「失礼いたしますわ!」
「美弥緋、うちに来る度玄関の扉破壊するのやめてくれる?」
僕はまたも破壊された玄関の扉を見て頭を抱えた。琥珀さんの言っていたアマゾネス系令嬢……たしかに美弥緋に当てはまる気がしてきたな。「首を差し出しなさい!」ってたまに言ってるし。
「申し訳ありませんわ、つい気が立ってしまって……。式神、扉の修復お願いしますわ」
美弥緋がパチン、と指を鳴らせば式神が現れ、玄関の扉の修復を始めた。式神も大変そうだな……。僕は少し式神に同情した。
「かーたままた遊びに来てくれたにゃ?」
「ええ、そうですわよミヅキ。いつも報告ありがとう」
「あ、まだ報告続いてたんだ……」
僕のプライバシー侵害だからやめてほしいんだけどな。そういえば、と気になったことを口にしてみる。
「なんでミヅキは美弥緋をかーたまって呼んでるの?」
「うっ!!今のすごく萌えましたわ、ひーくんもう一度お願いできますの!?」
「で、なんでなの?」
「塩対応なひーくんも堪りませんわ……!!」
美弥緋の変態度が上がってることは放置するとして。今はミヅキだ。
「かーたまはボクを作ってくれたのにゃー」
「ん?ミヅキは猫又なんじゃ?」
「ミヅキは猫又型の式神なんですのよ。特別製で、わたくしがひーくんに渡してるミヅキ用の餌さえ食べてればわたくしの傍にいなくても行動できるようになってますの」
「そうだったんだ」
「そうにゃー。かーたまはボクをこの世に生んでくれたからかーたまなのにゃ」
えへん、とドヤっているミヅキの顎を撫で、今度は美弥緋に向き直った。
「で、今日は何の用?」
「そうですわ!ひーくん、最近あの虫けらと仲良くしているとは本当ですの!?」
「虫けら……?」
「ひーくんに求婚しやがったあの狐ですわ!!」
「あぁ、環さんね。虫けら呼びはやめようね」
「あんなの虫けらでかまいませんわ!で、どうなんですの!?」
「環さんには大学の研究テーマ決めに付き合ってもらってるだけだよ」
「付き合う!?やはりあの狐野郎ひーくんに手を出して……!?」
「どんな耳してるんだね君は」
僕は美弥緋にデコピンし、一度落ち着かせ事情を説明した。
「……というわけ」
「本当ですのね?」
「本当本当」
「だそうですわ、時坂さん」
『セーフ。というか我らが女神を疑う余地なし』
「いつの間に時坂さんに繋いでたわけ……?」
美弥緋がテーブルに置いたスマホには、時坂玲央という名前と通話中のアイコンが表示されていた。
時坂玲央さんは、僕のファンクラブの副会長……らしい。いやいつも仕事が忙しいみたいなので会ったことはないのだが。ファンクラブ会長の美弥緋によれば、彼は社畜らしい。それ故に僕と直接会う機会がなかなかできないそうだ。でもそのせいで、時坂さんは僕をまるで女神のように崇めつつあるらしく。僕としてはその扱いは嫌で仕方ないので早いところそのイメージを払拭したいところだ。
「健全なお付き合いみたいで何よりですわ」
「僕はそう簡単には誰かのものになったりしないからね」
「うっ、なんという気高さ……!そういうところもまさに傾国ですわ……!だからこそ燃えるというやつですわね!?」
「いや知らないけど」
僕の発言一つでよくもまあここまで盛り上がれるものだ。逆に感心してしまう。見習いたいとは思わないけど。
「あ、いつもの写真お願いできますの?ファンクラブの会誌用の」
「はいはい」
恐ろしいことに、美弥緋はファンクラブの会誌を毎月作っているらしい。表紙の写真はもちろん僕だ。遊びに来る度に僕の写真を何枚か撮っていくのはそれに使っているらしい。ちなみに先程出てきた時坂さんは会誌を毎号祭壇に祀っているそうだ。うん、怖い。
美弥緋が持ってきたフルーツタルトを僕が食べているところを何百枚も連写して、美弥緋は満足そうな顔で帰っていった。