今回は前回の続きです。よりドイツに傾いた話になると思います。
では!
キィン!と飛来するクナイを再度弾き落す。
「まて!君はマルギッテの部下ではないのかね!?」
「だったらどうしたってんだ。この浮気野郎!」
「浮気・・・」
その言葉にズーンと士郎がショックを受ける。彼が一番気にしている言葉の為、ショックも大きい。
「士郎!」
カカン!と林冲の携帯如意棒が止まってしまった士郎を守るようにクナイを弾く。
「大丈夫だ!士郎は浮気なんかしてない!ちゃんと私達
「なにが婚約だ!しかもみんな?お前以外にもまだいるのか!救いようのないチャラ男だな!」
「・・・ッ!私達の事を何も知らないくせに好き勝手言うなッ!」
トン、とそれまで受けに徹していた林冲が攻める。
「へん!そんな男に惚れた女がいか程の者か見てやるよ!」
ギィン!と銀髪の女性がダガーを抜き、林冲と鍔ぜり合う。しかし交差は一瞬。すぐに女性の分身が左右から襲ってくるので林冲は大きくバックステップで距離を開けた。
「忍術か。忍足あずみほどじゃないけど、十分に厄介だな」
「これでも西洋ニンジャって呼ばれてるんだ!この程度じゃ済まさないぜ!」
シュン、と四人に分身した女性が襲ってくる。
「厄介ではある。でも今の私にこの程度は通用しない」
パァン!と三体の分身がかき消された。それと同時に銀髪の女性が吹き飛ばされる。
「俺の分身術を・・・!?」
「分身はあくまで虚映。本体をしっかり見定めれば恐れることは無い」
チキ、と林冲の棒が構えられる。
「私を侮辱するのはいい。でも、士郎を侮辱し、傷つけることは私が許さない・・・!」
鋭い棒の連続突きが放たれる。もし本来の槍であったなら、重傷は免れないだろう攻撃が女性を襲う。
しかし、この女性も相当の手練れなのか上手く受け流し、徐々に林冲との距離を詰める。
「そこだ!」
ビシュン!と鋭い突きが女性を捉える。が、ボン!と木と入れ替わる。
「しまっ・・・!変わり身!」
「隙あり!」
ヒュンと女性のダガーが林冲を捉える。
(あ、やっべ)
しかし女性は失敗したと恥じる。この軌道は林冲の首を捉える軌道だ。このダガーは任務用なので刃引きがされていない。このままでは黒髪の女の首を切り裂いてしまう・・・!
(熱くなりすぎた。でも・・・)
自分は許せなかったのだ。どうしても親友を裏切るような行為をしている下賤な男が、その男にへばりつく女が。帰ったら始末書で済むかな、とあきらめかけたその時。
ギィン!!
「「!!!」」
鋭い黒剣の一撃が林冲への攻撃を弾いた。
「お前――――!!」
「――――」
出てきたのはあの衛宮士郎という男。固まっていた彼が動き出し、恐ろしい速度で彼女等の間に割って入ったのだ。
「・・・っなんだ。動けんじゃん。こっちはまだまだやり足りないんだ。その面ボコボコに「リザ!!」・・・!?」
急にかけられた声に思わずリザと呼ばれた女性が振り返った。目に映ったのは艶やかな赤髪。
「マル・・・」
「リザ!貴女はこんな所で一体何をしているのですか!!」
「なにって、マルを騙してるこの浮気野郎を・・・」
パン!と頬を叩く音が鳴った。
「ま、マル?」
「彼は浮気などしていません!!どうやって嗅ぎつけたのか知りませんが、偵察部隊の貴女がろくに情報収集もせずに対象に手を出すなど恥を知りなさい!」
「情報?え?じゃあこの男――――」
「彼女の事は公認です。今日本では多重婚の準備が進められています。そこにいる林冲も、私も、衛宮士郎の婚約者です」
「え、えええ!?」
リザの驚きの声が響いた。
「・・・林冲、遅くなってすまない」
さらにガミガミと怒られているリザを放って士郎は林冲に謝った。
「大丈夫。あの言葉で士郎が酷く傷つくのは仕方ない。士郎はいつも私達とのことを考えてくれてる。だから士郎、気にしないで」
「・・・わかった。でもごめん、林冲が危機になるまで俺は棒立ちだった」
「あの様子だと、マルギッテを呼んでいたんだろう?ショックだけで動けなかったわけじゃないのはちゃんとわかっているから」
すべてわかっている、という顔で微笑む林冲の頭を撫でて士郎はほっと息を吐く。
「それにしても林冲の隙を突ける人物か・・・彼女がマルが率いているという猟犬部隊の幹部か?」
「むう・・・ちゃんと最後の一撃も受けられたのに・・・。まぁそうだろう。ああして叱られているのだから多分間違いない」
もはや襲ってきた時の気迫はなくとにかく平謝りと言う他ないリザ。
「大体、貴女は普段から・・・」
「ちょ、ちょーっと待った!その話は今関係ないだろ!?ほら今はマルの婚約者の・・・」
「マルギッテ。その辺にしてやったらどうだ」
「士郎・・・」
「すれ違いはあったがこうして正せた。だからもうその人を許してやってくれ」
「・・・刃物を手に襲われたのに、ですか?」
「ああ、そうだ。俺も林冲も怪我はないし今回は許そう。ただ――――」
ギシリ、と空気が凍った。
「次に俺の縁者に手を出したら容赦はしない」
「ひっ・・・」
「・・・いいでしょう。分かりましたか、リザ。・・・リザ?」
返事が無いので様子を見ると、彼女は士郎の本気の殺気を叩きつけられて気絶していた。
「士郎、やりすぎです」
「すまない。でも許すとは言ったけど、林冲が危なかったからな。仕返しくらいは大目に見てくれ」
そう言って気絶したリザを抱き上げる士郎。
「・・・士郎。一応聞きますが何をする気ですか?」
眉毛をピクピクさせてマルギッテが問う。
「何って、家に連れて行くしかないだろう?気絶しなければ良かったけど、このまま放置するわけにもいかないだろ」
「・・・確かにそうですが」
何処かムスっとした表情になるマルギッテに士郎は苦笑した。
「おいおい。立派な部下なんだろう?」
「それとこれとは別です・・・」
そう言ってマルギッテは士郎からリザを奪って担ぎ上げた。
「ああっ、な、何もそんなに手荒にしなくても・・・」
「コレは私の部下です。これくらいどうというほどもありません」
「・・・嫉妬だな?」
「うるさい」
言ったのは林冲なのに、空いた左手で士郎を叩いてマルギッテはさっさと衛宮邸に向かって歩き出してしまった。
「あ、おい!」
「行こう、士郎」
その様子にクスクスと林冲は笑ってマルギッテの後を追いかける。
突然の邂逅は、何とか双方無傷で終わるのだった。
物騒な邂逅の後、衛宮邸に招かれた(強制)リザは目覚めた後、戦々恐々としながら敷地を歩いていた。
「まさか多重婚とは・・・マルもすごい男に惹かれたもんだなぁ・・・」
あの時、叩きつけられた殺気を思い出してブルリとするリザ。
「あれはダメだ。相手にしたらいけない奴・・・」
彼女の嗅覚がそう判じていた。総じて物事に対する嗅覚の鋭い彼女は人一倍あの時恐怖を感じたのだった。
そんなことを考えている時だった。
「ん?」
縁側からさらに奥に行ったところが淡く光っている。
「なんだろ・・・行ってみるか」
目覚めた後、特に立ち入り禁止の場所は言われなかったので彼女は光が灯っている方に向かう。
「あれは炉か?テルがたまに使ってるのを見るけど・・・なんだ?なんか作ってるのに全然音がしない」
熱した鉄をハンマーで一心に叩く衛宮士郎の姿が見えるがこの距離で音がしないのはおかしい。そう思って鍛造所に一足踏み入った途端、
ガン!
「うわぁ!?」
強烈な熱気と鉄を鍛つ音が鳴り響く。その強さに思わず悲鳴を上げて尻もちを付いてしまった。
「・・・ん?ブリンカーさん?」
汗を掻くからだろう。上着を脱いで上半身裸身を晒している士郎が悲鳴に気付いた。
「あいたた・・・」
「大丈夫ですか?」
タオルで手を拭ってこちらに差し伸べる姿を見上げてリザは驚いたように問う。
「お、お前、武器を作るのか?」
「ええ。確かに武器を作りますけど・・・よくここがわかりましたね?」
「そりゃあこんな暗い所でこれだけ明るければ・・・」
そうしてふと、先ほど気になったことを聞いてみることにした。
「ええっと・・・衛宮、さん?なんでここ、近づかないと音が聞こえないんだ?」
「企業秘密なんですが・・・まぁ、防音の結界ですよ。こうしておかないとおちおち眠れもしないでしょう?」
「防音の結界・・・まるで魔法だな・・・」
鍛造所の境を頭だけ行ったり来たりさせるリザ。外に行けば炎の音も聞こえず、中に入れば轟々と炎が燃える音が聞こえる。
「仕事中に悪い。でも改めてごめんなさい。特殊な理由があるのにその・・・酷い言葉を・・・」
「・・・別にいいですよ。俺も正直悩んでいる所なので。理由を知らない人からしたらブリンカーさんと同じことを思うでしょう」
首にかけたタオルで汗を拭いて上着を羽織る士郎。
「・・・よし。上々だな」
「何を作ってたんだ?」
「小太刀ですよ。大きなものもそうですが基本はしっかり小さなものから作れるようにしておかないといけませんから」
色々な角度から焼き入れを行った刀身を見て残るは研ぐのみと判じたのか、そっと専用の台に置く。
「へぇー・・・こういうのってこう、機械でやってるのかと思った」
「普通ならそうでしょうね。ただ自分は鍛冶師なので、きちんと自分の手で鍛えたいんです」
そう言って士郎は火を落としてやめようとする。
「・・・続き、やらないのか?」
「やりたいところですが、いい時間なので。もう深夜ですよ」
それは自分を気遣ってやめたのだと気づいてリザも鍛造所を後にする。
「なぁ、なんであんなに強いのに鍛冶師なんかしてるんだ?」
「俺のは我流でどこかの流派に属しているわけではないからですよ。きちんと稼がないと折角の屋敷も維持できませんから。それより、ブリンカーさんはなぜ日本に?」
「それは・・・」
言えなかった。まさか上司であり、親友のマルギッテにいい人が出来たと聞いて確認しに来たとは。
「く、クリスお嬢様の様子を見に・・・」
「・・・なるほど。確かにクリスは今大変なことになってますからね」
納得したと言うように士郎は頷いた。
「大変なこと?」
「ん?クリスが大和・・・男友達に告白したのを聞いて来たんじゃないんですか?」
「あ、ああ!それ!クリスお嬢様が・・・えええ!?」
がばっと士郎に掴みかかって問うリザ。
「そ、その話は本当なのか!?」
「はい。って、そのことで来たのでは?」
「あいや、その、クリスお嬢様が何かしたってことだけで・・・」
「・・・。」
どうにも苦しい言い訳に聞こえるが、ともかく士郎はクリスの事を伝えた。
「マジかー・・・中将黙ってないんじゃ・・・」
「すでにマルが伝えに行ったと思うんですけど。それで来日したのでは?」
「へ!?私は~その~」
「・・・。」
実に怪しい。一体何の目的で来たんだろうか。
これはしっかりと聞き出さないといけないかと思った矢先に、
「リザは私と士郎が婚約したと聞いて来たのですよ」
「・・・なるほど」
「あちゃ~・・・」
バレてーらと額に手を当てるリザ。
「それよりリザ。貴女達には本国で招集をかけたはずです。ともすれば軍法会議ものですよ」
「わー!?謝るから許してくれぇ!!」
「からかい半分で任務を放り出し、あまつさえ士郎に危害を加えたのですから当然です」
「マル、後半私情が混じってるぞ」
そう言うが止めはしない士郎。それは流石に越権行為だろう。
「さて、俺は汗を流して寝るよ。マルもブリンカーさんも、あんまり遅くならないようにな」
「わかっています」
「はい・・・」
士郎はそのまま浴場へと去って行った。
「リザ。フィーネに確認してきましたが本国ではどうなっているのですか?」
「え?フィーネに聞いた通りじゃないかなぁ・・・俺たちの部隊に招集がかけられてるってことと、中将がなんか私兵を集めてるってことかなぁ」
「そうですか・・・」
そう言って思案顔になるマルギッテ。
「なぁマル。もしかしてお嬢様を連れ戻せとか言われてるんじゃないか?」
「・・・なぜそう思うのですか?」
「だって中将だぜ?これまでも男なんかできないように見張ってただろ?告白したなんて報告したら絶対そうすると思うんだけど」
「・・・。」
リザの言葉にマルギッテはすぐに答えなかった。だが、
「・・・確かに中将からお嬢様を即刻自分の下に連れてくるように指示を受けています」
「なんだ。手伝おっか?」
「いえ。不要です。こちらは私がやりますから貴女は本国に帰って準備をしなさい」
「準備って・・・なんの?」
その言葉にマルギッテは少し悩み、
「日本最強の戦力を出迎える準備です」
「はぁ!?戦争でもする気かよ!?」
「それに近い状況になるでしょう。お嬢様が攫われたとなれば彼らは必ず動く」
「攫うって・・・告白はお嬢様が
「それが中将の指示です」
マルギッテは表情を動かすことなく言った。
「・・・なぁマル」
「なにも言わないでください」
いつもの命令でなく、切実な願いだった。
「・・・わかった」
こちらを向かないマルギッテの心情を察してリザはそれ以上聞かなかった。
「それにしても、マル本当に彼氏できたんだなぁ・・・」
「そ、それは・・・」
ポッと頬を赤くするマルギッテにリザはにしし、と笑って。
「な、何処まで行ったの?」
「・・・機密事項です」
「うはぁ!もうぞっこんかー。でも俺にはわかんないなぁ、あの男のどこがいいんだ?」
「彼は・・・聡明でカッコいいのです。それに・・・」
「それに?」
ニヤニヤとした同僚の顔を見てハッとしたマルギッテはその耳を掴んで、
「そんなことより消灯です!さっさと寝床に戻りなさい!」
「痛い痛い!耳はよせよぅ!」
と賑やかに二人は家の中へと戻るのだった。
翌日、リザが目を覚ますと中庭では激しい戦闘が行われていた。
「ふぁ~おはよう、マル」
「おはようございます」
激突は激しく、ここまで来ると一層インパクトがある。
「あれは、鍛錬、なのか?」
リザが疑うのも無理はない。今戦っているのは士郎とレオニダスだ。双剣と槍と盾が激しく交差している。
互いに手加減のようなものは感じられず、士郎の剣が危うくレオニダスを切りかける場面や、レオニダスの槍が士郎を貫こうとする場面がちらほらする。
「はい。相手はレオニダス王です。流石に、わかっていますね?」
「もちろん。日本に降臨したスパルタの王その人だろ?ほんとかどうか悩ましかったけどありゃ本物だ。ていうかそれと渡り合う衛宮って何者?」
「何者も、貴女が見た通りの人物です。彼は強い。防衛の伝説と渡り合い、現代の武神を打ち負かすほどに」
「そういや、最初に割って入られた時も目に映らなかったっけ。・・・マジで、あいつらがドイツ来るわけ?」
「・・・。」
流石にマルギッテはその問いに答えなかった。
「マスター!貴方は素晴らしき戦士です!このレオニダス、感服の至りですぞ!」
「そう言いながら一撃も入れさせてくれないのは何とかならないのかね!」
「これでも防衛の戦士ですから。負けられませんな」
激突は一層激しさを増す。リザの眼にはもう士郎の姿は断片的にしか映らない。堅実に盾で防ぐレオニダスはまだしも、機動力で盾を越えようとする彼の姿はさっぱりだった。
「うへぇ・・・確かに川神百代と合わせたら日本最強の戦力だな・・・でも、簡単にゃ負けないぜ?」
「彼が本気を出さなければそうかもしれませんね」
「マル?」
「いえ、何でもありません・・・時間です!」
マルギッテの声に激しくぶつかっていた二人が止まった。
「・・・今日も黒星か」
「いえいえ。引き分けです」
互いの首元に武器がつきつけられた状態だった。もう僅かでもどちらかが踏み込んでいたら、レオニダスの首は落ち、士郎の首は砕かれていただろう。本当に相打ちになる寸前だ。
「うちの訓練も結構容赦なくやってるけど衛宮は段違いだな・・・」
「ブリンカーさん、おはようございます」
「お、おう。いつもこんな鍛錬してるのか?」
「ええまぁ。常日頃から不測の事態に備えているので。それより朝飯を作ろう。俺は汗を流していくからマルは橘さんの所に行ってやってくれ。丁度、ブリンカーさんもいることだし居間につれて行くついでにな」
「わかりました。行きますよ、リザ」
「うっす。ていうか、衛宮が朝飯作るの?」
「士郎の手腕は見事な物ですよ。そこらの高級料理店など目ではありません」
「・・・家も綺麗だし、強くて家事も出来て稼ぎもあると・・・優良物件だなぁ」
「!」
言葉遊びのように言うリザにマルギッテは一筋の不安を覚えた。
(士郎が私達猟犬部隊に出会ったら――――)
それは遠くない未来の話。マルギッテの懸念は神のみぞ知る、という所だった。
「まぁ俺は男なんて興味ないけど」
「・・・。」
・・・多分、神だけが知る、はずである。
朝食を取った後、士郎は林冲、清楚と共に学園に向かう。
「マルは今日休みか?」
「はい。任務がありますので」
言葉少なくそれだけ言って彼女は士郎を送り出した。
「「「いってきます」」」
「いってらっしゃい」
「いってらー」
リザも適当に言って衛宮邸へと戻る。
「史文恭。機密事項を話すので部屋に近づかないでもらえますか?」
「構わん。お前の部屋は奥の部屋だろう?私の部屋とも、書斎とも隣接していない。問題は無いように思うが」
「一応です。気遣い、感謝します」
「ありがたく受け取っておこう」
そう言って史文恭は書斎へと向かっていった。
そしてマルギッテは自分の部屋にリザを招き入れて今後の話をする。
「あの橘、とかいう人はいいの?」
「橘天衣は寮母の訓練でいません。士郎達が学園に行った以上、残るのは先ほどの史文恭だけです」
「史文恭・・・確か中国の傭兵の武術指南だったような・・・なんでこんな所にいるんだ?」
「それは彼女に聞きなさい。彼女とは最初、敵同士だったので事情が複雑なのです」
「ふーん。わかった。で、今後、というかクリスお嬢様の話、だろ?」
「はい。まずは――――」
そうして中々に物騒な相談が衛宮邸の奥でされるが家主はあえて何も言わず静観し、順調に彼女等の話は進められるのだった。
学園では、士郎が相変わらず多摩大橋に向かって朝の狙撃をしている中、意外な人物が姿を現した。
「士郎」
「大和じゃないか。こんな朝早くどうした?」
深刻そうな顔をした大和だった。
「その・・・」
「私は席を外そう」
言いずらそうにする大和の意志をくみ取って、林冲は自ら離れた。
「どうした・・・って言っても、その顔を見れば大体想像が付くな」
大和の顔は寝不足でクマが出来ていた。そして何処か気だるげだ。
「ああ、その・・・クリスと京についてなんだけど・・・」
「・・・。」
なんとなく、弁慶の話はしなくていいのかなと思った士郎だが、もう一杯一杯だろう姿を見てとりあえず聞くことに専念することにした。
「狙撃、やめていいのか?やりながらでも――――」
「親友のそんな顔を見て、そんなことできるか。これは俺が毎朝勝手にやってるだけだから、やろうがやるまいが勝手だよ。それで、大和はどうするんだ?」
「・・・。」
応えないという事は決め切れていないという事なのだろう。
「その、さ。どっちが好きかって言われたら多分同じくらいなんだ。京もクリスもずっと俺の事考えてくれたみたいだし、それに最近は弁慶も多分、好きでいてくれてるんだと思う・・・」
「だろうな。直接聞いたりしてるわけじゃないけど弁慶も義経と同じくらい大和に構ってるからな」
弁慶の事も気づいているようで良かったと士郎はひとまず安心した。
「ただ、弁慶に関してはこれからだと思うんだ。クリスと京に比べたら一緒にいた時間も短いし・・・俺も嫌いじゃないけど好きかどうかはまだ分からない」
「そうか。それで?」
「クリスが告白してくれた時、すごく嬉しかったんだ。でも同じように誰か選べるのか不安になって・・・」
「ふむ・・・」
大和は思慮深い性格だ。勢いで退路を失ってしまった自分とは違い、ちゃんと一人一人の事を考えている。
自分にどうこう言う資格は無いように思う士郎だが、大和が自分に相談してきたことを踏まえ、史文恭に言われたことを思い出した。
「大和は誰か一人を選べないんだろう?」
「・・・ああ。最低だよな。色んな人を天秤にかけて――――」
「いや、大和の姿が正しいんだろう。俺なんかと違ってな」
「士郎・・・」
「大和はもう俺と彼女達の関係を知ってるだろ?」
「・・・ああ」
「俺もどうしたらいいか・・・俺に恋人が出来ていいかもわからなかったけど、言われたことで一つ腑に落ちたことがあるんだ」
そう言って士郎は今一度改めて大和に問う。
「誰か一人を選べない大和は全て断ることは出来るのか?」
「・・・出来ない。したく・・・ない」
苦しそうに大和は言った。
「なら幸運に思うべきだ。誰か一人を選ぶか、全て断るかの他に、『全て受け入れる』っていう選択肢があることに」
「え・・・?」
呆然と大和は声を上げた。
「俺もどうすればいいか悩んでたんだ。でも史文恭・・・大和は会ったことがあったか?その人に今と同じことを言われたんだよ」
『尚更幸運だったと喜べ。これだけの女から想いを寄せられ、すべて断るか、一人を選ぶかだけでなく、全て受け入れるという道が存在することをな』
史文恭は迷う自分にそう告げたのだ。
「全てを受け入れる・・・・か」
「ああ。俺も生憎、元の世界では多重婚なんて認められて無かったし、そもそも自分がそんな幸せを享受していいのかもわからなかった。ただ、言えることは、彼女達が俺なんかのことを好きだ、愛していると言ってくれたことは事実なんだから、それを無下にするようなことを俺は出来なかった」
「・・・。」
「だから考え方を変えたんだ。自分が幸せになっていいかどうかは分からないけど、自分を好いてくれた人を全力で幸せにするってさ。そもそも俺たちは多重婚制度の先駆けになるんだから悩んで当然だって開き直ったよ」
「多重婚制度の先駆けか・・・」
「ああ。多分、それが無かったら大和はこうも悩まなかったんじゃないか?好きになってくれた人を全て受け入れるっていう道が見えたからどうすればいいのか迷ってる」
「・・・士郎なら、どうした?」
それは多重婚制度が無かったら、という事だろう。
「俺は――――多分、全て断ってたかな。誰か一人を選ぶなんて出来なかったし、選んだあと他の人が悲嘆に暮れる姿も見たくなかったから」
「そっか・・・」
士郎の言葉を聞いて大和は何事かをブツブツと口に出し、
「ありがとう。なんかすっきりした」
「気にするな。むしろ俺を相談相手に選ぶなんてミスチョイスもいい所だぞ。俺なんか退路なかったんだから・・・」
そう言ってズーンっと重い空気を漂わせる彼を大和は笑った。
「それは自業自得だろ。あれだけ色んな人を魅了しておきながら知らん顔し続けたんだから」
「俺にその気は無かったし、気づいても無かったんだよ。俺はただ、自分に出来ることをしたに過ぎないんだから・・・」
「なら士郎はこれからも婚約者が増えるな」
「やめてくれ・・・ああは言ったけど心の整理がまだ付ききってないんだ・・・」
ガクリと肩を落とす士郎に笑って大和は立ち上がった。
「俺、頑張るよ」
「おう。手が必要な時はいつでも言ってくれ。大抵のことは、何とかなるぞ」
「本当にそうだから怖いな・・・。でもありがとう」
そう苦笑して大和は去って行った。
「・・・終わったのか?」
大和が去って行くのを見届けた林冲が声をかけて来た。
「ああ。少しばかり忙しくなるけど、何とか前向きになれたみたいだ」
そう言って士郎も苦笑を浮かべた。
「マルが何か私達に秘密で動いてる。探った方がいいかな?」
「いや、問題ない。マルも、マルなりに動いてくれてる」
『士郎も警戒をしておいてください』
そんな自分にとって致命的な助言をしてくれたのだから、彼は、マルギッテを信じることにしたのだ。
(マル。あんまり無理するなよ)
今はいない彼女に届けと、士郎は思うのだった。
学園が終わって放課後。今日は流石に依頼を受けようと、掲示板に張り出されている、『衛宮士郎求む!』の方を見る。
これは旭率いる評議会が、士郎に依頼が集中しないように作った特設コーナーである。学園と評議会の審査を通らなければここに張り出されることは無いのだが元の数が多いのか、間引きされても結構な数がある。
「えっと・・・二階の茶道部のエアコン修理に・・・図書室の棚・・・これ全部宇佐美先生だろ」
どれも見たことのある依頼である。大方修理増設がしたいが予算が無いとか、組み立てが面倒とかその辺だろう。
(こういうのは無視しろって旭に言われたしなぁ・・・)
恐らく学園側の、教師陣の審査の後、直でここに張られているのだろうと言っていたのでここは宇佐美巨人本人に頑張ってもらう。
「あとは・・・ん?なんだこれ」
ぺらりと張られた一枚を手に取るなんだか素っ頓狂な依頼だ。
『新技の開発に協力してほしい 不死川心』
よくもまぁ評議会通ったなと思わなくもない内容である。内容はその通りらしく、半端な者では大怪我をしてしまうし、アドバイスももらえないという事が記されていた。
「報酬は現金もしくは食券・・・他応相談、か。まぁ心が困っているようだし行ってやるか」
時間もかかりそうなので今日はその一枚だけを手に取って連絡先に電話する。
すると、猛スピードで心が掲示板前にやってきた。
「お、お前!もう少し事前に知らせるとかせぬか!」
「事前に知らせるって・・・ならなんで掲示板に張り出したりしたんだよ」
「それはー・・・そのー・・・」
本人は受けてもらえないだろうなーと思っていたことは秘密である。
「それより新技の開発、だろう?古武術とか取り入れるか?」
「そ、そうじゃの!ともかく詳しくは此方の屋敷にて話そう!」
「ん?学園でやらないのか?」
「此方が訓練する様を下々の者には見せるわけにいかぬ」
そう言ってプイとそっぽを向く心に苦笑して今日も綺麗に整えられたお団子ヘアーを撫でる。
「わかったわかった。それじゃあ心の家にお邪魔するとするか。何気に初めてだな」
「こ、此方も男子を招くなど初めてじゃ・・・」
と恥ずかしそうにする心。流石不死川家の令嬢だけあって容易に友達を呼ぶこともままならないようだ。
「それじゃ、行くとしようか。急がないと日が暮れちまう。何せ武道の訓練だからな。時間なんてあっという間だ」
「そ、そうじゃの!余った時間は茶会にでもすればよいわけだし・・・」
顔を袖で隠してニヨニヨとしてしまう心にさりげなく背後に控える従者はため息を吐いた。
(お嬢様、顔に出てますよ)
「にょわぁあ!?」
コッソリと言われた忠告にビクーン!と反応する心。
「ん?どうした?」
「な、何でもないのじゃ!此方の屋敷に招待するのだからありがたく思うのじゃ!」
「ああ。ありがとう、心」
「・・・。」
悪態をついても結局彼の笑顔で撃沈する心だった。
今回はこの辺でいかがでしょうか。猟犬部隊の最初のコンタクトと言えばリザさんなのでかなり物騒ですがこんな感じにしました。
マルギッテは辛い任務に心揺れております。正直ね、親バカもここまで来ると害悪よね…
次回は一話挟んでドイツが動きます。一気に進めたいところですが彼女の事も書かないとね。というわけで次回!