「こんばんは、ひーくん!」
「……うん、こんばんは美弥緋」
僕は頭を抱えながら美弥緋に目をやった。
彼女ーー
「ミヅキから聞きましたわ!ひーくんに仇なす輩がいると!どこですの、ぶちのめして差し上げますわ!」
「落ち着いて、美弥緋……」
それは僕のことが大好きすぎるということだ。美弥緋は由緒正しい陰陽師一族の跡取りということもあり、財力・武力その他諸々で僕に害をなす者を堂々と排除してきた。その度に僕はやりすぎだと諌めてきたのだが、彼女が反省することはなかった。
「あ、かーたまにゃ〜」
「あらミヅキ。報告感謝いたしますわ。それで、ひーくんに近づく虫けらはどこですの?」
「美弥緋、さっきから言葉遣いが悪いよ。それにその人達にはもう謝ってもらえたから気にしないで」
「いーえ、気にしますわ!ひーくんは甘すぎますのよ!ここは徹底的に痛めつけてわからせないと!」
「なんや大変なことになっとるなぁ」
リビングからひょこっと琥珀さんが顔を出した。
「いや何出てきてるんですか!?」
「こっちの方が面白くなる気配を感じ取ってなぁ。って、アマゾネス系令嬢やん」
「さ、榊原家の跡取り!?なんでここに!?」
「あら、虫けらって貴方達のことだったんですの」
「美弥緋知り合いなの?」
「えぇ。この町に住む妖怪はよほど目に余らないかぎり手を出さない協定を結んでますもの」
それならこの二人がぶちのめされることはないか、と僕が安心した時。美弥緋は袖から霧吹きのようなものを取り出し、二人の顔に向かって吹きかけた。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」
「何してんの美弥緋!?」
「わたくしはまだ修行中の身。この二人を祓えるほどの実力はありませんわ。でもそれはそれとしてひーくんに近づくのはムカつくので、わたくし特性の除霊スプレーをかけておきましたの。ひーくんもお一つどうぞ♡」
「あ、うん」
「受け取らんといて!?」
「めちゃくちゃ痛いのですが!?何使ってるんです!?」
「それは企業秘密というやつですわ。念の為除霊グッズ大量に持ってきておいて良かったですわ〜」
にっこり微笑む美弥緋の袖からは、まだ何かが入っている音がした。環さんと琥珀さんが青ざめていくのを見て、僕は胸がスッとした。昨日から振り回されてばかりだし。
「それにしても困りましたわ」
「何が?」
「わたくし虫けらをぶちのめす気満々で来ましたの。それなのに相手が相手でぶちのめせないなんて……自分が許せませんわ……!ひーくんを守れないなんて……!」
「俺達別に星さんにどうこうするつもりで来たわけじゃーー」
「あ゛?」
「ヒィッ!?」
「そのとおりやでー、美弥緋サン。今日は本当に謝りに来ただけやから」
「……本当ですわね?」
「ほんまほんま」
「……まぁ良いでしょう。ひーくんがここまで止めるということは、本当に何もしてないのでしょうし。今日は祓うのやめて差し上げますわ。ただし、ひーくんに何かした時は父様に頼んで祓っていただきますので、そのつもりで」
そう言って美弥緋は帰っていった(壊した玄関のドアは式神が直してる)。残された僕達は、揃って大きなため息を吐いた。
「まさか星サンが榊原の令嬢と知り合いやとはなぁ。世界は狭いもんや」
「それはこっちのセリフでもありますよ」
「その、星さん。ありがとうございました」
環さんは深々と頭を下げた。
「え、どうしました?」
「俺、自分の事情で星さんを振り回して多大な迷惑をかけたのに、星さんはそんな俺を美弥緋さんからかばってくれました。……本当に面目ないです。貴女は、俺達の命の恩人です」
「せやな。星サンいなかったらワイら今頃どうなっとったか……。考えるだけでも恐ろしいわ」
「いや別にそこまで気にすることじゃありませんよ。環さん達のやったことはまだ今までに比べたら軽い方なんで、僕もそんな気にしてなかったってだけです」
「……苦労したんやな」
「まぁ……」
僕はミヅキを撫でながら遠くを眺めた。ミヅキは僕に撫でられ嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。あぁ、癒やしだ。
「日を改めてまた謝罪に来ても良いでしょうか?」
「もう気にしてないんで大丈夫ですけど」
「俺の気が済まないんです」
「持ってきた手土産、さっきの衝撃でぐちゃぐちゃになってもうたしな。改めて何か持ってくるわ」
ほなまたなー、と琥珀さんと環さんも帰っていった。
「……」
「ご主人?疲れたかにゃ?」
「ちょっとね。……少し眠ろうかな。あぁでも、玄関周り掃除しないと」
「ボクがやっとくから、ご主人は寝てて良いにゃ!」
「ありがとう、ミヅキ。それじゃお言葉に甘えて」
僕は掃除をミヅキに任せ、一度眠ることにした。