某所、花家星の実家にて。
コンコン
「朧ー?起きてんのー?」
「ヒッ……か、母さんちょっと待って」
長らく日に当たった形跡のない、不健康な白い肌の青年は自身の部屋のドアをノックする音に肩を揺らした。そして慌てて机の上に散らばった資料を片付けると、自ら部屋のドアを開けた。
「な、なに、母さん」
「ちょっとおつかい頼んでも良い?」
「おつかい?い、いや、俺だって忙しいし……」
「あ?引きこもりが何言ってんだ」
「ヒエッ」
母に凄まれ、青年ーー花家朧は渋々彼女の頼みを聞く姿勢に入った。
「ま、おつかいって言ってもそんな大したもんじゃないけど。ただ星の様子見に行ってほしいだけ」
「それなら母さんが行けばーー」
「あんたのデトックスも兼ねてんだよ察しろ。まったく部屋に引きこもってばかりでろくに外にも出ないなんて……。どうせ星には見せられないような漫画でも描いてたんでしょ?」
「うっ……いや、その……」
「星にはあんたが成人向けの漫画描いて稼いでること黙っててやるから。代わりにおつかい行ってきなさい。はいこれ星に渡してほしい物」
「いやまだ行くとはーー」
「なに、あんた妹にエロ同人漫画描いてるってバラされたいって?ずいぶん変わった性癖をお持ちで」
「行ってきます!!」
星の兄、花家朧は手早く出かける準備を済ませると母から受け取った袋をリュックに入れ家を出た。
(うぅぅ、なんでこんなことに……)
電車に揺られながら、朧は陰鬱とした雰囲気を出していた。引きこもりの彼にとって、外に出ることは何よりも厭うことだ。それに付け加えて、もう一つ彼にとって気分が乗らない要因がある。それが妹の星に会うということだ。
(……正直、顔を合わせづらい)
星は傾国の美少年という二つ名がつくほどの美貌を持つ少女だ。その外見を活かせば権力者に取り入りイージーモードな人生をおくることなど容易いだろう。自分のような、カーストがあれば間違いなく最下位に入るような人間とは対照的なのだ。
(……こんなの、俺の勝手な妄想だってことはわかってるけど)
星が自分に冷たく接したことなどない。むしろ妹として純粋に自分を慕ってくる様を見るのは、兄として嬉しい。嬉しい、のだが。それでも心のどこかで自分は彼女の兄にふさわしくないと考えてしまうのだ。
(それにーー)
『次はー◯◯町ー』
気づくと星の住む町に着きそうになっていることに気づき、朧は慌てて降りる準備をしたのだった。
朧が星の住む町に一人で行くのは、これが初めてではない。何度か母に強制的に行かされているため、迷うことなく星の住む家にたどり着いた。
「……」
なんとなく、チャイムを鳴らすのをためらってしまう。しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。意を決して朧がチャイムを鳴らそうとした、その時だった。
「ん?オニーサン誰?」
「ヒィッ!?」
不意に横から声をかけられた。反射的に声がした方を見た朧の視界には、いかにも明るそうな陽キャオーラをまとった少女が立っていた。
「あ、もしかしてヒカルっちに何か用的な?アタシもなんだよねー!ちょー奇遇じゃん!つかこの家ヒカルっちしか住んでないし、ヒカルっちに用あって当然か!あはははは!」
「……」
「オニーサンいつからここいたの?ヒカルっちいそう?アタシ前もってヒカルっちの家遊びに行くよーってメッセ送ったは良いんだけど反応ないんだよねー」
「……」
「何かあったら心配だなー。ただ寝てるとかだと良いんだけどね。……オニーサン?」
「……」
バターンッ!!
「お、オニーサーーーーーン!!」
久々の外出プラス陽キャのマシンガントークによりキャパオーバーを起こした朧は、白目を剥いてその場に倒れた。