対戦でやりやすい車がマジで見つからないんですよね……。
さて、とうとう1st Stageラストです。
隼人対拓海!
結果は如何に⁉︎
それは、俺に対する挑戦状だった。
「バトル……俺と?」
俺の言葉に頷く拓海。
「「「……‼︎」」」
それに池谷先輩達は完全に凍りついてる。
「バトルは別に構わないんだけど、でもなんで俺とバトルをしたいって思ったんだ?」
単純な興味だ。
今まで白けたリアクションをしていた拓海が、自分からバトルを挑むようになるなんてちょっとした珍事だからな。
「なんでって、お前の車に乗せてもらった時に初めて車が楽しいって思ったから……かな?」
「……そうか、分かった。それじゃあ、バトルは今度の土曜日でどうだ?」
「そうしよう」
そしてこの話は、瞬く間に群馬中に広がる。
土曜日
秋名山
そこは、“秋名のハヤブサ”と“秋名のハチロク”がバトルするとの噂を聞きつけた走り屋達で埋め尽くされていた。
恐らくは2回の高橋涼介とのバトルの時と同等、いやそれ以上のギャラリーが集まっていた。
ギャラリーで峠がここまでごった返すのは、後にも先にも無いだろう。
その頃頂上では、スピードスターズのメンバーが既に集まっていた。
「まさか、拓海が自分からバトルを申し込むなんてな」
「しかも相手は隼人。まさしく、秋名でこれ以上無いカードのバトルだぜ……!」
頂上でそんな話がされていた頃、麓の駐車場には2台の新旧RX-7が到着していた。
「なあアニキ、ハヤブサとハチロクどっちが勝つと思う?」
啓介が涼介に聞く。
「さあな。正直、俺でも今回のバトルのシミュレーションはほとんど出来ていない。1つ分かると言えば、今日は未だかつて無いほどに荒れるバトルになるという事だけだ……‼︎」
「兄貴でも予想が出来ないのかよ……‼︎」
そんな会話をしている2人に声をかける者がいた。
「やっぱり、あなたも来たわね」
青いカプチーノから降りてくるのは文乃だった。
「文乃か、わざわざ長野から来るとはな」
直後、駐車場には青いシルエイティも到着する。
「私だけじゃないわよ、私の後輩も今回のバトルには興味深々だったもの」
「集まるのはテメエらだけじゃねえぜ」
暗がりから姿を現したのは、ナイトキッズの中里と庄司、そして疾風だ。
「こりゃ、群馬にいる走り屋全員集まっていてもおかしくねえな」
ポツリと啓介が呟いた。
そしてしばらくすると、白黒のツートンカラーのハチロクトレノと特徴的な赤いハヤブサを模したステッカーを貼った白いインプレッサが秋名を登って行った。
「役者は全員揃ったな。始まるぜ、群馬最速決定戦が‼︎」
そして頂上のスタート地点に、今回の主役となる2台の車が並べられる。
「それじゃあ、始めようか」
「ああ」
隼人の言葉に拓海が頷き、お互い自分の車に乗り込む。
そして、無線でコース上に入ってくる車がいないか最終確認が取られた。
「よし、対向車はいない。2人とも、今出来る最高の走りを頼むぜ」
池谷はそう言って、2台の前に立つ。
カウントを始めようとしたら、池谷に声をかける者がいた。
「池谷先輩、俺にスターターやらせて下さい!」
そう言うのはイツキだ。
「どっちも俺にとって大親友なんですから、スターターやってちゃんと見送りたいんです!」
そう言ってくるイツキに池谷は場所を開けた。
そして、2台の前にイツキが立つ。
「それじゃあカウント行くぜ! 5秒前……4……3……2……1……GO‼︎」
その合図とともに、2台は一気にダッシュする。
「どっちも頑張れよ‼︎」
イツキはそう叫んで、2人を見送った。
ストレートでグングン加速していき、まずはハチロクが前に出る。
(さてと、まずは後ろから眺めさせてもらうぜ)
隼人が後ろについた理由は拓海も薄々分かっていた。
(やっぱり隼人も後ろについたか。高橋涼介の時と同じだ。けど、今度は抜かさない!)
そして、第1コーナーへと突入する。
2台ともブレーキングして、流れるように四輪ドリフトへと移り、そこから爆発的に立ち上がっていく。
「うっおぉ、今にも当たりそうなツインドリフト……!」
「しかも、どっちもガードレールギリギリだったぜ……!」
そこからさらに次のコーナーも抜け、さらにヘアピンもまるでスピードを落とさず駆け抜けていく。
「ヤバいぜ、どっちもキレてるよ!」
「高橋涼介とのバトルより、さらに速くなってる!」
「どっちも、前のバトルからさらにキレッキレの走りになってるぜ!」
隼人は後ろからハチロクの走りを見て
(以前よりもシフトチェンジの時間が少しだけ早まってる。ほんの僅かだけど、間違いなくストレートの伸びが良くなってる。それに、コーナーでアクセルを開けるタイミングも若干早くなってる。高橋涼介戦を経て速くなったな。けど、それはコッチも同じだ!)
さらにハチロクをのケツを煽り倒しにいく隼人。
もちろん、拓海もそれを分かっていた。
(凄えプレッシャーだ。高橋涼介の時よりも、さらに強い圧力を感じる……。けど、ツッコミからコーナリングだと僅かにコッチの方が速い。立ち上がりですぐに詰められる程度の差だけど、確実にコーナーで勝ってる。それに、食いついてくる事は最初から分かってた。プレッシャーかけられようと、絶対に抜かさない!)
後ろからインプレッサに煽られつつも、拓海は平常心を保ち続ける。
ハチロクは、異常に速いペースを保ちながら右コーナーを抜けて、直後のヘアピンも慣性ドリフトで抜けていく。
負けじと、インプレッサもハチロクとまるで同じラインを描きながらドリフトで抜けていく。
「スッゲェ、ここを流しっぱなしで抜けるのかよ……!」
「やっぱり、俺達のドリフトとはまるで次元が違うぜ!」
その2台の走りに、周囲のギャラリーは驚嘆の声を上げる。
そして、その後に現れる2連続ヘアピンをまたしても流しっぱなしで駆け抜けて、コース最長のストレートに入る。
(驚いたな。これだけのプレッシャーを浴びせても走りに乱れが無い。全くもって動揺とか焦りが見えない。高橋涼介でさえ、僅かに乱れが生じたっていうのに、あのバトルを経て強いメンタルも手に入れたみたいだな)
ストレートの後に現れる、複合コーナーを勢いを殺さず四輪ドリフトで抜けていき、そのまま高速コーナー群をスラロームしていく。
(やれやれ参ったな。ケツから煽り倒して走りが乱れたところを突くつもりだったんだが、相手がこんなんじゃあプレッシャーかけたってあまり効果は無い。仕方ない、ちょっと早めだけどそろそろ仕掛けるか。出来る限りフロントに負荷をかけないよう労りながら走っていたんだが、このペースだと後半のどこかでタイヤがタレてきてもおかしくない。早めに前に出て自分のペースに持ち込んだ方が良い)
そして、中間地点付近のヘアピンに入る。
(ここだ!)
隼人はここぞとばかりにコーナーへと飛び込む。
ハチロクのミラーの死角を突いてイン側のラインに滑り込み、そのまま前に出てフル加速していく。
ハチロクがあまりにも呆気なく抜かれた事で、ギャラリーは唖然となる。
「何だ、今の⁉︎」
「あの“秋名のハチロク”が呆気なく……!」
「あんな簡単なインカットでやられちまうなんて……!」
だが、1番動揺していたのは抜かれた拓海自信だ。
(嘘だろ……一体何が!)
その情報は、スタート地点にいる池谷達にも伝わる。
「隼人が前に出たらしい」
「そうか……」
健二の言葉を聞いて、池谷は静かに頷いた。
「区間タイムなんだが 」
「いや、聞かなくても大体想像はつく。高橋涼介戦の時と同等か、それ以上のタイムが出てるんじゃないか?」
「あ、ああ。ほんの僅かに区間タイムを更新しているよ。ここから先、どうなるんだろうな……?」
「さあな。だけど、確実に荒れまくるはずだ。2人とも、無事に帰ってきてくれよ……!」
拓海は何をされたか分からぬまま、インプレッサが目の前から遠ざかっていく。
(クッ、離されてたまるか!)
拓海はアクセルを底まで踏み込み、ハチロクは一気に加速してインプレッサを追従する。
それでも、ヘアピンの直後は長いストレートのためにパワーの差が現れてハチロクは離されていく。
しかし、次のヘアピンのツッコミで一気にテール・トゥ・ノーズまで持ち込んでいく。
「うおぉぉぉ、ハチロクが一気に詰めたぞ!」
「なんつうツッコミだ、あり得ねえ!」
「こりゃハヤブサの方ヤバいんじゃねえか⁉︎」
その展開に、周囲のギャラリーもざわつく。
しかし、隼人は敢えて少しブレーキングを甘くしており、隼人にとってはむしろ計算通りであった。
(インプレッサがどうやってもハチロクに勝てない唯一のポイントは、ブレーキングだ。コッチは4WDなのに対してハチロクはFRだ。4WDはフロントでも加速するから凄まじい
だが、それだけではなかった。
それ以上にヤバいものを隼人は感じとっていたのだ。
(ストレートが速くなった分、実質的なペースは上がっている。にも関わらず拓海はついてきている。多分だけど、拓海は俺の本気のブレーキングをした全開スパートにもついてくる、そんな気がする……。このタイミングでそれをやったら、マジで後半がキツくなる。スパートをかけるのは、最後の最後だ……!)
そう考えながら、高速コーナーをスラロームしていく。
一方で、拓海も危機感を感じていた。
(クッソ……! いくらブレーキングで詰めても、立ち上がりでまた差が開く。コーナーじゃ勝ってるのに、あと一歩のところでギリギリ届かない……。このままじゃ負ける、何とかしないと……!)
頭をフル回転させて、どうにかする方法を考える拓海。
そして、ある事を思い出した。
(そういえば親父が言ってたな、溝走りには2つのやり方があるって)
とある冬場の日に、配達が終わった拓海は帰りの際に見つけた発見の事について父親の文太に話していた。
『なあ親父、雪の中でもタイヤ滑らないようにカーブを曲がる方法を見つけたんだ!』
『?』
『カーブの内側にある溝にタイヤを引っ掛けるんだ、面白いようにスイスイ曲がるんだぜ』
『ああ、溝走りか。その技なら、俺もよく使ってたな』
『ちぇ、親父も出来るのかよ。なんだよつまんねー』
『拓海、秋名の溝の使い方は2つあるんだ。1つ目は、コーナーの出口でアンダーを出さないようにするツッコミ重視の溝走り。これが、お前が見つけたやり方だな。2つ目は、コーナーの出口で一気に加速させられる立ち上がり重視の溝走りだ。コイツは難しいぜ。溝に入れるタイミングも、飛び出すタイミングも違う。コツはな 』
そして、父親から教わったやり方を今一度思い返す。
(まだ一度も試した事ないけど、一か八かやってみるしかない!)
そして5連続ヘアピンに突入する。
2台は1つ目、2つ目と抜けていく。
全て四輪ドリフトでだ。
「なんてツッコミだ……!」
「とんでもなく速いぜ!」
そして、3つ目に入る。
「ここだ、行っけえ‼︎」
拓海はフルブレーキングして、イン側のタイヤを側溝に落として曲がっていき、一気にインプレッサに肉迫する。
「な、何だ今の加速⁉︎」
「凄え立ち上がりだったぞ!」
「“秋名のハチロク”って、あんなにパワーがあったのか……⁉︎」
そして、ハチロクのフロント部を空いた隙間に差し込んでいく。
「嘘だろ⁉︎」
隼人が驚いているのも束の間、拓海はもう1度イン側のタイヤを側溝に落として4つ目のヘアピンをコーナリングしていき、凄まじい速さで立ち上がっていく。
(今、明らかに俺のインプレッサより立ち上がりが速かった。そんな馬鹿な事ある訳……いや、相手が拓海だって事を忘れるな! アイツは、文字通り何でもアリなんだ。どんな手を使ったかは分からなかったけど、立ち上がりで俺より速かったという事実がある事に変わりはない!)
隼人は、すぐに頭を切り替えてハチロクを追撃していく。
(さっきとは段違いにヤバい感じがする! けど、絶対負けたくない。このまま逃げ切ってやる‼︎)
逃げるハチロク、追うインプレッサ。
極限状態のバトルが続いていた。
ハチロクに対して一定の間隔を保ちつつ、隼人は追いかけていく。
(ゴールは近い。最後のヘアピンの次のストレートで詰めて、あのポイントで決める! やれやれ、どこまで行っても秋名は結局あそこで決まるんだな……。タイヤのグリップは残り少ない。残り1発限りの本気のフルブレーキングで前に出る‼︎)
隼人は集中を切らさずにハチロクのリズムとラインをトレースして攻め込んでいく。
最後のヘアピンを抜けてグイグイとハチロクとの差を埋めていく。
(詰められてきてる。とんでもないプレッシャーで、今にも押し潰されそうだ……! 多分だけどあそこで、最終コーナーの1つ手前のあのポイントで仕掛けてくる。絶対に抜かさせない‼︎)
拓海も、隼人が仕掛けようとしてくるポイントを直感的に読み切っていた。
そして、そのコーナーが目前に迫ってくる。
すでにそこには、隼人と拓海が今までバトルしてきた走り屋全員が集まっていた。
ナイトキッズの中里と庄司、インパクトブルーに文乃、さらには疾風、そしてレッドサンズの啓介と涼介だ。
「結局、全員ここで見届けるんだな」
「こんな分かりやすい勝負所は、他にはないでしょう?」
「まさしく、群馬最速決定戦を締めるのに相応しいコーナーだ」
中里の言葉に文乃と疾風が返した。
「スキール音が聞こえて来た。もう近いぜ!」
「さあ、どっちが前かしら?」
庄司と真子がそう言った瞬間、2台が姿を現す。
ハチロクが前、直後がハヤブサだ。
コーナーの立ち上がりで全開加速しながらアウト側にラインを振って、インプレッサがハチロクと並ぶ。
(さあ、勝負だ拓海‼︎)
(受けて立つぜ、隼人‼︎)
「「行っけえ!!!!!」」
2台は同時にフルブレーキングして、前代未聞の超高速四輪ドリフトでコーナーに突っ込んでいく。
そして甲高いスキール音を轟かせ、曲がっていく。
クリッピングポイントを過ぎてアウト側に迫っていく2台。
インプレッサは岩壁に一気に迫っていく。
それに啓介が叫ぶ。
「いくらなんでもオーバースピードだ、そんなんじゃ曲がらねえ!」
「曲がる、曲がってくれる。俺のインプレッサなら曲がれる‼︎」
コーナー出口でリアフェンダーを岩壁にヒットさせつつも、無意識なのか計算ずくなのか隼人はその衝撃でインプレッサの姿勢を戻して立ち上がっていく。
イン側のラインを抜けたハチロクも、フル加速していく。
しかし、インプレッサの鼻先がじわりじわりと前に出ていく。
そして2台は最終コーナーへと入る。
(ここだ!)
侵入と同時にインプレッサはイン側の溝にタイヤを差し込み、ハチロクを完全に抜いてコーナーを曲がっていく。
そして立ち上がり、ゴールラインを横切った。
「隼人だ……。勝ったのは、“秋名のハヤブサ”だ‼︎」
ゴールで待ち構えていたスピードスターズのメンバーの1人がそう言った。
そしてその手には、伝説のバトルをさらに超えるタイムが記されたストップウォッチが握られていた。
秋名山は、ほんの数秒前とは打って変わってしんと静まり返った。
そしてそれは、勝負の決まったポイントでもそうだった。
「……痺れまくったぜ、たまんねえ」
「前回のハチロクと高橋涼介のバトルもここで見届けたんだが、その時以上だよ」
「あの時の衝撃が、薄まっちまうほどだな……!」
啓介と中里がそう言い、さらに庄司も乗っかる。
「こんなバトル、後にも先にも生まれないわね。奇跡と言い切っていいわ!」
「ええ!」
沙雪の言葉に、真子が頷く。
「特にハヤブサは凄まじかったわね。アウトギリギリ岩壁に掠めてからのインベタのライン取り、アレであの速さはもう反則ね」
文乃はそう漏らす。
「ホント、最後のバトルだったよ。なあ、兄貴」
「ああ。始まるぜ、公道最速伝説が……‼︎」
とあるコンビニ
バトルを終えた後、俺と拓海はそこに来ていた。
「完敗だよ、俺の負けだ……」
ハチロクから降りてきた拓海が言った。
「ああ、俺の勝ちだな。けど、そんな事はどうでも良いって思えるくらい嬉しい事がある」
「?」
「お前と、正真正銘のバトルが出来た。お互い本気で、今持てる全てを出し切ったバトルが出来た。その事が、とてつもなく嬉しいんだ。お前がいなければ、こんなのは絶対あり得なかった」
間違いなく、今の俺の全てを出せた。
今まで1番満足のいくバトルだった。
例え負けていても、この満足感は変わらなかっただろう。
「ありがとう、拓海」
「隼人……。これからも、一緒に走ってくれるか?」
「何言ってんだ、当たり前だろ!」
こうして、群馬最速決定戦は幕を下ろした。
まるで夢幻のように、あっという間に終わりを告げたバトル。
だが、それは確実に何かを残した。
伝説という名の何かを……。
はい、という訳でこれで1st Stage終了です。
次回から2nd Stageに入ります!