ホロライブオルタナティブ~彗星に捧げる星詠みの詩~   作:星夜見流星

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最近創作活動全般の調子がいい


夢と思い出とスランプと

目を開ければあたりは薄暗く、街灯の灯りが周りを照らす。月は雲に隠れているらしく見えないが雲の隙間から星々の輝きは見えていた。

 

 

星が揺らいで夢を見ている、焦がれたその音が待ってるの

 

 

奥にあるベンチには少女が座っており歌を歌っている。後ろ姿だけだがその姿はとても可憐で美しかった。

 

 

キラめくカラー秘めてる日々に伝えるこのメロディ

 

 

頭に被るチェックの帽子と片方を青のリボンで結んだ水色の髪で誰だかすぐに分かり彼女の名を呼ぶ。

 

すいちゃん

 

自分がそう呼ぶと歌うのをやめこちらを振り向いた彼女は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

「星を紡いで夢を描くよ、焦がれたその声が呼んでるの」

 

(ん…俺は一体)

 

意識を失っていた鏡華は寝覚めのせいではっきりとしない脳を使い最後の記憶を思い出す。

 

(そうか…俺薬の効果切れで倒れて)

 

「キラめくカラーまとった君に届けるこのメロディ」

 

(この歌…)

 

ゆっくり目を開ければ空を見上げながら自分の頭を膝に乗せ撫で続けているすいせいの顔が見えた。

 

「すい…ちゃん」

 

「ん、やっと起きた」

 

歌うのをやめ微笑んでる彼女に鏡華は話しかける。

 

「俺、どれぐらい寝てた…?」

 

「ほんの五分ぐらい」

 

「ごめん、手間かけさせて」

 

「これぐらい別にいいって」

 

笑うすいせいに鏡華は話を続ける。

 

「夢を見てたんだ…歌ってるすいちゃんを眺める夢」

 

「なに?ストーカー?」

 

「そんなんじゃないって」

 

「悪い、足辛いよな」と言い起きあがろうとする鏡華をすいせいは「全然辛くないから」と言って寝かせたままにする。その後少しの間二人で夜空を見ているとすいせいが意を結したように声をかける。

 

「ねぇ鏡君、一つ相談してもいい?」

 

「内容によるけど俺でいいなら」

 

「実はね、すいちゃん今歌がスランプなの」

 

「え?あのスランプなんて事全く知らなそうな顔して歌ってるすいちゃんが?まじで?」

 

「鏡君うるさい」と少し低い声で言うすいせいの圧に負け「あ、はい」と言う鏡華。

 

「今日みこちとそらちゃんに話して歌も聞いてもらったんだけど二人は変わらないって言うの。でも自分じゃ分からなくてね」

 

すいせいの顔を見ると夜空を見続けるその瞳はまだ迷いがあるのか少し曇って見えた。

 

「ならさ、さっきの続き歌ってよ。NEXT COLOR PLANET。丁度あの日この場所で聞いた歌だしね。」

 

すいせいは鏡華がこんな事を言うとは思わなかったのか少し驚いたが直ぐに「わかった」と言って歌い始める。

鏡華は目を瞑りそれを聴く事に集中する。曲がない為アカペラだが自分達を吹き抜ける風の音などが重なって心地よかった。

しばらくしてすいせいが歌い終わると本人から「どう?」と聞かれる。

 

「確かにスランプって事はわかった」

 

「やっぱり…」と言って落ち込む彼女に鏡華は「でもね」と続ける。

 

「今回のスランプ、そんな大した事じゃないよ」

 

「え?」

 

鏡華のその言葉を聞いたすいせいはきょとんとしていた。

 

「すいちゃんさ、そろそろライブじゃなかったっけ?」

 

「そうだけど」

 

「だから自分でもプレッシャー感じてるんでしょ?」

 

すいせいはみことそらに言った事をすんなり当てられた事で一瞬だが言葉を詰まらせた後に「う、うん」と返す。

 

「ただ問題はそれだけじゃないんだよ、最近のすいちゃん見てると誰かの為に一生懸命歌ってるのがわかる。でもそれは誰かの為に過ぎないんだ」

 

「なに?誰かの為に歌うのがだめだって言うの?」

 

すいせいは自分の努力が否定されたと思い怒り気味に低い声で言うが鏡華は「そうじゃない」と言い返す。

 

「誰かの為に歌うのはいい事だけどね、その誰かにすいちゃん自身は入ってる?」

 

「っ!?」

 

そう言われた彼女はやっと気付いたようだった。鏡華が伝えたかったのは誰かの為にという気持ちが強すぎて彼女自身の()()()()()()()()()()()()()という根本的な気持ちが無くなっていたのだ。

 

「初心忘るべからずってね、俺が寝てる間に歌ってた時は自分が歌いたいから歌ってたみたいだけど頼んだ時は俺の為に歌ってくれたからそれで気付いたよ」

 

すいせいは鏡華に言われて気付かされた事を考えていた。確かにライブが近づくにつれもっと良くしようとして自分の好きなように歌う事が無くなっていた。だから三人でカラオケに行き自分の好きなように歌っていたから聴いていた二人からいつもと変わらないどころか生き生きしてると言われたのだろう。

 

「じゃあさ、もう一つお願いしてもいい?」

 

「勿論」

 

「最後にもう一曲聴いてください」

 

それを聞いた鏡華は自身の右手をすいせいの頬を撫でるように置き、微笑みながら返す。

 

「喜んで」

 

すいせいは深呼吸をしてこの場にいるただ一人の観客に最後に歌うその歌の曲名を言う。

 

「それでは聴いてください、自分勝手Dazzling」

 

すいせいが歌い始めると鏡華はまた目を瞑り聴く事に集中する。聞こえるのは彼女の歌声、やはり吹き抜ける風は心地よく彼女の歌が子守唄になり眠気に誘われるがここで寝たら間違いなく勿体ない。プロのアイドルが自分の為だけに歌っているのだ、そんな貴重な体験を寝て過ごすなんてしたくはなかった。

だが幸せな時間は直ぐに終わりを迎えるというように歌も終わりを迎える

 

 

今宙繋ぐ今夜、アルタイル&ベガ

 

 

すいせいが歌い終わると「ふぅ…」と言い鏡華の方を見る。

 

「まさか公開されてない新曲歌うとは思わなかったよ」

 

すいせいはきょとんとした後に急に「あははは」と笑い出した。鏡華が「何がおかしい」と拗ねると「ごめんごめん」と言い説明する。

 

「そっか、鏡君知らないんだ」

 

「何が」

 

「今の歌ね、大体後一時間後にMVで公開されるの」

 

「ほら」と言い自分のスマホで動画サイトにある自身のチャンネルを表示させ画面を見せるすいせい。鏡華は見せられた画面を見るとそこにはさっき本人から聞いた曲名と今日の日付そして二十一時公開の文字が書いてあった。

 

「全く知らないんだが?」

 

「そりゃあみんなびっくりさせようとして二時間前ぐらいにサプライズで発表したからね」

 

「そんなサプライズいらねぇ…」

 

「あーあ」と言いまた夜空を眺める鏡華につられてすいせいも夜空に散りばめられた星を眺める。

 

「なんかこうしてるとあの日を思い出すな」

 

「そうだね」

 

二人はこの場所で初めて出会った夜を思い出す。鏡華からしたらあの日を境に人生が変わり、すいせいからしたらあの日この鏡華という魔術師に助けられ魔術に関わり始めた。

 

「あれから色々あったな、少なくとも一緒に生活する事になるとは思わなかったよ」

 

「何?嫌だった?」

 

「嫌というより異性でしかもアイドルだぞ?有名人が異性と生活してますなんて出回ったら只事じゃ済まないだろ。今は警護って言う言い分があるけど前はなかったからな?バレてたら今頃他のファンに殺されててもおかしくないからな?」

 

鏡華がすいせいと生活出来ているのは鏡華が彼女の所属事務所と警護関係の契約を結んでいる為でありそれを結ぶ前はただの一般人である為バレたらスキャンダル間違いなしだった。その為内心ヒヤヒヤしながら生活していたのは言うまでもないだろう。

 

「でも鏡君ならそこら辺の奴になんて負けないでしょ」

 

「一般人に本気出せねぇから!」

 

そんなやりとりをしている二人はまだまだ終わる気がないのか夜風に当たりながら話を続けるのであった。




やっと次回から過去編に入ります。

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