真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。小説を書いていると糖分が欲しくなる作者でございます。

今回は一度ドイツ関係は置いて、不死川家に士郎がお邪魔します。相変わらずの士郎とにょわにょわ言う心にニマニマしてもらえたら幸いです。

では!


不死川家のお家事情/不穏

学園の依頼に不死川心の依頼を見つけた士郎は、彼女と共に迎えの車で不死川家に向かっていた。

 

「それにしても、新技の開発なんて、心は柔術を身に付けてるだろ?なんでまた急に?」

 

「こ、此方はいつでも強くて美しいが、なにも柔術だけじゃなくてもよかろうなのじゃ!」

 

なんとも変な日本語で話しているが、実は士郎に構ってもらいたいだけだったとは言えず、苦し紛れの言い訳であるが、この男には問題なかった。

 

「そうか。確かに修められるなら多くを修めた方がいい。流石、心だな」

 

「うむ・・・うむ・・・」

 

お団子ヘアーを撫でられて実に幸せそうな心である。

 

「それで、方向性は決まってるのか?」

 

「もちろんじゃ。柔術は型を崩したくはないので目的はこっちじゃ」

 

そう言って心が袖から出したのは鉄扇だ。

 

「これはお主の作なのじゃろう?此方が優雅に使ってやるから感謝するのじゃ」

 

「確かに俺の作品だけど・・・それ、使い勝手悪くないか?」

 

鉄扇はシンプルな護身道具だが、士郎の鉄扇は色々手を加えすぎているのである。

 

「此方も驚いたわ。こんな小さなものにどれだけギミックを盛り込んだのじゃ」

 

「いやあ作ってたら楽しくなって・・・」

 

当初、いつもの発注内容に鉄扇の字があり、それは鍛冶師の作るものなのか?と疑問に思ったのだが、作ってみるとこれが中々奥が深かったのだ。

 

結果、発注の品以外に三つの鉄扇を作り、一つを試しにオークションに出したのである。

 

「しかし見事な作りよ。鮮烈な赤に金と黒のあしらい・・・模様も実に見事じゃ」

 

「そう言ってもらえて嬉しい。色々やっちまったけど自信作には変わりないからな。大事に使ってくれ」

 

「うむ。・・・ただ、見事な作り過ぎて、これで戦うとかやりたくないのじゃが」

 

「・・・本末転倒だろ」

 

実にその通りであった。

 

 

 

 

「ここが此方の家じゃ」

 

車がそのまま車庫に入り、降りてみれば美しい庭が広がっていた。

 

「すごい庭だな。俺に芸術の学はないけど、シンプルにすごいな」

 

綺麗な砂利がひかれ文様を作り出し、池には何匹もの鯉が泳いでいる。外観は昔ながらの武家屋敷という感じだった。

 

「家も武家屋敷だけど心の家には敵わないな。手入れが大変そうだ」

 

「もちろん、腕利きの庭師を雇っておるからの。ほら、あそこにおるのがそうじゃ」

 

そう言って鉄扇の先を目で追うとこれぞ庭師と言わんばかりの作業着の初老の男性がいた。

 

(・・・あの人ただの庭師じゃないな)

 

戦う者独特の雰囲気を感じ取って、彼も不死川家を守るガードマンの一人だと理解した。

 

「これは心お嬢様。おかえりなさいませ」

 

「うむ。今日も見事な手入れだな。斎藤」

 

「いえいえ。私は不死川家に恥をさらさないよう必死なだけですよ。そちらの男性は、お嬢様の良き人、ですかな?」

 

「初めまして。衛宮と言います。心とは同級生で、仲良くさせてもらってます」

 

「衛宮様・・・お嬢様がご自宅に招かれるほどのお友達は初めてでございますな。どうか、心お嬢様と仲良くしてください」

 

「さ、斎藤!それでは此方に友達がいないみたいではないか!」

 

「違うのですか?」

 

「違うわー!昔はともかく今は違う!」

 

さっくり友達が居なかったことをばらす斎藤。そうやってクック、と笑っているあたり大物である。

 

「心配しないでくださいお嬢様。私はもうすぐ退勤ですし、奥様も今日は帰りが遅いようですよ」

 

「な、ななななんの心配じゃ!別に母上がいても・・・」

 

ちらりと士郎を見るが彼は特に喜ぶわけでも何でもなく、首を傾げていた。

 

「心のお母さんがいるとまずいのか?」

 

「そ、それはお主次第というか・・・」

 

ごもごもと口の中で言葉を噛んで、心はばっと顔を上げる。

 

「とにかく!いらぬ心配なのじゃ!今日は鍛錬で衛宮を呼んだのだからな!」

 

「ほう・・・鍛錬・・・」

 

一瞬、冷たい殺気が士郎に向けられた。

 

(やはり只者ではないな)

 

流石、三大名家、不死川の庭を預かるものだ。文字通り庭を預かる(・・・・・)仕事をしているだけある殺気だ。

 

「鍛錬とは言いますが新技の開発目的で呼ばれたので大したことはしませんよ」

 

士郎はあえて殺気には反応せず、そ知らぬふりをした。それに満足したのか、はたまた、疑念を抱かなかったのか。庭師は殺気を収めた。

 

「そうですか。衛宮様もお怪我をされぬよう頑張ってください」

 

「ご心配ありがとうございます」

 

何事もなく済んだ会話だったが、一つ間違えば戦闘になっていたかもしれない一瞬だった。

 

「挨拶は済んだな。まずは母屋に上がるがよい。一時おいて鍛錬開始じゃ」

 

「了解」

 

庭師に目礼だけ返して士郎は心の後を追った。

 

 

 

――――interlude――――

 

「衛宮・・・衛宮士郎か」

 

お嬢様も参加された総理官邸防衛線において、英雄と持ち上げられた青年。殺気に反応するかと思いきや綺麗に受け流されてしまった。

 

「流石お嬢様、と言いたいところだが正直心臓に悪いな」

 

あの様子からして不意を打っても勝つことは出来まい。つまり彼がその気になったら自分は時間稼ぎが精々というわけだ。

 

「やれやれ、随分と物騒なお客様だ」

 

今考えてもしょうがないので彼は庭仕事を再開する。

 

後に判明する彼の名は“斎藤 一(さいとう はじめ)” 新選組三番隊組長、斎藤一の純然たる子孫。今も尚、連綿と紡がれる強力な腕前を持つ強者。

 

現代では不死川家に仕える御庭番棟梁。その彼をして、衛宮士郎には勝てぬと判断されるのであった。

 

――――interlude out――――

 

「「「心お嬢様、おかえりなさいませ」」」

 

「うむ。くるしゅうないぞ」

 

「・・・。」

 

いきなりインパクトのある出迎えに士郎は若干頭痛がした。

 

(心が我が儘なのはこの環境のせいじゃないのか・・・?)

 

相も変わらず蝶よ花よと育てられているのが伺える。九鬼ではその辺結構シビアなのだがこちらはそうでもないらしい。

 

「今日は此方の友を招待した。無粋な真似をせぬよう心がけるのじゃ」

 

「「「はい」」」

 

「・・・。」

 

何ともこういう場所は肌に合わない士郎である。間違ってはいけないが、士郎はルヴィアの所でアルバイト経験があるだけで、至極真っ当な一般人なのである。

 

こんな大それた対応をされるとすごく居心地が悪い。

 

(まぁでも、心なりにもてなしてくれるつもりなんだろう)

 

どうにも座りが悪いがここは成り行きを見守ろうとする士郎。

 

「まずはこの部屋で気を落ち着けるとしよう」

 

そう言って開かれたのは応接間のようなしっかりとした部屋だった。

 

「楽にせい。今茶を準備させよう」

 

「ええっと・・・お構いなく」

 

ただの鍛錬の手伝いのはずがどうしてこうなったと士郎は内心困っているのだが、一方の心はというと、

 

(よし!よくやったのじゃ!ここまでで変な振る舞いは無かったはずじゃ!高貴な此方らしい対応!そして士郎を怯えさせない適度な距離感!パーフェクトなのじゃ!!)

 

と、自画自賛にもほどがあることを心の内で思っているわけで。激しいすれ違いである。

 

侍女がしずしずと紅茶をもって室内に入ってきて、どうぞ、と笑顔と共にテーブルに置かれた。

 

(流石いい茶葉を使っているな・・・)

 

香りでそう判断する士郎に心は内心また盛り上がる。

 

(良いぞ良いぞ!完璧な対応じゃ!)

 

去って行く侍女にアイコンタクトして心は一人盛り上がりまくっているが、社交辞令に長けた彼女に隙は無かった。

 

「一心地つけたら早速鍛錬じゃ」

 

「ああ。心は鉄扇の心得はあるのか?」

 

「あ・・・無いのじゃ!基礎から学びたい!」

 

あると言いかけて急な方向転換。その頭には優しく手取り足取り教えてもらう姿が。

 

「そうか。実は俺も鉄扇となるとな・・・ちょっと特殊な鍛錬法になるけど、いいか?」

 

「構わぬ!身に付けなければいけないのは此方じゃからの」

 

ぴしっとしたことを言っているが頭の中は桃色の心。早くどうにかせねば悲劇を生むが生憎ツッコミ役不在の為・・・

 

 

 

 

「にょわぁあ!?」

 

鍛錬開始直後。士郎の巧みな動きに翻弄されて足を払われる。

 

「こら。油断大敵だぞ。全然集中出来てないじゃないか」

 

「うぬぬ・・・もう一度じゃ!」

 

最初の甘い妄想は疾く消え去り、きちんとした胴着を着用して心は士郎と相対する。

 

「じゃ、行くぞ」

 

その言葉と共に士郎が鉄扇を両手にユラユラと揺れ動く。

 

(落ち着くのじゃ!あれは幻惑を誘う舞踊!あれに呑まれれば距離感を失う!)

 

士郎の動きは独特で今まで見たこともないような動きだ。ユラユラ、ユラユラと体を動かし、かと思いきやいつの間にか懐に入ってくる。

 

まるで蝶のような動きと鋭い蜂の如き一撃に心は舌を巻いていた。

 

「・・・。」

 

(くる!)

 

ユラユラとした動きから鋭い踏み込み。緩急自在とはよく言ったもので心はまた懐に入られる。

 

「この!」

 

鉄扇を広げて突きを防ぎ、すぐに閉じて手の甲を狙って払う。しかしそれも相手がもう片方の鉄扇を丁度ガードできる位置に体ごと動かしたことで防がれ、顔の横で士郎の鉄扇が止まる。

 

「失明だぞ」

 

「わかっておる・・・何が鉄扇の心得は無い、じゃ。此方をここまで追い込んでおきながら過小評価にすぎるのじゃ」

 

もう一度仕切り直しとお互いに距離を開ける。

 

「俺に鉄扇の心得はないよ。これはちょっとした真似だ。ある人物のな」

 

「その人物とは?」

 

「さて・・・平安時代の誰か・・・というところか」

 

「ぐぬぬ!はっきりせぬかー!こう、喉に魚の小骨が刺さったようで気になるのじゃー!」

 

ジタバタとする心だが士郎は取り合わず、

 

「そんなことはどうでもいいだろう?誰が使っていたかより、それをどう扱うかだ。この技法は心のお気に召すかと思ったんだが」

 

「確かにその優雅な戦い方は此方好みじゃが・・・」

 

「ならほら、頑張って身に付けような」

 

「ぬー・・・」

 

予定していたのとは違うガチの鍛錬となってしまったが、こちらを思って動いてくれる士郎の姿が嬉しくて心はいつもの優美な佇まいを捨てて師に教えを乞うように目の前の事に集中する。

 

「お、いいぞ。やれば出来るじゃないか」

 

そう言ってまた両手の鉄扇を広げてユラユラと動く士郎。

 

(いつ以来じゃろうな。こうして教えをこい、必死に技を身に付けようとするのは)

 

昔は武術指南の師にあれこれ厳しくされたものだが、今では師を越えてしまったので力を落とさぬための組手相手となっている。

 

それを考えると、今こうしているのは幼少期以来という事になる。

 

(惚れた男に技を習う、か。これも悪くないのう・・・)

 

と、気が緩んだところで、

 

「心」

 

「え?」

 

「反省」

 

パシン!

 

「にょわー!?」

 

折角いい感じに集中していたのに思考がお花畑になり、隙が出来たので士郎はまた足を払った。

 

そんなことを日が暮れるまで続け、心もコツを掴んだのか士郎の動きを再現し、幻惑の体捌きまでは出来るようになった。

 

「あたた・・・」

 

そう言ってお尻を摩る心。今日は尻もちをつくことが多かったので、青たんになっていることだろう。

 

「今日はこれまでだな」

 

「ありがとうございました・・・」

 

結局、彼女が想像したような甘い時間にはならず、とほーっと肩を落とす心だが、

 

「よく頑張ったな。途中集中出来てない時があったけど、いいところまで身に付けられたじゃないか」

 

「あ・・・」

 

優しい笑みと共に頭を撫でられる心。

 

温かい手が嬉しくてされるがままの心だったが、

 

(お嬢様!)

 

(もう一息ですよー!)

 

野次馬ならぬ野次侍女が扉の隙間から必死に身振り手振りで訴えかけてくる。

 

(こ、ここここのタイミングで、此方にどうせよと言うのじゃ!?)

 

積極的にアピールしたいのに初心な心はそれを出来ずにいた。士郎によく引っ付いていた武神を見てはいいなぁと思って眺めているだけだった。

 

(じゃ、じゃが!)

 

「ん?」

 

心が士郎に寄りかかるように抱き着いた。

 

(こ、此方だって!士郎が好きなのじゃ!)

 

初めて出会った、ありのままの自分を受け入れ考えてくれる人。そんな人を心は手放したくなかった。

 

「心?」

 

「士郎、その・・・」

 

士郎はこの時、危機感を感じた。が、感じただけであり、何かできるわけではなかった。

 

「此方はお前のの事が・・・す、すす・・・」

 

((お嬢様ー!!!))

 

扉の隙間から応援する侍女達も白熱してきた。

 

「心?」

 

もう一度士郎が呼ぶと、心は意を決したように、

 

「此方は士郎が好きなのじゃ!!!」

 

勢いに任せて言った。

 

「・・・。」

 

「此方はその、お主の優秀で・・・違うな、えっと優しくて・・・」

 

もじもじと手元をいじくりまわしながら必死に言葉を紡ぐ。

 

「此方を理解してくれるお主が好きになったのじゃ・・・」

 

改めて自分は凄いことを口にしていると理解し、あわあわとしている中、侍女たちはやっと心に春が来たと涙を流して喜んだ。

 

(あんなに自尊心の塊だったお嬢様が・・・)

 

(殿方に告白なんて・・・)

 

((ご成長されましたね・・・))

 

ホロホロと流れる涙を白いハンカチで拭う彼女等だが次の一言でピキリと固まることになる。

 

「えっと・・・心は、俺を異性として好きだって言ってくれたんだよな?」

 

「・・・(コクリ)」

 

「そ、そうか・・・」

 

心の返答に困った顔をする士郎。

 

(え、なんですかこの空気)

 

(まさかあの男)

 

((心お嬢様を断るんですか!?))

 

白いハンカチは何処へやら。取り出したる物騒なもので武装する侍女たち。だが、その様子を知ってか知らずか士郎は続ける。

 

「その・・・心の気持ちは嬉しい。けど、俺と付き合うのには条件があるんだ」

 

「・・・なんじゃ。申してみよ」

 

断られる流れだと顔を青くする心だが、士郎はあの夜の取り決めを守ることにした。

 

 

 

 

『衛宮。今後の事だが、我ら以外にもお前に惹かれるものが居たらまず確認しろ』

 

『確認ってなにさ』

 

『そう不貞腐れるな。これからは我らがいるが、これまではいなかった。だからまだお前に恋心を抱く者がいても不思議はなかろう?』

 

『そんなこと・・・』

 

『ありえる。実際今日までお前は我達の気持ちに気付かなかったではないか』

 

『うぐ・・・』

 

痛いところを突かれたという声を上げる士郎に優しく微笑み、

 

『だから確認せよ。そして条件が揃っていたのならば――――』

 

「俺にはその、複数の婚約者がいる」

 

「複・・・数・・・?」

 

意味が分からないと心は首を傾げる、その顔は今にも泣きそうだ。

 

「ああ。みんな、俺なんかを好きになってくれて、断られてもこの先俺以外を婿にしないって言う誓いを立てて・・・まさかそんな人たちを放っておくわけにもいかないから、正室、側室システムが来たら全員と結婚する予定なんだ」

 

「・・・。」

 

「それでな、・・・ああ、泣かないでくれ。心は俺を諦めることが出来るか?また別ないい人を見つけられるか?」

 

「無理じゃ」

 

スンスンと泣きながら彼女は言った。

 

「なら・・・複数の婚約者がいる俺を愛してくれるか?」

 

「・・・。」

 

士郎の問いかけに心は悩んだ。

 

「先に確認じゃ。そのルールは皆で決めたのじゃな?」

 

「ああ。みんな承知の上だ。どうにも俺は・・・一人だけじゃ自分をないがしろにしてしまうから沢山いた方がいい、なんて言われてな・・・俺も正直戸惑ってる」

 

「・・・士郎は此方が好きか?」

 

「好きか嫌いかで言ったら好きだと思う。俺はつい最近まで恋人とか結婚とか考えたことも無かったから・・・今の気持ちで言うならそうだ」

 

「そうか・・・」

 

そう言って少し考えた後、

 

「なら、此方も嫁にせよ」

 

「・・・。」

 

そう命令した。

 

「・・・だけどいいのか?他の人からしたら浮気者「他人がどう思おうが関係ないのじゃ」心・・・」

 

「確かに士郎は此方だけでは御せぬかもしれぬ。そんな時、此方の他にも嫁が居れば・・・無理をすることも無くなるかもしれぬ」

 

心が思い出していたのは清楚が覇王になった時の事だった。あの時も心は士郎を止めることが出来なかった。

 

「いいのか、本当にこんな男で」

 

「いいのじゃ。此方が惚れた男じゃ。他の女が魅力的に思うのも無理はない。ただ・・・」

 

ポフっと心は士郎に抱き着いた。

 

「ちゃんと此方も愛さないと針千本飲ませるのじゃ・・・」

 

「それは怖いな」

 

そう言って士郎は苦笑した。

 

「それじゃ、心、ちょっと手を見せてくれないか?」

 

「なんじゃ?」

 

左手を取って解析をかける士郎。

 

「・・・よし。実は婚約の証に婚約指輪を作ってるんだ。心の分も作らないと・・・」

 

「婚約・・・!」

 

ポヒュン!と耳まで真っ赤になった心はそのままズルズルと士郎にしな垂れかかるように気を失った。

 

 

 

 

 

その後、鍛錬を終えた二人はしばし話しをして、今日の所は解散と相成った。

 

「士郎、その、これからよろしくなのじゃ・・・」

 

「ああ。よろしく。こんな何もない男だけど、精一杯頑張るから」

 

「士郎は頑張らずとも既に此方を幸せにしてくれておる。だから胸を張るのじゃ」

 

「なんだか他の人にも言われたな・・・とにかく、よろしくな」

 

うむ。と心は返し士郎を見送る。

 

「本当に送らなくて良いのか?」

 

「大丈夫だ。一応来るとき道は把握したし、ついでに買い物もしたいんだ。気遣い、ありがとう」

 

そう言って士郎は不死川邸を後にした。

 

「さて、今日の晩飯はっと・・・」

 

今回の心との鍛錬の報酬は、後日送られてくるのでその受け取り準備をしなくてはならない。

 

いつもの金柳街ではなく、不死川邸に近いスーパーで晩御飯の食材を見ていると、

 

「電話?・・・大和か」

 

大和から電話が来ていた。

 

「もしもし?」

 

『士郎、相談があるんだ』

 

その言葉を聞いて士郎は事態が動き出したことを理解した。

 

(マル・・・)

 

分かっていたこととはいえ士郎は悲しみを感じた。

 

「今離れた所にいる。どうした?」

 

しかしその気持ちを押し殺して士郎は続きを促した。

 

 

――――interlude――――

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「問題ないぞ。でも・・・少し悲しい。父様が自分の事をそんな風にしていたなんて・・・」

 

三人は今、ドイツ行きの飛行機の中だ。マルギッテはフランクの命令通りクリスを帰国させていた。

 

「クリスお嬢様、仲間を置いてきて良かったんですか?」

 

リザの問いかけにクリスは迷いなく頷いた。

 

「ああ。自分自身で父様と話がしたい。父様ならきっと話を聞いてくれるはずだ」

 

「・・・。」

 

とてもそうは思えないとマルギッテは思ったが、口にすることが出来なかった。

 

だがリザは、

 

「うーん・・・お嬢様には悪いけど中将話聞くかなぁ・・・」

 

「リザ!」

 

「どういうことだ?」

 

「中将はお嬢様を大事に思ってる。でも大事過ぎて見えなくなることもあると思うんだよな」

 

「・・・。」

 

「父様に限って、そんなことをするだろうか・・・」

 

クリスはそう言って顔を伏せた。

 

今回、クリスに全てを話した上で連れ出していた。

 

「事実、今回中将はお嬢様の行動が納得がいかないって連れ戻したわけだろ?」

 

「そう・・・ですね・・・」

 

「ううん・・・父様ならちゃんと話を聞いてくれると思うんだが、やっぱり軽率だっただろうか」

 

「・・・正直に言うなら今回のお嬢様の行動は軽率だったと思います」

 

連れ出しておいてなんだが、マルギッテはそう思っていた。

 

今の中将にお嬢様の話を聞き、対話する余裕などない。お嬢様を愛する中将は、その愛ゆえにお嬢様を(ないがし)ろにしてしまう。

 

「それでも自分は、父様と対話しないといけない。この気持ちは自分から生まれた物なんだからしっかりと話がしたい」

 

「お嬢様・・・」

 

いつの間にかこんなに立派になったのだな、とマルギッテは彼女の成長を感じた。

 

「・・・お嬢様、ちょっと失礼します」

 

「ん?なんだマルさん」

 

クリスの服の襟をいじるマルギッテ。

 

「ゴミがついていました。取っておきましたよ」

 

「ありがとう!やっぱりマルさんは頼りになる!」

 

「・・・。」

 

複雑な表情をするマルギッテに、リザが耳打ちする。

 

(おい。いいのかあれ。裏切りって言われかねないぞ)

 

(良いのです。・・・私も、覚悟を決めています)

 

「どうしたんだ?」

 

コソコソと二人で話す姿に首を傾げてクリスは問う。

 

「次の任務の相談です。それよりお嬢様、帰りの事なのですが――――」

 

ビー!ビー!

 

「「「!?」」」

 

警報らしきものが機内に鳴り響いた。

 

『機長のレオン・マクスウェルです。現在所属不明の集団から着陸命令が出されました。当機はテロの標的になった可能性があります。このまま航行するならば撃ち落とすとの警告がなされていますので着陸態勢に入ります』

 

ガガン!と大きく機体が揺らいで高度が下がり始める。

 

「マル!」

 

「わかっています。お嬢様、リザから離れないでください」

 

「わ、わかった・・・」

 

そう言ってマルギッテは機長室へと向かっていった。

 

「お客様、お席に――――」

 

「この服装でわかりませんか。私はドイツ軍、マルギッテ・エーベルバッハ少尉です。機長と話がしたい」

 

「しょ、少尉様!?今お連れします!」

 

マルギッテの射殺さんばかりの視線に怯えてキャビンアテンダントが機長室へと案内する。

 

(次からは、専用機をチャーターしろ、なんていう話になりそうですね)

 

などと、どうでもいいことを考えながらマルギッテは降って湧いた不幸に対処するべく動く。

 

このタイミングで旅客機を人質に取るとしたら間違いなくクリス狙いだろう。

 

(状況は最悪ですが、切り抜けてみせます)

 

ぎゅっと左手を握ってマルギッテは機長室へと入って行った

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

買い物を済ませた士郎は、自宅で大和達を出迎えていた。

 

「悪い、遅くなった」

 

「いや、いいんだ。むしろ無理言って悪い」

 

「お邪魔してるぜ!」

 

「ワン!おかえりー!」

 

「士郎!ピーチジュースがないぞ!?」

 

「みんなこの調子だもの・・・」

 

「そう言うモロもお菓子広げて待ってるよね」

 

「うっ・・・」

 

「やれやれ、相変わらず賑やかなことだな」

 

もう冬だと言うのに相変わらずなファミリーを見て士郎は嘆息する。

 

「士郎、おかえり」

 

「ただいま、林冲。買い物してきたから晩飯を後で作ろう。橘さんはいるか?」

 

そう聞いた所で天衣がパタパタとやってきた。

 

「おかえり士郎!すまない、離れの掃除をしていて気づくのに遅れてしまった」

 

「ただいま。大丈夫ですよ。むしろありがとうございます。買い物をしてきたので預けていいですか?ちょっと大和の話を聞いてやりたいので・・・」

 

「わかった。晩御飯にはみんな寮に戻るだろ?私もその時一緒に島津寮にいくから下ごしらえだけしておくよ」

 

「助かります」

 

感謝を告げて士郎は皆のいる居間に足を運ぶ。

 

「さて、どうしたんだ?こんな時間に集まって」

 

「それが・・・クリスが急遽ドイツに帰国してな」

 

「親バカで知られるクリスの親父さんだから、このまま放っておくのやべーんじゃねぇかって話してたんだ」

 

「ふむ。で大和、相談というのは?」

 

「実は・・・」

 

そうして大和から話された内容はおおよそ士郎の予想通りだった。

 

「クリスを迎えに行きたい、か」

 

「ああ。士郎が来る前にフランクさんと会ったことがあるんだけど、多分あの様子じゃクリスに諦めるように促すと思うんだ」

 

「ということは大和、心は決まったんだな?」

 

士郎の問いかけにぎゅっと胸元を掴んで、

 

「決めたよ。俺はクリスを受け入れたい」

 

「京は?」

 

「京も・・・その」

 

「私は大和のもの。だから大和とずっと一緒」

 

「・・・そうか」

 

これ以上は何も言うまいと士郎は頷いた。

 

「それにしても迎えか。具体的にどうするかだが・・・」

 

ふむと考える士郎。その時偶然テレビが目に入った。

 

『臨時ニュースです。日本からドイツ行の旅客機がテロリストに鹵獲されたとの情報が入りました。テロリストは旅行客を人質に取り・・・』

 

「・・・やべぇんじゃねぇか」

 

「クリス、丁度今頃飛行機だよね」

 

「大和、電話――――」

 

そうこうしている内にかすかにだがクリスと赤髪が中継に映った。

 

「クリス!!」

 

「落ち着け大和!今連絡を取ってみるからクリスの携帯には電話するな」

 

万が一、クリスを捕まえようとしているのであれば不用意に携帯を鳴らすのはまずい。

 

「もしもし、揚羽さん?」

 

『士郎ではないか。どうした?もう我が恋しくなったか?』

 

何とも突っ込みづらい空気を出す揚羽に士郎は一度息を整え、

 

「確認がしたい。今テレビで日本からドイツ行の旅客機がテロの標的にされたと出ているが・・・あれは九鬼の会社じゃないか?」

 

『・・・もう情報を得たのか。今時、テロリズムを行うような輩は居ないように思うが・・・おい!確認はどうだ!』

 

裏でバタバタとしているであろう人員に声をかけると答えが返ってきた。

 

『今詳細を確認した。うちで取り扱っている会社なのだがこちらも今忙しくてな、やっと情報が纏まった所だ。我らの航空会社に手を付けようとは、少々、痛い目を見てもらわねばな。士郎が連絡をしてくるという事はもしや・・・』

 

「その通りだ。その旅客機にうちのクラスメイトとマルギッテ、その部下のリザさんが乗っていた。テロに巻き込まれた可能性が高い」

 

『・・・して、どうしたいのだ?』

 

揚羽はため息を吐くように言った。

 

「もちろん救出に向かいたい。近い場所までで構わないから足を準備してくれないか」

 

『仲間が関わっているからとはいえ、お前の行動力は驚きを隠せんな。本来ならば話にもならんと却下するところだが・・・』

 

そこで一呼吸置いて揚羽は何かの資料を見ながら返答した。

 

『どうやら日本の領土内での出来事のようだから我らが干渉することも可能だろう。これがドイツに入っていたのなら、危うかったな』

 

「いや、むしろテロリスト共はそれを狙ったように思う。恐らく、リューベックに集められている猟犬部隊を恐れてだろう」

 

『なに?もしやマルギッテが何か動いていたのか?』

 

「・・・俺の口からは言えないが。まぁ想像の通りだ」

 

ドイツに入ってしまえば恐ろしいと名高いマルギッテが率いる猟犬部隊が出てくる。

 

だが日本国内であれば猟犬部隊を表立って派遣するのは難しくなる。独自軍事行動を日本が許すわけがない。

 

となれば犯人はドイツ側の何某でドイツ軍を恐れながら好き放題やっているというわけだ。

 

『なるほどな。川神に留学しているのは、ドイツ軍中将の一人娘だったか。ならば襲う理由もあるな』

 

「ああ。恐らくドイツ軍に後ろめたいことでもある残党だろうよ。それで、足は準備してもらえるのかな?」

 

『既に戦闘的思考になっているぞ。まぁ、九鬼のものに手を出されたのもあるし、お前との契約上も一致する。よかろう。足を準備して従者部隊もつけよう』

 

「感謝する。だが従者部隊はいいのか?実戦になるぞ」

 

『問題ない。従者部隊は皆こういう事態にも対応できるよう戦闘訓練をしている。それに、お前だけを派遣しようなど、我が許さんからな』

 

揚羽の言葉に心配げな声色が混ざっているのを聞いて士郎は何処か背中がくすぐったくなった。

 

「では頼む。時間はどれくらいかかる?」

 

『一時間もかけんよ。腕利きを派遣するからお前もすぐに出れるようにせよ』

 

了解、と返事をして電話を切る。

 

「という事で皆・・・なんだ?」

 

きょとんとした目で士郎を見つめる一同に士郎は何か変な所があっただろうかと首を傾げる。

 

「なんかこう、映画のワンシーンみたいね」

 

「士郎と揚羽さんの会話が本物過ぎて金払うレベルだわ・・・」

 

「何を言ってるんだ。それより、俺は救出作戦に行ってくる。皆は――――」

 

「士郎!「ダメだ」っ・・・」

 

大和の声に士郎はすぐさま否を叩きつけた。

 

「今回は遊びじゃない。みんながやっている依頼を遊びと言いはしないが、これはそんなレベルの事じゃない。場合によっては犠牲者が出る本物の戦場だ。そこに大和は連れていけない」

 

「でも!」

 

それでも食い下がる大和に士郎は嘆息し、

 

「大和は俺じゃ不安か?」

 

「そんなこと・・・無いけど・・・」

 

「今回は俺に任せておけ。どうしても気になるなら先にリューベック行きの便を捕まえて乗り込め。向こうで会おう」

 

「・・・わかった」

 

渋々、大和は引き下がった。だが、すぐに携帯を開いて色々な所へコンタクトを取り始める。士郎の言う通り、ドイツ・リューベック行きの手配だろう。

 

「士郎、戦か?」

 

「ああ。仲間と乗客の命がかかってる」

 

「なら私も行こう。士郎は乗客を守る。私は士郎を守る。決まりだからな」

 

梃子でも動かないぞと構える林冲に苦笑して、

 

「わかった。林冲、よろしく頼む」

 

「林冲さんも行くのか!なあ、しろ「百代は大和達の護衛だ」だよなぁ・・・」

 

ちぇーといじけながらも、戦闘の気配を感じているのか不満そうではない。

 

「衛宮、戦なら連れていけ」

 

「え?」

 

急にぬっとあらわれたのは史文恭だ。

 

「士郎、そのお姉さん誰・・・?」

 

「あれってモモ先輩の2Pカラーじゃ「てい!」ギャー!・・・」

 

「史文恭・・・リターンマッチか?」

 

「ああ。前回は不覚を取ったからな。仲間の小娘とマルギッテを救出するのだろう?連れていけ」

 

「・・・。」

 

梁山泊の一角と元曹一族の一角が一堂に会する豪華な救出部隊となりそうだ。

 

「士郎、表に九鬼の従者さんが来たぞ」

 

と天衣が教えてくれた。

 

「流石に早いな。では皆、ドイツで会おう」

 

応!と皆頷いて動き出す。

 

――――平和な毎日から一転。また戦闘の気配があるが、心強い味方のいる彼ならば本来とは違った未来を切り開けるはずだ。

 




お待たせしてすみません。結構オリジナル要素が多かったんではないでしょうか?

前書きで言うほどにょわにょわしてなかった心ん…むしろ侍女A・Bの存在感よ。オリジナルの庭師、斎藤さん、実はめっちゃ強い設定です。何処で生きてくるかはまだ不明ですが…

そしてラストは大和がクリスを追いかけ…るんだけど主人公は士郎なのですはい。なので基本、士郎視点なのでお忘れなきよう。

では次回!
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