ホロライブオルタナティブ~彗星に捧げる星詠みの詩~ 作:星夜見流星
「はぁ…」
浴槽で体を伸ばすとチャプンという水音が浴室に響き渡る。
本来なら彼が入るはずだったのに私が押しかけてこうなってしまった事に罪悪感を感じる。
今思えば些細な事で喧嘩して、半ば家出みたいに考え無しで飛び出して…。
お姉ちゃんにも譲れないものがあったからなのはわかってるけどわかっていてなお譲る事なんて出来なかった。
膝を曲げて体育座りになり少しだけ顔を湯船に沈める。自分の家じゃない事もあって少し落ち着かないけど今だけはそれでもよかった。
「入るぞ」
脱衣所のドアがノックされ聞き慣れた声とともに焔君が入ってくる。
「悪いけど少し出掛けてくる。十分ぐらいで戻ってくるから」
「うん。いってらっしゃい」
脱衣所から人の気配が消えてまた私一人になる。
ただ体を温めているだけなのにこうも寂しさを感じるのは何故だろうか。
他人の家だから?、それともお姉ちゃんがいないから?。
回らない頭で答えを考えながら私はただただ湯船に浸かり続けた。
ピンポーンとチャイムの音が鳴ると中から「はーい」と言う声と共にパタパタと音が聞こえドアが開けられる。
「鏡華君いらっしゃい。急に呼んじゃってごめんね」
「いえ、お姉さんにはお世話になってるので気にしないでください」
時は遡る事少し前、星街を風呂に入れた後これからどうするか考える為にとりあえずでスマホを起動するとお姉さんから『すいちゃん知らない?』とメッセージがきていた。
俺は家にいる事を伝えると『今すぐきて欲しい』と返信がきて今に至るわけだ。
「それで要件って」
「うん、どうせあの子の事だから考えなしに飛び出したから成り行きでどっかに泊まるんだろうなって思って。それで鏡華君に連絡したら案の定いるって言うから、はいこれ」
そう言ってお姉さんが渡してきたのは水色のキャリーケースだった。
「これって…」
「すいちゃんの着替えと日常品、それと置いてった貴重品とスマホが入ってるから」
「妹をよろしくね?」と付け足され断るに断れなかった俺は仕方なしでキャリーケースを受け取り泊める決心をするのだった。
「そういえば喧嘩の理由ってなんなんですか?」
「あ〜、それは本人から聞いたほうがいいかも」
「…了解しました」
「ただいま」
星街家から帰宅した俺は手洗いを済ませる為に脱衣所兼洗面所に行くと中から人の気配がしなかった。
星街が風呂に入ってたはずだが上がったのか?、と考え一応ノックしてから入るとやはり誰もいなかった。
恐らくだが貸した部屋に行ったのだろうと手洗いを済ませキャリーケースを持って二階に上がると自室の扉が少し開いていた。
「帰ったよ…ってなにやってんのさ」
扉を開くと右手に何かを持ち「あっ」と声を出して固まっている星街の姿があった。
「いや…これはその〜、えっと〜」
誤魔化そうにもいい言い訳が思い浮かばないのか落ち着きのない彼女の手には一枚のCDが握られている。
「なんだCDか」
「はい…そうです…」
言い訳するのを諦めたのか正直に言う星街の手に握られていたのは彼女の曲が入ったCDだった。
「だって自分のCDがあったら気になるじゃん…しかも一番最初に出したやつだし…」
確かに今思えば二階まで来たことなんてなかったし言ったこともなかったから知らなくて当然か。
「意外だったか?」
「意外ってわけじゃないけど初期からのファンってところはビックリした。この曲出した時って駆け出しもいいところだったから」
そう、この頃の彼女は駆け出しのアイドルで俺も偶々立ち寄ったCDショップで流れていて気に入ったから買ったのだ。
昔の俺は駆け出しアイドルだった彼女が未来では世界的に有名なトップアイドルになっていて自分とこんな関係になるなんて思いもしなかっただろう。
思い出にしたりたいのは山々だがそんなことよりもう一つ気になる点がある。
「なあ星街」
「な〜に?」
自分のCDを眺めて思い出に慕っているのか微笑んでいる星街からふわふわした返事が返ってくる。
かなり上機嫌なのか顔がニヤつきまくっているがそれが彼女から今の状況を忘れさせているのだろう。
「なんでそんな格好してんの?」
「え?…っ!?///」
俺に言われて自分の格好を見た星街は顔が赤くなると声にならない悲鳴をあげる。
理由は簡単、今の彼女は俺が貸したワイシャツだけを着た状態だからだ。
「ちょっ、見ないでよ焔君の変態!」
「いや俺悪くないだろ。それよりお姉さんからキャリーケース預かってきたから部屋にでも持っていって中身の確認しといてくれ」
そのまま背を向けて部屋を出ようとすると後ろから「どこ行くの?」と
言われたので「夕飯作ってくる」とだけ言って部屋を出る。
一応二人分作れる材料は買ってあるし今日はカレーあたりにでもするかとキッチンに行って調理を始める。
しばらく野菜や肉などを切って作る準備をしているとリビングのドアがガチャリと開いて星街が入ってくる。
キャリーケースの中に入ってあったのかその姿はワイシャツから水色のパジャマに変わっていた。
「恥ずかしいからあんまり見ないでよ」
少し強気に言っているが本当に恥ずかしいのか顔を背ける彼女を見るとアイドルとして社会で仕事しているが結局は年相応の女の子なんだとよくわかる。
「悪い悪い。直ぐに作り始めるからソファにでも座って待っててくれ」
星街に「泊めてもらってるし手伝うよ?」と言われたが客人に手伝わせる訳にもいかないので「一人で出来るから別にいいよ」と言って手を動かす。
下準備も終わり鍋に材料を入れて炒めていると星街が近くまで来てじっと見ていた。
「ん?どうした?」
「いや、随分手際がいいなって」
「そりゃあ一人暮らしなんだしこれぐらいできなきゃ話にならないだろ」
「そういえば焔君っていつから一人暮らししてるの?」
「んー?確か小学校卒業して直ぐだったかな。だからそんなに長くはないよ」
話しながら調理を続け具材が炒め終わったところに水を入れて煮込む。あとは煮込み終わったらルーを入れれば完成だ。
「それより今日はいいとして明日からどうするんだ?」
「明日?」と首を傾げる彼女から察するに明日からどうするかを考えていないらしい。
「仕事があるんだからいつまでもこのままってわけにもいかないだろ」
彼女にはアイドルとしての仕事と配信者としての配信がある。パソコン自体はあるが彼女の自宅と違って家には配信機材なんてものはないしどうするのだろうか。
そんなことを考えていると当の本人は「あーそんなことか」と言った。
「別に仕事はここから行けばいいし配信も休むから大丈夫」
「大丈夫って…お前なあ」
リビングのソファに座ってスマホを弄り始める星街を横目に俺もスマホを取り出してSNSをつけると画面上に一つのアカウントから『諸事情によりしばらくの間配信をお休みします』の一文が流れてくる。勿論そのアカウントの持ち主は目の前にいる彼女だ。
「これでよし」
「行動力の化身かよ」
あまりの行動の早さにそれしか言葉が出なかったが前から行動に移すのは早かったし今更だったか。
「こういうのは早いほうがいいの。それよりなんか面白いものってない?」
「面白いものって言われてもな…」
リビングにはテレビしか置いてないしゲーム機も部屋に置いてある。それに星街のお気に召すゲームがあるかと言われれば微妙だろう。
考えてる姿を見てか星街がソファの上で体育座りをして「あっ」と言った。
「じゃあさ、焔君について教えてよ」
「俺について?、それなら散々話しただろ」
「料理できるなんて聞いてないんだけど?」
「聞かれてないからな」
他愛もないやりとりをしながら話をしているとセットしていたタイマーが鳴り出し、最後の仕上げをしてカレーが完成した。
「ほら、カレー出来たぞ」
そう言うとソファに座ってスマホをしている星街は「はーい」という声と共にこっちに歩いてくる。
「軽く洗い物しちゃうから先によそって食べていいぞ」
「じゃあお言葉に甘えて」
カレーを盛り付けた星街はテーブルに皿を置いて椅子に座ると「いただきます」と言ってカレーを乗せたスプーンを口に運ぶ。
「美味しい」
星街から感想を聞き「そりゃどうも」と言って調理器具を洗う。
美味しそうに食べている彼女が辛いのが好きというのを彼女の姉から聞いていたのでいつもより辛めに作ったのだがお気に召したならなによりだ。
俺も洗い物を済ませ自分の皿にカレーをよそり星街の向かい側の席に座って食べ始め、軽く話しながら食事をしていきしばらくすると俺達の皿からカレーは綺麗になくなっていた。
「ご馳走様でした」
「お粗末さま。片付けはやっとくから置いといていいぞ」
「いいよ。やってもらいっぱなしは嫌だから私がやる」
俺が立ち上がると星街も立ち上がり先に自分の使った食器を流し台に持っていき慣れた手つきで洗い始める。
(師匠は絶望的に家事が出来ないし奈々実さんはうちじゃ家事をしないように頼んでるから誰かがこうしてるのを見るのはいつぶりかな…)
思い出すのは今は亡き母の姿でどうしても懐かしさよりも寂しさが勝ってしまう。
「焔君のも頂戴、ってどうしたの?」
「え?」
「浮かない顔してるからさ」
「そんな顔してたか?」と尋ねると「うん」と頷くすいせい。
そんなに顔に出るタイプじゃないと思っていたがもしかしたらこの状況に気が緩んでいたのかもしれない。
「ま、気にしないでくれ。それじゃあ風呂入ってくるから後は頼んだ」
星街に心配させないように言ってから食器を渡してリビングを出ようとすると後ろから「オッケー、いってらっしゃーい」と聞こえ俺は風呂に向かうのだった。
「寝れない…」
あれから焔君と話しながらぐだぐだ過ごしていたら気付けば日付を跨いでおり、今日はもう寝ようと借りた部屋に戻ってベッドに入ったのだがいつもと違う環境のせいかなかなか寝れないでいた。
「ぬいぐるみ…は流石にないか」
ベッドから出てキャリーケースの中を見てみるが入っている物は数日分の着替えと化粧品ぐらいで目的の物は入っていなかった。
「焔君まだ起きてるかな」
自然と体はベッドから起き上がり部屋の外に出て隣の部屋のドアノブに手を掛ける。
ゆっくりとドアノブを回して音を立てないように部屋に入るとベッドでは規則正しい寝息をたてて眠っている焔君の姿があった。
この数ヶ月間彼を近くで見ることは多かったがこんなに無防備な姿を見るのは初めてだった。
「今なら簡単に倒せるのに」
なんども戦闘訓練に付き合ってくれたけどいまだに一回も勝てたことはない。それどころか触るので精一杯の有様だ。
彩歌さんはゆっくり慣れていけばいいと言ってくれたけど焔君にはあまり時間が残されていない。
「うぅ…」
そんなことを考えていると目の前で寝ている彼が突然うなされだす。
「父さん…母さん…」
恐らくだけど彼は悪夢を見ているのだろう。
定期的に悪夢を見ているのは本人から聞いていたけどここまで辛そうとは思っていなかった。
「焔君…!?」
彼の右手を握ると頭の中にイメージが流れ込んくる。
そのイメージは小さな男の子が女性に抱きついて笑った直後に建物が燃える景色に切り替わり私は一瞬の変化に驚いて手を離してしまう。
「今のって…」
言い表すならまさに地獄絵図と言っていいだろう。視線を落とし握っていた手を見ると今のイメージのせいか少し震えていて視線を戻し彼を見ると思いたくないことを思ってしまう。
(もし今のが焔君の記憶だとしたら…)
彼がいない時に彩歌さんが言っていた「大切な家族を失い、ただ一人生き残った鏡華は復讐の為だけに生きている」という話の理由は恐らくこれの事だろう。
こんな体験をすれば復讐に囚われてもおかしくはないし私なら間違いなく精神が壊れるはずだ。
いまだにうなされている彼の手を握り直してもイメージは見れないけど寝ていても私が近くにいるとわかって安心したのか少しだけ彼の表情が和らぐ。
(今ぐらいいいよね)
私は彼のベッドに潜り込み抱き枕のように抱いて目を閉じると彼の体は温かくて心地よかった。
そのおかげか今まで寝れなくて困っていたのに急な眠気に襲われる。
(あくまでも焔君の為であって寝れないからじゃないから…)
眠気に抗えるわけもなく限界が近づいていき起きた時の言い訳を考えながら私の意識は深く沈んでいった。
やっと更新出来るぐらいにはスランプ抜け出せたので久しぶりの本編。
一応新作も同時進行で書いてたので近いうちに出せそうです。
今のところは一作品数話分完成してるので見直しが終わり次第連載開始しますのでその時はよろしくお願いします。世界線は一緒ですのでキャラはこっちにも関わらせる予定です。
すいちゃんのキャラ崩壊について
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流石にし過ぎ
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いいぞもっとやれ