摩天楼が魅せる煌めき   作:筋肉同盟カフェ推し

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史実ではマンハッタンカフェ、新馬戦3着なんですよね。他にも身体が弱かったりした事でも有名です。凱旋門にも行ったりG1長距離三連勝したり名馬なのは間違いないんですけど、実は途中まで無名だったらしいんですよね。生でレース見たかった……。

まあそんなカフェですが、ウマ娘の世界ではどんなレースを辿ってくれるのか今から楽しみです。サイゲくん、実装はよ。


初出走/向かい風/ゴーストライナー

 マンハッタンカフェにとって初のレースであり、かつ、トゥインクル・シリーズへの出走登録許可が降りるかどうかのレースは生憎の雨の日だ。 

 パドックに進むマンハッタンカフェは、似合わない体操服姿。顔立ちが美しいだけに、野暮ったい体操服が少し浮いている様に見えたが、まあレースに影響は無いし構わないだろう。

 彼女への助言は最低限。伝えたのはほんの一言だけ。

 

「勝ってこい、マンハッタンカフェ。世辞でも激励でもない、事実としてお前なら勝てると僕は確信している。」

 

「……ええ、見ていて下さい。トレーナーさんの確信が間違いではないと証明します。必ず、私がゴール板を最初に通り抜けて見せますから。」

 

 ーーー☆ーーー

 

 

『不運にも雨の降る中で行われますメイクデビュー。東京芝レース場2000メートル。一番人気はこのウマ娘【トレジャー】、素早い逃げ足に期待です。二番人気は【マンハッタンカフェ】。選抜レースでは中々に異質な走りを見せたとか。』

『私一押しのウマ娘です、気合を入れて頑張って欲しいところですね。』

『好走に期待しましょう。三番人気は【イサオヒート】、続く四番人気は【ブライアンマーチ】、五番人気は……』

 

 パドックにいる8人のウマ娘達が、実況によって次々と紹介されていく。マンハッタンカフェなら一番人気に押されてもおかしくないとは思ったが、やはり距離適正が人気の差に繋がったのだろうか。とはいえ、一番人気の茶髪が愛らしいウマ娘ーー【トレジャー】も長距離寄りのウマ娘ではあるが、マンハッタンカフェほどの尖り方ではない。

 

 当のマンハッタンカフェは、緊張もなにもなく、静かに目を閉じてゲートの中で待っていた。観客席からは彼女が口元を僅かに動かしている程度にしか見えないが、何か自己暗示でも掛けて落ち着かせているのだろうか。なんにせよ、本番に強いウマ娘ならそれに越した事はない。

 

「……ええ、大丈夫。ちゃんと駆け抜けて見せますから。【貴女】も……いえ。【貴女】にも勝ちます。トレーナーさんの為に、一番で。」

 

 ほどなくして、全ウマ娘がゲートに収まった。東京芝レース場に軽快なファンファーレが鳴り響くのと同時、ゲートの中でウマ娘達が一斉にスタート態勢を取る。

 

『……さあ、ゲートが開いて各ウマ娘スタート致しました! 全員出遅れる事なく、綺麗なスタートを切っていきます。』

『やはりハナに立ったのはトレジャー! 

 意気揚々と先頭を進んでいきま……おっと、最後方に位置します二番人気マンハッタンカフェ、僅かによれた。大丈夫でしょうか。』

 

 ーーー☆ーーー

 

「……分かってはいましたが、やはり"違う"。他の方が邪魔で、レーンを上手く位置取れない……!」

 

 当たり前だが、練習と本番は似て非なるもの。これはレースに限らず、あらゆる事に共通するだろう。

 マンハッタンカフェ一人の練習であれば、どのコースをどのスピードで走るのかある程度好き勝手に決められた。しかし、これは"レース"。

 当然、二番人気のマンハッタンカフェをマークしているウマ娘も居たのか通るコースを綺麗に塞いでくる。元々、外側を走るつもりだったとはいえ"差しを牽制"するようなブロックのせいで僅かに振れて、予想よりも大きく外に出てしまった。

 

「(……落ち着いて、大丈夫。……雨で視界も悪いし風も相変わらず辛いですが、練習しただけあってスピードは上手く出せている。このまま、最終コーナーで加速して差し切る……!)」

 

 東京レース場は、スタートして直ぐに第1、第2コーナーが入ってくる。緩やかに下り坂になっている第2コーナーで、マンハッタンカフェは僅かに加速した。坂の重力に無理に逆らわず、脚を綺麗に流して曲がり切る。想定外ではあったが、予想より外に出た事で自分の位置がより鮮明に見えたのは幸運だった。

 

「(今、私は……おそらく6番手。先頭はトレジャーさんのまま。ただ、あのペースなら詰めきれないほどの距離は開かない。まだ私のペースで良い。そうでしょう、【貴女】も。)」

 

 レースになると、彼女には併走する"ナニカ"が見えている。それは誰なのか、そもそもウマ娘なのかも定かではない白い光の塊のようなもの。辛うじて流線型を描くフォルムをしていることだけが分かる"ナニカ"は先行から差しの位置で、最後には誰よりも速く鋭く駆け抜けていく。

 マンハッタンカフェはナニカのお陰でスピードを"見慣れて''いる。それゆえに、逃げるトレジャーの速度を見て掛かる事無く、順調にレースを進めて行けたかの様に思えた。

 

 だが、マンハッタンカフェは自らの失策を悟る。身体に異変が起こったことを察知したのは、第2コーナーを曲がった後の直接ーーその半ばだった。

 

「(……ッ、思ったよりも体力の消費が激しい! 走り切る事はできます、しかし、この体力の消耗では……脚を最終直線の、差し切りの為に残せない!)」

 

 なまじ己の異変に気がつく賢さがあったからこそ、マンハッタンカフェは動揺した。それで掛かったりする事こそ無かったものの、間違いなく焦ってはいた。

 走ってきた距離は、目算だが凡そ1000メートルほど。こんな短距離で消耗が分かるほど消耗するなど、自分の身体では考えられないペースだった。

 

「……そうか、雨。雨のせいで風がより冷たく、そしてバ場を荒らして進む体力を奪ってきている……!」

 

 こればかりは避けようのない、天気という名の理不尽な自然現象。これが快晴であったなら、マンハッタンカフェの描いていた通りにレース運びが出来たはずだ。だが、事実として雨は降ってしまっており、現在進行形でマンハッタンカフェのスタミナを著しく削り取っていた。

 トレジャーに追いつける、と思ったのも当然だ。トレジャーは雨を計算に入れて、逃げ切れるような速度に、しかし体力を使い果たさないようなスピードに抑えて逃げていたのだから。

 

 己の未熟に気がついてももう遅い、マンハッタンカフェは顔を歪めて追走する。最早いちかばちか、体力のあるうちに加速して抜いてしまおうか。自慢のスタミナが尽きるかどうか、一発の運否天賦に任せる事を考えた直後、ふと黒崎の言っていたことが脳裏に浮かんだ。

 

【いいか、風を避けようとするな。その感覚を覚えておけ。風を受けている時の体力の減り方が分かれば、"違和感''に気付ける。】

 

 ……風を避けるな。スプリントの為に直下降を何度もしている時に言っていた言葉だ。風を受けているのは今もわかる。それのおかげで素早く異変に気がつけたのだが……違和感とは、何のことだったのか。

 考えなさい、マンハッタンカフェ。違和感の正体を探る為に、マンハッタンカフェは意識的にスピードを落として下がった。今、無理に加速しては打開策を思いついた時にスタミナ切れで手遅れになりかねなかったからだ。

 直線が終わり、第3コーナーへと入っていく。このまま第4コーナーを越えれば上がり坂のある直線に入る。そこで差し切り態勢に入らなくてはならないのだが、未だに"違和感"に気づけない。

 此処までか、そう思った直後。第3コーナーを曲がる時、マンハッタンカフェの身体に再び異変が起こる。

 

「……脚が、一瞬軽くなった。それに風を受けなかった……?」

 

 はっとなって正面を見た。自分の前をいく集団も雨で消耗していたのか、少しでもスタミナを残そうと内側へ固まるようなバ群を形成しつつあった。偶然ではあるが、マンハッタンカフェが第3コーナーで内側に振れた事によって、バ群が『壁』になっていた。

 風を避ける為の壁。スピードを邪魔して、体力を奪う冷たい風を妨げる壁。

 

 気づいた時には、マンハッタンカフェは既に緩やかにバ群の内側へ沈んでいた。

 

「気づいたな、"スリップストリーム''に。そうだ、それで良い。お前が如何に優れたステイヤーでも、これは中距離戦。そのスピードを維持する体力消費を少しでも抑えて、突き"差せ"。」

 

 ーーースリップストリーム。

 

 実際の陸上競技やカーレーシングでも行われる、目の前を走る相手を風避けにする技術だ。高速で走る時には、我々が想像しているよりも遥かに強く『空気抵抗』というものが行手を阻む敵になる。

 競い合う敵を利用したスピードとスタミナの両方を活かす技術。差しウマであるマンハッタンカフェには必須とも言える技術を、彼女は自身で気がついて習得した。

 

 口で教えて覚えるのではない、土壇場で自らの力で覚えた技術というものは、より鮮明に記憶にも身体にも残る。黒崎はこの技術の重要性、そしてこれから先のレースを見据えて、敢えて口で教える事はしなかった。

 

 これは[マンハッタンカフェ]という賢いウマ娘を信用していたからこその行動でもあった。もしこれがサクラバクシンオーのような単純直情なウマ娘だったりしたら、恐らくそんな器用な真似はできないだろうと素直に教えるつもりではあった。

 

『さあレースも終盤、第4コーナーへ入っていきます。先頭は依然変わらずトレジャー! 3バ身開いて続く2番手にはマイネルライツ、3番手にはイサオヒート、4番手には、ッ……!?』

 

 メイクデビューを見にきた観客も含めて、実況までもが息を呑んだ。先ほどまで後方で控えていたはずの漆黒ーーマンハッタンカフェが、イサオヒートを威圧するような位置でピッタリと後ろに追従していたのだから。

 

 そのイサオヒートですらこの瞬間までマンハッタンカフェには気付いておらず、まるで幽霊が突如現れたかのような感覚に襲われていた。

 

「こいつ、いつの間に上がってきやがった!?」

「……逃がしません…………!」

 

『これはまだ分からない! まるで幽霊の様に、突如として上がってきていたのはマンハッタンカフェ! じわじわと加速、イサオヒートを躱してマイネルライツへと迫る! さあ最終コーナーを抜けて最後の直線、上がり坂! どれだけ根性を見せてくれるのでしょうか!?』

 

 先頭はトレジャー、2番手のマイネルライツとの差は僅かに1バ身。そしてマイネルライツの直ぐ後ろには、イサオヒートを躱してきたマンハッタンカフェ。

 

 トレジャーは距離を測る為に振り返り、そして、マイネルライツは抜かされる事を恐れてブロックに移る為に振り返った。そう、此処で"振り返って"しまったのが彼女達の最大の敗因だった。

 

 黒いオーラを纏って疾走する摩天楼。雨に濡れて尚美しく靡く黒い髪。視界の悪い中でも良く目立つ金の両眼。獰猛、まるで獲物を噛みちぎる猛獣の様な威圧感でマンハッタンカフェはゴールだけを、いや。

 

 ゴールへ向けて走る"ナニカ"目掛けて、突き進んでいた。

 

 

 

 

「……其処を……退け……!」

 

 

 

 

「ひっ」と溢れた声はトレジャー、マイネルライツの何方の声だったのか。あまりの狂気的な威圧感、スリップストリームの為に密着されていたマイネルライツは一気に失速。トレジャーも同様に、まだ動くはずの両脚が上手く前に繰り出せない。レース、スポーツにおける恐怖による筋肉の硬直には何者であろうとも抗えぬ。

 黒い猛獣が今、ゴールを目掛けて突っ込んでいく。

 

「お前の勝ちだ、マンハッタンカフェ。」

「ーー完全に抜けたッッッッ!!! マンハッタンカフェ、マイネルライツとトレジャーを一気に躱したッ! 先頭はマンハッタンカフェ、マンハッタンカフェ、マンハッタンカフェだッ! マンハッタンカフェが今、一着でゴールッ!』

 

 ゴール板を突き抜けて、マンハッタンカフェは天高く腕を突き出した。息を切らして、珍しく口角を上げた愛らしい笑顔。隠しきれない喜びを抱いたまま、彼女のメイクデビューは華々しい成功の2文字を得た。

 

 あんな顔も出来たのか、なんて肩の力も抜けたのか黒崎も薄く笑う。普段、ウィニングライブなどわざわざ見たりしないのだが、今日くらいは良いだろうと思ってライブ会場に脚を向けた直後、とんでもないことに気がついてしまった。

 

「……踊れるんだろうか、あいつ。」

 

 この男、合理主義が祟って、たったの一度もマンハッタンカフェにダンスを教えていないのだ。次からは週一で面倒を見ようと硬く心に誓った。

 

 ……余談ではあるが、マンハッタンカフェは無事ウィニングライブを行った事は伝えておく。彼女が優等生で良かったと、口に出さないまま黒崎は本気で安堵した。




[マンハッタンカフェ]/やる気↑
【バ場適正】
芝A/ダートG/洋芝 “未測定”
【距離適性】
短距離G-/マイルG/中距離D/長距離C
【脚質】
逃げG/先行C/差しB/追い込み/D+

【速/体/力/根/賢】
140/231/126/115/168

【スキル】
・【Darkness-Blackscraper】Lv1
「レース終盤、後ろから2人追い抜くと前にいるウマ娘を威圧して失速させる」
・昇り龍
・深呼吸
・直下降
・スリップストリーム
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