その日。2-S組に所属するマルギッテ・エーベルバッハはイライラと1日を過ごしていた。
「衛宮士郎・・・!」
彼女はドイツのエリート部隊、通称猟犬部隊に所属している立派な大人である。が、彼女の上司であるフランク・フリードリヒから娘のクリスの護衛を任務として受け川神学園へ通学している。
軍人という個人の感情を殺し、任務遂行する彼女が感情を高ぶらせている原因は一つ。新入生の衛宮士郎のことだ。
(お嬢様が負けたのはお嬢様の未熟さ故でしょう。しかしあの言動・・・!)
やはり武芸者の一人として彼の取った戦法が気に入らないらしい。そして苛立ちの原因はもう一つあった。
(出自をはじめ経歴、学歴、一切が不明?そんな馬鹿なことがありますか・・・!)
そう。彼女は彼が登校した日から彼の情報を調べ上げていた。しかし、結果は一切不明。幼少期に孤児となり、衛宮切嗣なる人物に引き取られ育てられた。それだけが唯一の情報だった。
(あの覇気・・・あれは戦場に立つ者のそれだ。なのに経歴があまりに一致しなさすぎる)
ただ強いだけならばよかった。いつものようにお嬢様に取りつく虫とならないよう動くだけでよかったのだ。
それがどうだ。お嬢様が戦い始めた瞬間彼女は戦場独特の血生臭く泥臭い何かを感じ取った。まるで幾たびもの戦場を経験したかのような胆力。あの時彼女はもし彼が標的として現れたならどれほどに厄介な者になるだろうかと夢想したくらいだ。
だというのに彼唯一の情報がそれを否定する。衛宮切嗣なる人物は既に没しており、衛宮自身何かの流派に属しているわけではない。仮に親から戦闘技術を習っていたとしてもあの戦場の空気を纏うほど彼は年齢も戦場も経験していない。
(危険すぎる。私だけであの男を止められるか)
万が一。彼がお嬢様に危害を加えようとしたとき自分は奴を止められるだろうか。眼帯を外し、全力で相手をしたとして。自分は奴を制圧できるのか。普段自信に満ち溢れている彼女だが、あの一戦でその自信が揺らいでいた。
と、
「おい。猟犬」
ふと背後に知り合いが音もなく立つ。
「なんですか、女王蜂」
丁度、あろうことか自分が敗北するイメージをしてしまったところで声を掛けられ感情を抑えきれぬまま返事をしてしまった。
「おいおい、あたいに怒りをぶつけるんじゃねぇよ。大方、衛宮のことで苛立ってるんだろ?」
「ッ・・・。」
ぐうの音もでないとはこのことか。だが、女王蜂―――忍足あずみの表情を見るにどうやら彼女も苛立っているらしい。
「九鬼でも衛宮の情報を洗ってる。だが、一向になにもつかめねぇ」
「九鬼財閥の力をもってしてもですか?」
それは一体どんな奇跡だ。自分たちだけが掴めないのならば百歩譲って己の未熟と反省しよう。だが、世界を牛耳る九鬼さえもが情報を掴めないなどと。表と裏、両方に通づる九鬼が何一つつかめないとは。
「鍵になんのは衛宮切嗣って親だが・・・コイツもまた、なんの情報も出てこねぇ。本当に存在したのか怪しいくらいだ」
「・・・もし、衛宮切嗣という存在が架空の人物だとして。それにしても衛宮士郎の異常性は説明がつきません」
あれはおかしいのだ。18歳の少年が普通の日常を送っていて身につくものではない。否、そもそも18という年齢で身につくものではない。
「引き続き九鬼はあいつのこと調べる。猟犬。今回は―――」
「わかっています。情報の共有に異存はありません」
間髪入れずうなずく様子を確認した忍足あずみはその場から立ち去った。
(九鬼も二の足を踏んでいる。・・・かくなる上は―――)
猟犬部隊の招集もありうるか―――
そこまで考え、マルギッテもその場を後にした。
―――これが後に。本国ドイツも巻き込んだ大事になることを彼女はまだ知らない。
今回は短めです。というのも士郎の情報操作があまりにも雑なので特筆すべきはないといいますか・・・作者の書く士郎はもちろん時計塔を出ているので基本的な隠ぺい工作・および魔術を納めてはいますが・・・当然そのあたり赤い悪魔の言う通りへっぽこなので、衛宮切嗣がいた・引き取られ育てられた。くらいしかできていません。魔術のおかげでそれが嘘であることは疑われないのが精いっぱいな感じです。
感想ありがとうございます。まさかこんなつたないものを読んでいただいて感謝でいっぱいです。これからもゆっくりとではありますが書いていきたいと思うのでどうぞよろしくお願いします!