摩天楼が魅せる煌めき   作:筋肉同盟カフェ推し

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ちょっと短めです。ワクチン打ったりして書くの遅くなったでござる、許して。

ちなみに僕は競馬最近見始めたど素人です。ので、史実を調べたり動画に残ってるものを見たりして勉強しながら書いてますので、詳しい方で「ここ違うんじゃね」って言うのがあれば是非教えてください……_(:3 」∠)_


超高速/タイム/無限の課題

「どうよウチのタキオンは。」

「まず先にその発光を止めろ馬鹿。」

 

 敵情視察、とでもいうべきか。黒崎は白戌、マンハッタンカフェと共にアグネスタキオンのメイクデビューを見にきていた。というか白戌が「見に来い」と半ば強引に誘ってきたのだが。

 ちなみに今日の発光色は明るい黄色、更に天気は快晴なので尚更目に優しくない。マンハッタンカフェに至っては目をギリギリまで細めているため、知らない人間が見たら余程怒っている様に見えるだろう表情だ。全部光ってる白戌が悪い。溜息をつきながら、黒崎は視線をレース場に戻した。

 ゴール付近では、格好をつけたように腕を組み、ハイライトのない瞳でドヤ顔を披露する白戌の担当バの姿があった。

 

 アグネスタキオン、後続に3バ身の差を付けて一着でゴール。

 

「あのスピード、ほんとふざけてるよなぁ。」

 

「……アグネスタキオンがイカれてるとしか言いようがないな。二着のリブロードキャストが弱かったとは世辞でも言えん。なんだあの上がり坂3ハロンでの加速は。」

 

 本来、減速して然るべき坂路の600メートルをあろう事か他のウマ娘を置き去りにして加速──この600メートルを駆け抜けたタイムは、実に"33.8秒"。

 

 もし分かりにくいのならば、時速に直して凡そ64km/h。メイクデビューに於けるウマ娘の平均時速が58km/hであり、それを大きく超える速度を坂で繰り出した──ここまで言えば、アグネスタキオンというウマ娘の異常性が伝わるだろうか。

 

「何処であんなウマ娘をスカウトした。名前からしてアグネス家の令嬢か、分家でもかなりのものだろう。」

 

「いやぁ、なんか選抜レース終わってから、試験管の薬一気飲みしたら気に入ってもらったのよ。」

 

「意味がわからなさすぎます……。トレーナーさん、私が言うのも何ですが、友人は選んだ方が良いのでは。」

 

「本当にお前が言うな、と言いたいな、それは。」

 

 どんぐりの背比べ、五十歩百歩とはこの事か。アグネスタキオンとマンハッタンカフェの交友関係も中々酷いものだが、それはそれとしてやはり黒崎と白戌の関係性も中々に意味不明だろう。何せ、白戌はライバルに担当ウマ娘の走り──その情報を明け渡してきているようなものなのだから。

 

「負けない自信あるし、そもそもお前に隠し事なんて出来んだろ。」

 

「意外と、このタイムを脚色したものとして舐めてかかったかも知れんぞ。」

 

「阿呆言え」と苦笑混じりの白戌。

 たしかに、常軌を逸した事に対しては有り得ないと感じる事はするだろう。しかし黒崎は自分の考えと事実に折り合いを上手くつける性格なのは知っている。遅かれ早かれバレる事なら、いっそ見せてしまえと言うのが白戌の考えでもあった。

 

 どのみち、単純なスピード差というものを対策するのは殆ど不可能なのだから見せても問題がないとも言えるが。白戌もこれで結構性格が悪い。レースを見せたのは、対策不可能な事実を見せつけて威嚇する意味合いも含んでいた。

 

「(……これは無理だな。マンハッタンカフェには"まだ"言わんが、とても弥生賞、いや、皐月賞だとしても速度の底上げが間に合わん。アグネスタキオンのスタミナ如何ではあるが、"無敗の三冠"も有り得なくはないスペックだ。ダービー、いや菊花賞の長距離ならギリギリ勝てる可能性はある……か……。)」

 

 深く顔に皺を刻む黒崎。一番の問題はこれを見て弥生賞、皐月賞、ダービーにマンハッタンカフェを出すかどうか。流石に黒崎といえども、「お前は負けるけどとりあえず頑張って2着になってこい」とは言えない。あくまで、走るのなら勝つ可能性があるレースにした方が良いに決まっている。

 

 以前にも話したが、黒崎のトレーナーとしてのスタンスは奇跡だの1%の可能性だの、そんなものを盲目的に信じてはやらない。出すならギリギリでもダービーだろうか。

 白戌と競う約束はした、が、レースにはウマ娘達の人生がかかっている。下らないトレーナー側のプライドで一敗を刻むくらいなら、恥を被っても試合から逃げた方が良い。

 

 間に合うのなら間に合わせた。だが、無理なものは天地が返ったところで無理なのだ。有名な育成系RPGに例えるのなら、レベルを幾らあげたところで電気ネズミが大型ドラゴンに勝てるだろうか。可能性としては限りなく低いし、そんな相手と戦うくらいなら素直に逃げる。

 

「(……だが、菊花賞を確実に勝たせるなら少なくとも一度はアグネスタキオンと戦わせるべきだろう。見るだけでは分からない、我々トレーナーとは違う"走る者"としての観点やアグネスタキオンの弱点に気付くかもしれない。……マンハッタンカフェの気持ち次第、か。)」

 

「……ナー……ん。……トレ…ん…」

 

「(いや、出すなら皐月賞の方か? そうなるとホープフルをどうするか考え直すべきだな。何処かで一度、勝つ感覚と自信を持たせてやりたい。ダービー迄にマンハッタンカフェが勝てる様なレースを探しておくべきか。しかし……。)」

 

「おーい黒崎。そろそろウイニングライブ始まるぞ。」

 

「……トレーナーさん、大丈夫ですか? すごく険しい顔でしたが。」

 

 そこまで思考を回して、漸く意識が戻ってくる。はっとなって辺りを見回すと、観戦席に残っているのは自分とマンハッタンカフェ、白戌、後はレース場の職員くらいか。他の観客は皆、もうライブ会場へと移ったらしい。一度考えを回し始めると、中々他のことに意識が向かなくなるのは相変わらずの悪い癖だ。

 

「それまだ治ってないのな、お前。」

 

「………放っておけ。」

 

「カフェちゃん、こいつがこうなったら肩揺すってあげて。一発で戻って来るから。」

 

「……肩、ですね。覚えておきましょうか。」

 

 会話を聞いていた黒崎の渋い顔は、ライブが始まるまで治らなかったらしい。

 

 ──ー☆──ー

 

 "数字"は嘘を付かない。多少の変動こそはあれ、そこに描かれた数字というものは絶対的な事実である。

 

 深夜、教官室でパソコンと一人睨み合っているのは黒崎。時計の針が示す時刻は、とうの昔に12の数字を超えていた。だが、時計の数字よりももっと重大な数字に目を向けていたため、黒崎は残業時間とかそう言う概念が頭から完全に抜け落ちていた。

 

 ──アグネスタキオン、メイクデビュー戦。タイム:2.04.3。

 

「……マンハッタンカフェが同じ距離で2.06.5。……2秒も違う、それはまだ良い。元々彼女はステイヤー、スピードの乗り方そのものが違うのだから。……問題は、そんな事じゃない。」

 

 椅子に背を預けて、天井を仰ぐ。メイクデビューのレースの時、直に見ていた時はあの加速がアグネスタキオン固有の技術なのだと思った。だが、彼女のレースを見返していて気付いた。気付いてしまった。

 

 アグネスタキオンは、固有技術を一切使っていない。

 

 それどころか、普通に走っている時ですらフルスピードだったかも怪しいレベルだ。踏み込みがやや甘く、坂を駆け上がる時も限界まで身体にかかる負担を抑えて浅い前傾姿勢だった。

 考えたくはないが、おそらく現段階ですら『70%』程度のスピードでこのタイムだ。万が一、固有技術を使った上でフルスピードを出したらどんなタイムになってしまうのか想像を絶する。

 

 マンハッタンカフェとのタイム差が僅か2秒、だと思うのは一般人だけだ。ウマ娘のレースに関わる人間なら、その2秒がどれだけ重たいのかをよく知っている。

 

 単純計算、アグネスタキオンは2000メートルを秒速16.1mで駆け抜けたのに対してマンハッタンカフェは、秒速15.8m。アグネスタキオンがゴールしてからマンハッタンカフェがゴールに辿り着くまで更に2秒──即ち、15.8×2=31.6mもの凄まじい距離が開く事になる。これはバ身にして凡そ13バ身。即ち、『大差』負けである。

 

 たったの2秒。されど2秒。高速の世界で生きる彼女達ウマ娘にとって、その2秒は余りに"重すぎる"数値なのだ。

 

 挙げ句の果てに、マンハッタンカフェは固有技術まで使っている。中距離における全力が、紛れもない2.06.5秒という数字なのだ。対するアグネスタキオンは、固有技術を使っていない上にまだ余力を残してマンハッタンカフェよりも速い。どうやって追いつけというのか。

 

「……あれだけのスピードを保つんだ、脚への負担も半端じゃない。長距離ならスピードを抑えざるを得んだろう、やはりアグネスタキオンに勝つなら菊花賞しかないな……。」

 

「そうですね、その前に黒崎さん御自身への負担も考えてくれると良いんですけれど。」

 

「バ鹿を言え、こんな絶望的な状況でおちおち休んでいられるものか。菊花賞までに出るレース、マンハッタンカフェへのトレーニング、メンタルケア、その他諸々必要なんだ。一秒すら惜しい。」

 

「では私も強硬手段に出ざるを得ませんね? 職権濫用になりそうですが。」

 

 そこまで話して、漸く部屋にいるのが自分だけではないことに気がついた。振り返ると、笑顔ではあるが、有無を言わせぬ圧力を放つ理事長秘書"駿川 たづな"の姿。兎に角残業や脱走に厳しい事で有名で、一説ではウマ娘でもない彼女に捕まったウマ娘もいるのだとか。

 

 兎も角、そんな根も葉もない噂が立つくらいにはルール違反に厳しく、同時に人を気遣う女性だったし、サブトレーナー時代から彼女との付き合いがある身分、どうあっても此方が折れるしかないのは理解した。黒崎は降参、と言うように両腕を上に挙げる。

 

「……分かった、此処までにする。だが、せめて立ち上げたデータだけは記録させてくれ。それが終われば直ぐに帰ろう。」

 

「ええ、そうしてくださいな。全く……沖野さんといい白戌さんといい、男性トレーナーってどうしてこんなに……」

 

 溜息と愚痴を吐きながら、たづなは教官室を出て行った。当然のように、部屋の貸し出し許可証まで持っていかれたため、これ以上残業しようものなら違反扱いになってしまう。何がなんでも残業はさせない、という意思が見て取れた。

 ……自分のせいでもあるが、余程ストレスも溜まっているのだろう。今度、給料日に飲みにでも誘おうか。

 

 今度こそ、黒崎はパソコンを閉じてトレセン学園を後にした。課題は山積み、あるうちが華とはいうが、クリアできる課題ならば、という前提が付く。

 それでも、その課題を担当バにクリアさせるのがトレーナーという仕事なのだ。未だ遥か遠き宿敵を思い描いて、黒崎は一人、夜道を歩くのだった。

 

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