真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。どうにも目がかすんで執筆が上手くいかない作者です。

今回はまゆっちのお父さんがやってきます。理由は…まぁ原作やってる方ならわかるかも。

ただし当然原作通りとはいかないのでその辺楽しめたらなと思います。

では!


剣聖黛十一段/父として

黛由紀江の妹、黛沙也佳が北陸から川神にやってきて数日が経った。別段大きな変化はないように見えたが、

 

「このくらいでしょうか?」

 

「悪くはないけどここでこれを足してもう1~2分するといいかも」

 

「なるほど!そうすると味に深みが出るんですね!」

 

衛宮邸では大きな変化が生まれていた。

 

「ああ。こうすると結構味に差が出ていいんだ。癖がある食材を使う時はさっきの由紀江の感じでいいと思うぞ」

 

「確かに、癖がある食材だと味がぶつかってしまうかもしれませんね」

 

由紀江の料理教室が日課になりつつあり、

 

「士郎先輩本当にすごいです。まさか作り置きの出汁まで準備してあるなんて・・・」

 

「そうか?暇なとき作っておくと後から楽だからやってるだけなんだが・・・ああでも、この前おっちょこちょいの先輩が麦茶と間違えて飲む事故はあったな」

 

「おいそこ!俺の数少ない失敗を軽々と教えるな!」

 

「隙ありです!」

 

「無いわ!」

 

沙也佳ちゃんの鍛錬も最近衛宮邸で行われている。

 

なぜこんなに日常が変化したかというと、犯人はやはりこの沙也佳である。

 

少しでも多く姉にチャンスを与えようと、姉は料理教室を、自分は鍛錬を目的に衛宮邸にお邪魔するようになったのだ。

 

「そら小娘!足が止まっているぞ!」

 

「それは止まりますよ!そんな大きい武器相手にこっちは小太刀ですよ!?」

 

清楚が方天画戟を振り回すのに対し、沙也佳は士郎の打った小太刀である。

 

元は刃引きされた刀の方が良いのかと思ったら彼女は刀の稽古をしたことが無いらしく、木刀もキツイという事で小太刀に収まった。

 

「黛沙也佳。小太刀は基本防御の型です。攻める時は体術が必要と知りなさい」

 

「無理に小太刀に絞らなくともいいですぞ!私の様に槍を使うのもいいかと思いますッ!」

 

「確かに。間合いを考えるとその方が良いかもしれないな。基本長物と短剣ではリーチの差を埋めるのに三倍の腕前が必要とされる」

 

「はぁ!はぁ!・・・ふぅ。御指南ありがとうございます。でも、これでも剣聖の娘なので、なるべく刀で行きたいんです」

 

「刀にも色々ある。短剣、小刀、打刀、大刀と大雑把でもこれだけある」

 

「使いやすさで言うなら忍者刀って手もあるぞ。長さも手ごろで色々な手段に使える」

 

「そ、そんなものまで作ってるんですか!?」

 

「ああ。俺は西洋剣から日本刀、武器は一通り作ってるぞ」

 

本当は剣の類が主なのだが、なにせ傭兵団から九鬼財閥まで武器を供給しているので中にはマニアックな武器を使う者がいるのだ。

 

その為に試し打ちも何度かしているのでそろそろ武器庫を整理しなければならない。(失敗した物は溶かして調理道具行き)

 

「士郎先輩は本当に鍛冶師として優秀なんですね・・・」

 

「士郎を越える鍛冶師は居ないと知りなさい。そういえば、頼んでいたものは出来ましたか?」

 

「出来てるぞ。作りが特殊過ぎて大変だったがなんとかな」

 

そう言って士郎は武器庫に降りていき、一本の手に収まる短い棒を持ってきた。

 

「なんですか、それ?」

 

「護身グッズ、って言えばいいかな」

 

上のボタンのようなものを押して離すと中の伸縮棒が展開して一本の棒になった。

 

「おお!如意棒ですね!」

 

「一応な。戻すときはこっちのボタンを押して・・・」

 

スルスルと棒が短くなって手のひらに収まる程度になった。

 

「で、マルに頼まれたのはコレ」

 

今度は一対の取っ手のような棒を持ってきた。

 

「握って親指の所のボタンを押すと・・・」

 

シャキン!と取っ手のサイドが展開して簡易トンファーになった。

 

「おおお~!すごいすごい!」

 

「マル、感触はどうだ?」

 

渡した伸縮トンファーをしばらく振り回した彼女は満足そうに頷いた。

 

「及第点と言って良いでしょう。手軽に携帯出来るのなら多少強度が落ちるのを覚悟していましたが・・・なかなか強度もあるようです」

 

「元々携帯性に優れた武器だからな。そこは流石に元からトンファーの形をしたものには勝てないぞ。ただ、色々工夫してあるから早々壊れもしないと思う」

 

ヒュンヒュンと振り回しながら調子を確かめるマルギッテ。

 

「ふむ。黛沙也佳。次は私とやりますか?」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

勇んで鍛錬に望む沙也佳だが、

 

「沙也佳ちゃん、あんまり無理しなくていいんだぞ?」

 

「そうですよ。いつも私とやっている時間よりも長く鍛錬していますよ」

 

流石に長くやりすぎだと士郎と由紀江は判じた。しかし、

 

「ううん。士郎先輩の家って達人クラスの人が沢山いるでしょ?今までお父さんとお姉ちゃんとしか鍛錬したことないからいい機会だと思うの」

 

「確かにそうですが・・・」

 

やりすぎもまたよくないと由紀江は心得ている。

 

「それに!士郎先輩のおかげで扱う武器を何にするか決められそうなの!」

 

「!本当ですか?」

 

「うん!なんかこう・・・掴めてきた気がするの。この子には申し訳ないけど、確かにもう少し長い・・・さっき言ってた忍者刀とかぴったりだと思う」

 

「ほう・・・士郎!忍者刀を準備しろ!」

 

「作ってはいるけど・・・刃引きされてない。ちょっとまて――――」

 

――――投影、開始(トレース・オン)

 

「!」

 

士郎の手に忍者刀が現れる。由紀江は実のところ実際に投影を見るのは初めてなので相当に驚いた。

 

「ほら。これを使ってみるといい」

 

「あ、ありがとうございます・・・あの、「今のは秘密だ」は、はい・・・」

 

突然手元に刀が現れたのを見た沙也佳は呆然とそれを受け取った。

 

「今は刀だけだけど、ロープ・・・ワイヤーみたいなものがあると幅が広がるかもな」

 

「忍者だけに色んな使い方をするわけですね。ちなみにこれは士郎先輩の・・・」

 

「あー・・・違うぞ。そうだなぁ・・・」

 

士郎は悪戯心が湧き、

 

「戦国時代の有名な忍者が使ってた・・・かもしれないな」

 

「ええ!?」

 

「こ、これ宝刀なんじゃ・・・」

 

「それはない。それは贋作だよ」

 

「贋作・・・?」

 

スラリと鞘から抜いた刀身は非常に美しい。こんな品を持って戦国時代を駆けたというのは非常にロマンのある話だ。

 

「準備は良いですね。行きますよ?」

 

「は、はい!」

 

彼女は一時刀に見とれていたのに気づき、慌てて構えた。

 

(あ、これ使えるかも)

 

抜いた鞘を片手に本能的に沙也佳はそう感じた。刀は元より、鞘の方も使えそうだと思ったのだ。

 

互いに新しい得物を手に鍛錬を開始する沙也佳を見て、由紀江は、

 

「大丈夫でしょうか・・・」

 

「マルたちなら大丈夫だと思うけど心配か?」

 

「いえ、沙也佳が私の為に無茶をしていないかと・・・」

 

「ん?由紀江の為?」

 

「あ!ななななんでもありません!!」

 

ボン!と顔を赤くしてパタパタと台所に駆けて行く由紀江に士郎は首を傾げていた。

 

 

 

 

 

そんな日々が、彼女が帰るまで続くのかと思ったらそうはいかなかった。

 

「初めまして。君がこの太刀を鍛えたという青年だね。私は黛大成。由紀江と沙也佳の父だ」

 

「これはどうもご丁寧に。私は衛宮士郎と申します。つまらない家ですが、どうぞ」

 

なんと。由紀江と沙也佳の父親が衛宮邸にやってきたのだ。

 

(なんだか千客万来だな)

 

由紀江が桜の様に通うようになってから数日が経ち、遂に父親まで来るとは。

 

(これはなにかあるな)

 

由紀江は何も言わないが、恐らく沙也佳とこの父親の間で何かあったのだ。そうであれば連絡も無しに急に姉の様子を見に来たことにも説明がつく。

 

(となると、親子喧嘩での家出ってとこか。これは参ったなぁ)

 

目の前の御仁は、流石人間国宝とされるほどだ。武士のような装束に二本の刀を帯刀している。

 

その上隙がない。こうしてお茶を飲んでいる時でさえ、こちらが剣を取れば即座に反応してくるだろう。

 

間違ってもそんなことはしないが。剣を向ける必要もないのだから。

 

「急な来訪すまないね。この太刀を受け取ってから是非ともこれを鍛った鍛冶師に挨拶がしたいと思っていてね。本当に、素晴らしい物をありがとう」

 

「いえ、私の作品を気に入って頂けたなら何よりです」

 

「ちなみになんだが・・・一応聞いておいていいかな。これを鍛えたのは本当に衛宮君なのかな?ああ、疑っているのではなく、こうして目にしても信じられないという気持ちなのだ」

 

当然と言えば当然だった。九鬼との関係を築いてから、割となにしても、士郎だしね、で終わる(周りは全くそう思ってない)のでどうにも気が緩んでいるのを再確認した。

 

「間違いなく私が鍛えたものですよ。まだ学生の身なので銘は衛宮ではありませんが」

 

「そうか・・・いや、疑うようなことを言って申し訳ない。このような素晴らしいものを由紀江と同世代の青年が鍛えようとは想像もつかなくてね。由紀江は私を越えたがまだ成長途中だ。それに比べ君の腕前はもはや魔法の域だ。いかにしてこの様なものを作り出せるのか聞きたいものだ」

 

「あはは・・・そう言ってもらえると悪い気はしませんが、由紀江の剣の腕と比べられてしまうと私も困ってしまいます」

 

「はっは!あれでも自慢の娘なのでね。・・・少々特殊な子に育ってしまったが、それは私の責任だな・・・」

 

それまで凛とした雰囲気だったのが急に普通の父親の様になった。

 

「由紀江には私の跡取りとなってもらうべく小さな頃から厳しく稽古をつけていた。腕は上がり、ついには私を越えた。だが、同時に孤独を味わわせてしまった」

 

「・・・私に子育ての経験はありませんが、親の思う通りの子供が出来上がっても、それは・・・魂の宿らぬ人形でしょう」

 

それはいつかの自分の様に。教えられたこと、出来るようになったことを文句も言わず、疑問も抱かず、ただそれが当たり前だというように繰り返した自分と同じだ。

 

「すみません。出過ぎたこと言いました」

 

つい言葉に出てしまったことを恥じ、怒鳴られても仕方ないと詫びる。

 

だが・・・

 

「いや。君の言う通りだ。それ故に私は由紀江を北陸から出したのだ。そうでもしなければ私はあの子の大事なものを奪い去ってしまう。そんな危機感を感じたからこそ、由紀江が川神に来たいという願いに応じた」

 

しかし、父親は納得がいかないようだった。

 

「あの馬の飾りは私が由紀江に作ったものだ。孤独に耐える由紀江に何かできないかと作った。しかし、それが・・・」

 

「妹さんにも言いましたが、あれはあれで本人の出しづらい本心を言っているのですからそれはそれでいいのではないかと。もちろん特殊な子になってしまいますが、それもまた個性ですから」

 

「そう・・・だろうか・・・すまない。こんな話をするつもりではなかったのだが」

 

「いえいえ、お気になさらず。自分などで良ければお話しをお伺いしますよ」

 

ただ最強の剣豪を作り出す。そんな父親ではなく、彼なりに良い父足らんとしたことに士郎は安心した。

 

「ところで、今日は由紀江達は来ないのかね?最近料理と鍛錬にこちらにお伺いしていると聞いたが」

 

「もうそろそろ来ると思いますよ。黛さんは今どちらに寝泊まりを?」

 

「ああ、今は川神院にお世話になっている。それですれ違ったか」

 

「そうですね。彼女達が来るのはもう少ししてからですから」

 

「できれば待たせてもらってもいいかね?」

 

彼の言葉に士郎は特に気にすることなく頷いた。

 

「もちろんですよ。それに妹さんの方が刀ではあるんですが面白い武器を身に付けようと頑張っているんです」

 

「ほう。それは見過ごせないな。跡取りは由紀江にと決めていたが沙也佳が弱いままでいいとは私も思ってはいない。鍛冶師である君の所に来るのは良い刺激となっているようだ」

 

満足気に大成は何度も頷く。

 

「彼女には剣術を教えなかったんですか?」

 

「いや、教えていなかったわけではない。だが、比重は由紀江の方に傾いていたかな。それに跡取りの問題もあったからね」

 

「なるほど。妹さんも立派なものですよ。ここには皆ある理由で達人クラスの人間が四人いるんですが、彼女等と日々鍛錬に打ち込んでますからね」

 

その言葉に何処か安心したため息を吐いた大成に士郎ははて、と内心首を傾げる。

 

(なぜこのタイミングで安心を?彼女は父親に無断でここに来たのか?いや、家出の可能性があるならそれも当然か)

 

懸念点はあるが、とりあえずお茶を飲みながら目の前の御仁と話をすることにする。もうしばらくすれば彼女等も来るし、どうしてこのように父親が頭を悩ませているのかわかるだろう。

 

 

 

―――――この時はまだ、あんなことになるとはつゆとも知らなかったのだが。

 

 

 

――――interlude――――

 

士郎が黛大成と話している間、史文恭、林冲、清楚、マルギッテは最近できた書斎で話し合っていた。

 

「あの剣聖が来ているなら是非とも挨拶しておきたいところだが」

 

「どうやら訳ありのようだし、事態が落ち着いてからの方がいいかもしれない」

 

「訳あり?もしかして沙也佳ちゃんですか?」

 

「ああ、確かに。彼女はなにか隠している様子でしたね」

 

「マルギッテさん分かってたの?」

 

さらっと言うマルギッテに清楚が驚いた様子で聞き返した。

 

「当然です。これでも猟犬部隊ですので。何か隠し事をしているのはすぐに分かります」

 

「隠し事・・・確かあの娘は急に来訪したんだったな?」

 

ぺらりと本のページを捲って史文恭は問うた。

 

「ああ。姉の黛由紀江にも言わずに来たとか。抜き打ちで姉に友達が本当にできたのか確認に来たと言っていたが・・・」

 

「そういうことなら簡単だ。家出だな」

 

「コフッ」

 

家出という単語に清楚が咽た。

 

「貴女も家出でしたね」

 

「ち、ちが、くないかも・・・」

 

言われた清楚が沈黙する。彼女も育ての親からではないが、一応九鬼預かりなので家出となる。

 

結局のところ、彼女は今も九鬼に戻る気はなく、卒業したら引き続き士郎に頼り、大学を出るまでいるつもりである。

 

「しかしなぜ家出などしたんだろうな。自分には・・・正直、不満を持つような父君には見えない」

 

「今は中学生だったか。反抗期・・・と言えなくはないだろうが、他に理由がありそうだな。まぁ、私達には関係ないことだ。精々、家主がトラブルに巻き込まれる程度だろうよ」

 

「「「・・・。」」」

 

史文恭の言い分にそれもどうなんだ、という空気が出るが、彼女の言う通りの結果になるだろうことは分かり切っているので、士郎の無事を祈るしかないのだった。

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

「足運び悪し、体捌き悪し」

 

ぺシンと足と腰を軽く叩く音が聞こえる。

 

「あう」

 

「すごいな。お医者さんみたいだ」

 

それは衛宮邸の庭で一子が大成さんに稽古をつけてもらっている姿だった。

 

「へぇ・・・ああして悪い所を指摘して意識させるのか」

 

「はい。父上はいつもあの形です」

 

今日衛宮邸に来ているのは由紀江、百代、一子それと・・・

 

「・・・。」

 

忍足あずみだった。

 

「おい。あたい場違いだろ」

 

「そんなことは無いと思うが。何をそんなに警戒しているのかね?」

 

「警戒なんざしてねぇよ。ただ、あの剣聖みたいな奴を見ると・・・どうも背中がむず痒くて仕方ねぇ」

 

そう言って黒いブラウスの上から両肩をさするあずみ。

 

なぜこの場に彼女がいるのかと言うと、清楚の様子を見るのと件の剣の鍛錬の為である。

 

一応九鬼でも鍛錬しているらしいが、切れ味が真剣のそれを軽く凌駕してしまうので迂闊に鍛錬ができないらしい。

 

それで良い方法はないかと彼女自身が聞きに来たわけだ。

 

「まぁ、いいじゃないか。たまには若い「ああん?」中に交じって鍛錬というのも」

 

短刀を突きつけられても飄々と笑っている士郎である。

 

「あの、やめてください」

 

「・・・別に本気じゃねぇよ」

 

「そうだぞ由紀江。これも彼女の恥ずかしがり――――っと」

 

今度こそマジで振り抜かれた短刀を避けて士郎は笑う。

 

「方なのだよ」

 

「チッ・・・」

 

「士郎先輩口調が外行きな上にあずみさんは本当に振り抜きました!」

 

「なんてあぶねぇやり取り!」

 

「なに。こちらはこの方が色々とやり易くてね――――それよりいいのか?集中していなくて」

 

「ぐっ・・・」

 

指摘されて大人しく座って短刀に気を込めるあずみ。その手を士郎が優しく包んでいた。

 

「また外側に流れているぞ。外ではなく内だと言っているだろう?」

 

「っるせぇ・・・!そんなホイホイ出来ねぇから来てんだろうが・・・!」

 

「・・・。」

 

罵詈雑言を放ちながらなされるがままのあずみに由紀江は胸が苦しくなり、

 

「あの、どういう鍛錬なんですか?」

 

思わず聞いてしまった。

 

「これは・・・そうだな、魔剣の鍛錬だ」

 

「ま、魔剣!?」

 

随分とファンタジーな単語が出てきて驚く由紀江。

 

「どういうものかは――――そうだな、実物を見てもらった方が良いだろう」

 

「あ、おいまてテメ――――」

 

――――同調、開始(トレース・オン)

 

インッっと短剣が淡く光る。

 

「え?ええええ!?」

 

「・・・ッ!」

 

「ほら。導いたのだからそのまま維持するだけだぞ」

 

「わか・・・てんだよ・・・!」

 

あずみはどうにもこの感覚に慣れないでいる。実際は、士郎が短刀に魔力を流すのに釣られてあずみの気が流れているのだが、

 

「っくしょ・・・なんで・・・」

 

心地よいのだ。普通他人の気に自分の気が引っ張られたら気持ち悪いはずなのだが、この男のそれは非常に心地いい。

 

それは魔力と気が同系統の力であるからだ。どちらも生命力を力としているのだが士郎は魔力に変換し、規則正しく一定量を流すのに対し、

 

「・・・よし。手を放すぞ」

 

「――――あ」

 

途端に短刀の光が弱くなったり強くなったりする。つまるところ不規則なのだ。

 

「・・・くっ」

 

「あわわ!あずみさん光が消えてしまいます!」

 

「うるせぇ!・・・あ」

 

由紀江に吠えた勢いで集中が切れ、光が収まってしまった。

 

不規則なものを軌道に乗せて一定のリズムになるから心地いいのだが、あずみはその心地よさに英雄に対する背徳心が募ってしまうのだ。

 

・・・ただの鍛錬なのにだが。

 

「これは、随分と時間がかかりそうだな」

 

「くっ・・・摸擬戦の時はそこそこうまくいくのになんで・・・」

 

「それは動いていない状態で気を流すこと、維持することに慣れていないからだ。君たちの気の運用は例えば筋肉と同義だ。必要な時や咄嗟のタイミングで流れる。それを常に出し続けるというのはそれに逆らったやり方だ」

 

そう言って士郎はあずみの持つ短刀と同じものを投影して、淡く青い光を纏わせながらヒュンヒュンと振る。

 

「そういう風になるんですね」

 

「あくまで一段階目はな。二段階目は光らない。忍足あずみの短刀は忍足あずみにしか本領を発揮できない。俺じゃこれが精一杯ということさ」

 

「ッケ。なーにがあたいの武器にはあたいしか本領発揮できないだ。現状、その一段階目に到達出来てる奴なんていねぇだろうが」

 

「そうでもないぞ?林冲が発動、維持まで出来るようになっている。最初こそ君と同じように苦労はしていたがね。なんでも、コツが掴めたそうだ」

 

「なんだと!?おい、もう一回だ!このままじゃあたいは英雄様を守れねぇ!」

 

「もう少し頼み方というのがあるだろうに・・・」

 

はぁ、とため息を吐いて士郎はもう一度あずみの両手に手を添えた。

 

 

 

 

 

しばらくして一子と大成が鍛錬を終えてこちらにきた。

 

「お疲れ様です。こちらをどうぞ」

 

「うむ。かたじけない」

 

「ありがとー!」

 

二人分のタオルと冷たいお茶を準備した。

 

「あずみさんと士郎は魔剣の鍛錬か?」

 

「ああ、そうなんだが・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・くっそ」

 

息を荒くしてぐったりとするあずみ。

 

「気の放出のし過ぎだな。放出ではなく内に込めるんだと言っているのに外側に放出しまくってるからこうなった」

 

はぁ、と士郎はため息を吐いた。

 

「すこし、いいだろうか」

 

「あ、はい」

 

汗を拭っていた大成が士郎に問いかけた。

 

「どうやら特殊な鍛錬をしているようだが、それは君の鍛えたこれでも出来るのだろうか?」

 

大成は腰に差した一振りを腰から抜いて見せた。

 

「いえ。それには必要な加工がされていないので無理だと思います。彼女の短刀は特殊な加工をしてあるんです」

 

「ふむ・・・見た所、気のコントロールが必要な剣という所かな。私も一振り欲しくなってしまう」

 

「ち、父上!?」

 

剣士がそうポンポンと剣を変えるのは恥ずべき行為だろう。だが、

 

「もちろん恥ずべき行為だとは思うのだがね。衛宮君の鍛える品は文字通り次元が違う。あまりに隔絶した得物を扱っているとなんだか自分の武器が棒切れに見えてしまう。弘法筆を選ばず、というが弘法だからこそ筆にもこだわりたくなると思うのだよ」

 

そう言って大成は士郎に頭を下げた。

 

「失礼なことをした。折角君の打ち上げた一振りを使わせてもらっているのに不躾なことを言った」

 

「いえ、黛さんの言う事が正しいと思いますよ。弘法だからこそ筆を選ぶ。まさにその通りだと思います。作りますか?」

 

「い、いいのかね?」

 

あまり驚かない大成が思わずのけぞった。

 

「はい。剣聖に使っていただけるなら嬉しいです。ただ、特殊な製法になりますのでいくつかルールを守って頂くことにはなりますが」

 

そう言って士郎はあずみを見た。

 

「わかってるわかってる。こっちで面倒みりゃあいいんだろう?問題ねぇ。とっとと触媒作っちまいな」

 

そう言ってヒラヒラと手を振った。

 

「由紀江はどうする?由紀江もお父さんと同じように新しく作るか?」

 

「・・・。」

 

由紀江は困ったようにいつも手にしている刀を見る。

 

「あの・・・士郎先輩。どうしても新しくしないといけないでしょうか?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

由紀江の問いがいまいち分からない士郎は問う。しかし、返答は別なところから来た。

 

「由紀江が言いたいのは今の刀を打ち直して使えないか、という事だろう。由紀江にはその刀を魂だと思うように教育したからね」

 

と、大成が言った。

 

「なるほど。そうだな・・・」

 

士郎は考える。由紀江の刀を素材としてどう生かすか。

 

「・・・。」

 

「・・・やれないことは無い。ただ全部は流石に厳しい。何割かを引き継がせる。それでどうだ?」

 

「ッ!ありがとうございます!」

 

「娘共々礼を言わせてほしい。こんな本当に世界に一つしかないものを作ってもらえるなど、いくら感謝してもしきれない」

 

「本当にありがとうございます!」

 

「いえいえ。こちらこそ創り手冥利に尽きますよ。じゃあまずお二人の髪の毛を二本ほど頂こうかな。あ、まだ抜かないでくださいね」

 

そう言って士郎は鍛造所に例の台座と試験管を取りに行った。

 

「髪の毛?まさかそれを練り込むのかね?」

 

「正確には髪の毛から抽出した特殊な触媒を練り込んで刀を作るんです。説明をいたしますのでこちらにどうぞ」

 

と、忍足あずみは社会人モードに切り替えて大成と由紀江を居間へと案内した。

 

「あずみさん、しれっと士郎の家に馴染んでないか?」

 

面白く無さげに百代が言った。

 

「あはは・・・ほら、葉桜先輩の事があるからきっとよく来るのよお姉さま」

 

「むー」

 

むくれる百代を宥めて二人も縁側から居間に入った。

 

 

 

 

 

「おお。これが魔法か・・・本物に出会えるとは長生きはするものだ」

 

「こうやって作るんですね・・・」

 

二人から髪の毛を頂いてそれぞれ別の試験管と台座に入れる。そうすると始まるのは以前も見た魔術反応だ。パチパチと弾けるそれを見て感慨深そうにみる父子。

 

「いつ見ても不思議よねぇ・・・」

 

「ワン子の薙刀もああして作られたんだよな?」

 

「うん!私も髪の毛入れて、パチパチーって!でね・・・」

 

続きを言う前に触媒の精製が終わった。

 

「あ!なんだか結晶みたいになりました!」

 

「ううむ・・・溶けているのかと思ったのだが違うのか・・・魔法とはかくも不思議なものだな・・・」

 

出来た結晶をそれぞれ宝石箱のようなものにピンセットで収める。

 

「これで触媒は終わりです。あとは二人の手を御量りして・・・希望があればそちらもお聞きします」

 

「そうか。では早速頼むとしよう」

 

「はい、父上」

 

そう言って士郎に手を図ってもらい、希望の長さや反り、刃文などを聞く。

 

のだが。

 

「ちょ、ちょっとまてコラ!刃文まで聞くってどういうことだ!?」

 

忍足あずみが待ったをかけた。

 

「・・・?。ああそうか。今までは元があったから聞かなかったんだ。焼き入れの仕方が分かればいいだけだから大体は期待に添えるぞ?」

 

「焼き入れの仕方って・・・お前それ極意の一つだろうが」

 

「私はちょっとしたずるが出来る。だからだよ。これ以上は秘密だ」

 

そう言って士郎は肩をすくめてノートを取り出した。

 

「さて、お二人の希望を聞きましょうか」

 

「刃文まで選べるか。これは胸が躍るな・・・!」

 

「はい!士郎先輩、よろしくお願いします!」

 

そんなこんなで本人にしか分からないワクワクをぼうっと眺めながら一子と百代は携帯をポチポチしていた。

 

(お姉さま、そっちはどう?)

 

(んー、なんとかなりそうだ。結局は正直に言って、行動を改めてもらう。っていうことにしたみたいだぞ)

 

沙也佳は今日秘密基地で隠していたことを打ち明けて打開策を練っているのだった。

 

彼女はこちらにくる際、お見合いを進めようとする父に彼氏がいると言って出てきたようなのだ。

 

それは真っ赤な嘘だったわけだが、そうでもしないと父は納得しないと読んでの事だったので一概に責められないのも確か。

 

それで仲間達で相談をして後から合流する予定なのだ。

 

「刃渡りは・・・」

 

「反りはですね・・・」

 

「はい。うん。はい」

 

「こりゃ、長くなるな」

 

そう察したあずみは仕方なく勝手知ったる衛宮邸という事で台所で給仕するのだった。

 

 

 

 

 

そうしてしばらく。希望を聞き終え、作成中無手というわけにはいかないと士郎は武器庫に案内して好きな物を選んでもらい、由紀江に貸し出した。

 

その時の大成の感想は、

 

「実に良いものを見た。まるで美術館の様だったな」

 

と見る方も満足してもらえたようだ。

 

そして夕暮れ。何だかんだ長く衛宮邸に居た一同はそろそろお暇するか、という空気になっていた。

 

「それにしても沙也佳はどうしたんだろうか・・・また私がなにかやってしまっただろうか・・・」

 

「今こちらに向かっているそうですよ。それより父上、沙也佳にお見合いを迫ったそうで・・・」

 

由紀江の言葉に難しい顔をする大成。

 

「私としては沙也佳に選択肢を広げてもらいたかったんだが・・・」

 

「沙也佳も言っていましたが逆効果ですよ。私だってやられたら嫌です」

 

「むう・・・」

 

「今回ばかりはお互いに謝りましょう」

 

「そうだな・・・私もこのままでは・・・」

 

そんな時だった、ピピピ、と士郎の携帯が鳴った。

 

「ん?大和から?もしもし?」

 

『士郎か!?頼む!沙也佳ちゃんが攫われた!』

 

「なんだと!?」

 

事態は急展開を迎えていた。

 

 

 

 

――――interlude――――

 

「な、なんなんですか、貴方は」

 

「よくぞ聞いてくれた、の。綾小路麻呂でおじゃる」

 

そう言って白粉を塗った白い顔を崩して笑う麻呂。

 

「んほぅ、やはり実物は写真より可愛い・・・」

 

「その麻呂さんが一体なんの用ですか」

 

気持ち悪そうにしながら沙也佳が問う。

 

「麻呂は、お前の見合い相手だった男でおじゃる」

 

「えっ・・・」

 

噓でしょ、とばかりに沙也佳は固まった。

 

「お前の写真を見た時、麻呂はときめいたものでおじゃる。こう・・・少し頬の周囲がまるっとして可愛いのがいい、の」

 

「な、なんだか失礼な・・・」

 

それは言外に太っていると言われているようだった。

 

「決して太っているわけではなく、女性ならではの丸み・・・麻呂のような高貴なものに受ける容姿でおじゃる」

 

「でもお見合いはお断りしたはずです」

 

鳥肌を浮かばせながら、それでも彼女は気丈に言った。

 

「その通り、そして麻呂は諦めた・・・諦めようとしたが・・・麻呂は知ってしまったのでおじゃ」

 

「?」

 

今一度ブルリと寒気がして沙也佳は息を飲んだ。

 

「お前が衛宮士郎の家に通い詰めているのを!交際相手がいるとのことであったがそれが衛宮士郎ならば別!なぜ麻呂があのものに思い人を取られねばならぬのだ!」

 

(この人士郎先輩となにかあったのかな?)

 

妙に衛宮士郎を敵視する目の前の男に沙也佳は疑問を抱いた。

 

「麻呂は認めぬ!認めぬぞ!」

 

「そんな理屈、通りません」

 

「それが通る。綾小路とはそれだけの力を持っている、の」

 

「勝手なこと言わないでください。私は好きな人といたいです」

 

毅然と彼女は言った。しかし・・・

 

「素直じゃない・・・の」

 

「そういうネタはNGです!」

 

「まぁいいわ。麻呂を好きになれば問題ないの」

 

「それはどういう・・・」

 

ゾワリと一層の寒気がする。

 

「別に手荒な真似はしないでおじゃる。部屋も最高級のものを用意するでおじゃ。その代り・・・」

 

「その代り・・・?」

 

「毎日麻呂と遊んでもらうでおじゃる」

 

「!?」

 

それは監禁だ。完全に遊び道具と思われている。彼女はそう思った。

 

「まずは交換日記ならぬ交換文からはじめてみる、の。くっふっふっふ、麻呂についておいで」

 

「き、気持ち悪い・・・」

 

遂に彼女は自分の気持ちを口に出した。

 

「失礼なことを言うなーっ!!」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「ここは別邸とはいえ綾小路の家でおじゃる。助けは絶対に来ない、の!」

 

「士郎先輩・・・!」

 

いつか見た赤い英雄。姉が想いを寄せる彼の名を無意識に呼んだ。

 

「ああ。呼んだかな?」

 

ぎゅ、とお姫様抱っこされて沙也佳は、

 

「え?」

 

呆然とその顔を見上げた。

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

「な、なな、衛宮士郎!?なぜここに」

 

「なぜ?貴様は相変わらずおつむに花でも咲いているのかね?攫われた彼女がここにいる。それだけで私がここに来るのは必然だが」

 

「し、士郎先輩・・・」

 

「遅くなってすまない。色々手回ししていたから遅くなってしまった」

 

「士郎先輩!」

 

ぎゅっと士郎の首に抱き着く沙也佳。

 

「大丈夫。もう君にこの気色悪い男の顔は見せないから」

 

そう言って士郎は今度こそ、その鷹の目で射殺さんばかりに睨みつけた。

 

「ただ漫然と無駄を排出しているならまだしも。女の子を攫った上監禁しようとは。ただでは済まさない」

 

「者ども!であえであえ!!」

 

麻呂がそう言うと沢山の黒服が出てきた。手には拳銃。

 

「いいのかね?ソレ(拳銃)を抜いた以上、貴様等にはそれ相応の目に遭ってもらうが」

 

――――工程完了。全投影、待機(ロールアウト・バレット・クリア)

 

拳銃を構えた以上容赦はしない。士郎の背後に二七の剣弾が待機する。

 

「け、剣が・・・ええい構わぬ撃て、撃て!」

 

「たわけが」

 

「――――停止解凍、全投影連続層写(フリーズアウト・ソードバレルフルオープン)!!!」

 

パンパン!

 

ダンダンダン!!!

 

拳銃から弾丸が発射されるその瞬間、剣弾が轟音と共に射出された。

 

「のー!!!」

 

優雅な和風邸を二七の剣弾が破壊し尽くす。

 

「ま、麻呂の別邸をこのように・・・!綾小路御庭番衆――――」

 

「実に遅いな。私を相手にその程度か?」

 

――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

突き刺さった剣全てが盛大に爆発する。

 

「おじゃー!?」

 

「来い、少女の笑顔も守れぬ外道共。私がまとめて相手をしてやる」

 

いつの間にか屋根の上に立った士郎がそう宣言する。

 

「おーやってるやってる。いくぞお前達!」

 

「「「応!!!」」」

 

百代を筆頭に風間ファミリーが雪崩れ込んでくる。

 

「おや、来てしまったか。これでも飛ばしてきたんだがな」

 

「お前に出来て私に出来ない訳が無い!」

 

「どういう理屈だそれは・・・」

 

嘆息して肩を竦める士郎。

 

「あ、あの士郎先輩・・・」

 

「ん?どうした?」

 

ドグシャ!と足元に来ていた馬鹿を蹴り飛ばして士郎は返事をした。

 

「どうして来てくれたんですか?」

 

その言葉に士郎は不思議そうに首を傾げた。

 

「さっきも言っただろう?君が攫われここにいる。だから私はここに来た」

 

士郎はいい加減ここにいるのも沙也佳が危ないなと素早く屋根から道路に躍り出る。

 

「「沙也佳!!!」」

 

「お父さん!お姉ちゃん!!」

 

それまで抱き上げていた彼女を下して士郎は塀の奥を見る。

 

「二人は沙也佳ちゃんと共に下がっていてください」

 

「いや、そうはいかない。このような非道を働いたからにはケジメを付けさせてもらう」

 

キン!と鍔を切る音と共に塀が崩れ去る。

 

中ではキャップや百代が筆頭に大暴れしている。

 

そんな最中、

 

「おじゃ!?」

 

ゾクリと麻呂に怖気が走った。

 

「三大名家、綾小路麻呂殿・・・」

 

ギチリと空気が締め付けられるような緊張に、思わず麻呂が息をのむ。

 

「お、お前は誰じゃ!まま麻呂の邸宅に土足で踏み入るなど――――」

 

「黛大成・・・推して参る・・・ッ!!!」

 

「お、おじゃー!!?」

 

神速の剣が麻呂を襲う。どれも軽傷。どれも軽傷だがいたるところに傷を付けられ、

 

「はっ!!!」

 

バッサリと。麻呂の髪の毛が全て切り落とされた。

 

「今回の事はこれにて手打ちとする。それでも尚追ってくるというのなら――――」

 

ギン!っと睨みつけ、

 

「決死の覚悟を抱いて来い・・・ッ!!!」

 

黛大成は言い放った。

 

「やれやれ、最初に着いたのにすっかり出番を奪われてしまった」

 

士郎は沙也佳を庇うようにその場から一歩も動かない。

 

「それで大和。あの人はまだか?」

 

「もう来る頃だ。・・・きたきた」

 

黒いセダンが猛スピードでやってくる。

 

「では私もケジメを付けさせてもらおうか。沙也佳ちゃん。お父さんとお姉ちゃんから離れたらいけないぞ」

 

「は、はい!」

 

「君にもケジメを付ける相手が?」

 

「ええ。この誘拐の実行犯――――」

 

投影した黒鍵を左右三本ずつ、計六本投げつける。

 

「!?」

 

「天神館、鉢屋壱助」

 

「な、なぜ俺の場所が・・・」

 

「気配の断ち方が甘いにもほどがある。なぜこんな真似をした」

 

嘘は許さない。士郎の目はそう言っていた。

 

「契約が成立すればどこにでも行く。今は契約期間故・・・」

 

「ほう。契約があれば貴様は外道の道に走るという事か」

 

「!?」

 

「では、悪いが貴様に容赦はしない」

 

左に黒剣・干将

 

「外道相手に私の剣は容赦しない」

 

右手に白剣・莫耶

 

双剣を手に士郎は一瞬で壁に縫い付けられた鉢屋の目の前に現れる。

 

「なっ・・・」

 

本気で首を落とす一撃が振るわれる。

 

ボン!ザン!

 

首があった場所に丸太が現れるがそれを切り裂き、

 

「言ったはずだ。気配の断ち方が甘いと」

 

そのままその場で一回転。躱したと安心していた鉢屋の横腹を鋭い蹴りが捉えた。

 

「ぐああああ!!!」

 

盛大に吹き飛んで塀に激突する。

 

「私もこの辺で手打ちとしようか。鉢屋壱助。貴様等西の連中は分からないようだから言っておく」

 

士郎は本気で殺気を露わにし、

 

「次に何かした場合にはその命を貰う。ゆめゆめ忘れぬことだ。私は誘拐犯に温情などかけない」

 

「ぐぬ・・・」

 

以前は試合だった。だが今回は違う。彼の行った行為は莫大な権力に身を潜めて行った犯罪行為だ。

 

たとえそれが依頼であろうとも。犯罪に手を染めたのならば容赦はしない。

 

「さて、あちらも一段落したようだな」

 

一掃された護衛と御庭番に麻呂の父親、大麻呂が叱りつけていた。

 

「黛殿。此度の件、まことに申し訳ない」

 

「・・・ケジメは付けさせていただいた。これ以上追撃が無いのならば私から言うことは無い」

 

「沙也佳殿。なんなら麻呂を好きなだけ殴ってくれて構わない」

 

「別に何もされてませんし、もう大丈夫です」

 

「そうか・・・この後始末、全て引き受けよう」

 

「本人がそれでいいならこれで終わりだな。みんなお疲れ!」

 

キャップのその言葉と共に事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

事件後、綾小路麻呂は婦女子誘拐という事で五年の懲役に処された。それというのも、以前レオニダスが職員室に連れて行った時も大麻呂が呼び出され、この始末はどうするのかとレオニダスに問われた際、

 

『今後権力を盾にした非道はさせないと誓う。だがもし、またなにかやったその時は――――』

 

という事でしっかりとした法の下処罰すると言われていたのだ。

 

それ故に学園事務処理を主にさせられていたのだが・・・

 

「今回はそれを破った、というわけだ」

 

「士郎?誰に向かってしゃべっているんだ?」

 

林冲に問われて士郎は、なんでもない、と言って竹で作った流水の中に

 

「いくぞー!」

 

「来いやー!」

 

「全部私が取ってしまうな・・・」

 

「なんの!お姉さま相手でも負けないわ!」

 

「ていうか、モモ先輩前とかダメだろ!」

 

「はいはい。姉さん後ろに後ろに」

 

「下に下にみたいに言うな!」

 

そうめんを流していた。というのも、事件後、全てマルっと収まったのだから思い出作りをしようと皆で言っていたからだ。

 

「せいや!」

 

「なっ・・・犬!私のを取るな!」

 

「犬じゃないわ!猛犬よー!ガルル!」

 

「ていうか全然流れてこねぇわ」

 

「これ見た目だけで前の人しか得しないね」

 

「・・・作らせといて好き勝手言うね君達・・・」

 

当然作ったのは士郎である。結果は分かっていたのだがどうにも一度言い出したら聞かないのがキャップなので士郎は渋々作ったのだ。

 

「はい、父上、沙也佳」

 

「うむ。これは美味しそうだ」

 

「すごいねお姉ちゃん!前に天ぷら揚げた時こんなだったかなぁ?」

 

「士郎先輩に教えてもらって上達したんですよ」

 

「シロ坊には頭上がらないね」

 

「そうだな。今回は彼とその仲間達に助けられてしまった」

 

「これに懲りたらもうお見合いとか言わないでよ。今は30くらい過ぎたら行き遅れなんだから。私はまだまだ現役です!」

 

「沙也佳、貴女も今回父上に嘘をついたでしょう?」

 

「う、鋭い所ついてくるなぁもう・・・」

 

困ったと素知らぬふりをして賑やかに流しそうめんをすする、正確にはそうめんを流している青年を盗み見る。

 

(かっこよかったなぁ・・・)

 

今でも鮮明に思い出せるあの恐怖に負けそうになった時、颯爽と自分を抱き上げてくれた青年。

 

「お父さん」

 

「む?」

 

「士郎先輩ならお見合いしてもいいよ」

 

「沙也佳ー!!?」

 

「マジかこのタイミングで裏切りー!!?」

 

それは恋心を秘めたということだった。

 

「むう・・・私は一向に構わない。彼ならば私はなんの異存もない」

 

「ち、ちち父上!!!」

 

「なんだ由紀江?・・・ああそうか、お前もなんだね」

 

「はう!?」

 

「お姉ちゃん隠すの下手ー」

 

「そ、それは仕方ないじゃないですか。あんなにカッコいいんですから・・・」

 

士郎をチラチラと見る由紀江。

 

「ふむ。そういえば正室、側室なるものが始まるそうじゃないか。二人とも行ったらどうだ?」

 

「「お父さん(父上)!!?」」

 

「なに、私も彼なら安心できるし納得も出来るからそう思ったのだが・・・ああでも、由紀江には後を継いでもらわないといけないな。その辺はどうなるのだろうか?」

 

むむむ、と考え込む父に姉妹は顔を見合わせて、

 

「「ぷっ」」

 

あはははと笑うのだった。

 

「おーい由紀江ー。こっちにもかき揚げくれー」

 

「あ、はーい!!」

 

夏はもう中半を過ぎたがまだ太陽は暑く照り付けている。

 

「みなさん天ぷらですよー!」

 

「わーい!」

 

「ああ!それ美味しそうだ!まゆっち早くくれ!」

 

「結局最初しか流さなかったねぇ」

 

「そりゃそうなる。だってこのメンツで誰が前に出ても流れてこないもの」

 

まだまだ暑い日は続く。そして士郎の波乱万丈の一年もようやく半分を過ぎたのだった。

 

 




なんとか書ききれました。次は本当に入院中かもしれません。

最初に言っておくと麻呂は別として鉢屋君嫌いなわけじゃないんですけどね。ストイックなのは結構ですが代償も大きいですよと思うわけです。特に忍者なんていつ死んでもおかしくないと作者は思うのです。

今年はこれで書き納めになると思います。入院前にあと一話…いけるかなぁ…とにかくやれるだけやってみます

では皆さまよいお年を!!!
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