摩天楼が魅せる煌めき   作:筋肉同盟カフェ推し

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カフェが実装されないあまり発狂して書いた。
続くかどうかは未定。


選抜/出逢い/異次元疾走

 また、勝てなかった。

 

 唯一抜きん出て並ぶ者なし、そんなスローガンを掲げる超大型ウマ娘育成学園である中央トレセン学園が誇る第2レース場。

 

 8人のウマ娘が走り競い合う、選抜レースと呼ばれるもの。トレーナーが契約するウマ娘を見つけ、そしてウマ娘が契約するトレーナーを見つけるためのレースで、彼女は"また"負けた。

 

 長く美しい黒髪に、透き通る様な金眼。スレンダーな身体付きに物静かでミステリアスな雰囲気を醸し出す彼女ーー"マンハッタンカフェ"は、眉目秀麗なウマ娘の中でも一際目立つ、まるでモデルか女優と見紛うほどの美貌だった。

 

 当たり前だが、レースに勝てなかったからと言ってスカウトが無いわけではない。当然だ、勝ったウマ娘しかスカウトされないーー勝ったとしてもスカウトされるかも分からないーーのであれば、いくつもあるレースに出られるウマ娘が居なくなってしまう。原則、トレーナーの付いていないウマ娘はどれほど強くてもシリーズレースに出る事は出来ないからだ。

 

 しかし、だからと言って負けていい訳でもない。これもまた当然だ。負けたウマ娘より、勝ったウマ娘を欲しがるのも道理だからだ。

 

 マンハッタンカフェを憂鬱にさせていた事はまた少し問題が違う。トレーナーが自分を欲しがってくれない、というのは問題ではなくーーいや、問題ではあるのだがーー負け方にフラストレーションを抱いていた。

 

 単純に加速しきれない。

 

 自分の距離適性が長距離に尖っている、良く言えば生粋のステイヤーである事を自覚していた彼女に取って選抜レースの1200〜2000メートルは余りにも短かった。

 

 要するに、加速する為の距離が足りないのだ。じゃあスタート開始から加速しろというのではただの素人、人間のレースとはわけが違う。

 逃げウマ、先行ウマ、差しウマ、追い込みウマ、それぞれの戦術ややり方、運やバ場状態などが複雑に組み合わさって形成されるのが一つのレースなのだ。でなければ距離適性や脚質という言葉そのものがあるわけが無い。

 

 面倒な事は続く。

 何処のトレセンや人間のレースに関わるトレーナーにも居るものだが、"見た目"だけで自分を選んでくる輩だ。まだ自分の見た目が綺麗だから、で選んでくるだけならマシなほう。下心剥き出しの下衆も、トレーナーの中にはいるのだから救えない。勿論、全員お断りだ。勝てないウマ娘にも、トレーナーを選ぶ権利はある。

 

 ……何度目になるかの数え忘れた溜息、身体を軽く解すと、次のレースに備えて身体を慣らしておこうとした所で背後から声を投げかけられた。

 

「酷いなお前。」

「……開口一番にそれですか。」

 

 次は悪口。コソコソ言わないだけマシなのだろうか。面と向かって言う奴も大概失礼か。いや、そもそも悪口を言う時点で失礼ですね。精神的な疲労が来ていたのか、マンハッタンカフェの頭は軽くバグっていた。

 

 振り返れば、カフェとは対照的な、白い髪をした背の高い男性が立っていた。暑いからかスーツの上着は片手に掛けており、強面というほどでもないが、鋭い眼つきをした線の細い男性だ。かなり若い、新人トレーナーだろうか。

 シャツにはURA公認トレーナーバッジが飾られているあたり、物見遊山に来た地方トレーナーではない正規の中央トレーナーだろう。地方トレーナーのバッジとは形が違うから直ぐにわかる。

 

「……ステイヤーだな、お前。かなり長距離に偏ったステイヤーで、更に差しウマと来た。さっきのマイルコース……1600じゃとても足りんだろう。次の中距離2000コースでも加速しきれんぞ、あの走りでは。」

「…………ですが、私は差し以外殆ど経験はありません。一応、先行が出来なくもないというほどですが、やはり差しに比べれば一段劣る。」

 

 話していて自分でも嫌になるほどの尖り具合。性格的な事を考慮せずとも、性能だけで癖ウマと呼ばれる部類なのも自覚済みだ。

 

 今度は青年トレーナーが首を振り、溜息を吐く番だった。カフェの返しに、「違う、そうじゃない」と仕草で訴えていた。……流石に、少しムッとなって顔を顰めたことは許されたい。

 

「それでも駄目だ。お前は、自分で自分の適性も分からんほどバ鹿なウマ娘でもないだろう、見ていれば分かる。だからこそ従来の走り方なら天地が返らない限り、互いにメイクデビュー前……才能の差はあれど、基礎能力の変わらないような実力の近い相手に。いや、格下にですら中距離で勝てるものかよ。」

「…………では、どうしろと?」

「簡単な話だ。其処を走れ。」

 

 青年が指を刺したのは、コースの【大外側】。観客席ギリギリの、通常走るのなら有り得ないような距離を稼ぐコース。

さしものカフェも、此れにはその金眼を丸くして見開いた。それはそうだ、此れでは中距離コースではなく、最早長距離コースのそれに近い。

 

「………何をバ鹿な。」

「勝てない奴が、この話している僅かな時間で勝てる様になるならバ鹿な方法を取るしかないだろう。騙されたと思って走ってみろ。但し、走り方は差しじゃない。そうだな……全体的なレース運びで言えば先行だ。だが差せ。先行しながら差し脚を使え。お前のスタミナなら可能だ、僕が保証する。」

 

ーーー☆ーーー

 

 今日4度目の選抜レースが始まった。

距離は2000、中距離にカウントされる最低値の距離だ。当のマンハッタンカフェは、運良く外枠8番スタートだった。

 

 出走前、ゲートの中で彼女はまだ躊躇っていた。無理もない話、あのトレーナーが言ったことは常識の範囲では凡そ考えられない妄言だったからだ。スタート直前の今ですら、カフェは躊躇っていた。

 

 対照的に、観客席でレース場を俯瞰する青年は『いける』という確信があった。いくら長距離専門のウマ娘だったとしても、本来なら負けるコース取りと戦法なのは分かっている。

だがマンハッタンカフェは頭が良い。成績云々ではなくーーカフェは成績も上位だがーーレースに於ける勝負の勝ち筋を考え、掴み取れる頭脳があると踏んでいた。

 

 さらにあの恐るべきスタミナ。マイルコースとはいえ、1レース走り終えたなら多少でも息切れは起こすものだ。ステイヤー門で有名なメジロ家のウマ娘ですら、メイクデビュー前ではマイル一本、本気のレースでは息もつくだろう。

 

 マンハッタンカフェはどうだ。息切れどころか、汗一つかいていない。体温を下げる為の発汗能力に関わる為、一概に汗をかかない事が良いとは言えないが、少なくともマンハッタンカフェのそれは体質的なものではない。

単純に、"まだ走れる"というオーバースペックとも言うべき圧倒的スタミナ量から来る物だと思っている。青年は腕を組んで、観客席から静かに選抜レースのゲートが開くのを見守った。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。……スタート!さあ始まりました第4回選抜レース、中山レース場を模したこのコース、距離は2000!意気揚々と先頭を行くのはロードジェット、流石の逃げ足です。続くのはブレイブオンリー、一バ身開いてオーレルレイヤー、その後ろ…ッ……!?』

 

 会場が騒つく。それもそうだろう、自分達が目にしている光景が"有り得ない''ものだったからだ。実況ですら一時的に言葉を失って呆然としているではないか。

一人だけ笑っていたのは、青年のみ。

 

 ……観客席ギリギリ、コースの外側も外側、ブロックという言葉の存在しないコースをたった1人だけ。美しい黒髪を靡かせて、駆け抜けていたからだ。

 

『……こ、これは!?マンハッタンカフェ、マンハッタンカフェだけがコースの超絶外側を駆けています!位置取りは……せ、先行でしょうか。他のバ群と余りにも離れていて測定が非常に難しい位置となっております……!』

「……そうだ、それで良い。」

 

 ほくそ笑む青年とは裏腹に、やはりマンハッタンカフェは走りながらも躊躇いがあった。だが、今更元のコースに戻れるはずもなく、とんでもない地雷を抱えたかもしれぬ不安と共に走るしかなかった。

 

「…………負けたら噛み付いてしまいましょうか。」

 

 しかし、やって見れば分かるとはこの事か。大外側を征くこの走り、一見デメリットだらけに見えて意外とそうでもない事にマンハッタンカフェは気付いた。

 

 まず、先行/差しウマにとって恐ろしいブロックーー周りをウマ娘で囲まれ、前に上がれず外側にも出られない状態ーーが起こり得ない。これは差しウマであるマンハッタンカフェに取って、圧倒的に有利な条件だ。

 

 次に、誰が何処にいるのかよく分かる。逃げているロードジェットだが、マンハッタンカフェの異次元極まる走りに面食らったのか、やや掛かっている。逆にブレイブオンリーやオーレルレイヤーは苦し紛れの一手とでも思ったのか、スピードを落として落ち着いた。後方ではノンバレット、コルネットリズムがゆっくりと外に膨らんで追い込む姿勢を整えている。

 

 マンハッタンカフェを除く7人の順位が緩やかに入れ替わりながらレースが進み、残り700メートル、まだ最終コーナー手前だが、マンハッタンカフェはゆっくりと加速し始めた。

 

「………これを長距離と捉えるなら……此処から加速、し切れるはず……!」

 

 じわじわと上がっていくマンハッタンカフェ。残り400メートル、コーナーを超えた所で、芝を蹄鉄で強く踏み締める。一瞬の溜め。呼吸を深く吸う。金色の瞳でゴールラインを見据えて……黒い弾丸となって、マンハッタンカフェは飛び出した。

 

『さあ、中山レース場を模したトレセン第2レース場!最終コーナーを切って残り400メートル、先頭は依然としてロードジェッ……!?……ま、マンハッタンカフェが上がってきました!大外も大外、誰も妨害不可能な超大外から、マンハッタンカフェ、龍が昇るような凄まじい加速!』

「ちょっと、ウソでしょ……ッ……!?」

「なにそれ……!?」

 

ーーいける!

 

 もう内側のバ群は見ない。姿勢を前傾姿勢に入れ替えて、ストライドを大きくする。今までの中途半端なスピードではない、時間を掛けて加速しきったマンハッタンカフェ本来のスピード。余りにも鋭い末脚を使い、ゴールラインを目掛けて一気に突き進む。

 

あのゴールラインは、"獲物"だ。

私の"獲物"。誰にも渡さない。

 

 僅かな一瞬だけ、カフェが黒いオーラに包まれるのを認識したのは大量の人やウマ娘がいるレース場で僅か五人。

 

一人はチームリギル率いる東条ハナ。

一人はチームスピカ率いる沖野。

二人は、生徒会所属のウマ娘としてレースを見にきていたシンボリルドルフ、エアグルーヴ。

 

 そして、残る一人が誰なのかは言うまでもないだろう。

 

「……その状態に"入れる"か。メイクデビュー前というのに、本当に恐ろしい」

 

 青年は観客席を後にして、レース後にトレーナーがスカウトの為に殺到するだろうレース場へ向かった。

 もう結果は見なくても分かる。ああなったウマ娘がどれだけ恐ろしいのか、そしてこのレースに於いて止めるための手段が存在しない事を、彼はよく知っているからだ。

 

「……お前の勝ちだ、おめでとう」

『ーーマンハッタンカフェ差し切ったァッ!!!一着はマンハッタンカフェ!マンハッタンカフェです!!!二着にブレイブオンリー、三着ノンバレット、四着……』

 




[マンハッタンカフェ(メイクデビュー前)]

【バ場適正】
芝A/ダートG

【距離適性】
短距離G/マイルG/中距離E/長距離C

【脚質】
逃げG/先行C/差しB/追い込み/D

【速/体/力/根/賢】
91/211/99/78/142

【スキル】
・【Darkness-ghostliner】Lv1(only)
・昇り龍(Rare)
・深呼吸

トレセン評価/E+

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