ピンポーン
「……はっ」
チャイムの音で目が覚めた。時計を見るともう朝とは呼べない時間だ。昨日徹夜で本を読んでたのが悪かったんだろな。僕はミヅキにインターホンを見てくるように頼み、スマホを確認した。
「……ん、椛こっち来るのか。早く返信しないとーー」
「ご主人ご主人ー」
「どうしたの?ミヅキ」
「なんか早くしてーって言ってるにゃ」
「早くして?」
ミヅキに手を引かれインターホンを目にすると、椛が何か慌てた様子だった。
「椛?どうしたの?」
『なんか家の前に知らないオニーサン倒れてんのー!』
「ええ!?」
僕はミヅキとともに家の外に出た。すると椛が倒れている青年の周りでおろおろとしていた。
「誰だ……って、兄さん!?」
「え、この人ヒカルっちのお兄さんなの!?」
「うん、花家朧っていうんだ。僕の様子見に来たのかな」
「ご主人、どうするにゃ?」
「とりあえず家の中に運ぼう。ミヅキ、手伝って」
「了解にゃー!」
ミヅキは元気よく返事をすると、ベンチプレスのごとく兄さんを抱え上げた。
「……ミヅキってそんなに力持ちだったの?」
「猫又ナメちゃ駄目にゃ!」
「ヒカルっち猫又飼ってんだ、すごー」
僕と椛はミヅキが兄さんを落とさないように支えながら、家の中に入った。
「それにしても、兄さんなんで倒れてたんだろ?椛が来た時にはもう倒れてた?」
「んーん。アタシが話しかけてたら急に倒れちゃって。具合悪かったのかな?」
「かもね。兄さん外にいるの慣れてないから」
「引きこもりってやつにゃ?」
「兄さん売れっ子漫画家らしいから、いつも忙しいみたいなんだ。僕はどういう漫画描いてるか知らないけど」
「環と同じにゃ?」
「そうだね。二人に面識はないと思うけど」
そんなことを話しながら、兄さんが起きるのを待つ。まだ起きるのに時間がかかりそうなので、先に椛の用事を片付けることにした。
「椛は何しに来たの?」
「アタシはおばあちゃんからヒカルっちに漬物おすそわけしてきて〜って頼まれたんだ。はいこれ」
「ありがとう。椛の家の漬物おいしくて好きだよ」
「へへ、そうでしょ?アタシのおばあちゃんは料理めちゃくちゃ得意だからね!」
椛は得意げに胸を張った。前におばあちゃんが理想の女性なんだって言ってたっけ。ほんと、椛を見た目だけで避ける人は損してると思う。こんなにも素朴で良い子なのに。
「さて、後はーー」
「……う、うぅ」
ソファに寝かせた兄さんに目を向けると、ちょうど目を覚ました。
「兄さん、大丈夫?」
「……ひ、星?」
「あ、起きた」
「ヒィッ!」
兄さんは起きたばかりとは思えない素早い動きで僕の後ろに隠れた。
「兄さん何してるの?」
「ちょっとー、さすがに顔見て逃げられたら傷つくんですけど」
「アッ、スッ、スミマセン……」
「なんでカタコトなの?」
「いや、その……眩しくて……」
「あー、アタシの髪色たしかに眩しいか。帽子でも被る?」
「そ、そういう意味じゃーー」
「というかいつまでご主人盾にしてるにゃ?正直みっともないにゃ」
「見知らぬショタに正論言われた……。……ん?星、この子は?」
「あー……」
僕はあの少年が飼い猫のミヅキであることを説明した。ついでに椛のことも説明したけど、読者モデルであることを教えたらさらに兄さんは怯えてしまった。
「ね、猫又……。本当にいるんだ……」
「そうにゃー」
「美弥緋がそういう家系なのは知ってたけど……本当だったんだね」
「ね。僕もびっくりだよ。しかも僕のプライベートも筒抜けみたいだし」
「……あの子本当に友達って呼んで良いの?」
「わ、悪い子ではないから……」
「かーたま悪く言っちゃだめにゃ!」
ミヅキが勢いをつけて兄さんに頭突きをかました。兄さんは目がぁぁぁぁぁと叫びながらその場にうずくまった。
「ヒカルっちのお兄さん面白いお兄さんだね!」
「その一言で片付けられる椛のメンタル見習いたいよ」
用事も済ましたし帰るねーと帰っていった椛を見送り、ついでに兄さんも駅まで送って今日は早く休むよう進言した。
「そうするよ、すでに頭痛いし……。その、ひ、星」
「うん?」
「楽しそうで良かった。……そ、それじゃ」
兄さんはその時初めて笑って帰っていった。