真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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タイトル通り、士郎が川神院に足を踏み入れます。実はここで初めて気の存在を知ります。そして召喚時に自分を追跡してきたのが誰であるのかも。


川神院

「ここが川神院か・・・」

 

地図を手に士郎が訪れたのは川神、ひいては武道の頂点とも言われる川神院。多くの名うての実力者を輩出し、九鬼に次いで大きな発言力と力を持つのがここである。

 

「一成の所を思い出すな」

 

正面の長い階段を見て懐かしい親友を思い出す。それと同時に。

 

(・・・無名のサムライなんかいないだろうな・・・?)

 

階段を上ろうとしてそんな馬鹿なことがあるわけないと頭を振る。

 

ここは違う世界なのだ。それはこの地に来ていい加減思い知った。まず最初に調べたのは日本地図に冬木という地名。己の育った地が地図上にも書籍にも載ってないことに寂しさを覚えたのは記憶に新しい。

そして何より目についたのはやはり九鬼財閥とこの川神院の存在だ。正義の味方として世界を転々とした彼ではあるがこの二つは一度たりとも目にしたことはない。

 

「あ!士郎くーん!」

 

 

元の世界との違いをひしひしと感じながら階段を登り切り、元気な声を掛けられた。

 

「一子さんか。今日は招待ありがとう」

 

「ううん!私の方こそ今日はよろしくお願いします!!」

 

バッ!と頭を下げる一子に士郎は困ったように頬を掻く。

 

「頭を上げてくれ。俺はそんなに大した人間じゃないんだ。それに同級生だろう?士郎でいいよ」

 

そう言って手を差し出す士郎。

 

「・・・わかったわ!よろしく!士郎!」

 

一瞬大和と京の忠告が頭を過ったが、やはり彼が悪人とは思えない一子は笑顔でその手を握り返した。

 

(あ・・・この手)

 

握手をした折、彼の武骨な手に鍛錬の痕を感じてやっぱりこの人は武術を嗜むんだと確信する一子。

 

「よく来たの。衛宮士郎君」

 

「お世話になります。学園長」

 

院の中から姿を現した鉄心に挨拶する。今日は一子の誘いで一日川神院を見学することになっていた。

 

「今日はルーが所用で留守にしておるがの。お主にも良い経験となることを願っておるよ」

 

「勉強させてもらいます」

 

「はいはい!じいちゃん早速摸擬戦したい!」

 

「よかろう」

 

一子の希望で早速川神院内での摸擬戦が始まる。

 

「「よろしくお願いします!」」

 

一子は薙刀を手に。相手の訓練生は刃引きされた鎖鎌。

 

「ここでは主に武具での教練をしているんですか?」

 

いきなり武具を取り出す二人に驚く士郎。

 

「武具だけではないぞ。素手での格闘術も含めあらゆる武術を教えておる。そして“気”の運用じゃな」

 

「気?」

 

初めて聞く単語に疑問を抱く。

 

「そうじゃ。気はどんな人間にも内在する潜在的な力。それをうまく扱えるようにすることもここでの修練じゃ。発現する者はそれなりにいるのじゃが、扱えなければ危険じゃからのう」

 

(気・・・ね。実際の所はわからないが魔力と同じか、それに類するものだろう)

 

魔術、中でも魔力にはオドとマナという概念がある。オドは魔術師の体内に存在する魔力。それを魔術回路に通すことで人工的に奇跡を起こす。

マナは大気に満ちる魔力。世界が保有する巨大な力。状況に応じて魔法陣や術式を使用するのだ。

 

「―――同調、開始(トレース・オン)

 

隣の鉄心を気にしながら魔術を起動する。目を強化し、動きだけでなく戦う二人の内へ目を向ける。

 

(あれが気か)

 

オーラとでも言うべきか・・・それが戦う二人から見て取れる。鎖鎌を持つ訓練生はそれが外にまで放出されており、体を包むようにあるのに対し、一子は体内に満ちるに留まっている。

 

「一子は気が少ないですね」

 

「ほう・・・お主わかるのか」

 

「いままではわかりませんでしたよ」

 

そればかりは本当だった。この地に来てから感じていた謎の力。オドやマナとも違うなにか。霊脈にも満ちるこの不可思議な力は一体何なのかと―――

 

バッ!

 

瞬間巨大な何かが空からくるのを感じ振り向く。そしてソレと目が合った。

 

相手はそれにニヤリと口角を上げ、

 

ドン!

 

と着地した。

 

「おいジジィ!衛宮が来るなんて聞いてないぞ!」

 

「そりゃあ言うておらんからのう・・・」

 

困ったものだと頭を振る鉄心。

 

長い黒髪をもった女性は楽しそうに、獰猛に衛宮士郎を見つめる。

 

「私は川神学園3年F組川神百代だ!お前のことは妹からよく聞いてるぞ」

 

「初めまして。2年F組衛宮士郎です。・・・川神、ということは一子のお姉さんですか?」

 

「ああそうじゃ。血はつながっておらんがの。わしの孫じゃ」

 

そういう鉄心はどうにも困った様子を見せている。それが分からない士郎はとりあえず一子と同じく握手をする。

 

瞬間

 

「―――!」

 

「へぇ・・・」

 

ゾワリと冷たいものが士郎に走った。

 

(なんだ・・・この化け物は)

 

内包する気が尋常じゃない。まるで地球・・・星そのものかなにかのような量だ。それを見せつけるようにその手から放出している。しかも、

 

(初日の追跡者はコイツか・・・!)

 

黒髪の女性ということしかわからなかったがまさかここまで馬鹿げた人物だったとは。

 

「お前、本当に強そうじゃないか」

 

こちらを見る目が完全に獲物を見つけた目だ。知っている。この手の目は強者を前にした時のセイバーのそれと同じだ・・・!

 

「おいジジィ、私と衛宮で組手させろ」

 

「はぁ・・・そう言うと思うておったから言わんかったんじゃ・・・」

 

本当に困ったと頭を抱える鉄心。孫を可愛がる鉄心だが、実際の所、孫である百代のバトルジャンキーぶりに毎度頭を悩ませているのだ。

 

百代はこの年で武神の名がつくほどに強い。彼女の持つ膨大な気とバトルセンスは本物。それ故によほどの人物でなければ一秒と持たない。それが彼女の心ゆくまで戦いたいという欲求を満たすことができない原因になっている。

 

「もちろん本気はださないから!ちょっとだけ!」

 

「・・・衛宮君どうするかね?」

 

本来なら断るべきなのだが孫が可愛い鉄心は聞いてしまう。そして半ば頼むような気配を出す人を前に、衛宮士郎が出す答えは決まっている。

 

「・・・あくまで鍛錬なら」

 

この言い訳もいい加減通用しないだろうな―――そう思いながら承諾した。

 

 

 

「それでは、これより百代と衛宮士郎君の組手を始める。双方、前へ!」

 

そうしてついに士郎はこの世界最強の存在と一戦交えることになる。

 

(手を抜ける相手ではない・・・だが、ここで手札をひけらかすわけにもいくまい)

 

うきうきと心底楽しそうにする女性を前にどうしたものかと考える。

 

正直、勝つ自信はある。先ほどから妙に浮かれすぎている(・・・・・・・・)様子とあの負けず嫌いな、ともすればバトルジャンキーな様子からして彼女にどこかぬるさを感じる。そこを突けば容易に勝利することができるだろう。

 

だがそれはできない。勝つならば文字通り全開で行かねばならない。この世界に来て二か月ほどが過ぎようとしているが、あまりに奇天烈なこの世界で微々たる情報しかつかめていない中、魔術やそれに類することも明かすわけにはいかない。

 

「私は美少女らしく拳だ。衛宮は弓か剣だろ?使わなくていいのか?」

 

(美少女らしく拳とはなんだ・・・)

 

意味不明な言葉に高速で思考をめぐらす士郎はいささか頭痛を覚える。

 

しかし、この提案は渡りに船だった。ごまかすにはちょうどいいモノがここにある。

 

「そうか。では―――一子。君の薙刀を貸してくれないか?」

 

「ほえ!?私の!?」

 

自分の手に持つ薙刀と士郎を目が行き来する。

 

「ああ。これでも長物も扱えるのでね。流石に鎖鎌のような特殊な武器は私には荷が重い」

 

嘘だが。馬鹿正直に武器ならばある程度使えるなどと言う気はない。

 

「おい。手加減してやるとは言ったが全力で来ないなら・・・お前、潰すぞ」

 

ギロリと睨みつける百代。それと同時にビリビリと殺気が発せられる。

 

しかし士郎はその様子にも殺気にも臆することなく、

 

「なに、失望はさせんよ。―――せっかく先輩が手加減してくれるというのだから足らないものを補おうと思ってね」

 

そうして殺気に当てられガクブルとしている一子から薙刀を受け取る。

 

「でも・・・」

 

 

姉の剣幕に怯える姿が小さな子犬を思わせる。その様子に士郎は苦笑を浮かべ、

 

「大丈夫さ」

 

その赤い髪を優しく撫でて安心させるように笑顔を作った。

 

「ではよいかの?」

 

「ええ」

 

借りた薙刀をくるりと回し両手下段に構える。

 

「では、始めッ!」

 

「ふッ!」

 

「はッ!」

 

激突は一瞬百代の拳と士郎の持つ薙刀が交差する。

 

(!この手ごたえ!)

 

一合目の交差で百代はゾクゾクとしたものを感じた。

 

(待ちわびた・・・!待ちわびたぞ!)

 

すぐさま反転。裏拳を背後の士郎に見舞う―――!

 

ガン!

 

しかしそれは百代よりも一瞬早く体勢を立て直した士郎の薙刀に防がれる。

 

「お前―――!」

 

その顔は獰猛な笑顔に戻っていた。コイツは本物だ。弓だけじゃない。近接戦もできる万能型!

 

対する士郎は迫り来た拳を薙刀で防ぎ、受け流す。だがその手に残る感触に顔を顰めたくなった。

 

(手加減の一撃を防いでこの威力・・・やれやれ、これは出し惜しみはできんな)

 

彼女は手加減すると言っていた。事実手加減しているのだろう。一合目の拳は比較的緩やかに見えた。だが、もしこちらが油断していれば薙刀ごと吹き飛ばされていたことだろう。

 

故に彼は手札を一枚切る。この女相手に自力だけでは対抗できない―――!

 

「―――同調、開始(トレース・オン)

 

何度となく繰り返した強化の魔術。投影はごまかしが効かないがこれならば気で体を強化したとでも言えばどうとでもなる。

 

強化された腕から反撃とばかりに連続の刺突が繰り出される―――!

 

「っは!お前本当に面白いな!」

 

常人のそれを超えたそれは同じく常人の繰り出すものとは比較にならない速度で柄を弾くことで防がれる。

 

そのまま彼女は神速の踏み込みで刺突を搔い潜り、拳を突き出す。

 

ガイン!

 

まるで金属がぶつかり合ったのかと思わせる音を響かせてその拳を戻り来た薙刀で受け流し、返す刃で彼女を袈裟切りにする。

 

それを百代はバックステップで紙一重で避け再度突撃。拳の連打を浴びせにかかる。

 

キン!ガン!キイン!

 

対する士郎は冷静に。受け、捌き、時には薙刀を回転させ衝撃を受け流す。そればかりか、受け流した反動を利用し刺突、薙ぎ、石突を繰り出す。

 

クリスの時とは違う。不動ではなく激しい交差。さながら舞踏のように互いの位置が入れ替わる。

 

拳が空を切り薙刀が閃く。その様子を訓練生達が、一子が目を見開いて見守る。

 

「お、お姉さまと・・・!」

 

「あの武神と・・・!」

 

「「互角に渡り合ってる・・・・!」」

 

それは今まで彼らの常識を覆す光景だった。どれほどの武術家でも。数秒とかからず仕留めるあの武神・川神百代が、

 

「はは!ははは!楽しいな!いいぞもっとだ!」

 

額に汗を掻き、気をほとばしらせて舞う。何合、何十合と組み合う。並の武術家ならばもはや倒れ伏し動かなくなるそれを衛宮士郎は鋭い鷹の目と己の経験を駆使して渡り合う。

 

「・・・。」

 

(大したもんじゃ・・・モモと対等に渡り合う若者なぞ終ぞ現れぬと思ておったが・・・)

 

もはや訓練生達の目にも映らぬ速度で組み合わされる拳と薙刀。だが一つだけ彼らにもわかることがあった。

 

衛宮なる少年に限界が近い。それは舞台上で戦う彼らの位置にあった。中央で激しく打ち合っていたそれが段々と後退している。捌き切れず受けに回ることが多くなったために徐々に舞台の端へと追いやられていく。

 

「楽しい!面白い!お前なんでこんなにできるのに隠してたんだ!?もっと早く教えてくれればよかったじゃないか!」

 

「・・・さて。以前に言った通りだが。私は戦いは好まないのでね。確実に火種になるようなものをそう安々と教えるわけがないだろう」

 

拳と薙刀が交差する。これで一体幾度になるのか。もはやそれを知るのは川神鉄心くらいであろう。

 

「そうだったな!―――ああ。楽しかった。私と打ち合えたのは揚羽さんを除けばお前が初めてだ。もっと続けたい。けど・・・お前、もう限界だろう?」

 

「・・・。」

 

百代の問いに士郎は答えない。だが位置は既に舞台端。もはや彼に退路は残されていない。これが野戦ならば、まだ息も乱さぬ士郎は彼女の攻撃を受けきるだろう。しかしこ度は舞台という限られた空間の戦い。

 

「本当に楽しかった。またやろうな―――!」

 

そう言って彼女は今日一番の突きを繰り出す。溢れんばかりに気を込められたそれの名は川神流・無双正拳突き。数多の武術家を葬り去った必殺の剛拳―――!

 

「いかん!モモ―――!」

 

それまで見に徹していた鉄心が動く。それは百代の悪癖にあった。

 

今までどんな相手にも満足できなかった彼女は無意識に手を抜き、相手をたっぷりと味わってから一撃のもとに下すという悪癖がついていた。

故に彼女はスロースターターなのである。だが今回は違う。幾百・幾千と渡りあった時間は彼女の手加減の度合いを引き下げていた。

 

―――拳が迫る。川神鉄心をして間一髪間に合うまいその一撃は仮に薙刀で防いだとしても衛宮士郎に致命傷を負わせる。

 

しかし士郎は変わらずその一撃を見据え、

 

「―――川神流」

 

「な、」

 

それを見て一番驚いたのは誰あろう百代だった。知っている。それは川神流の中で妹が最も愛用する―――

 

「大車輪―――」

 

必殺の剛拳が薙刀に巻き込まれ跳ね上げられる。空を切った拳を全力で(・・・)引き戻し両腕を交差させて、名前の通り遠心力をも利用した一撃に備える。

 

バカンッ!!!

 

「ぐあ!」

 

百代が苦悶の声を上げて吹き飛ぶ。何度も地を蹴り、着地するが、威力が桁違いのそれは彼女を舞台の中央へと押し戻した。

 

「・・・こんな所か」

 

そう言って彼は両手に構えた薙刀の構えを解く。それはこれ以上はやらないという意思表示だった。

 

「・・・なんということじゃ」

 

確実に入ったと思われたその一撃は。まさかの同じ川神流の技にて破られた。それもあの百代の一撃を受け流しその力をも利用したその技はまさにあの技の至高ともいえる練度。

それをこの百代と大して変わらぬ少年がやってのけた。

 

「ぐっ・・・川神流!瞬間回復!」

 

一撃を受けた右腕は骨を砕かれていた。が、それを秘術によって回復する。そして再度突撃しようとした百代だが。

 

「やめいッ!ここまでじゃ!」

 

このままでは試合ではなく死合となる。そう直観した鉄心によって止められた。

 

「なんでだよ!」

 

「モモッ!お主のやりすぎじゃ!あくまでこれは組手じゃぞ!」

 

「けど!あいつは!私に―――」

 

しかしその言葉は続かなかった。

 

「今日の所はここまでとしよう。なに、私は逃げも隠れもしない。こうして試合った以上隠しても仕方がないからな。それに、これ以上はこちらの武器が持たない」

 

士郎はそう言って舞台を降り、一子のもとへと歩む。

 

「少々荒々しかったが損傷はしていない。もし気になるようなら新しいものを使うといい。私としては、このまま使い続けることをお勧めする。良い業物だ」

 

「は・・・はい・・・」

 

呆然とした様子で薙刀を受け取る一子。その薙刀は確かに自分のもののはずなのに。まるで別なナニカ(・・・・)に見えてしまった。

 

「すまんの今日の所は―――」

 

「ええ。その様子じゃ俺がいると爆発しそうですから」

 

肩をすくめて彼は川神院を後にする。

 

「まて!衛宮!次は!次はいつやるんだ!」

 

「そんなに興奮しなくても機会はいつでもあるでしょう。それに、あまり頻繁に来られてもこっちの身が持ちませんよ。後日話し合うということで」

 

そう言って今度こそ彼は川神院を立ち去った。

 




いかがだったでしょうか・・・今回の戦いは彼に非常に多くの制約を持たせた一戦となりました。もっと戦闘描写に力を入れたかったんですが擬音があまり多くなっても幼稚に見えてしまいそうで・・・音楽の力は偉大ですね。今回の戦闘のイメージ曲はマジ恋の戦闘曲ではなく、fateの激突する魂です。

最後に使った川神流・大車輪はもちろん武器の経験から得たものです。ただし、私の書く時空では先代の、ということにしてください。

感想を書いてくださった皆様本当にありがとうございます。fateファンとして、マジ恋ファンとして、楽しんでいただけたら本当にうれしいです。

まだまだつたないものですが頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
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