

次は義経と・・・例のあの先輩の話かな。わりと急がないと彼女達卒業しちゃうので。
この一年の間に士郎にはみっちり忙しく動いてもらわないと話が瓦解しかねないので頑張れ士郎!

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