あとお気に入り登録50いってました。ランキングの人に比べるとアレですけど、読んでくれてる人がこれだけいるって思うとちょっと嬉しいですね、ありがとうございます皆さん。
中央トレセン学園に在籍するからと言って、走り鍛え、レースに出る事がウマ娘のやる事ではない。
普段は他校の中高生と同じように、一般の制服を着て授業を受け、中間/期末テスト等も存在する。【唯一抜きん出て並ぶ者なし】のモットーを掲げるこの学園では文武両道が謳われる故か、ある程度の成績を取っていないとレースや練習への制限も掛かるペナルティ付き。勿論
そこまで酷いことになるウマ娘はごく少数ーーサクラバクシンオーや、カノープスに新しく入ったダブルジェットというウマ娘ーーだったりするが、どうあれペナルティは"有る"のだ。
そういう意味では、マンハッタンカフェは手の掛からないウマ娘だ。黒崎も業務に支障をきたす事なく済んでいた。
スパルタ気味な黒崎ではあるが、彼もメイクデビュー明けは流石にトレーニングも休みにさせていた。マンハッタンカフェには言っていないが、彼女の脚は少し"脆い"。正確には蹄鉄、脚を強く踏み込む為の骨が弱い。その点を踏まえてトレーニング後のケアにはかなり時間を取っていたし、今回の休みも一週間と多めに取らせていた。
だが、今までやっていたことが急になくなるとどうにも暇を持て余す。誰かと過ごそうと思ってもカフェと同室のユキノビジンは結構出掛けることも多く、さりとてアグネスタキオンの実験室に行く気も起こるはずもない。タキオン自身のことは嫌いでは無いが、実験に巻き込まれるのだけは御免被る。虹色に光りたくは無い。
普段、隣にいる【あの子】も今日は何処へ行っているのか見かけない。マンハッタンカフェの側から【あの子】が居なくなるのは珍しいのだが、そういう日もあるのだろう。
さて、こうなってくるといよいよ本当にやることが皆無だ。特に今日は日曜日、授業すらも休みなので朝からずっと退屈で堪らずに学園の中を適当に彷徨いていると、ふとレース申請所の前で彼女のトレーナー/黒崎が、誰かと話しているのを見かけた。
あの無愛想極まる黒崎に、白戌以外にも友人が居たのかと少し驚いた。やましい事をしているわけでは無いが、何となくの雰囲気でマンハッタンカフェは黒崎に見つからない様に柱に背を預けて隠れた。……決して、彼が何を話しているのか気になったから盗み聞きしようとしたわけではない。決して。
「……ですので、今すぐにとは言いませんが。出来ればこの事も考えておいて欲しいというのが、学園側の総意です。」
「……クラシック、せめてマンハッタンカフェのジュニア級が終われば考えておきましょう。流石に今の時期は厳しいので。」
「ありがとうございます。白戌さんにも、同じ事を伝えておきますので。」
「……たづなさん、煽ってもライバル視しているのは僕の方だけだと思いますが。悔しい事に、トレーナーとしての腕は白戌の方が上ですので。」
「ふふっ、そうでしょうか?私は何方も素晴らしいトレーナーだと思っていますけれど。そうだ!良かったら今度……」
目を向けると、話し込んでいたのは緑色の庶務服が特徴的な背の高い女性。学園における様々な理事業務を担当している"駿川たづな"だ。その知名度と言えば学園にいる者で知らない者は居ないと断言できるほどの人物で、当然、マンハッタンカフェも知っている。知ってはいるが、黒崎と仲が良い、という事までは知らなかった。
仕事付き合いといえばそれまでなのだろう。しかし、マンハッタンカフェの表情は無意識に険しくなっていた。なんと言えば良いのか、そう。ーー【面白くない】という感情だろうか。
これでカフェはかなり"独占欲"の強いウマ娘だ。レースでの一着に拘るような独占欲も勿論強いが、彼女は自分で思っている以上に黒崎に信頼は寄せていた。恋心のような下手なラブコメディのそれではない気がする。どちらかと言えば、本人は認めないだろうが、"もっと私に構え"という飼い犬じみたものだったりする。
幽霊/【あの子】が見えると言って憚らない彼女は、学園の中でも少し浮いている存在ではあった。サクラバクシンオーの様に激しく煩いのとも、テイエムオペラオーのような痛々しく見えるかもしれない格好の付け方とも違う。
彼女本人の美貌やミステリアスな雰囲気、時折見せる悍ましい狂気的な迫力、そして"独り言"の頻度や内容も相俟ってシンプルに不気味がられ、怖がられていたりした。黒崎以前に契約を申し込んできたトレーナーの中には、【あの子】の存在を苦笑いで済ませる、もしくは否定する者が殆どだ。それにスカウトの内容も的外れなアドバイスばかり、忠誠を誓うには程遠い有象無象。
しかし黒崎は如何だろうか。的確なアドバイス一つーー内容はかなりぶっ飛んでいたがーーで選抜レースを勝たせ、そして距離適正を覆してメイクデビューを見事一発で成功させた。興味を持たれていない、という言い方をすると女としては少し腹が立つが、"そういう事"をマンハッタンカフェに求めていないのも分かる。駄目押しに、【あの子】を否定するどころか本気で信じているときた。……信じた結果が恐れたあまりの気絶なのだが、其処は置いておこう。
端的に言えば、マンハッタンカフェは彼女自身が思っている以上に黒崎というトレーナーを気に入っていたのだ。それが如何だ、彼女に構うでもなく他所の雌と仲良くしている。というか、"たづなさん"とは呼ぶ癖に、自分の事はいつまでたっても"マンハッタンカフェ"とフルネームのままなのが不愉快だ。
一応、『カフェと呼んでください』とは抗議した事もあるが聞き入れてもらえなかったのだ。拒否された理由も、『仕方ないと言えば仕方ない事だが、シリーズを通して相方となるコンビの中には浮かれて一線を越える者もいる。公私混同を避ける為、僕はお前を"マンハッタンカフェ"とだけ呼ぶぞ』という真っ当な物だから文句も言えない。
……とは言え、彼も仕事なのだから仕方がない。そう、仕方がないのだと言い聞かせて立ち去ろうとした直後の出来事だった。
「あっ、
「は?」
背後から聞こえてきた愛らしい雌ウマの声に、自分でも驚くほど低い声が溢れた。慌てて口を押さえて柱の影から様子を伺うが、どうやらバレてはいないらしい。
「ライスシャワー、久しぶりだな。お前は来年メイクデビューの予定と聞いたが、調子はどうだ。」
「……えっと、……うん、ライスは大丈夫。それより、お兄様の方こそ大丈夫?昔……"シャウラ"に居た時から無理する人だったから……。」
「……そんなつもりはないんだがな。僕にも担当が出来て、サブトレーナーの時とは仕事の量も増え……待てライスシャワー、お前背が伸びたか?」
「えっほんと!?ど、どのくらい伸びたのかとか……」
普通にブチ切れそうだった。
一瞬だけレース中に奮ったあの黒いオーラが溢れていたかもしれない、側を通ったウマ娘が身体を強ばらせて手持ちの物を落としたほどの形相だった。もしこれで、あの雌ウマの事をフルネームで呼ばずに愛称で呼んでいたら如何なっていたのだろうか、自分でも分からない。と言うか公私混同がどうとか言っていた癖をして"お兄様"は許されるのだろうか。
マンハッタンカフェは大きく深呼吸して、額に浮かんでいたかもしれない怒りのマークを必死に押さえながら黒崎の前に姿を見せた。
「……トレーナーさん、少しお時間よろしいでしょうか。ええ、そう……ほんの少し……"お話"しておきたいことがあるので。」
マンハッタンカフェのじっとりした重苦しい雰囲気に当てられて、ライスシャワーは倒れそうだった。元々気が弱いウマ娘で、(一応)年上のマンハッタンカフェから向けられた一瞬の敵意とオーラに当てられて震え上がってしまっていたのは可哀想だが、仕方がない事だ。トレーナーは"私の"トレーナーで、貴女のトレーナーでは無いのだから。
口調自体はいつもと変わらない穏やかなものだが、マンハッタンカフェが発する言葉の湿度はそれと比べ物にならないほど湿っていた。
「……マンハッタンカフェ? ああ、勿論構わないが。すまないライスシャワー、また今度話をしよう。」
「……う、うん……。じゃあライス、練習に戻るね! またね、お兄様……その、死なないでね?」
「死なないが。」
心底不可解な言葉だ、という鈍感というか、女心を何一つわかっていないのは当の黒崎だけか。首を傾げて危機感の一つも抱かない。
マンハッタンカフェに言われるがまま
トレーナー室に向かい、脚を踏み込んだ途端。ぐるりと、世界が反転する感覚に襲われた。
ーーー☆ーーー
トレーナー室に入った瞬間、黒崎は何が起こったのかも分からずに床に倒れ込む羽目になった。
何事かと振り返れば、自身に乗り掛かる黒い影ーーマンハッタンカフェの姿。美しい金眼はぎらついており、口元からは鋭い犬歯が覗いており、両腕で黒崎の身体を拘束するように押さえつけていた。
当たり前だが、彼女達ウマ娘は人間と変わらぬ見た目だというのに凄まじい速度で走る。時速にしておよそ60km/h程か。短距離ならそれ以上も出るだろう。薄く細い身体の少女が、それだけのスピードを出す種族が"ウマ娘"という種族。人間がフィジカルで叶う道理など、どこにも存在しなかった。
「……なんの真似だマンハッタンカフェ。お前は冗談を言ったりしたりできるほど、ユーモアのあるウマ娘だとは思っていなかったが。」
「……ええ、勿論冗談では有りませんので。悪いのはトレーナーさんの方ですし。」
「僕の方か。」
「はい、貴方の方です。」
さて、果たして何か彼女の逆鱗に触れる様な事をしてしまっただろうか。一向に思いつかない、という表情。無表情な中にも変化があるのは付き合いで分かって来たのだが、結局、そういうところが悪いところなのだとマンハッタンカフェは思った。
「……私は、そう、マンハッタンカフェ。……貴方が担当する、唯一のウマ娘です。」
「そうだな。君は僕の担当だ。」
「ええ、ですから。……他の雌ウマに構う暇があるのなら、私にもっと気を掛けてくれてもいいのではないでしょうか。そうでなければ私は……噛み付いてしまうかもしれません。」
首筋に走った鋭い痛み。マンハッタンカフェに制止の言葉をかける暇もなく、彼女の鋭い犬歯が皮膚を破って突き刺さる。流石に黒崎も痛みに顔を歪めるような、生理的な反応には抗えない。とは言えそれも僅かに眉を顰めただけ、黒崎が彼女に危害を加えられた事で怒る様な素振りは何もなかった。
「……そういう事は早く言え。具体的には何がしたい、言ってみろマンハッタンカフェ。今日今すぐにというのは不可能だが、明日になら時間を取ろう。」
「…………、……えっ。」
「構えと言ったのはお前だろう。何をそんなに驚く。」
ウマ娘という生き物は、殆ど例外無く愛情深い。また同時に非常に嫉妬深く、そして人間を遥かに超えた身体能力のある種族である。そのパワーたるや幼い小学生程度のウマ娘でさえも大人の人間とは比較にならないほどで、齢16を迎えて本格化も済み、ウマ娘の中でも特に尖った感情を持つマンハッタンカフェーー彼女が噛み付いた痕が如何なっているのか、語るのは止めておこう。だが、この後で黒崎は何針かは言わないが少なくとも傷口を縫う事になった、とだけは伝えておく。
無論、マンハッタンカフェとてこれでも本気ではない。伝わるのかはわからないが、"ライオンが気を引こうと甘噛み"した様なものなのだが、とはいえ、人間に噛みついて流血させたという認識はある。怪我をさせられた黒崎が怒るどころか出かける算段を話してきたものだから、マンハッタンカフェの方が戸惑っていた。
「……怒って、いらっしゃらないのですか。」
「まあ噛んだ事は良くない。が、マンハッタンカフェが癖ウマという事を知っていてコミュニケーションを欠いた僕の落ち度でもある。加えて、この程度の怪我は慣れている。」
「……慣れてるんですか!?」
思わず大声をだしてしまっていた。マンハッタンカフェにしては珍しい、高い声色だ。いったいこのレベルの怪我に慣れるほどのチームとは……。大概、人間の中でもトレーナーという職種もぶっ飛んでいるというのは言わない御約束か。
後日、首に包帯を巻いた黒崎と粧し込んだマンハッタンカフェが都心の喫茶店/コーヒーショップで並んで歩く姿が見受けられたとのことだが、その話はまたの機会に済ませよう。……アグネスタキオンにそれを見られて揶揄われた事も、今は語らない。
[マンハッタンカフェ]/やる気↑↑
【バ場適正】
芝A/ダートG/洋芝 “未測定”
【距離適性】
短距離G-/マイルG/中距離D/長距離C
【脚質】
逃げG/先行C/差しB/追い込み/D+
【速/体/力/根/賢】
140/231/126/115/168
【スキル】
・【Darkness-Blackscraper】Lv1
・昇り龍
・深呼吸
・直下降