ウマ娘 ワールドダービー 称号獲得レギュ『1:11:11』 サイレンススズカチャート   作:ルルマンド

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サークルが爆破されてボッチになったので優しい読者兄貴がいれば勧誘してください。活動報告に投稿してありますので……


ビフォアストーリー:理不尽を敵として

 実際のところ、URAを動かすのは難しい。単純に組織というものが観念的になって硬直しがちだということもあるが、個人がどうこう言って変わるものではない。

 しかし組織というのはこれまた組織的な外圧に弱いものである。

 

 実力・実績・人望の三種の神器を備えているウマ娘、シンボリルドルフはまず新任の理事長――――秋川やよいに話を通して了承と賛同を得ると、翌日を待たずして即座に動き出した。

 コアとなるウマ娘たちへ直々に声をかけ、動員できる面子を全員動員して署名を集めはじめたのである。

 

 さすがのシンボリルドルフであっても、これほど大規模な運動をたった1日で組織できるはずもない。

 彼女がこれほどまでに迅速に動けたのは、リギルの参謀こと東条隼瀬がその傑出した事務処理能力で立てた計画の大枠があってこそだった。

 

 しかし大枠が立てられたとしても、彼にはカリスマ性がない。動員計画を立てられても、動員することができない。

 故に、シンボリルドルフは必要だった。彼女には、カリスマ性があるから。そしてなによりも、海外遠征を成功させた実績があるから。

 

「まあ、そういうことをはじめた。URAとは当面の間、穏やかならざる関係になるだろうと思うが、お前に迷惑はかけないようにしたいと思っている」

 

「なるほど」

 

 する、ではなく、したいと思っている。

 計画性を重視するこの人がそういうあやふやな物言いをするあたり、それは突発的なものだったのであろうと、サイレンススズカは察知した。

 

 パチパチと、エメラルドグリーンの瞳が瞬く。薄い青翠の瞳は美しい海のような澄んだ色をしていて、そこに動揺は見受けられない。

 

「それで、私に手伝えることはありますか?」

 

 なるほど、で終わり。

 続く言葉があるとしてもその先に続くのは、金鯱賞をどう走るかというような、そんな話題だろう。

 そんな期待、あるいは予測を裏切るような言葉が、サイレンススズカから放たれた。

 

「ああ?」

 

 喧嘩を売るようなドスの利いたものではなく、素っ頓狂な高い声。

 マチカネフクキタルの所為、あるいはおかげで変声耐性がついている少女は、それでも不意をつかれてクスリと笑った。

 

「意外だな」

 

「お前は走ること以外に興味がないと思っていた、とでも言いたげですね」

 

「過不足ない予測、ありがとう。で、どういう心境の変化だ?」

 

「私はレース自体に価値を見出しているわけではありませんが、そうではない人も居ることは知っています」

 

 あえて口には出さなかったが、彼女には別の思いもある。

 

 ――――いい、スズカ。アンタもトレーナーを選ぶなら、誰かの為に平気で世界を敵に回せるやつを選びなさい

 

 木材のような鰹節をバリバリとやりながら言う母に向かって、彼女は確か『自分のためにの言い間違いではないのか』みたいなことを問うた。

 その頃のサイレンススズカはそれなりに幼く、それなりに夢を見ていた。

 

 自分のためにすべてを敵に回してでも、隣にいてくれる誰か。

 

 そんな存在が出てくる物語を母が阿呆のように見続けていたからというのもあるが、彼女からしてもそんな人が現れればいいな、とは思っていた。別に求めはしなかったが。

 

 ――――見ず知らずの誰かのために立ち上がれないようなやつが、いざというときに頼りになる訳ないでしょーが。そういうバカは、バカだけど貴重よ。見てて楽しいし、ね

 

 その後も母は適当なことを言っていた。だからアメリカは駄目なんだとか、名門は血が煮詰まって腐ったのばっかだとか――――たぶん経験に基づいた偏見をバラまいていた。

 アメリカで一流と呼べる結果を出しても認められず、日本にやってきた母。そんな彼女の生涯が栄光に包まれながらも、決して恵まれたものではなかったことを、サイレンススズカは知っている。

 

「それに」

 

「それに?」

 

 考えが纏まりを持つ寸前で、サイレンススズカは呟いた。

 オウム返しに返ってきた返事に瞼を落として笑いながら、呟く。

 

「私が走ることでトレーナーさんの手伝いができるなら、趣味と実益が噛み合いますから」

 

「なるほどね」

 

 ――――この協力は予測通りではあるが、少し早かったな

 

 利用されることを承知してくれることを予測して、打ち明けた。

 そんな自分を心の中で嗤い、そしてその時期がややズレたことに対して『まだまだ現実を正視できていないと見える』と自嘲しながら、東条隼瀬はひとつかふたつ頷いた。

 

(こういうひとは見てて楽しい、のかしら)

 

 少なくとも母がこの場にいれば、狂気的な勇躍と共にこの運動に参加するだろう。

 だが自分は母ではないし、母みたいになろうと思わない。

 

(こういうことになってますっていう連絡くらいは、しようかしら)

 

 凝り固まった名門は駄目だとかなんだとか言っていたから、積極的に彼の話をしたことはない。

 東条隼瀬。彼の属する東条の家は世界的にはともかく、日本では国内屈指の名門である。日本トゥインクルシリーズの双璧というべきメジロの家とシンボリの家。後者を支える頭脳というべきトレーナーの一門が、東条なのだ。

 

 トレーナーとしての家格的に彼に釣り合うのは、日本ではメジロの頭脳というべき一門しかない。

 

 そしてそういう名門を死ぬほど嫌っているのが、サイレンススズカの母である。

 別に日本の名門になにかされたとかいうわけではなく、アメリカでの経験から名門が嫌いになったというだけだが、そういうこともあって彼女はトレーナーについては母にさほど詳しく連絡をしているわけではない。

 

(トレーナーさんは、挨拶くらいしてそうだけど)

 

 壊滅的なコミュニケーション能力に反して割とマメなところがあるのがあのトレーナーである。

 たぶん担当すると決まったとき、挨拶くらいはしていると思われる。

 

 そして自分をこういう騒動に巻き込んだということも、連絡をするだろう。

 

 ――――そういうことになったら、ちゃんとフォローしよう。うん、そうしよう

 

 そんな結構真面目な考えをしているサイレンススズカを見て、東条隼瀬は思った。

 

 今日はどこを走る気なんだろうか、と。

 確か昨日は尻尾やらスカートやらにくっつき虫を付けて帰ってきた。

 

(まあ、それに関しては心配しても無駄か)

 

 思考の8割が走ったり走ったり走ったりすることへ使用されているサイレンススズカではあるが、今日に限っては残りの2割がよく顔を覗かせていた。

 

 そんなことを知る由もなく、そして普段の言動があまりにも走ることしか考えていないようなものであることもある。

 

(例外を例外で終わらせるにしても、例外を例外で終わらせないにしても。この運動はそれなりの意義を持つ)

 

 エルコンドルパサーやグラスワンダーが頑張れば頑張るほど、例外は例外で終わる可能性が高くなるのは皮肉という他ない。

 

 今年のクラシック世代は、黄金世代などと呼ばれている。

 何故か日本に降嫁してきた最強クラスのウマ娘の血を引くキングヘイロー。

 入学試験よりも遥かに難しい編入試験をサラッと突破したスペシャルウィーク。

 そして中々にキレる頭を持つセイウンスカイ。

 

 この三人が、あの二人に勝てるのか。

 あの二人が、この三人に勝てるのか。

 

 この運動が成功すれば今年のクラシック路線が見る者の眼鏡によって力関係が変化し、前者にもなるし後者にもなる。

 

 エルコンドルパサー、グラスワンダー。

 あの二人がこの、近年まれに見る傑出した実力を持つ同期を相手に勝てば勝つほど、例外は例外で終わる可能性が高まるだろう。

 

(しかし、そうはならん)

 

 ピンと立ち上がった緑の耳カバーが風を切る。

 最後は、この娘。向けられた視線に対してきょとんと眼を大きくしたサイレンススズカを、頼ることになる。そしておそらく、その瞬間に例外は例外として終わらないことが決まるだろう。

 

 その目算はたっている。勝算もある。だからこそ、ルドルフ相手にできると啖呵を切ったのだ。

 しかし、やはり気が引ける。サイレンススズカの純粋すぎるほどに純粋な願い。スピードの向こう側へと行きたいという夢に不純物を加えてしまうようなことに、なりはしないか。

 

 無論多少の不純物があったところで問題にならない程に速く、長い脚を使えるようにしてしまえばいい。だがもし、それが原因で無駄な気負いをして、その気負いが思わぬ事故を引き起こしたら、どうなるか。

 

 時速70キロ超えで走るウマ娘が走行中に何かしらの事故や不運に見舞われれば、最悪死にかねない。

 

 そうなった場合、責任が取れるのか。

 

「そう言えば」

 

 彼女の夢とは全く関係のないことで、利用している。

 そのことに忸怩たる思いを抱きながら見つめていることに気づいたのか、サイレンススズカの瞳が彼の視線と交わった。

 

「そう言えば、どうした?」

 

「なぜ、トレーナーさんは今更マル外のクラシック登録をどうこうしようと思い立ったんですか? 私と前に話したときは惜しいと言いつつも、だからといって行動を起こすようには思えませんでした」

 

 東条隼瀬は、中央のトゥインクルシリーズというものに親しんで生きてきた。生まれたときから宿命的に、彼の行く道の先には中央のトゥインクルシリーズが存在していた。

 だからこそ、彼はマル外のクラシック登録不可というものを当たり前のように捉えていた。

 

 国内のウマ娘の保護。クラシック路線、春秋天皇賞という最高の栄誉を、間違っても外国から来たウマ娘たちの草刈り場にしないようにというURAの配慮は、彼にとって当たり前のことで、疑問を挟む余地のないものだった。

 

「……俺は制度に対して惜しいと思いつつも、何も行動を起こさなかった。エルコンドルパサーやグラスワンダーが挑戦する自由を理不尽にも奪われている。そういう視点に立てなかった。だがその視点に立てた男が居て、そいつが協力してくれと頭を下げてきた」

 

 当たり前を当たり前と思わなかった男と、理不尽を理不尽と思わなかった男。

 

 ――――すべてのウマ娘に幸福を

 

 その思想に賛同しつつも、覆すべき理不尽を認知することすらできなかった。その蒙を、啓いてくれたから。

 だから、協力している。

 

「だからだ」

 

 やっぱりこの人は変な人だと、サイレンススズカは思った。

 でも、こんなふうな変な人がいてよかったとも、彼女は思った。




45人の兄貴たち、感想ありがとナス!

Spooky16兄貴、ときわいろ兄貴、じゅいす兄貴、璽武通兄貴、評価ありがとナス!

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