頭文字D 〜公道のハヤブサ〜   作:Many56

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TVアニメと新劇場版を合わせたような感じになっております。


1st Stage 〜目醒める2人の天才〜
Act.1 初めての峠


 

 

 

199X年7月

群馬県渋川市

とある県立高校

 

「高いなあ、S13は。91年式で130万もする。やっぱり買うならハチロクだな! 安いやつなら30万くらいで買えるぜ!」

 

「へえ……。で、何なんだ、そのハチロクって? 数字みたいで、ヘンテコな名前だな」

 

「嘘だろ、拓海……。お前さ、スタンドでバイトしてんのにハチロク知らないのかよ!」

 

屋上でそんな話をしている2人組がいる。

俺と同じクラスの武内樹と藤原拓海だ。

どうも拓海はハチロクについて知らないらしい。

ま、アイツ車について興味なさげだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

 

「4代目スプリンタートレノ、カローラレビンの通称だよ。AE86って型式だから、“ハチロク”って呼ばれてるのさ。10年以上前にトヨタが作った車なんだ」

 

後ろから俺が話しかけると、2人が振り向いた。

 

「流石、隼人。分かってるな!」

 

「それならそうと言ってくれよ、イツキ。型式の番号じゃ分かんねえよ」

 

「んで、2人はハチロク買うつもりなのか?」

 

「そうしたいんだけどさ……足らねえんだよな、バイト代」

 

「だよな、高校生じゃ良いとこ12万ってとこか」

 

「へえ、拓海君達ってバイトしてるんだ」

 

「あ、茂木」

 

俺達はキョトンとした顔で茂木を見つめた。

 

「なによ、私が話しかけたのがそんなに変? ところで、バイトって一月で12万なの?」

 

「あ、ああ。みっちり週6日8時間で」

 

茂木の質問に答えるイツキ。

 

「えっ、バイトってそんなに大変なの?」

 

「……いやいや、そんなもんだろ普通。金銭感覚どうなってんだよ?」

 

ボケた顔しながら拓海が突っ込んだ。

 

「頑張ってね。期末試験終わって夏休みになったら、どこか遊びに行こ」

 

茂木はそう言うと、校舎に入って行った。

 

「……茂木と話したの、1年ぶりだ」

 

「「?」」

 

「サッカー部にいた頃はよく話してたんだけどな。アイツ、マネージャーやってたし」

 

「え、じゃあそれっきり話さなくなってたのか?」

 

「ああ、サッカー部の先輩の3年を殴ったんだよ。アイツと付き合っていた」

 

「殴ったのか、サッカー部の先輩を⁉︎」

 

「マジかよ!」

 

これは初耳である。

こんな普段ボケーっとしてる奴が他人を殴るなんてな。

 

「ちょっと訳アリなんだよ……」

 

「お前、昔からそういうとこあるよな」

 

「へえ、そうなんだ。知らなかった」

 

まあ、イツキは拓海と付き合い長いし、そりゃ当然か。

 

「ああ。普段はボーッとしてるのに、たまにキレると人格変わるんだよ、コイツ」

 

そう話してる間、ふと時計の方に目がいった。

 

「ヤバい、そろそろ次の授業始まるぞ!」

 

「うわ、ホントだ! 急ぐぞ!」

 

「ああ、ちょ、待てよ!」

 

俺達は大急ぎで教室へと戻った。

 

 

 

GSゼネラル

夏の暑い日照りがさんさんと降り注ぐ中、今日も俺達はスタンドでバイトである。

その合間で、イツキがスタンドの先輩である池谷浩一郎さんと話している。

 

「そうか、ハチロク狙っているのか。良い趣味してるぞ、イツキ」

 

「でしょでしょ! 池谷先輩もそう思いますよね!」

 

「でもさ、お前んちにも車あるじゃん。それ借りられないのか?」

 

拓海がボケた発言をする。

イツキの趣味からして、それは絶対あり得ない。

 

「ダメダメ、親父の車は。ディーゼルでオートマ、おまけにFFなんだぜ。FRじゃない車は車じゃないね」

 

おいおい、そこまで言うか。

 

「タイヤ4つ付いてて、ちゃんと走れば十分立派な車だよ」

 

「そうだな、流石にそれは言い過ぎだと思うぞ、イツキ。シビックとか、FFでもお前の趣味に合いそうな車はあるし」

 

「分かってねえな、隼人と拓海は。峠行って楽しくなかったら、車の意味ねえだろうが」

 

「俺が言いたいのは、FR以外にも峠行って楽しい車はあるぞって事」

 

「お前らよくそれ言うけどさ、峠に行って何するんだよ?」

 

「お前なあ。決まってるだろ、コーナーを攻るんだよ!」

 

「楽しいのか、それ?」

 

「楽しいに決まってんだろ!」

 

「というか、そうじゃなかったらやらねえだろ」

 

イツキに続いて俺もツッコミを入れる。

やはり拓海のやつはセンスがおかしい。

いくらなんでも、ここまで何事にも興味ないとはな。

 

そんなやり取りをしている中、独特のエキゾースト音をした車が店に入ってきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

それは派手な黄色をしており、特徴なのはリトタクタブルヘッドライトとデカいリアウィングだ。

まさか最新のFD3S型のマツダRX-7が拝めるとはな。

ん、リアフェンダーに赤いステッカーが貼ってあるな。

 

「『Red Suns』? ってまさか   !」

 

「間違いない! 赤城レッドサンズのナンバー2、高橋啓介だ!」

 

俺が言い切る前に、後ろでイツキがそう言った。

一方、池谷先輩はそれを見て顔を変えた。

 

「有名人なのか?」

 

拓海がイツキに聞く。

 

「ああ、車好きなら知らないヤツはいないよ。プロのレーシングチームからも注目されてる走り屋チーム“赤城レッドサンズ”のナンバー2。赤城山最速を誇るロータリーの高橋兄弟の弟、啓介だよ!」

 

「そんな有名人が何でこんなところに?」

 

俺達がそんな事を話し合っている間、池谷先輩がドライバーの方に話しかけていた。

 

「先日はどうも……」

 

「あのS13、やっぱりアンタのだったか」

 

「ええ、ハイオク満タンですか?」

 

「ああ、頼む」

 

俺達は急いで作業に移った。

そんな中、高橋啓介が池谷先輩に話しかける。

 

「なあ、俺をちぎったあのハチロク、本当に知らないのか?」

 

は?

おいちょっと待て、高橋啓介をハチロクがちぎっただと⁉︎

そんな事あり得るのかよ!

 

「……ええ」

 

「走りを見る限り、アイツは秋名の峠を知り尽くしていた。あれだけ速ければ、地元が知らないはずがない」

 

「何度聞かれても、心当たりはありません」

 

「そうか……」

 

そうしている内に、給油作業が終わる。

 

「今日はどちらに?」

 

「決まっている。秋名の幽霊に……あのハチロクに借りを返す!」

 

そう言うと、エンジンを吹かしながら去って行った。

拓海はポカンとした表情で去って行くFDを見つめた後、そのまま仕事に戻った。

 

「ふう。凄え迫力だったな、高橋啓介」

 

「それで先輩、今の話はどういう事です。ハチロクが高橋啓介のFDをちぎったってホントですか?」

 

「ああ。本当だよ、隼人。昨日の明け方に秋名を走っている時にFDがハチロクに追い回されていたんだ。だが、秋名の走り屋は大体知っているけど、そんなハチロクなんか知らないんだ」

 

「知ってるぜ」

 

声を掛けてきたのはこの店の店長である立花祐一さんだ。

 

「本当ですか、店長?」

 

「ああ。俺が現役で走っていた頃、自他共に認める秋名最速の下り屋がいてな」

 

「俺のチームも、一応秋名最速を名乗っているんですがね」

 

「自称最速ってのはゴロゴロいるが、アイツは本物さ。しかも、今でも現役で走っている」

 

「はあ? でも俺、そんな歳食ったの知りませんよ」

 

「お前らが走っているのとは、時間帯がズレてるのさ。ソイツ、今はとうふ屋の親父なんだ」

 

「「「はあ?」」」

 

「秋名山を走るのは明け方の4時くらい。秋名湖畔のホテルに豆腐を配達するためにな。商売だから、毎日走るのさ。雨が降っても雪が降ってもな。秋名の峠道なら、アスファルトのシミ1つまで知り尽くしているくらいだ。帰りに下る時の速さは、そりゃあ尋常じゃねえ。なんなら賭けていいぞ。秋名の下り最速は、とうふ屋のハチロクだ」

 

「マジかよ……!」

 

衝撃である。

車の性能差というのはモータースポーツではかなり響いてくる。

それは公道も同じだろう。

ハチロクとFDでは、性能に雲泥の差がある。

それだけの性能差をテクニックで埋めるとなると、そりゃとんでもないだろうな。

 

そして数時間経った。

そろそろ上がる時間である。

制服から着替えていると、池谷先輩とイツキが話していた。

何やら、イツキはえらく興奮しているな。

 

「くぅ〜っ! これは土曜日が楽しみですよ!」

 

「どうしたんだ、イツキ?」

 

「おお、隼人! 実はさ、今度の土曜日に秋名に連れてって貰える事になったんだ! 拓海と隼人も行くよな?」

 

「え、ああ」

 

「ああ、もちろん行くよ。自分の車でな」

 

「「え?」」

 

俺の急な言葉に先輩とイツキが一瞬フリーズする。

 

「実はさ、親父のツテで安くて良い車が見つかったんだよ。土曜に届く予定なんだ」

 

「そういや、お前の親父さんは自動車整備工場やったるんだったな。俺もよく世話になってるよ」

 

「マジかよ、隼人! 車種は?」

 

「それはまだ秘密。土曜日までのお楽しみさ」

 

「えー。良いじゃんか、教えてくれたってよ」

 

「やだね。まあ、その車で乗せて行ってやるからさ」

 

 

 

●●●

 

 

 

高橋家

 

高橋啓介は、兄である涼介に以前会ったハチロクの話をしていた。

 

「1つ目の右のカウンターはミスではなく、次の姿勢作りのためのフェイントモーション。この状態でステアリングをイン側に切れば、車体は一気にアウト側にロールし、オーバーステアを引き起こし慣性ドリフトに移行する」

 

「なるほど、そういう事だったのか」

 

「魅せるためのドリフトではなく、速く走るためドリフトか。そのハチロク、今取り組んでいる論文に役立ちそうだ」

 

「一体何者なんだ? レッドサンズでも、あんな技を扱えるのは兄貴くらいのもんだぜ!」

 

「よく言うよ。お前だってやってるぞ」

 

「え?」

 

「全く、気持ち悪いヤツだ。何も考えずに走っているにも関わらず、俺とタメ張るんだからな。啓介の走りに理論が加われば、理想的なドライバーになるんだが」

 

「兄貴の分析力の方が異常だよ。バトルで後ろについて、左右のコーナーを1回抜けるだけで、相手の癖や欠点から車の足回りのセッティング、エンジンのパワーまで分かるなんて、バケモノじみてるぜ」

 

「まあいい。次の土曜日、秋名へ行くぞ」

 

「お、やるのか兄貴、遂に!」

 

「だからお前を秋名に行かせたのさ。赤城レッドサンズ関東最速プロジェクト、始動だ」

 

 

 

●●●

 

 

 

土曜日

 

俺は、自分の部屋で課題を片付けていた。

 

「さてと、これで一通り終わったな」

 

「おーい隼人、車来たぞ」

 

課題を終えるとほぼ同時に親父の声が聞こえた。

どうやら車が届いたようだ。

家の前に出ると、そこには1台の車が停まっていた。

白の4ドアセダンで、四角い感じのデザインが特徴。

そして、リアにデカいウィングが付いている。

 

「待っていたよ、GC8型インプレッサ!」

 

「ほれ、車のキー。行くんだろ、秋名」

 

「サンキュー、親父。それじゃあ行ってくる」

 

俺はキーを受け取り、EJ20エンジンのサウンドを轟かせながら拓海とイツキが待っている場所に向かった。

 

「げぇ、インプレッサ⁉︎」

 

インプを見た時のイツキの第一声である。

口をあんぐりと開けて、フリーズしている。

 

「この前の黄色いRX-7よりデカくないか、このウィング。空にでも飛んでいきそうだ」

 

「なんだそのリアクション? 空飛ぶ訳ねえだろ」

 

「リアウィングはエアロパーツで、ダウンフォースを発生させるためのものなんだよ。空なんか飛ぶ訳ねえだろ」

 

俺に続いてイツキもツッコミを入れる。

やっぱり拓海は車についてわかってない。

やれやれと思いつつ、秋名山へと向かう。

スタート地点である料金所跡に到着した頃には、既に池谷先輩と健二先輩がいた。

やはりここでも、俺がインプを買った事に驚いていた。

その後、まずは俺と拓海とイツキが池谷先輩のS13に同乗して下る事になった。

 

 

 

狭い峠道をパワースライドしながら、S13が曲がって行く。

その中では、拓海がリアシートで喚いていた。

 

「うわあぁ〜‼︎」

 

「やかましいぞ、拓海! 池谷先輩の気が散るだろ!」

 

怒鳴るのはナビシートに座っているイツキだ。

 

「だって怖えんだもん」

 

「拓海の意見に激しく同意。池谷先輩の運転メチャクチャ怖い」

 

俺の顔は汗びっしょりの状態だろう。

今にも拓海みたく叫び散らかしたい気分だ。

これで大丈夫そうなイツキがちょっとおかしいと思う。

 

「はは、無理もないさ。走り屋の車に乗ったら誰だってビビるもんさ。次、2速のヘアピン行くぞ!」

 

池谷先輩はそう言ってシルビアをヘアピンへと突っ込ませて行った。

 

「や、やめてくれ〜‼︎」

 

それと同時に、スキール音と男2人の悲鳴響いた。

そんなノリで秋名の下りを終えて、またスタート地点へと戻ってきた。

 

「「はあ……」」

 

同時に俺と拓海はため息をついた。

やっと落ち着いた。

 

「すまんな。調子こいて、攻めすぎたかな」

 

「情け無えよ拓海、あんなに喚くなんて。隼人も後半から叫び出して、大分酷かったぞ。ダサダサだよ。お前らって、ジェットコースター乗ってギャーギャー騒ぐタイプだろ?」

 

「俺、ジェットコースター乗って怖いなんて思った事ねえよ。お前に説明しても分からないと思うぜ、この怖さは」

 

「ああ。ジェットコースターとは別物の恐怖だったよ」

 

「は?」

 

ポカンとなるイツキ。

そりゃ分かる訳ないわな。

そんな事を考えていると、下の方から何台もの車が上って来た。

先頭には見覚えのある、というか見覚えしかない黄色のFDだ。

そして後ろには白いFC3S型のRX-7が続く。

こちらも見覚えがある車だ。

 

「赤城レッドサンズ……!」

 

秋名スピードスターズの誰かがそう呟いた。

続々と車から降りてくる赤城の走り屋達。

いやはや、中々壮観である。

 

「よう、邪魔するぜ」

 

そう言ったのは高橋啓介だ。

 

「赤城の走り屋がどうしてここに……?」

 

「簡単な話さ。ここで俺達赤城レッドサンズと交流会をしないか?」

 

「交流会?」

 

俺達の疑問に対して奥から現れた赤いポロシャツの男が、高橋啓介の言葉を引き継いだ。

 

「ああ。いくら車好き、峠好きといっても、いつも同じ面子やコースではマンネリ化してしまうだろ? さらなるレベルアップのためには他所のチームと交流して新しい刺激を得るのが一番だ。それに、仲間も増えて情報の交換も出来る。最初はつるんで走って、最後は互いに代表者を出してタイムアタックをする。勝ち負けにこだわるつもりはない。あくまで、チーム同士の交流が目的だ。どうかな?」

 

「……そういう事なら、断る理由はないけど」

 

「じゃあ決まりだな。それじゃあ、今日はじっくり走らせてもらうよ。もちろん、走りのマナーはちゃんと守るさ」

 

そう言うと、赤城レッドサンズのメンバーは車に乗り込んで秋名の峠を下り始めた。

 

「表向きは体裁取り繕っているけど、要は挑戦って事だろ!」

 

少し怒りのこもって池谷先輩が言った。

それに健二先輩も続く。

 

「ああ、気後れすることはねえ。俺達も出るぞ!」

 

「地元を舐めんな!」

 

「奴らのケツを突いてやるぜ!」

 

そう言って、スピードスターズのメンバーも続々と走り出して行った。

 

「池谷先輩、乗せて貰えませんか?」

 

「ダメだ。本気で走る時は、誰も乗せないって決めてるんだ。じゃあ、俺も行ってくる!」

 

そう言うと、池谷先輩はS13に乗り込んで秋名を下って行った。

そして、料金所跡には俺と拓海とイツキの3人だけが取り残される形となった。

けどさ、このまま終わるなんてつまんないよな?

という訳で   

 

「拓海、イツキ、俺のインプに乗れ。俺達も追うぞ!」

 

「「え?」」

 

2人はポカンとした顔で俺を見つめる。

 

「いや、無理だろ。確かにインプレッサはすごい車だけど、ど素人が追うなんて無理に決まってる!」

 

「どの道、俺は今日秋名の峠を攻めるつもりだったんだ。やれるだけやってみるのもアリだろ」

 

そう言って俺は2人を半ば強引に乗せて、秋名を下って行った。

 

 

 

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