ベルト=腰に常にくっついてるバグスターバックル
だと思って下さいな
オリヴィエはナポレオン三世のやり口はあまり好きではなかったが、パリの環境改善という観点で言えば成功を収めていたのは事実であろう。道幅は広くなり、清潔な空気を取り入れることに成功していた。……その反面。
「っふ、はっ」
屋根から屋根の移動がいささか面倒なのである。ここ、ロンドンも産業革命により整備された道が清潔な雰囲気を見せている。オリヴィエは自身の鎧がスプリングの力を持っていることに感謝が尽きなかった。
「助かるぜバックル」
カタカタ揺れる銃と台座。スプリングガンとか銃とかレイスとかいろいろ呼んでみたが、バックルと呼ぶのがちょうどよかったらしい。もうそろそろ、仲間意識というか愛着のようなものがバックルにはあった。
仮面ライダースプリングは、屋根と屋根を行きながら怪人を追う。少しばかりすばしっこいお相手はタービンレイス、武器は盾だ。
「見つけたぜ」
「イカセナイ……」
「もう終わった話だろうよ、ちゃんと天に召されな」
追いついた。すばしっこい敵を前に、仮面の下でオリヴィエは寂しそうな眼をした。盾の癖に逃げ足が速いのは、何なんなのか。遺言だか何だかわからないが何を行かせたくない、もしくはなかったのか。オリヴィエは深く考えるつもりはなかった。それは戦った後でいい。
「行けるかバックル」
バックルは揺れて応えた。仮面の中でオリヴィエは笑う。
「どおおおりゃあああ!!!」
屋根の上なら天井は青だ。ライダージャンプが夕陽に照り、テムズに飛び降りて逃げようとしたレイスへ。銀の戦士が槍のように突撃、ライダーキックである。
「イッ、ゥ……アアァ」
ガードすべく前に向いた盾をぶち抜き、爆散。空中で光と音と盾が散らばり、スプリングはそのまま川に墜落した。
第四話「二都物語」
ロンドンの春が過ぎ夏が始まろうという頃。オリヴィエはロンドンの戦士として日々駆け回り、レイスと戦っていた。街を飛び回る謎の怪人という、不本意な形で噂になっていたが、都市伝説という形で消費されるのはレイスの被害が減った証拠として、彼は内心喜んでもいた。
親しい人間が亡くなりショックはあったが、彼は「誰かのせいでなく病でまだよかった」と、自分の過去をみて振り返っていた。
「っぶっは!!」
軽めの鎧とはいえ泳ぐには苦労する。着衣泳法は習得しているため、変身を解除すれば泳げるわけだが。
しかし非常に汚い19世紀のテムズに飛び込み、気分は最悪だ。
「バックルん中入ってるってわりにはいつもは軽いよな。どうなってんだ?」
ベルトから外したバックルを眺めつつ、彼は服をさっと絞った。
「っぶる」
「またわがままか~?」
何故私を頼らない!アンドレはそう言いたげであった。濡れた手でなでられると、アンドレはやめろやと言わんばかりに首を振る。とりあえずオリヴィエの今の目標は帰宅だ。アンドレは濡れた服の相棒をあまり乗せたくはないようで、察したオリヴィエは愛馬を引いて帰宅した。
「……うし」
帰宅して湯浴みののち、服を洗う。洗濯機の準備をして、服たちを放り込む。ハットは丁寧に手荒いし、乾燥用の棚へ。ロンドン生活も慣れ、イギリスかぶれは進行した。背広はいくつか買い、もはや形見となったディケンズのスーツは大事にしまってある。しかし仮面ライダーとしてのマークでもあるハット。これはもらったものを使っていた。
「……行くか」
着替えてまずまっすぐ向かうのは、シティ・オブ・ロンドンにあるパブだ。彼は労働者階級たちの居る方のエリアへ。中流以上と労働者階級では入り口もエリアも違うパブは少なくなかったのだ。
「ジェイス……まだいねえか」
ゴーストクラブでの活動も続いているが、彼は特に親しくなった友人だった。あたりを見てもいないらしい。とりあえずはお茶でも飲むことにして、彼はカウンターに立った。
「……オリヴィエか!?」
「マーク…!」
「マルクスさんから聞いていたよ。もう何もする気はないんだって?」
彼の友人だ。オリヴィエの、社会主義活動をしていた頃の。
「会っていきなりそれか?元気だったか?」
「見ての通りだ!それより」
「ルイ・ナポレオンの暗殺か?」
ぐっとマークの耳に接近し、小声で。マークは無言の肯定を見せ、その眼光は確かに鋭く光っていた。
「お前は変わんねえな」
「オリヴィエは変わっちまったよ。労働者の幸せに目を向けていたお前はどこに行ったんだ」
「ここに居る」
オリヴィエもいっそう強い視線をぶつけ、マークとにらみ合う。
「……お前が戦って、罪なき人々を怪異から守っているのは理解している」
「……」
フランスにいたころから、活動家としての仲間である。彼は知っていた。
「俺はその根源を叩きに行くだけだ!」
「根源……?」
知らないのか、マークは少し迷う視線を見せ、そして向き直る。
「ルイ・ナポレオンは国力の強化のために侵略を続けている。憤りはないのか」
「ある。だがそれを憎み続けてたらいずれ君主は全員殺される。一度殺したらもう終わりはなくなる」
「だが平等な社会は近づいている。君主は居ないのが正しい社会だろう……それに」
「それに?」
「レイスは奴が生み出したものだ」
ぴたり、オリヴィエが固まる。
「何を言ってるんだ?パリ包囲戦や、イングランド侵攻のなかで死んだヴァイキングの霊だろう」
「なぜ今更?なぜ機械の力を持つ?なぜパリにまず現れ今ロンドンにいる?」
「それは……!」
「わからないんだろう?生み出したはいいが奴が手に負えず放置した、合点がいくだろう」
そんなわけないと言おうとするが、オリヴィエは別にルイ・ナポレオンことナポレオン三世の支持者ではない。好きでもないやつに対し信じたくないという感情が湧き、複雑さに顔をゆがめた。
「……プロイセンとの戦争が始まった」
「知ってるぜそんぐらい」
「ルイ・ナポレオンを消し、共和政を取り戻すチャンスだろう?」
「……レイスを生み出したのがあいつだとしても俺は絶対命は奪わないし、信じる気もない」
そう言って彼はより一層強い視線でマークを睨んだ。彼はちょうど用事があるようで、時計を見てパブをあとに。オリヴィエに考えておいてくれと告げた。
「知り合い?」
入れ替わるようにジェイスが来た。腐れ縁だとだけ告げ、本題へ。彼はオリヴィエの「仕事」に対しても協力的なのだ。
「……頼みたい、ことがあるんだが」
「歯切れが悪いねずいぶん」
オリヴィエは少し間を置いて話した。
記者として働く傍ら、オリヴィエは労働者の権利を訴える活動をしていた。彼は多くの人が平等で幸せになれると考え、社会主義運動もしていたのだ。
カール・マルクスはちょうど、彼の思想を代弁してくれそうに感じていた。彼が国際労働者協会に加わるのはすぐのことであった。
だが、革命に影響を受けたフランス人の仲間は、過激な思想でもって活動を推し進めようとする。
冷めたのだ、端的に言えば。自分はみんなを救いたいのであって、命を奪いたくはない。オリヴィエはそう考えた。
腑抜けと後ろ指をさすものも多かった。
そんなころ、彼の元にナポレオン三世から直々に指令があった。レイスを追い、倒す任務である。
オリヴィエはアンドレを連れての散歩に、ウェストミンスターのトラファルガー広場へ向かうことが多い。考え事に向いた空間でもあるのだ。
「……なあアンドレ、どうすべきだろうな?俺」
アンドレはため息のような息を吐き出し、ぶるると鳴く。そして、あるじへと頭を擦り寄せはじめた。不器用な慰めのように感じられ、オリヴィエは微笑んで愛馬を撫でてやった。
「……お前まで?」
バックルも何かいいたげにカタカタ揺れる。ありがとよと言ってやると、アンドレは嫉妬気味にヒヒンと鳴いた。
「っふ、妬んでんのか?かわいい奴め」
父から世話を任され、幼少期からずっとそばにいた愛馬。オリヴィエの親友で、幼なじみなのだ。
しかしオリヴィエは、愛馬を撫でながらも思考はパリに向かっていた。
「やりかねないよなァ」
ナポレオン三世は一度広場で話すのを見たぐらいだが、はっきり覚えていた。外交で力を伸ばしただけあり、その演説力は飛び抜けたものを感じた。
だからこそ、というところはある。
「もし、もしもだが……レイスを生み出せなくなるんなら。……俺は昔みたいに声をあげるべきなのか?」
アンドレは答えない。その顔は好きにしろというようなもの。
「ついてきてくれるな?」
ぶるっふ、声で小さく肯定を示した。
「……オリヴィエ」
「……」
さて、調査を頼んだのは一週間前になる。浮かない顔で現れたジェイスを見れば、オリヴィエも事情を察するというものだ。
「……俺は過去の事件を洗い出してみたがな。……マ、フランスから広がってるわな」
「僕も、その裏付けになる、のかな」
確実に人為的に生み出され、その前後の動きから間違いない。ジェイスは淡々と続ける。……かと思えば、突然にその顔はさらにかげった。
「……ダニエル・ベルナルド。この男性だけがレイスを生み出せたらしい」
がたんっ。オリヴィエが立ち上がり、ジェイスの方を見る。本気で言ってんのかと胸ぐらを掴みたくなるが、ジェイスがこんな嘘はつかないという信頼は確かにあった。
「……お、 親父……」
「兵器を作らせ、手に負えないと分かったから尻拭いをさせた。……その仮面ライダーの活動はいつから?」
「一昨年だ。……親父が死んだのは、3年前。病気だった……」
「……」
「尻拭い役を、息子に移した…………」
「家業のようなものと言っていたけど、お父上の職業って」
「聖職者だよ、おう、ついでに神学者」
ジェイスは合点がいってしまったと、どこか申し訳なさげにため息をついた。
しかし反面、オリヴィエは安心していた。親父が作らされていたなら、もうレイスが産まれることはないはずだ。
「……どうするつもりだい?」
「パリに行く。真相が気になる」
「でも今はプロイセンが攻め込んでる状況下だよ?」
「それでも行ってやる」
「……なら止めない。頑張って」
彼はロンドンをあとにすべく、ウェストミンスター駅へ駆け出す。そんな時、オリヴィエは爆発音を聞いた。
「ヒヒン」
「乗れって?そうだよな分かってる!」
こうなったら彼は人助けせずにいられない。パリ行きは置いておき、その音の方へ駆け出す。そう遠くはない。機関車の倉庫で事故は起きたようだ。
「……コロス……コロス…」
「おいおいずいぶん直球だな」
やはりただの事故ではないらしい。レイスは斧を引きずりながら迫ってきた。かなり背の高い黒のレイスだ。
「石炭か!……コールレイスってとこか?」
コールレイスは応えない。ただコロスと呪詛を唱えながら接近する。
早く!そう言わんばかりにバックルが振動でもって喚く。
「分かってるって」
『Ready go OK?』
「
ハット片手に変身。仮面ライダースプリング、被り直して改めてコールレイスへと向かう。
「オラ!!」
殴りかかって一発。少し怯みは見せたものの響かない。さらに反撃の斧を喰らい、防ぐもののぶっ飛ばされる。
「こりゃめんどくせえな」
かかとを叩き接近、一気に蹴り込む。アンドレも一緒に前足をぶつけ、大きく怯ませた。
「よし来た!!」
スイッチを連続で押し込み、発動、スチームパンチ!レイスを怯ませ、さらにバックルの合図でドロップキックを決めることに成功した。
「うし!」
ぶっ飛ばした先には爆発の残り火。石炭という素材なら燃えてダメージを喰らうはずだ。追撃のため、スプリングは急接近。ライダーパンチを決めようとした。
「ゴアアアアアア!!!」
しかしそれは熱風に阻まれる。さらに小さな火球たちがスプリングを襲い、ダメージを深める。
「んだ……と」
炎の塊のようになりながら、コールレイスは立ち上がった。そしてあたりを見回し、近くにある一層目立つ建物へ走った。
「……くっそ、ロンドンの焼き討ちか!?えぇ!?」
自分のせいではないか。そんな思考が巡る中、レイスがどこかに隠れて見失う。幽霊故こうされるとどうしようもないのだ。
しかし何をする気かはなんとなくわかる。彼はここウェストミンスターで一番目立つ建物……ビッグベンへ向かった。
次回、「大いなる遺産」
ナポレオン三世
劇中では主にルイ・ナポレオンと呼ばれるフランス皇帝。あのナポレオンの甥っ子。
もともとは政治家としてフランスを治めていたものの議会にクーデターを起こし皇帝へ。戦争などにより国力を増すも、メキシコに負けたあたりから調子を崩しプロイセンに拘束されたのが決定打に。パリに居ない隙に国民が共和政を樹立。これでナポレオン三世は最後のフランスの君主となったのでした。
本作ではプロイセンと戦争のさなか。
バネ脚ジャック
ロンドンの都市伝説。1870年代前後にいた、人々を驚かす怪人。火を噴いただの消防士みたいな格好だのすっげえ高いところから降りてきただのいろいろ言われている。
街中でレイスと戦う仮面ライダースプリングこそその正体なわけですね。
というわけで第四話。ちょっとパッとしない回でしたね。でももう五話は書きあがってるんで次をお待たせすることはないと思います。ではご期待をば~!