今回こそは最上先輩がなぜ士郎の事を知っているのか書きたいと思います。
では!
気だるい体を揺り動かし、ゆっくりと目を開ける。
「夜・・・?」
ポツリと呟いた声に一番に反応したのは、
「士郎!!!」
「も、百代?」
ばさりとベッドにのしかかる百代。
「痛いところ無いか?もう剣生えたりしないか?」
「ま、まてまて、そんなにまさぐられても何もない・・・うわ!」
ペタペタと体を探る手を払おうとしたものの、さらに一対の手が増えて士郎は驚いた。
「傷の兆候なし・・・あるのは古傷だけですね・・・」
「ま、マル!」
遠慮なしに触診してくる二人に何とかやり遂げられたんだな、と嬉しいやら恥ずかしいやらでもうされるがままの士郎。
「あらあら、二人とも大胆ね。眠る男子の体を容赦なくまさぐるなんて」
「ま、まさぐる!?」
「これは触診です。士郎の体はあの文言の通り、剣で出来ているのでしっかりと確かめなければ危険です」
「冗談キツイぞマル・・・それより、なんでみんなここにいるんだ?」
「それは、マスターが命の危機にあったからですよ」
「レオニダス!」
苦笑ながらも暖かい笑みで迎えてくれた従者に安心する士郎。
「そうか・・・固有結界が暴走しかけたんだな」
「はい。ただ魔力を供給しただけでは不可能と悟り、失礼ながら百代殿の魔眼を通してここの5人と共にマスターの体へと精神を送り込んだ次第です」
「士郎先輩・・・」
「士郎君、もう大丈夫?」
由紀江と義経も心配そうに見つめてくるので士郎はしっかりと頷いた。
「ああ。もう大丈夫だ。みんなに迷惑を「違うよ」義経?」
士郎の言葉を遮った義経は静かに頭を振り、
「迷惑だなんて思ってないよ。心配だった。士郎君に死んでほしくなかった。それだけなんだよ」
「そうだな。こういう時の言葉はすまぬではないと、散々言われたであろう?」
「揚羽さん・・・そうだな。みんな、ありがとう」
大事に5人の手を包み込む士郎の手にはようやく、熱が戻っていた。
「あの、士郎先輩。士郎先輩の中?で騎士王さんの残滓・・・に出会ったんですけど・・・」
「セイバーの?・・・そうか。なんて言ってた?」
「言葉は話せなかったんだ。でも、必死に士郎君の容体を叫んでいたら・・・」
彼女達が必死にセイバーの残滓と戦っていた時の事である。
「はあぁ!!」
百代の剛拳が光の守り手の剣を弾く。このままでは埒が明かぬと思ったのか剣に強烈な風が纏わされる。
「くるぞ!」
揚羽の忠告通り、剣に纏わせた風が恐ろしい豪風となって彼女等を襲う。
「っつあ!!」
「皆さん!大丈夫ですか!!」
「大丈夫だこのくらい!」
「はい!まだいけます!」
「義経も大丈夫です!」
何とか善戦はしているものの、5人がかりでこの有様とは、本物はどれだけ強いのだと冷や汗を流す揚羽たち。
そんな時だった。
「・・・ッおい騎士王さま!あんたは士郎を守ってるんだろ!このままだと士郎が危ないんだ!!ここを通してくれ!!」
「・・・。」
返答は激しい剣の乱舞。この意思の無い守り手はとにかく鞘に近づこうとするものを攻撃する。
その為、レオニダスさえも今だ接近できずにいた。
「流石、騎士王と呼ばれただけあるか・・・これほどまでに苛烈。しかして繊細な剣の扱いを我は見たことが無い」
油断すれば瞬く間に細切れにされよう剣舞を前にしても百代は叫び続ける。
「頼む!士郎がこの先自分を認められるように・・・・いや、これから私が
「「「!!!」」」
百代の心からの告白に動揺する4人、だが、
「そうです!私は士郎を愛している!この気持ちを伝えるためにも騎士王!そこをどきなさい!!!」
「ま、マルギッテさん・・・」
「義経も!義経も士郎君が好きだ!これからもずっと一緒に居たいんだ!だから・・・!」
「おうおう!みな衛宮が好きか!我もわるくないかなーと思っている!!」
「揚羽さんまで!」
「なんだ、黛は続かんのか?」
「え!えーっと・・・」
「まゆまゆはスケベだからなー」
「モモ先輩!」
『いわれない蔑み!』
「松風が出て来たってことは大丈夫だな!」
「あわわわ・・・私も!士郎先輩が大好きなんです!そこをどいてください!!」
『いけー!まゆっちー!』
「黛、少し状況を考えよ・・・」
「はうっ!」
「・・・いやはや相変わらずの由紀江嬢ですなぁ・・・」
すっかり緊張感がなくなってしまったが絶対に突破するという気概は互いに見せ合った。
「って・・・あれ、攻撃がこないぞ?」
よく考えたらこんな掛け合いをしている暇なんかないはずなのだが・・・
「・・・。」
まるで頭が痛いという風な動作を取って騎士王の残滓は攻撃の手をやめていた。
「・・・おい、意思がないのではなかったのか?」
「意思がなくとも呆れてしまうほどの事なのでは・・・」
「それは我らにか?乙女を落とし続ける衛宮にか?」
「・・・。」
「あ、両方みたいです」
とにかく頭痛が痛いという風に頭を抱える守り手。だが唐突にふっと上を見上げた。
「――――」
言葉はない。だが、自分が今求められていると知った彼女は剣を下し、光と共に鞘の中へと消えた。
「えっと・・・大丈夫・・・なのかな・・・」
「大丈夫でしょう。恐らく、マスターが無意識に鞘を使おうとしたんだと思います。おかげで状況を打破できそうです」
ゆっくりと鞘に近づき手を当てるレオニダス。もう一度、辺り一面がエメラルドのラインに包まれた。
「うむ。もう光の騎士王は出てこぬな。レオニダス。どのくらいで終わりそうだ?」
「いかに不死身の力を授ける聖剣の鞘と言えど、貸し出しの形ですからな・・・とにかくマスターの容体が安定するまでは供給しましょう。その間に、皆さん話し合われた方が良いのでは?」
「え?なにを?」
と、ここに来てポンコツ具合を出す百代にニヤニヤとしながら揚羽が近寄る。
「『これから私が愛していきたいから!』だったな?」
「う」
ボスン!と顔を赤くする百代。
「マルギッテや黛、義経もか」
「・・・貴女もそうでしょう。九鬼揚羽」
「まぁな。これほどの男と誰かを比べるなど出来んだろう?」
「はい・・・」
「義経もそう思います」
恥ずかしがりながらも真っ直ぐな彼女等に揚羽は笑った。
「よろしい!ならば衛宮が復帰したらその気があるか確かめ・・・いや、その気になってもらうか」
久しぶりの揚羽の悪戯を思いついたような笑顔に顔を赤くしながらも百代は問う。
「その気になってもらうって?」
「お前は散々自分の事を美少女美少女言っておきながらなぜこういう時にそれを活かさんのだ。それはそうと確認だが、誰か衛宮を諦められる奴はいるのか?」
「しません」
「無理です」
「義経も諦めたくないです」
「・・・ダメだったら地球割る」
顔を真っ青にする百代と徹底抗戦の構えのマルギッテ達。その様子にうむうむと頷き、
「どうせ正室、側室システムがくるのだから皆娶ってもらえばよい。マルギッテはちと難関だが・・・なに、諦めなければどうとでもなろう」
「そうですね。ただし、誰が正室かは決めなくてはなりませんが」
「「「・・・。」」」
ピキリとマルギッテの言葉に凍り付く空気。言外に正室は自分だ、という本音が見え隠れしている。
「衛宮が誰か一人に愛を注いでそれ以外には愛を注がないなどありえんだろうさ。むしろ愛を注ごうと必死になって自爆する未来しか見えんな」
「それでも正室は正室なので」
「「「・・・。」」」
「意固地だなお前達は。まぁよい。とにかく戻ってからの話になるが――――」
揚羽が丁度話を切り上げようとした時だった。鞘が不自然に輝きを増したのだ。
「え?」
「これは・・・」
「声?」
輝く鞘から僅かに声が聞こえてくる。
「・・・!・・こ・・・に!」
「ね・・・!つい・・・!」
「シロウ・・・!」
最後の彼の名を呼ぶ声を最後にブツリと声は途絶えた。
「今の、聞こえたか?」
「聞こえました」
「誰かが士郎君を見つけた、というような内容かな・・・」
「これは衛宮にも確認を取らねばなるまい」
と、そんなことがあったのだ。
「鞘を通して俺を呼ぶ声・・・か」
「恐らく、元の世界に残してきた師ではないのか?」
「十中八九、そうでしょうね。士郎の鞘を起点に、騎士王を通して士郎を見つけたんだと思うわ」
「士郎君・・・帰っちゃうの・・・?」
今にも泣き出しそうな義経を見て苦笑をこぼした士郎は義経の頭を撫でて、
「いや、もう帰らないさ。元の世界でやるべきことはもう終わったように思う。同時に、衛宮士郎としての生も、向こうでは終わったんだ」
「士郎・・・」
「ただ、俺の師・・・遠坂達が俺を見つけたのなら近いうちに彼女達もこちらに来るかもしれない。揚羽さん。その辺頼めますか」
「よい。しかし・・・また女子か。衛宮。貴様一体、何人落とせば気が済むのだ?」
「は?何人?なにが?」
「これだもの・・・」
「士郎先輩、いい加減自覚してください・・・」
「この天然ジゴロ野郎ー!まゆっちの純情を何だと思ってるんだー!」
「・・・なんか前の世界でも言われたなそれ」
「すでに言われていたのにこの有様ですか・・・」
はぁ、とため息を吐く一同。とにもかくにも何とか士郎が復帰した。
「じゃあ私は・・・」
「待った」
退席しようとした最上旭に士郎は待ったをかけた。
「旭。君がなぜ俺の事を事細かに知っているのか知りたい。何故君は鞘の事まで知っている?」
出て行こうとした旭の足が止まる。
「・・・もう少し、隠していたかったのだけれど」
そう言って彼女は振り返った。
「私は貴方の物語・・・伝記とでも言えばいいかしらね。それを読んだからよ」
「俺の・・・?」
「最上。それは魔術書か何かか?」
ひりつくような空気が張りつめる中、彼女は予想外の言葉を口にした。
「いえ?ゲームよ」
「げ、ゲーム?」
「そう。貴方が主人公として登場するビジュアルノベルゲーム。その名前は――――」
彼女はこう告げた。
その日、2-F組は大変な人が押し寄せていた。
「一列にお願いしまーす!」
「他の人を押さないでくださーい!」
「どうぞ。お嬢様」
「キャー!衛宮君ー!!!」
「源君よー!」
とにかく士郎と忠勝目当ての女性が多く、裏手で料理を手掛ける士郎は大忙しである。
「こちら今日の特別メニューです」
「ありがとう・・・あの写真いいですか?」
「お嬢様の申し出とあれば、喜んで」
裏方のはずなのに料理を出しては黄色い声を上げられて写真撮影を求められる。
その為行列は一体何処まで続くのだというほど長い。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
その言葉と共に退店する度また黄色い声が上がる。
士郎は一つため息を吐いて2-Fの教室を改造した喫茶店へと戻る。
今日は延期されていた川神祭(文化祭)だ。士郎が回復してから実に4日後という事になっている。
それというのも、やはり不審者出没として処理されたためすぐに学園を再開することが出来なかったからだ。
「衛宮。交代だ。休め」
「忠勝・・・抜けて本当に大丈夫なのか・・・?」
ズラリと並ぶ列を見て士郎は忠勝に問う。
「逆だ。お前が抜けないと客が捌けねぇ。この調子じゃ、日が暮れても客足が途絶えねぇだろ」
「・・・確かにな」
嬉しいことだが自分を目当てに訪れる客も多いのである。来てくれる人には申し訳ないが、士郎がいなくなれば、その分の客は途絶えるだろう。
だが、
「焼け石に水な気がするぞ。それに・・・」
ちらりと列を見ると・・・
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・。」
「「「・・・。」」」
自分を見つめる不特定多数の女子の眼が。ここで抜けるなんて言い出したら確実に爆発しそうな危険なのがいくつか。
「・・・やっぱり残るよ(せめてあそこだけ捌いてからな)」
「そうか。(わかった)」
「その間に他のメンツの休憩を回しちまおう。忠勝、まだ行けるか?」
「このくらい、代行業に比べればどうってことない。誰から回す?」
そうして件の女性たちが現れた。
「いらっしゃいませ百代殿・・・ああいや、百代お嬢様」
「・・・。」
ゴゴゴ・・・となりそうな雰囲気でいるが、本人はニヤけないように必死なだけである。
受付のレオニダスもそれが分かっているので微笑ましい笑顔を浮かべて。
「当店は接客する執事かメイドをお選びいただけますがどちらをご所望で?」
「執事」
「かしこまりました。では誰・・・おっと」
写真の載ったメニューのようなものを開いたが、開いた瞬間にズビシと指さされたのはやはり士郎。
「かしこまりました。今お呼びしますので少々お待ちください」
「お待たせしました。ご指名を受けました衛宮です。お嬢様。御足もとを気を付けて。まずは紅茶などいかがでしょうか?」
「・・・(ブンブン)」
「ありがとうございます。ではこちらの席へ」
つまずくものなどないのだがここは執事という事でなりきる。
(ルヴィアさんの所でバイトしたのがこんな形で役に立つとはなー)
当の士郎はそんなことを考えながらやっているのだが、百代はというと、
(やべぇ。やべぇよ士郎カッコよすぎあの腕に抱かれたいまじ人間爆弾でたおれようかな!?)
と、嬉恥ずかしMAXで視線をあちらこちらへ。本人はニヤけないように必死なのでまるでガンを付けたようになってしまい、一部からヒィ!と悲鳴が上がる。
(モモ先輩ガチで恥ずかしがってんのなー)
(そりゃそうよ。お姉さま士郎の事・・・)
(ワン子。秘密でしょ?)
(あわわ!・・・でも隠す意味あるのかしら・・・)
(正直ないね。誰が見てもわかっちゃうし・・・)
彼女が全力で士郎を意識しているのは誰の眼にも明らかだった。
「さぁ、紅茶が入りましたよ。そんなに強張っていないでゆっくりとおくつろぎください」
と、持ち前の衛宮スマイル(周りが名付けた)を浮かべて少しでも緊張を解そうとするが、当然逆効果なわけで。
(この状況でくつろげとかマジ無理ああ、顔が、顔がニヤケそう助けてやめて清々しいスマイル!!!)
もう思考が滅茶苦茶な状態の百代。士郎はと言えばなんだからしくないなぁと思っているだけである。
「あ・・・お嬢様、失礼します」
「!!?」
スッと士郎が手を百代の髪に伸ばし、
「・・・ゴミがついていた。もう大丈夫」
と耳元で囁いた。
「・・・。」
ボン!と真っ赤に染まって椅子から倒れそうになったが、
「おっと・・・お嬢様。お気を確かに」
「もう無理っす・・・」
すかさず士郎が抱き上げた所でギブアップ。百代は気を失った。
(あれはヤヴァイわね・・・)
(完全に殺しに来てる系。アタイならそのままお持ち帰り系)
(三次元の何がいいんだか・・・まぁ、ステータスは英雄級の二次元みたいなやつだが)
(チクショー!なんでアイツばっかモテるんだよー!!!)
(そりゃ普通にカッコいいからね・・・)
(スペックも高いよ。・・・私には大和がいればいいけど)
(ぬぬ・・・自分も大和にあんな風に給仕してもらいたかった・・・)
(こりゃあまゆっちも同じかな)
キャップの予想通り由紀江も訪れたが終始ガッチガチに固まってちょっとした一言でノックアウト。
義経は羞恥心の限界で逃げ出し、真っ当に担当出来たのは林冲や清楚、そしてマルギッテだった。
「お嬢様。紅茶が入りました」
「はい。ではこちらに」
「ええ。お嬢様、慌てずともお持ちいたしますよ」
マルギッテは若干百代と似た感じだったが彼女は鋼の精神でこの天国(地獄?)を乗り切った。
(やれやれ・・・みんな緊張するなら俺なんか選ばなきゃいいのに)
事態を把握出来いない朴念仁はそんな感じであった。何はともあれ、地雷原のような雰囲気を出していた客は捌けたので休憩に入ろうとした士郎だったが、
「おい!ご指名だ!」
慌ててやってきたヨンパチに首を傾げる士郎。
「なんでそんなに慌ててるんだ?」
「超ビックな客が来たんだよ!それでお前を指名してるんだ!」
「超ビック?」
はて、彼がそれほどビックという客は・・・
「♪」
「揚羽さん・・・」
確か今夜の会合の為に仕事に打ち込むのではなかったのだろうか。
「まぁいいけど。仕事に支障ないんだろうな・・・」
なにやら緊張した面持ちの小十郎を連れてやってくる揚羽を迎える。
「お待たせしましたお嬢様。さ、こちらへどうぞ」
「うむ」
「坊ちゃんもこちらの席へ。今お二人のお茶を準備いたします。紅茶でよろしいですか?」
「良い。ダージリンなどあると良いのだが・・・」
「あ、揚羽様・・・!」
さらっと無茶振りする揚羽であるが、その辺抜かりないのもこの男である。
「かしこまりました。今ですとミルクティがよろしいかと思いますがよろしいですか?」
「うむ。それを二人分頼む」
「かしこまりました」
とあっさり厨房に引っ込む。
「おい、まじでダージリンなんかあるのか?」
「ああ。紅茶は大体用意してきたぞ。入れるのは俺がやるから」
川神学園のSクラスは基本富裕層が多い。なので急な注文にも対応できるように士郎はあらかじめ自腹で準備していた。
「それにしたってこんな量今日中には出ないだろ?その時はどうする気だったんだ?」
「?もちろん家で飲むけど。これはどちらかというと俺からクラスへのおすそ分けだよ」
「すげぇ・・・ダージリンって名前だけは知ってるけどこんな香りするんだな・・・」
「今の時期はオータムナルって言って秋の茶葉なんだ。深いコクと甘みが特徴だな。ただ、そのままだと渋みが強いからミルクティを提案してきた」
「へぇ・・・ねぇ衛宮君。私とマヨも休憩なの。そのミルクティ飲んでみたいわ」
「ち、チカちゃん!」
「いいぞ。一緒に入れるから持っていくといい」
そう言って士郎は四人分のミルクティを準備し、半分を真与と千花に渡して入れたてを揚羽の下へと持ってきた。
「お待たせいたしました。ミルクティでございます。熱いのでご注意ください」
「ほ、本当に出てきた・・・!」
「言った通りであろう?衛宮がその辺見逃すはずがない」
予想通りという風に揚羽は笑った。
「・・・うむ。よい香りとコクだ。申し分ない。小十郎。お前も飲んでみよ」
「は、はい・・・おお」
主従二人とも満足してくれたようで何よりである。
「ちと話したいことがある。人払いを頼めるか?」
「・・・衝立で遮ることは出来ますが他のお客様もおりますので・・・」
「それでよい。よろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
そう言って士郎は一度裏へと行き、個人席希望用の衝立を忠勝やスグル達と準備した。
「「「・・・ごゆっくり」」」
執事姿の三人は戦々恐々とした様子で去って行った。
「お話とは何でございましようか?」
「クッ・・・板についているがもう不要だぞ衛宮。お前とて休んでなかろう?そのために衝立を準備させたのだ」
「・・・参った。お客に心配されたんじゃ、執事失格だな」
「そんなことは無い。お前が休んでいないことはあの行列を見ればわかる事よ。それより、件の魔術書の件を洗ってきたのだ。小十郎」
「・・・ハッ!はい!こちらです揚羽様!!!」
本格派のダージリンティーに緩みかけていた小十郎がハッとして資料を渡す。
「・・・お前はまだまだだな」
「申し訳ありません・・・」
「さっき不要と言ったでしょう?小十郎さんもくつろいでいいと思うんだが」
「衛宮さん・・・」
「やれやれ・・・これは一本とられたな。それより魔術書だ。最上はどうやら、北米にある遺跡から出土したものを闇市で買い付けたようだ」
ぺらりと資料を捲りながら言う揚羽。
「闇市か・・・それでは詳細は不明ですか?」
「そうでもない。どうやらヴァイキング時代の宝物の一つという売り出しで売られていたそうだ。事実は分からぬが、少なくとも約1000年前には存在していたことは分かるな。魔術使いとしてはどうだ?信憑性がある話か?」
問われた士郎は頷き、真っ直ぐに揚羽を見た。
「あり得る。海賊が財宝や呪いに携わるのはよくある話だろう?大体の財宝には魔術の儀式なんかの影響を受けていたりもする。そこに、魔術書が混ざっていてもおかしくはない」
「そうして財宝に紛れていた見た目はただの本が、価値あるものとして判断されず闇市に出回っていたか・・・なんとなく、筋は通ったように思うな」
捲っていた資料に色々と書き込みをして揚羽はミルクティを飲んで一息つく。
「しかしなぜ魔術書は最上の手を離れたのだろうな。それが無ければもっと楽に解決できたものを・・・」
「恐らく最上幽斎が魔術師ではなかったのが大きな要因かもしれない。何らかの契約などの手順をすっ飛ばして発動させたことで最も効率のいい場所としてあの山に陣取ったんだろう」
「あの山に特別な何かがあるというのか?」
「いや、あの山は川神の霊脈の影響を強く受けているようだから・・・そうじゃないかと思っただけだ」
「あの地にも霊脈の影響があるのか・・・」
「ああ。幸いだったのはこっちの・・・レオニダスの紐づいている所でなかったのが幸いだな。そこが汚染されたりしていたらレオニダスも無事では済まなかったかもしれない」
不幸は不幸な出来事だったが幸いなこともあった。あの時レオニダスがいなければ、士郎はもっと窮地に立たされていたのかもしれないのだから。
「確かにそれは何よりだった。レオニダス王を失うのは我らとしても避けたい。そう言う意味では、最上が魔術師じゃなくてよかったと言えるな」
「その報告ですか?」
「ああそれもあるが・・・まぁその他の事は今夜述べよう。ダージリン、よい一杯であったぞ」
「ご馳走様でした!!今度俺にも入れ方を教えてください!!」
「お粗末様でした。この程度で良ければいつでも。では出口にご案内いたします、お嬢様?」
「学園の出し物であったな!お前がいるとどこでも居心地がよくなってしまう」
そう言って高らかに笑って揚羽は小十郎を伴って去って行った。
それから士郎はようやく休憩にありつけ、百代達3-F組や清楚の3-S組、そして林冲たちのいる2-Sをぐるりと回ることが出来たのだった。
百代達は武術体験コーナー。百代の瓦割りや燕の柔道着姿など珍しいものが見れた。
「え?お前もやってみろ?・・・冗談じゃないなんで客に瓦割りさせるんだ」
「ぶーぶー!乗り悪いー」
「よそ見なんてグワーッ!」
「よそ見はしててもきちんと相手してるよん」
「綺麗な一本だな・・・」
「!士郎!私の瓦割りには段階があってだな!」
「最終的に粉になるんだろう?」
「ぐ・・・」
「へへー燕ちゃんの勝ち―」
「なにおう!」
「こらこら喧嘩するな・・・うわぁ!?」
3-Sでは文芸体験というか発表だった。中でも清楚の書いた小説や詩集などが話題を呼んでいる。
「清楚先輩、順調に進んでますね」
「うん!あれもこれも、士郎君のおかげだよ」
「俺は大したことをしてませんよ。先輩自身の努力の結晶です」
「もう・・・士郎君はすぐそれなんだから・・・」
顔を赤くして軽く叩く清楚。
「・・・。」
実際は凄い衝撃だったことを士郎は言わない。
「葉桜君。手加減が無くなっているぞ」
「え!?・・・おい士郎!大丈夫か!?」
「ダイジョウブデス・・・」
数々の負傷もしながら2-S。
「ばあぁああ!」
「おう大和よくやってるな」
「一応驚いてくれないと困るんだけど・・・」
「そうだよーこっちなんかスルーされちゃったし」
「いや弁慶のフランケンシュタインはつい最近見たし・・・」
「ば、ばぁあ!」
「林冲もお疲れ様」
「うう・・・本物を相手にできる士郎相手には効果がない・・・」
よしよし、と頭を撫でられ、悔しいながらも恥ずかしそうにする林冲。
「お主らはよう先に行かぬか!後ろがつっかえておるのじゃ!」
「心は貞子か?髪が綺麗すぎて幽霊には見えないな」
「くぬぬ・・・」
「早く行きなさい!!!」
嫉妬に溢れたマルギッテが吠え、ようやく士郎は2-Sのお化け屋敷を抜けたのだった。
川神祭が終わった後。士郎は最上旭の家へと向かっていた。
現在の最上家は家としてほぼ機能はしていない。手入れはされているが最上幽斎は拘束されているし、旭は九鬼預かりになったので現状この家を使う者はいないのだ。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、士郎。みんな集まっているわ。上がって頂戴」
いつかは襲撃の阻止の為に訪れた家に上がるのは、なんとも感慨深い士郎だった。
今日ここに来たのは最上旭がなぜ衛宮士郎を深く知るのかを知るためだった。
本来なら士郎だけが知るべきだろうが、士郎の事なら見逃したくないと百代筆頭にパスの繋がっている5人。とファミリー、そして林冲と清楚がこの場を訪れていた。
「本当にみんないるんだな・・・」
「士郎の事なら絶対に見逃せないからな。それに・・・返事・・・もらってないし・・・」
「士郎先輩、今日はよろしくお願いします」
「まゆっちも恋の炎に焼かれて参戦だぜ!」
「松風!?」
「士郎の事ならば、私達にも知る権利があると思います」
「マル・・・それはどういう意味だ?」
はぁ、とため息をついて士郎は案内された部屋のソファに座る。
前の机には古めかしいノートPCとプロジェクターが接続されていた。
「事前に話した通り、多分これが最後の機会になると思うの。だからちょっと長いけど一気に見るわ」
「抑止力・・・という力の事ですね」
「ええ。私の下にこれが残っているのは奇跡だと思う。そうじゃなきゃ、士郎が現れた時、とんでもない話題になっているはずだもの」
「実際に物語の主人公として存在したのならそうだろうな。では最上。始めよ」
時間が惜しいと揚羽が催促した。
「わかった。・・・士郎、いいのね?」
「ここまで来ちまった以上否はない。これで突かれることが無くなるならいいだろうさ」
もう既に固有結界まで見せてしまったのだから変わらないだろう。士郎はそう考えていた。
「じゃあ始めるわ・・・あ」
ふと思い出したように旭は言った。
「ちなみに18禁だから」
「「「え?」」」
それがどういう意味なのかは後に士郎が身もだえすることになるのだが上映は始まってしまった。
「・・・由紀「18歳です」・・・。」
ツッコんではいけないらしい。とにもかくにも、大きな『Fate/stay night』のタイトルから不可思議な効果音と共にFateという最初のエピソードが始まり、
『それは、稲妻のような切っ先だった。』
そんな言葉から始まった。
――――これより始まるのは異世界の住人のある男のターニングポイント。その夜の物語が語られるのだった。
はい。今回はここまでです。ネタバレになるので言えませんでしたが、士郎の物語はこの時の為にしなかったのです。最上パイセンはこれを知っていたから士郎を知っていたわけですね。
皆さんはどうでしょうか?自分の読む漫画や小説の主人公が実際に目の前に現れたら…どんな反応をするでしょう?私は最上パイセンと同じで興奮すると思います。
では次回。