スライム狂いの錬金術師姉ちゃんに人体改造される事になった   作:丸米

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2話 静脈の嘶き

 ボアラスキ姉弟はムゼル区の村人に知らぬ者無きほどの有名人であるが、同時にその名を口にするも憚られる程の恐怖の対象である。

 別段姉弟が村人が何かをしたわけでも、されたわけでもない。

 

 村の外れの森の中で姉弟の二人暮らし。

 姉は夜な夜な森の奥に消え、錬金術の研究を行い。

 弟は日がな森に潜み獣を狩る。

 

 現在──。

 

 森からスライムの姿が消え、そして危険種指定の魔獣が次に消えた。

 

 それら全て──森に住まう姉弟が滅ぼし尽くしたのだと。噂が流れるようになった。

 領主であるマルキセム家が公認で森の管理権を姉弟に与えている事も、噂に拍車をかける事となった。

 

 とはいえ、噂は所詮噂である。

 尾ひれ付きの拡張情報が綿毛のように飛び散ったところで、気味が悪い思いをするだけだ。

 

 ある日森に山賊が現れた。

 森を通って別の場所から領内へ逃げ込んできた連中らしい。

 

 ある日の夜。夥しいまでの悲鳴が森の中を駆け巡った。

 怒号の後の、金切り声。そして断末魔じみた悲鳴。それら一つ一つが爆音のように生まれ、そして消えていった。

 その次の日。マルキセム家から山賊は全員捕縛され城塞都市へと連れていかれたという御触れが領内で出回った。

 森から城塞都市へ続く街道の上。手足が残らず折れた人間が、捕縛もされずに馬車に詰め込まれていたという──又聞きの話が村に届いた。

 

 所詮は噂である。

 時折マルキセム家最恐と名高いグリューゼが姉と轟音を響かせているのも弟が大型野獣の首を叩き折ったというのも所詮は噂だ。

 

 そう。

 噂である。

 故に村人は彼等姉弟の存在を無い物として扱い、噂を噂として可能性の範囲に留まらせるように誰もが彼等の存在に触れないように努力しているのだ。

 

 

 

 グリューゼに魔獣問題の解決を約束した、次の日。

 ボアラスキ姉弟は日が落ちる前に入眠し、日が昇る前に起きた。

 

「さあて。行くかね」

「うん」

「方針としては、まず人が隠れられそうな場所を中心に探索を行う。まずは──魔獣に追跡されている人物を探し当てる」

「追われている人間がいる、というのは推測でしかないと思うけど。まずは人探しからするんだね」

「その過程で魔獣がいればさっさと仕留めて、そこから手がかりを得ればいい。──ここで魔獣を放している連中の敗北条件は何だと思う?」

「.....領主の兵隊が山の中に来ることかな?」

「そう! ──現在村の方に被害が出ていないのも、事前に森を歩いていたシュタッシを襲わなかったのも。どちらも、ここの人間を万が一でも殺してしまったらマルキセムの兵が動かざるを得ないから。奴等としては、領主であるマルキセムが動く前に目的を果たさなければならない。──その目的が”人”であるならば、それを確保しておけば勝手に連中がこちらにやってくるという寸法だ。隠れている連中を一気に炙り出すことが出来る」

「ああ、成程...」

 

 現状として、魔獣を放っている原因も。魔獣を放っている人間そのものも判明していない。

 そこから調査を行うとなれば──相手側からアクションを起こしてもらう方がやりやすい。

 ならば。相手の目的物を、さっさと奪取するに限る。

 

「という訳で行こうじゃないか」

「了解」

 

 二人は朝日と共に歩き出す。

 

 

 ボアラスキ姉弟はそれぞれ仕事を行っている。

 両親の失踪の後。その遺産のほとんどがライゼの地下室の設備費用に消えた為必然的に金を稼ぐ必要があったためである。

 ライゼは錬金術で作った薬等々を城塞都市に卸す事で金を稼ぎ。

 シュタッシは狩りを生業に食い扶持を稼いでいた。

 

 その狩りに関しては対象を問わない。獣を狩って皮を剥ぎ肉を捌いて加工して売る事も。城塞都市の組合(ギルド)から依頼を受け魔獣狩りをする事もあれば。──領主から懸賞金が掛けられた山賊の狩りなども行う。

 特に、自らの住まいに近いこの森においては──ライゼはスライムを収集する為、そしてシュタッシは狩りを行う為。己の人生の大半をこの森で過ごしたと言ってもいい。

 

 それ故に。

 姉弟は人が隠れるに有用な場所──特に洞窟の位置について大いに熟知していた。

 

 おおよその見当をつけ──シュタッシは西側にかけて地道に虱潰していっていた。

 

「.....」

 

 その中。

 やはり──見慣れない足跡が残っている。

 

 肉球跡がくっきり残ってる犬型の足跡。これは、この森に住まう狼のそれと微妙に形が違う。

 

「見慣れない足跡だ」

「そうだね。──それに」

 

 シュタッシは、足跡を辿り藪道に入りながら──その背後から気配を感じていた。

 気配、というと曖昧な言葉だが。何らかの”意図”を感じるという方が正しいか。

 恐らくは──足跡を辿るこちらの動きを、更に背後から辿る動きが。

 

 

 背後を振り返ると共に。

 シュタッシは──道脇の木陰にてこちらを監視する存在を見つけ、即座に駆け出す。

 

 それはちびた、二足歩行する存在であった。

 灰色の肌に、肉付きが感じられない骸骨のような顔面。その手には──弓を手にしている。

 

 ゴブリンだ。

 オークの亜種というか祖先というか。個体の体躯や力はオークには遠く及ばない上に魔法も使えないが、繁殖力が強い。二足歩行ができ、ある程度の知能も備えているとあって、魔獣使いの人気が高い。

 

 ゴブリンは見つかったと判断した瞬間には弓を構え、即座に放つ。

 その動きを一瞥し、──眉間辺りに飛んできたそれを、シュタッシは掴み取る。

 

「びぎっ」

 

 そして。

 その掴んだ矢をそのままゴブリンの眉間に突き刺す。

 

 眉間から脳天へと綺麗に貫通したゴブリンは──小さく悲鳴を上げて倒れ伏した。

 

「....おー! ゴブリンか」

「ゴブリンだね」

「実物見るのはじめてだね。いいね。興奮してきた」

「何にだ.....?」

「私が何に興奮しているのか気になるかシュタッシ。嬉しいなァ。この姉の性癖が知りたいというならば幾らでも聞かせてあげるぞ」

「ごめん。今度からライゼにツッコむ時は誤解を生まない言葉選びをするように気を付けるよ」

「気を付けなくていい! 容赦なくツッコめ! 思うがままに! 無のまま素のままのお前でいてくれシュタッシ!」

「やだ。俺は体裁を気にする」

 

 会話をしながらも、ライゼはゴブリンの死骸をアームで全身転がしながら見ていく。

 最終的にライゼはアームでもってゴブリンの衣類を引っぺがし、またその全体を見ていく。

 

「シュタッシ。このゴブリンの腹部の赤い印が見えるか?」

「.....見えるね」

 

 ゴブリンの腹部。その辺りに、赤い印が刻まれている。

 

「これは錬金術の”式印”だね。錬金術は”過程”を省く技術であるが──式印によって、どの過程や工程を省いているかが見える」

「これはどういう印なの?」

「これは恐らく探知の印。印を刻んだ事物や生物が、どの場所にいるのかを術者に伝える為の印。錬金術的に言えば”探す”という工程を省いて位置の把握という結果を得る為の印だ」

「.....凄くない?」

「ああ。これは凄いな。魔獣の調教に加えて──錬金術まで扱える人物が、この森にいるという訳だ」

 

 ひっひ、と笑みを浮かべて。

 

「これは是非とも──会ってみたい」

 

 

 

 ・          ・          ・

 

 

 

「お友達が一匹死んじゃった」

 

 あーあ、という声が一つ響く。

 

「ゴブリンちゃん~。死んだ場所は何処かな~。どれどれ~」

 

 その声の主は、子供であった。

 顔つきも、発せられる声も、その体躯に至るまで。全てが幼い。

 

 雪のように透き通ったその肌は、恐らくは北方の種族であろうか。金髪赤目の少女が、くるくるとその手に持つ杖を回す。

 

「はーい。ネグロお爺ちゃん~。今ゴブリンちゃんが死んだ場所伝えるから~。アノレアちゃんがそこにいるか確認して~」

 

 森の中。

 少女の声は──周囲には聞こえない。

 密やかな声をローブの裾で覆い隠し、くぐもったその音声でもって──「誰か」に向けて言葉を放っていた。

 

 

「承知した。ハンネスよ」

 

 うむ、と一つ声を上げ。

 笠を被った、東方風の旅装を着込んだ老年の男が、真っすぐに視線を向ける。

 その先に──車椅子の女と、その付き添いの男を見ながら。

 

「──アノレアの小娘はいないな。男と女の二人組。恐らくはこの森の管理人だろうかね。.....あまり村人の死体を出したくはないのだがな」

 

 仕方ない、と老人は言う。

 

「死体は出さなければいい。面倒だが、慎重に始末し慎重に処理しよう」

 

 

 

 ・         ・          ・

 

 

 

「この式印で確信した。──この魔獣を放っている連中は、間違いなく何者かを追跡している」

「だろうね。この印は、多分魔獣が殺される事が前提のものだ。魔獣が殺されれば、それがそのまま情報となる」

「つまり今──この魔獣を放っている連中に我々の位置が晒されているという事だ。ワクワクしてきたな」

「本当にそうみたいだね」

 

 横手から飛び出してきた犬型の魔獣が──ライゼとシュタッシの双方に襲い掛かる。

 ライゼはアームにて魔獣の首を掴み地面に叩き伏せ。

 シュタッシは裏拳で魔獣の頭蓋を砕く。

 

「もう我々は”死なれたら困る村人”ではなく”さっさと殺さないと面倒くさい”人間に認定されたようだな。いい感じだ」

「──敵側がアクションを起こし始めている。炙り出しそのものは上手くいっているかもしれない」

「ではこちら側も急ごうじゃないか。──おやおや」

 

 魔獣を二匹叩き伏せたタイミング。

 

 その時には──ライゼとシュタッシの周囲が、魔獣により囲まれていた。

 

「囲まれたな」

「囲まれたね」

「こういう場合は──無論、全員ぶっ殺す!」

 

 放たれるゴブリンの弓矢と共に、犬型魔獣が二人に突撃してくる。

 犬の数は、五体。

 

「見せてやろう魔獣使い。──これが私の、スライム法術だ」

 

 ライゼはその瞬間──己の両腕を左右に拡げ、その両の掌より何かを生み出す。

 それは、核包であった。

 

 球根の様なそれが四つほど生み出された瞬間。ライゼは己の周囲にそれを投げる。

 投げた核包はそれぞれの周囲にジェルを作り出し──周囲に液状の”膜”を作り出す。

 

 その膜に矢が触れた瞬間──ジェルは瞬時に凝固する。

 凝固したジェルは、巻き取った矢ごと──地面に落ちる。

 

 そうしてジェルの上にまた核包が戻り──スライムとして復活する。

 

「はっはっはっは!」

 

 そうして。

 全力で疾走してくる魔獣の足下に──ジェルが生まれる。

 地面を踏みしめ駆け出す力そのものが、横滑りするジェルに足元を取られ、流され、己の体勢が崩される。

 

 すっ転ぶ犬の、無防備な横っ面にライゼの四つのアームが襲い掛かる。

 大きく回転したアームの、その遠心力をふんだんに籠めた一撃が──魔獣の頭蓋を次々と砕いていく。

 

 

 その間に。

 シュタッシは──遠方にて矢を放つゴブリンの始末にかかる。

 小柄な体躯を生かし、藪に隠れ、もしくは木の枝に座り矢を放つゴブリン共。

 

 その全てを瞬時に回りながら一体ずつ首を折っていく。

 それは花の茎を手折るように。ゴブリンの小さな首を掴み、指先で押し込む事によって頸椎をへし折っていく。

 

「──こちらを始末するつもりなのはそうなのだろうが。恐らくこれで仕留められるとは相手も考えていないだろう。戦力の出し方がどうも中途半端だ」

「こうして手勢を定期的に仕掛けることによってこちらを緊張状態にさせるのが狙いだろうね。小出しの魔獣で疲弊させてから、本丸を叩き込むつもりだ。相手は結構冷静だね」

「と、なれば。二人で一つずつ回るよりも二手に別れて捜索場所を虱潰す方がいいだろうな。分断する事になるが、その分魔獣も二手に分かれざるを得ないだろうし」

「了解。それじゃあお互いに頑張ろうか」

「うむ。──いやはや、楽しくなってきたな」

 

 そうして──姉弟は互いに手を叩くと、それぞれ別の方向へと走り出した。

 

 

 

 ・        ・          ・

 

 

 

「.....へえ~。二手に分かれたかぁ~....」

 

 少女は──頭の中に浮かび上がる文字を読みながら。そう呟く。

 

「──ムカつく~。いっちょ前に頭使っちゃって~。何でこんな風に邪魔ばかりするのかな~」

 

 笑顔のまま。

 青筋を浮かべていた。

 

「決めた~。──アタシ直々に殺す~。まずは車椅子の女の子から~」

 

 そう言うと。

 少女が一つ指笛を吹き鳴らすと──

 

 

 少女の身の丈の幾十倍もあろうかという──巨大な鳥が、現れる。

 否。

 それは──鳥と呼んでもいいのかどうか。

 

 眼窩からはみ出すほどの巨大な眼球は血走っており、顔面の体積よりも巨大な嘴は明らかに生物由来のものではなく、金属が埋め込まれている。

 その足には巨大な爪が埋め込まれ。その背中には夥しい程の錬金術の”印”が刻み込まれている。

 

「それじゃあ──レッツゴー~」

 

 少女はその鳥の如き謎の生物の背中に乗ると同時。その首筋に──注射器を突き刺す。

 血走った眼球が更に血走り、その嘴から大量の唾液を吐き出し、頭をがくんがくんと上下運動しながら。それでも翼の動きは一切狂わさず、飛行を行う。

 

「報酬系を潤したら~。皆は幸せハッピ~」

 

 ふんふんと鼻息を鳴らし──少女は無邪気に空を飛ぶ。

 

 

「静脈注射は皆を友達にするのだ~。──友達と一緒に、敵をぶち殺すぞ~」

 

 そうして。

 少女はえいえいおー、と拳を大空に突き出していた──。




新キャラとか設定とかちょい紹介

ハンネス 魔獣使いにして錬金術師のロリ。魔獣はお友達だから錬金術で作った薬剤を静脈注射して強制的にハッピーにして位置情報を知らせる印を刻んでいつでもどこでも監視している。

ネグロ 敵のジジイ。


印 もしくは式印 錬金術における魔法の紋章みたいなもの。優秀な錬金術師であればある程この印から情報を収集し、また優秀な錬金術師であればある程情報を隠匿する。
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