ご感想ありがとうございました!意外と、士郎相手ならガンガン行くべき、むしろ粘れ。的なコメントを頂いて、だよなぁ・・・と頷いてしまいました。
今回からはまたもや戦闘回ですかね?士郎の戦いを見届けてください。
では!
短くなっていた日も落ち、真っ暗な闇の中。士郎は以前源氏大戦が行われた山中にて身を潜めていた。
『・・・レオニダス。そっちはどうだ?』
『あまり芳しくありませんな。例の
『そうか・・・参ったな、完全に動けなくなってしまった』
何故士郎が山の中で身を潜めているかというと、先ほどレオニダスが言った『影』にあった。
そいつらはどこからともなく出現し、衛宮士郎だけを狙って攻撃をしてくる。しかも、誰かが間に入るとその者まで攻撃対象とするおまけつきだ。
(史文恭は無事だろうか。何とか致命傷は避けられたように思うが・・・)
全ては士郎が川神祭の準備を休んで帰宅した時まで戻る。
百代の告白に思考が纏まらなかった士郎はその日、とりあえず休むことを考えたのだが、
ガランガランガラン!!
「!?」
外敵感知の結界が強烈な音を発した。この外敵感知の結界は相手の敵意に対して反応するが、その敵意の強さに対しても音の強弱で反応してくれる。
「敵襲か?」
その日、士郎は早く帰宅したため家には史文恭しかいなかった。
「そのようだ。それも大層お怒りの様子だな。史文恭、戦えるかね?」
素早く赤原礼装を身に纏う士郎に史文恭は、当然だと言わんばかりに狼牙棒を携える。
「では出るとしよう。・・・今度は一体何処の勢力か・・・」
この時士郎はまた梁山泊と曹一族のような相手を想定していた。意趣返しにでもきたのか。そう思っていたのだが・・・
「なんだ・・・あれは・・・?」
まるで人型の影のようなものがしきりに頭を振って何かを探している。
「おい衛宮。どう出る?」
この時士郎は、一瞬史文恭を戦闘に巻き込むべきではないかもしれないと直感した。
「・・・史文恭は家の守りを頼む。外の敵は私がやる。気を付けろ、奴等奇怪な見た目を――――」
そこまで言った時だった。黒い影がこちらを視認し、黒い弓のようなものを向けてきたのは。
「!?この距離で気づかれただと!?」
衛宮邸から影まで約二キロはある。にもかかわらず相手は士郎のようにこちらを視認し、すぐさま攻撃の手を向けてきた。
パシュン!と飛び来る矢を投影した干将で叩き切る。その時、士郎の悪い予感は的中した。
(まずい!こいつら、魔術で出来た使い魔か・・・!)
魔術で出来た使い魔。それも相当な神秘を内包した存在だ。これではただの鉄の塊を叩きつける史文恭の攻撃は効果が薄い・・・!
――――
「史文恭!これを使え!」
投影したのはイリヤのメイド、リーゼリットが持っていた巨大なハルバード。巨大故に早々扱える重量ではないが、狼牙棒という鉄の塊を振り回すことの出来る彼女ならば可能なはず。
「ハルバードだと?衛宮、どういうつもりだ。私には狼牙棒が――――!?」
己の武器を侮辱されたと憤慨する史文恭。だがそれが大きな隙だった。
「史文恭!」
「!」
いつの間にか目の前に立っていた黒い影に狼牙棒を振りかざす。だが・・・
(!?なんだこの手ごたえは・・・まるで効き目がない・・・!?)
狼牙棒は確かに影を打ち据えた。しかし狼牙棒から伝わってくる手ごたえは通常ならざるもの。鉄を殴ったような、粘土にめり込んだような、意味の分からない感触を伝えてくる。
「チィ――――!!!」
史文恭が警告を聞かなかったことで
だが一歩遅く、
キン!ザシュ!
「ぐあっ!!」
長物・・・恐らく槍であろうそれを弾きはしたが史文恭は浅くない傷を負ってしまった。
「消えろッ!!!」
ズダン!と士郎の大上段からの一撃で影が真っ二つにされる。するとまるで元からそこには何もいなかったようにザアっと消えてしまった。
「史文恭!!」
「喚くな・・・お前の時ほどの怪我ではない・・・」
そう言いながらも声は弱弱しい。袈裟懸けに切られてしまった彼女はすぐに治療しなければ命が危うい。だが、
「・・・!また影か!」
遠方からまた影がやってくるのを見て士郎はすぐさま迎撃態勢を取る。
『レオニダス!すぐに戻って来てくれ!敵襲だ!!』
『なんですと!?すぐに向かいます!状況は!』
『史文恭が切られた!すぐに治療しないとまずい!』
シュン!と振られた槍を夫婦剣で弾き返し、当身を使った斬撃で距離を開け、横に一閃し、また消えた。
しかし、士郎の眼にはさらに遠方からまた影がやってくるのが見えている。
これ以上ここで戦うのは得策ではない。それに分かったことがある。
(こいつらに意思はない。そしておそらく気ではなく魔力に反応して俺を狙っている)
一体、また一体と切り伏せて士郎はそう分析した。なぜならこの影たちは、傷を負った史文恭を一切狙おうとはせず、むしろ眼中にないという形で自分ばかりを襲ってくるのだ。
「マスター!!!」
ドン、と随分な数になっていた影が吹き飛んだ。
「レオニダス!」
「マスター、急いでここを離れましょう!こいつらの目的は貴方ですッ!」
「チッ・・・やはり魔術師が居たか・・・」
完全にこれは魔術師の仕業だ。どこから情報が漏れたのか知らないが、人の口に戸はたてられない。恐れていたことが起きてしまった。
「もしもし!揚羽さんか!?」
『どうした?』
「魔術師の襲撃に遭っている!俺とレオニダスは犯人を捜すが、史文恭が浅くない傷を負った!至急回収に来てくれ!」
『なんだと!?分かった。今すぐに向かおう!敵の強さ的にはゾズマあたりが適任か?』
「いや、一切手出しをしないでくれ!こいつらは俺だけを標的にしている!手を出さなければ害はないはずだ」
ゾン、とまた影を切り伏せて士郎は考える。
(考えろ。こいつらはどうやって顕現している?もう少なくない数を倒した。だというのに尽きる気配がない。術者はどうやって召喚している?)
冷静に、今度はわざとつばぜり合いを起こし、
――――
相手を解析する。そうするとこいつらはキャスターの操っていた竜牙兵のように、ある一点から魔力の供給と召喚が絶えず行われていることが分かった。
しかし、それが人間ではないのは明白だった。
(まさか抑止力?いや、それなら周りにも被害が出るはずだ。なにより
となればなにか魔術書か大規模術式による集中攻撃だ。
「レオニダス!俺が囮になってこいつらを釣る。その間に史文恭を病院に!」
「!・・・くっ、了解しました・・・!」
「こっちだ影共!」
――――
派手に爆発を起こし、粉塵と共に士郎は駆けだす。
レオニダスはしばらく史文恭の護衛をしていたが、士郎の言う通り影たちはこちらに見向きもせず士郎を追いかけて行ったのを見てすぐさま史文恭を抱き上げる。
「大丈夫ですか!史文恭殿!お気を確かにッ!」
「大丈夫だ・・・それより、あれを持ってくれ」
そこにあったのは士郎が投影したハルバードだ。
「まさか戦うおつもりですか!?」
「もちろんだ・・・私がこの体たらくを黙って見過ごせるわけあるまい。忠告を無視して手痛い反撃を貰ったなど・・・私のプライドが許さん・・・!!」
「しかし、そのお体では戦うのは無理です。今は大人しく治療を受けてください」
「だが・・・!」
「そうしなければマスターが悲しむのですッ!」
「・・・。」
レオニダスの訴えに観念したのか史文恭はクタリと力を抜いた。
「わかった。治療を受けるとしよう・・・だがこの借り、必ず返すぞ・・・!」
苦虫を嚙み潰したように険しい顔をして史文恭は逆襲を決意した。
その後、レオニダスは途中で救急車に史文恭を預け、士郎に合流した形だ。辺りは夜の帳が落ち、一層影共が見えずらくなっている。
『しかしおかしいですな。これほどの異形召喚などすれば普通の術者ならばとっくに魔力切れを起こしているはず。何処にこれだけの魔力を・・・』
『昔、キャスターが町の人から少量ずつ魔力を集める陣地を作っているのを知ったが・・・それと似た形かもしれない』
なにせこの町の住民は活力にあふれているのだ。多少吸い取った所で、ちょっとした疲れを感じるだけかもしれない。
となればやはりこの事態は魔術師の仕業に思えるが、
『しかしどうにも解せない』
『と、申しますと』
『非効率過ぎる。私を捕らえたいのなら人質を取るのが手っ取り早い。現に曹一族は増援を呼んだら一族郎党皆殺しという脅しをかけていた。だがこいつらはどうだ?がむしゃらに私を狙うだけで一向に有効打を使う気配がない』
『それは・・・悪党のそれを考えるならば確かにおかしな話しですな』
となると、魔術師は魔術師でも未熟な魔術師なのかもしれない。まだ判断するには危ういがどうにか光明が見えそうな気がした。
そんな時、士郎の携帯が震えた。
「・・・大和」
しかし、彼には今電話に出ることは出来なかった。何とかこの影の軍勢を突破して犯人を見つけ出さねばならない。そうして士郎は電話の電源を切った。彼らに被害を出すわけにはいかないのだ。
――――その電話が、解決の一手になることも知らずに――――
――――interlude――――
士郎が足早に帰った後、大和達はお互い川神祭の準備を行って帰路に着いていた。
「大和の方はどんな感じになったの?」
「俺たちは無難にお化け屋敷だな。多分食べ物系は士郎がいるF組の方が盛り上がるだろうし」
「そうねー。士郎が作るメイド、執事喫茶なんだけど・・・」
「士郎は大丈夫なのか?」
「うーん・・・ただ事じゃなさそうだったからなぁ」
「モモ先輩は?」
「あそこ」
京が指さした先には真っ青な顔でうねうねと悶える百代の姿が。
「やっぱりモモ先輩がなんかしたんか」
「ぽいですね・・・(まさか、告白したんでしょうか・・・)」
少しだが士郎~士郎~と声が聞こえるので間違いなく彼女が士郎がおかしくなった犯人だと思うのだが・・・
「秘密って言われたしなぁ・・・」
弟と親しむ大和をしてその対応なのだからちょっとやそっとでは話してくれないだろう。
と、
「あ」
「モモ先輩の動きが止まったぜ」
「電話か?」
何事かと一同が見守っていると、突然百代が烈火のごとく怒り始めた。
「なんだろう・・・」
「少なくともいい反応じゃねーな」
そして何度か怒声をまき散らした後すぐに別な所へ電話をかける百代。
「なんだなんだ?」
「モモ先輩が大和坊みたいに色んな所に電話してるぞ?」
そうして一段落したのか大慌てで皆に合流し、
「頼む!力を貸してくれ・・・!!」
切実な願いが百代から話された。
――――interlude out――――
「フッ!ハッ!」
夫婦剣の乱舞が影共を引き裂く。先ほどまで隠れていた士郎だが結局隠れきれなくなり、当てもなく戦いながら移動を繰り返していた。
「マスター!大丈夫ですか!?あまり無理をなされては・・・!」
「わかっている!くっ・・・魔力が乏しい自分に嫌気がさすな・・・!」
出来る限り投影は控えている。なぜならこの影は無尽蔵に湧いてくるのだから元より魔力がそれほど多くない士郎はすぐに戦えなくなってしまう。
今回は暴徒戦とは違い、神秘を宿した武器でなければ打倒できない。故に、魔力が切れ、投影が出来なくなれば衛宮士郎は戦うすべを失う。
それだけは避けねばならないが、そうなると今度は激しく体を酷使することになり、体力が削られていく。しかも、
「この――――!」
段々と影共が一体一体が別々に押し寄せるのではなく、互いに連携して襲い来るようになっていた。
「マスター!」
「わかっている!!」
双剣を投げつけ、
――――
再度起爆させて爆炎を上げて煙幕を作り撤退する。本来ならばゲリラ戦として有効だが、この敵には時間稼ぎにしかならない。
だがその時間が、人間である衛宮士郎には何より必要な物だった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「マスター。水です。少しでも体を休めてください」
「すまない、レオニダス・・・」
そう言って差し出された水を飲む士郎。
「助かる・・・」
「いえ。こんなことしかできぬ己に腹が立ちますが、今はともかく元凶を見つけねば」
「ああ。早くしないと手に負えなくなる」
徐々にではあるが影の強さが増している。連携を組むだけでなく、一体一体の強さが上がっているのだ。
「なぜああも様変わりする?まさか経験を得ているとでも言うのか?」
「わかりませぬ・・・しかし、このままでは私はともかくマスターがもちません。なにか心当たりはありませんか?」
「そうは言ってもな・・・いや、まてよ。この山に入ってから奴らの数が劇的に増えてないか?」
当初は一番被害が出なさそうな場所で一番心当たりのある場所としてここを選んだ。それまでも徐々に増えていたがここに来てから相当に増えた気がする。
「マスターの予想が正しければ、私達は意図せず敵の懐に飛び込んだことになりますな」
「ああ。ここに魔術師、魔導書、魔法陣のいずれかがある。だがこの広い山で如何に見つけるかだが・・・」
それは絶望的と言っていいものだった。砂漠で一粒の宝石を見つけ出すような行為だ。
「マスターは索敵の魔術は扱えないのですか?」
「できなくはないが地図が無い。俺が使えるのはルーン魔術の索敵だ。それも地図を使った簡素なもの。ダウジングのようなことは出来ない」
「そうですか・・・一番集まっている場所を狙うのも良いかもしれませんがこの闇の中では何処が最も敵の層が厚いのかわかりません。一体どうしたものか」
「・・・。」
手はなくはない。自分が囮として引き付けている間に誰かに見つけ出してもらう人海戦術。しかしそれには多大な犠牲を払う可能性がある。
「今は俺だけに敵意が向いているが、この先変わらないとも言い切れない」
何とか息は整えた士郎だが全く行く先が見えない状況にため息が出る。
士郎の戦いは、苦しいものになりつつあった。
――――interlude――――
「姉さん、どこに向かうの?」
「九鬼の病院だ。そこにぶっ殺したい奴がいる」
ピキリと空気が凍る。彼女は本気だ。本気の殺意を抱いている。
「マジか・・・モモ先輩がここまでブチギレたの今までなかったんじゃね・・・?」
「モモ先輩落ち着いてください」
「・・・多分着いたらまゆまゆもそう思うぞ」
「え?」
「とにかく九鬼の病院に行こう」
大和達は百代先導の下、九鬼の病院を訪れた。だが、目的の病室には警官が立っていた。
「なんか警察の人いるんだけど・・・」
「いくぞ」
モロの言葉に目もくれずズンズンと百代はその病室に向かっていく。
「・・・ここは面会拒否となっているが」
「九鬼揚羽さんの連れだ」
百代の言葉に警官は身を引き、
「ど、どうぞ・・・」
恐れるように道を開けた。
「おい、あれ大丈夫か?」
「モモ先輩ガチでキレてんな・・・巻き添えはやべぇぞ」
「それもだけど今九鬼君のお姉さんの名前言ってたわよね?」
「・・・多分士郎絡みだと思う」
コソコソと喋り合うファミリー。
「おい、お前達早くこい」
「お、おう」
「行きましょう」
百代の全開の殺気にあてられて震える警察官に黙礼して病室に入ると、居たのは九鬼揚羽と最上旭だった。
「よく来たな。・・・百代、ここは病院だぞ。殺気を抑えよ」
「揚羽さん、コイツが・・・!」
百代の髪が気で持ち上がる。それに応えたのは最上旭だった。
「ええ。私の父、最上幽斎よ」
「なんだって!?」
ベッドに横たわっているのはカラカラに干からびたような様子の最上幽斎だった。
「最上幽斎って・・・」
「確かテロリストの疑いで追われてた人物だな」
「だから病室の前に警察いたんか」
「でもこのミイ・・・患者が最上先輩の親父さん?」
「おいキャップ」
的確だが酷い表現をしそうになったキャップを大和が叱る。
「いいのよ。事実だから。お父様、百代達が来たわ」
カラカラになった手を握って旭が声をかける。
「しゃ、喋れるんですか?」
「喋ってもらわねば困る」
明らかに命の危機に瀕している相手だが、揚羽の言葉は厳しいものだった。
そして一時おいてゆっくりと最上幽斎が目を開けた。
「ああ・・・君達が彼の友達か・・・僕の為に来てくれてありがとう」
干上がったカラカラの声が発せられる。その様子はキャップが比喩しようとした通りまるでミイラが喋っているかのようだった。
「誰がお前の為なんぞに来るか!士郎に一体何をしたッ!!!」
「士郎先輩・・・?」
「まさかこの人士郎に何かしたの?」
激情を露わにする百代に一同は困惑する。
「彼には本当にすまないことをしたと思っているよ・・・だがこれも彼への試練・・・」
「お前・・・殺すぞ」
ビキリと空気が凍り付く。本気だ。百代は本気でこの今にも死にそうな男に必殺の拳を振りかざそうとしている・・・!
「よせ百代。ここでこんな外道に手を下してもお前の手が血に汚れるだけでなんの益もない。それよりも話せ、最上幽斎。貴様、衛宮に何をした」
「ちょっと特別な・・・本を見つけてね・・・躍進を遂げる川神にはいい試練になるかと思ったのだけど・・・」
コホッコホッと乾いた咳が響く。
「どうやら・・・僕への試練でもあったようでね・・・使用したらこの通り・・・生気を吸われているのさ・・・」
「答えになってない!試練試練ってお前の都合なんざどうでもいい!!士郎に何をしたか吐けッ!!!」
「姉さん!待って!」
「モモ先輩待った!」
咄嗟に大和とガクトが百代を抑え込む。ジタバタと暴れているので今にも二人とも吹き飛ばされそうだ。
「彼は・・・その本に呼ばれた存在に追われている・・・恐らく、形のない何か・・・悪魔のようなものの核にするために」
「なんだって!?」
「悪魔・・・と来たか。最上、貴様が使ったのは魔術書の類だな?」
「そうだ・・・中には・・・我々の知らない言語が書かれていた・・・だが、僕の勘が囁いていた。これは良い試練となると・・・」
「それで士郎先輩を狙わせているわけですか」
「ま、まゆっち・・・」
話しを聞いていた由紀江も徐々に殺気を露わにしていく。
「いや・・・僕が狙わせているのではない・・・本が勝手に狙っているのさ・・・この世界で最も核となりえる人物を・・・」
また乾いた咳が響く。
「彼には・・・我々には無い特殊な力があるんだろう・・・?本を通して飢えのようなものを感じている・・・きっと彼がこの世界で唯一それを持っているんだ・・・」
「・・・魔力」
ポツリと大和が呟いた。
「それで、その本は何処にやった」
「源氏大戦で使った山の中・・・場所は・・・わからない。使用したら何処かに行ってしまったからね・・・」
「チッ・・・それじゃあ何も分からないじゃないか・・・!!!」
山というだけあって相当に広範囲である。あの山中から一冊の、それも無尽蔵に敵を召喚している物を探し出さねばならない。
「今・・・僕がこうして生気を吸われているという事は、彼はまだ無事だという事・・・急いだ方が良い・・・飢えは時間が経つにつれて酷くなっている・・・」
それだけ言って最上幽斎は眠るように目を閉じた。
「・・・。」
一応心音計が鳴っているので生きてはいるのだろうがその波形は緩やかになりつつある。
「聞いたな、お前達。我らはこれから衛宮を探しつつその本を探す。衛宮の最後の電話では、攻撃さえしなければ襲ってはこないという事だ。だが・・・」
確実に安全とは言い切れないと揚羽は言った。
「なぜです?」
あまりの激情に無言になる百代に代わり大和が聞く。
「我らは特殊任務に就いている九鬼家従者部隊、序列4位のゾズマを派遣しようとした。ゾズマの強さを衛宮は一度目にしている。それでも手を出すなと言ってきたのだ」
「序列4位・・・」
九鬼で序列4位というのは絶大な力を持っていることになる。もちろん、九鬼の序列は戦闘力だけでは測られていないが、それでも4位ともなれば壁越えの強さだろう。
そんな人間を派遣しようとして、それでも断られた。となるとただ敵が強いだけではないのかもしれない。
「多分・・・魔術じゃないと効き目が無いんだと思うわ」
それまで黙っていた旭が口を開いた。
「最上先輩、士郎の秘密を知っているんですか?」
「ええ・・・これまでずっと観察してきたけど、多分、私以上に彼の秘密を知っている者はいないでしょうね」
「それはなぜだ・・・と問いたいが今は時間が無い。最上旭、お前の見解を我らに聞かせろ」
「感謝するわ。お父様が使ったのは恐らく魔術書。使用者の生命力を原動力として何かを復活、あるいは顕現させようとしているのだと推測できるわ」
「・・・旭ちゃんの推測が当たりだとして。なんで士郎だけが狙われるんだ」
「恐らく彼が魔術師・・・いえ、魔術使いだからよ。きっと本の目的を達成するには魔術師を核としなければならない。でないと、揚羽さんや百代が狙われない理由がないわ」
「じゃあ士郎は今もたった一人で、どこに居るのかもわからない敵と戦い続けてるってことなのか・・・!」
クリスの言葉にブワッとファミリーに怒りが満ちた。
「大和!電話!」
「もうしてる!・・・くそ!繋がらない!」
「俺様達も行こうぜ!」
「そうよ!士郎を一人に何か出来ないわ!」
「士郎先輩・・・すぐに行きますッ!」
そう言って駆けだそうとする風間ファミリーを揚羽が扉の前に立つことで防いだ。
「どいてください!揚羽さんッ!!!」
「たわけ!もう少し冷静にならんか!今最上旭が言ったことが聞こえなかったか!」
皆の視線が最上旭に向けられる。
「・・・そう言えば魔術じゃないと効き目がないって・・・」
「旭ちゃん、どういうことなんだ!?」
「言葉通りの意味よ。魔術書によって作られた存在なら相手は魔術・・・神秘の押し合いでしか倒せないの」
「神秘の押し合い?」
「ええ。言ってしまえばどれだけオカルトとして信じられているかという事よ。現在より過去、古の武器だとか技だとか・・・そこにオカルト的な強さがないとダメージを与えられないの」
「じゃあモモ先輩でも敵を倒せないってのか・・・!」
愕然としたようにファミリー達が固まる。故に士郎はゾズマの救援を断ったのだ。
「オカルトっていうならレオニダスさんは?あの人は確か・・・」
「そうね。だからもうレオニダスさんは士郎の元に向かっていると思うわ。マスターとサーヴァントなら念話が出来るし、レオニダス王は英霊。神秘の最たる存在だから・・・特攻ではある」
けれど、と最上旭は続けた。
「敵は士郎だけを執拗に狙っている・・・いくら英霊・レオニダス王と言えど、疲弊していく士郎を庇いながら戦い続けるのは不可能よ」
「じゃあどうすればいいんだよッ!!!」
ガン!と百代が床を踏み鳴らす。
「・・・手が無いわけではない。今衛宮は孤軍奮闘している。その間に我らで魔導書のありかを見つけ出す」
「でも停止させられないじゃないですか?最上・・・さんはこうして勝手に生命力を吸われているわけですし・・・」
「いっその事こいつを・・・!」
「それはやめた方がいいわ。魔術は電気のように元を立てば止まるものではないの。手順や魔術をキャンセルするようなものを使わないと暴走という形になりかねないわ」
「ていうことはそこのミイラのおっさんが死ねば俺らも危ないってことか」
今度こそキャップは蔑称を使った。それだけ彼もこの状況に怒りを覚えているのだ。
「・・・。」
「大和・・・」
一子がすがるように大和を見る。彼は今全力で思考を巡らせていた。
(士郎が電話に出ないのは俺たちを巻き込まないためだ。ただ強いだけじゃ倒せない相手だから姉さんさえも無力。俺たちにできることはなんだ?)
沈黙が病室を支配する中、揚羽の電話が鳴った。
「私だ。・・・なに!?無事なのか!?」
「なんだ?」
「もしかして被害者が出たんじゃ・・・」
「うむ・・・うむ・・・そうか!では二人にも召集をかけてくれ!ではな!」
ピ、と電話が切られる。
「喜べ、とは言えないが収穫があったぞ」
「揚羽さん!!」
がばっと百代が揚羽の肩を掴む。
――――もたらされたのは、僅かな可能性だった。
――――interlude out――――
「ここでもない・・・一体何処だ?」
士郎は夜通し山中を探し回っていた。時間は夜明け前と言ったところか。
山に飛び込んでから夜が明けようとしている。
『レオニダス、そちらはどうだ?』
『それらしきものは無いように思います。ですが、日が昇れば幾分か奴らの配置が分かりそうですな』
『・・・それは難しいかもしれない』
士郎の異常な視力は暗闇をものともしない。そんな彼の目にはまるで一面黒で塗りつぶしたような光景が広がっているのだ。
『マスターは暗視も出来るのですね』
『ああ。先ほどからなるべく高い位置から見下ろしているが・・・山が黒一色に染まっている』
時間が経ち、数が増えすぎたのだろう。陽炎が揺らめくように黒に染まった山がユラユラと蠢いている。
『もう夜が明けます。マスター、体調は大丈夫ですか?』
『問題ない』
過去には一週間丸々警戒の為に起きていたこともある士郎である。この程度ならばまだ彼に変調は見られない。
(しかし確実に疲労は蓄積しているはず。大した精神力です)
『下から見て何処から奴らが来ているか見当は付きそうか?』
『いえ、下からは無理です。マスターがおっしゃる通り、上を見れば夜明けが近いことがわかりますが、そうでないと視界が黒一色です』
このままではまずい。強さもそうだが単純に数の暴力で押し切られる。今のレオニダスなら数回は宝具を使えるだろうが、それも一時の効果しかないだろう。
『万事休すか・・・ん?あれは・・・」
真っ黒な山の中に執事服とメイド服を着た者達が入ってくるのが見える。
「揚羽さん・・・」
間違いなく九鬼の従者部隊だ。連絡を絶っていたとはいえ、夜通しドンパチやっていれば場所は割れる。
それだけではなく、
「なっ・・・義経、大和達も・・・!」
彼らも結局やってきてしまったのだ。
「揚羽さん、何を考えている・・・!なぜ彼らを連れてきたんだ・・・!」
『マスター。影共が動いています。何か変化があったのですか?』
『最悪だ。九鬼の従者と義経達、そして大和達が山に入った・・・!』
『なんですと!?なぜそんな愚行を・・・』
『分からない。とにかく彼らに接触しよう』
タン、タン、と木の枝を蹴って跳躍する。図らずも修学旅行の木の根道で言ったことを実際にやることになってしまった。
「!士郎!」
真っ先に彼に気付いたのは百代だった。
「声を抑えろ・・・山の中は影共で溢れている。それよりもなぜ来た。手出しをするなとあれほど言ったはずだ」
「そうは言うがな衛宮。我らもなんの策も無しに来たわけではない。第一人手が足りまい。大元を見つけるには人手が必要なはずだ」
「確かにそうだが奴らは・・・」
「その辺の話は最上旭から聞いている。そこで一つ朗報だ。お前の打った魔剣。あれは影共に有効打を与えることが出来る」
「なに・・・?」
それは考えていなかった。確かにあれは魔術を用いて鍛えられているがこの強烈な神秘を宿す奴らに効くとは考えもしなかった。
「一体どこでそれを?」
「街中で義経と弁慶が影に遭遇してな。迂闊な行動から戦闘になった」
「「・・・。」」
迂闊と言われた二人は俯いた。
「そこで抵抗した際、義経の刀は影を切り裂き、弁慶の錫杖は影を穿った。偶然だが奴らに有効なことは立証された」
「しかし彼女達だけでは・・・」
「わかっている。さらにお前が準備したこれを百代と共に投入する」
素手の百代が珍しく手にしているのは史文恭に託したハルバードだった。
「これはお前の魔術の品であろう?これを使えば百代が戦いに参戦できる」
「確かにそうだが・・・」
「私とまゆまゆ、ワン子なら影を倒せる。義経ちゃんと弁慶もいる。これだけの戦力があれば陽動くらいは出来るはずだ」
「九鬼からも忍足あずみが対応できる。それと・・・」
「士郎・・・!!」
「士郎!」
俊足で駆けつけたのは林冲と覇王状態の清楚だった。
「林冲、清楚先輩・・・君達まで」
「士郎、私も戦う。これ以上士郎を危険な目には遭わせない・・・!」
「俺もだ。俺の虞をこれ以上一人にはせぬ」
「これだけいれば陽動は容易かろう。我も参戦したいが我には武器が無い。お前に準備してもらうのもいいが、ここは従者部隊の指揮を執ろうと思う」
「・・・だがこの山中から元凶を見つけるのは困難だ。彼女達を危険な目に遭わせる訳には・・・」
「士郎君。それは義経達も同じことだ」
義経は真っ直ぐに士郎を見つめて言った。
「ここにいる誰もが士郎君を失いたくないって思ってるんだ。士郎君だけじゃないんだよ」
「・・・。」
義経の言葉に士郎は黙るしかなかった。
「義経の言う通りです。我々猟犬部隊も援護に回ります」
「マル・・・!」
「士郎、怪我はしていませんね?到着が遅れたことを謝罪します」
ペタペタといつもの様に触診しながら言うマルギッテに士郎はついに苦笑をこぼした。
「激戦になるぞ」
「望む所よ。最上幽斎が死ねば近隣住民にも被害が出る可能性があると最上旭は言った。我らとしても見過ごすことは出来ん」
「ちょっと待ってくれ旭が?なぜ旭がそんな詳細なことを・・・」
「私は士郎、貴方を知っているからよ」
「旭・・・」
何かあるとは思っていたがまさかここまで知られているとは。
(本格的に確かめないとな)
そう決めて士郎は集まった皆を見つめる。
「では私と戦闘を行うものを集めてくれ。それ以外の者は山のどこかにある元凶を見つけてほしい」
「最上幽斎の話しでは本という事であった。しかしこれだけの影を生み出しているならば生身で近寄るのは愚の骨頂だろう。衛宮はいつでも我らと連絡が取れるようにせよ」
「そういうことなら良い方法がありますぞ」
現れたのはレオニダスだった。
「いい方法?」
「左様。マスターと繋がっている者達は念話が出来るはずです」
「なに?だが成功しなかったぞ?」
念話はパスが繋がった時に試したが上手くいかなかった。
「前に、義経嬢がマスターから魔力を吸い上げましたな?その時義経嬢は何か異常を感じたでしょうか?」
「い、いえ!むしろいつもより力が湧いたくらいです・・・」
後半になるほどボショボショと言う義経にお気になさらず、と言いおいてレオニダスは士郎を見た。
「恐らく、魔力を供給することに悪いことはありません。元は同じ力のようですからな。マスターがしなければならないのはテレビのチャンネルを変えるような作業です」
「・・・そうか。魔力ではなく、気で送受信すればいいんだな?」
その通りとレオニダスは頷いた。
『・・・聞こえるか?』
「「「!!!」」」
士郎とパスの繋がった百代、由紀江、マルギッテ、義経、揚羽が驚いたように反応した。
『聞こえる!聞こえるよ!』
『私の声も聞こえているでしょうか?』
『これは便利だな。機械いらずとは』
『問題なく聞こえています。ですが全員が混線してしまっているようですが・・・まぁ、今は十分でしょう』
『魔法って感じだなー』
繋がったことを確認して士郎は頷いた。
「マルの言う通り今はこれで十分だ。魔術書は山中のどこかにある。抵抗出来る俺達で盛大に引っ掻き回すから、何処から供給されているのか把握してもらえれば見つけられるだろう」
光明は見えた。後は戦える者達が如何に影の群れに穴を開けられるかにかかっている。
影を減らせば減らすほど影たちの動きが鮮明になるだろう。
「おい士郎。俺にも百代のような武器を寄越せ」
唯一武器を持っていない清楚が手を出して言った。
――――
手に現れたのは何やら豪華な装飾のなされた方天画戟。いつも彼女が使っているそれとは比べ物にならない存在感を放っている。
「これが本物の呂布の武器か・・・存在感が違うな」
フオン!と一振りして満足そうに頷く清楚。
「くれぐれも用心してくれ。相手は神秘の宿った武器でしか攻撃が通らない。百代が本気で殴っても効果はないから必ず武器で攻撃するんだ」
「了解です!」
「かしこまった!」
由紀江と一子もそれぞれ刀と薙刀を手に頷く。
「大和達は揚羽さんの指揮下で魔本を捜索してくれ。・・・間違っても攻撃したり早まったことはするなよ」
「わかってる」
「速攻で見つけてやるぜ!」
「目には自信ある。任せて」
「自分は今回探す方だが・・・任せてくれ!必ず見つける!」
「僕は足手まといだろうから揚羽さんの所で報告に合わせて探索場所にマーキングしていくよ」
「妥当だな。では皆の者、行くぞ!」
応!!と返事をして一同が己の役目に走った。
今、元の世界ではありえなかった、全ての者が衛宮士郎の為に戦う戦いが始まろうとしていた。
詰め切れなかった・・・今回はここまでです。
士郎は一晩戦い続けました。でもまだ戦います。調べていて意外だったのは聖杯戦争の英霊への攻撃について。武器で怪我を負うのは納得がいきますけど、吹き飛ばされて、ぐあっ!ってセイバーやライダーがダメージ受けるの不思議に思った方はいませんか?
あれ、英霊が攻撃したら全部神秘ありの攻撃になるそうです。ただ吹き飛ばされてもダメージ通りませんが、英霊が吹き飛ばしたら神秘攻撃として判定されるという…なんともすごい設定だと思いました。
次回も流れが続きますがどうぞよろしくお願いします。では!