真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。FGOの夏イベが楽しみな作者です。

今回は純粋にみんなとの年越しを書ければなと思います。
ちょっと暗雲も漂うかもですが頑張って書いていきます。

では!


年越し

――――interlude――――

 

ぴちゃん、ぴちゃんと空洞に水の滴る音が聞こえる。暗い遺跡の中を小さなランタンを頼りに歩く。

 

「はぁ」

 

冬に入り外は豪雪の中、彼女、沙 美鈴(シャ メイリン)は一派である曹一族から長年開かずの祠とされていた秘境までやって来た。

 

最初こそ開かずと言いながらなんの戸もなにも作られていない祠に拍子抜けしたものだがこの中に入って一時間。すでに彼女はここに来たことを後悔していた。

 

「開かずの祠と言われるのはこの豪雪のせい。出口を雪で塞いだけど冷えるわね・・・」

 

もう一度はぁっとかじかむ手に息を吹きかける。今のところ一方通行だがこのままでは終わらないのは明白。そしてその予想通り分かれ道へと突き当たった。

 

「なになに・・・」

 

『聖なる杯にくべるのは肉体か、魂か』

 

そんな文言と共に赤の扉肉体と、青の扉魂に分かれていた。

 

「んー?簡単のように思えるけど、どっちもアウトに思えるんだけど・・・」

 

意味深な問いに美鈴はううむと考える、

 

「こんな時は・・・コレ!」

 

ババーン!と登場したのは木の枝。

 

何を隠そうこの美鈴。非常に頭が弱い。なので元曹一族武術指南の史文恭に憧れて志願するも門前払いなのである。

 

「ここで秘宝を見つければ、きっと武術指南にしてもらえるはず!」

 

そんなことを考えて彼女は危険だと何度も言われたこの地にいるわけだが・・・

 

コテン

 

枝は赤の扉肉体を示した

 

「よーしこっちね!」

 

なんともアバウトな決め方で彼女は進んでいった

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

12月31日。それは年の最後を迎える日。どこも早めに店じまいをし、年越しに備える。士郎と天衣はギリギリという事で食材を買い終えた。

 

「あっぶなかったな・・・橘さん大丈夫ですか?」

 

「ううん・・・買いきれなかったものが出来てしまった」

 

「どれとどれです?」

 

見てみれば海老や魚類が不足してしまったようだ。

 

「これなら大丈夫ですよ。俺が肉と野菜、キノコ類を押さえてますから。それでも良くここまで買えましたね。」

 

天衣にお願いしていた調味料の類は万全である。流石はスピードクイーン。その辺は最速で確保してくれたらしい

 

「でもな、魚介のコーナーは恐ろしいスピードで買い占められてしまって・・・すまない」

 

「ああまぁ仕方ありませんよ。年越しと言えばオードブルとか年越しそばの具材・・・気の早い人は年始のおせちの材料まで買い占めているでしょうから」

 

「買い物は戦場だという士郎達の言葉が信じられなかったんだが、今日身をもって知ったよ」

 

はあぁ・・・となんとも疲れた声を上げる天衣

 

屈強なる主婦の方々に圧倒されて這う這うの体だったらしい。

 

「あとはあそこのスーパーでオードブルを受け取ってと」

 

自分で作るのもいいが絶対間に合わなくなると踏んで士郎はあらかじめそれなりに腕の立つ店員のいるスーパーに頼んでおいたのだ。そちらで魚介は満足してもらうとして、

 

「流石に車、買おうかなぁ・・・」

 

一度の買い物の量が半端ないことになっているのでそろそろ入用かと思うのだが。

 

「士郎はまだ未成年だろ?どうやって買うつもりなんだ?」

 

「そこなんですよね・・・」

 

収入も場所もあるのだが肝心の免許と買える場所がない。

 

いっそ九鬼に頼んでもいいが・・・免許がネックである。

 

「運転は出来るんだけどな・・・」

 

前の世界ではきちんと車の免許を取得しているし、無免ではあるがヘリくらいは運転したことがある。もちろんやむにやまれぬ理由があってだが。

 

「橘さん、代理で買いません?」

 

「わ、私がか!?不運で壊してしまったらどうしよう・・・」

 

「あはは。橘さんのそれは体に染みついてますねぇ」

 

とはいえ、もう天衣はほとんど不運に見舞われることもないので大丈夫だと思うのだが。

 

本人が乗り気でないと上手くいかないだろう。

 

「まぁそちらは要検討という事で・・・」

 

「検討!?検討なのか!?」

 

ひええ!と悲鳴を上げる天衣にクスリと笑って。

 

「さ、次の場所に行きましょう」

 

「し、士郎!」

 

固まっている彼女を放っておいて士郎は次のスーパーに行くのだった。

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

 

 

 

 

「いいぃぃぃぃやああああああ!!」

 

悲鳴の主はもちろん美鈴だ。

 

問いかけに対して棒の倒れた方で決めるという致命的なアホをやらかしたことで殺意の高いトラップに追われている。

 

「誰よこんな原始的なトラップ仕掛けたのぉおおおお!」

 

坂を猛スピードで棘のついた巨大な岩石が転がり落ちてくる。それを懸命にダッシュで逃げるが、

 

・・・プシュウ

 

「!!」

 

罠の予備動作音だ。この罠存外古いからなのか、よく聞けばトラップの予備動作が聞こえる。

 

とはいえ、何がどんな形で発動するのか分からないので、最悪を想定して飛び上がる。果たしてその判断は正しかったのか、

 

ガコン!

 

「床一面の剣山!?こんなんどうやって逃げるのよぉお!」

 

万事休す。このままでは岩石にこびり付く汚れになってしまう。

 

「よ!」

 

そんな局面で彼女が使ったのはクナイ。側面を上手くクナイで掴むポイントとしてまるでサーカス団のように駆ける

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃー--ッ!」

 

その奇抜な策のおかげで彼女は何とか問いの門に戻ってこれた。

 

「ぜーはーぜーはー・・・こんなの即死級のトラップじゃない。あーあ・・・あたしのクナイ・・・任務じゃないから自腹じゃん・・・」

 

トホホとへこむ美鈴だが、まだ青の扉が残っている。

 

「・・・。」

 

そおっと扉を開ける美鈴。行は赤と同じく坂。その先には・・・

 

「デスヨネー」

 

棘のない岩石がいつでもOK!と待ち構えていた。

 

「これどうすんのさぁ・・・」

 

思わず頭を抱える美鈴。彼女はしばらくここで足止めを食らってしまうのだった。

 

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

「「ただいま」」

 

「「おかえりなさい」」

 

「ふう、荷物が多いとこの距離も大変だな」

 

「いい加減車が必要ではないのか?」

 

史文恭の言葉に士郎は、

 

「丁度帰り道橘さんと話してたんだ。誰か代理で買ってくれないか?」

 

「私が、と言いたいが私も今学生だからな・・・」

 

「史文恭はどうだ?正直、橘さんか史文恭しかいない気がするんだが」

 

「ふむ・・・」

 

少しばかり考えて史文恭は悪戯を思いついたような顔をして、

 

「私が買うとなると職業は主婦(・・)となるがいいのか?」

 

「「「・・・。」」」

 

常日頃から、朝早くに鍛錬、朝食を食べては読書。昼食を食べては読書。夕方くらいに鍛錬して、夕飯を食べては最速で風呂に入りまた読書。

 

ニート生活を満喫しているとしか思えない一同。

 

ちなみにその辺問うてみた所、

 

「ニート?馬鹿らしい。私は残りの人生遊んで暮らせるほど稼いだ。何か文句があるのか?」

 

堂々と言うので士郎も、お、おう・・・とたじたじになってしまった。

 

反対意見は出なさそうだが、どうにも爆弾を抱えそうなので一旦取りやめにし、士郎は引き続き天衣を説得する方向で頼むことにする。

 

「ま、それは追々考えるとして、今日は忙しいですよ橘さん」

 

「う、うん。屋敷の掃除もまだ途中だし夕飯も豪勢にするんだろう?頑張らないと!」

 

年末と言えばまずは大掃除だ。衛宮邸はかなり広いので士郎と分担してやって来たのだが、今日ようやく終われそうだ。

 

「清楚先輩は?」

 

「島の両親が来ているらしい。小旅行で年末を過ごすみたいだ」

 

小旅行、という事は九鬼には泊まらないという事。なんだかんだできちんと配慮しているあたり九鬼もよくやっている。

 

「今までがひどすぎたんだ。いい傾向じゃないか?」

 

「そうだな。清楚にはうんと楽しんできてもらいたいな」

 

林冲も士郎の言葉に納得し荷物を一緒に持っていく。

 

「みんな部屋の掃除は終わったか?」

 

「うむ」

 

「うん!」

 

「私も大丈夫だ」

 

それは重畳。と今日は少しゆっくりできるかなと士郎は思った。

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

 

ゴロゴロ・・・

 

「!」

 

さっと即面に掘られた切り込みの中に逃げる。魂の扉は即死罠があるもののちゃんと避けられるようになっていた。

 

「こんなん無理でしょ・・・」

 

そう愚痴りながらなんとか最初の関門を、

 

「次で最後3・2・1フッ!!!」

 

突破・・・

 

「イエーイ!美鈴ちゃん生きてるー!」

 

シュゴ―。

 

「・・・。」

 

何やら嫌な音が聞こえた。新しい道に目を向けると・・・

 

床からシュゴ―と吹き上がる火柱その向こうには壁と床から槍が突き出る。さらにその向こうには落ちる準備はいつでもOKと頼りない鎖一本で辛うじて落ちない岩石。

 

「だから無理ゲーだって・・・」

 

しょぼんとしょげる美鈴。彼女の道はまだ始まったばかりなのだった。

 

 

 

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

 

 

 

「んー、まだかなぁ・・・」

 

士郎は今日明日とお世話になる餅づくりに励んでいた。杵と臼で叩くようなものではなく、炊飯器のようなものでゴウンゴウンと餅に圧力をかけて、いい塩梅で上下を入れ替えてくれる優れものだ

 

餅を作る過程はとても面倒なので上手くいっているか心配である。

 

「士郎、あんことクリ餡それときな粉も準備出来たぞ。そっちはまだか?」

 

「ああ、ありがとうございます。初めて使う機械なんで塩梅が分からないんですよ」

 

杵と臼ならば手触りなどで判断できるのだが、これはそうはいかない。

 

「多分もう少しなので、こしあん作りました?」

 

「あ!すまない粒あんだけだ・・・」

 

「いいんですいいんです。コイツがまだ時間かかりそうなので作るだけですから」

 

そう言って士郎はテキパキと、こしあんを作っていく。

 

本当ならべちゃべちゃになるだろうにス、スとあんこを濾していく。

 

そしてある程度できた所で、

 

ピー!

 

餅がつき終わったようだ。

 

「どれどれ・・・」

 

「あ、橘さん上からのぞき込んじゃ・・・」

 

「アッチー---!!!」

 

溜まっていた湯気をもろに受けた天衣は顔を手で仰いであちらこちらに歩く。火傷してはかわいそうなので、

 

「橘さん、水です。水で顔を冷やしてください!」

 

「あぶぶぶ・・・」

 

大急ぎでボウルに水を溜めて突っ込む天衣

 

その様子がおかしくてみんなで笑う。

 

「あはは!天衣面白いぞ」

 

「りんじゅうもやってびたらいい・・・」

 

それは困る。みんなして火傷されたら手に負えない。

 

そんなことを言いつつ何かあれば迅速に対応するだろう士郎。

 

さて、顔面冷却真っ最中の天衣に代わって士郎がカパリと開ける。水を手に付けて少し握ってみると、

 

「うん。いい頃合いだ」

 

早速一口大に切り分けて残りはとりだして保存し明日の朝、また活躍してもらおう。今日はオードブルや士郎お手製のおかずがあるのでこの餅はデザート用だ。

 

「よし、ご苦労様!後は食卓に並べて夕飯にしよう。

 

「「了解!」」

 

ようやくできた夕飯を楽しみだなんだといいながらみんなで食卓に運び、いざ食事の時。

 

「ほんじゃいただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

 

 

 

 

「1・2・3ッ」

 

タイミングを見計らって炎の出る床や槍の突き出す床と壁を乗り越える。炎の吹き出す床は超高熱であり、その床自体が危険だ。

 

槍の突き出す床と壁は鋼鉄の槍が出てくるので折って安全地帯にすることは出来ない。

 

「殺意高すぎるよぅ・・・」

 

メソメソと泣きながらタイミングを合わせていく。

 

「あの岩絶対落ちてくるよね・・・」

 

頭上にある古ぼけたチェーン一本で支えられている岩。穴の幅が狭いのでチェーン一本で支えているが、通れば間違いなくあのチェーンは外れる。

 

美鈴の感はそう言っている。

 

「・・・(ひょい)」

 

第一の扉を間違えた大罪の根源(木の枝)を投げる。すると、

 

ガッシャーン!ジャキーン!

 

岩が落ちて来たばかりか、床から鋼鉄の槍が突き出し岩の一部を粉砕してしまった。

 

「・・・。」

 

キラキラと涙を流し美鈴は飛び越えるように切り抜けた。

 

「もう!もういいでしょ!もう頑張ったって!!」

 

そうして一本道のトラップ地帯を抜けると・・・

 

「そんな・・・」

 

また赤と青の扉である。

 

結局美鈴はまだ入り口を突破しただけなのだと思い知らされたのだった。

 

 

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

「ふわぁ・・・眠いな」

 

夕飯を食べ風呂に入り、年末の特番を見ていると天衣が眠そうに言った。

 

「我慢大会じゃないんですから寝ていいんですよ」

 

そんな天衣に苦笑を浮かべて士郎は言った。

 

「んんー・・・でも年越しそば・・・むにゃむにゃ・・・」

 

結局天衣はそのまま寝入ってしまった。

 

「林冲。橘さんを運んでいくから部屋の扉を開けてくれないか?」

 

「うん。行こう」

 

言葉少ない彼女も眠気を堪えているのだろう。すごく眠たそうだ。

 

「林冲も無理せず寝ていいんだぞ?」

 

「ありがとう。でもみんなで年越しそば食べたいんだ」

 

「橘さんもそう言ってたな。何か思い入れがあるのか?」

 

不思議そうに言う士郎に林冲は暖かい笑みを浮かべて、

 

「士郎と過ごす初めての年だからどうしても最後まで一緒に居たいんだ」

 

とても穏やかな声音で言われた士郎は何処か恥ずかしくなった。

 

「そっか・・・ならもう少し頑張ってくれよ?」

 

「うん。もし寝ちゃったら天衣みたいに連れてってくれ」

 

任務であれば彼女は絶対熟睡しない。だがこの衛宮邸だけは違う。事前にわかる安全性、そして暖かなこの空気が彼女の警戒心を解いている。

 

「よいしょっと。橘さん、おやすみなさい」

 

「年越し・・・そば・・・」

 

そんな寝言にクスクス笑って二人は居間に戻った。

 

すると、

 

「史文恭?」

 

史文恭が何やら電話で喋っている。中国語なので聞き取りづらい。

 

「・・・!・・・・!!!」

 

「どうしたんだ?」

 

「随分剣呑な様子だ」

 

二人がとりあえずこたつに入ると史文恭も電話を切り、憤慨した様子で座り込んだ。

 

「どうした、史文恭?」

 

「ああ・・・私の教え子・・・とでも言えばいいか・・・そいつが馬鹿な真似をしでかしてな」

 

「馬鹿な真似?」

 

「お前達には・・・まぁいいか。曹一族の隠れ里の外れに『開かずの祠』という場所があってな。その中に美鈴という娘が入ってしまったようなのだ」

 

「開かずの祠って・・・なんだ硬い扉でもついてるのか?」

 

「いや、祠自体はいつでも開いている。問題は中でな・・・」

 

そうして祠が殺傷度の高い罠だらけだという事を語った。

 

「助けに行かないのか?」

 

「言っただろうトラップが危険だと。昔あの地を何としても潜り抜けようと力ある傭兵が何人も挑み、一人として帰らなかった。それ以来立ち入り禁止とされていたのだが・・・」

 

「そこにもぐりこんだと・・・」

 

「頭の悪い奴だとは常々思っていたがまさかここまで馬鹿だとはな・・・救いようがない」

 

精神的にも物理的にも不可能だと呆れかえっていた。

 

「・・・。」

 

「助けに行くなどと言うなよ。そのくらいあの祠のトラップはよく考えられている。仮にお前が入ったとして、足手まといを担いで潜り抜けるのは不可能だ」

 

「士郎、行くのにも時間がかかる。その間美鈴さんが生き抜くのは難しい」

 

「ぬ・・・」

 

史文恭と林冲に説得されて士郎は考えるのをやめた。

 

「・・・もう俺一人の身体じゃないからな。その美鈴さんには自業自得だと諦めてもらう」

 

「そうしておけ。それにしてもなんだ、やっと自覚が出来たようじゃないか」

 

「胸につっかえるものがあるけどな」

 

士郎は俯いて胸を押さえた。

 

「士郎、美鈴さんは立ち入り禁止だと言われている場所に無断で入ったんだ。その行動には責任が伴う。そうだろう?」

 

「ああ・・・」

 

「それにな、あの場所の最奥にあるのは固定された古ぼけた本だけだ」

 

史文恭の物言いに士郎と林冲は驚いた。

 

「史文恭、中に入ったことがあるのか!?」

 

「一応な。と言っても最近だ。武術指南を降り、曹一族も抜けることになった私は、最後くらいあの謎を解いてやろうとな」

 

クックックと笑う史文恭。

 

「壁越えの力があればそう難しくはなかろう。ただ行ったところで報酬はそんなものだ。それに比べたら命を賭けるトラップを往復分対処する苦労の方がよっぽど辛いわ」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

史文恭の言葉にぐうの音も出ない二人。

 

「だから確実に言える。あの小娘では突破は叶わん。だからお前達も忘れろ。愚かな小娘の愚かな選択だ」

 

「「・・・。」」

 

史文恭の物言いに何も言えなくなる二人だった。

 

 

 

 

 

――――interlude――――

 

「うああんもうッ!いくつトラップを抜ければいいのよッ!!」

 

一方で美鈴は迫り来るトラップに何とかかんとか耐えていた。

 

現在は三つ目の扉を抜け、迫り来るトラップ群を対処していた。

 

一見何もない通路なのだが到達と同時に両サイドの壁が迫ってくるというもの。しかも、

 

ゴウ!

 

「ひゃあ!」

 

必然的に走り抜けなければいけないが、正面からランダムで火炎の弾が飛んでくる。

 

止まっていては壁に押しつぶされ、血の滴る押し花の完成だ。

 

そうならないために美鈴はもう博打でひたすらに走り、奇跡的に火炎弾を避けていた。

 

(!壁の切れ目だわ!あそこまで行けば――――)

 

一瞬の気のゆるみ。それはこのトラップでは命取りだ。

 

ドス!

 

「うぐ!」

 

咄嗟にカバーに入った右腕に火炎弾が突き刺さった。よく見ればそれは火で熱せられた矢だった。

 

「応急処置要らず、ね!」

 

しかし、美鈴は何とかそのトラップゾーンを抜けた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・これで、クリア・・・?」

 

もう火の矢も壁も迫ってこない。そして突き当りは行き止まり。

 

史文恭の予想は外れ、彼女はトラップを乗り切った。

 

そして突き当りにあったのは・・・

 

「・・・なにこれ」

 

石の台座に固定された古びた本だった。

 

「がっちり収まってて動かせない・・・これじゃページもめくれないじゃない」

 

上下だけでなく側面もがっちり固定されているソレはかろうじて表紙を捲れる程度だが・・・

 

「・・・。」

 

何が書かれているのか分からない。

 

古代文字にも見えるそれは専門の学者でもない限りわかりそうになかった。

 

「なによ・・・こんな古ぼけた怪異文書が報酬ってわけ・・・?ッふざけないでよ!!!」

 

ダン!と腕の傷も構わず台を叩きつける。

 

「ここまで死ぬ思いだったのよ!その報酬がなんにも分からない本だなんて納得いくわけないじゃない!!」

 

ダン!ダン!と絶えず台を殴りつける。

 

「私はここを突破して史文恭お姉さまに認めてもらうんだ!こんな本一冊じゃなんにもならないのよ!」

 

絶叫する美鈴。故に気付かなかった。じわりじわりと腕の傷から流れた血が本に迫っているのを。

 

そして、

 

「こんなんじゃくたびれ損・・・・!なに!?」

 

ズズズズ・・・と遺跡自体が揺れている。崩壊しかけているというのか。

 

「そうだ!例の本・・・は」

 

本は台座になかった。それどころかスウっと浮かび上がり天井の隙間に向かっていく。

 

美鈴はその現象が何なのか理解できなかったが、ようやっと見つけたお宝(?)にこのまま逃げられて生き埋めなど勘弁だと思った。

 

「・・・。」

 

ヒュンヒュンヒュンと鉤つきロープを取り出し、回転させ狙いを定める。

 

「おりゃあああ!!!」

 

裂帛の気合と共に鉤付きロープを投じ、ガチリと浮上を続ける本に食い込んだ。

 

「あとは本の強度次第ね・・・」

 

伸びて短くなっていくロープに足輪をつけて体重をかける。すると、

 

「へっざまあみなさい。あんただけ目標達成なんてさせないから」

 

本はかなり必死に上昇を続け、美鈴と共に遺跡を脱出した。

 

 

 

 

――――interlude out――――

 

 

残ったメンツで年越しそばを作っている最中、

 

「!・・・?」

 

何やら寒気を感じて首筋を擦る士郎。

 

「どうした?首元でも寒かったか?」

 

「この期に及んで風邪など引かないでくれよ」

 

林冲と史文恭に言われて困ったように後ろ頭を掻く士郎。

 

「うーん・・・何も起きなきゃいいんだが・・・」

 

士郎は一人何かの予兆のようなものを感じていた。

 

「それより完成だ!かき揚げもいい頃合いだぞ」

 

「お、そうだなそれじゃあ居間に持って行こう」

 

「配膳くらいはまかせろ」

 

そう言って熱々のどんぶりを素手で持って行ってしまった。

 

「逞しいけど、うん。お盆、あるから・・・」

 

なんとも言えない顔で士郎は自分の分を持っていくのであった。

 

「いただきます」

 

「「いただきます」」

 

そういってどんぶりを開けるとカツオ出汁のいいにおいが充満する。

 

「うん。うまいな」

 

「本当だな!かき揚げもエビフライも美味しい!」

 

「エビは買えなかったのではないか?」

 

「オードブルを頼んでたスーパーの店員さんが少しばかり取ってくれてたんだ。とはいってもみんなの分はないから秘密な」

 

「お前は本当に顔が知れているな」

 

「市場調査とかしたからな。懐かしいな、確か林冲が来日してすぐだったよな。

 

「うん。士郎は熱心に値段と具材を見ていた。あの時から料理は始まっていたんだな」

 

「まぁ・・・変んな食材で作りたくないっていうのもあったしこれくらいはな」

 

そう言って照れ臭そうにする士郎。主夫をして慣れ親しんだ検分だ。

 

「はぁ・・・これで一年も終わりだな」

 

林冲がほうっと熱気を吐いてそう言った。

 

「そうだな。士郎との奇妙な一年も終わりだ」

 

「奇妙とか言うなよ、そっちから襲ってきたくせに」

 

「そういえばそうだったな。なに、済んだことだ気にするな」

 

「・・・。」

 

命を狙われた方としては実に笑えないのだが。

 

「さ、体も温まったし寝よう」

 

衛宮邸の一年は幕を閉じた。来年は卒業式、進級式そして新入生を迎える入学式など様々なイベントが待ち受けている。そのためにも今日は眠るのが吉だった。

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短かったかな?今回はここで一区切りとさせていただきました。美鈴の方まで書くとまた2万字とっぱとかなりそうだったので・・・

次回はみんなへの挨拶、剣トラブル処理かな・

活動報告で感想暮れた方ありがとうございます!意外な人物がでてきてちょっと興奮してしまいました。母親のいない士郎に頼光さん・・・化学反応が起きそうですな

のろま投稿ですが頑張って書いてますのでよろしくお願いします。

では次回!
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