槍の仙人はどこに消えたのか?   作:木刀超好き

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 よろしくお願いします。12話で完結する予定です。


異変の夜

 (びょう)という軽やかな風切り音。一度打ち鳴らされれば妖魔の首が飛び、万の軍勢が真っ二つに裂ける。

 音の発生源は一人の男が持つ槍だった。

 といってもただの槍ではない。その全長は男の背の丈に倍するほどで、持ち手の太さは子供の腕に匹敵し、穂先に至っては馬の胴さえ軽々と両断できそうな厚みと長さを持っていた。

 飃と槍が振るわれる。

 技も何もないような無造作な一撃でその刃圏に身を晒す兵達が肉塊となって天地に帰っていく。死神の鎌と化した剛槍の刃には「万夫不当」の四文字が鉄の素地に金で刻まれていた。大軍同士の戦いにおいて、酷く目立つ剛槍とあたかも反比例するかのように、それを使う男の容姿といえば極々平凡を貫き通し、地味な袍衣を中肉中背にまとっている。

 ただし、顔つきは平凡とはおよそかけ離れていた。血と暴力と己の武技に酔いしれ、爛々とした目は猛獣のそれで顔には獰猛な子供の笑みが浮かんでいる。その顔と凄絶な武技が組み合は去れば、戦場にはあり得ない服装とも相まって正体不明の化け物と遭遇する恐怖を敵味方問わずに振りまき、彼の周りには常に空白が生成されていく。

 後ろから近づく味方も無く、前に立った敵は一刹那と持たずに物言わぬ空白へと帰っていく。

 

 

 これは夢だと、俺はそのことを自覚していた。だからまるで怖いなんてことはなく、むしろ映画館で臨場感あふれるアクション映画でも見るかのようにこの脳内の戦争に魅入っていた。拳を叩き込み雲を貫き天を舞う竜の髭を掴みこれを騎馬とする。まさに仙人だ。どうやらこの舞台は架空の中国らしい。何度も夢を見ているうちに気になって甲冑やら武具やらを調べた結果そういう結果になった。

 ただ想うところがあるとすれば一つ。

 果たしてこれは夢なのだろうか?

 よく、分からない。

 

 

 

 

 「おい、起きてるか」

 筒地錬次(つつじ れんじ)は危機的状況を体感していた。夏の夜気は高温多湿、普段だって汗をかくがこれはただの汗ではない。ねっとりと肌に絡みつき、濃縮されたタールのようにどろりとした冷や汗だ。

 迫りくる鋭牙、押し進む黒の巨体。

「ならば腑抜けている場合ではないぞ」

女の声。

 槍を取れ、との音声が深夜の住宅街に鳴り響く。ひどく尊大なその声の主はどうやら女の様で、しかし年齢を悟らせないような深みがある。年老いているか若いのかでいえば、確実に若い声なのだけれども、それにしては声紋が深すぎて違和感が否めない。などと、そんなことを解析している筒地はつまり所詮傍観者に過ぎず、その声の主は目の前で脈絡もなく現れた河馬と犀を足して二で割ったような怪物と戦う少女に向けられたものだと判断できる。つまりこの場において主役となるのは、やはり突如として現れた、大太刀を片手に人間を辞めてるとしか言いようのない挙動で、身の丈の数倍はあろうかという魔物を翻弄する少女であり、その敵役も響く声も、そして道の片隅でへたり込んでいる己も少女を主座に置いた舞台の演出装置という風に、いきなり出現した非日常の光景は筒地の目には前述のように写った。

 

 少女が舞う。

 青々とした月光の下で、連動する太刀筋が煌々と闇の中に閃を刻む。周りを彩るのは異形の赤の血だ。それにしても、刀というのはなんてよく切れる武器なのだろうか。動きの中で吸い込まれるように斬撃が怪物を切り刻むさまは、あまりにも出来過ぎていて、こんな状況下でさえ舞でもみているようなぼーっとした気分になってくる。あくまで力強く直線的な例えるならば能楽のような動きは本当に観客を眠気を誘う。

 「起きるのだ。槍は今代、汝の気に反応している!」

 再び響く女の声。

「オオオロロロロォォォオオオオ!」

 成人男性の胴より太い腕を7つの輪切りにされた怪物の苦悶が世界を揺さぶった。失った重心の平衡を保つために叩きつけられた怪物の足が局所的な地震をさえも作り出す。そんな混沌と喧騒のの中心に立つ彼女はただ一人涼やかで、

「夜は……」

 揺れる視界の中で少女の体は空中にあった。いかなる大地震であろうとも空を飛ぶ鳥を落とすことは出来ない。つつ、と振りかぶられた太刀の切っ先が上空の月を串刺しにする。

「……静かに」

 

 一閃。

 

 太刀の持つ落下エネルギーと少女自身の位置エネルギーが互いに足し合う形で落下する。彗星の一刀は狙い過たず怪物の体の頭頂に突き立ち、大地も穿てとばかりの斬撃となって肉体を駆け抜け、アスファルトの大地を叩き割る一寸手前で完璧な制御で運動を停止していた。

「……うえええええっ」

 後に起きる現象は単純なものだ。

 解剖用のメスは切れ味が良すぎて、二三日たってから斬られたことに気付くということがあるらしい。怪物の体に起きたのはつまりはそういう出来事だった。

 大気を灼くような凄絶な斬撃から一呼吸、あるいは二呼吸のちに、ばがりと、縦に開かれた巨体が血肉の花を咲かせる。まず最初に真紅の血が噴水の勢いで飛び出し、ついで腹圧から解かれた内臓が大地に重々しい音を立てて落下する。

 

 まともじゃない。

 

 筒地の人生にこんな非常識なモノが絡んでいいはずがない。アスファルトを汚す黒い液体。噎せ返るように濃い血の芳香。その中心に佇む少女は幽玄の美を醸し出している。

「うわっ」

 異性でも同性ででもない中間の美ともいうべきか、見蕩れていたいたせいで反応が遅れた。血振りの際に飛散した血が筒地の視界を覆ったことをひりつくような痛みで教えてくれる。

 

 「……あ」

 やっちまった、そんなニュアンスが聞き取れる声で、ぼそりと少女が呟いた。反応からすると筒地の存在にも気が付いていなかったらしい。

「……みてたね?」

 反射的に筒地の顎が肯定の意を示した直後、がらりと少女のまとう雰囲気が変わった。ノーマルからハードに。通常から先程の化け物を殺したそれに。

「じゃあ、残念…」

 本当に悔しそうな表情で、けれども、無慈悲に全身が抜刀の姿勢を取る。

「…痛くないらしいから」

 少女からすれば安心させるためのセリフなのだろうが、明らかに使いどころを間違っているし、何より先程見た剣技―――一瞬で化け物の剛腕を七剪断して見せた腕ならば痛覚神経の伝達よりも早く人を斬り殺せるだろうことは明白だった。加えて筒地のいる位置は、少女の身長ほどもある長大な太刀の間合いの内にある。この殺傷圏の内において素人絶対に玄人の動きについていけない。

 思い出したのは体育の授業でやった剣道の試合。運悪く剣道部員と当たった筒地は二分の内に三十回以上叩かれ、こちらの打撃は一つも入らなかった。

 明らかに自分よりも大きい怪物を解体してのけた少女の腕前は、そこらの剣道部員なんてものでは無い。例えにしてはあまりに馬鹿馬鹿しい比較だったが、つまり、間合いの内にいる場合素人が玄人よりも早く動くことは不可能ということだ。

 そ、と握手でもするかのように少女の手が剣の柄に添えられた。

「ごめんね」

 そこから先の動きを筒地は知らない。

 首筋が焼けるように痛かった。ああ、斬られたな。嘘つきめ痛くないなんて言いやがって。それにしても何て腕前だろう。もう納刀まで終えている。

 

 「馬鹿者!起きろ!槍を取れ!」

 

 しばらく静かだと思ったら槍女の声が聞こえた。

 まあいい。死ぬ少し前に話に付き合うぐらいはしてやろう。どうせ意識を失う数秒の間だ。思い出す記憶が楽しい物とも限らない。

 

 なあ、名前は何て言うんだ?

 

 「我は、北山天号!華北の名もなき鍛冶師に打たれた仙人武具よ!戦うこと万年を定められ、前の持ち主の死から二年、とうとう汝に辿り着いた!汝が死ねば我は気を取り込む機会を失い、活動を永久に停止することとなる!」

 

 そいつは残念だ。その適合者とやらは今死んだぜ。

 

「馬鹿をいうな、まだ死んでなどおらぬ!さあ、我を早く受け入れろ!」

「……嘘だろ?」

 だって今確実に首を落とされた。

「幻覚だ。意識が先行して幻の痛みを先取りしているだけだ!」

 だとするとこの会話は細分化された意識の中のものとでもいうのか?

「その通り!さあ、掴め!」

 待て、待ってくれ。俺の人生にこんな血腥いものは不要なんだ。そりゃ男子だから侍だの騎士だのに憧れることはあったけれども、最早過去形なんだ。あんな血腥いものに関われるか。

「では、死ぬか?」

槍の問いに筒地は沈黙する。

「選択はないのだ!我を手に取りこの場を切り抜けるか、それとも路上の露と消えるか!」

 いや、

 しかし、

 だが、

「急げ、もう時間がないぞ。いいか、人生とはこういうものなのだ!不確定要素を生かすか殺すか、乗るか反るかの時があるのだ!」

 それがいまだ!と、尊大な声が筒地の頭蓋を揺さぶった

 

 

 ……ああ、わかった、わかったよ!つまりこいつは避けようがない選択肢なのだろう。映像の指示に従って、正確にコマンドを押すゲームのデモみたいなものなのだ。

「……北山天」

「なんだ?」

ならば、受け入れる。使えるものは使う。そして、巻き込まれない内に…

「…これが終わったら道ですれ違った誰かに押し付けてやるからな!」

「何でもいい!早くしろ!」

「おう!」

 直感のままに虚空へと手を伸ばし何もないはずの空間を手のひらで包み込む。手のひらに反ってくる太い子供の腕ほどもある感覚、

「おおおおおおおォオオおおオオっ!」

 咆哮しながら、一息に、存在しないはずの大槍をどこからともなく掴み出す!

 柄は子供の腕ほどもある。全長は大人二人分に等しく、全体の5分の1を占める穂先は馬の胴体を両断できる程に長く、厚く、鋭く。

 そして、鉄の素地には「万夫不当」の四文字が薄金で刻まれていた。

 

 迷うことなく自分の全長を超える槍を手繰り寄せ、筒地は胸の前に穂先を向ける。俺がこの槍をどう使うべきかは全く分からないが、槍の方が勝手に動きを示してくれる。

 「…くう」

 筒地は自分自身の薄い胸板に穂先を突き込んだ。痛覚は一瞬にしてはるか彼方に飛んでいった。

「ほう、汝は我をそのように使うか」

 面白し!

 大笑した槍が光となって炸裂する。

 

 

 

 

 

 

 「…何これ?」

 横木 佐奈佳(おうぎ さなか)は困惑する。抹殺対象の少年の突如とした魔力の増加、常識ではあり得ない現象。だが、こいつが蚩尤ならばありえる。横木家が代々殺し合いを繰り広げてきた、八十八匹の異形が相手ならば理解できる。

 今までの横木に歴史で討伐された蚩尤は22頭、これを討伐すれば更なる一頭が加えられる。魔力が増加したとは言えど所詮は素人、殺し合いでこちらが敗ける道理がない。

 それにしても今日は運がいい、眷族だけではなく本体まで討滅出来るとは。

「行けるね、春風?」

《無論、我が鋭刃に…》

「…断てぬものはない」

《…ふっ、行け》

 春風の渋い声に押されて横木の身体能力が常人の六倍にまで跳ね上がった。

 丹田功、一族が代々引き継ぎ練り上げて来た力と術の結晶。その一端を開放することで、佐奈佳は一時的に人の域を超越する。

 あくまで、捷く、軽やかに、身の丈ほどの大太刀が斬線の過中に存在するものなどないように鞘を疾(はし)った。

 

 

 感覚が異常なほどクリアだった。今の筒地なら雨粒だって掴み取れる。その観うる全ての事象がはっきりとしているただその中で、唯一レーザーの如き直線が視界の端に写った。

 《戦いは我に任せておけ!》

 にゅるん。簡潔な動作で刃が必殺の斬線を外れる。自分では意識していないのに動いた身体の感触は、はっきり言って気持ち悪い。

《考えるな!手を出そうとするな!汝はただ感じることに集中しろ!》

 女の声を要約すれば余計な手出しをするなということだろう。この場はプロに任せておけということかもしれない。余計な事を考えずにただ北山天が全力を出し切れるようにすることが、いまの筒地の行うべき全てなのだ。

 抜刀をいなした一挙動、低い姿勢で筒地の体が少女の懐に潜り込む。一連の動作は全て自分の知らない未知の動きだった。使ったことのないやり方で関節を使い、動かしたこともないような筋を参加させ、未知の情報から分析する。このどうしようもない異物感。

 

 

 躱された。埋めようもない彼我の距離は佐奈佳が返しの刃を放つのには十分な距離だったというのに、ぬるりといつの間にか少年の体が至近に存在する。

 超至近距離で打ち出されたのは中段への左掌底だった。魔力の働きによって炎の尾を引きながらの一閃。内臓破壊の致死の打撃を鞘に掛けていた左手で払う。僅かなラグの内に先をとった相手の右が潜り込むもかろうじて左手で防御しきる。だがそれこそが相手の狙いだった。二度の後手が生み出した致命的なラグに少年は超々至近距離へと歩を進めている。間合いは拳足の有効を超えて、ついには体当たりの間近へと変じていた。

 そして来る。未来を先取りする決定的な予感。

 

 まだか、………。

 

 ……来ない?佐奈佳の体内で起きた変化は一言でいえばそんな感じだった。そして厭らしいことに、佐奈佳の力が半端に抜けたまさにそのタイミングで相手の一打が入る。両足を肩幅に開いて沈墜、体重の上下動と同時に振り下ろされる右足は、少年の肘が佐奈佳の腹に少し埋まったあたりで全攻撃を完了とする震脚を放つ。

 「おぼぉ…」

 腹腔が爆発した。震脚によって刹那の剛体と化した相手の肘は慣性力を利用する形。電車が停止する際に乗客が前によろけるのと同じ原理で、その運動エネルギーを余すところなく佐奈佳に伝えきった。

 打撃を喰らったことは幾度かある。蚩尤の眷族の打撃はコンクリートの壁さえ粉砕する威力があったが、それでも上昇した身体能力で耐えることはできた。

 だが、これは……違う。威力ではなく質が違う。無防備な一点を打ち抜く槍のような一撃。

「は、は、は、は、は、は、は、は、は…」

 呼吸が苦しい。立っていられないと佐奈佳は敵の前で大地に膝を付いた。勢いでこみ上げた胃液には血が混じっていた。敵が至近に立っているというのに全く体が動こうとしない。

《主よ!早く動け!》

「……、」

《敵が来るぞ!急げ》

 いつもなら頼もしい春風の声も煩わしかった。だいたい殺すと言うのであれば、向こうはもう殺している。あの打撃が入ってからいったい何秒が経過したと思っているのか。自分なら20回は殺せている時間が経過している。そして収縮した内臓はいまだ回復には至らない。

 敵が来る。

 

 

 《あの女…》

(どうした?て言うかやり過ぎだろうあれは)

相手は崩れ落ちちゃってピクリともしていない。本当に効く打撃は相手を吹き飛ばしたりせずに、その場で崩れ落ちるさせるそうだが、今起こった現象は正にそれなのだろう。 

《すまぬな、禽拿を使えるような相手ではなかったのだ。それに先程の一撃は七孔墳血といって》

 はあ?しちこうふんけつ?何だそれは?と、筒地は聞きなれない言葉に首を傾げた。

《直撃すれば七つの孔から血を吹き出して相手が絶命するという…言うなれば必殺技だが》

「ごめん、本当にごめん。頼むからさっさと出て行ってくれ」

《無理だな、というか早く止めを刺せ主よ》

 止め?それはつまり……、

《殺せといっておるのだ》

 北山天の端的な単語に呼吸が止まった。殺すってまさかそんな。魚でも〆るみたいにあっさりと言っていい言葉なのか?

《やらぬのなら、我がやるぞ》

 言葉の響きが本気だった。こいつは本気で命のやり取りの話をしているのだ。

《何を躊躇っている、今回の形は兵器でなかったから相手も死んでいないが、これが槍だったのならば先の一合で雌雄は決している》

 それでも、俺は…無理だろう?だって人を…

 人を殺すなどというのは、常識的にあり得ない。そんな筒地の躊躇いに業を煮やしたのか、

《あい分かった、我がやろう。汝はそこで黙って見ておれ》

 意識が切り替わる。雨粒が掴みとれそうなほどに意識が先鋭になる。

「やめろ!ばか!…やめろ!」

《馬鹿は汝だ!わが主よ!》

 筒地の弱気が魂消るほどの北山天の気勢。

《ここで逃せば、相手は執拗にお主を付け狙うだろう!昼も夜も、飯を食べているときも寝ているときも!汝が気を休める場所は無くなり、結局殺すという結論に至る!》

 ならば!と北山天は本質において叫ぶ。兵は不詳の器なり。武器とは敵を殺すための物、覚悟もなしに振るわれるべきではない。

 だけど、筒地は

「そんなこと、聞いてない!」

《知るか、汝は不様な死よりも、生を選んだのだ。生とは他を殺すことを肯定することである。それが嫌ならば我の誘いなどに乗らなければよかったのだ》

 返ってくるのは北山天の冷徹な声。

「ならば死んでやる!」

 それしかない。こいつの利害と俺の利害が一致して今回のことが起きたのだ。北山天の定めは万年戦いを続けることで、消えそうな気の補給相手を探していたこと。俺の利は生きること。

《本気で言っているのか?我がそんなことをさせるとでも?》

「出来ないってんなら、戦闘のたびに余計なことをして妨害してやるよ」

 俺のカードは共同体の破滅による共倒れ、向こうのカードは最早存在しない以上、俺の意を通すしか道は無いはずだ。

 北山天が沈黙する。どうだ、参ったか。道具如きが……、

 

「……図に乗るなよ、小僧」

 

 ぼそりと、耳元で女の声が聞こえた。その時になってようやく筒地は、この槍の深遠たる感情を覗き見た気がする。

《汝程度の自我を抑え込むは容易いが、共に戦う相手と思い今までは尊重していた》

《だが、我が意を離れるならば仕方がない。戦傀儡として摩耗しきるまで使い果たしてしまおうか》

体温が氷点下にまで下がる、絶対零度の静かな脅迫。同時に混乱が訪れ、肉体が筒地を離れていく。

《使い手との協調は十割の力を使うためには必須なれど、9割あれば問題ない》

ぎちりと、関節が軋みを上げて腕が天高く掲げられた。殺気を宿す手刀の向かう先は、足下に転がる少女の首筋だと考えるまでもなく筒地は理解する。

「終わらせる」

 審判の声が天上から零れ落ちた。

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