真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆様こんばんにちわ。時系列関係なく書こうとしていたのに気づけば時系列気にして40話を突破している作者でございます。

今回は少なくなっていたバトル分を補充しようかなと。サブタイトルで誰と戦うかはわかると思いますが熱く書ければなと思います。

では!


一子の新たな魂/由紀江の剣

川神院に長い竹刀袋のようなものを持って士郎は訪れた。

 

「よう!待ってたぜ」

 

「いらっしゃい士郎!」

 

「待ってたぞ」

 

実は風間ファミリーも一同揃っていた。

 

「暑いってのにみんな元気だな」

 

学園は夏休みに入ったので、余程のことをしでかさなければ補習などで呼ばれることもない。

 

「ガクトも一子も何とか赤点は免れたみたいだな」

 

一応夏休みに入る前の日に簡易テストがあるのだが、ここで赤点を取ると数日補習である。

 

とはいえ簡易テストなのでそこまで難しくはない。ほとんどが選択問題だったりする。

 

あくまで夏休みに入っても気を抜くなよ、という示唆なのだろう。

 

「それでそれで!?ワン子の薙刀出来たんでしょ?」

 

「ああ。今日はそのために来たんだからな。それと、みんなのおかげで露天風呂が完成したからな。その報酬も持ってきた。林冲と俺の二人で持ってるから誰か手伝ってもらえないか?」

 

「ピーチの気配を感じて即登場!」

 

「こりゃモモ!まだ鍛錬の途中・・・ああ、衛宮君か。よく来たのう。一子の一件、助かったわい」

 

百代とそれを追いかけてきた鉄心に挨拶された。

 

「いえ、焚きつけたのも俺ですから。順調なのが感じ取れて俺も嬉しいですよ。それで「これか!?このずっしり感が特大ピーチだな!?」ああ、コラ!」

 

鍛錬を抜け出してきた上にもう頭が桃だらけになっている百代は士郎の持つ保冷バックをグイグイと引っ張る。

 

「そんなに引っ張ったら保冷バックが壊れる!壊れたら中身もパァだぞ!!」

 

「それは困る!!!」

 

士郎の言葉を聞いてビシっと直立不動になる百代。

 

「というか鍛錬の最中なんだろ?デザートはその後に決まってるじゃないか」

 

「えー今すぐ食べたいー・・・」

 

そうは言っても頷くことは出来ない士郎である。

 

百代の鍛錬はもう数段階も上のもので、一つの技の熟練度を上げるため長時間行ったりすることが多い。

 

鍛錬メニューも百代だけ数個しかないが、それらは当然一つ一つが長時間なのだ。

 

「鍛錬で汗を流した後にご褒美があるって思えばいいだろう?一子は俺たちを待ってたのか?」

 

「うん!だってアタシの新しい得物だから・・・アタシ自身が迎えてあげたかったの」

 

「そうか。じゃあ早速・・・「ちょいと待つのじゃ」え?」

 

意外な所から待ったがかかって士郎は驚く。

 

「川神院で扱う武具は川神院流の祝福を受けてから持ち主に渡されるのじゃ。じゃから、それはわしが預かろう」

 

「なるほど。そういうことなら学長にお渡しします」

 

レプリカと真剣の双方を鉄心に渡す。

 

「ほっほ!鞘袋の上からでこの存在感か!本当に衛宮君には敵わんのう・・・」

 

「そりゃあ今度のは試作じゃないですからね」

 

以前に奉納したのは士郎としては試作も試作。だが今回は本気の一振りだ。もちろん義経の刀と同じく魔剣化してある。

 

「前に君に貰った物ももう話題の一振りなんじゃがのう・・・」

 

「私も拝見させてもらいました。あれを振るえるのなら剣士として誇らしいと思います」

 

由紀江も久しぶりに真剣な表情で言った。そう言われても士郎としてはそれこそお裾分け程度のつもりでしかないので罪悪感が増すばかりである。

 

「じいちゃん!早くアタシにちょうだい!」

 

「ほっほ!分かっておるわい。あと一種目鍛錬を終えれば百代も含め一息つくじゃろう?そこで奉納の儀を行うとしよう」

 

「川神院の奉納か・・・これは相当レアだぞ」

 

「つーか俺の冒険家魂が言ってるぜ!あれは間違いなくお宝だと!」

 

キャップの一声に士郎は顔を顰めた。

 

「学長。わかってるとは思いますけど・・・」

 

「わかっておる。もしこの薙刀が盗難されたり悪用されたらわしかモモが直接手を下しに行く」

 

これは何処でも決められている士郎が作った武器のルール。

 

悪用は許さない。それが例え殺し合いだとしても士郎は動かないが、それが持ち主の意志から離れていた場合、もしくは持ち主が堕落して悪用した場合はその人物を討ち、武器も破壊する。それが彼の考えられる最低限だった。

 

「おお、なんか学長が持つと存在感増したな」

 

「なんだろう。このまま学長が振るってもおかしくないような・・・」

 

そういうものに疎いガクトとモロでさえこの調子だ。武士娘たちはもっとその存在感を感じていることだろう。

 

「ここで長話してはお互い良くないじゃろ。まずは入った入った」

 

「では、お邪魔します」

 

「お邪魔します」

 

林冲と二人で一言断って中に入った。

 

「わしは鍛錬の様子を見ながら奉納の準備をする。悪いが風間君たちに客室を案内してもらってくれるかのう」

 

「了解しました」

 

「こっちだよ」

 

そう言って鉄心は寺の中へと入って行った。士郎はキャップを先頭に客室へと入っていく。

 

「俺様達が借りてるのはここだぜ!」

 

一際広い一室に各々の荷物が置いてある。

 

「あの、お台所はこっちだそうです」

 

「ああ。ありがとう、由紀江」

 

「ここで悪くなってしまったらもったいないからな」

 

士郎とはまだしも、林冲との会話はまだ慣れていないので由紀江は引きつった笑みを浮かべた。

 

「?士郎、私はなにか悪いことを言っただろうか?」

 

「ああ!いえ、これは・・・「由紀江は人見知りでな。慣れた相手じゃないとギクシャクしちゃうんだよ」あう・・・」

 

あっさりとばらされた由紀江は恥ずかしいやら安心したやら。ともかくコミュニケーションできそうでよかった。

 

「そういうことか。私は林冲。梁山泊、豹子頭の林冲だ」

 

「剣聖、黛大成の娘、黛由紀江です。よろしくお願いします・・・!」

 

由紀江はきちんとした教育を受けているのでこうして流れさえきちんと整えばちゃんとコミュニケーションが取れる。

 

「・・・。」

 

「?」

 

まぁその後は本人の努力次第なのだが。

 

「由紀江、また怖い顔で固まってるぞ。林冲、さっきも言ったけど上がり症でこうなってるだけだ」

 

「なるほど。不器用なんだな。それでもコミュニケーションを取ろうとしてくれた貴女に感謝する」

 

「い、いえいえ!!私の方こそ失礼な態度を取ってしまい・・・」

 

「はいはいそこまで。由紀江の事情は大体そんなところだから林冲がフォローしてくれるよ。由紀江は由紀江なりに頑張ればいいさ」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「頼もしいぜシロ坊・・・」

 

「?今のは腹話術・・・」

 

と、いつものやり取りをしつつ台所へ。そこでは川神院に勤める女性陣がパタパタと昼食の準備に走っていた。

 

「失礼します。衛宮ですが――――」

 

「衛宮君!助かったわ!」

 

いきなりがばっと両手を握られる士郎。

 

「あ、あの、どうされました?」

 

「実はね・・・」

 

どうやら今回の奉納はテレビ中継されるらしく、中継内容が奉納の間と川神院の食事とは、といったものらしい。

 

「それでね、なんとか見栄えのいいものをと思っているんだけど・・・」

 

メニューは決まっているがそれを美しく見せる方法を知らないと。そんなことらしい。

 

「先代様にはありのままでいいって言われたけど私らも張り切らないとと思ってねぇ・・・」

 

「とはいえ豪勢にしちゃうと川神院はいつもこんな食事をしているのか、って言われそうでね」

 

「ふむ・・・そのくらいならお手伝いできると思います。要は一般食をどれだけ綺麗に見せるか、ということでしょう?ちょっとしたことで劇的に変わりますからそれをやってみましょう」

 

「ありがとう!それはそうと、持ってるそれを冷蔵庫に仕舞いに来たのね?こっちにいらして」

 

促されて士郎は中の方へと進みドスンとその保冷バックを開けた。

 

「何それ!?」

 

「瓶詰めの桃のコンポートですよ。当代の武神様が献上しろとうるさくて・・・家の改修工事に付き合っていただいたので作ってきたんです」

 

「百代ちゃんたらもう・・・」

 

「一応独り占めしたいらしいので誰も手を付けないようにお願いしますね。前にも作ったんですけど独り占めできなくて夢が叶わなかったそうなので」

 

「これを独り占め・・・確かに女性としては夢だけど・・・」

 

なにせドデカい漬物瓶である。もはや食べ物とは思えない綺麗さである。

 

これを全て自分一人の為というのは確かにロマンのある話だが、

 

「カロリーがねぇ・・・」

 

食べたことがある人は分かるかもしれないが、巨大プリンなどのデザートを大きくしたものは最初こそ良いのだが、後になるほど甘みがくどく感じてきて途中から辛くなるのである。

 

おまけにカロリーもとんでもないのでデザートが小さく小分けされていたりするのはきちんと理に適っているのである。

 

「まぁこれは本人の責任ということで。彼女が持ってるのは普通の小瓶のなのでこちらは9個だけ残してもらって後は皆さんでどうぞ」

 

「風間君たちの分を残して、ということね。わかったわ」

 

なんとか巨大瓶を冷蔵庫に入れて(中の棚を調整してもらった)仕事開始である。

 

「それじゃあやりましょう。林冲、みんなにこっちを手伝うって伝えてきてくれないか?」

 

「ああ。黛はどうするのだろうか?」

 

「由紀江は多分手伝うだろ?」

 

「はい!私の数少ない見せ場ですから!」

 

「期待しとけシロ坊ー!今日のまゆっちは燃えてるぜ!」

 

と、何故か由紀江じゃなくて松風の瞳に炎が灯ったような気がする士郎と林冲である。

 

「やっぱり腹話術・・・」

 

「よせ、林冲。孤独が由紀江に変な影響を与えてしまったんだ・・・」

 

ポンと肩に手を置いてあきらめろ。と士郎は言った。

 

 

 

 

 

結局、士郎はこちらの対応に追われて奉納の儀とやらには立ち会えなかったが今は百代と一子を除くみんなで昼食を頂いていた。

 

何故百代と一子は別かと言うと、食事シーンも撮影するため、川神院以外のメンバーは遠慮するということになったからだ。

 

「いやー大変だったぜ。まさか放送されるなんてな!」

 

「今回は学長が張り切って取材に応じてたらしいよ」

 

「俺様、初めて紅白幕?の準備したぜ・・・地味にきついのなあれ」

 

体調の優れない京とその付き添いのクリス以外は全員手伝わされたそうだ。

 

「俺と由紀江だけじゃなかったのか。そんなに奉納の儀って珍しいのか?」

 

「すごく珍しい。私達が小さかった時に一回やったような・・・」

 

「姉さん曰く、士郎の本気の作品がとんでもないものになるのは間違いないから願掛けの意味も込めてやることにしたんだそうだ」

 

「ていうことは普段はやらないのか」

 

「そりゃそうだろ。武器仕入れる度に毎回この規模でやってたら川神院においそれと立ち入れないからな」

 

「それだけ士郎の作品とワン子の今後に期待してるってことだろう?」

 

「そう言われるとなんだか背中がむず痒いな」

 

士郎はそう言って汁物を啜った。

 

「実際士郎の作る武器は凄すぎだよ」

 

「モロに同意。ここでテレビ中継見てたけどテレビ越しにもすごい迫力だったよ」

 

「だな!鞘袋から出てきた時は一斉に感嘆の声が上がったからな!」

 

今もそうだが、京とクリスはここでテレビ中継を録画しているらしく、今も中継が設置されたテレビに映し出されている」

 

『今回の奉納の儀では川神一子さんの武器の奉納だったそうですね!感想はいかがですか?』

 

『えーと・・・そのー・・・』

 

「ガッハッハ!ワン子の奴緊張して固まってやんの」

 

「そう言うなって。何とかいい言葉を返さないとって頭の中グルグルしてるんだろ、多分」

 

「流石大和。その辺はよくわかってるんだな」

 

「当然だろ?もう何年の付き合いになるか」

 

その辺は士郎には立ち入れない部分だ。彼女と同じ時間を過ごしてきた彼らに士郎は敵わない。

 

「それにしてもこのメシうまいなー・・・川神院っていつもこんなもん食べてるのか?」

 

「一応普通だろ。魚と肉、両方あるから多少豪勢に見えるだろうけど」

 

「だな。前にご馳走になった時もこんな感じのメニューだった。でも前のと比べるとなんか豪勢に見えるというか・・・」

 

「それは士郎先輩のアドバイスで見栄えも考慮されているんですよ」

 

「そういえば士郎とまゆっちは厨房に居たんだもんね」

 

「いくつかの料理もシロ坊のお手製だぜ?」

 

「まじか!こりゃ厨房の人明日から大変だな・・・」

 

「確かに。これが川神院の普通って言われたら、またこのくらいのものを作らないといけないだろうね」

 

「おいおい、俺がなんかやらかしたみたいじゃないか」

 

「なんかも何も、やらかしてるからこんなに大規模になってるんだろう?」

 

「うぐ・・・」

 

もうちょっと手加減しとけばよかったかなーと思いかけるが、創り手として妥協は許さないのが士郎なのである。

 

 

 

 

ようやっと取材も終わり、一子と百代がこちらの客室に来た。

 

「やっと戻れたぞ」

 

「雪広アナにこれでもかってくらいにインタビューされたわー・・・」

 

「お疲れ様。姉さん、ワン子」

 

大和の一声を皮切りにみんなでお疲れ様、と労う。

 

「これでやっと一子の元に届いたんだよな?」

 

「うん!でも、いいのかしら・・・あんなすごい薙刀見たことないわ」

 

「一応前のも折れたりしたわけじゃないんでしょ?」

 

「うん。だけど鍛錬や組手の最中に何度か壊しそうになったから・・・」

 

「なら新調して正解じゃねぇのか?武器なんて早々壊れるもんじゃねぇだろ?」

 

ガクトの言葉にみな頷く。

 

「わかってるわよぅ・・・でもなんだかあの薙刀に自分が合って無いんじゃないかと思って・・・」

 

「なんだそんなことか」

 

士郎は特に不思議がることもなく頷いた。

 

「確か林冲に槍を作った時も同じことを言っていた気がするぞ」

 

「ああ。士郎に作ってもらった時はこんなすごいものが自分の武器になるなんて、って最初は思ったが・・・」

 

ヒュン、と林冲は槍を回す。

 

「もうこれ以外の槍を私は自分の武器とは思えなくなってしまった。そこらの槍ではただの棍棒か何かに見えてしまう」

 

「そう言われると職人冥利につきるな。さて、それじゃ早速摸擬戦と行こうか」

 

「え?誰と?」

 

「お前だよ。一子」

 

「え、ええええ!?」

 

士郎の言葉に絶叫を上げる一子であった。

 

 

 

 

「なんじゃい。もう実戦か」

 

「早く慣れておいた方が良いでしょう?それに一子は少々思い違いをしているようなので、一つ現状確認しておこうかなと」

 

――――投影、開始(トレース・オン)

 

と、士郎が魔術を発動すると手に握られたのは――――

 

「あ!前の薙刀!」

 

「え!?あれ!?アタシのはじいちゃんが飾ってくれてるわよ!?」

 

オロオロとする一子に士郎はため息を吐いて、

 

「もうお前たちは俺の秘密を知ってるだろう?これは贋作だよ。刃の先から石突の部分まで寸分違わないな」

 

その薙刀を持って士郎は一子に言った。

 

「真剣の方を持ってここに来るんだ。そうすれば色々わかるぞ」

 

「ええ?でも・・・」

 

「寸止めで構わないさ。ま、出来るならな」

 

その言葉にむっとした一子は自室へとかけて行った。

 

「衛宮君、なにもそう挑発せんでも・・・」

 

「いえ、これもまた必要でしょう。一子は自分のいる位置が分かっていないみたいなので」

 

そう言って士郎は彼女が来るのを待った。

 

「持ってきたわ!」

 

少して戻ってきた一子の手に握られているのは見事な作りの薙刀。

 

朱色に黒、金をあしらった芸術品のようなその一振りに一同はほぅ、と息を吐く。

 

「それじゃあ始めるか。百代。一応魔眼でも見ておけよ」

 

「いいのか?」

 

「その方が分かりやすい」

 

士郎はそう言って薙刀を構えた(・・・)

 

「あれ?」

 

その異変に最初に気付いたのは大和だった。

 

「どうした、弟」

 

「あれってワン子の構えじゃ・・・」

 

「そう言われてみれば・・・」

 

「自分と最初に相対した時にそっくりだ」

 

一様に何事だと士郎を見る一同だが、士郎は何も答えない。

 

「・・・ほっほ。なるほどのう。君には頭の下がる思いじゃな。では両者構え!」

 

「――――ッ!」

 

「摸擬戦――――始めッ!」

 

「川神流大車輪!」

 

先に仕掛けたのは一子。流石切り込み隊長を自負する彼女だ。新しい得物にも関わらず恐れず突き進んできた。

 

「――――」

 

それを迎え撃つのは士郎も同じく川神流大車輪。以前のようなカウンター技ではなく、一子の使うそれと同じだ。

 

しかし、

 

ギィン!と。すぐに士郎の方が弾かれてしまった。

 

「おいおい士郎が押されてんぞ!?」

 

「モモ先輩相手でも負けないのにどうして?」

 

じりじりと士郎は辛いのか一子の一撃一撃を弾きながら後ろに下がっていく。

 

それは本来あり得ない光景だ。実力的に彼は一子の遥か上にいる。にも拘わらずこうも易々と戦いの主導権を握られるなど彼らしくない。

 

「手を抜いているのか?」

 

「そういうことだろうけど・・・あれ?なんかさ――――」

 

どうにもファミリーには親近感というか、デジャヴを感じるのだ。

 

「――――そうか。魔眼で見ろって言うのはそういうことか」

 

士郎の言う通り魔眼を開放していた百代は合点がいった。

 

「どういうこと?姉さん」

 

「士郎の秘密はみんな知ってるだろう?ただ、その工程には武器の担い手と経験を読み取るのも含まれるんだ」

 

「武器の経験?・・・あ!」

 

大和はなにかに気付いたようだ。

 

「俺様達にもきちんと説明してくれよ!」

 

「わかってる。でももう終わっちゃうぞ」

 

「え?」

 

百代の言葉の直後。バキィン!という音と共に士郎は薙刀を半ばから砕かれて後退していた。

 

「あれ?勝・・・った?」

 

「当たり前だろう?今の一子が昔の一子に負けるはずがない」

 

「ふえ?」

 

ポカンと一子は固まった。そして壊れてしまった士郎の持つ薙刀は存在を保てなくなり消えてしまった。

 

「秘密だぞ。百代は分かったみたいだな?」

 

「ああ。確かにあれじゃ絶対に勝てっこない」

 

「だから、説明!」

 

こう、喉につっかえてるような感覚なのだろう。説明をはよ!とみんなは言った。

 

「俺は贋作を作る時その武器の担い手や武器の経験を読み取れる。それとその技を自分に憑依させる(・・・・・)こともな」

 

「え?つまり士郎って武器さえ見ればその担い手がどんな人か、どんな戦い方でどんな技使ったかわかるってこと!?」

 

「そうなるな。それと憑依経験・・・まぁ担い手のまねだな。それが出来る」

 

「じゃあ俺たちがワン子の動きに見えたのは・・・」

 

「その通り。俺が見た最後の一子の薙刀の動きだな。と言っても、色々あって見てなかったから一カ月前・・・くらいかな」

 

本来は古い武器の古の戦士の経験を自分に憑依させるのであって、新しい武器の今の担い手の経験を憑依させる意味はほとんどない。

 

今回の一子の様に更新が必要になるからだ。しかし、今回はそれが上手く働いた。

 

「アタシ、前のアタシと戦ってたってこと?」

 

「そういうことだ。どうだ?中々無い経験だったと思うけど」

 

「うーん・・・自分のことながら恥ずかしいんだけど、全然脅威に感じなかった。戦いの最中なのに懐かしいとすら思ってたわ」

 

「だろうな・・・ワン子、全然余裕で追い詰めてたもんな」

 

「ワン子強くなったんだなぁ・・・」

 

あの無茶苦茶な鍛錬をしていた頃に比べ、今はすっきりとした鍛錬メニューに変わっている。

 

しかし、それこそ彼女に必要な物だったのか、やはり今と昔では雲泥の差だった。

 

「それに、実際使ってみて思ったの。林冲さんが言う通り、私もうこの薙刀じゃないと自分の武器とは思えないかも・・・」

 

一子は照れながらそう言った。

 

「それは何よりだ。ただ、事前に話していたギミックはちゃんと扱えてなかったけどな」

 

「ギミック?」

 

「なんだ、棘でも突き出すんか?」

 

「そんな禍々しくするか!いいか――――」

 

義経にしたのと同じように士郎は魔術で鍛えられた薙刀について説明した。

 

「え?こう?」

 

「違う違う。それじゃ外側に纏ってる」

 

だが、中々彼女も成功しなかった。

 

(いずれは出来るようになるとはいえ、本当に川神の人間はこの手のコントロールが苦手だな)

 

やはり元から回路に通すという動作をしない、気を扱う人間にはピンとこないのだろう。

 

「一応言っとくけど百代は絶対に薙刀に気を流すなよ。破裂するからな」

 

「「「え?」」」

 

士郎の言葉に今まさに貸してみろと言われた一子が渡そうとしていた所だった。

 

「京やクリスじゃどんなに頑張っても破裂まで行かないけど百代はダメだ。由紀江は・・・加減できそうだな」

 

「――――ッ!」

 

「ああっ!なにもそんなに乱暴にしなくてもいいじゃないか妹よ~」

 

慌てて百代から薙刀を奪い取った一子はガルルル!と周りを威嚇した。

 

「まぁ納得だな」

 

「そりゃ地球最強生物の気なんか流したら破裂するよな!」

 

「おいガクト~」

 

「おわ!いけね!つい・・・のわあ!!?」

 

上手くガードは出来るものの、連打でこじ開けられて結局殴られるガクト。

 

「ガクトもそういう意味ではすごいよね・・・モモ先輩の連打ガードしてるんだもん」

 

「先生のスパルタは俺様を上のステップに上げてくれたからな!」

 

(それはそれで複雑なんだが・・・)

 

相も変わらずの川神魂(スパルタ侵食中)のガクトだった。

 

 

 

 

ということで一子への納品も終了し飾り付けが外されている頃。

 

ファミリは―なにをしようかと悩んでいたところだった。

 

「あ、あの!!」

 

「まゆっち?」

 

「おーなんかいい案あるんかー?」

 

のんびりとお茶を飲んで過ごしていた一同。最初は手伝いはしたが、片付けは時間に余裕があるのでゆっくりしていきなさいと言われた結果だ。

 

「えっと・・・あの・・・!」

 

「なんだ、言いづらいことなのか、由紀江?」

 

「この最強のデザートは分けてやらないぞ?」

 

からかう百代だが、由紀江は一呼吸置いて、

 

「士郎先輩。私と・・・手合わせ願います」

 

「!」

 

「「「ええ!?」」」

 

それは真剣試合の申し出だった。

 

「由紀江。そんなにかしこまって言うってことは本気で、って言うことか?」

 

士郎の言葉にコクリと頷く由紀江。

 

(どうしたものか・・・)

 

またこの真剣勝負の申し出である。正直、士郎としてはもう受けたくないし、何より仲間内で本気でなどやりたくなかった。

 

「ダメ・・・でしょうか」

 

「――――」

 

しかし、この白黒つけたい。誰よりも強くありたいとする彼女達の気持ちも最近は理解できるような気がするのだ。

 

「――――はぁ。了解した。全霊でお相手しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

「ならじいちゃん呼んでくるわー」

 

「もぐ・・・まゆまゆと士郎かー、面白いカードになりそうだ」

 

「面白いとか言うな。それより百代、それ、美味いか?」

 

ため息交じりにでっかい瓶を抱えるようにして大きなスプーンでモリモリと巨大桃のコンポートを食べる百代に問う。

 

「んんっ・・・。ああ!まさに夢のようだな!こんなに美味しい物を独り占めなんてロマンだろう?」

 

「・・・。」

 

実際には独り占めではなく、百代+ファミリー+α分を作っているので全部ではないのだが言わぬが花だろう。

 

というか冗談ではなく桃の大量買いをする羽目になったので苦笑ものである。

 

「モモ先輩は士郎と戦いたいって言わないよな」

 

「そりゃ、戦ってみたいさ。でも、私とじゃ――――」

 

そこで一区切りし、

 

「殺し合いになる。だろう?」

 

「・・・。」

 

百代に士郎は何も返さなかった。ただ、

 

「こぼれるぞ」

 

「え!?」

 

スプーンから滴り落ちそうなことだけを指摘した。

 

 

 

 

 

「それじゃあ始めるぞい。相手に参ったと言わせるか、戦闘不能にしたら勝者じゃ」

 

「・・・。」

 

「――――」

 

空気がビリビリと肌を刺す。互いに言葉は無く。

 

由紀江は刀を正眼に。士郎は双剣を持って自然体に相対していた。

 

「それでは、始めッ!」

 

開始の合図がされた。だが・・・

 

「二人とも動かないな」

 

「士郎がカウンター型だから動かないのはわかるけど・・・」

 

「まゆっちが動かねぇのが分からねぇ」

 

静かに様子を見守る仲間達だが、あることに気付いた。

 

「まゆまゆ。かなり追い詰められてるな」

 

「え?・・・あ!」

 

百代の言葉に皆が由紀江を見ると汗を流してじりじりと後退しているのが分かった。

 

(これもダメ)

 

真正面からの鋭い斬撃。しかしそれは白剣・莫耶に弾かれ、逆に懐に入った黒剣・干将に心臓を一突きされる。

 

(こっちもダメ)

 

左右からの奇襲。それもまた、武骨に舞う双剣に弾かれ乱戦に・・・ならない。弾かれた一瞬の隙を突かれて袈裟懸けにバッサリだ。

 

開始の合図から、いや、刀を持って相対した時から由紀江はどう攻めるかを考えていた。

 

だが、相対して分かるこの隙のなさ。どう飛び込んでも逆に自分が切り捨てられる光景しか浮かばない。

 

(なんて堅牢な防御の型。構えてないかのように見えてあれこそが士郎先輩の構え)

 

双剣を手に体は自然体に、両腕はだらりと下げられたまま。一見隙だらけに見えるがそれこそが罠。

 

あの見た目に騙されて飛び込めば一瞬で首が飛ぶだろう。

 

気付けば由紀江は随分と士郎との距離を開けていた。

 

「どうした。その刀はお飾りかね?私に挑もうといいながらそのように逃げ回っては赤子のようだぞ?」

 

「――――ッ!」

 

士郎お得意の挑発が浴びせられる。この刀は自分の魂。それをお飾り呼ばわりされれば腹も立つ。

 

だが、それこそが衛宮士郎の目的だということを知っているので自制をかける。

 

この挑発に乗れば最後、一瞬でケリがつく。

 

(乗ってこないか。まぁ、散々見せたからな。そう易々と乗ってはこないだろうさ)

 

士郎としてはそのまま場外になってほしい所だが、由紀江は一定の距離を開けて止まった。

 

恐らくそこが自分の射程外で衛宮士郎の射程外だと判断しているのだ。

 

(なら、その考えを改めて貰おうか)

 

由紀江はこの時点で判断を誤っていた。彼は元来、剣の戦闘が本職ではなく――――

 

「ふっ!」

 

「!?」

 

遠距離戦を得意とする弓兵(・・)なのだから。

 

投げつけられた双剣を弾いて由紀江は突進する。歩数にして二歩。

 

この二歩を次の手までに縮められなければ――――

 

「――――わせ」

 

だが、彼の手には既に先ほどの夫婦剣が握られていて。

 

(いつの間に!?)

 

「躱せと言ったのだ!黛由紀江ッ!!!」

 

「!!?」

 

敵に塩を送る言葉に一瞬躊躇する由紀江だが、ゾクリとしたものを感じて背中を向いて薙ぎ払った。

 

ギィイン!という強烈な音と衝撃に由紀江はゾッとした。

 

(今のを弾いてなかったら死んでいました・・・!)

 

だが、自分は今相手に背中を見せている。すぐに振り返らねば――――

 

「今度は背中が留守だぞ?」

 

「――――ッ!!!」

 

なんともう一度、彼は双剣を投げてきた。

 

整わぬ態勢。無理やり振り向こうと宙に浮く体。まるで走馬灯のようにスピードがゆっくりになる。

 

人によってはゾーンという極限の集中状態に入ったと思うかもしれないが、それは確実に死の気配に対する精神の悲鳴だった。

 

(二対弾きました。でも――――)

 

まるで詰将棋。最初の判断を間違った由紀江はあっさりと追い込まれる。

 

先ほど弾いた時もいつの間にか握られていた双剣。当然それはまた握られていて。

 

「迂闊だったな。私は贋作者(フェイカー)なのだよ」

 

「――――あ」

 

態勢は不完全。体は宙に浮き、力を込めようにも、体はピクリとも動かず。

 

敵は目の前。しかも羽のように巨大化した双剣を手に自分へと迫り、おまけに先ほど弾いた二対の双剣が自分に向かって飛来してくる。

 

躱すことも防ぐことも出来ない。仮にできたとしてもその後に続かない。

 

完全に詰み。後方と左右、正面の合計6本の剣を防ぐことは到底叶わない。

 

「参りました・・・」

 

刀を敵に振るうことも出来ず、彼女は白旗を上げるしかなかった。

 

 

 

 

 

「あのまゆっちが・・・」

 

「たいして何もできずに負けちまった・・・」

 

あまりに現実離れした光景に一同は息をのむしかなかった。

 

由紀江視点では常に一対の双剣しか目に入っていなかっただろうが、士郎が放った双剣は弾かれた後、大きく背後を迂回して由紀江に再度迫っていた。

 

さらに投げつけられた双剣を無理な態勢で迎え撃った彼女は完全に隙だらけと化し、またも飛来する二対の双剣と士郎の持つ巨大な羽の様になった双剣が目の前に迫っていた。

 

「あの双剣も清楚先輩に射った矢みたいに追尾性能でもついてんのか?」

 

「違う。あの双剣、干将・莫耶は互いに引き合う特性を持つんだ」

 

応えたのは林冲だった。

 

「干将と莫耶?まるで人の名前みたいね」

 

「その通りだ。夫婦剣干将・莫耶。鍛冶師干将が、呉王に最高の刀を打てと言われて、妻の莫耶を犠牲にして作ったとされる剣だ」

 

「うげ。そんな曰く付きなもんなのかよ」

 

「王の命に背けば殺されるんだ。干将は混じり合わない鉄に苦悩をして、その苦悩を見た莫耶が自ら炉に飛び込んだらしい」

 

「ロマンチックに見えて全然そうじゃなかった・・・」

 

「そうして作られた干将と莫耶は離れても互いに引き合う。だから黛由紀江を狙って飛んできたんじゃなく、新たに手元に同じものを作った士郎に(・・・)飛んできていたんだ」

 

「なんと!じゃあまゆっちが避けたりしたら――――」

 

「当然士郎に飛んでくることになるな」

 

「まさに絶技と言っていいじゃろう。二対の双剣で相手を完全な無防備にし、己と舞い戻る双剣による挟み撃ち。見事な連携技じゃい」

 

「じいちゃん!じいちゃんならどう防ぐ?」

 

一子の言葉に先代武神は困ったように頬を掻いた。

 

「双剣ごと全部吹っ飛ばす」

 

「「「え」」」

 

あまりに力技な言葉に固まってしまった。

 

「それくらいしか無かろうて。あれを正面から受けた時点で敗北が決まるようなもんじゃ。なら、盤上を一度に吹き飛ばしてしまうしかあるまい」

 

「私もジジイに賛成だな。あれを下手に躱すなり受けるなりしたら絶対負ける気がする」

 

桃のコンポートを堪能しながら百代は言う。

 

「そういえばまゆまゆ四天王だよな?降格か?」

 

「そうだろうとは思うのじゃが・・・五弓の件と同じで多分辞退じゃろう・・・」

 

頭が痛いとばかりに鉄心は言った。

 

 

 

一子との試合と由紀江との試合を終えた士郎は沈みゆく太陽を見て思う。

 

(この世界の武士の家系の人物は本当に戦い好きだな。いい意味なんだろうが・・・)

 

本当にスパルタの様になってしまわないか心配になる士郎。

 

一子との戦いは置いておいて由紀江との試合だ。あれは士郎としても気の抜けない一戦だった。

 

彼女を傷付けないという意味でも、負けないという意味でも。

 

彼女があれほどの高みに居なければ今回のようにはいかなかっただろう。

 

(俺ももっと強くならないと・・・)

 

彼の手加減は一定ラインまでしか効かない。

 

誰でもそうかもしれないが、彼の場合は完全に殺し合い、酷ければ虐殺になってしまうので、どうにかしたいところである。

 

「士郎、そろそろ帰ろう」

 

「そうだな」

 

まだまだ夏休みは始まったばかり。これからも刺激的な毎日が続くのが分かっている士郎はとりあえず休息に付くのだった。

 




一子戦とまゆっち戦でした。一子の方は単純に前の薙刀の経験を憑依させた感じです。

まゆっちとの戦いは色々悩んだんですが、静かに始まって静かに終わるという形にしました。激しい剣戟でもよかったんですが、なんかそれだと私のイメージに合わないなーと思いまして。某ルートでは義経ちゃんとバッチバチにやり合っているわけですが。

私としては涅槃寂静の時の静かな一閃っていうのがイメージだったので。

次回はまた源氏回です。もうあっちへ行きこっちへ行きの士郎君ですが次回もよろしくお願いします!
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