今回は前回の続きからドイツに着いた所から話が進みます。
少し前からそうですが、もう原作にはない展開をしていくと思うので、出来れば暖かい目で見てください…
では!
クリスやマルギッテ、リザとプライベートジェットでドイツへと向かっていた士郎。いくらプライベートジェットと言えど、到着には時間がかかるという事で士郎は久方ぶりの深い眠りに落ちていた。
「スゥ・・・スゥ・・・」
「・・・。」
「・・・なんかマル、幸せそうだなー」
「幸せそうじゃなくて、幸せなんだぞ」
「・・・お嬢様」
眠る士郎をじっと見つめるマルギッテ。衛宮邸で一緒に住む彼女でも、士郎がこれほど熟睡しているのは見たことが無い。
(それだけ、神経を使ってくれた、ということですね)
本人が言うには一週間寝ずとも平気だ、などと言っていて、何かあれば誰よりも早く感付く士郎なのでこの光景は本当に珍しいのだ。
(・・・もう少し、眺めていたいですが)
もう少しで到着するので起こそうかと悩んだ時。
「ん・・・着いたか」
「・・・。」
機体の僅かな減速で気づいたようだ。
「もう少し寝ていても良かったのですよ?」
「何を言ってるんだ。そろそろ到着だろう?」
そう言ってくぁーっと大あくびをかいてグイグイと体を解す。
「まさか寝ぼけ
「ああ。おはよう」
「おはようございます」
「おはー」
お互い挨拶し合って士郎はさて、と小さなトランクを持ってお手洗い室へと向かう。
「士郎、着替えるのか?」
「ああ。もう戦闘は終わったしな。いつまでも礼装でいることは無い」
そう言って士郎は青いデニムに黒いシャツという姿で出てきた。
「!」
「へぇ・・・なかなか似合ってんじゃん」
士郎はあまり外行きの服装をしない。大体は学生服で過ごし、休日などもここまでカジュアルな格好はしない。普段はもっと部屋着に近いものなのだが。
「・・・しまったな。アウターが必要だった。日本はまだ暖かいから忘れてた。とりあえず――――」
――――
ブラウンのダウンジャケットを投影してそれを着ることにする。実物は向こうで買えばいいだろう。
「これで良し。・・・どうした?」
「士郎・・・魔術はそんなことも出来るのか?」
「あ」
思わず無防備に服を投影してしまったことに今更気付く士郎。
「あー・・・なんだ。一応応用の範囲でならな」
「俺、これでも西洋ニンジャって名が通ってるんだけど・・・衛宮はあれだな。魔法使い」
「これは魔術であって魔法ではありませんよ。それよりマル、どうしたんだ?お化けでも見たような顔して」
「・・・。」
「あはは!マルさんは士郎に見惚れてるんだ!」
「お、お嬢様!?」
その一言に現実に引き戻されたマルギッテは食いつくようにクリスに迫る。
「なんだ、違うのか?」
「ちが・・・わない・・・です」
「ひゅー!」
「なんだ?ちょっと外行きなだけだろう?」
その辺さっぱりな士郎は首を傾げているが、士郎の大人びた姿はとても絵になっている。
単純な組み合わせだがそれをモデルが着こなしているくらい、士郎は体つきがいいのだ。
(ねぇねぇマル)
クリスが魔術について質問攻めしている間にリザはマルギッテに耳打ちする。
(・・・なんですか)
(あれ、俺も欲しいかも)
ドゴス!
「いったー!」
「「?」」
何やらひっぱたく・・・というか拳を落とした音と、頭を抱えてうずくまるリザに士郎とクリスは首を傾げるのだった。
しばらくして、プライベートジェットが着陸態勢に入り、軍事基地の一つに着陸する。
「父様だ!」
嬉しそうに手を振るクリスに、僅かに手を上げるフランクの姿が見えた。
そして着陸。カシュン、とドアのロックが外れる。
「父様!」
「クリス!!」
感動の再会、という風に抱き合う二人。
(言い過ぎでもないか。彼女はテロにあったのだから感動もひとしおだろう)
今回のテロは実際相当にやばかったのだ。士郎だからこそ簡単に丸め込めたのであって、神秘の力が無ければ犠牲者が出ていてもおかしくなかった。
「ああ!クリス!私の宝・・・どこも怪我などないかね?」
「はい!マルさんとリザさんが居てくれたし・・・何より士郎がすぐ来てくれたので」
「そうだったな!それでもよかった!無事でいてくれて本当に良かった!!」
もう可愛くて仕方がないと言った様子のフランクに流石のマルギッテも声を上げた。
「中将、お待たせして申し訳ありませんでした」
「いや、君はこうして我が娘を無事に連れ帰ってくれた。これ以上ない成果だ!」
「ありがとうございます。しかしながら中将――――」
「わかっている。衛宮君!ドイツへようこそ!君には最上のおもてなしをさせてもらうよ!」
『大したことはしていません。お気になさらず』
「!」
「なんだ、ドイツ語喋れんじゃん」
士郎が、あえてドイツ語で返したのをリザは面白そうに言った。
(こらマル!一々ときめいてたら先に進まないって)
リザの言葉にハッとして、マルギッテは気を引き締める。
「すぐ我が家に・・・と言いたいのだが色々としなければいけないこともある。クリス。すまないが家へ帰るのは少しばかり遅くなる」
「大丈夫です父様。・・・でも、その、後で話したいことがあります」
「・・・わかった。では諸君、行こうか」
所詮、後始末という奴だ。今回は軍関係者が狙われたことと、一度捕らえた者がテロを起こしたという事でドイツは結構話題になっているのだ。
「衛宮君。君には当事者・・・いや、救出部隊として色々と話をしてほしい」
「構いません。日本の総理からも出来るだけ情報を共有するようにと言われておりますので」
そう言って士郎は何事もないようについていく。
なにはともあれ無事にドイツに到着したわけだが、フランクの言う通り、すぐに落ち着くことは出来なかった。
軍関係者との会談が待ち構えていたのだ。
会談の場には中将の上の人物、大将や元帥といった人物までおり、マルギッテとリザは終始硬い表情だったが、士郎は特に緊張した様子もなく話していた。
「フリードリヒ中将。彼は素晴らしい人物だな」
「私も同意見です」
他の将校も満足そうに頷いている。
「娘の同級生に、彼のような青年がいることを誇りに思います」
「そうだろう。彼は秩序とは何かをよく理解している。その上で自分の最善を尽くす・・・いや、本当に我が国にほしい人材だ」
「しかしそれは難しいでしょう。彼を認める人物は日本にも数多いですから」
「事前に日本の総理官邸からヘッドハンティングなどしないようにと、くぎを刺されていたのが悔やまれますな」
今回士郎がドイツに来るにあたって、あらかじめ九鬼と総理は士郎をドイツに取られないよう、色々と裏で動いていたのだった。
「ではこれで会議は終了とする。衛宮士郎君。よければドイツを堪能していってほしい」
「ありがとうございます」
そうしてようやく会談が終わり、昼間に到着したのがもう夕暮れである。
「衛宮君。よければ滞在中は私の家に泊るといい」
「よろしいのですか?」
「もちろんだとも。娘を救ってくれた英雄をそこらのホテルに宿泊させるわけにはいかないからね」
「いいではないか!ぜひとも来てくれ、士郎!」
「そう言う事ならお言葉に甘えさせていただきます」
外国での活動でよく躓きがちなのはお金だ。その国によってお金自体や、単位が違うので現金は空港などの施設で換金しなければならない。
その点、士郎はすぐさま軍事基地に来てしまったので現金の準備が無い。
(一応、カードを持ってきておいてよかったな)
こうなるだろうことを見越して最小限の準備をしておいて本当に良かったと思う士郎。伊達に海外生活は長くないのだ。
「士郎。招いておいてなんですが・・・貴方の料理の手腕を振るってはいただけませんか?」
「料理?日本風でってことか?」
「そうです。中将もお嬢様も日本が大好きですし、私も・・・その」
変わらず、士郎の手料理が食べたいと素直に言えないマルギッテ。
しかしこの男、たとえ婚約しようともその辺疎いので、
「マルも和食を気に入ってくれたんだな。じゃあその辺で俺は買い物をしてくるか」
「自分が案内するぞ!」
上機嫌に言うクリスだが、士郎は首を振った。
「クリスはフランクさんと話すことがあるだろう?地図さえもらえれば問題ないから」
「私は今回の事を纏めなければなりません。リザ。士郎の案内を」
「了解っと。今日の晩飯は期待大だなぁ」
一度衛宮邸で食事をしているリザは期待に胸を膨らませる。
「話の腰を折ってしまうが、あそこが我が家だ」
そう言われて見えたのは敷地の広い豪邸だった。
(うーん・・・薄々わかってはいたけど、クリスも心に劣らない箱入り娘だな)
これは一悶着どころかそれ以上ありそうな予感がする士郎。
「さて、衛宮君が晩御飯を作ってくれるのだったね。君は料理の心得があるのかな?」
「はい。中将をがっかりさせるような腕では無いと自負しています」
「士郎の料理は絶品です。ぜひ、中将にも味わっていただきたい」
「そうだな!・・・なぁ士郎ーデザートも・・・」
「わかったわかった。ちゃんと作っておくから頑張ってこい」
「やった!恩にきるぞ!」
「はは!クリスもご執心か。私も楽しみにさせてもらうよ」
「ええ。腕を振るいますので期待していてください」
そう言ってまずは敷地内に車が停められる。
「ではリザ。お願いします」
「おーっす。衛宮ーこっちこっち」
ということで士郎はリザを運転手に食品を買いに出かけた。
「衛宮って料理上手いけど、一人暮らしして長いのか?」
「まぁそうですね。俺の引き取り手だった
そう言って昔を懐かしそうに語る。思えばとんでもないところまで来たものだ。
いつか、アーチャーと同じ結末を迎えるのだと思っていたのに知らない世界に飛ばされ、得難き仲間を得て、ついには婚約だ。
もちろんそれまでも危機はあった。梁山泊や総理官邸の一件などは最たるものだろう。
最近では最上幽斎にとんでもない目に遭わされもしたが、それも今では終わった話だ。
「ふーん・・・なぁなぁ、マルとのこと聞かせろよ!あの堅物がすっかり女しちゃってさ!すっごい気になるんだけど!」
「マルは最初こそ敵対してましたけどいつの間にか彼女の方から警戒を解いたんですよ。俺は特に何もしてませんて」
本当はそうでもないのだが、士郎のあずかり知らぬ所で進行していたのでこの調子である。
「そうかなぁ・・・マルが何もなしにあんな風になるとは思えないんだけど」
「それは俺の方こそ聞きたいですよ・・・俺は自分に出来ることをしているに過ぎないんですから」
士郎はいつもの通りに応えるが、リザはその言葉にピンときた。
(これ、本人は何でもないように思ってるけどとんでもないことやってるパターンだな。じゃなきゃテロの対処に動くなんてできっこない)
たらりと額に汗を流すリザ。そうこうしている内にスーパーに到着である。
「やっぱりドイツだと規模大きいですね」
「日本のも十分だと思うけどな。やっぱ敷地面積がもの言うでしょ」
リザの言葉を耳に士郎はカートと籠を持って店内に入る。
「あ、多分食費、全部経費で出るから領収書もらっといた方がいいぞ」
「・・・それはありがたい」
断ろうかとも思ったが、自分は頼まれた側であるし、これからトラブルに巻き込まれるのでありがたく受け取っておくことにした。
「んー俺は果物の所にでも行ってくるかな。そろそろジャムが無くなりそうだし」
「リザさん、ジャム作るんですか?」
意外な一面に士郎は目を丸くする。
「おう。俺のジャムは結構なもんだぜ?そうそう人にはやらないけどなー」
「へぇ・・・ジャムか・・・作り置きしとくといいかもなぁ」
「なに、衛宮もジャム作れんの?」
「料理は大抵出来ます。ジャムも何種類か作ったことありますし・・・そうだ。クリスにねだられてたデザート。ジャム使うか」
「おっと。そう言う事ならジャムは俺が準備するよ。何作んの?」
「うーん・・・チーズケーキにするか。リザさん、クリスの家ってオーブンありますかね?」
「あるある。パン焼いたりするしな。いいねーチーズケーキにジャム。ちょっとオシャレじゃん」
「そうと決まれば・・・」
そうして士郎とリザは食材を買い込む。人数はフランク、クリス、マルギッテ、リザ、士郎の五人分なのでそこそこボリュームがある。
「じゃ、会計で落ち合おうぜ」
「はい」
という事でリザは先にジャムの材料となるものを探しに行った。
「さて、今の内に・・・」
士郎は携帯を取り出して大和にメールを送る。
(無事に向かってるといいんだがな)
何せ、テロがあった地域を迂回するだろうことは想像できるので、彼らの到着は遅くなるだろう。
(頑張れよ。大和)
士郎はそう思って携帯をしまうのだった。
――――interlude――――
一方の大和達はドイツに向かう飛行機の中だった。
「わかってはいたけどテロのあった地域は迂回か・・・かなり時間かかりそうだな」
「だな。でももうテロリストは捕まったんだろう?」
百代の言葉にモロが反応した。
「うん。日本でもテレビになってたしね。流石士郎だよ」
「また英雄って言われそうね」
「当然だ!士郎は紛れもない英雄だからな!」
と、百代がドヤ顔をするが、
「なんでモモ先輩がどや顔?」
「てい!」
「なぜチョップ!?」
プシュウとガクトの頭から煙が上がる。
「あ、早すぎた。ちっと髪燃えた」
「俺様まだハゲたくないんですけど!?」
慌てて頭をパンパンと払うガクト。
「・・・大和、大丈夫?」
そんなのんきな彼らを置いて京が大和を気遣う。
「・・・正直大丈夫じゃない。クリスが俺の事諦めちゃうんじゃないかって心配だ」
彼らは常日頃から親バカで知られるクリスの父親にクリスが良いように丸め込まれてしまうのではないかと懸念しているのだ。
「大丈夫だと思うよ」
そんな中、京は自信を持って大和を励ました。
「京・・・」
「クリスは箱入り娘だけど、だからこそ頑固だから」
「きっと今頃、親父さんとバトルしてるんじゃないか?」
と百代は楽し気に言った。
「全然よくないからね・・・」
「モロはその辺どう思うよ」
ガクトの問いにモロは、
「僕も大丈夫だと思うよ。ただ、クリスのお父さんはやりすぎな所があるからそこが心配かな」
「俺様もモロに同意。大和、もしもの時はドイツ軍出てくるから覚悟しとけよ」
「もしかしなくても出てくるさ。その為にみんなに来てもらったんだから」
「ドイツ軍とバトルかー・・・俺様、自分で言うのもなんだけど、だいーぶ強くなったと思うんだけど通じるかね?」
「雑兵なら相手になるかな。エリートだと苦しいかも」
「たはー!これだけ強くなっても軍相手には勝てんかー!」
「そりゃそうだよ。相手も訓練してるんだよ?」
「レオニダスさんほどじゃないだろうけどな。それよりお前達、少しでも寝といた方がいいぞ。着いたらバトルだからな」
「姉さんがまともなこと言ってる・・・」
「それだけ向こうも本気で来るだろうという事さ。いいから寝とけ」
緊張する大和にポス、と手刀を落として百代は腕を組んで休む態勢に入る。
「姉さんの言う通りだな・・・力は温存しよう・・・」
眠る体制に入った時ショートメールが届いた。
「ん?・・・士郎」
それは彼らを心配する士郎からのメールだった。
「なになに?」
「なんだって?」
「今ドイツで晩飯の買い物してるって。士郎らしいや」
「マルギッテさんが士郎先輩にお願いしたんではないでしょうか?」
「確かに。日本大好きのクリスならありうる」
「はは。士郎は何処に行っても士郎だな」
みんな愉快そうに小さく笑う。来るべき時の為の余分な緊張はほぐれたように思えた。
「それじゃみんな、おやすみ」
「「「「おやすみ」」」」
そうして大和達は遅れながらも順調な航路を辿っているのだった。
――――interlude out――――
買い物を終えた士郎とリザは車の中で愉快気に話していた。
「それでな?この前の馬券がまた酷くてさー」
「・・・給料全部馬券に使ってません?」
なんとも頭の痛くなる話である。どうやら彼女の趣味は賭け事らしく、給料のほとんどを費やしているようだった。
「ちなみに勝ったことは?」
「一度も無い!」
わはは!と笑うリザだが、
(遠坂とルヴィアさんもやり合ってたなぁ・・・)
やるなら断然ベガスがいいとかなんとか遠坂が言っていたの思い出す。
自分はその時ルヴィアの代理で別な所に行っていたが。
思えばあの頃ではなかろうか。真冬のテムズ川に叩き落されたのは。
(間違っても二度はごめんだな・・・)
そう思ってはあ、とため息を吐く。
「それよりさ。お嬢様の事、どう思う?」
ハンドルを切りながらリザは問うた。
「彼女の気持ちが問われるでしょうね。簡単に諦められるなら、その方が双方にとっていいでしょう。でも――――」
彼女は諦めないだろう。今までの沢山の思い出を活力にクリスは父親と対峙するはずだ。
「やっぱ諦めないよなー・・・うーん。俺はあんまりそう言うの分かんないんだけど――――」
そう言って少し考えた後、リザはやっぱり笑みを浮かべた。
「好きな奴が出来たならそいつと一緒がいいよな」
「俺も、そう思いますよ」
士郎もそう返して外を眺めた。
フリードリヒ邸に着くと大きな声が響いてきた。
「クリス!まだお前には早すぎる!!」
「そんなことない!なんで父様は話も聞いてくれないんだ!!」
予想通りと言うか、クリスとフランクである。
「ひゃ~・・・やっぱりやってんなぁ」
「わかり切っていたことですからね。ただいま。マル」
「おかえりなさい士郎、リザ」
「なぁマル。お嬢様と中将いつからあんな感じなの?」
リザの問いにため息を吐いて、
「二人が買い物に出てすぐです。合間を開ければ少しは落ち着くかと思ったのですが・・・」
「まだ足りなかった、ってことね。了解。じゃあ衛宮、俺らは晩飯作ろうぜ」
「・・・?リザが料理を、ですか?」
「違う違う。俺にそんなことは出来ないよ。俺が作るのはデザート用のジャム」
「ジャム作りが得意って聞いてな。和食にデザートはレアチーズケーキにしようと思ってる」
今だ怒号がフリードリヒ邸に響いているが何のことは無いと士郎は動じなかった。
「なるほど・・・丁度私の手も空きましたから手伝いましょう」
「助かる」
ごく自然にいつもの様に手伝いを申し出るマルギッテに、
(マル、ぞっこんか?)
(うるさい)
と二人はやり合うのだった。
「このような感じ・・・ですか?」
「ああ。その調子でかき混ぜるとトロトロになってくるから。そうしたらまた教えてくれ」
「了解です」
和食を手掛ける士郎とチーズケーキを作るマルギッテの姿があった。
「ほー・・・マルが本当に料理してら」
「うるさい。しかし菓子作りとは力を使うものなのですね・・・」
「だろう?パティシエに男性の姿があるのも納得がいくんじゃないか?」
一生懸命ボウルの中身と格闘するマルギッテ。
ケーキやクッキーを作ったことのある者ならわかる事なのだが、菓子作りとはかなりの力仕事なのである。
かき混ぜる具材が多くなればなるほど、一度に作る量が増えれば増えるほどに混ぜる具材が重くなり、力を入れなければ混ぜられなくなるのだ。
「・・・!!」
「・・・・・!!!」
「まーだやってるよ。よく体力持つな」
「クリスはともかく、フランクさんがこのままではもたないだろう。食事を早く作って、一時停戦させないといけませんね」
士郎はそう言いながら最後の分を作り終えた。
「士郎。大分混ざりました。どうですか?」
「どれどれ・・・うん。いいな。後はこれをさっき作ったビスケットの型に流し込んで、ボールをトントンと数回落として空気を抜くんだ」
「わかりました」
「・・・。」
屋敷に響く怒号もなんのその。二人は仲睦まじく料理をしていたのだった。
しばらくして、晩御飯の準備が出来たと報告に行くと二人は額に汗を掻きながら息を荒げていた。
「二人とも。夕食が出来ましたよ。一時停戦してまずは食事をしてください」
「くっ・・・」
「士郎!だが・・・!」
「クリス。何も今日中に説得しなければならない訳じゃない。こういうのはゆっくり時間をかけて話し合うべきだ」
「でも――――!!」
「こら。やりすぎは許さないぞ。でないと夕食は抜きだ」
「ぐぬぬ・・・」
流石のクリスもそこまで言われては引き下がるしかない。
しかし、そのままではよくないしこりを残すので、
(今、大和がこっちに来てるぞ)
と朗報を密かに告げた。
「なに!?・・・わかった。今は矛を収めよう」
「クリス!」
「中将もひとまずおやめください。そのままでは討論する力も失いますよ」
「・・・いいだろう。クリス!続きは夕食の後だ!!」
「もちろんです!何としても父様には話を聞いてもらいます!」
ふん!とそっぽを向くクリスにまだ何か言いたげだが、大人げないだろうと思ったのかフランクも一度口を閉じた。
「今日はクリスの好きな、いなり寿司とちらし寿司です」
「おお!士郎わかってるじゃないか!」
「こちらのちらし寿司・・・だったかね?聞いたことはあるが食べるのは初めてだ。衛宮君は本当に料理上手なのだね。出来栄えもとても美しい」
「デザートも用意してあるので食べ過ぎないでくださいね。では」
「これは・・・!酢飯とちりばめられた具材の調和が素晴らしい・・・!」
「むぐむぐ・・・いなり寿司も格別だ!やっぱり士郎が作るのと買うのじゃ違うなぁ・・・」
先ほどの怒りは何処へやら。フリードリヒ親子は士郎の作った夕食に素直にのめり込むのだった。
「士郎。今度、このちらし寿司とお嬢様のいなり寿司の作り方を教えてもらえますか?」
「いいぞ。またお二人に作ってやるといい」
「衛宮君とマルギッテの関係は良好のようだな。私も安心したよ」
「はい。卒業後になりますが、改めて挨拶に伺わせて頂けたらと思います」
「うむ!その時を楽しみにしていよう!」
「・・・。」
「お嬢様・・・」
クリスが寂し気に目を逸らしたのをマルギッテとリザは見逃さなかった。士郎はあえて何も言わず、黙々と食事を勧めている。
だが、助け舟としてなのか士郎は別な話題を持ち掛けた。
「所で、私をドイツに呼んだのはなぜですか?何やら理由がお有りのようでしたが」
「そう言えばまだ理由を話していなかったね。・・・改めて、今回の件、本当にありがとう。私達の力不足でクリスや乗客、乗務員に被害が出るところだった」
「いえ。私は、私に出来ることをしただけです。今回は九鬼が親会社の便だから助けに入れただけですので・・・胸は張れません」
「それでもだよ。君はその手腕で全ての者の命を救った。もちろんテロリストは無事では済まなかったが、あれだけの行為をしておいて無傷というのも私は納得がいかない。命は拾ったのだから、最善の結果だったと喜ぼう」
「ありがとうございます」
士郎は静かに礼を返した。
「そこでなのだが・・・君にはこちらから出るはずだった猟犬部隊に会ってもらおうと思ってね」
「「!?」」
その言葉にマルギッテとリザが反応した。
「はぁ・・・マルギッテが率いるエリート部隊、ですよね?なぜ自分を?」
「もちろん、君の目から見て彼女等がどれほどのものか判断してもらいたい。まぁ言うなれば、簡易抜き打ち試験と言った所かな」
「ちゅ、中将。私達に何か不満があるのですか?」
マルギッテは恐る恐る聞いた。
「いや、不満は何もないとも。ただ、引き締める行為は必要と思っている。たるんでいるとは言わないが、その都度外部から刺激を受けて気を引き締めてもらいたい」
要は身内だけで訓練している内に緩まないように、という事だろう。
「なるほど。話は分かりましたが・・・私などで刺激になるでしょうか?」
「なるとも!君は武神ともことを構えられる数少ない人材。そして君の戦闘力と戦術眼は一線を画している。猟犬部隊にもいい刺激になると思うのだ」
「招集をかけられた所だし丁度いいかもね。衛宮と戦闘訓練ですか?」
その言葉にちょっと嫌そうにする士郎。だがフランクはリザの問いに首を振った。
「いや、もちろんしてもらえるなら願っても無いが・・・当日は私と共に見学をしてもらって意見を貰おうと思っている」
「では士郎次第で訓練の内容が変わりますね。士郎、どうしますか?」
マルギッテの言葉に少し考え、
「まぁ戦闘訓練なら。俺に相手が務まるなら多少は」
「そうか!では少尉。部隊に通達してくれたまえ。日本の英雄と手合わせが出来る機会だとな!」
「わかりました」
(うへぇ・・・中将本気だなぁ・・・)
こっそりとそんなことを思うリザ。
「話は終わったな?士郎!デザートだ!」
区切りがついたと見たクリスが期待の声を上げた。
「わかった。今日のはレアチーズケーキだ。リザさんのジャムをつけて食べるといいぞ」
「わぁ!白い生地に色とりどりのジャム・・・悩むなぁ」
「うむ。実に見事だ。当初はこちらでもてなそうと思ったのだが、すっかりもてなされてしまったな」
「もてなすなんてそんな。でも俺の料理で喜んでもらえたのなら嬉しいです。デザートのレアチーズケーキはマルに作ってもらったんだ。また作ってもらうといいぞ」
「ほんとか!?流石マルさん、料理も優秀だなぁ・・・」
「し、士郎、あまり持ち上げないでください」
「プレッシャー大だなーマル」
あはは!と笑って少しギスギスしていたクリスとフランクの雰囲気が柔らかくなる。
「今日、明日は家で泊っていくといい。学園には私から伝えておくよ」
「ありがとうございます」
そんなこんなで、降って湧いたトラブルはドイツへの招待ということで幕を閉じたのだった。
という事で71話でした。チーズケーキはまだしも、ちらし寿司がドイツで作れるのかはわかりません!でもスーパーとかでっかそうだから案外行けるのかも…?
ドイツ勢に囲まれている間は士郎もドイツ語で会話してる設定です。
次回は猟犬部隊の視察と大和達の到着、ですかね。ドイツ編、もう少し続きます。
では次回!