「なんや環クン。相談って」
「……」
環は以前星達と訪れた古民家カフェに琥珀とともに来店していた。環の顔は深刻なもので、琥珀は一体何があったのかと表面には出さないが彼を案じていた。
「その、琥珀さん。今日は俺の呼び出しに応じてくれてありがとうございます」
「かまへんよ、そこらへんは。ワイは環クン付きの編集やからな」
「でも、そのですね。今回相談したいことって、とても個人的なことなので……」
「遠慮とかせんでええよ。ちょっとしたことでパフォーマンスって下がるものやし。そうなる前に周りを遠慮なく頼ったらええねん」
ケラケラ軽快に笑い飛ばす琥珀を前に、環は少し気が楽になったようだ。先程よりも幾分か柔らかくなった表情で口を開いた。
「実は、その……。俺、星さんに惚れてしまったのかもしれなくて」
「…………うん?環クン、もう一度頼むわ」
「星さんに惚れたかもしれないんです」
「んんん?環クン星サンに惚れたから求婚したんとちゃうの?」
「え、違いますよ」
「……つまりあれか。キミはただ仕事のためだけに星サンに求婚したと?」
「そうなります」
琥珀は頭を抱えた。以前から環は切羽詰まると何をやらかすかわからないというちょっと危ない傾向があったが、ただ仕事のためだけに好きでもない女の子に求婚したとは。……正直言って。
「環クン」
「はい」
「キミ……サイテーやな」
「え!?」
「え!?やあらへんよ!?あんなぁ、星サンたしか十九歳やから恋に恋するような年頃は過ぎたとはいえ女の子やで?仮にや、キミが星サンの立場に立ってみい。好きでもない、そもそも会うのも言葉を交わすのも初めてなやつから『好きじゃないけど仕事のために結婚してください!』って言われたら、キミどう思う?」
「……引きますね」
「せやろ?」
「俺、最低ですね……」
「せやな……」
環はあからさまに落ち込み始めた。
「まぁそないなこと言われても星サンはあの様子見る限り慣れてそうやけどな。星サン求婚されるの慣れとるゆーてたし。さすがは傾国の美少年やわ」
「……それなんですよね」
「?何が?」
「俺、星さんの笑顔を見てからなんです。様子がおかしいの。でもそれって星さんの見た目しか見てない、他の人と同じなんじゃないかと思って。……そう思うと、星さんに惚れたかもしれないって打ち明けづらいな、と」
琥珀はふむ、と顎に手を当てた。
環は少し考えすぎるところがある。根が真面目な彼らしいと言えばらしいのだが、それが彼を苦しめるところもあるのだ。
(どないしたもんか)
「別に打ち明ける必要はあらへんと思うよ。まだかもしれない、って確証がない状態なんやろ?それに惚れたかもしれないって打ち明けるの実質告白みたいなもんやん」
「ハッ!た、たしかに……!」
「まだ気になる状態ってことでええんちゃう?それに今の関係やと、星サンに告白したところで振られるだけやろ。環クンのことを知ってもらいながら、自分の気持ちをたしかめていけばええんよ」
「……それもそうですね。ありがとうございます、琥珀さん」
「ええよええよ。にしても、環クンの恋バナ聞けるとは思わんかったなぁ」
「俺も、誰かに……それも人間にこんな気持ちを抱くとは思いませんでしたよ」
「焦らんようにな。キミ何しでかすかわからんから」
「気をつけます……」
話し込む二人の様子を、椛の祖母はカウンター越しに微笑ましく見守っていた。