悩みましたが今回はレオニダスを絡めた一話にしようと思います。
随分と影が薄くなっていましたが彼もまた今を満喫しているのだと伝われば嬉しいです。
早朝の5時。もう空は明るく、鳥たちの鳴き声もよく聞こえる。
「はっ!」
「ぬっ!」
そんな早朝に衛宮士郎はレオニダスと手合わせしていた。
鋭い斬撃が左右から迫る。レオニダスは冷静に盾と槍で弾く。
「流石防衛の英霊。士郎のあの斬撃を事も無げに防ぐとは」
「私も同じ槍使いとして手合わせしてもらったが彼は堅牢すぎる。士郎がカウンター型の守りだとしたらあの人は堅牢な城塞の如き硬さだ」
鍛錬の光景を眺めるマルギッテと林冲がお互いに言葉を交わす。
そんな間にも激しい剣戟が鳴り響く。
「ふわ・・・おはようございます。林冲さん、マルギッテさん」
「おはようございます」
「おはよう、清楚。今日は一段と早いんだな」
そんな中、葉桜清楚が目を覚ました。
「昨日は遅くまで史文恭さんの本を借りて読んでたの。ほとんど徹夜になっちゃって・・・」
「士郎曰く、防音の結界が張られているそうですが効果はありませんでしたか?」
「ううん。大丈夫だったよ。凄いよね。何もないはずなのにここに来た途端すごい音するんだもん」
そう言って戦う二人を見る。いつも劣勢など見せぬ彼だが、その姿は汗に濡れ、息は荒々しく。
とても余裕というわけではなかった。
「マスター!私は心底感動しております!本来守るべきマスターがこんなにも心強い戦士だとは!私、貴方に呼ばれたことを嬉しく思います!」
「そういうなら一発くらい入れさせてほしいものだな!私も貴方ほど堅牢なサーヴァントは初めてだ!」
キィン!ともう何本目になるか分からない夫婦剣が砕ける。
「チッ・・・流石防衛が得意なだけある。夫婦剣だけでは攻めきれんか」
「仮にもスパルタを守った身でありますからな。そう易々とはこの盾を抜くことはできません。もちろん、本気のマスターともなると、いささか事情が変わってきますが」
砕かれたのを機に士郎は縁側に置いていたやかんに入った麦茶をそのまま流し込み、汗を拭う。
「レオニダスもほら」
「いただきましょう」
受け取ったやかんから彼も麦茶をゴクゴクと喉を鳴らして飲む。
「うむ!この香ばしい茶は実にいいですな!汗を掻いた体に染みますぞ!」
「本当ならスポーツドリンクがいいんだろうけどな。俺はこっちの方が好みだ。・・・おはようございます、清楚先輩」
「おはよう。朝から鍛錬?」
「いつもこのくらいの時間にやってますよ。以前は一人でしたけどこうして手合わせできる人材が増えましたから」
そう言って士郎は林冲とマルギッテ、そして今も本に囲まれているだろう史文恭のいる方を見た。
「すごいね。あんなに強いのに。・・・俺を完膚なきまでに倒しておいてまだ鍛えるのか!」
「そりゃ、負けたくない戦いで負けるわけにはいきませんからね」
「士郎はいつもそう言う。具体的にそれはどういう時だ?」
そう問う林冲に士郎は悪戯を思いついたという顔で、
「強引に三人で手合わせしてきて、資格がありそうなら問答無用で連れて行こうとする時とかかな?」
「う・・・それは言わない約束だ・・・」
「はは。でもま、そういう時に備えてるってことだよ。これでも正義の味方を目指してるんでね。何かと身体能力と戦闘力が一番求められるんだ」
「マスターの志は立派ですが・・・それで身を滅ぼしたりしないか、私は心配です」
そう真っ直ぐに伝えてくるレオニダスに、士郎はセイバーを思い出した。
「とはいえ、それが俺の根っこだからさ。これでも10年は正義の味方として世界を歩いた。何の因果か、今はこうして高校生やってるけど」
そう言ってもう一度やかんを口に運ぶ。
「士郎は本当にすごいと思う。普通、正義の味方になりたいと思っても実行に移す人は居ないように思う」
「私も同感です。正義の味方と言えば警察やその国の軍を思い浮かべるでしょう。それを、どれにも属さず貴方一人で戦いに赴くなど・・・」
「それはもう耳にタコができるほど言われたよ。でも、諦められないし、なにより俺は自分にだけは負けたくないんだ」
それがどれだけ無謀であったとしても。どれだけ無理難題だとしても。助けを求める声があればそこに行く。それが彼の在り方。
けれど・・・
「なんだろうな。俺はまた世界を巡って正義の味方をしようって思う気が薄れてきたんだ」
「ほう。では正義の味方を諦めると?」
レオニダスの分かっているような顔と声に士郎は照れ臭くなった。
「もっと、狭い範囲の正義の味方でもいいのかなって。もちろん世界を相手に戦うのもいいけど、それだって俺がそこにいる人物を救えるだけだ。それなら、何処かに居を構えて大事な誰かを守るのも正義の味方なんじゃないかって。最近思うんだ」
それは今までの衛宮士郎の在り方を裏切る事になるかもしれない。切嗣からもらった全ての人が幸福でありますようにという願いに背くことかもしれない。
けれど。今の自分には守るべきものが増えすぎた。もう全てを振り払って世界へ飛び出すには無理がある。それに――――
「もう少し、他人を信用するべきだって。仲間を、大事な人を頼るべきだってあの時教えてもらったから」
今も昔の在り方を否定する気はないし、そちらの方が衛宮士郎としては理にかなっている。でも、そういう新しい考え方もあっていいように思うのだ。
「それは、きっとこの世界で大事なものを見つけられたからでしょうなぁ・・・」
レオニダスは慈愛の目で士郎を見つめた。きっと彼も今、様々な変化を受け入れてるのだ。
受肉していない英霊ではある。もし座に戻ることがあれば記憶ではなく記録として残るだけのことだろう。
しかし彼は今この時を精一杯生きている。(幽霊だけど)それと同じことなのかもしれない。
「なんかしんみりしちまったな。よし、鍛錬はここまでにして朝飯の準備するか!何だかんだもう6時ぐらいだし」
そう言って士郎はまずは汗を流すべく風呂に向かう。
「士郎!俺にも武器を寄越せ!俺もレオニダスと軽く鍛錬することにする!」
「って、今風呂行こうとしたのに・・・」
苦笑を浮かべながら方天画戟を投影して渡す。
「砕けたら終わりだぞ」
「んは!盾相手だがそう易々と遅れは取らん!」
「いいでしょう。私もまだまだ動き足りなかったところです!」
互いに気炎を上げて戦いに戻る二人に、やっぱり苦笑を浮かべながら士郎は今度こそ汗を流すべく風呂に向かうのだった。
朝食が出来上がり、皆が起きてきたころ合いで朝食だ。
「士郎、おかわり」
「私もいただけますかな」
「はいよ」
林冲とレオニダスにご飯を盛ってやる。実は衛宮邸、一升炊き炊飯器が二台準備されている。それは、とにかく皆よく食べるからだ。
前の世界ではセイバーが人一倍食べていたが、この世界では皆がよく食べる。こりゃ業務用、もしくはもう一台ないと間に合わんということで準備した次第だ。
「マスター、これはどのくらい入れればいいのでしょうか?」
「ん?・・・これは、プロテインジュースか」
レオニダスが取り出したのは某メーカーのプロテインジュース(ミルク味)であった。
「一回分がこのくらいだから・・・ちょっとまってくれ。水筒が必要だな」
サプリメントというよりは本格的な奴なので専用の容器があればいいのだが、無いようなので水筒で対応する。
「この匙で摺り切り何杯か入れて水を入れて振って溶かすんだ」
容量は袋に書いてあったので水筒に合わせて数杯入れて水を入れる。
「レオニダス、振ってくれ。結構溶けづらいから、根気良くな」
「わかりました。ぬん!」
バッシャバッシャと振りまくるレオニダス。
「しかしなんで急にプロテインジュースなんか持ってきたんだ?」
「ガクト殿に教えてもらったのです。筋肉をより成長させる飲み物があると!これは私も黙ってはいられないと買いに行ったのですが・・・どれがどれだか分からないのでガクト殿のものを分けていただいたのです」
「なるほど。それで容器までは持ってなかったのか。というか、間違ってはいないがお前筋肉成長しないだろ・・・?」
「何をおっしゃいます!我が筋肉は不滅!マスター達との毎日の訓練で少し・・・いえ、きっと!成長しているはずです!」
するか!と言いたいがこれもまた彼の楽しみなのだろうから黙っておく。
「専用の容器買いに行こう。本当なら透明な容器で中身が溶けているかちゃんとわかるんだ。そんなに高くもないし金柳街に行こう」
「それは嬉しい申し出ですな!任せてください、きちんと小遣いは準備してありますので!」
レオニダスは一応前に九鬼揚羽が来た時に、本人に他国が干渉してこないように配慮してもらっているのだが、まさかそこいらでアルバイトさせるわけにもいかない。
しかし、自分も食事や学園に通うのならばと、何かしらの依頼を受けた時には金銭を少しばかりもらっているようだ。
一番は学校の体育らしい。臨時講師扱いということで時間給を貰っているそうだ。後は九鬼の本社での従者達への調練も行っているらしい。そこでも時間給を貰っているそうだ。
流石に鍛錬を頼む学生などからは取らないが、一応団体や企業に頼まれた場合は九鬼を通して給料をもらっているらしい。
とはいえあくまで微々たるものなので、ある程度は自分の貯金(でっかいがま口財布)としてほとんどを士郎に渡しているのが現状だ。
彼自身がそうお金を使わないのもあるようだが、大分貯まっているらしいので問題ないだろう。
「衛宮士郎。街に行くならこれを買ってきてくれ」
「ん?」
史文恭から渡されたのは何やら本のタイトルがびっしり書かれたメモだ。
「おいおい、これ通販で買った方が楽に手に入るんじゃないのか・・・?」
中々にマニアックなものから聞いたこともないものまで。はっきり言って内容が不明のものだらけだ。
「それはそうなのだがな。なるべく費用は抑えたい。ある物だけでいいから買ってきてくれ」
「・・・ちなみに今日の予定は?」
「読書だ」
胸を張って言っているがそれは予定が無いのと同じではなかろうか。
「まぁいいけど。たしかキャップが働いてる本屋があったよな・・・」
早めに連絡しておこうと士郎は携帯を開いた。
朝食後の腹ごなしに街へと出る。目的はレオニダスのプロテインジュースの容器と普通に士郎の買い物だ。
「確かキャップが働いてる本屋は・・・」
金柳街を歩いていると、
「士郎!こっちだこっち!」
「ああ。いたいた」
今日も今日とてバイトだったらしく、何とか見つけられた。
「よく来たな!」
「お?友達かバッキャロー。サボるんじゃねぇぞ?」
「サボるかよ!店長、むしろ士郎は上客だぜ?」
「なに?」
「これをお願いしたいんですが」
そういってメモを店長らしきおじさんに渡した。
「ほう・・・これは随分好き物じゃねぇか。全部はねぇが大体はあるぜ。今準備するか?」
「いえ、量が量ですから買い物の帰りにでも購入させて頂ければ幸いです」
こんな大量の本を持って買い物に歩きたくはない。
「まかせときな。ある分は準備しといてやる。帰りに寄ってくれ」
「お願いします。頼むぞキャップ」
「おうよ!じゃ、またあとでなー」
全部とはいかないが何とか買えそうな空気なので安心した。
「しかし史文恭殿と葉桜嬢は実に本が好きですな。私もいくつか数学の文献など聞いてみましたが打てば鳴くようにぴったりの本が返ってくるのです」
「数学の文献って・・・そんなものまで読んでるのか?」
いくら本好きとはいえそれはいかがなものだろうか。
「いきなりその文献に辿り着くわけではないようです。他の本に出てくる気になる単語を調べて行ったら別の本や文献に当たる、ということらしいですぞ」
「あーそれならちょっとわかるかも」
ネットで調べものなどしていると、ちょっとしたことで話題から外れていき、最終的に全然関係ない動物の生態とかに行く奴である。
「それはそうと、ここがスポーツ用品店だな」
ゴムや皮独特の匂いのする大きなスポーツ用品店に入る。
「おお・・・初めてきましたが実に多くのトレーニング、スポーツグッズがありますな!」
「あんまり目移りするなよ?こういう所は関係ないものまで欲しくなったりするからな」
「確かに・・・トレーニンググッズを見ているとむずむずいたします!」
・・・これは早く店を後にした方が良いかもしれないと士郎は急ぐのだった。
スポーツ用品店を出てすぐ、士郎はスーパーで買い物だ。
「えーっと、今日は何が安いかな・・・」
何かと消費の多い食はいつも士郎を悩ませる。お金が、ではなくメニューが、だ。
昔は虎に食事代を払わせることと、自身のアルバイトで何とかしていたが、今は鍛造という高価な商品を手掛けているのでそこまでお金に困ってはいない。
それはいいのだが、家に住む女性たちの食欲の旺盛さに困り、肉、野菜、魚と結局全部用意する羽目になっているのである。
一応メニュー自体はなんとかいじっているのだが、元の量が量なのであまり代わり映えしないのが難点だ。
「お、今日は夏野菜が特売なのか・・・カレーにでもするか」
今日はどうやら野菜系が安いようなのでカレーにしようと決めて士郎はカートを押す。
「いいものですな。道具にも食事にも困らない。これだけの量、これだけの人が一日来店しても完全になくなることはない。私の時代では考えられないことです」
「流石にレオニダスの時代と一緒じゃ進歩がないだろう?今はギリシャもこんな感じじゃないかな」
実際に行ったことがあるわけではないので分からないが、流石にレオニダスの時代と同じではないだろう。
「祖国に行ってみたい気もするのですが少し怖いですな。いつかの面影が無くなってしまっているというのも寂しいものです」
「そうだな・・・レオニダス程じゃないけど、前の世界に居た頃は世界中を回って、故郷の冬木に帰ってきたら景色が変わってたりして寂しかったな」
何気ない物でも時が経てば何かしら変化が訪れるものだ。それを受け入れ、対応していかねば先は無いのだろう。
「あ!士郎君!」
突然呼びかけられたので振り返ると、そこにいたのは源氏トリオだった。
「珍しいじゃないか。三人で買い物なんて」
「そうでもないけどね。たまたま私の川神水のツマミが無くなってきたから買いに来ただけ」
「そういう割にはきちんと献立考えてるじゃないか」
ツマミコーナーの乾物やナッツといったものではなく、きちんとした具材だ。
「・・・ちくわ、多くないか・・・?」
それだけは異様に多かったが。
「士郎君とレオニダスさんも普通に買い物か?」
「ああ。何せ食い扶ちが増えたからなぁ・・・食材がすぐ無くなって困る」
「マスター。そういうことなら私は・・・」
「それは言いっこなしって言っただろう?折角ここにいるんだから一緒に食べよう」
「・・・そう言われては、辞退できませんな」
「?」
義経は分からないが本来レオニダスに食事は必要ない。
それでも一緒に食べるのは士郎がそうしようと言うからだ。
「それはそうと、なんで義経達が買い物を?いつもは九鬼が準備してくれるんだろう?」
「え?ああ!えっと・・・自分たちのおやつは自腹なんだ!」
「・・・ネギと砂肝とちくわがおやつ?」
「「「・・・。」」」
いくら何でも無理があった。
「ま、まぁ人によりけりだよなうん・・・」
「あ、あはは・・・」
「まったく。私のツマミ用だって言ってるじゃないか。それはそうと、与一は?」
「ああ、それなのですが。与一殿は私を見るなり一目散に逃げていきました」
「なにぃ?」
ぐるぐると見回しても与一の姿はない。
それもそのはず。実を言うと、協調性のない与一は一度体育でみっちりとレオニダスに絞られた経験がある数少ない人物なのである。
団体行動を乱す輩にレオニダスは一切容赦しないので軽くトラウマになっているらしい。
「逃げ出すもなにも、普通にしてればレオニダスさんは何もしないのにね」
「レオニダスさんごめんなさい・・・源氏の大将として深く反省する」
「いやいや、義経殿が責任を感じる必要は無いように思います。誰しも誰かに 叱咤激励されて育つもの。恐れられるのは寂しいですが、それもまた彼の為と思えば、どうということもありません」
「おお。流石王様だ。器が大きい」
「義経もそうありたいと思う!ありがとうございます!」
「はっは!私などまだまだ。ですが嬉しいものです」
結局与一は姿を見せなかったが、二人と料理やツマミについて話しながら買い物を進め、士郎とレオニダスはスーパーを後にした。
「大丈夫ですかマスター。そんなに買い物袋を持って・・・」
「大丈夫。というかレオニダスには本を頼みたいんだ」
「なるほど。確かに相当な量でしょうからな。我が筋肉にお任せください!」
ぬん!と力こぶを見せつけてくるあたりレオニダスもガクトの影響を受けつつあるのかもしれない。
「おー来たな!準備出来てるぜ!」
キャップの声が聞こえてそちらに向かう。
「こいつが今準備出来る分だバッキャロー。残りは時間さえくれれば揃えられるぜ」
「ありがとうございます。お代はと・・・」
事前に預けられた札束を取り出し数える。なんとも手が震える光景だが、あれでも最強の傭兵集団の一角。その武術指南役なので現在金には困っていないと渡されたのだ。
(まったく、人前でこんな大金数えることなんてないって言うのに)
大きな稼ぎを出している士郎でも、目の前で札束を数えるなど早々ない。非常識極まりないし。
とはいえ買う量も量なので何とも言えないのだが。それくらいあのメモにはびっしり書かれていた。
「これで合ってますか?」
「じゃ、数えさせてもらうぜ。ひのふの・・・」
「キャップ。数えてもらってる間に箱に詰めておかないか?」
「心配すんな!もう箱に収めてあるぜ。それとメモの方は・・・」
レ点がついてるのは今回あったもの。△は後程準備出来るモノのようだ。
「すまないな。大変だったろ?」
「ああ、もう店長の店で大冒険してる感じだったぜ!最近は源氏ものがイケると思ってたんだがよ。それ以外だったから店の奥までひっくり返したぜ」
「それはまぁなんとも・・・」
悪いことをした、とも思うがこれが大きな収入になるのだから許してほしい。
「おう。お釣りだバッキャロー。大事に読んでくれよな!」
「それは間違いなく。ありがとうございました」
「それはこっちのセリフだぜ!んでどうやってはこ――――」
「こちらですな!ぬん!」本がぎっしり詰まった段ボールを軽々と持ち上げるレオニダス。
「まじか!これでもそこのバッキャローと二人で何とか運んでたのによ!最近の若者はすげぇな」
「これでも鍛えておりますので!そしてこれもまた鍛錬となりましょう!」
人間、持久力を鍛えるのは相当に大変なのである。筋力はあっても、ずっと何かを持ち続けるのは非常に辛いのである。
それは軽い物であっても同じなのだ。軽いもの、簡単に持ち上げられるものでも、ずっと持ち続けると手の感覚が無くなり、最後には落としてしまう。
その辺も鍛錬に取り入れているのがレオニダスのすごいところだ。なにも筋力ばかりでなくそれをキープする鍛錬も同時に行うのである。
(だからガクトはあれだけ伸びたんだろうな)
初めて会った時のガクトは一般人としては凄く強いレベルだったのに対し、今では武士娘に匹敵する強さだ。
ステゴロなのでなんとも言えないが、当時の一子と今のガクトが戦ったら間違いなくガクトが勝つだろう。
そのくらい彼は成長しているのだ。
(何だかんだ、この世界の住人としてはいいことなんだろうな。俺としては複雑だけど)
とにかく戦闘の絶えないこの世界、というか川神という場所で戦闘能力の向上は何事にも捨て難いだろう。
それで何かの職に就けるのであればなおさらである。
「マスター、あそこに見えるのは史文恭殿と葉桜嬢では?」
「ん?ほんとだ。おーい」
「あ、いたいた」
「買い出しご苦労。で、例のものはあったか?」
真っ先に本の確認をしてくる辺り本当に本好きな女性である。
「全部は無かったけど大体はあったらしいぞ。メモに今回買えたものが書いてある。それ以外は時間さえもらえれば準備してくれるそうだ」
「わぁ!よかった!ありがとう、士郎君、レオニダスさん」
「私からも礼を言う。・・・しかし、部屋が手狭になってきてな」
二人は士郎から買い物袋を分けて貰い、共に帰路に着く。
「ん?俺と帰るのか?なにか用事があったんじゃ・・・」
「ううん。士郎君とレオニダスさん、すごい荷物量だろうから迎えに行こうって史文恭さんと話してたの」
「頼んでおいて持ってこさせるのも些か礼に欠けると思ってな」
「・・・。」
予定は?と聞いたら読書、と返してきた人物にはとても思えない。
「今日の予定は読書じゃなかったのかな?」
悪戯小僧の顔で言ってやると史文恭は少し顔を赤くした。
「どうしても読みたい本が一冊あっただけだ。それに、お前の屋敷は心地いい。気を付けないと堕落しそうになる」
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。しかし本の置き場か・・・」
ここの所曹一族から送られてくる本。史文恭がその都度買い足している本。そして清楚が読む本と、本だらけになりつつある衛宮邸。
「・・・いっその事書斎でも作るか?」
「「本当(か)!?」」
「ああ。いくつか部屋を潰して大きな書斎にしよう。多少不格好になるかもしれないけど、少しはマシになるだろう?」
元々到底住めない屋敷をリフォームしたのは士郎なのだ。もう一度、全体ではなく数か所の壁を取り払って書斎にするくらい彼としては問題ないだろう。
「書斎かぁ・・・私、出てこなくなっちゃうよ?」
「寝具付きにしてくれ」
「それはダメだろう・・・」
と言いつつ、後日完成する衛宮邸の書斎には小さなテーブルとイス。そして布団が敷かれ、本好きの二人にはまたとない憩いの場になるのだった。
昼食を取った後、九鬼に呼ばれて調練をしに行くレオニダスを見送って、士郎はどうしたものかと考える。
(依頼の品は大体できてるし書斎を作るにはちょっと早計だな。図面も作らないといけないし)
やることはある。やることはあるのだが、ありすぎて、しかも優先度が大体同じなのでどれにしようか迷う。
「士郎。手すきならこちらを手伝ってくれませんか?」
「マル?何をして――――」
クマだった。とにかくたくさんのクマだった。
「これ、どうしたんだ・・・?」
「お嬢様の父上・・・中将からの贈り物です。大体はお嬢様のものなのですが・・・」
「自分のもあると・・・」
仕分けして箱に詰め直しているらしい。
「いいけど、どう手伝えばいいんだ?」
「私が仕分けるので箱に入れたものに封をしてリボンを付けてください」
「リボンまで付けるのか・・・」
あの親バカ軍人は一体何処まで親バカなのか・・・
「とりあえずこっちの奴は閉じていいんだな?」
「ええ。リボンはそこにあります」
引っ張るだけでできる簡単なやつだ。それに両面テープを張り、箱に張り付ける。
「それにしてもなんでこんなにあるんだ?」
「先ほども言いましたが中将からの贈り物です。お嬢様は川神一子に負けぬようにと日々研鑽を重ねています。その一日一日へのご褒美だそうです」
「・・・親バカにもほどがあるぞ」
なんだ。そうしたら一年365日分のクマのぬいぐるみを準備する気なのか?
「いくら何でも甘やかしすぎじゃないのか?」
「・・・ここだけの話しですが、今回のは私も同意見です。ですが、お嬢様の悲しむ顔は・・・」
それでマルギッテの方で調整して渡してるわけか。通りで部屋がクマで溢れているわけである。
「で、どうやってこの量を捌くんだ?」
「何かの記念にまとめて渡す予定です。例えば誰かから一勝をもぎ取ったとか」
「・・・。」
それは記念と言えるのだろうか。ただの戦闘の報酬みたいではないか。
「せめてテストでどれくらいの成績だったかとかにしといた方が良いぞ。腕っぷしは有るにこしたことは無いが、クリスはフランクさんの跡取りだろう?戦闘力よりも頭脳の方が大事だと思うんだが」
「――――!それは盲点でした。確かにお嬢様に必要なのは大将として率いる力。そして交渉や作戦における頭脳戦。これは方向性を変えなければいけませんね」
「って、言ったのは俺だけどいいのか?日々のご褒美なんだろう?」
「問題ありません。渡し方は私に一任されていますので」
「・・・マルの部屋は常にクマで溢れていそうだな」
見た目に合わずファンシー趣味の女の子になりそうだ。
「今、馬鹿にしましたか?」
鋭くマルギッテが察してくる。
「馬鹿にしたわけじゃなくて可愛い趣味の部屋になるなって思っただけだよ」
「・・・ッ!」
実際、大半がクリスのものだが全部ではないのだ。綺麗な棚に所狭しと飾られているのはマルギッテのだろう。
「マルギッテもぬいぐるみ好きなのか?」
「・・・嫌いではありません」
素直に答えない辺り、強情だ。そういえばセイバーもライオンのぬいぐるみを大事にしていたっけと思い出す。
それからしばらくはマルギッテと会話しながらぬいぐるみの箱詰め作業に取り組んだ。
そして夜が更け、夕食も食べて各々が自室に戻った頃、士郎は防音の結界が張られた鍛造所で剣を打っていた。
なぜ夜にやるのかと言うと、夜の方が鉄の赤熱具合がよく見えるからである。
もし、防音の結界が張られていなければ苦情ものだろう。そのくらい、中は熱気と鉄を鍛つ音で満ちていた。
と、
「士郎――――熱い!」
「林冲?」
ぶわりと強烈な熱気を浴びたのだろう。まるで火傷でもしたかのように悲鳴をあげた林冲が鍛造所の入り口からそっと顔を出していた。
「なんだ、まだ寝てなかったのか?夜更かしは良くないぞ」
「士郎だって。こんな夜遅くに・・・と言ってもしょうがないか・・・」
彼女も一級の傭兵だ。故郷の梁山泊で見知っているのだろう。
今も梁山泊には鍛造を担当する者がいるらしいが、士郎の作品には及ばず日夜がんばっているらしい。
「それで、どうしたんだ?呼びに来たんだろ?」
「いいのか?まだ鍛っている途中みたいだけど」
「ああ。コイツは試作品だからな。玉鋼を作ってみたんだ。なかなかどうして、これがうまくいかない」
実際には十分に価値ある玉鋼なのだが、士郎の解析では望んだ場所に行きついていない。
「玉鋼って・・・一人じゃ作れないだろう」
「そこはそれ、俺の秘密の精錬法さ」
それが出来なければ個人の気脈に対応した刀など打てやしない。
「それで――――ああ、君か」
「邪魔してるぜ。へぇ・・・ちいせぇけど本格的な場所だな」
入ってきたのは忍足あずみだった。
「注文の品かね?」
「ああ。受け取りに来た。遅くにわりぃが、自分で見ないと安心できないんでね」
「その気持ちは分かる。準備して、っと、このままでは失礼だな。軽く汗を流していくから居間で待っていてくれ。林冲、お茶を頼めるか?」
「わかった。忍足あずみ、こっちだ」
適当な返事を返したあずみが玄関の方に行く。士郎は注文された品、あずみの新たな短刀を持って縁側から上がり、風呂に直行して汗を流し、居間に戻る。
「待たせたな。これが依頼の品だ」
出されたケースに納められていたのは二本の短刀。柄は忍足あずみが持っているものと同じものを準備した。
「これがあたいの?冗談キツイぜ。義経の時も思ったがお前の鍛冶師としての腕は頭おかしくなるぜ」
早速短刀を抜き、自分の顔を映し出す刀身にあずみは額に汗を流した。
「違和感はないかね?」
「無い。ないどころか無さ過ぎて逆に怖え。今携えてる、今さっきまで使ってた愛刀のほうに違和感を感じちまう」
「それは風魔で鍛えられたものか?・・・ああ、秘密なら言わなくていい。ただの好奇心だ」
風魔というのは士郎の世界にも存在したが、まさか今この時代まで生きている風魔はなかなか見ない。
「別にもういいけどよ。確かにあたいのは風魔でこしらえたもんだ。だから準備なんかしなくていい、そう思ったんだけどよ・・・」
ヒュン、ヒュン、と短刀を振る忍足あずみ。
「まてまて、室内で振り回すな。外に試し切りの素材が置いてあるからそれで試せ」
「悪い悪い。想像以上に手に馴染むんでよ。で、どれだ?」
「そこにあるだろう。藁人形、畳、そして鉄板だ」
「鉄板!?あたいに斬鉄しろってか!?」
「出来るだろう?いや、そちらはやってもやらなくてもいい。例の機構を使ったらどうなるかだからな」
「マジかよ・・・まさか義経の刀も?」
「ああ。完全・・・とは言うまい、50%くらい使えてればあれくらいはバッサリだ」
「・・・。」
それを聞いてあずみはまず藁人形と畳を切る。
「あん?確かに切ったが・・・」
どちらもそのままである。
「突いてみたまえ」
「・・・。」
士郎に言われた通り指先で突くと、切られたのを思い出したかのように倒れた。
「まじか。これで十全じゃない?頭おかしいぜ」
「ふむ。なかなかいい出来だ。次は斬鉄、してみるかね?」
「ここまできたらやってやらぁ!」
チャキ、と構えるあずみに士郎は待ったをかけた。
「こら。何のために君の一部を練り込んだと思っている。きちんと活かせ」
「そうだった」
そのままでも彼女は切るだろうが、鉄板を用意したのは気による強化を体験するためだ。
「?・・・??」
「ああ、違う違う。こうするんだ」
またもや纏わせようとする川神人に嘆息して士郎は後ろに回って忍足あずみの手に自分の手を重ねた。
「おいテメェ。しれっとあたいに――――」
「集中しろたわけ。それとも義経に何歩も先を歩かせるつもりか?」
「・・・。」
流石にそれは困るとあずみは黙った。彼女達は導く側でなければならないのだから。
――――
「――――ッ!」
まるで内側から手の先に刀があるように士郎の魔力に引きずられて短刀の気脈にあずみの気が通った。
「この感じだ。外ではなく内側の通り道に流す。だが忘れるな。それは刀の血管にして神経だ。流れは均一でなければならない。量も均一でなければならない。いくらでも余分な分を発散できる『外』とは違う」
「ああ――――これは想像以上に――――」
心地いいとあずみは思ってしまった。まるで士郎の手に導かれるように気が流れていく。それまでの使い方がとても雑に思えるほどに澄んだ気の通りだった。
「よし、では手を放すぞ」
「――――あ」
いつの間にか士郎に背中を預けていたのに気づき、慌ててあずみは刀へと集中する。
先ほどの様にはいかないがそれでも義経よりしっかりと扱えていた。
「そら。短刀を振り下ろしてみるといい」
「テメェ。後で覚えとけ、よッ!」
ザン!と今度は確かに何かを切った音がする。
「・・・。」
「どうかね?新鮮な気分か?」
「・・・ああ。正直、ずっと・・・んんっ!!」
なぜかあずみは咳払いをした。
「?どうした?咽たのかね?」
「うるせぇ!とにかく凄かったよ。これでも色んな武器を試したがこれが一番だ。これ以上のものはねぇってくらいにだ」
「そうか。ならばよかった」
そう言って士郎は笑った。
「んだよ・・・そういう顔も出来んじゃねぇか・・・」
「どうした?まだ試し切りしたりないのかね?」
「なんでもねぇ!それより金の話だ――――」
あずみはあえてお金の話を出したが、そもそも依頼者は九鬼英雄なので九鬼から振り込まれるので特に問題はない。
それが照れ隠しだと気づかず、士郎は真面目に話を聞くのだった。
――――interlude――――
士郎が忍足あずみと話しているころ、レオニダスは屋根の上からその姿を見ていた。
(マスターは罪作りな男ですなぁ・・・)
ちょっとしたことで相手を魅了する。いや、腕の立つ者であればあるほど、彼の精密さと危うさに惹かれていくのだ。
(ですが、マスターのそれは魔術師としては危険極まりないもの。もしもの時はしっかりお止めせねば)
誰が知ろう。魔術回路を一から作るという行為を何年も続けたという馬鹿げたことをやっていたとは。
本来起動させたらそれをオフにするだけだというのに。
ただ愚直に前へ進もうとするその姿は男女問わず魅了してやまないのだろう。
(大丈夫です。貴方にはこのレオニダスがついております。貴方の思うがまま、真っ直ぐに進んでください)
いつの日か。この身が座に帰るその日まで。レオニダスはこの危ういマスターを守り続けようと誓った。
上手くかけましたかね…レオニダスも結構マジ恋世界を満喫しております。彼からすればミルク味のプロテインとかもう最高でしょうね(笑)
最後にちゃっかりでました忍足あずみ。そろそろねー彼女も絡んでこないと…といいながらもう二人、急いで出さないとヤバイ人達が…一人は入学時期ズレちゃう一人は多摩川のほとりで凍死しちゃう…忙しすぎる!!!けど、頑張ります。
では!