私自身の思想はあんまり絡めず書きたい所存。
ランカシャーの一地域、リブルバレー。
綿産業が盛んなこの地域に、奇妙な目撃情報があった。
「お兄さん厚着だね」
「モントリオール帰りなもんでな」
「モントリオール?」
「北アメリカの街さ。寒いんだぜ?」
青年オリヴィエ・ベルナルドは厚手のコートとフードをまとい、駅へ降り立った。少年は興味津々というほどでもないが暇なのか、オリヴィエが降りて早々声をかけたのであった。
「ボウズは随分薄着だな」
「冬ももう終わるしな。オレの家、測量士だから子供にいい服買うまでの余裕はねえし」
「……そうか。ま、お前さんがいますべきは勉強だなボウズ」
「えー、クリケットやってる方が楽しいや。それにセンコーの体罰もひどいしさー」
「そりゃ大変なこった。なんか手助けしてやろうか?」
「別に!」
そりゃそうだな、オリヴィエは笑って言う。だがしてやることがないからとはいさよならとは言わない。彼は少年に数シリングを渡した。なんだよ急にと言いたげな彼に、案内してくれよとオリヴィエは笑った。
雪も溶け始めたリブルバレー、ロンドン在住民はイナカのように言うかもしれないが、その街並みは確実に革命の波の通り切った後だ。彼は自分の学校なんかを紹介しつつ、街の紹介を簡単に始めた。
「ここがオレの行ってる学校」
「デカいな」
「だよな、こんなに要らない。で、あっちにクリドロー城がある」
「へえ、城ねえ」
「……なんか知ってんの?」
オリヴィエはいや別にと軽く言うが、少年は鋭いところがあるようだ。一体どうしたんだよとしつこく聞き始めた。
「その城って、いつのモンだ?」
「700年前?とかそんぐらいらしい」
「ン、そーか。助かるぜボウズ」
「お兄さんってモンテリオから一体何しに来たの?」
「モントリオールな。ま、ちょっとした研究っつーかなんつーか」
「ふーん。いつもはどこにいるの?」
「秘密だ」
えー!少年は教えてくれよケチンボと騒ぎ、オリヴィエはどこか楽しげに笑う。小遣いならまだくれてやると言うが、悔しいのか何か、少年は要らねーよと口を尖らせ言った。
「ま、俺は当分この宿に居る。暇なら来てくれていいぜ。俺が暇かはともかくな」
「んだよ!まいいや、じゃあな!」
手を振り去っていく少年。オリヴィエも振り返して見送り、宿へ。部屋の中でそのコートを脱いだ。
仰々しい、銀の鎧。赤と青の意匠はまさに自由と平等と友愛の色であった。そして腰にしまわれたフルフェイスの仮面を被り、鏡にその姿を映し。
「……だっせ」
青年は自虐的に笑った。
「ユニオンジャックとも遠くねえ色だがさすがにバカ目立ちするなこいつは」
椅子に座り、なんとなくポーズを決め、シャドウボクシング。改めてその「似合わなさ」に、オリヴィエは今一度ため息をついた。
「まあ動いてりゃカッコもつくか?でもつるっつるの頭にまず装飾欲しいよなァ〜……改造してみっか?ローマの兵士みたいに頭頂部に……」
そうしてファッションショー、数分。小さなため息と共に彼は結論を出した。
「まずは色剥がすか」
青年、買い物へ出動。目的はヤスリである。削り落とししつ銀の光沢を出せれば……。彼は引き算デザインにかけてみることしたのである。
「……だからね、うちの家内も見たって言うんだよ」
「冗談じゃないぜ!」
道具を買いに行ってみるとどうだ、ちょうどよく噂話の真っ最中であった。内容の方もまさにビンゴ、オリヴィエが追っている「奇妙な目撃情報」である。
「夜中にぴょんぴょん跳んで泥棒働くってんだ、しかも動きは同じなのに毎回顔が違うってんでよ」
怪談の文化は英国にもある。日本のそれとは違い冬の名物であり、雪が溶けてきたこの頃にはいささか不釣り合いなものであった。
「なあおじさん達、詳しく聞かせてくれよ」
と、なれば聞き込み開始である。目撃情報は地道に集めなくてはならない。新聞に載ることもないウワサにこそ、彼の追うものは隠れているのだ。
とはいえ、やはりその段階だとあやふやなウワサを上回らないのも事実である。得られた情報は少なく、「目的のモノ」自体を足で探さねばならない。
少年は好奇心旺盛な方であると自負していた。夜中に歩き回るのは当然怖いが、それを上回るぐらいには行きたい場所があった。
寝ている同級生達の横を抜け、寄宿学校を抜け出し。少年は「尾行」を始める。
「あれ、どこ行ったんだ?」
しかし尾行対象ことオリヴィエ・ベルナルドを見失ってしまった。とはいえ少年に言わせれば問題ではない。どこに行くかの目星はついていたから。
「……」
真っ暗なクリドロー城に侵入。唾を飲み込み、暗がりをランタンで照らした。それでも夜の闇は拭えず、何があるかわからない恐怖の中進んでいく。そう、進む、好奇心故に。
だからこそ、普段はまず警戒すべきことも好奇心と高揚が隠してしまうのだ。
「ジョージか……?」
この城にボーッと立つ同級生なんかは特に、であろう。
「……チガウ」
ジョージは手に持っていた木材用の斧を捨て、少年へと迫り来る。尻もちをつき、そのまま腰が抜け。拳を放とうとするジョージがひたすら視界占有率を増してくる。
「ひっ」
声が出ないが、ただただ恐怖は爆発する。手も足も動かず、痛みを、酷けりゃ死を覚悟し……。
しかし、その覚悟が実ることはなかった。
「ゥオオア!」
「よォーしいいぜアンドレ、いい手加減だ」
アンドレ、馬を撫でて男はそう言った。銀の鎧と、全面を覆う兜。転げるランタンと月光は、彼を確かに映していた。
「
「……大丈夫かボウズ」
「んの声……昼のお兄さん!?」
「……バレたか。こりゃ秘密にな」
「……で、でも、あんた、研究って」
「広い意味じゃあこれも研究だ」
マスクドライダーは、ライダーは馬ことアンドレから降り、馬に蹴飛ばされつつも立ち上がるジョージを見据えた。
「チガウ!!」
ばひょんっ!ジョージは突如凄まじいジャンプを放つ!
「……今の力……バネかなんかかァ!?」
飛び蹴りを避け、ライダーは着地側にパンチをくれてやる。簡単に吹っ飛ばされるジョージ。大きな怪我はなさそうだ。
「チガウゥ……」
「っひ!!」
ずるり、ジョージの中から、半透明の化け物が姿を現す。バネを寄せ集めたような怪物、と形容すべきだろうか。
それを見てライダーは仮面の下で呼ぶ。「スプリングレイス」と。
「悪いがお前の武器はここにはなさそうだぜ」
「っひ、い……」
「十字切っても無駄だぜボウズ。……その作法、カトリックだな?奇遇だな、俺もだよ」
「そ、それって」
「俺フランス人なんだよ。……ああ、そっちじゃねえか。いいか、除霊にキリスト教の力が通じるのは生前の信心を思い出すからだ」
ライダーはレイスに向かって銃を撃ちながら続ける。
「ヴァイキングにその作法は通じねえ。何かがあってヴァルハラとやらに行き損ねた荒くれどもが奴らさ」
「じゃ、じゃあどうすんの」
「簡単だ。戦って満足していただくんだよ!!」
蹴り込むライダー、レイスは戸惑い気味に仮面の戦士を見た。
「なんで殴れんのかって?こいつは特別でな!」
「ウゥゥウウ」
「んでもってこいつも特別だ」
ばごん、アンドレの蹄鉄がレイスを吹っ飛ばし、そこにスプリングが追撃を放つ。蹴りの連続攻撃だ。
「ナイスアンドレ」
「ンヒヒィ……」
いななきでどこかドヤ顔にも見える顔を見せつける黒毛。ライダーはさっと撫でてやると、行くぞとばかりにアンドレに掴まる。
「ヒィィン!!!」
「よし来た!」
そしてたづなを握り、鞍の横に立つような姿勢へ。そのまま駆けだすアンドレ。加速、接近。レイスが体勢を立て直すと同時に、曲乗りのごとき姿勢から足を伸ばしたライダーの蹴りが襲い掛かる。
「ゥオ……」
「う、撃てばいいのに」
「撃たれてトドメは戦士が満足しないだろ。ヴァイキングだぜこいつらは」
アンドレから降り、再びそっとなでるライダー。彼は屈んで、ぶっ飛ばされたレイスへ近づいた。
「普通はみんな満足して姿消すんだがな」
「……チ、ガウ」
「得物の話か?」
レイスは無言で肯定した。ライダーは仮面をはずし、その寂しげな瞳をさらす。
「そりゃ災難だ。人間に取り憑くレイスなんつーのは初めて見たが……そりゃ武器を実体にするもんな連中は。お前さんは最後に持ってた武器、拳を探して肉体を取り憑いて転々とした、ってか」
「こ、この町にヴァイキングぐらいのマッチョなんているかなあ」
「居たとしてもパワフルな農民だろ、戦うための肉体と感覚は違うだろーよ」
レイスはより一層残念そうにうつむく。ライダーだった青年、オリヴィエは、その寂しげな視線のまま口を開いた。
「……俺の肉体貸してやろうか?お前に現世に残られ続けるのは気分良くねえし、俺は取り憑かれてもダイジョブなタイプでな」
「……え?何言ってんだお兄さんは!」
「変なこと言ってんのは分かるがいい手段だろうよ。な?」
レイスは戸惑っているようだが、どこか情けない雰囲気でそのその話に乗りたがるそぶりを見せた。
「よし来た。言っとくが人殺しは絶対にやんねえし、逆に人助けは手伝ってもらうからな」
レイスはそれでも応えた。前世のことなど大して覚えていないが、人情に篤いやつなのかもしれない。
「おい、バカだろ!待て!!」
少年が止めに駆けだすと同時に、レイスはオリヴィエへ飛び込む。どすん!間に合った、少年の安堵と裏腹に、レイスはぬるりと姿を消した。
「あ、あれ!?まさか……」
「なにすんだボウズ!!……あれ?」
レイスの姿はない。その上、オリヴィエは肌着とパンツだけになっていた。
「さっむ!!春前とはいえ夜にこの格好はないぜ」
どこか呆れ気味なアンドレの背から、コートを取り出し羽織るオリヴィエ。くしゃみをしつつ、あたりを見た。
「なあ、もしかして……」
少年が近づくと同時に拳銃が揺れる。撃ち切って空になった拳銃を握り、オリヴィエは恐る恐る引き金を引いた。
『Ready go OK?』
「話しかけた!?」
「レイスの声か?」
ばしゅん!何も入っていないはずの拳銃から飛び出た何かがオリヴィエにくっつく。ビビるオリヴィエと少年をよそに、そこには消えたはずのライダーの鎧を着たオリヴィエが居た。
「あれ?俺……あれ?」
「着てるね、その、鎧」
「……マスクドライダーだっけ?気に入ったぜそれ」
「おう、そりゃ嬉しいけど」
ふと気づく。コートは?顔を見合わせる(まあ仮面なのだが)ライダーと少年。引き金をもう一度引いてみると……。
『I wanna fight again』
「……コートだ」
「銃の中に鎧が……つまりレイスは鎧に取り憑いてちっさくなってるっつーことか」
オリヴィエはうんうん頷き、アンドレも一緒になって頷く。この場に困惑しっぱなしで放置された少年は、今冷静になって、改めて興奮が襲ってきた。
「にしてもすげえよ!!鎧の戦士が幽霊倒して仲間にしたんだろ!?」
「そうなるな」
ドヤ顔のオリヴィエ。アンドレも同じような顔をした。
「でもボウズ、このことはヒミツにしとけよ」
「おう、ジョージが寝ぼけてたのを追っかけたことにするよ!」
「よしよし、ま、こー言うのに興味湧いたらな、ロンドンに来るといいぜ。そこにゴーストクラブがある。ディケンズの作った怪異調査のクラブだ」
「ディケンズの!?」
「おうよ、だから俺は今からロンドンに行くってわけ」
少年は目を輝かせる。
「そういや自己紹介してねえな。俺はオリヴィエ。オリヴィエ・ベルナルドだ。ロンドンでいずれ」
「うん!オレはアーサー・コナン・ドイル!またな!」
手を振って去っていく彼に、オリヴィエは笑って応えた。
「じゃ、行くかアンドレ」
「ヒヒン」
「腹減ったのか?だったら待ってろ、人参でいいか?」
1870年、これはとある青年の戦いと出会いの物語。
仮面ライダーの物語、その始まりを乗せ、蒸気機関車はロンドンへ向かった。
第一話「緋色の研究」
「変身!」
次回、「窮余の策」
はい、勢い付いて書きましたオリジナルライダーです!
歴史創作の要素を多分に含みますが、詳しくなくても楽しめるようにはしたいですねー。
この期にみんなもヴィクトリア朝の良さを知ろう!!!