今回は修学旅行も終わり、本格的な訓練・調練に入ります。イメージは覇王ルートに近いかも?
では
修学旅行を終えた次の日。慌ただしくも源氏大戦に対する訓練が行われていた。
「はっ!」
「やあ!」
掛け声と共に学園のレプリカを振りかざす生徒達。人数は二年生が主眼で、一年生が少し混じっているくらいだ。
「白の隊、いくぞ!」
おおおお!!とクリス引き入る白帯をつけた白の隊が赤帯を付けた赤の隊にぶつかっていく。
「お嬢様と言えど摸擬戦ならば容赦は出来ません!赤の隊、迎え撃て!」
味方ではあるが、互いに機動力がメインの隊なので怒涛の乱戦になる。しかし、ここで怪我をしては元も子もないと一応の手加減はされている。
「さあ私達も行くわよ!」
「「「応!!!」」」
「不死川の・・・あいや、此方達も出るぞ!」
一子と心は現代のスパルタ兵達を率いる。切り込み隊長を自負する一子ならではの堅実な攻めを主眼にした隊だ。心は下手に動くとなんか駄目そうという事で殿も含めた重装歩兵である。
「此方の扱いが酷いのじゃ!」
・・・これまでの行いがあるので仕方あるまい。
「弓兵、放て!」
弓兵を仕切るのは京と忠勝。京はあまり隊を率いるのを得意としていないので基本忠勝が陣頭指揮をとる。
「俺様達も行くぜ!」
「黒の隊、行くぞー!!!」
ガクトの隊は純粋な歩兵部隊。彼らが主眼となってぶつかっていくだろう。対し、キャップ率いる黒の隊は一撃離脱を考慮した奇襲部隊だ。あまり防御力は期待できないが攻撃力に秀でたメンツが集まっている。
「右翼が薄くなっています。左翼を押し込め羽ばたけぬようにしましょう」
「左翼押し込んでくるぞ!クリスに伝令急げ!」
今回も東西戦のように二年生という大きなくくりとなっているがS組とF組は相性があまりよろしくないので、無理に混成部隊にはせず、クラスごとで固め、軍師は葵冬馬と直江大和だ。
攻守共にバランスよく揃った布陣で現在は小規模の摸擬戦を繰り返して練度を上げている。
一方、義経はというと、
「せい!」
「はああ!!」
弁慶と競うことで互いの腕を磨いていた。
「はあっ!やっぱり士郎君には感謝しかないッ!」
「確か、にッ!破戒僧との戦いはいい経験になった、ね!」
義経は縦横無尽に駆け、弁慶は手堅く守り、反撃を繰り出す。
士郎の化けた破戒僧との戦いで、二人はお互いに弱点を洗い出されることとなった。弁慶はどうしても力に頼りがちで、義経の剣は奇襲を主眼に置いた比較的軽い剣だということ。
もちろん、二人はどれも高レベルに纏まっているのだが、さらに付け加えるなら、というのが今回の収穫だった。何より、
「しっかし・・・主は本当にものにしたねソレ」
弁慶は油断なく構えるが義経が早すぎるのと、刀が淡く光っていることで残像のようなものが見えている。
この状態の義経を正確に捉えるのは難しい。
「まだ疲れるけどなんとか!全然違う!」
今までだって不満なんか感じたことのない太刀だったが、この第一形態とも言える状態になった義経の太刀は、通常ならざる手ごたえを義経に与えてくれる。
まるで自身と一体になったような感触に義経は深く感動し、もう戦う時は常にこの状態だ。
「受けに回るこっちの事も考えてほしいよッ!」
ズン、と沈み込むような深く腰を落とした体勢からの鋭い突き。錫杖の代わりに穂先に布が厚く巻かれた棒なので怪我はしづらいだろうが、食らえば痛い目をみるその一撃だが、
キィン――――
軽やかな音を立てて棒の先が切られた。当然、義経は刃引きした方を使っているのだが、どうにも刀としての性能が高すぎて、そこいらの棒では易々と断ち切ってしまう。
「ああっ!またやってしまった・・・」
「怖い怖い。これで刃が無いって言うんだから困っちゃうよ」
もう何本目になるか分からない棒をポイと捨てる弁慶。辺りには鋭利に先が切られた棒が散乱していた。
「そろそろ30本は超えたかな?休憩にしない?」
「うん・・・また弁慶の棒準備してもらわないと・・・」
「いっそ私の錫杖に布巻いてもいいけど・・・」
切れた棒の一本を見てたらりと汗を流す弁慶。
「多分こうなる気がする」
「うん・・・本気でやれば刃引きされてるはずのこれで斬鉄出来そう・・・」
それは言い過ぎかもしれないが義経クラスとなると何とも言えない所である。
「それ真剣でやってたらどうなるんだろうね・・・」
「士郎君の鍛えた魔剣じゃないと打ち合えないと思う」
「それ実質使えないね・・・」
何せ相手の武器ごとバッサリである。
「しかし刃引きされてこれかー・・・義仲さんとの戦い、どうするの?」
「真剣は使わないよ。強すぎる。こっちで十分だよ」
それは手を抜くとかそう言う事ではなく、どちらかというと義経が扱いきれないというのが真実である。
「義仲さんは真剣で来るだろうに・・・」
「それでもいいんだ。決着は付けたいけど義仲さんを切りたくはないから・・・」
修学旅行から帰ってきた後、お土産を渡した時とても喜ばれた。嫌われたりしていないし、義経も嫌っているわけではないのだ。
そんな相手を切るなど絶対にしたくない。
「その代りと言ってはなんだけど、二段階目を目指してるよ」
「ああ・・・光ってるのは一段階目なんだっけ」
この士郎の魔剣が光る現象は、必要以上に気を込めているのが原因である。真っすぐ流さなければいけない所を曲げて流していたり、一定ではないために起こる現象だ。
魔術師ならば未熟どころか魔術を使う度に死にかけるようなものだが、幸い気にそう言った面は少ない。
その代り、魔術回路を使うような繊細なコントロールが出来ないのは致し方ないが。
「一段階でこれかー。二段階目になったらどうなるんだろうね」
「わからない・・・ただ言えるのは、義経はもうこの刀じゃなきゃダメになってしまった」
シンクロ、とでも言うのか。圧倒的な馴染み深さに刀自体が強力。多少無理をしてもこの刀は答えてくれる。
(主が
義経にはまだ自由に使えない技がある。それが発動出来た時、刀はどう答えるのか。
「そういえば士郎君は?」
「歩兵隊に交じって訓練してるって聞いたけど」
「どこだろ?」
歩兵部隊の所に目を向けるが彼の姿らしきものは無い。その代りに何やら円形に囲まれた人だかりがあった。
「あれなんだろう?」
「多分大将じゃない?」
そちらの方に歩いていくとまるでカンフー映画のように次々に相手を打ちのめし、吹き飛ばす士郎の姿があった。
「うわぁ・・・」
「やる気になった大将は凄いね」
相手は必ずしも一人ではない。ルールなど設けていないのか、ひたすら四方八方から襲い来る生徒を撃退し続けている。
「義経?」
最後の一人を弾き飛ばして士郎はようやく義経を発見した。そのくらい人だかりがすごいのだ。
「一度休憩にしよう。怪我した奴はいないか?」
士郎の言葉に特に返事は返ってこない。問題ないという事だろう。
「じゃあ休憩だ。皆、ありがとう」
「こちらこそ!」
「ありがとうございます!」
士郎の言葉に皆良い経験が出来たと明るい顔で各々休みに入る。
「士郎君お疲れ様」
「大将お疲れー」
「ああ、二人ともお疲れ様」
そう言って準備されていたスポーツドリンクを飲む士郎。
「二人の分もあるぞ」
「ありがとう」
「ありがたい・・・けど川神水が飲みたいなぁ・・・」
弁慶の言葉に苦笑して士郎は二本のスポーツドリンクを渡す。
「今はやめとけよ。本番で後悔したくなかったらな」
「わかってるわかってる。義仲さんマジだからね」
ひょうたんではなく士郎の渡したペットボトルから飲む弁慶。
学年三位以内でないと退学の代わりに川神水を飲むくらいの彼女がひょうたんに手を出さないのはそれだけ本気だという事だ。
「義経はどうだ?刀、大分調子よくなったと思うけど」
「うん!でも凄すぎて弁慶相手でも訓練用の棒を切ってしまって・・・」
「大将あれ何とかしてくれない?あれじゃ義経の訓練も半減だよ」
ふむと士郎は腕を組んで考える。
「・・・一応九鬼からの発注品で弁慶の錫杖は作ったんだけど・・・」
「待って待って初耳だよ!?」
「そりゃ聞かれなかったからな。別に隠してたわけじゃない」
しれっと言って士郎は続ける。
「とはいえそれを持ち出してもお互い危ないだろう。ってことで」
――――
士郎の手に金属の棒が現れた。
「大将の魔術?だっけ。それ見るの初めてかも」
「そうだね。で、士郎君それは・・・?」
士郎は投影した鉄の棒をヒュンヒュンと振り回してうんと頷き、
「棒だ」
「いやそのボケはいいって」
ビシッっと弁慶がツッコんだ。
「正確には弁慶の特注品の棒の部分だけってとこだ。これに布を巻けばそれなりに弁慶もやり合えるだろ」
「なるほど。それにしても便利だねぇ・・・何もない所から武器やら道具やら。与一の病気がさらに進行するよ」
「それほど便利でもない。色々代償は払ってるんだからな。これだって魔術を使わなくても準備出来たものだろう?それを考えたらむしろマイナスだよ」
ひょいと弁慶に鉄棒を渡す士郎。
「それは穂先が無いこと以外は本物と変わらない。だから弁慶も義経の刀のように出来る。出来ないとそんなに打ち合えないことには変わりないから頑張れよ」
「むむ・・・確かに私も結晶作ったけどこんなに早く渡されようとは・・・」
「早くに慣れておくに越したことは無い。武蔵坊弁慶が武器の扱いが下手じゃカッコつかないだろう?」
ビュンビュンと士郎と同じように振り回しながら弁慶は何とかしようと無言で念じる。
と、
「あ」
「あ!」
ほんわかと棒が光った。
「出来た・・・かな?」
「流石弁慶!義経はつい最近やっとできたのに・・・」
「いや、主のをずっと見てたからってのもあるんだけど・・・これ、疲れるなぁ・・・」
へにょりと弁慶は棒をついてくたりとした。
「集中力の問題だろ」
「確かにコツさえ掴めば出来るけどこれは辛い。」
スゥっと光を収めて弁慶はまたスポーツドリンクをゴクリ。
「まぁ鍛錬あるのみだな。その内慣れる」
士郎はそう言って体をグイっと伸ばした。
「士郎君はどんな訓練をしてたの?」
「ん?対百代鍛錬」
はぁ、とため息を吐いて士郎は言った。
「も、百代先輩の?」
「どういうこと?」
「単純な話さ。百代が拳を超高速で10発打ち込んでくるとする。これを再現するにはどうすればいいか?」
士郎の言葉に義経が、あ、と気が付いた。
「複数の人にほぼ同時にパンチしてもらえば・・・」
正解、と士郎は頷いた。
「実際には違うだろうけどな。再現はこれが手っ取り早い」
「それで複数人の乱取りみたいなことしてたのか」
「これしか方法が無いからな。・・・と。休憩はこの辺にして続けるか」
「し、士郎君!良ければ義経とも組手を・・・」
「そうだねーもう少し慣れるまで時間ほしいなぁ」
そうか。と士郎は頷いて義経と共に離れて行った。
「・・・ああいう所は空気読めるんだけどなぁ・・・」
はぁ、とため息を吐いて弁慶は渡された鉄棒を振る。
ちらりと。士郎が給水塔の上を見たのに気づくことなく。
――――interlude――――
給水塔の上では。
「あちゃー・・・やっぱり気づかれちゃった」
士郎の訓練を上から見ていた燕が、まいったねぇと呟いた。
「あの人数でルール無用の乱取りかー・・・モモちゃんみたいにはいかないけど、確かに仮想の敵として想定するならアレくらいしなきゃ駄目か・・・」
双眼鏡を下してため息を吐く。
「結局契約も破棄になっちゃったし、無理にこだわる必要もないんだけど・・・」
思い出すのは初めて鍛錬という名の摸擬戦をした時の事。どうしても悔しさがこみ上げてくる。
もう燕の獲物は士郎に変わっていた。どうしてもあの時の事が頭から離れない。
「勝つの無理だなぁ・・・油断ないもん。実力も上。もうどうしようかなぁ・・・」
打つ手なし、と給水塔に横になる燕。
「だいたいずるいよん。強くて優しくて頭もよくて・・・あんな極上の人、見逃せないじゃん」
ほんわかと頬が熱を持つのを自覚してムニムニと揉み解すが籠った熱は無くなってくれない。
最初は百代攻略の為に興味が湧いただけだった。でも影で彼の為に力を尽くす女性たちを見てなんだか本当に興味が湧いたのだ。
それからというもの、彼を観察する毎日。契約は破棄されたというのに今も彼が気になってこうしてバレるのもいとわず観察している。
「うーん。初恋・・・かなぁ・・・」
鼓動が激しくなるのも構わず呟く。その言葉は困ったことにストンと胸に落ちた。
「いやでも沢山誑かしてる天然ジゴロだし・・・うーん・・・」
彼を取り巻く環境には女性が多すぎる。少しは自重しろと言いたいが本人にその気は全くなく。というか気づきもしない。
「あの様子。義経ちゃんも落としたかぁ・・・」
もう一度双眼鏡を覗けば、士郎の行動に一喜一憂する義経の姿が。本人は特に気になった様子もなく。
「もうー!燕ちゃんらしくない!らしくないぞう!」
義経の姿に嫉妬してしまって、それは自分らしくないとジタバタする燕。
けれど、結局気になって覗いてしまう燕なのだった。
――――interlude out――――
訓練が終わり、いつもより遅く帰宅する士郎。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「お、おかえり!」
様々なおかえりに士郎は何処か満ち足りた気分になった。
「今日も訓練か?」
「ああ。義経は本格的に旭さんと対峙するつもりみたいだからな。俺だけ遊んでるわけにはいかないだろう」
そう何気なく言う士郎だが、林冲は顔を顰めた。
「士郎は少し遊んでいてもいいと思う。だって――――」
「ありがとう。でもそれ以上は、な?」
「・・・。」
士郎の言葉に林冲は押し黙った。
「それが士郎の望みならそうする。でも、貴方は少し無茶しすぎだ」
「そうでもしないと勝てないからな。みんな誤解しているけど、俺が百代に勝つ可能性は限りなく低い。少しでも足掻けるようにしておかないとな」
「だからと言って、英霊相手の鍛錬をしておきながら学園でも鍛錬では林冲も心配だろうよ」
そう言って出てきたのは史文恭だった。
「だからそれは秘密だって」
「私達相手に秘密もなにもあるか。私達だから言えることだが、人の身であの筋肉バカを相手取るなど度が過ぎる」
そう。士郎は学園の訓練以外にもレオニダスとの鍛錬もしていた。
しかし、流石英霊。それも防衛の伝説をもつ彼相手に士郎は挑んでは気絶を繰り返していた。
「あれは一応勝機が無くはないからな。だけど、百代同様殺し合いになる」
「私達では一切攻撃が通らない相手にそれだけでも十分にお前も化け物だ。少しは自分を認めることだ」
英霊を倒す、正確には攻撃を通すにはそれを凌ぐ神秘や概念が必要になる。現状、たとえ百代であってもレオニダスに傷一つつけることは叶わない。
しかし士郎は別だ。魔術師だから、というだけでなく彼は数多の宝具を扱うことが出来る。故にダメージを通すことが出来る。
だが、それは可能だというだけであり、勝てるという事には繋がらない。
「認めてはいるんだけどな。まだ足りないと思うんだ」
「・・・この石頭め」
そう言い捨てて史文恭は入れ替わるように外に出る。
「買い物か?」
「ああ。頼んでいた本が入荷したらしい。それの受け取りだ」
「頼んでたって・・・もう書斎の本は一杯だろう?」
彼女と清楚はとにかく貪欲に本を読み漁る。その為折角作った書斎ももう棚がいっぱいのはずだ。
「わかっている。だから部屋をもう一部屋借りてその都度入れ替えている。・・・そうだな。今日はその手伝いをしてもらおうか。もちろん鍛錬は無しでな」
暴論だが、それが彼女なりの気づかいだと分かっているので士郎は渋々了承した。
「・・・書斎はこれ以上広げないからな。家が全部書斎になっちまう。ある程度は電子書籍か何かで我慢しろよ?」
「電子書籍?なんだそれは」
「あー・・・」
「士郎・・・」
やっちまった。と頭を抱える士郎に、余計なことを教えてしまったと顔を伏せる林冲。
この後。大容量のタブレット端末を早々に購入し、書斎に納めきれなくなった本を一気にため込む史文恭だった。
「っと。これは何処に置くんだ?」
「それはこっちにお願い」
「こっちはこの棚に入れるぞ」
夕食後、士郎は約束通り書斎の整理に駆り出されていた。一部屋では到底収まらない大量の本に士郎は冷や汗を流した。
「ホントに際限なくため込んでるな・・・電子書籍にしてよかったんじゃないか?」
「確かにあれは便利だな。だが、やはり実物の本の方がいい。あちらはあくまで読み終わったもの用だな」
「史文恭さん、私にも見せてくださいね」
「構わん。もうネット上に保管してあるから最悪端末が壊れても問題ない」
「・・・。」
闇討ちで本を狙われたら阿修羅になりそうだなと密かに士郎は思う。それだけ彼女の本に対する意識は高かった。
「ちょっと失礼しますぞ」
「レオニダス?今日は鍛錬を休むって言ったはずだけど・・・」
「いえ、私も本を借りに来たのですが」
なんと。この書斎はレオニダスも利用しているらしい。
「様々な知識や物語が読めて実に良い場所かと。私の時代にも欲しかったですな」
何だかんだ彼も知識人なので何かと利用するようだ。
「レオニダスの時代には無かったのか?」
「書物を集めている者はいましたが・・・何分とても高価だったのです。ここまで集めようとすると何代重ねても資金が足りないかと」
「レオニダスさんはその時どうされたんですか?」
清楚の言葉にレオニダスは昔を思い出すように、
「学者の集まる・・・今でいう学会のようなものがありましてな。その場で意見交換をするのです。残念なことに、我がスパルタには中々なかったのでそれはもう貴重な時間でした」
(そりゃあ十倍の奴隷を従えるために一人十人分強くなればいいなんてことがまかり通った真正の脳筋国家だからな・・・)
密かに士郎は嘆息していた。スパルタは史上最強の脳筋集団。彼らが動けば勝敗が簡単に動くほどだった。
だが、意外にも後の世に伝わっているスパルタの戦いは非常に理知的な物であり、やはり、優れた指導者あってこその最強の集団だったのだろう。
「それで、今日も何かお借りしたかったのですが、今は忙しそうですな」
「いや、タイミング的には良い時だぞ。読み終えた本とこれから読む本の入れ替えをしているのだ。読み終えた本はしばらく倉庫に行ってしまうから今の内に見繕うといい」
「倉庫って、まぁいいけどさ・・・」
勝手に部屋の一つを倉庫にされた士郎としてはたまったものではないのだが。
とにもかくにも、レオニダスはそれならばと、しばらく本を物色して眼鏡にかなった本を数冊手に持った。
「ではこちらをお借りします。マスター、戦が控えていますから怪我などされませんように」
「ああ、わかってる。いつもありがとう」
レオニダスとの鍛錬の度に気絶する士郎だが、もっとも彼を怪我や病魔から守ろうとするのもレオニダスだった。
レオニダスが去ってから数分後、ようやく本の入れ替えが終わり、士郎も作業から解放された。
「助かった。また頼むぞ」
「またお願いね、士郎君」
「構わないぞ。それにしても二人は本当に本好きだな・・・」
早速新刊を手に取り読む態勢に入る二人に苦笑しつつも士郎はその場を後にした。
本の整理から解放されて士郎はどうしようかと悩んだ末、結局魔術の鍛錬をすることにした。
――――
投影魔術を鍛錬するのは意外にも久しぶりかもしれないと士郎は思った。
腕は鈍ってはいないが、なにかと戦力として呼ばれたり、鍛治仕事をしたりと、本格的な魔術の鍛錬は久しぶりのような気がする。
「・・・。」
精神を魔術回路に集中する。作り出すのはとある伝説の品。
――――
無事投影出来たそれを様々な角度から見て、コンコンと叩いてみたりする。
「上々だな」
納得のいく出来だったのか士郎は頷いてそれを土蔵の中に敷かれたブルーシートの上に置く。
何だかんだ言って、彼の鍛錬場所は土蔵になっていた。本来ならば、工房でもある鍛冶場でやるべきなのだろうが、いつかの夜同様、こうして土蔵で行ってしまうのだった。
何度か同じものを投影しては消しているとコンコンと入り口を叩く音がした。
「橘さん?」
「あ、ああ。邪魔・・・だったよな?すまない」
「そんなことありませんよ。どうしたんですか?」
「鍛錬の事で相談があるんだ」
「鍛錬?レオニダスとのですか?」
「うん。私も混ぜてほしいんだ」
そう言ってバッと頭を下げる天衣。
「今の私じゃ足手まといなのはわかってる!でも私もまた強くなりたいんだ!だから頼む!」
「頭を上げてください。そんな大それたことじゃないんですから。今日は休みなので後日からで大丈夫ですか?」
「いいのか!?」
「良いも何も歓迎ですよ。是非、百代とためを張ったスピードっていうのを見せてください」
「うう・・・まだあの頃には追いつけてないけど、頑張る!」
ムンっと力を籠める天衣。彼女も大分明るい顔を見せるようになった。それが士郎にはとても嬉しい。
「と、今日はもう遅いから鍛錬をやめるように言うつもりだったんだ。士郎はここで鍛錬を始めると朝まで部屋に戻ってこないから・・・魔術の鍛錬は遅い方が良いのか?」
「魔術師によりますが俺は特に・・・いや、今くらいのがいいのか?いつも気づいたら朝だったから・・・」
「やっぱり・・・こんな外で眠ったら風邪を引くだろう?風呂も準備出来てるから今日はその辺にしておいた方がいいんじゃないか?」
「うーん・・・」
なんだか休め休めと言われても結局自分をイジメるような真似をしていたことに反省する。
「わかりました。今日は風呂入って寝るだけにします」
そう言って士郎は立ち上がった。
「出過ぎた真似をしてすまない」
「いえ、俺も人に言って自分がそうでなかったのを再確認できました。ありがとうございます」
「人に言って?」
「ああ、一子・・・百代の妹にも同じようなことを言ったんですよ。鍛錬のし過ぎで自分を痛めつけてるだけだって」
困ったように士郎は後ろ髪を掻く。
「一子に言っておきながら自分がそうしていました。ってことです」
「なるほど・・・百代の妹は師範代になろうとしているんだよな?」
「ええ。散々体を痛めつけていましたからね・・・ただ、そのおかげなのか膨大な気を習得することに成功しまして」
士郎は嬉しそうに語った。
「最初こそ持て余していた気も、今では大分扱えるようになりましたし、将来が楽しみですね」
「そうか・・・士郎は一子さんの師匠なんだな」
自然と天衣の口からでた言葉に士郎はびっくりして、
「し、師匠?いやいや、俺はそんな大層なものじゃないですよ。あくまで一子がですね・・・」
良いことなのにまるで悪戯のバレた子供のように言い訳じみたことを言う士郎に天衣はクスリと笑い、
「わかってるよ。なにもそんなに必死にならなくてもいいだろう?」
「・・・まぁそうですけど」
かと思えば拗ねたように言う士郎に今度こそ天衣は笑った。
「なんで拗ねるんだ?」
「拗ねてないです」
そう言いながらも仏頂面になる士郎に、天衣は可愛い所もあるんだなとやはり笑う。
「明日からよろしく」
「こちらこそ」
そう言い合ってこの夜は終わる。振り返ってみればそんなに長くないように思えるが、濃厚な一日はゆっくり、ゆっくりと過ぎていくのだった。
訓練編でした。士郎の鍛錬は作者的にどうやったら再現できるかなと無い頭を捻りました。
後半の衛宮邸もどうにか他の家庭には無い暖かさが伝わればいいなと思います。
次回は源氏大戦開始!です。こんがらがらないように頑張りますのでよろしくお願いします。