真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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皆さんこんばんにちわ。順調に小説が書けていて安心している作者でございます。

今回からは数話かけて士郎を強くしていきます。

また影の薄くなり始めた嫁達との交流も書けたらいいな、と思っています。

では!


鍛錬/決断

百代と同じ、膨大な気を身に付けた士郎は放課後とても忙しくしている。

 

それというのも、気による新たな技の習得とコントロールの為だ。

 

川神院では、

 

「気のコントロールも慣れたものじゃのう・・・」

 

「元々百代達を見てきましたから」

 

「見るだけで真似られるのはお主くらいじゃわい。どれ、瞬間回復、会得するかのう?」

 

「是非」

 

瞬間回復が覚えられれば後顧の憂いは一段と低くなる。セイバーに今度こそ鞘を返還してもいいかもしれない。

 

気を治療に使えれば応用が利く。士郎は懸命に修行していた。

 

「あー私もあっち行きたいなぁ・・・」

 

「ちょっとモモちゃん。私もちゃんと稽古つけてくれるんでしょ!?」

 

「そうだけどー。燕のは自業自得だからなぁ・・・」

 

「言い方!」

 

ぺチン!と叩かれて渋々百代は燕の鍛錬を再開する。

 

「それにしても士郎君どうしちゃったの?」

 

「気の潜在能力が私並だったから、それをコントロールして川神院の技を習得してるんだ」

 

「・・・士郎君これ以上強くなってどうするのかなぁ」

 

心配げに言う燕に、

 

「まだまだ勝ちは譲らないって言ってたからもっともっとだろ」

 

「うへぇ・・・燕ちゃんはもう二度と戦わないからいいけど」

 

「そう言いながら燕。士郎を見る目が情報収集する時の目になってるぞ」

 

「あれま。バレテーラ」

 

肩を竦める燕。

 

「でもほんと、どうなっちゃうんだろ」

 

「わからない。士郎には魔力もあるから余計に、な」

 

「え?魔力?」

 

「おっと。さあ燕、おしゃべりの時間はここまでだ!」

 

「気になる単語残さないでよん!?」

 

燕は知らないが士郎には魔力がある。しかし、前に一度百代は士郎に気を分け与え、それでも刃が士郎の身体を貫いていたのが気がかりだった。

 

(気じゃ魔力の代わりにはならないのかな・・・)

 

でも、瞬間回復を含めた川神院の技は、絶対士郎の役に立つはずだ。

 

(私ももっと強くならないと)

 

最強を誇った武神がいつまでも負けてはいられないと、百代は思った。

 

 

 

 

 

翌日、学校を終えた士郎は九鬼ビルに来ていた。

 

「よく来たな。衛宮士郎」

 

「今日はよろしくお願いします」

 

「お前に教えを請われる日がこようとはな・・・だが、俺のところでは正直、川神鉄心の所と変わらん。そこで・・・」

 

「フハハハ!九鬼揚羽降臨である!」

 

「士郎君、よろしくお願いします!」

 

「・・・。」

 

「今回はこの、パスの繋がっているという三人と合同鍛錬だ」

 

あれからわかったことだが、あずみにも剣の文様が刻まれ、パスが通っていた。恐らく、気を持て余す自分がはけ口を求めて無意識に繋げてしまったのだろう。

 

「内容はどうするんだ?」

 

「義経と揚羽様はお前の気の供給を受けて戦闘。忍足あずみとお前はまず互いの気を練ることから始めろ」

 

「と、いう事だ義経、頼むぞ」

 

「は、はい!揚羽さん、士郎君、お願いします!」

 

「では、始め!」

 

「いくぞ!九鬼家決戦「させません!!」ぬう!?」

 

「揚羽!技の初動が遅い!義経!技の妨害は見事だが当たりが軽いぞ!」

 

「「はい!」」

 

激しく激突する二人に対し、士郎は静かに己の気を練り一定バランスで三人に供給する。

 

(おい・・・士郎)

 

(ん?どうした?)

 

(あたいの所じゃそんなに受け入れられねぇよ・・・もう少し加減しろ)

 

(それじゃ鍛錬にならないだろう?)

 

(いいから!このままじゃあたい・・・)

 

よく見ればあずみの目がとろんとしている。

 

(どうにかなっちまう・・・)

 

(まてまて!今調整するから!)

 

本当に気の相性がいいらしい。なんだかもじもじしているのも相まってこのままではあらぬ疑いをかけられそうである。

 

(半分にしたぞ!あずみ!)

 

(・・・。)

 

クテリ。あずみは士郎に寄りかかるように脱力した。

 

「あずみ!?」

 

「そこ!何をやっているか!」

 

ブオン!とカッターのような蹴りが繰り出されるが、

 

「もう・・・じゃま・・・」

 

サッと躱し、掌底をぶちかますあずみ。

 

「ぬう・・・この威力・・・はかり知れんな・・・」

 

簡単にぶっ飛ばされてしまったヒュームは悩むように呻いた。

 

「まるで酔拳だな」

 

「酔拳?でもあずみさんは・・・」

 

「士郎に酔いしれるのよ。まったく見せつけてくれるな」

 

「ねぇ・・・もっと・・・」

 

「まてあずみ!今は鍛錬中だ!!」

 

等など。様々な試練が士郎には残されていた。

 

「ふぉふぉふぉ。わしが直々に相手しちゃおうかの」

 

「この俺がその性根を叩きなおしてくれる」

 

「俺は真面目に鍛錬がしたいんだー!!!」

 

したいんだーとこだまする毎日を送る士郎。

 

 

 

 

 

鍛錬が終わればようやっと帰宅である。

 

「ただいまー・・・」

 

「おかえり、士郎」

 

「おかえりなさい、シロウ」

 

「随分参ってるわね。気の鍛錬てそんなに大変?」

 

クエスチョンマークを浮かべる凛に士郎は、

 

「環境が・・・大変なんだ」

 

とだけ言う。

 

「あっそ。それより士郎。橘さんから伝言よ。今日は帰りが遅くなるから晩御飯頼むって。下ごしらえはして行ったわ」

 

「了解・・・うーん・・・」

 

ぐったりとした様子の士郎その様子を見ていた清楚とマルギッテは、

 

「仕方ありませんね。私達で仕上げるので士郎は休んでください」

 

「そうだね。史文恭さん。士郎君を――――」

 

「心得ている」

 

ガシリと担がれて士郎は史文恭の手で寝床につれて行かれた。

 

「それにしても士郎らしくないわね」

 

「どういうこと?」

 

「先輩が鍛錬であんな風になるのは珍しいんです」

 

「桜の言う通り。やるとなったら気絶するまでやるバカだから・・・半端に余力を残すなんて出来ないのよ」

 

「その、魔術の鍛錬もそうなのですか?」

 

「魔術に関しては死ぬ寸前の事を何度もやっていたわね」

 

「あの時の先輩は・・・毎朝起こしに行くのが怖かったです・・・」

 

「そっか・・・でも、魔術と実戦でベースがこれ以上ないくらい出来上がってるから余力が残るんじゃないかな?」

 

「・・・そうね。清楚の言う通りかも。気もマナと同系統の力だからね。それになんだか気って奴、減ってる気がしないし」

 

「確かに・・・士郎は気の鍛錬をしているのに全然消耗してる気配がありませんね」

 

「魔術師としてはへっぽこなのに気は達人級か。なんだか感慨深いわね」

 

「先輩も一芸に秀でてたんですね」

 

士郎の苦労を知っている桜は涙がほろり。と

 

「桜」

 

「どうしたの、ランサー」

 

突如ランサーが現れた。

 

「史文恭が士郎を襲っていますが止めなくていいのですか?」

 

「・・・。」

 

「あわわわ・・・」

 

ズゴゴゴ・・・と影の巨人が大きくなり、

 

「今行きます。先輩」

 

ささーと桜はいなくなった。

 

「はぁ、しょうがないわ。早く晩御飯を作りましょう」

 

現在進行形で、怖いお姉さんと、怖い後輩に襲われているだろう士郎を想って凛は先を促すのだった。

 

「凛ちゃんはいかなくていいの?」

 

「私はいいの!」

 

「リンは二人きりがいいのです」

 

「セイバーだってそうでしょ!」

 

「無論です」

 

と、じゃれ合いながらその日は終わるのだった。

 

 

 

 

そんな日が一月も続くと士郎も環境に慣れたのか、普通に帰ってくるようになった。

 

「ただいま」

 

「おかえりー」

 

「おかえりなさい」

 

「すっかり慣れたようね」

 

「流石に一月も立てばな。あ、それと明日は鍛錬ないけど遅くなるから。よろしく頼むぞ」

 

「そういえば金曜日ね。なに、また集まるの?」

 

凛達も金曜集会の事は理解しているので問題なさげだ。

 

「ああ。明日は百代も依頼から帰ってくるからな。もてなしてやらないと」

 

久方ぶりの美女降臨だー!と皆の携帯にメールするくらい浮かれているので、飛び切りの出迎えをしてやる手はずだった。

 

「士郎、少しいいですか?」

 

「どうした、マル」

 

「それが・・・」

 

今度の土日、両親とフランクが来日することを告げられた。

 

「ついにこの時が来たか・・・」

 

「士郎、恐らく・・・」

 

厳しい席になる。そう言おうとしたマルギッテだが、

 

「大丈夫だ。正面から正直に行く。絡め手は使わない」

 

「士郎・・・」

 

「ただ、揚羽には来てもらおう。もろもろ説明するのに彼女の力があった方が良い」

 

さっそく電話をかける士郎。

 

「もしもし、揚羽か?」

 

『うむ。何用だ?』

 

「実はかくかくしかじかで・・・」

 

そういう事ならと、揚羽は結婚届持参で来てくれるらしい。

 

結婚に関する様々な手続きは揚羽が率先してやってくれていたのでとても助かる。

 

『ついでにVIP用の旅館を手配しよう。マルギッテはそこにおるな?その旨を中将と両親に報告せよ。場所は――――』

 

箱根にある九鬼の運営する旅館に決まった。

 

「わかりました。中将と両親に伝えます」

 

『うむ。正念場だぞ。心していけ』

 

「もちろんだ」

 

ピ、と電話を切って、良し!と気合を入れる士郎。

 

「成功させようなマル」

 

「はい・・・貴方とならきっと上手くいきます」

 

士郎の手を取って頬にあてるマルギッテ。

 

「・・・また、傷が増えましたね」

 

「ん?ああ。仕方ないだろ。これでも結構過酷な訓練してるからな」

 

「士郎は・・・鍛錬を終えたら世界に出るのですか?」

 

「・・・いや、出ないよ」

 

士郎は少し考えて言った。

 

「こうまでがんじがらめにされちゃな。もうマルたちを振り切って世界になんか出られないよ」

 

困ったように言う士郎にマルギッテは安心したように胸をなでおろした。

 

「これからはマルたちの夫として・・・家族の味方になるつもりだ」

 

「・・・士郎!」

 

「おっとと、マル」

 

飛びついてきたマルギッテに落ち着いて抱き留める士郎。

 

「絶対ですよ」

 

「もちろんさ。だからマルも怪我しないでくれよな」

 

チュ、とキスを交わして士郎は安らかに告げた。

 

 

 

 

翌日、金曜集会では、

 

「マルのご両親に結婚を伝えることになったんだ」

 

「本当か!?マルさん幸せそうだからな・・・」

 

「それで色男。どう説明する気なんだ?」

 

「どうもこうもない真っ直ぐ。正直に」

 

「正攻法か?分が悪いんじゃ・・・」

 

「なら大和はフランクさんにどう説明するんだ?」

 

「そりゃあ・・・」

 

「自分も、真っ直ぐがいいぞ、大和」

 

「・・・だな」

 

「何もやましいことないから正直に告げる。ここ大事」

 

「それにしても結婚かぁ・・・士郎はいつ頃するつもりなの?」

 

「一応高校生を卒業したらのつもりだ。百代達には一年待たせることになるな」

 

「それなー。私はもう結婚してもいいと思うんだが」

 

「それはモモ先輩が卒業したからでしょ」

 

「まぁそうなんだけどな」

 

「士郎の今後を考えるなら待つべきよー。お姉さま」

 

「うーん・・・」

 

「それより士郎の明日の事だ。上手くいきそうか?」

 

「行くか行かないかじゃない。納得してもらうだけさ」

 

「私は父上から許可を頂いていますが・・・」

 

「ダディもシロ坊にはすっかり気を緩めてたよね」

 

「沙也佳ちゃんも嫁にするんだっけ?跡継ぎとかどうなんだ?」

 

「ざっくり言うとだな・・・」

 

正妻は通常の結婚と同じであり、側室は正妻が認めた相手を据えることにする。

 

また、側室にも夫の姓を名乗る権利があるが夫婦別姓制度も使える。その代り正妻は原則、夫に嫁入りするものとし、別性は使えない。

 

「まだ詳しいことはあるけどこんな感じかな」

 

「選ぶの夫じゃないのか」

 

「そこが肝だな。俺は沢山の、その、嫁さん候補がいるけど正妻になった人が認めないってなったら成立しない」

 

「でもその辺は揚羽さんが徹底してるから大丈夫だろうさ」

 

「ていうか揚羽さんが正妻になるの?」

 

「「・・・。」」

 

(おいモロ)

 

(そこはつついちゃダメだよ)

 

「でも意外だな。九鬼の姉ちゃん九鬼姓じゃなくなるんか」

 

「嫁入り前提だもんね・・・」

 

「・・・一応結婚前に正妻を賭けた決闘をするんだからな」

 

「「「え?」」」

 

「それじゃあモモ先輩が正妻になるの?」

 

「でもモモ先輩じゃなぁ・・・」

 

「姉さんじゃ管理できなさそうだし、衛宮姓になっちゃったら川神院どうするんだ?」

 

「そこは衛宮院に「「「無理」」」ぶー・・・」

 

「大体なんだよ衛宮院って・・・」

 

「病院だよな」

 

「あはは。確かに」

 

「言ってくれるね君達・・・」

 

思わず肩を落とす士郎。

 

「大和はどうするんだ?」

 

「お、俺?」

 

「正妻は自分だぞ」

 

「ぬう・・・でも大和と同じ直江姓になれるからここは我慢・・・」

 

「フランクさんクリスが正妻じゃないと認めないだろうからな」

 

「弁慶は?」

 

「・・・一応納得してくれてるよ。なぁクリス」

 

「大和達がドイツに来てくれるなら何も問題ないぞ」

 

「・・・その辺もめそうだなぁ」

 

「士郎よりかはマシだ!」

 

「「「確かに」」」

 

「なんでだよ・・・」

 

それはそれ、これはこれのような気がするが。

 

「・・・ん?キャップか」

 

「みたいだな」

 

「そうね。士郎凄いわ。お姉さまより先に気付いた」

 

「秘密基地で気が抜けてるだけだろ」

 

「・・・ぐっ」

 

ダダダダ!バタン!

 

「ようお前ら!たっだいまー!」

 

「おせーぞキャップ」

 

「毎回遅れて登場するねぇ」

 

「なんだ?なんか問題でも起きたのか?」

 

「いーや。何にもないよ。それより今日はどんな土産持ってきてくれたんだ?」

 

「今日はなー・・・じゃーん!」

 

キャップが取り出したのは大きめのパッケージ。中に入っているのは・・・

 

「天ぷらだわ!」

 

「今日はうどん屋でバイトだったからなー。残り物の天ぷら全部貰って来たぜ!」

 

「まゆっちと士郎のご飯食べないでいて正解だったね」

 

「ご飯はこっちの弁当にある。由紀江は?」

 

「私は三色にしちゃったので・・・」

 

「なら士郎の弁当で天丼だな」

 

「握り飯だけどな」

 

「いいじゃんいいじゃん!それとな・・・」ゴソゴソとリュックに手を突っ込むキャップ。

 

「また当たったぜ!!」

 

そこには懐かしい箱根旅館団体様ご招待の文字が・・・

 

「ぶっふぉ・・・」

 

「仕方ねぇ反応だよな・・・」

 

「士郎てばどれだけ箱根に縁があるのかしら」

 

「今回はセイバーさん達とも行こうぜ!」

 

「一体何人ご招待なのさ・・・」

 

「ん?わかんねぇ。団体様としか書いてねぇから大丈夫じゃね?」

 

「不安だ・・・」

 

「明日連絡してみるよ」

 

「頼むぜ軍師」

 

「俺はまず明日明後日だな・・・」

 

難関になるだろう日を前に士郎は静かに気合を入れるのだった。

 

 

 

 

 

翌日。士郎とマルギッテは朝早く旅館に向かっていた。

 

「・・・。」

 

「マル、大丈夫か?」

 

「ちょっと・・・いえ、大分胃がキリキリしてきました」

 

「すまないな・・・」

 

そう言って士郎はマルギッテのお腹を気で撫でた。

 

「士郎、これは?」

 

「川神流のアレンジ技。『癒しの手』とでも名付けようか。痛くないだろ?」

 

「はい・・・なんだかポカポカします」

 

先ほどまで顔色の悪かったマルギッテが風呂上がりの様に頬を上気させていた。

 

「これは『手当て』の派生ですね?」

 

「ああ。手当てはもっともポピュラーな痛み止めだけど、そこに気を使ってみた」

 

手当て、とは痛む場所を手で覆ったり抑えたりするあれである。傷は癒えないのに無意識に人は痛む患部を摩ったり、手で押さえたりするが。あれは実際に痛みの緩和につながる。士郎のそれは本来瞬間回復の応用なのだろう。とても心地いい感じがした。

 

「隊長。もうすぐ着きますよ」

 

いつぞやのニヨニヨ兵士だが、今回ばかりは彼女も引き締まった顔だ。

 

「わかった。士郎、ありがとうございます」

 

「この程度ならお安い御用さ。頑張ろうな」

 

揚羽とは現地で合流としているので着いたら瞬く間に作戦会議だ。

 

そうして一軒の旅館に車が入る。

 

「これは・・・」

 

「パンフレットを見たけど立派な旅館だなぁ・・・」

 

以前フランクに招かれたのとは全く違う旅館である。まさに高級宿という感じだ。

 

「フハハハ!来たな、二人とも」

 

「揚羽、こんなすごい所を紹介してくれてありがとう」

 

「なに、こっちも本気度合いを見せねばなるまいからな」

 

「父さんと母様はもう来ていますか?」

 

「いや、まだだ。今の内に作戦会議をするとしよう」

 

基本的なことを打ち合わせた後、士郎はなぜか厨房に招かれた。

 

「・・・なぜ厨房に?」

 

腕利きの板前さん達が鋭い目で見てくる。非常に居心地が悪い。

 

「お前の手料理でもてなすのが一番だと判断した。腕は確かなのだから存分に腕を振るうのだぞ」

 

「士郎、私からもお願いします」

 

「・・・はぁ、分かった。すみませんが皆さん。厨房をお借りします」

 

「兄ちゃん。手が必要なら遠慮せず言ってくれ。俺達もサポートするからよ」

 

「ありがとうございます。では――――」

 

士郎は着替えて(投影品)前掛けを貸してもらい、素早く調理に入る。

 

一方でフランク達はと言うと、

 

「今日は良き日になると良いな。ニコラウス」

 

「・・・。」

 

「貴方。固まってますわよ」

 

「しかしヒルデ・・・」

 

燃えるような赤髪の男がマルギッテの父、ニコラウス・エーベルバッハ。対して固まる夫を支えるのが栗色の落ち着いた髪の妻、ヒルデ・エーベルバッハ。

 

「緊張するのも無理はない。今日本では多重婚で盛り上がっているからね」

 

「フリードリヒ中将。婿殿も多重婚、婚約者なのだろうか?」

 

「私の聞いている限りだとそうだね。なに、会えばわかると思うがあれほどの青年ならば日本の宝だろう。血族を増やすというのも理解できると思うがね」

 

「むう・・・」

 

「フリードリヒ中将。貴方から見て衛宮士郎君は、娘に相応(ふさわ)しい人物ですか?」

 

「私としては太鼓判を押すよ。きっと、マルギッテを幸せにしてくれる」

 

「そうか・・・」

 

「貴方、何も心配は無いわ。それに・・・」

 

こちらは公表されていないがドイツも多重婚を検討しているのである。

 

理由は少子化。高齢化とは言わないがドイツも若い世代が少なくなってきているのだ。

 

原因は日本と同じようなものだろう。若者の出産による精神的、金銭的重圧。晩婚化など理由は多岐に渡る。

 

「私も娘には一人を愛してほしいと思うがね。こういう世の中にしてしまった我々にも責任がある。だからせめて――――」

 

相応しい婿を。そう思えてならないフランクだった。

 

 

 

 

 

士郎達のいる旅館に一台の車が止まる。

 

「ここが今日の・・・」

 

「まぁ、立派な旅館!」

 

「九鬼のご令嬢も来ると言っていたがまさかこれほどとは・・・」

 

三人ともやはり立派ないで立ちの旅館に圧倒される。

 

「父さん!母様!」

 

「おお!マルギッテ!!」

 

「久しぶりねぇ。元気にしてた?」

 

「はい。お二人も元気でしたか?」

 

「お前が全然帰ってこないから心配していたよ。でもフリードリヒ中将に預けたのは間違いなかった!こんなに立派になって・・・」

 

「少尉ですものねぇ・・・忙しくしているんでしょう?」

 

「まぁほどほどにです。今日は中将を含めてお話の場を設けていただきありがとうございます」

 

「・・・例の彼は今どこに?まさか娘だけに挨拶を・・・」

 

「違います。士郎はもてなしの準備に駆られています。中で落ち着く頃には彼も姿を見せますから、あわてないでください」

 

「ニコラウス。私も彼が逃げるような男ではないと保証するよ。まずは腰を落ち着けようじゃないか」

 

「うむ・・・」

 

のしのしと旅館に入っていくフランクとニコラウス。対してヒルデは、

 

「マル・・・貴女・・・」

 

「はい?」

 

「なんだか角が取れたわね」

 

「そう、でしょうか」

 

「そうよ。昔はもっとこう・・・鋭利な刃物みたいだったわ」

 

「腑抜けてはいませんよ」

 

「そうでしょうね。なまくらになったわけじゃなく・・・丸くなった、とでも言えばいいのかしら」

 

「・・・クラスメイトにも言われました」

 

「あら。今の貴女、とっても素敵よ」

 

「母様・・・」

 

「さ、案内してちょうだい」

 

「はい」

 

両親と仲良く連れ立って歩くマルギッテだった。

 

「よし、料理は完成・・・後を任せて良いですか?」

 

「任せろや兄ちゃん!」

 

「兄ちゃんのに負けねぇ仕上がりにすんぜ!」

 

こちらもすっかり打ち解けていた。それというのも士郎の包丁さばきや盛り付けなどのテクニックにとても好感を持たれたからなのだが。

 

前の世界でもこうしてシェフや板前などと仲良くなっていったので逆に清々しい気分だった。

 

「前掛けは裏口の籠に入れておけばいいわよ」

 

「頑張るのよ!衛宮君!」

 

「はい!ありがとうございます」

 

女将さんからも応援を貰って士郎は万全の態勢で食事会に臨んだ。

 

「失礼します」

 

「おお!久しぶりだね衛宮君。ニコラウス、彼が衛宮士郎君だ」

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私が衛宮士郎です」

 

「ドイツ語・・・君は喋れるんだな。私はニコラウス。ニコラウス・エーベルバッハ。マルギッテの父だ」

 

「私はヒルデ・エーベルバッハ。よろしくね」

 

「お父上がニコラウスさん、奥様がヒルデさんですね。どうぞよろしくお願いします」

 

ビシっと頭を下げてマルギッテの横に座る士郎。

 

「では食事会の開始と参ろうか。申し遅れました我は九鬼揚羽。九鬼家の長女です」

 

「貴女があの九鬼の・・・改めてよろしくお願いする」

 

そうこうしている内に料理が運ばれて来た。まずは痛まないよう調理された刺身類だ

 

「僭越ながら私が包丁を取らせていただきました。旬の船盛です」

 

「これは!」

 

「美しい・・・衛宮君にはすっかり脱帽だよ」

 

「これを貴方が?素晴らしいわ」

 

「はっはっは。士郎めやりおる」

 

ここは九鬼でも上位の旅館だ。にもかかわらず、劣るどころか熟練の技が冴え渡っている。

 

「いただきながら話そう。今回私達が来日したのは他でもない、マルギッテと婚約する気があるのか、という所だ」

 

と、フランクは話を始めた。

 

「はい。私はマルギッテと・・・」

 

「まぁまぁ落ち着きたまえ。それではご両親の不安が拭えない。まず君と交際をするに至った経緯は?」

 

「士郎・・・」

 

「大丈夫だ。いいぞ」

 

それは魔術も少なからず関わっていることだから、マルギッテは躊躇した。

 

「最初は警戒心でいっぱいでした。でも――――」

 

彼と過ごすうちそれは親愛になり恋心へと変化していったことをマルギッテは明かした。

 

「そうか。だからあの時マルは俺の事を逐一学園長に報告していたんだな」

 

「当たり前です。何かというと無理をする貴方をとがめないと貴方は・・・」

 

当の昔に死んでいたかもしれない。そう思うとマルギッテはゾッとした。

 

「英雄たるもの、正義の味方である君は常に最前線だったのだね」

 

「・・・。」

 

「正義の味方ですか・・・それが何を意味するかお分かりになって?」

 

「はい。正義とは秩序を表すもの。全体の救いと個人の救いは両立しない。けれど――――」

 

士郎は以前フランクに言ったように正義の味方とはなにかを語った。

 

「衛宮君。では正義の味方たる君はいざという時マルギッテを見捨てると?」

 

メラリと、ニコラウスの目に炎が灯った。しかし士郎は落ち着いて、

 

「以前の自分ならばそうしたかもしれません。ですが今の私にはもうその気はありません」

 

「それをどう信じろと?」

 

ニコラウスは問うた。

 

「見方が変わったんです」

 

「見方?」

 

「正義の味方が味方した方しか救えないのなら・・・私はマルギッテを守る正義の味方になりましょう」

 

「「!」」

 

「それでは正義の味方を諦めると?」

 

フランクは問う。

 

「いいえ。お恥ずかしながら、私にはマルギッテと心を同じくする女性たちが居ます。だから私は味方をする方を変える。私はもう、世界の(・・・)味方ではなく。家族の味方です」

 

それは、士郎にとって新たな願いだった。

 

「私は守りたい。私を愛してくれる人たちを。救うべきは理想ではなく今ここにいる家族です」

 

「そうか・・・きっと君がここまで変わるにはたくさんの人の力が必要だったんだろうね」

 

「はい。今でも私自身信じられません。誰かを救う正義の味方・・・そう在れたなら、どんなにいいだろうと憧れた自分に――――」

 

守りたいものが、出来た。

 

「救うすべを知らず救うものを持たないのであれば。私は救うものを持ちます。偽善と分かっていながらそれでもいいと意地を張るのはやめました」

 

そして士郎は深々と頭を下げた。

 

「ですからお願いです。娘さんを、マルギッテを俺にください」

 

「・・・。」

 

ニコラウスは黙したまま動かなくなった。だがヒルデは、

 

「衛宮君。そんなあなただからマルギッテは丸くなったのね」

 

「母様・・・?」

 

「だってこんな素敵な殿方いないわ。世界を救おうとしていた貴方が、世界の敵となっても家族を選ぶことを決意したんですもの。私は立派な決断だと思うわ」

 

「ヒルデさん・・・」

 

「ほら貴方も、意地を張っていないで答えたらどう?」

 

「・・・。」

 

ニコラウスは黙ったままだった。しかしそれは・・・

 

「う・・・」

 

ポロポロと涙が頬を伝う。娘の為に世界の敵となる覚悟をした青年を見据えて。

 

「君がマルギッテを変えてくれたのか・・・!」

 

「父さん・・・」

 

「君が自信過剰で任務しか知らない娘に愛を教えてくれたのか・・・!」

 

バッとニコラウスの手が士郎の手を掴む。

 

「どうか、どうか頼む・・・娘を・・・導いてくれ・・・!」

 

「私の方こそ、ですよ」

 

おんおんと泣く父にヒルデもマルギッテもほろり。フランクはうんうんと頷いていた。

 

「いや、失礼した君の覚悟に感化され過ぎてしまった」

 

ズビー!と何度も鼻をかむニコラウス。

 

「マルギッテ。いい人を見つけたな」

 

「はい。私は・・・士郎を愛しています」

 

「あらあら。のろけね」

 

クスクスと笑うヒルデ。

 

「無事了承が得られたという事でどうだろう、乾杯などしては」

 

「うむ!」

 

「ええ!」

 

「では・・・」

 

各々コップとジョッキを持ち

 

「プロ―ジット!」

 

「「「プロ―ジット!!!」」」

 

ガチャンと愉快気にグラスが鳴らされた。

 




はい。というわけで娘さんを俺にくれ回でした。

何というか、万感の思いで書かせていただきました。正義の味方を志す士郎が世界の敵となっても家族を守る。そんなありふれた、けれど彼には出来なかった決断でした。

父ニコラウスさんはこう、ツンデレみたいなイメージでしたそれを解きほぐしちゃうお母さんヒルデ。マジ恋本編には出てこない二人でしたけれども何とか形になっていれば嬉しいです。

旅館の話が続きまして次回も旅館(ファミリー)かな?男同士の会話とか書きたいですね。では次回!
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