今回から夏休み終わって登校が始まります。が。当然まだこの人らの事が終わってない訳でして…それを書いていきたいと思います。
――――interlude――――
夏休み最後の日の夜。最上家では最上旭が義経について語っていた。
「大したことなかったらどうしようって思ってたけど、義経、意外とやるわ」
「旭が一勝したかと思えば義経に一勝を取られる。いい接戦じゃないか。とてもいい経験になると思うよ」
育ての親である最上幽斎は心からの笑顔を浮かべて言った。
「でもそろそろ決着を付けたいとも思うの」
「そうだね。早いに越したことは無いけど、あまり無理はしなくていいんだよ?」
「ありがとうお父様。でも、私がそうしたいと思うの。だから――――」
そう言って彼女は決着に相応しかろうアイディアを父に告げた。
「それは!いいね!とても素敵なアイディアだと思うよ!及ばずながら、私も少しばかり出資しよう」
「え?それは・・・」
流石にそこまで頼むつもりのなかった旭は返答に困る。
「気にしなくていい。これは暁光計画にも関わってくることだからね。私としては投資する価値がある」
「・・・。」
その言葉に最上旭は複雑な感情を抱いていた。
「ねぇ・・・お父様。もし、もしもだけど――――」
「ん?なんだい?」
優しい微笑みでこちらを見る父を見て旭は頭を振ってなんでもない、と答えた。
(勝率は五分・・・かしら。士郎は私と義経、どっちにつくのかな・・・)
父の計画を知ったら・・・いや、既に父が起こした騒動で敵として認識されている以上、彼は間違いなく敵に回るだろう。
そのことがとても、寂しい。
(ああ・・・どうしたらいいのかしら・・・)
父の計画を支えたいと思う一方で、今の生活から離れることが酷く辛くなってしまった。
確実に敵になる想い人の顔を浮かべて彼女は床についた。
――――interlude out――――
「んー・・・!」
グイグイと体を伸ばして鞄を下げて玄関を出る。
「じゃあ頼んだぞ史文恭。昼食は冷蔵庫にあるから・・・」
「わかったわかったから。早く行け。私は子供じゃない。お前が準備せずとも自分で何とかする」
衛宮邸の住人は史文恭を残して全て川神学園に登校するので残るのは彼女のみだ。
橘天衣は数日前から大和達の住む島津寮に修行に通っているので、帰ってくるのは夕方かそのまま泊まり込みだ。
「それもそうか・・・じゃあ留守を頼む」
「お願いしますね史文恭さん」
「頼む。私としてもお前が守ってくれるなら心強い」
一緒に出る清楚と林冲も頷き合う。
「ああ。宿代分は働くさ。敵が来ればすぐに分かるのだから迎撃も容易い」
現在は外敵感知の結界しか張っていないが、それでも遠方から既にわかるのは強いアドバンテージだ。
ちなみに、本来は衛宮邸にいる者にしか分からないが、もし結界が作動したら士郎には分かるように調節してある。急な襲撃にも完璧だ。
「じゃ、行ってきます」
「いってきまーす!」
「いってきます」
そうして三人は登校を開始した。
「んー!自転車もいいけど歩くのも気持ちがいいね」
「ああ。天気もいいしまだ暑いことは暑いけど秋の気配がするな」
「秋か・・・梁山泊にいた頃は忙しい時期だったな・・・」
「自給自足だからか?」
「ああ。野山に山菜やキノコに果実なんかも・・・とにかく食材調達は修業時代とても沢山やった」
「自給自足かぁ。私は出来る自信ないな・・・植物の本とか見てると毒のあるものが多くて逆に怖くなっちゃった」
「確かに、毒があるものと、そうでないもの見た目が変わらなければ恐怖もあるよな」
特にキノコ類はとても危険だ。毒のあるものはそれこそ大体致死性が高いので非常に恐ろしい。中には触れただけで手が炎症を起こす物もあるくらいだ。
「でも、天然のものは凄く美味しいんだ。前に士郎とキャンプした時の食事は今でも忘れられない」
「林冲さん、士郎君とキャンプしたんだぁ・・・」
唇を尖らせながら士郎を見る清楚に彼は困った顔をして、
「林冲、わざと混ぜっ返すのはよしてくれ。あれはキャンプなんかじゃなかったろう?」
あの時は曹一族撃退の為の囮作戦だったのだ。決してキャンプなどという娯楽ではない。
「それでも私には忘れられない思い出だ。あれは――――」
山菜の取り方から始まり狩りで獲物を狩ったりと様々なことを話すうちにやはり清楚の唇は尖っていく。
「やっぱりバカンスじゃない・・・」
「いや、命がけのバカンスはお断りしたいですよ」
確かに楽しい時間ではあったが、常に襲撃に備えた緊張に溢れる時間でもあったのだが、それを彼女に言うわけにもいかない。
結果、
「えい」
「痛い!」
ギュムッと背中をつねりあげられて士郎は飛び跳ねた。
「な、なにするんですか!」
「別にぃーなんでもないですぅー」
プイッとそっぽ向く彼女に士郎は困ったように頭を掻くのだった。
登校が済めば士郎はすぐさま屋上の給水塔の上へと上がる。当然、変態の橋に出現する変態共の狙撃の為だ。
「あや?士郎君」
しかし今日は先客が居たようだ。
「おはようございます松永先輩。早いですね」
「おはよん。衛宮君こそ早いじゃない。何するの?」
「日向ぼっこ、と言いたいところなんですが――――」
――――
彼の手に黒い洋弓が現れる。
「なにそれ!?今のどうやったの!?」
「ただの手品ですよ」
本当は背中に手をまわして投影しただけだが。彼女にはまだ魔術の事は伝えていない。
「――――」
投影したらやることは単純だ。ここから狙撃するのみ。
「おー・・・本当に当たってるんだ」
後ろで双眼鏡を手に感心している燕。どうやらここから離れる気はないようだ。
「・・・見学ですか?」
「うん。流石師匠。撃つ矢撃つ矢全部急所にヒット!」
「いつから俺は松永先輩の師匠になったんですか」
唐突な師匠呼びにツッコミを入れながらも矢を射ることは止めない。
「だって私と同じ戦闘スタイルで格上なんだから弟子になっとこうかと」
「俺は弟子は取りませんよ。第一、俺は二流止まりなんで」
どうやら探りを入れるのが目的っぽいので適当にあしらう。
「ぶー・・・今なら「納豆はいりません」ぶー・・・」
どうにもこの先輩は何か目的があるようなのだが一々首を突っ込むのもやばそうなので返事は適当だ。
「また当たった。衛宮君何処まで見えるの?」
「さて、何処まででしょうね?」
「ここから一キロ半は離れてるんだけどなぁ・・・与一君なら辛うじて届くかな?」
「与一は長距離が得意なんですね」
「・・・確かに長距離が得意みたいだけど。衛宮君が言うと嫌味だねん」
そう言って彼女は双眼鏡を下した。
「ねぇ衛宮君。なんでこんなにとんでもない弓の腕してるのに近接戦を選ぶの?」
「・・・。」
それは、とても口には出来ないことだった。
「弓兵が接近戦をしてもいいじゃないですか」
「うーんそれもそうだ、って言いたいけど君の場合特殊だからなぁ・・・遠距離からこの前の矢を射ってた方が確実に勝てるじゃない?」
「・・・それは俺に常に奥義で戦えと言いたいんですか?」
「あ、いや、そういう意味じゃない・・・けど・・・」
ではどういう意味なのか。彼女は迂闊だったと口を閉ざした。
「俺を観察するのは結構ですが、松永先輩の獲物は百代でしょう?俺よりもそっちを観察するべきだと思いますが」
と、彼女の目的を明かしてやった。
「・・・バレバレか。訂正。君は
「眼の良さがうりなので。それで、なんで百代を狙うんです?正直言って、無謀ですよ」
「守秘義務ですー。それにまだ私も全開じゃないし。勝てる見込みがないわけじゃないし」
彼女の言葉に士郎は、ほう、と声を漏らした。
今の百代相手に勝算が少しでもあるというのは中々言えることじゃない。
「それで、自信があるのに嗅ぎまわってるのは勝率を少しでも上げるため、ですか?」
「もう、君には本当に敵わないなぁ・・・。お、変態はっけ・・・ん」
発見という前に士郎の矢が綺麗に吸い込まれて撃退した。それを九鬼の従者達が運び出している。
(私が見るより遥かに遠くまで見えてるんだよねん・・・しかも反応早すぎ)
(百代のライバルとしては申し分ないんだけどな。同じタイプなら余程の事がない限り決闘はしないだろう)
今日は見学者付きで士郎は弓を引き続けるのだった。
放課後、教室の一室に来てほしいと頼まれた士郎は呼び出された教室を訪れていた。
「ああ、いらっしゃい、士郎」
「お久しぶりです旭さん」
夏休み以来となる再会に士郎はどこか懐かしさを覚えた。
「士郎君、久しぶり!」
「大将久しぶり・・・じゃないか」
「弁慶はお昼に会っただろう」
川神水の大吟醸はもう全て弁慶に渡したのだが、弁慶は未だに衛宮定食の受付嬢を買って出てくれていた。
やはり将来的に居酒屋や酒関連の働き口を考えている彼女には良い練習だそうだ。
「義経、久しぶり。あれから刀の方はどうだ?」
「うん・・・やっぱりまだ上手くいかなくて。こう、最後の一撃の時は上手く行くんだけど常時となると・・・」
「早めに慣れた方がいいぞ。持つ人も増えてきたし、短時間なら成功してる人もいるからな」
「えええ!?・・・うう、義経はまだまだ未熟だ」
そう言ってしょぼんとする義経に苦笑を浮かべて士郎は頭を撫でた。
「早めに、とは言ったけど義経のペースでいいと思うぞ。多分だけど徐々に出来るようになるというよりは、コツを掴んである日突然出来るようになるケースだろうからな」
「そ、そうかなぁ・・・?」
何せ回路を見つけられるか、そしてそこに気を流すことが出来るのか、というだけなのだからなだらかに上手くなる類のものではないだろう。
現に大成は己の剣に集中するという初歩を極めているからこそああしていきなり第一段階を成功させたのだから。
「義経と士郎の会話も気になるけど・・・私も義経みたいにしてほしいわ」
「「え?」」
旭の言葉に士郎と義経は固まった。
「・・・。」
士郎は義経と自分の手に視線を向けて、
「あ、ああ・・・すまない義経。失礼だったな」
「え?いや・・・えっと・・・」
士郎が手を離すと寂しそうに義経は頭を押さえた。
(ああいうの自然に出来る辺り天然ジゴロだね)
クイっと川神水を傾けて弁慶は片目で見る。
「そ、それよりなにか話があるんだろう?」
「むむ、私は撫でてもらえないのね・・・」
「男が易々と触るべきじゃないでしょう・・・義経、本当に――――」
すまなかった。その言葉が出る前に義経は士郎の手を握って自分の頭の上に置いた。
「その・・・全然嫌じゃないから・・・むしろ嬉しい・・・かな」
「そ、そうか?」
顔を真っ赤にして俯く義経。その様子を見て士郎は何とも言えない気持ちになって結局撫でるのだった。
「私を忘れないでほしいわ。そろそろ本題に入りましょう」
「おっと」
「ああはい!!」
むっとした雰囲気を出して言う旭に士郎と義経は改めて向き直った。
「それで、義仲さん、話しって・・・」
「当然、私と義経の勝負についてよ。今まで引き分けだから一つ大きなイベントをしようと思うの」
「イベント・・・?」
その単語に士郎は嫌な予感を覚えた。
「その名も――――」
『源氏大戦』
ぬっと出てきた学長がそう答えた。
「学園長、お久しぶりです」
「うむ。元気そうで何よりじゃわい」
夏は何かと忙しくて川神院にも行っていなかった。
「えっと、源氏大戦って・・・?」
「模擬戦というものを知っておるかの?チームに分かれてその名の通り戦うんじゃが・・・」
「名前から察するに。それを義経と旭さんに分かれてやろうと?」
「その通りじゃ。元々、模擬戦は規模が大きくなると川神大戦という行事になるんじゃが、今回は義経ちゃんと旭ちゃんを総大将としてやることにしたわけじゃ」
その言葉に士郎は嘆息を漏らした。なにせまた大規模戦闘が行われるという事なのだから。
「そうため息を吐くでない。なにも強制はせんし、リンチなどがおきんように見張りもする。それに、参加人数は総大将含め250名。一年生から三年生まで全ての者に参加権利がある。じゃが、逆に250名しか参加できんという事じゃ」
「それはそれは・・・では今この瞬間にも戦いは始まっているわけですか」
「流石士郎、鋭いわね。そう。その為に貴方を呼んだの」
「え?え?どういうこと?」
ただ一人状況の読めていない義経がオロオロとする。
「主。戦うには兵が必要でしょ。でも兵は主を除いて249人。その選抜がもう始まってるんだよ」
「じゃあ義仲さんが士郎君をここに呼んだのは審判を頼むためじゃなくて――――」
ようやっと思考が追いついた頃を見計らったのか旭は士郎に決定的な言葉を放った。
「士郎。私と一緒に戦ってくれないかしら。貴方が居れば私は他に誰もいらないわ。貴方さえいれば――――」
懇願するように言う旭に士郎は、
「お断りします」
はっきりと告げた。
「え?」
「・・・やっぱりそうなのね」
「わかっていたなら何故やったんです?こういう騙し討ち的な物を嫌うと分かっていたでしょう?」
士郎は腕を組んで事を見届ける学園長へと向けた。
「選抜期間はどうするんです?」
「人数が人数じゃが、二人なら我先にと人が集まるじゃろう。しかも二年生は修学旅行を控えておるでな・・・修学旅行後、一週間までを期間として選抜するとええじゃろう。その後訓練をして、10月の頭に戦闘開始という所じゃな」
「修学旅行を吉と捉えるか凶と捉えるか・・・それで、イベントと言っていましたが不参加の人間にペナルティはあるのですか?」
「んなもんあるわけなかろう。あくまで参加は希望制じゃ。なので・・・250対150という事もあり得るのう」
「その場合の補填は?」
「無しに決まっとる。兵を統べるのもその者の力量じゃからの。ただし、外部参加枠をお互い5人ずつ設けるぞい。ただし250名の縛りの中でじゃぞ」
「なるほど・・・」
士郎は考えるように目を閉じる。
(主、主!)
(弁慶?)
(弁慶?じゃないよ!大将誘わなくていいの!?)
(・・・多分士郎君は今誘っても断ると思う)
コソコソとやり取りをする主従。
「義経。アドバイスするなら早めに動いた方がいいぞ。旭さんは伝手が沢山あるが義経はそこらへん無いだろう?」
「う、うん。わかった」
「・・・じゃ、俺はこれで。二人とも、頑張れよ」
そう言って士郎は早々にその場を後にした。
――――interlude――――
士郎がその場を後にした後、義経達はまだ話し合っていた。
「残念。逃げられちゃったわ」
「士郎君は戦いが好きじゃないんです。きっと今回の事もあまりよく思ってないと思います」
「だね。大将、強いのに戦い好かないからなぁ」
想うはあの青年のこと。謎多きあの青年は戦いを極端に嫌う。隔絶した戦闘力を持ちながら、真っ先に戦いから降りるのだ。
(確かに衛宮君は戦いを避けたがるじゃろうが・・・)
「じゃあ義経、私はもう行くわ。声掛けしないとね」
「え!?もう始まってるんですか!?」
「主、出遅れてるよ」
(旭ちゃんがモモや清楚ちゃんに声をかけないはずが無かろう。そうなれば嫌でも衛宮君は戦場に引きずり出されるかの)
この勝負、有利なのは最上旭だ。様々な伝手を持つ彼女ならば精鋭と呼べる兵を見繕うだろう。だが・・・あの心優しい青年はきっと義経を見捨てたりしない。
たとえ百代と清楚、両方を相手取ることになろうとも彼は義経を勝利へと導くだろう。
(修学旅行がカギかの)
修学旅行は様々なことが出来る良い機会。そこで彼を口説き落とせるかが義経の勝利へのカギとなると学園長は踏んでいた。
「さて、義経ちゃん、ちょいと不利じゃからアドバイスしちゃうぞい。早く人を集めるのが得意な者を味方にせんと戦にならんのう」
「わ、わあああ!どうしよう!人を集めるのが得意な人・・・!」
「私と与一は義経の味方として・・・大和とか九鬼を味方にするのがいいかなー」
「それだ!ええと後は・・・」
バタバタと慌てて教室を出ていく二人を見送って学園長は楽しそうに笑みを浮かべた。
(いろいろ頑張らないといかんが、良い刺激になりそうじゃのー)
ふぉふぉふぉと一人笑いながら教室を後にする鉄心であった。
――――interlude out――――
源氏大戦の話を聞いた士郎は半ば逃げるように教室を後にしていた。
(全く・・・戦いなんぞ好き好んでしたくないというのに・・・)
競技ならばいい。だが今回は元が模擬戦というくらいなのだから戦闘による優劣だろう。それも総勢500名の大規模戦闘と来た。
(義経に味方するか、はたまた傍観に徹するか・・・いや、無理だな)
恐らくではあるが。士郎の予想通りなら一人は敵になり、一人は不参加だろう。
その一人が問題だ。彼女に対抗できるのは現状自分しかいない。
(・・・だがこれは統率能力も問われる。義経が自分から言うまでは黙っておくか)
嫌らしいことだが。あの場で最上旭の申し出を断りはしたが、義経の申し出は断っていない。つまり士郎的には義経に味方するつもりでいたのだ。
だがまだ兵を集める動向が読めていない。なのであの場は適当に質問をぶつけて立ち去ったのだ。
(彼女が参加しない訳がない。これは、なかなかに面倒になってきたな・・・)
すぐにではないとはいえ、戦いはもう始まっている。義経と共に戦いたいか。はたまた義経と相対したいか。学園は大混乱となるだろう。
自宅に帰ってすぐ。士郎は晩御飯の準備をしていた。
「今日も橘天衣は島津寮ですか?」
マルギッテが隣で野菜を刻みながら問うてくる。
「ああ。九鬼の寮が来年度の新入生向けに作られてるからな。きちんと腕を磨いておかないと就任出来なくなる」
コトコトと煮込む鍋を、焦げ付かないようにゆっくりとかき回しながら士郎は言った。
「来年度か・・・私は来たばかりだからまだ実感がわかないな」
「貴女はつい最近ですからね。どうです?S組の感想は」
「みな切磋琢磨していいと思う。・・・でも、私は士郎が居ないから・・・」
「林冲はまだ言ってるのか・・・こうして授業以外は一緒なんだから気にすることないってのに」
「だって!」
「だってもかかしもない。確かに俺は林冲に守ってほしいと言ったけど、
と言う士郎だが、大怪我の大半が学園でしていることにはそ知らぬふりをする。
「学園で大怪我しているではないですか」
「なんのことやら」
あくまで知らないフリ知らないフリ。突かれると厄介なのである。
「むー・・・やはり次のテストは無回答で・・・」
「「それはやめなさい」」
マルギッテと二人ツッコミを入れる士郎であった。
準備が出来たら夕食だ。
「今日は夏野菜カレーにしてみた。具沢山だからボリュームあるぞ」
「旨そうな匂いをさせているなと思えばカレーか」
「士郎君の家に来て初めてかも!」
「そういえば清楚先輩は初めてか。たんと召し上がれ」
キラキラのご飯にトロリと掛けられるカレー。ルーだけでなくゴロゴロと沢山の野菜があるのもとても食欲をそそる。
「福神漬けはここに置くから各自な。それじゃ」
「「「いただきます」」」
手を合わせて早速ご馳走に取り掛かる一同。
「んー!ほどよく辛いのがいいね!」
「野菜も旨味たっぷりだ。これは美味い」
「史文恭、それは福神漬けをかけすぎでは?」
「このくらいかけると歯ごたえがあるのだ。・・・うむ。美味い」
各々好きな食べ方で頂く夏野菜カレーはとても美味しかった。
「そういえば士郎。貴方はどちらに付くつもりですか?」
「なんのことだ?」
「騙されませんよ。源氏大戦のことです」
今一番出されたくない話題に士郎はため息を吐いた。
「源氏大戦?これまた愉快な名をしているな?」
ガツガツとカレーを食べていた史文恭がせせら笑うように言った。
「名前は愉快でも内容は愉快じゃない。なにせ総勢500人の模擬戦だぞ。できれば遠慮願いたいんだが・・・」
「できれば、ということは条件付きでなら参加するのですね?」
「・・・。」
マルギッテの言葉に士郎は黙った。そして重々しく口を開いた。
「予想が正しければ一人厄介なのが敵に回る。それ次第だ」
そう言って士郎は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「厄介なの・・・清楚は出るのか?」
林冲の言葉に清楚は首を振った。
「ううん。義経ちゃん達には悪いけど辞退させてもらったの。作家の勉強をもっとしたくて・・・強制じゃないってことだから今回は見学かな」
「そういう林冲とマルギッテはどうするんだ?」
「頼まれれば、だが・・・義経につこうと思う」
「私はお嬢様次第ですね。予想では義経でしょう。というか、風間ファミリーはみな義経では?」
「どうだかな・・・」
士郎はそれっきり黙ってしまった。
「子供の喧嘩に興味はないが、英雄のクローンがどれほどのものかは気になるな。部外者は参加できないのか?」
「一応外部助っ人枠が5人分ある。史文恭、出るつもりか?」
「さっきも言ったが子供の喧嘩に興味はない。だから・・・私としてはリベンジマッチがしたいところだな?」
「・・・。」
「史文恭!それは・・・」
「なにせあの時は一撃で敗北してしまったからな。今度はきっちり刃を交わしたいものよ」
史文恭のいうあの時とは、曹一族との戦いの時だ。あの時は逆行剣の一撃しか士郎は与えていない。今度はそうはいかぬ、という事だろう。
「厄介なのが増えたな・・・いいのか?俺の敵になるのなら最上旭のほうだぞ」
士郎の言葉に史文恭は顔を顰めた。
「最上旭・・・最上幽斎の一人娘か。我らを引っ掻き回したⅯの娘に付くのは・・・な」
史文恭は複雑そうに言ってカレーを口に運んだ。
「士郎は義経に付くのか?」
林冲が何処かホッとしたように言う。
「状況次第だって。ただ、旭さんの方には付かない。この源氏大戦、仕組まれている気がする」
「なんですって?」
士郎の言葉にマルギッテが反応した。
「何が仕組まれているというのですか?」
「今回は義経と義仲を持ち上げて『源氏大戦』だけど、元は『川神大戦』っていうものだったらしい。最近声が上がってる模擬戦の大規模戦闘がこれだそうだ」
「川神大戦?学園の行事だったのですか?」
「ああ。ただ、例年、予算の関係でお流れになっていたらしい」
「予算・・・ていうことは出資者がいる?」
林冲の言葉に士郎は頷いた。
「そうだ。そしてⅯこと最上幽斎は九鬼とも関係のあるやり手の企業家だ。提案したのが旭さんなら間違いなくこいつが関係してくる」
「ということは、またろくでもない手札を伏せている可能性があるわけだ」
史文恭の言う通りだった。何せ義仲こと最上旭は義経と真剣での勝負を望んでいるらしい。勝負をするなとは言わないが、命を賭けるのはいくら何でもやりすぎだ。
しかし、義経もそのつもりらしく、これは下手をしなくても二人の戦いの為の前座ということになる。
「訂正だ。Ⅿが関わってくるなら私は出ん。むしろ士郎。お前のバックアップをしてやる」
「ありがとう。史文恭ほどの達人に手伝ってもらえるなら安心だな」
「し、士郎!私だって・・・」
「わかってるよ。林冲もありがとう。とにかく様子見だ。最上幽斎の動向も気になるし、正直旭さんが義経と決着をつけたがってるのが腑に落ちない」
「なんだか士郎は裏になにか潜んでいるかのような口ぶりですね?」
「潜んでいるも何も最上幽斎だよ、潜んでいるのは。ただ、奴の目的が分からない。好き好んで混乱を起こす奴がバックにいる。それだけで警戒対象だ」
「士郎はこれがただの学園行事では済まないと思っているんだな」
「ああ。警戒をしておくに越したことは無いだろう」
実を言うと今日はレオニダスに最上家へ潜入してもらっている。あまりにも不可解だし、何せ苦渋を舐めさせられた相手だ。警戒は最大限にしておかなければならない。
「話は纏まったな。では私は先に風呂に入るぞ」
と、重苦しい空気を断ち切るように史文恭が立ち上がった
「ああ。ごゆっくり」
とにかく様子見という事でその夜は纏まったのだった。
――――interlude――――
最上家の夜。最上旭は早速源氏大戦について話していた。
「今回ばかりは私に分があるかしら。二年生は修学旅行も控えているし・・・」
「いや、その油断は命取りだよ旭。修学旅行でこそ、絆を深めて思いがけない乱入者が出てくるかもしれない」
流石、多方面に思考を巡らせる男である。何事も油断は禁物と娘を諫める。
「そうね・・・ちょっと興奮しすぎたかも。ごめんなさい、お父様」
「いいんだよ。こうして娘と二人のんびり過ごすのも私の幸せの内だからね。それに、“暁光計画”が発足したらこうしてもいられないだろうからね」
「・・・。」
その言葉に最上旭は複雑そうな顔をした。
(私と居る時間が幸せなのにそれを
確実に今の生活ではいられなくなるというのに彼はそれも嬉しそうに語るのだ。
と、
「おや、来客かな?」
「え?」
呼び鈴はなっていない。人の気配もまた無い。
(お父様が私より先に気が付いた・・・?)
「うーん姿は見えないのに。香りはする。でもどんな香りなのか分からないな。もしかして幽霊かな?」
はっはっはと笑う父に旭は咄嗟に刀を構えた。
「遅いよ旭。もう行ってしまった。私には姿が見えなかったけれど旭にはみえたのかな?」
「いいえ。ただ、外敵だと思っただけ。でも・・・」
一つ、彼女には思い当たる節があった。
(レオニダス王・・・彼は英霊。霊体化すれば気配もなく、すんなりとここに来れる)
自分にも姿は見えなかった。だが唯一、父には後天的に宿った不思議な力がある。
――――曰く、魂の匂いを感じ取れる。
英霊は肉体こそ架空のものだが魂は存在する。そのことを彼女は
今回自分より早く気づいたのはその能力でだろう。
「心当たりがあるって顔だね」
「はい。でも・・・」
明かしたくないという顔をする旭に幽斎は朗らかに笑って、
「いいよいいよ。別に何かされたわけじゃないし姿なき来訪者というのも面白いからね。ああでも、護符と言霊で一応対策はしてもらおうかな」
「そう・・・ね。彦一ならやってくれると思うわ」
そう言って旭は窓から雲一つない空を見上げた。
(士郎・・・)
今でも彼女は、源氏大戦を断られたことに深く傷心していた。しかし、
(まけないわ)
決意もまた新たに彼女は明日を見据えるのだった。
――――interlude out――――
パシャリとお湯をかき分けて満点の星空を眺めて湯に浸かる。
「ふぅー・・・」
衛宮邸は女性が多いので士郎の順番は必然的に最後になる。女性陣は士郎なら構わないと言っているが事故防止も込めて士郎は皆が入った後に風呂に入る。
「最上幽斎・・・一体何を企んでいるのか・・・」
レオニダスが何か良い知らせを持ってきてくれるといいのだが。このままでは後手後手でいつ被害がでるか分かったものではない。たとえそれが本人達だけだとしても。
「・・・。」
考えが堂々巡りの予感がする。今はきれいさっぱり忘れて――――
ガラッ
「レオニダスか?」
一応の為の男性入浴中の看板をぶら下げておいたのだがレオニダスが偵察から戻って――――
「なんだ士郎か。まだ入っていたのだな」
「し、史文恭・・・!」
慌てて士郎は入り口から目をそらした。少しばかり見えてしまったが、彼女はタオルで身を包んでいるわけでもない。それどころか――――
「いたのなら丁度いい。一献どうだ?」
「どうだって・・・また酒を持ち込んだのか・・・」
危ないからやめるように言っているのだがこれっぽっちも聞き耳を持たないのだ。
「俺は未成年だから飲まないぞ。と言うか入るなら言ってくれ。俺は出るから・・・」
と室内の方に移動する士郎だが、
「・・・なんの真似だ?」
「何とは。いいからここに居ろ」
ガシリと士郎の腕を史文恭が掴んでいた。
凄まじい腕力で士郎はまた露天風呂へと戻されてしまった。
パシャン、と湯が跳ねる。
「生憎タオルなど持ってきていないのでな。なに、これでも自慢できる肢体を自負しているぞ?」
「そういう問題じゃない!」
あろうことか存分に見ろと言わんばかりに堂々と居座る史文恭に士郎は眼を閉じて念仏を唱える。
「なんだ見ないのか。歳の癖に初心な奴だ」
「だからそういう問題じゃない」
どうやら酔っているらしい彼女に困りながらも士郎は諦めて、大人しく目を瞑ってそのまま入ることにした。
「眼を閉じていては私が何処にいるかわかるまい?」
「問題ない。気配で分かる」
ツンっとそっぽ向くように士郎は言いきった。
「ん・・・はぁ。そういえばそうだったな。私を下した男だ。それくらいは朝飯前か」
「それはそうと私をここに押し込めて何がしたいのかね?」
出口は史文恭側。つまり彼女に出口は塞がれている。どうやら帰す気はないらしい。
「なぁに。私の惚れこんだ男の体に興味が湧いてな。お前は眼を閉じていても私は見えているぞ」
「っ・・・」
この飲んだくれめ、と言いたいところだが言えば言ったで面倒ごとになるので押し黙るしかない。
「半分冗談だ。丁度本の区切りが良くてな風呂に浸かりながら月見酒と行こうとしたらお前が居ただけだ」
「月見酒は結構だが、間違っても倒れてくれるなよ。その場合私は「助けてくれないのか?」ぬ・・・」
これはもう口ではどうにもならぬと士郎は風呂で力を抜いた。ええいもうどうにでもなれという心境である。
「しかしなんだな。お前がその口調で話すと初めて会った時のことを思い出す」
「あの時は敵同士だったからな。そういう史文恭、君も大分柔らかくなったのではないかね」
「そうか?自分ではあまり実感できんな・・・まぁ、戦闘から離れていれば自然とこうなるだろうよ」
お湯に浮かべた御猪口に注いで一口煽る。
「おい。随分酒臭いぞ。どれだけ飲んでここに来た」
「そこそこ、だな。どいつもこいつも歯ごたえが無い。故にこうして一人飲み続けている」
「まて、どいつもこいつもとは――――」
「ああ。清楚にも林冲にも飲ませたぞ。林冲は中々だったが清楚は一口で覇王になったかと思えばすぐに夢の中よ」
「ああ。マルは無事だったのだな・・・」
「奴は予定のない酒は飲めんと断りよった。今頃林冲と清楚の後片付けでもしていることだろうよ」
そう言ってまた一杯飲み干す。
「おい。折角美女が隣にいるのだ。少しはいい顔をせんか」
「生憎私は今目を閉じているのでね。気配は分かっても容姿はわからん」
焼け石に水だという事が分かっていながらも士郎は減らず口を叩いた。
「貴様は本当にその調子になると意固地だな。まぁいい。折角こうしているのだ何か肴になる話でもしろ」
その言葉に士郎は考えた。
「・・・私に酒の肴になるような話しが出来るとは思えないが」
「堅苦しい奴め。そうさな。前の世界の事とやらを聞かせろ。異世界の話など肴に丁度よかろう」
「前の世界の話、ね。退屈がすぎて寝てしまわねばいいが、いいだろう」
そうして二人きりの夜会が始まった。結局、この後二人は士郎の話が終わるまで一緒に入っていたという事だけは事実だった。
大丈夫!?最後大丈夫だよね!?てなことで51話目でした。橘さんはリストラではなく修行中です。
源氏大戦、遂にやっちゃいました。義経率いる軍と義仲率いる軍。どちらに軍配が上がるのか・・・参加する人たちにも出来る限り見せ場を作ってあげたいです。
ちなみに二人はにゃんにゃんしてませんよー大人のディープな時間と言う奴です。
ではまた次回!