調べる中でやっと確認が取れたのですが、マルギッテの階級はSまでは少尉、そしてAー5だと何故か准尉になるのは仕様のようです。何でもないことのようですがこれ結構大事件で、准尉から少尉って言うのはめちゃめちゃ壁があるそうです。なぜ原作者様がそうしたのかわかりませんが、私の作品ではマルギッテは少尉という事で進めていきますのでよろしくお願いします。
今回はタイトル通りクリス達の救出作戦!今回士郎はマジなので多少グロ表現があると思いますのでお気をつけください。
特別にチャーターされたプライベート機から外を見る士郎。その様子は完全武装で赤原礼装を身に纏った彼の周りには痛いほどの静けさが漂っていた。
「衛宮。もう少し気を落ち着かせろ。行きまで戦闘状態ではいざ戦場についてから持たん」
そういう史文恭も今回は完全武装だ。曹一族武術指南時代の戦闘着に武器は意外にも以前士郎が投影したハルバード。
なぜ狼牙棒ではないのかというと、狼牙棒では神秘に太刀打ちできないと理解し、あの時渡された狼牙棒に戦闘スタイルが比較的近い、このハルバードを現在の装備としていた。
「すまない。久しぶりの現場の空気にあてられたようだ」
そう言って肩を竦めるが、以前緊張感のある空気である。
「士郎は昔を思い出してるんだな?大丈夫だ。今回は私と史文恭がいる。士郎は存分に戦場を駆けてくれ」
「ありがとう。林冲」
そう言ってまた窓の外を眺める士郎。
(何が目的なのか・・・身代金、というには盛大過ぎるな。捕まった仲間の解放辺りが妥当か)
マルギッテ率いる猟犬部隊を恐れているならばその辺が当たりだろう。
彼らは致命的に戦力を失ってしまったので、クリスが乗る旅客機を襲撃し、フランク・フリードリヒに仲間の解放を要求するのだろうと予測した。
はたしてその予想は早々に当たったのか、従者部隊の一人が今回のテロリストの概要を教えてくれた。
「衛宮様、今回のテロリストの要求が判明しました」
「捕まった仲間の解放・・・ですか?」
「・・・っ流石です。その通り、今回狙ったのはほかでもない、ドイツ軍中将の一人娘、クリスティアーネ・フリードリヒさんが狙いで、解放してほしければ仲間の解放を要求しています。彼らはごく最近マルギッテさん率いる猟犬部隊が捕らえたようです」
「予想通り、という所か・・・今のところの被害は?」
「今のところ確認されていません。咄嗟の判断でマルギッテ少尉と部下のリザ・ブリンカーさんはキャビンアテンダントに扮装して事態の解決の機会を狙っているようです」
「CAに扮装?よくそこまで確認が取れましたね?」
「はい。実は――――」
そうして聞かされたのはフランクが日本に協力要請を出しており、実働部隊として動いている士郎の所にも話が来たというわけだ。
「ドイツ軍中将は日本への猟犬部隊投入許可を申請しているようです。ですが・・・」
「芳しくない、ですか?」
言いづらそうにする従者さんに士郎は問いかける。
「はい。救出作戦自体は承認の方向で動いているそうですが、この中将のあまりの職権乱用の疑いが臨時国会で取り立たされていて、二の足を踏んでいるそうです」
「・・・。」
いつかは手痛いしっぺ返しが来るとは思っていたがまさかのこのタイミング。日本政府としてはあまりに国内で好き勝手されてはたまったものではないと言う所か。
「それで日本政府は――――」
どうするのか、と聞こうとした矢先だった。
「通信が入っています。識別は・・・総理官邸からです」
「なんですって!?すぐに繋いで!」
今回一番序列が高いのだろう女性が指示を出した。
『忙しいところすまねぇな。一応国としての対応を知らせとかないといけないんでよ』
「いえ、構いません。それで日本政府としてはどのような見解を?」
全く見ず知らずのフリをして続きを促す士郎。何事も、痛くもない腹を探られるのを防ぐためだ。
『日本から自衛隊を派遣するが・・・九鬼が動いてくれてるんならそっちに任せてぇ。理由は時間、だな』
「犯人から追加の要求でも来ましたか?」
『ああ。要求が呑まれないのならば一時間に一人命を貰う、と言って来やがった。すぐにでも派遣してぇが国家間の問題が片付いちゃいねぇ。どうしてもこのままだと間に合わねぇ。そこで――――』
「私達、というわけか」
『おうよ。今回、衛宮士郎以下九鬼の従者部隊には特例を適用する。細かいことを省くと・・・殺し、虐殺さえしなけりゃ大抵を許す。これがどういう意味か分かってるな?』
「ええ。覚悟のうえで私もこの場にいる。では私達は一切の手加減をやめていいという事ですね?」
『状況が状況だ。仕方ねぇ。テロリストよりも乗客とクリスティアーネって嬢ちゃんの安全を確保してくれ。幸いにも、ドイツ軍の少尉と部下が乗務員に化けて潜伏してる。うまいことやってくれ』
「了解した。では改めて連絡します」
『おう。頼んだぜ。正義の味方』
そう言って通信は切れた。
「・・・これで、手加減無しで暴れられるな」
「ああ。乗客の命を取る以上、私達も容赦はしない」
「殺しさえしなければという事だ。手足の一、二本は覚悟してもらおう」
「「「・・・っ」」」
重くるしい殺気に従者部隊がゴクリと喉を鳴らした。
「もうすぐ作戦圏内です」
「了解した。二人とも、降下準備だ」
「わかった」
「久方ぶりの実戦だ、派手にやるとしよう」
二人は冷徹な感情の無い顔で。一人は獰猛に笑いながら、作戦を開始するのだった。
――――interlude――――
現場ではテロリストが乗客一人一人に縄と猿轡をして回っていた。ついでに乗客の中からクリスを探しているようである。
「くっ・・・レイピアさえあれば・・・」
「だめだよお嬢様。こういう時に一人で立ち上がっても、人質を取られるだけだ。こういうのは機会が大事なんだよ」
CAの服装をしたリザがそう言った。
「機会か・・・この規模の人質を救出するなんて出来るのだろうか・・・」
敵は二十人強と言った所だ。全てのテロリストが銃で武装している。確かに、ここで自分が動いても、すぐ目の前の乗客を人質に取られてしまうだろう。
「マルさんは大丈夫だろうか・・・」
「マルなら大丈夫。今は俺たちが見つからないようにするだけさ」
マルギッテは機長室へと向かっていたので一番に捕まっているだろう。
クリスの予想はその通りで、マルギッテはCAの服装ですでに両手を縛られ、猿轡を噛ませられていた。
「状況は」
「はい。まだ中将の娘までは見つけられていません」
「チッ・・・思ったより後ろに居やがんのか?おい、急いで見つけ出せ!」
「・・・。」
ぱたぱたと駆けて行くテロリストを目で追ってマルギッテは思考する。
(さて・・・現状この程度の拘束ならば自力で抜け出せますが・・・)
迂闊にそんなことをしては折角CAに扮装した意味が無くなってしまう。リザも言っていたが、こういうのは
(あの男・・・確か討伐任務で目にしましたね)
捉えたはずの男がなぜこれだけの手勢を率いて襲ってきたのか。
――――考えられるのは一つしかない。
(身内に内通者がいるという事ですか・・・)
捕まえた自分達の中にいないことは確信できる。問題はその後、という事だろう。何処かの部署にスパイが潜り込んでいるようだ。
(今の会話から、お嬢様とリザがまだ見つかっていないことは分かりました。ではどう動くか――――)
そろそろ動こうとした所でマルギッテは急に動きを止めた。
(この感じ・・・士郎!?)
遠くない場所にパスを通して士郎の存在を感じ取ったマルギッテ。そして
『マル。無事か?』
念話が、彼から届いた。
『はい。来てくれたのですね』
『マルやクリスが危険とあれば、な。遠い場所でのんびりテレビでも見てると思ったか?』
『いえ。貴方なら来てくれると思っていました』
本当はそんなこと考えもしていなかったのだが、心が温まる彼の声に正直には答えないマルギッテ。
『無事でよかったよ。状況は?』
『船首に5人。乗客を縛るのに10人。残り10人は乗客を縛りながらお嬢様を探しているようです』
『計25人だな。了解した。マル、敵に女は居ないな?』
士郎からの不思議な問いにマルギッテは、
『・・・いませんが。なぜその確認が必要なのです?』
少しむっとして返すが士郎は至極真面目に返答を返した。
『男性特化の捕縛礼装がある。これに掴まれば最後、英霊だろうと自力で振りほどくことは出来なくなる』
『なっ・・・魔術にはそんなものまであるのですか!?』
予想外の武装にマルギッテは目を丸くした。
『ある。まずは船首の5人からだ。恐らくリーダーが居るだろうが、まとめて捕縛する。赤い布が走ったらマルギッテも動け』
『了解』
士郎との念話後、マルギッテは密かに縛られた縄を解く。
「リーダー。例のお嬢様はまだ――――」
――――
バサ!と赤い布が複数走った。
「なんだこりゃ――――」
間髪入れずさらに赤い布が走り、男たちの顔をくるんでしまう。そしてズルズルと林の方に引きずられて行った。
「・・・まさか本当にそんなものがあろうとは」
機長らの縄も外し、林を素早く駆けて行く人影を目で追って、マルギッテは驚いたように驚く。
「少尉殿、我々は・・・」
「まだ動かないように。救援が来ました」
そう告げてマルギッテは息を潜めてクリスの方へ向かう。
(待っていてください、お嬢様・・・!)
――――interlude out――――
「それに縛っておけば何もできないので見張りの方だけ残して次へ行きます」
士郎の投影したマグダラの聖骸布に捉えられたテロリスト共の意識を刈って次のターゲットへ向かう。
「ここからは二面作戦ですね?」
目を丸くする九鬼の従者に士郎は頷き、
「一組は報告に戻ってくる奴らの捕縛をお願いします。忘れないでもらいたいのは、この赤い布は女性にはただの布としてしか効果がありません。絶対捕縛権があるのは男性だけです。もし女性テロリストが混ざって居たら別な方法で捕らえてください」
「了解しました」
そちらを担当する従者さんが高揚した面持ちで頷く。
「残りのメンバーで数の減ったテロリストを物理的に排除する。出来るだけいっぺんに始末したいので敵が異変に気付くまで自分のターゲットをマークしておいてください」
「了解だ」
「了解した。・・・しかし、何だな、この程度ではお前の障害とすらなりえんか」
慣れた身のこなしに史文恭は愉快そうに言う。
「この規模ならな。ただ、犠牲者なく制圧出来ているのは従者部隊の皆がいるからだ」
「犠牲者・・・ね。この期に及んで敵の心配をするのがお前らしいな」
「・・・。」
史文恭の言葉に士郎は何も返さなかった。
「そろそろテロリストが異変に気付く頃だ。油断なく行くぞ」
応、と返事をして近くの林を駆ける。
「おい、リーダー知らねぇか?」
「さっきまでそこに――――」
バサ!
「なんだ!?」
「赤い布!?」
「敵襲だ!」
遂に士郎達の存在がバレた。が、着実に数を減らしていたのでどうということは無い。
「あの布はなんだ!?」
「わからん!だがあの布・・・ぬわ!?」
もはや口を塞ぐこともなく引きずられて行くテロリスト。
「あそこだ!」
「撃て!」
布に掴まったテロリストが引きずられた場所へ照準を合わせるが、
「フッ!!!」
ザン!
「う、腕がぁああ!」
ゴロゴロと無様に転がるテロリストを蹴り飛ばし、士郎は夫婦剣を構える。
「――――」
「なんだコイツ!」
「赤い装束!?コイツ日本の――――」
間髪入れずもう一振り。銃を持つ片腕を落とし、士郎はすぐさま次の標的へと襲い掛かる。
「この!」
パン!
銃が撃たれるが士郎は素早い動きで銃弾を躱し、
「ぎゃああ!」
また銃を握る片腕を銃ごと切り落とした。
「すごい・・・」
後からついてくる九鬼従者部隊はもう腕を切り落とされたテロリストの確保と止血に勤しんでいた。
「士郎!」
そんなことを数回繰り返したのち、士郎を呼ぶ声がした。
「クリス。大丈夫か?」
「ああ!乗客は・・・」
「テロリストは今ので最後だろう。遅くなってすまないな」
「そんなことない。ここまで来るのに相当大変だっただろう?それに――――」
ちらりと見れば。士郎の体のあちこちに血痕が残っている。
「こんなに汚れてしまって・・・すまない」
それは単に汚れがついたというわけではなく、彼の手が血に濡れたことをクリスは痛ましく思っていた。
「問題ない。幸い、殺傷までには至っていない。だがクリス。いい機会だから忘れないでくれ。これが
そう言って士郎は連行されていくテロリストたちを見やった。
(これが正義、か。確かに士郎は乗客全てを救って、テロリストも最小限の傷で捕らえた。確かに正義だ。間違いない。でも・・・)
クリスは何か居心地の悪いものを感じていた。
(正義の味方、か・・・こんなに過酷な道なんだな)
自分の好きな勧善懲悪の物語は尚の事夢物語であり、この青年はその夢物語を歩いているのだと、クリスは思った。
「マルは既に救出済みかい?」
そう問いかけたのはクリスの護衛をしていたリザだ。
「ああ。最初にテロリストを無力化した際に救出している。誰も・・・いや、テロリストを除いてけが人はいない」
「了解。じゃあお嬢様。マルの所に行こうか」
「そう言えば、ドイツ軍がクリス用に特別機をチャーターしたそうだ。それでドイツに帰ることが出来る。私達が現場についてすぐ話が来たからすぐに来ることだろう」
「父様が・・・そうか」
周りを見てクリスは顔を伏せる。その顔には、自分以外はそのままなのか、と書かれていた。
「クリス。大丈夫だ。旅客機に損傷が無ければすぐに飛べる。確認の為に数時間取られるだろうがそれもつかの間だ。テロリストはもう九鬼が連行しているからバッティングはない」
「そうか。・・・士郎には、何からなにまでお見通しだな」
「そうでもない。特に今後の事は、な」
「・・・?」
クリスは士郎の含んだ言い方に違和感を覚えたがリザに背中を押されてマルギッテの方に歩いて行った。
「・・・。」
その姿を見送って士郎は自分の右手を見る。今回、迅速に動くことが出来たのと、特化型礼装があったこと。そして九鬼や林冲たちが居たことで、彼があまり手を汚さずに済んだと言える。
しかし、士郎にはその手が真っ赤な血で染まっているように見えた。
(この世界に来て初めて人を切ったな。・・・今更だが。いい気はしないものだ)
助けられたのは数百人。救いを否定したのは25人。どうしてもそう思ってしまう士郎は無念そうに空を見上げた。
だが、
「あの・・・」
「はい?」
「レッドの兄ちゃん、本当に来てくれた!」
声をかけられた士郎は何の事だかわからないと首を傾げた。
「ずっとお願いしてたんだ!怖い奴等なんて、レッドの兄ちゃんがやっつけてくれるって!」
「息子は貴方のファンでして・・・怯える息子を守るため、そう言い聞かせていたのです」
自分はそんな立派な人間じゃないと知りながら士郎は、ハンカチで念入りに手を拭って少年の頭を撫でた。
「よく頑張ったな」
「うん!レッドの兄ちゃんもカッコよかった!また会える?」
「ああ。きっとな」
そう答えて、またサインを頼まれた士郎は困ったように笑ってサインを書くのだった。
――――interludet――――
「マルさん!」
「お嬢様!」
船首で機長らしき男と話していたマルギッテを見つけてクリスは飛びついた。
「よかった・・・心配したんだぞ」
「ありがとうございます・・・。士郎が来てくれましたからすぐに開放されました」
「衛宮やるよなぁ・・・この状況をあっさりひっくり返して、俺たちも助けてくれたよ」
「士郎は実戦経験を積んでいます。この程度ならば彼一人でも対処していたでしょう」
「マジかぁ・・・これは強敵だなぁ・・・」
「?リザが士郎と戦う事なんて無いだろう?」
「「・・・。」」
そんなことは無い、とは言えなかった。
「それより、お嬢様。今中将が特別機をこちらに向かわせています。旅客機は無事ですが、念のためそちらに乗り換えます」
「ああ。さっき士郎から聞いた。・・・父様は本当に・・・」
クリスは顔を伏せた。マルギッテが事前に、彼女に対する今までの対応と、そこから導き出される彼の対応がことごとく一致しているのでクリスは不安なのだ。
「マルさん・・・父様は・・・やっぱり認めてはくれないだろうか?」
「お嬢様・・・」
「うーん・・・難しい、よな」
彼がクリスを大事に思う気持ちに間違いはないのだ。だが、どうしても行き過ぎな面があるのだ。
そして今回のテロで、尚の事日本にクリスを置くことを忌避するだろう。
「お嬢様は、その、直江大和を諦められるのですか?」
「マル・・・」
「・・・できない」
俯きながらも、クリスははっきりと告げた。
「自分は大和の事を諦めることなんてできない!人から・・・たとえ父様からあきらめろと言われても決して!」
ぎゅっと自分の胸元を掴んでクリスは言った。
「・・・私はどうしても中将につかねばなりません」
「マル!」
リザが驚いたように声を上げた。それは言葉自体にではなく、軍の規律に反することだからだ。
「ですが、きっと。直江大和ならお嬢様を取り返しに来るでしょう」
「マルさんはその時戦うのか?」
「はい」
「マル!それ以上はよせ!」
このままでは彼女まで大変なことになってしまう。そう思うからこそ止めるリザだが、彼女を見るマルギッテの目は柔らかかった。
「いいのです、リザ。私も覚悟を決めましたから。軍法会議にかけられても私には士郎が居る。なにも問題はありません」
「マルさんも・・・士郎を信じているんだな」
「はい。私が苦境に立たされた時、彼は必ず私の所へ来てくれます」
今回のことだってそうだった。マルギッテは自分がどうにかしなければいけないと思いながら、士郎は必ず来てくれると心のどこかで思っていた。
そしてその想いは正しかった。彼は何千キロと離れた死地に、自ら飛び込んできてくれた。
「だから大丈夫です。お互い、認めた相手を信じましょう」
そう言ってマルギッテは力強く頷いた。
――――interlude out――――
旅客機に異常が無いか調べられている中、フランクがチャーターしたプライベートジェットが到着した。
「クリスティアーネお嬢様!お迎えに上がりました!」
「ご苦労!では、お嬢様――――」
「マルギッテ少尉。衛宮士郎殿は居ますでしょうか?」
「今旅客機周辺の警護をしているが、何用か?」
「はっ!中将より、お嬢様を救出した英雄を招待するように申し付けられております」
「なるほど・・・しばし待て」
はっ!と敬礼で返す部下を見やってマルギッテは念話を飛ばす。
『士郎。今いいですか?』
『どうした、マル』
油断なく周りを見渡しているのだろう。彼の声はまだ固い。
『中将が士郎を招待したいそうです。きっと今回の件で、でしょう』
『・・・。』
この時士郎は考えた。遠慮するのもいいがこれは大きなチャンスかもしれないと。
『林冲、聞こえるか?』
渡されていたインカムで林冲に繋ぐ士郎。
『どうしたんだ、士郎』
『所用でドイツに行かなければならないのだが、ここを任せていいか?』
『なんだって!?それなら私も――――』
『いや、今回は一人で行かせてほしい。その方が恐らくうまくことが進むはずだ』
『・・・一人で潜入するつもりだな?』
『それもある。だが心配しないでくれ。大和達が別便でリューベックに向かっている。一人にはならないさ』
上手くいけば内側と外側、両方から状況を打開できるかもしれない。その為には林冲と史文恭というあからさまな武力は連れてはいけない。
『はぁ・・・わかった。士郎の代わりに乗客を守ろう。史文恭』
『どうした』
『士郎の病気がまたでた』
と、随分な言いぐさで林冲は史文恭に言った。
『なんだ、また人助けか?』
『ああ。それで今度は私達についてくるなって』
『こらこら。そんな言い方してないだろう。俺はだな・・・』
『・・・ふん。よかろう。気に食わんが、どうせマルギッテと中将の娘絡みだろう?潜入するには我らは目立ちすぎるからな』
『史文恭・・・』
『だが納得したわけではない。帰ってきたら覚悟しておけ』
それだけ言い残してブツンと史文恭は通信を切ってしまった。
『土産に本でも買っていくか・・・』
『そう言う問題じゃない』
諦めた口調の士郎と、あきれた様子の林冲。何はともあれ士郎は無事ドイツに潜入出来ることとなった。
「待たせたな。フリードリヒ中将がお呼びと伺ったのだが」
「いえ!救出任務、お見事であります!こちらのプライベートジェットにてクリスお嬢様達と一緒にお連れ致します!」
「どうか気を楽にしてくれ。私はしがないただの学生だ。マルギッテはまだしも、私にかしこまる必要はない」
そう言うのだが、はっ!と見事な敬礼をする彼女は新兵なのだろうか。緊張と何処か期待の宿った目でこちらを見てくる。
「それでは、中へどうぞ」
「ありがとう」
案内された機内にはクリスとマルギッテ、リザがいた。
「士郎!士郎もうちに来るのか?」
「ああ。クリスの親父さん、中将にお呼ばれしてな。しばらく頼むぞ」
事前に揚羽と総理には伝えてあるので問題はない。・・・総理には気をつけろ、と忠告をされたが。
(気を付けるも何も、また戦闘なんだろうな・・・)
あの父親ならば実力行使も厭わないだろうことはよくわかる。
(まぁ、その時考えるか)
何処かウキウキとした様子のクリスに苦笑して士郎は席に着く。
何にそんなにウキウキとしているのかと思うと、
「な、なぁ士郎。その、服、触ってみてもいいか?」
「なんだ急に?」
「士郎のそれは戦う時に身に纏う礼装なんだろ?前から思ってたんだ。かっこいいなって・・・」
「・・・。」
一応、血がついていないか確認して好きにすると良いと士郎は上だけ脱いだ。
肩口から両腕が露出する。赤原礼装の上と下は繋がっていないので必然的に士郎は皮鎧姿になる。
「不思議な作りだとは思っていましたが、そうなるのですね」
「私のこれはあくまで対魔術礼装だからな。それでも実戦用に色々いじってあるから基本この姿で戦うが」
「この赤い服って、さっきテロリストを拘束したのと同じやつ?」
リザの問いかけに士郎は首を振った。
「いや、アレはマグダラの聖骸布。男性を拘束することに特化した魔術礼装だ。こっちのは違う」
物珍しそうに服を見るクリス達に士郎は嘆息して言う。
「あまりいじくりまわさないでほしいのだが・・・」
「わあ!ごめん!その、せいがいふ?ってなんだ?」
クリスの問いに答えたのはマルギッテだった。
「聖骸布とは、聖人の亡骸を包んだとされる布です。マグダラ・・・と言っていましたが、マグダラのマリア、の事でしょうか?」
「物知りだな、マル。その通り。そのマグダラだ」
「え、じゃああれ死体を包んでた布なのか・・・?」
衝撃的な事実にちょっと引くクリス。
「・・・ちなみに士郎のは――――」
「秘密だ」
そう言ってクリスの手から外套を奪ってすぐさま装着する。
「それよりいいのか?今後の事を話しておかなくて」
「あう・・・」
「わかっているのですが・・・」
「実際問題、どうすべきか決まってないといったところか」
「・・・なぁ士郎。士郎も父様は自分の話を聞いてはくれないと思うか?」
「・・・。」
その問いに答えるには彼が中将と面識があることを教えなければいけない。
今のクリスにその情報はよくない先入観を持たせることだろう。
「そうだな・・・クリスにも子供がいたら・・・と考えてみてはどうだろうか?」
「自分に・・・子供・・・?」
クリスはよくわからないと首を傾げた。
「あくまでイメージの話だ。子供じゃなくとも、クリスの大事な人、とにかく自分の傍から離したくない人物が自分ではなく誰かの下へと行くのだとしたら?」
「・・・自分は意地でも手放さないと思う」
「それと同じ現象がクリスの親父さん、フランク・フリードリヒに起きてる。本来ならフランクさんの方が正しいけど、今回はクリスの気持ちだってある。一概に手放すのを拒否してはいけないのは分かるな?」
「(コクリ)」
「よし。だけど、親父さんはクリスが大事で手放したくないという気持ちが強すぎて人の話を聞かない状態にある。だから、今回、マルにくっついてドイツに行くのは迂闊だったわけだ」
「なぜ?」
首を傾げるクリスに、はぁ、とため息ををついて、
「ではなクリス。人を一か所に閉じ込めることを何という?」
「監禁だな」
躊躇いなく答えるクリス。
「では閉じ込める場所がその者の『家』だった場合はなんとする?」
「え・・・?」
クリスの真っ直ぐな目が揺れた。
「そしてだ。閉じ込める犯人は、それこそが正しいのだと信じ切っている場合は?もちろん、犯罪などではない範囲でだ」
「軟禁・・・だろうか・・・」
正解、と士郎は頷いた。
「父様はそうすると・・・そうする可能性があると士郎は言うんだな?」
「そうだ。何事も、たとえ身内であっても、盲目の状態ではよくない状況になるものだ。対話をしようにもまず、対話をする
「・・・。」
「士郎・・・」
「では、自分は今回どうすべきだったんだ?」
クリスの問いに士郎は、
「身近な人にまず相談すべきだったな。それと・・・これはクリスが悪いわけではないが、先入観を無くしてから動くべきだった。誰も完璧な人間など居ないのだから、父親が話せば必ず理解してくれるとは限らない」
「・・・。」
士郎の言葉に反省の色を見せるクリス。だが、遅くとも、きちんと気づけたことを賞賛すべきだろう。
「話し合いは・・・無駄、だろうか・・・」
「いいえ。誰よりもお嬢様が話し合いの機会を捨ててはいけません」
「そうそ。お嬢様が本気で好きになったんなら、何としてでも納得させないとね」
マルギッテとリザに励まされて僅かに笑顔を見せるクリス。あまり駄目出ししてやる気が無くなってもあれなので士郎は一つ朗報を告げる。
「大和達は最速の便でドイツに向かっているはずだ。そちらとも、合流出来るといいな」
「なに!?大和が?」
「ああ。俺が救出作戦に参加した時には大和まで来る気で居たからな。流石に戦場に今の大和を連れてくるわけにもいかないから、別便でドイツに向かうことにしたんだ」
「そうか・・・大和が来てくれるなら百人力だ!」
さっきまでの空気が一変。元気な姿を見せるクリスに、士郎とマルギッテとリザもほっと息を吐いた。
「お話し中失礼します。フリードリヒ中将から通信です」
「繋ぎなさい」
マルギッテの言葉に了解の声が返ってきて通信が繋がる。
『クリス!無事か!?』
「父様!大丈夫です。マルさんとリザさんも居たし・・・何より士郎が来てくれましたから!」
『うむ!日本との折衝で随分と時間を取られてしまったが、衛宮士郎君を含めた精鋭が向かっていると知らされて僅かながら安心できた所だった怪我などしていないか?』
「はい。・・・その、父様。帰ったらお話したいことがあります」
クリスは話がそれないよう、自分から切り出した。
『・・・直江、大和君の事かね?』
「父様・・・」
やっぱり、自分の周囲の事は全て筒抜けだったのだとクリスは暗い顔になる。自分はそんなに信用が無いのだろうか、と思ってしまう。
『その話はこちらに着いてからじっくりするとしよう。それより、クリスが無事で本当に良かった』
「中将。安堵している所失礼しますが今回の件は――――」
『少尉の考えている通りだろう。今徹底的に内部犯を探している。テロリストがドイツに来たら、盛大に歓迎してやるつもりだ』
言葉とは裏腹に、獰猛な気配を醸し出すフランクに、ヒヤリとしたものを感じる。だが、その中で唯一鋼の精神で受け流した士郎が口を開く。
「フランク・フリードリヒ中将。・・・お久しぶりです」
「え!?」
久しぶり。その言葉にクリスが動揺した。しかし会話は続く。
『ああ!よくぞクリスを救出してくれたね!乗客も乗務員も共に無傷だったと報告を受けている。改めて、ありがとう。衛宮士郎君』
「いえ。私は当然のことをしただけですので。それより、私をドイツに呼んだ理由をお聞かせ願えませんか?」
『その件についても、ドイツに着いてからではダメかな?もちろん後ろめたいことは何もないのだが通信で語るようなことではないのでね。誓って、不条理なことではないので安心してほしい』
「・・・いいでしょう。であれば私に思う所はありません。・・・しっかりと、娘さんと話してください」
『うむ。ではクリス。帰国を待っているよ。少尉達も良い働きだった』
「当然のことをしたまでです」
「同じくです」
その返事を最後に通信は切れた。
「・・・士郎は父様と面識があったのだな」
「ああ。隠していたつもりはないんだが・・・俺の時も今のクリスと同じパターンでな。言い出せなかった」
「「同じパターン?」」
クリスとリザが揃って首を傾げる姿に、クッ、と笑って、
「俺が転校してきてすぐ、そこの髪の赤いお姉さんに強引に車に詰め込まれてクリスをどう思っているのか、と問いただされたんだよ」
「・・・。」
「ええ!?」
「あちゃー・・・」
またもやフランクの職権乱用具合に額を抑えるリザ。彼氏のこと以前にこれである。
「あの時はマルもそれはもういきり立っていてな――――」
「待ちなさい。あることないこと言わない――――」
「おや?車の中で散々口論して任務だからなんだと駄々をこねたのは誰だったかな?」
「駄々などこねていません!貴方はあの時から――――!」
とクック、と笑う士郎ととにかく噛みつくマルギッテにクリスは眩しいように目を細めて、
「・・・いいなぁ」
「お嬢様・・・」
羨ましそうに、犬も食わなそうな喧嘩を見るのだった。
はい。というわけで70話でした。更新が遅くなりすみません。
テロリスト戦は意外とあっけなく終わってしまいました。犯人の数が少なくても、多人数の救出となると難易度は爆上がりになるものですがそこは神秘の前に散ってもらいました。
今回書くにあたって軍の階級とマグダラの聖骸布について調べましたが、少尉は准尉の一つ上ですが、すっごい功績とか残さないと早々なれないらしいです。
聖骸布についてはある意味FGOのせいというか…概念礼装の記事ばっかりで色々調べ方を考えました…結果分かったのは、ノリ・メ・タンゲレ《私に触れるな》という言葉をキーにして男性を拘束出来ること。それどころか手足に巻くだけで呼吸困難にさせられるという事でした。何気にあぶねぇあのシスター。
次回もドイツ編です。はたして士郎は冬休みまでに帰ってこられるのか…