真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。人理修復に勤しむ中執筆しております、作者でございます。


今回は帰ってきたという事でドイツ編には登場しなかったキャラがまた出てくると思います。

ドイツ陣営の強化の話も出てくると思いますのでよろしくお願いします。
では!


帰ってきた日常

カツン、コロコロと軽い音と共に小さなゴム礫が虚しく地面を転がる。

 

「だぁー!もう無理!全然出来ねー!」

 

と、的に礫を投げていた本人、リザ・ブリンカーが大の字に寝そべった。

 

「だから言ったでしょう?そう簡単には身に付かないと」

 

そう言って横から散らばったゴム礫を拾って投擲するのは彼女達、猟犬部隊の修行を任された、衛宮士郎。

 

「こんな小さな礫であの鉄の塊に穴を開けろなんて無茶だ」

 

「可能ですって。ほら――――」

 

ヒュン、ドゴン!

 

さっきとは打って変わった音で標的の鉄塊にめり込むゴム礫。

 

「投げやすいようにゴムでコーティングしてるんですからもう少し頑張らないと」

 

「衛宮が習った時は何でやってたんだ?」

 

リザの言葉に士郎は至極真面目な顔で、

 

「剣です」

 

と言い放った。

 

「・・・剣?」

 

「そうですよ。黒鍵と呼ばれる、込めた魔力で刀身を変えることが出来る特殊な礼装です」

 

そう言って士郎の手に現れたのは簡素な十字剣。片手剣に見えるが、刀身に比べ、柄の部分がかなり短い。あれでは刀身の重さを支えられず取り落としてしまうだろう。

 

「それが黒鍵?」

 

「ええ。見ての通り十字架をモチーフにした投擲礼装です。これ単体でも幽霊などの霊体に特攻を持ちますが、これを鉄甲作用で投げる技術が元です」

 

流石にこの質量ではまずいのか士郎は見せるだけで投げたりはしない。

 

「これをテルの鎧がぶっ壊れる力で投げる?冗談じゃない。人なんかに当たったら木っ端みじんになる」

 

「その威力が俺の世界では必要だったんですよ。ま、これを扱う者達の中でも特に秀でた者のみが使っていた感じですかね」

 

士郎の言葉の後に剣は風景に溶けるように消えてしまった。

 

「俺が投げた石ころに比べれば断然扱いやすいはずですから、頑張ってください」

 

「うぇー。確かにそうだけどさぁ・・・」

 

「要はコツです。もっと体を弓に見立てて投げるんですよ」

 

さらに士郎はゴム礫を数個指の間に挟んで投げつけ、全てが的をグシャグシャに破壊した。

 

「分厚い鉄板がこの有様かよ・・・くー!やるか!」

 

「このままゴム礫を使ってもいいですし、リザさんの使うクナイや手裏剣でも出来るようになれば、随分と応用が利きますよ」

 

的を新しいものに取り変えながら士郎は言う。リザは投擲の機会が多いという事で鉄甲作用の訓練。

 

一方コジマはレオニダスとスパーリングをしていた。

 

「もっと脇を締めるのです。ただ殴りつけるのではなく、最速、最短の距離を拳で打つ!1・2!」

 

「さん、しー!」

 

ドッカン、ドッカンと実に物騒な音が鳴っているが相手は英霊であるレオニダスなのでまず怪我はない。仮に奇跡的にレオニダスに直撃しても、彼にはダメージが通らないので問題なしである。

 

「衛宮。テルが呼んでいる」

 

戦術書を読み漁っていたフィーネが呼びに来た。

 

「わかりました。じゃあリザさん。頑張ってください」

 

おーうと返事をしてまた投げ始めるリザを見送って、士郎は鍛冶場にやって来た。

 

「テルマさん、呼びましたか?」

 

「・・・。」

 

ん。と何やら出来上がったばかりの鉄塊を見せてくる。

 

「――――同調、開始(トレース・オン)

 

何度も行っているので意図を正しく読み取った士郎はその鉄塊を解析する。

 

「中々の出来ですね。これに身を守られていればRPGなどの高火力武器でも平気だ。でもその分また重量が増えますよ。このくらいなら鋼をもっと弾力性を意識して鍛えれば補えるはずです」

 

「・・・。」

 

それを聞いたテルマはまたもポイッと投げ捨てて鉄を鍛える態勢を取る。

 

「待った。テルマさん一度休憩してください。夢中になっている所申し訳ないですがそのままだと倒れます」

 

「・・・わかった」

 

備え付けの冷蔵庫からスポーツドリンクを渡すと、ひったくるように奪い取り思いっきり煽るテルマ。

 

さしもの彼女も鍛冶場仕事を水分補給無しで行うのは不可能だ。

 

「テルマさんはやはり目利きですね。鉄の鍛え方を熟知している」

 

「・・・貴方が言っても嫌味にしかならないわ」

 

ツンケンとした返事しかしないテルマだが、士郎は本当に彼女の目利きには驚かされていた。

 

(解析無しでここまで出来るのは相当な腕前だ。ただ、俺が解析してしまうとあともうちょっと、ってなるんだよな)

 

衛宮邸に着いてすぐ、テルマは士郎の鍛えた作品を見たいと言って一通り見て回ったのだ。

 

当然彼女もこの出来で納得がいかないのかと目をぱちくりさせていたわけだが、それ以来、曲がりなりにも師として見てくれているようだ。

 

ちなみに、失敗作はリザの練習用鉄板行きなので、何気に彼女が失敗する度にリザの修練の難易度が上がっていたりする。

 

「・・・そろそろ時間ね。空けるわ」

 

「それはどうも」

 

そう言って士郎は鍛冶場にテルマと代わって入る。

 

この鍛冶場は元々士郎の仕事場でもあるので、長時間居座られてしまうと士郎の仕事が進まなくなってしまう。

 

轟々と熱した鉄をガン、ガンと鉄槌が鍛つ音が聞こえる。そんな中テルマは、一かけらでも何か得ようとじっと士郎の姿を見つめる。

 

(やりづらいなー)

 

しかし、技術は見て盗むのが基本であるわけで。士郎は彼女達が来てから未だ慣れないこの習慣に耐えつつ、オーダー品を仕上げていくのであった。

 

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

訓練を終えたら極上の食事が待っている。これがあるおかげで彼女等は日夜頑張れてるといっていい。

 

そのくらい彼女達は士郎達の心づくしを堪能している。

 

「プロ―ジット」

 

「「プロ―ジット」」

 

もちろん晩酌も準備している。クマちゃんの伝手で仕入れたビールだ。彼本人はまだ飲めないので、酒造を紹介してもらった形だが、とても良いものらしく、美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。

 

「どうです?士郎の家に滞在してよかったでしょう?」

 

マルギッテが口に着いた泡を拭って言った。

 

「うむ。まさかここまで好待遇とは思いもしなかった。それに明日に残らない程度なら毎日飲めるのもいい」

 

「ゴクゴク・・・カーッ!美味い!ビールもだけどツマミも美味い!」

 

そう言って今日のおつまみ、スモークチーズとスモークサラミを食べて、うんうんと頷くリザ。

 

「むぐむぐ・・・むぐむぐ・・・」

 

コジマは相変わらずその体躯にどう納めているのだといいたくなるほど食べる。

 

「あ、これ美味しい・・・ね、ね。コジちゃんこっちも美味しいよ」

 

「そっちもあとばらたべゆ」

 

「コジマ。口の中のものを飲み込んでから喋りなさい」

 

「んん!でもどれもこれも美味しいから!コジマは手が止まらない!」

 

「テルーお前またポテト食べてるのか?少しくれ」

 

「嫌よ」

 

「ああっ!いいじゃないかちょっとくらい・・・」

 

「相変わらずだが、随分と賑やかな食卓になったものだ」

 

夕飯を食べてクマちゃん紹介の酒造の日本酒を傾ける史文恭。

 

元々あまり飲んだりしないのだが、美味いものがあれば堪能するのも彼女らしさだった。

 

「士郎、あんまり無理してないか?食事の準備くらい私達でするのに・・・」

 

心配げな林冲に士郎は首を振って、

 

「大丈夫だよ。怪我してるわけじゃないし、鍛造もちゃんとスケジュール通り進んでる。なにも無理はしてないぞ」

 

「そりゃあの速度で作っていればね。どうしてこんな男にそんな力が宿ったのかしら・・・」

 

敵意に近い眼差しを向けてくるテルマだが、士郎としては、自分の魔術を見るたびに遠坂やルヴィアが同じようにしていたのでどうという事も無かった。

 

「これだけ接待されて敵意を向ける小娘も随分と肝が据わっているな」

 

「だって油断を誘ってるのかもしれないじゃない」

 

「テル。油断を誘うも何もこの衛宮邸の住人が本気になったら私達はひとたまりもないぞ。従って、そのような意図はない」

 

「フィーネの言う通りです。いつまでも肩肘張っていないで、貴女も羽を伸ばすときは伸ばしなさい」

 

「・・・隊長が言うのなら」

 

窮屈そうだったのが少しは緩和された。

 

「食べながら聞いてほしい。俺達・・・学生組は明日から登校予定だ。それはマルギッテも変わらない。そうだよな?」

 

「はい。私はクリスお嬢様の護衛ですので」

 

「その間の食事なんかは橘さんに頼むとして・・・訓練の方向性をどうするかだが・・・」

 

「俺は問題なし。成功したかどうか一目瞭然だからな。コジマは?」

 

「そちらは私が相手をしよう。いい運動になる」

 

史文恭はそう言って日本酒を味わっていた。

 

「私も問題ありません。・・・そもそも、そこの男がいたら私は訓練できませんので」

 

「・・・。」

 

「大丈夫だ、林冲」

 

拳を握っていた彼女の手を優しく解きほぐす。どうにもテルマと林冲の相性が良くないが、彼女も登校なので問題ないだろう。

 

「ジークとフィーネはどうする?」

 

彼女等は戦う事よりも状況判断や次の一手など頭脳や特殊能力を駆使することが多い。

 

「私は書物を読みながらチェスでもしてみることにする」

 

「私はこのまま居させてもらっていいかな?きっとリザさんとコジちゃんが怪我しそうだから・・・」

 

「あーそれな。衛宮、救急キットとかある?俺の手も擦り切れそうでさ」

 

「一応一般的なものは準備してますが・・・そちらは明日金柳街で準備しましょう。ジーク、その時は頼めるか?」

 

「うん!大丈夫だよ」

 

「じゃあ大丈夫かな。テルマさんのは帰ってきたらまとめて解析するとして・・・うん。こんな所だろう。レオニダスも登校ってことでいいんだよな?」

 

「はい。私はもう少し知恵を蓄えたく思います。そしてマスター達の護衛もしなければなりませんからな」

 

うむと頷いてレオニダスも唐揚げをパクリ。モリモリとご飯を食べて満足気だ。

 

「ということで、明日からは特殊になるからよろしくお願いしますってことで」

 

「話は済んだな?私は先に湯船に浸かるとしよう」

 

「・・・いいけどその酒は持っていくなよ」

 

「問題ない。もう飲んだ」

 

といって結局新しいのを準備して持っていくのであろう。深酒して湯船でおぼれないでほしい所だ。

 

「露天風呂付なのいいなーあれにはコジマもニッコリ」

 

「コジマは温泉街出身ですからね。コジマは風呂に対して結構な目利きですよ士郎」

 

「そうか。楽しんでもらえてるなら何よりだ」

 

「楽しいぞ!士郎の家は三食食事付きで露天風呂とデザートもある!楽しまなきゃおかしい」

 

「美味い酒が飲めるのもな。若干、他の隊員達に申し訳ない気もするが」

 

「そこはそれ、鍛錬の成果で返しましょう」

 

そう言ってまた一杯グビリと飲むマルギッテ。

 

「そう言えばマルは何の訓練してるんだ?」

 

リザの問いかけにマルギッテは、

 

「私は個人鍛錬です。開発した技もまだまだ持続時間が短いので」

 

開発した、というのはあの『フルンディング』という技の事だろう。あれは士郎の赤原猟犬からヒントを得た技で、内容も気でターゲティングした標的を体力が尽きるまで猛追するというものだ。

 

大量に気と体力を消耗するあの技は、今のところ短時間しか発動できない。それをどうにかするのが彼女の課題だった。

 

「それにしても驚いた。マルに婚約者が出来て、戦闘が疎かになると思っていたのだが」

 

「情熱的だけどしっかり回避の方も鍛えられてるからな。見てる俺らも安心だよ」

 

「二人ともなんですか。私は任務に私情は挟みません」

 

「と、マルは言ってるが、衛宮的にはどうだ?」

 

「うーん・・・私情は挟まないけど影響は受けてるんじゃないかな」

 

「士郎!?」

 

「さっきリザさんが言ってたろう?情熱的になったって。俺もそう思うんだよ。初めてマルに会った時はもっとこう、冷徹な軍人って感じだったけど・・・」

 

「今では愛に燃える戦士って感じだな」

 

「いい方に影響が出て良かった。これがそうでなかったのなら・・・私達もそれ相応の対処をしていただろう」

 

「恐ろしいこと言うなぁ・・・」

 

「でも事実!戦場であんまり情熱的になっても危ない」

 

「私もそう思う、かな。被弾率が上がったらいつか死んじゃうから・・・」

 

「コジマもジークもそんな心配を・・・」

 

心外だ、という表情をするマルギッテだが、確かに影響は受けているようなのでなんとも言えない。

 

「でもさ、そんな心配をよそに、マルってばメキメキ強くなっちゃって。いつの間にか必殺技まで携えて帰ってくるんだもんなぁ」

 

「それは、その・・・」

 

好いた男の技を模倣したという事が今更ながらに恥ずかしくなるマルギッテ。

 

しかし、当の男は、

 

「あれは見事な技だぞ。何せ百代と相打ちになるんだからな。まだまだ詰めるところはあるけど十二分に強力な技だ」

 

「士郎・・・」

 

だが、とマルギッテはまだ納得がいっていないのだ。初めて目にしたあの光景が今でもはっきりと思い出せる。

 

 

――――赤雷をまき散らし、今か今かと力を貯める黒き鋼の矢。

 

 

 

――――放たれれば一瞬にして音の壁を食い破り、赤光と共に飛来する猟犬。

 

 

 

――――何度弾かれようとも徹底的に相手を追い詰める威容。

 

 

 

そのどれもが彼女にとって手本となるものだった。だから彼女はあの技を真似ようと思ったのだ。

 

自分もあのような誇り高き猟犬となれるよう。

 

 

「まだまだ未熟です」

 

ただ一言、マルギッテはそう言ってビールを煽った。

 

 

 

 

 

「はぁ~・・・」

 

女性陣が入り終えた後、士郎はゆっくりと風呂に浸かっていた。

 

「人の身で、宝具を真似るか・・・よくよく考えてみれば桁外れの事なんだよな」

 

無論、本物のように音の壁を食い破ったり無感情に何度も標的を追尾するわけではないが、今の彼女を相手に一体何人が立ち向かえるのだろうか?

 

この世界でよく言われる『壁越え』の力を得た彼女は己に溺れることなく戦い続けている。

 

「あの調子ならまだまだ上に行けるだろうな・・・」

 

彼女は軍人。強くなることこそが彼女自身を守ることに繋がる。

 

「はぁ~・・・」

 

考えることをやめ、チャプン、と深く湯船に浸かる。

 

何事も順風満帆。ようやく我が家に帰ってきたのだからゆっくりしよう。

 

そう思った時、

 

ガチャ

 

「・・・。」

 

とてもデジャブな感じが。

 

「入ってるぞー」

 

「「知ってる!」」

 

バシャーン!

 

「うわっぷ!清楚!林冲!?」

 

入ってきたのは二人だった。

 

「もう、やっと帰ってきたんだから」

 

「私たちの相手もしてもらわないと」

 

そう言って左右から士郎を挟み込む二人。

 

「あー・・・お二人さん。色々当たってるんだが・・・」

 

「「・・・!」」

 

尚のことぎゅっと抱きしめる二人に士郎は困り顔で。

 

「ごめんな。心配かけた」

 

そう言って苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

翌日、遂に士郎達は学園に登校だ。

 

「忘れもん無しと。行くか」

 

「士郎―!」

 

「士郎君ー!」

 

元気な二人に笑みを浮かべて士郎は、

 

「行って来ます」

 

と言って玄関を出た。

 

「はぁ・・・寒いな」

 

手袋でも準備してくるべきだったかと士郎は手に息を吹きかけて擦る。

 

時季は12月。冬到来だ。雪もそこそこ降り、冬木とは全然違う感じだ。

 

「大丈夫?士郎君」

 

「ああ。ありがとう。それにしてもなんだな。手袋とか準備してくれば良かったかも」

 

そう言って両手を上着のポケットに入れる。動いていれば平気だがこうしてゆっくりしていると熱を奪われる。

 

今日の買い物に手袋とカイロを追加しておく。

 

「んー・・・士郎君」

 

「なんだ?」

 

「はいこれ」

 

渡されたのは清楚がしていた手袋の片一方。

 

「嬉しいけどそれじゃあ清楚の手が冷えるだろ?」

 

「こうしてこうすれば・・・」

 

空いた右手を士郎の左手と繋いでポケットに押し込んだ。

 

「これなら平気だよ?」

 

「「・・・。」」

 

士郎はこっぱずかしくて。林冲はいそいそと左手の手袋を外して。

 

「士郎・・・」

 

「はいはい。林冲もな」

 

林冲とも手を繋ぎ、ポケットに押し込める。

 

それだけで二人は幸せそうだった。ドイツではマルギッテに総取りされてしまったからだろう。とてもスキンシップが激しい。

 

対するマルギッテは少し抑えようという感じに想いを猛らせて迫ってくることは少ない。

 

・・・あるにはあるのだが。彼女なりに自制しているらしい。

 

「士郎君、今日は何するの?」

 

「えーっと・・・まずは依頼ボードを見に行って・・・ある程度引き受けたら「「ダメ」」ぬ・・・」

 

即ダメ出しを食らう士郎。

 

「今日は色んな人に顔出しに行った方がいいよ?」

 

「百代にはドイツであってるんだが・・・」

 

「不死川心がいるじゃないか。彼女も、帰ってこない士郎に心配を募らせていたぞ」

 

「そ、そうだな・・・」

 

「三年生も、モモちゃんだけじゃなくて旭ちゃんもいるよ。そっちにも挨拶しないとね?」

 

「・・・なんだろう。まだ年越してないのに年始のあいさつ回りみたいだな」

 

苦笑を浮かべる士郎。そう言えば、正室、側室システムが来ても結婚年齢とか変わらないんだろうか?

 

一応まだ未成年なのでその辺どうなるのか重要である。

 

「そういえば士郎君は誰を正室にするか決めた?」

 

「!」

 

「え?あ、いや・・・」

 

急な問いに士郎は今一反応を返すことが出来なかった。

 

「その、どうしても決めなきゃだめか?俺は誰も優劣を決めたくないんだが・・・」

 

「士郎がそう思っても、役所の人間はそうはいかないだろう。届を出す際には必ず書かないといけないと思う」

 

「そうか・・・」

 

そうすると士郎は色々と考えなければいけない。林冲や清楚は気にしないでくれているが、揚羽や百代はどうなるのだ、という話になる。

 

彼女達はそもそも高い身分であるので側室にするといらぬ敵を作りそうである。

 

「うーん・・・」

 

「ごめんね、まだ答えは出ないよね」

 

「そうだな。私達は気にしないが、高い身分の者もいるからな」

 

「・・・それよりもまずはマルだな。マルが日本人になるのは難しいだろうから・・・」

 

林冲も中国出身だが、彼女は近々日本人となるべく色々手続きをしているらしい。

 

「そうだね。マルギッテさんだけ形だけじゃ可哀想だよね」

 

「本人は、気にしません。なんていうだろうけどやっぱり気にすると思う」

 

「だよなぁ・・・発足も近いことだし今度聞いてみるかな」

 

そう言って空を見上げる士郎。

 

(しっかし、多重婚か・・・まさかこの身で体験することになるとはな)

 

本来ならあり得なかった未来だろうことは容易に想像できる。だが、自分が来たからそうなったわけでもないのもわかった。

 

「本当に逞しいよなぁ・・・」

 

そんな独り言を呟いて士郎はまず学園に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「追試?」

 

学園に到着して色々な所に挨拶をしに行った(英雄と紋白から兄上!と呼ばれて大変なことになった)後、士郎は梅子から予想外の通達を食らった。

 

「お前の成績を疑ってはいないが何しろお前は長期休みがちだ。このままでは進級が危ういので追試を受けておけ」

 

「・・・。」

 

高校生の追試くらい士郎には何でもない。何でもないが・・・

 

「追試・・・」

 

ズーンと暗い影を背負う士郎。恐れていたことが現実になってしまった。

 

「追試は一週間後。そこを逃すと冬休みになってしまうからな。追試が終わるまでは勉強に専念しておけ」

 

「了解です・・・」

 

「そう深刻になるな。お前が遊び惚けていたわけではないのは我ら教員一同も知っている。だが学校の規則上やらねばならないだけだから気にするな。それに、お前ならば勉強なしでも通るだろうが、ここは学校なのでな。きちんと勉強しろよ」

 

「はい・・・」

 

そんなことを言われ士郎は仕方なくカリカリと休み時間も勉強に費やすこととなった。

 

「士郎君・・・うわぁ!?」

 

「大将、どったの?」

 

遊びに来た義経が驚きの声を上げる。士郎は壊れたレコードのようにブツブツと問題を暗記していたからだ。

 

「いらっしゃい、義経。しばらく士郎はあの調子よ」

 

「一子さん・・・どうして?」

 

「なんでも、学校休み過ぎで追試食らったんだって」

 

大和もやって来た。彼もそれなりに休んだと思うのだが・・・。

 

「俺もやったよ。S組に居れば大抵は苦労なく解ける問題だったからな」

 

「マジか・・・」

 

とっくに大和も受けていたとは。それも、

 

「普段休みが多い奴は軒並みじゃないか?何しろ今年は色々あって学校が休校になりがちだったから出席単位が足りない奴はちらほらいるらしいぞ」

 

「そうなのか・・・でも追試かぁ・・・」

 

ぼんやりとガラス窓から外を見上げる士郎。これでも真面目で通っているので何気に大ダメージだった。

 

「ああ、士郎君。そんな遠くを見ないで・・・」

 

「し、士郎。此方のノートを見せてやるから落ち着くのじゃ」

 

「義経、心・・・ありがとう」

 

「「「痛々しい顔で笑うな(ないで)!」

 

とにもかくにも士郎は真面目に勉強を進めるのだった。

 

休み時間に授業の復習をしていれば自然と時間が経つのは早い。今日も今日とて衛宮定食の準備だ。

 

「大将ー大丈夫なの?」

 

「一応な。ていうか、これくらいはさせてもらわないと俺の胃が・・・」

 

やはり追試は士郎に爪痕を残しているようだ。

 

「無理しなくていいんじゃない?私みたいに退学になるわけじゃないんだし」

 

「・・・そうまでして川神水を飲むお前もすごいよな」

 

いえーいとピース顔で笑う弁慶。実に殴り飛ばしたいところである。

 

と、

 

「衛宮君。今日は私達も手伝うからがんばって」

 

「ありがとうございます」

 

食堂のお姉さま方に励ましてもらっていざ出陣。

 

まるで法螺貝でも鳴らしたかの如く一斉に駆けこんでくる生徒達。だが、

 

「ほい。ちょっとタンマ」

 

「学長!」

 

「ちぃ・・・学長が並んだぞ!後ろの奴警戒しろ!」

 

学長が一番前にすっと入ってきた。

 

「衛宮定食。初回デザート付きで」

 

「か、かしこまりました、大将ー初回普通一丁!」

 

おーうという返事と共にパチパチと揚げ物を揚げる音が聞こえてくる。

 

「衛宮君は上手くやっとるかのう」

 

「やってますよ。息抜きみたいなので取り上げないでくださいね」

 

「ふぉふぉ。そんなことはせぬよ。わしが言うのも何じゃが、勉強にも効率というものがあろう。休みなく勉強したからと言って身に付くわけではないからの」

 

「おまちどうさん・・・って学長じゃないですか」

 

「お主が無理しとらんか確認に来たんじゃい。それで、デザートはなんじゃ?」

 

「久しぶりに抹茶プリンですよ。どうにも前作ったら好評すぎたようで・・・」

 

渋みと甘さの絶妙加減が人気を呼び、今日は是非ともと言われていて作った次第である。

 

ちなみに前に作った日は、一子やガクト達も決闘に加わったとか。

 

今回も盛大な決闘日和になりそうである。

 

「これはいいのう・・・わしらにもピッタリな出来栄えじゃな」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあの。あんまり根を詰めんようにな」

 

そう言って学長は去って行った。

 

「び、びっくりしたよ・・・まさか学長までくるなんて」

 

「たまたま準備してなかったんじゃないか?・・・って、川神院でそれは無いか」

 

という事は本当に自分を心配して来てくれたんだろう。

 

「ありがたいことだな。こういう事態にも上手く接客しないといけないぞ」

 

「そうだな・・・よっと!」

 

パチンと両頬を叩いて気合を入れ直す弁慶。

 

「さあ仕切り直し!衛宮定食開店だよ!」

 

そう大きく通達していよいよスタートである。

 

「衛宮定食、生卵付きです」

 

「ほいよー大将卵付き一丁!」

 

「士郎は・・・「楽しんでるから大丈夫」そうですか」

 

彼女の心配性もいつもの事であるので何事もなく対処する弁慶。

 

「ささ、隣に動いておくれよ。さっさと定食捌かないといけないからね」

 

「それなら手伝いますが・・・」

 

「大丈夫さ!さっき食堂の人が応援できてくれたんだ。スピード上げても大丈夫だよ」

 

まさかの事態があったものの、今日も平常運転で進んでいくのだった。




今回はこの辺で。ドイツ編も終わり、色々ありましたが、やっぱり衛宮定食やると平常運転に戻ってきたなと感じます。

次回はドイツ陣営は置いておいて義経とのデートでも書こうかな。妄想を整理してお届けできたらなと思います。

では次回!

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