翌日。環さんが再び僕のもとを訪れた。今日は琥珀さんと一緒じゃないらしい。
「琥珀さん一緒じゃないんですね」
「今日は仕事があるそうで。これ、手土産です」
「あ、どうも」
環さんが差し出したのは隣町の洋菓子店で売ってるマカロンの詰め合わせだった。……美味しそうだ。けど、警戒は怠らない。まずはミヅキに匂いを嗅がせないと。
「ミヅキ」
「はいにゃ〜。……くんくん、これも大丈夫にゃ」
「ありがとうミヅキ。ミヅキも好きなの食べて良いからね」
「わーいにゃ!」
ミヅキとともにマカロンに手をつける。その間ずっと何か言いたげだった環さんは、意を決したように星さん!と僕の名前を呼んだ。
「この度は、本当に申し訳ありませんでした。多大な迷惑をおかけしてしまって……」
「もう気にしてないので大丈夫ですよ。求婚されるのも慣れました」
「……それもそれでどうなんですか?」
「僕もそう思います……」
はぁ、とため息を吐いてまたマカロンを口に放り込む。
「そうだ、環さん」
「何でしょうか?」
「漫画の制作の調子はどうです?」
「方向性を変えようって話になりました」
「方向性?」
「俺と星さんの交流について描く漫画を描こうという話になりまして。今日はその漫画に星さんを出して良いか許可をとるためにも来たんです」
「……まぁそれなら良いか。僕も環さんに色々聞きたいことありましたし、等価交換ってやつですね」
「聞きたいこと?」
僕は昨日椛と話したことについて環さんに話した。
「研究のテーマ決めに協力してほしい、ですか」
「はい。漫画家さんなら研究心を刺激する面白い話とか知ってるんじゃないかと」
「うーん、面白い話ですか……。前琥珀さんの狐火が土地神様の尻についちゃって土地神様がブチギレた話ならありますけど、そういうのは研究と関係ないですよね……」
「それはそれで気になりますけど、もっと汎用性高い話が良いですね……」
一体何がどうしてそうなったのかは気になるが、今は聞かないでおこう。どう研究に活かせば良いのかわからないし。
「そもそも星さんはどういう研究をするつもりなんですか?」
「それすら決まってないんですよね。文系選んだは良いものの、文化系の研究にするか語学系の研究にするかどうしたものか……」
「人間って色んな人間いますもんね。研究も一種類じゃないんだなぁ」
環さんは感心したように手帳にメモをしていた。今の話でも何か琴線に触れたらしい。
「妖怪って学校とかあるんですか?」
「一応ありますよ。人間でいうところの高校までしかないですけど。必要最低限の知識と人間社会に溶け込むためのルールなんかを学ぶんですよ」
「へぇ〜……。ってことは、妖怪って意外と身近な存在なんですね」
「そうですね、探してみれば周りにいると思いますよ」
妖怪の学校の話は少し面白かったが、それを研究にどう活かしたものか。考えていると視線を感じた。
「何か?」
「いや、星さんって本当に美人だなと。見てるだけで創作意欲が湧いてくると言いますか」
「それは何よりです」
「……あ!す、すみません不躾に見てしまって」
「盗撮されるよりは何倍もマシですよ」
「苦労してますね……」
僕は隣でマカロンの箱を片付けるミヅキに目をやった。ミヅキは僕と目が合うと首をこてん、と傾げた。今日もうちの愛猫がかわいい。ワシワシと頭を撫でてあげた。
「うーん、さすがに今日だけじゃ研究のテーマ決まらないか」
「俺も手伝いますから。一緒に頑張りましょう」
「ありがとうございます、環さん」
「ボクもご主人手伝うにゃ!」
「ありがとうミヅキ」
今日は連絡先を交換するだけに留めて、僕達はそこで別れた。